第30回 株式会社C&P
シニア世代の「休眠美容師」を
積極的に採用し実績を伸ばす
メンテナンス専門の美容室「チョキペタ」
株式会社C&P 代表取締役社長 置塩 圭太氏
カット&カラー専門店「ChokiPeta(チョキペタ)」は関東と関西で56店舗(2019年7月現在)を展開する美容室です。主にメンテナンスカット(大きくヘアデザインを変えるのではなく、今のヘアスタイルをキレイに維持するために伸びた部分だけ1~2cm程カットすること)や白髪染めの需要に特化しているのがこのチョキペタですが、顧客層のみならず従業員である美容師にもシニア世代が多いことが特徴的です。
今回は、チョキペタを展開する株式会社C&Pの代表取締役社長・置塩圭太氏に事業の概要からシニア世代とのかかわりについてまで、お話をお伺いしました。
2019年9月取材
Q. チョキペタという美容室の始まりと、この業態を始めるに至った経緯などを教えてください。
2011年7月、系列会社(株式会社C&Pも所属するアルテグループのグループ企業)である株式会社スタイルデザイナーの一事業として始めました。
当時は、いわゆる1,000円カットなどのカット専門店やカラー専門店が出店し始めていた頃でした。しかし、カットとカラー両方をやっている専門店というものはまだ存在しない時代でもありました。
ですから「ほんの少し髪を切り、そのついでに根元だけ少し染めたい」という人は、フルメニューのあるデザインサロンへ行かねばならない。仮にリーズナブルな価格で済まそうと思ったら「カット専門店」と「カラー専門店」の二つに行かなければなりませんでした。
そこで、白髪染めのカラーリングに中心を置きつつ、メンテナンスカットも同一店舗でできるような「ワンストップサービス」を提供しようと思い立ったのが、事業を開始したきっかけとなります。
Q. 二つのサービスを一つにして提供しようという着想が始まりということですね。この二つを組み合わせようという着想は、どのようにして生まれたのでしょうか。
それは実はたまたまのことなのです。当時、創業者の吉原(アルテグループの創業者であり、現・株式会社アルテサロンホールディングスの取締役会長の吉原直樹氏)が、自社のFC加盟店の隣にカラー専門店が出店しているのを見つけました。その加盟店はフルメニューを提供しているサロンでしたが、隣のカラーだけのお店も十分繁盛しており、言わば共存関係にありました。
つまり、「隣にカラーもカットもできるサロンがあってもカラー専門店のビジネスが成り立つのならば、メンテナンスカットとカラーだけを組み合わせたリーズナブルなサロンも成立するのではないか?」と発想したのです。
Q. ブランド名の「チョキペタ」が大変ユニークでキャッチーなのですが、カットの「チョキ」と白髪染めの「ペタ」が由来でしょうか。
これも創業者の吉原のアイデアですね。「チョキチョキしてペタペタする」、そんな単純なイメージ想起に由来しています。チョキペタが株式会社C&Pとして事業を独立したのは2019年1月ですが、ビジネスモデル自体はスタイルデザイナーの一事業部として店舗を出した8年前に開始しており、当時からこの店名で展開しております。
Q. 白髪染めを中心においた事業展開というお言葉がありました。顧客としてのターゲットはシニア世代でしょうか。
そうですね。創業当時から、白髪染めにフォーカスしており、ヘアデザインを変えず維持したい、という方をターゲットと考えています。かつ、あくまでもリーズナブルな価格で、短時間でサービスを提供することに特化しています。このサービス形態がシニア世代の方のニーズにマッチしていると思います。
白髪が出て、それを染めている世代の方々の多くは、ご自分の髪形がある程度決まっている人が多いですよね。ご自身が持つ理想のイメージやスタイルは変わらない。芸能人で言えば、和田アキ子さんなどを想像していただければわかりやすいかと思います。だから、「ヘアカタログを見ながらデザインを頻繁に変える」ようなお客様はあまりいらっしゃいません。毎月毛先を揃えたり少しだけ根元染めをしたりするなど、いつもきれいな状態にして若々しく保ちたいというご注文が大半を占めます。
Q. そんなシニアの顧客層に対応するための独自の店舗運営をしているとお聞きしていますが、お聞かせ願えますか。
まずは、従業員の年齢層が高いということですね。現在、美容師の平均年齢は28~29歳くらいなのですが、シニア世代のお客様というのはこういう若い美容師が中心の美容室には入りづらく感じることがあるのです。いわゆるジェネレーションギャップというものです。
ですので、シニア世代の皆様に気軽にお越しいただき心地よく過ごしていただける美容室を展開するためには、働く美容師も同世代であることが理想です。
そういった経緯から、チョキペタでは「休眠美容師」を中心とした比較的年齢の高い美容師を採用しています。従業員の年齢層としては40代が最も多く、最高齢者についてはつい先日記録を更新したのですが69歳男性という方にも働いてもらっています。
そういう意味でいうと「シニアの美容師が働きやすい職場環境を作る」というのも、私たちの重要な使命です。
Q. 「休眠美容師」という言葉を初めて聞きました。どのような背景で休眠美容師を採用しておられるのでしょうか。
まず大前提として新卒の美容師が採用しづらいという求人環境があります。大きなチェーンのサロンは求人を専門におこなう部隊が新卒美容師の採用に動くことができますが、小さな美容室ではそうはいきません。
一方で、美容師という仕事は国家資格が必要です。その国家資格を保有した貴重な働き手が、結婚や出産、その他の事情を経て現在では仕事をしていない方が80万人ほどいます。このような方々を「休眠美容師」と呼んでいます。
もちろん、しばらく現場を離れていた休眠美容師が職場に復帰するのは簡単なことではありません。技術もトレンドも現役だった頃とは大きく変わっています。しかし、メンテナンスカットと白髪染めという限定したサービスであれば対応が可能です。
そんな美容師の負担を軽減するため、タッチパネル式の受付機と券売機、そしてオートシャンプーなども取り入れ、業務をスリム化・自動化という工夫をしています。
ここ数年で、やっとこの業界内でも産休の取得やパート・アルバイトの採用、そして短時間勤務というのが少しずつ受け入れられるようになってきましたが、10年ほど前まではフルタイムで働くことが当然のことという状況でした。
その中で当社は、創業当初から週に数回程度の出勤を希望する人や、パートで働きたい、扶養内で働きたいという要望を持つ人を積極的に採用してきました。これは画期的なことだったと思います。
今後も当社は、こういった休眠美容師も積極的に採用し働いてもらうと共に、その中の一部の方を正社員として迎え入れるなど、美容師としてのキャリアの選択肢を提供していきます。そして、美容師の皆さんそれぞれに自身の仕事に誇りをもちつつ、そして永く仕事を続けてもらいたいと考えています。
Q. 休眠美容師を職場に迎えるのは簡単なことではないのでしょうか?
トータルサービスを提供するようなサロンが休眠美容師を雇うのは難しいと思います。美容の世界においては、技術やトレンドは常に進化し変化しています。
例えばヘアデザインには流行がありますし、カラーも複雑になってきています。また縮毛矯正(ストレートパーマ)や特殊なパーマなど技術面も常に変化しています。そのために、現場から長い間離れていた休眠美容師にとっては、復帰したくても二の足を踏んでしまうのが現実です。
ところが、白髪染めの技法はほとんど変わっていないのです。チョキペタならメニューはスリム化してカットもメンテナンスだけ、カラーも白髪染めだけというのがサービスの中心です。持っている技術をそのまま生かしつつ活躍していただくことができます。
Q. 顧客としても求人の対象としてもシニア世代という業態を通じて得た「気づき」があればお聞かせください。
まず、シニアの従業員、すなわち休眠美容師の採用について言えば、オペレーションや教育の面がしっかりしていないと成立しないということです。事業の展開と並行して、内部のシステム構築や改善にも常に着手しています。
次に、シニアのお客様層について感じていることは、そのリピーターの多さです。髪は1カ月で1センチほど伸びます。ですので、フルサービスのサロンの価格で定期的にカラーをメンテナンスすればその経済的負担は決して小さくはありません。結果として白髪染めは2~3カ月に一度の割合になってしまいます。
その点、チョキペタであればリーズナブルな価格で白髪染めを提供していますので、1カ月に一度通っていただけます。年間のコストで比較してみると、チョキペタで毎月ちょっとずつメンテナンスすることと、フルサービスのサロンで数カ月おきに染めることとでは大差はありません。そのようなメリットにお気づきのお客様が、繰り返しでご利用くださっていると思います。
Q. チョキペタの店舗展開は、立地面においても特徴的ですね。
はい。チョキペタは通常の美容室のような予約の必要がなく、行きたいときに普段着で気軽に立ち寄り、白髪染めやメンテナンスカットをしていただけることが特徴のひとつです。ですので、スーパーマーケットやショッピングセンターの中など、「お買い物のついでに髪をメンテナンス」という導線が見込める場所に意識的に出店しています。
更に、ショッピングセンターやモール内の店舗は、生鮮食品を並べている場所の近くなどに積極的に出店しています。「気取らない身近な美容室」であり続けたいというのがチョキペタの願いです。
店舗によっては行列ができていることもありますが、順番待ちのための券が発券される機械が導入されています。自分の順番を確認して先に買い物を済ませ、いい頃合いに店舗に戻ってカットすることができます。また、ご近所にお住まいならば順番を確認した上で、一旦自宅に戻ってから再度ご来店いただく方もいらっしゃいます。
Q. では、現在の事業活動の中で課題と考えていることはありますか?
店舗数を増やすことも大事ですし、同時に重要視しているのは中身の充実です。新規出店を行うためには、店舗の運営を担う管理職の人材が必要になりますが、その候補は豊富にいるわけではありません。従って新規出店に当たっては、現場スタッフの中から新規店舗の中心的存在となって運営を行えるような人材を見出し、そして育成することが課題になります。
そのためには教育が重要です。教育に力を入れて人材育成を促進した上で店舗数を増やしていく、その両輪の足並みがそろっている必要があります。
Q. 課題と考えておられる人材育成は、どのように取り組んでおられますか。
新規採用の美容師の方への教育研修のあり方については様々な工夫をしています。休眠美容師は現場から離れていた期間が長く、高齢の方もいらっしゃいます。ですので、現場での勘を取り戻す、もしくは各種機器の操作方法を理解するまでの時間には差異があります。
例えば、機器類の使用法などをマスターするための導入研修は、以前は一人に対して3時間かかっていました。そこでテキストや口頭で伝えるのみでなく、写真や動画を活用したオンデマンド教材を社員向けに提供するようにしました。これなら繰り返し見ることで復習も、反復学習も可能です。これらの動画は、解説やテロップを入れたりして社員が作成しています。
また、各店舗で優れた技術などがあれば、その動画を作成して横展開するという取り組みも行っています。このように技術教育コンテンツは本部のみで作成するだけでなく、現場からも積極的に提出してもらっています。このことによって現場スタッフのモチベーションが高まりますし、自分の職場やチョキペタをよくしたいというマインド醸成にも繋がっているようです。
さらに、店長やエリアマネージャーのような管理職も外部から採用するのではなく、現場スタッフからキャリアアップする方式で登用するようにしています。ちゃんと現場経験のあるスタッフが管理職になって、今度はスタッフとともに現場を良くしていこうとする気運づくりを大切にしたいからです。結果として60歳を過ぎた方が3店舗の管理を担当する事例もあります。
本部の人間が常に現場に出て店舗をケアしていては、いつまで経っても自主性のある店舗運営に繋がりません。現場で起こる問題は、あくまで現場にいる管理職が解決できるような組織作りができるようにすべきですし、そういう組織でないと人材も伸びないと考えています。
一方で本部スタッフはエリアマネージャークラスとミーティングを通じて管理者人材の育成を行うと共に、店舗管理者を集めたミーティングも積極的に実施して積極的な意思疎通も図っています。
Q. 求人はどのように行ってますか?
主に求人サイトや求人誌を利用しています。しかしながら、以前は休眠美容師層にチョキペタが認知されていない状況でした。
そこで知名度を上げるために、昨年(2018年)、テレビCMを打ったことがあります。CM素材は求人の要素も含まれていますが、あくまでお客様向けの内容です。またチョキペタのPRとしてテレビ番組にも出演しています。その際、若手営業社員のほかに60歳代の従業員が出演し、シニア世代の方が実際に働いている姿を視覚的に訴求しました。これらの施策の効果もあってか求人への応募数はこの半年で倍増しています。
Q. 職場環境づくりにおいても様々の工夫をなさっているとお聞きしました。
従業員の多くは元休眠美容師であって、小さいお子さんや高齢の親御さんがご自宅におられるような環境です。そのため、シフト調整を細やかに行い、週1回の方もおられますし、極端な例では月1回もいます。それでもチョキペタで働きたいと思ってくださるのですから会社としてはこの思いを大切にしたい。
ですから各スタッフの将来的に希望する勤務形態なども相談しつつ、それぞれの従業員の生活パターンに合わせてシフトを組むように心がけています。
また、チョキペタは「ホワイトカラー宣言」をしました。これは美容室の業界では先駆的と思います。従業員には有給休暇を積極的に取得してもらっています。働く人のキモチを第一に考えて、美容業界を変えていきたいと考えています。
Q. 今後、FC展開などは検討されていませんか?
フランチャイズ経営は今のところは考えていません。理由としては、私どもは企業としてまだFC展開の域には達していないと考えているからです。
前述いたしましたが、まずは足元の直営店の経営と技術教育をしっかり固めたいと考えております。現在、若年層の人口が減少していく流れの中で、美容業界全体は完全なるオーバーストア状態(店舗が過剰な状態)にあります。
一方で「シニアに特化した美容」という業態の存在について世の中の多くの人が気づいていない気がします。少子高齢社会を迎えた我が国において、私たちは重要な役割を担っているはずです。従ってこの業態がもっと広がっていくべきですし、実際に伸長していくことでしょう。
そのためにも、当社はフロントランナーとして開拓者の役割を担い更に直営店舗を増やして、世の中から認知を得ていくことが使命だと思います。そして、その後、私たちに追随する人たちもどんどん出てきて欲しいと思います。
Q. 最後に、今後の活動についてお考えをお聞かせください。
美容業界内においては、まだ注目を集めるところまで至っていないこの業態ではありますが、前述したようにショッピングセンターやモールからはチョキペタの取り組みに親和性を感じて頂いていますし、集客力の相乗効果なども期待されています。今後は更に他業種との協業も検討して、更なる新しい取り組みへ挑戦していきます。
また、高齢者の方はとかく外出する機会が減り家に籠りがちです。月に一回、リーズナブルな価格できれいにしてもらえる美容室に通うことでシニア世代の外出を促せば、同世代の方や店の人と交流を持つこともできるようになります。チョキペタにシニア世代が集まってきていただくことで、シニア世代の健康維持にも寄与できるのではないか。そうすれば、チョキペタ流の社会貢献になると考えています。
「人生をいつまでも美しくありたいと考えている人たちには、ぜひチョキペタにお越しいただきたい」そんな思いで、今後も事業に取り組んで参ります。
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人生100年時代へ新しい提案。
太極拳をベースにプログラムされた
予防医療メソッド「メディカルタイチ」
一般社団法人 国際メディカルタイチ協会 理事
株式会社アスリートフードマイスター 取締役
フードディスカバリー株式会社 スポーツ&ヘルスケア事業部 事業部長
安藤 由美子 氏
野菜の知識を深めそのおいしさや楽しさを広める「野菜ソムリエ」や、アスリートが能力を最大限に発揮するために食事の面からサポートする「アスリートフードマイスター」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないだろうか。
食と健康の良い関係を世の中に広めることを目的として、これらの資格制度を確立してきたフードディスカバリー株式会社が、新しい“食と健康の良い関係”を始めた。
それが「メディカルタイチ」である。「メディカル」は医療、そして「タイチ」とは英語で太極拳のこと。
今回は、中国から伝わる「太極拳」と「食」と「健康」の新しい関係を系統的な人材育成カリキュラムとして提供している、国際メディカルタイチ協会についてお話を伺った。
2019年4月取材
Q. まず、メディカルタイチとは何か、そしてどのような背景から設立されてきたのか、経緯をお聞かせください。
私どもの活動は、2001年に「野菜ソムリエ」という資格を立ち上げ、その講習会などを体系化したところがルーツになります。そしてその後も一貫して食の素晴らしさを広く世の中に広めるための仕組み作りをしてきました。
メディカルタイチ協会の礎になったのが「野菜ソムリエ」資格の体系化
(写真は野菜ソムリエプロの土師さん)
次に生まれたのが、「アスリードフードマイスター」という資格制度です。
アスリートがその能力を最大限に発揮するために、食事の面からベストなサポートを提供するための食の知識を備えるための資格です。
現役トップアスリートだけでなく、アマチュアアスリートや一般生活者の方々にもご受講頂き、健康的なライフスタイルの一環として生活の中で実践して頂いています。
年々認知が高まり資格取得者が増えているアスリートフードマイスター
(写真はアスリートフードマイスター資格取得者の皆さん)
これら一連の活動の中で、私たちが常に念頭に置いているのは、健康にとって重要な三つの要素、「食」、「運動」、「睡眠」の三つになります。
健康であるため、あり続けるためにこの三要素こそが不可欠である、私たちはそう考えています。
ところが、最近では30代の会社員の多くが就業時間中、つまり8時間近くも、座ったままであると言われています。体を動かさない状態が長く続くとどうなるか。
体というのは、使われない部位があれば、それを不要だと判断し、どんどん筋肉がやせ細り、毛細血管が減少してしまいます。
このような健康課題は、日本の現代社会に大きく広がっています。
デスクワークが中心であることに起因した健康問題は増加傾向にある
課題の解決策のひとつとして挙げられるのは、毎日少しでも体を動かすことであり、運動することから遠ざかっている人たちを減らすことです。
Q. そのための太極拳(Taichi)であり、メディカルタイチということですね?
そうなんです。ところで、太極拳にはどのようなイメージをお持ちですか?広く知られているイメージとしては、「広場で大勢の人が集まって、静かな動きを皆で合わせて行うもの」
であるとか、そのビジュアルからの印象も手伝って、「シニア世代を中心としたもので、60歳になったら始めるもの」などというものではないでしょうか。
意外と知られていませんが、まず太極拳というのは1959年に蒋介石総統文化使節として派遣された樹金老師により「武術」として中国から伝えられ、徐々に日本国内に拡がっていきました。
現在では市民レベルまでしっかりと定着したのですが、意外と知られていないのが太極拳が「競技スポーツの一種」であるということです。
国内では国体の一競技として採用されており、毎年全国大会も催されています。大会には若い世代も参加しており、その中には世界的に活躍されている選手もいます。
つまり、太極拳は「スポーツ」であり、「競技」としても成熟している種目なのです。
競技として既に成熟した位置づけを確立している太極拳
(写真は現役日本代表選手(2017年世界武術太極拳選手権銅メダリスト)で
メディカルタイチ認定インストラクターの齋藤志保選手)
この太極拳の中から、医学的根拠にもとづき健康の維持・増進に良いと考えられる動きを取りだし、取り組みやすくアレンジしたものが「メディカルタイチ」です。
その「メディカルタイチ」の普及のために2016年に国際メディカルタイチ協会が設立されました。
タイチという名称は、太極拳が英語で「Taichi = タイチ」であることに由来します。
太極拳を取り組みやすくアレンジした「メディカルタイチ」
2017年には、メディカルタイチを学び、普段の生活の中で普及していただく普及員と指導者を育成する資格制度を創設しました。
Q. メディカルタイチの資格制度について、今の活動の様子も併せてご紹介してください。
メディカルタイチを始めるためには、まずメディカルタイチというものが身近な運動として認知してもらうため、「太極拳(Taichi)と健康の関係」や、「効果が期待できる動き方」、そしてそれに関連した「食生活」などを学び、そして何よりメディカルタイチを生活に活かしていただけることが大切だと思っています。
国際メディカルタイチ協会では、東京、神奈川、千葉、大阪にスタジオを設置しており、講習会を開催しています。
講習会では、野菜ソムリエやアスリートフードマイスターで培ったノウハウを活用し、太極拳の動作一つ一つが健康にどのような効果をもたらすかを系統的に学んでいただくためのカリキュラムを用意しております。
内容は、太極拳が有する医学的効果に着目し、各医療系団体の先生方にご指導のもと作成しています。
受講された方には資格が授与されるのですが、その資格体系としては、メディカルタイチ3級、2級、そして講師としての資格も含むインストラクター2級と、インストラクター1級のコースを設置しております。
コースの最後には修了試験があり、これに合格した方へ資格を授与する形になります。
メディカルタイチの資格体系
資格制度を作ってから今までに500人ほど、全体の受講者の約9割が資格を取得されました。
その一方で、資格を取得することだけを目的とするのではなく、「純粋にメディカルタイチという運動を楽しみたい・学びたい」という目的で講座を受講する方もおられるようです。
Q. シニアにとって、メディカルタイチの有用性はどこにありますか?
シニアの健康維持において、メディカルタイチがとてもマッチしていることです。
健康の維持・増進のためには食、運動、睡眠という三つの要素を日々の生活の中にバランス良く取り入れることが重要であることは冒頭にご説明した通りですが、シニアにとっては急に激しい運動を始めることはかえって体を壊してしまう要因にもなりかねませんし、そもそもけがや病気のために激しく体を動かすことができない方々もいらっしゃいます。
そういう方々にとっての運動の入り口として、メディカルタイチを始めてもらいたいと思っています。
例えば、老人ホームや介護施設などの入居者の皆さんにもぜひメディカルタイチを活用していただき、一人より二人、三人、そして大勢の人が集まって一緒に体を動かしていただければ幸せホルモンも分泌され、より健康的な体作りができます。
シニアの健康維持のためには、楽しく大勢で運動することが効果的
介護施設向けの動きの参考動画
(株)locus「ふくくる」介護施設向け動画配信サービスダイジェストより
Q. では、メディカルタイチを進めて行くにあたって、苦労されていることや、課題と考えていることはありますか?
それはやはり(「メディカルタイチ」という言葉に対する)知名度です。
太極拳と東洋食薬を組み合わせて健康的な生活をサポートするための生活スタイルの一つ、それがメディカルタイチなのですが、まだまだ認知されていません。
その原因は、協会と資格制度の歴史が浅いことに加え、「タイチ(Taichi)」と聞いて太極拳のことだと直感的にわかりにくいことにあると思います。ここは、私たちが資格取得者の方々と更に普及活動を進める努力が必要なところです。
メディカルタイチの資格認定者数は徐々に増えている
(写真上段中央は、2015年世界武術太極拳大会銀メダリストで、
メディカルタイチ認定インストラクター2015年の市来崎大祐氏)
Q. 最後に、今後の活動についてお考えをお聞かせください。
これまでご紹介してきたように、日常生活において運動が足りていない人や、激しく体を動かすことが難しい人が、気軽に健康的に体を動かすことのできる一つの選択として、メディカルタイチを広めていきたいと考えています。
メディカルタイチを普及させる形として、ヨガの事例が一つのヒントになると考えています。
インドが発祥で宗教的なイメージを伴ったヨガは、かつては取っつきにくい印象が持たれていた時期もありました。
しかし近年になり、健康的でスタイリッシュな新しい形のヨガが米国から日本に入り、これが若い女性に支持されました。
今では各地にヨガスタジオがあり、ホットヨガやピラティスといった様々な発展形を伴いながら支持を広げているのは周知の通りです。
メディカルタイチの認知度向上のためベンチマークすべきは「ヨガ」
一方で、タイチ、すなわち太極拳は、元々は武術であったこともありポージングが男性的です。
そのため、ヨガに比べると男性にとても馴染みやすいのではないかと考えています。シニア世代に関わらず、その1段階前のロコモ世代を含め、現代日本の健康課題である男性社会人の運動不足を解消する方法として、医学的な効果を考慮して考えられたメディカルタイチは非常にマッチすると思います。
武術にルーツを持つことに起因して、男性的なポージングが多いタイチ
(写真はラグビートップリーグ日野レッドドルフィンズ 村田選手)
また、無理なく体を動かすことができることが特徴のメディカルタイチは、シニア世代や難病やけがなどで激しい体操やトレーニングをすることが難しい方々にとっても、日々の生活習慣として少しの運動を取り入れるきっかけになり得る存在だと思います。
ですので、もっと多くのシニア世代の皆さんにも、私たち国際メディカルタイチ協会の開催する講習会に来ていただき、食と運動をバランス良く組み合わせたメディカルタイチを学んでいただければと願っています。
太極拳エクササイズ専門スタジオ “Taichi Studio”
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
無添加×飽くなき開発力で
支持を受けるマチュア世代向け化粧品
ビューティーブーケ
マーケティング本部化粧品事業部
商品企画第一グループ課長 土井 幸永子氏
創業以来「無添加」というに強いこだわりを持ち続け「化粧品」、「サプリメント」そして「発芽玄米」などのそれぞれの業態分野で長く市場を牽引している株式会社ファンケル。
今回はその中でも、マチュア世代(※)向け化粧品「ビューティブーケ」にスポットを当てお話をお伺いしました。(※成熟した世代の意)
2018年11月取材
Q. ビューティーブーケの企画から開発までの経緯についてお聞かせください。
「ビューティブーケ」は2016年10月に発売したマチュア世代向けの化粧品です。
ファンケルの商品は概ねオールターゲットで開発していますが、加齢に伴った体の衰えや変化を原因にして引き起こされる使い辛さにまで配慮して作られたのがこのビューティブーケです。
容器の開封のしやすさや使用順序がわからなくなってしまう点などを意識して開発しました。
Q. 商品開発への拘り、そして強みはどこにありますか?
まず、ファンケルのいわば代名詞ともいえる「無添加」。ここには強い拘りを持っています。その一つの研究成果として、防腐剤であるパラベンは老化を加速させるという結果を出しています。また原料の開発にも力を入れています。ビューティーブーケは、当社で積極的に行っている発酵の研究技術を活かし、当社の発芽玄米商品である発芽米を発酵させて、マチュア世代に効果的な成分を抽出するに至りました。
Q. この商品のターゲット層について、御社では「マチュア世代」という表現を使っていますが、その意図とペルソナについてお聞かせください。
シニアという言葉には70歳以上の方、そして仕事を含めて引退して「美容」よりも「健康」を意識した生き方にシフトしているイメージがありました。
ビューティブーケは、「美容」と「健康」の両方に意識が高い60歳以上の女性をターゲットとして設定したかった。そこで、この層を「マチュア世代」というワードで定義することにしました。
ターゲットを決定した後、この層についての定量的な調査を行いました。
また、実際にマチュア世代の方と行動を共にして定性的な調査を行いました。
マチュア世代の方と触れ合ってみると、例えばフラダンスやハイキングなどアクティブな趣味をお持ちの方が多いことに気づかされました。
また当然のごとく多くの経験値や知見も有しており、化粧品選びに関しても「本当にいいもの」をお求めになるという傾向が見えてきました。
Q. シニアマーケティングを進める中で、他社の活動を参考にした部分はありますか?
他社さんのシニア向けの商品については、実際にいくつかを購入してみましたし、それ以外にもシニア向け通販サイトが実践するご案内の手法、そしてシニアの方の目の動きなどを考慮したUI(ユーザインタフェース)なども参考にしました。
特に、家電用品の説明書から得るものは多くありました。マチュア世代に当社の商品を使っていただくに当たり、いかに説明書を間違えなく使えるご案内にするか、受け入れ易い表現にするかという点で参考にした部分が多くありました。
Q. 昨年(2018年)10月10日に、新商品「薬用 美白エイジングケアクリーム」が発売されましたが、こちらの開発経緯などをお聞かせください。
こちらは「金のいぶき」という発芽米を発酵させ、原材料として使っております。従来配合している発芽米発酵液よりさらに効果が高く、エイジングケア、美白効果、シミ予防に更なる効果を発揮します。
また使いやすさの点でも新しい配慮を行いました。
「薬用 美白エイジングケアクリーム」の開発に当たっては、従来の「ビューティブーケ」のユーザに集まって頂きヒアリング調査を行いました。
そこで、「一般的なスパチュラ(クリームをすくい取るためのヘラ)は小さい」というご意見を得ることができました。スパチュラは透明なものが多く、下に落としてしまった際に、どこに落としたからがわかり辛いというご指摘でした。
そこで、スパチュラ(掲載写真右下)を大きくしてつまみやすくし、他の色と識別しやすい色にしました。更に、内蓋のつまみを大きくして、従来のジャータイプの容器よりももっと開け易い容器にしました。
Q. 「薬用 美白エイジングケアクリーム」の売れ行きはいかがですか?
ありがたいことに、本当に多くの反響をいただいており、現在は販売数に対し生産が追い付かないほどです。
Q. 最後に今後マチュア世代(シニア世代)に対し、どのようなアプローチをお考えですか?
これから更に高齢化が進んでいくことは自明ですので、当社としても更なる注力を行っていきます。
今後は「マチュア世代向けのライフスタイルブランド」として位置づけ、広く美に対するお手伝いの提案をしていきたいと考えています。
ビューティーブーケ公式サイト
https://www.fancl.co.jp/beauty/beautybouquet/index.html
株式会社ファンケル
https://www.fancl.jp/index.html
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
日本製への拘りと独自の販路開拓によって
育成されたブランド「快歩主義」
執行役員 / 営業・商品本部戦略ブランド販売部
快歩主義グループ ブランドマネージャー
穴井 政春氏
創業以来120年以上に渡って、高品質の靴を作り続けてきたアサヒシューズ株式会社。確かな技術と信頼の背景には、国内工場製造への深い拘りがありました。
そして、今シニア市場で話題の商品「快歩主義」は、健康・快適シューズ市場においてNo.1のブランド(※)に成長しています。(※2012年シューズポスト紙調べ)
今回は、この「快歩主義」ブランドの育成と販路拡大を含め、アサヒシューズのシニアマーケティングへの取り組みについて深くお話をお伺いします。
2018年5月取材
はじめに
【シニアライフ総研(以下、SLS)】今回はシニア用の靴市場において、自社ブランドである「快歩主義」が大きな支持を得ているアサヒシューズさんにお話をお聞きします。
お話くださるのが同社営業セクションを経て現在はブランドマネージャーを努めていらっしゃる穴井さんです。
【穴井】まずは、弊社に興味を持っていただいて光栄に思います。
【SLS】本日は、本社のある福岡県久留米市からわざわざお越しいただき(※)、本当にありがとうございます。(※編集部注 : インタビューは、東京・有楽町にあるアサヒシューズ様ショールームにて実施)
【穴井】弊社は新幹線とJR在来線の久留米駅近くの、電車からもよく見える川沿いに本社と自社工場があります。
主たるシューズメーカーにおいては、国内で自社工場を有する会社は少なくなっていて、国内工場があったとしてもアッパーと呼ばれる靴の上部の縫製は海外で行い、靴底との接着だけ国内で行う工場が多く、弊社のようにアッパーの縫製も自社や久留米市近隣の協力工場で行っている会社は珍しいと思います。
靴には様々な種類がありますが、弊社は高齢者向けのブランドとして「快歩主義」というブランドを企業の主要ブランドと位置付けています。お陰様で、65歳以上の市場においては、ナイキやプーマをご存じない方でも「アサヒシューズ」や「快歩主義」の認知が徐々に高まっていることを実感しています。
私からは営業という立場から、高齢者マーケットへの取り組みについて「熱く」お話したいと思います(笑)。
【SLS】ぜひ「熱く」よろしくお願いいたします(笑)。
「快歩主義」の商品特性
【SLS】まず、「快歩主義」の商品特性についてお聞かせください。
【穴井】「快歩主義」定番商品のメーカー希望小売価格は5,900円です。他社さんからはこれに競合する商品が3,900円程度で売られているようです。そう考えると決して安くはないのですが、弊社は「快歩主義」発売以来この価格を維持しております。なぜなら商品の品質に絶対的な自信を持っているからです。
商品の差別化ポイントはゴム底にあります。ゴムというのは本来重いものなのですが、「快歩主義」に使用されているゴムは圧倒的に軽いのです。
(※快歩主義の最軽量商品の重量は約130g)
実は、ゴム底製造の歴史こそが、弊社の歴史と言っても過言ではありません。弊社は足袋の生産から始まり、その後、地下足袋へと移行してきました。久留米は近隣に三池炭鉱、田川炭鉱など炭鉱が多く、炭鉱夫のために地下足袋を作って最初に特許登録したのが弊社です。これがゴム加工を始めたきっかけとなるのですが、ここから長年に渡りゴム加工技術の研鑽を積み重ねてきました。
靴のデザイン部分は流行やライフスタイルに合わせて変動しますが、ゴム底加工の技術だけはそれぞれの会社に脈々と受け継がれてきたノウハウがあり、簡単には真似できないはずです。靴底(裏側)を見ていただければすぐにわかっていただけます。「快歩主義」は靴底の全面にゴムを使用しており、これが履き心地の良さを生んでいます。
他社さんの製品は、そのほとんどが軽量化のために発泡させた合成樹脂を使用し、滑り止めとして部分的にゴムを使っている商品が多いはずです。
【SLS】更には、各方面の専門家の助力があったとお伺いしておりますが…。
【穴井】「快歩主義」には基本設計として「正常歩行機能(フットオンコントローラーシステム)」が採用されています。加齢により骨格構造や歩行が変化してくことに対応する機能で、特許登録もしております。
この技術は、1999年に松波総合病院リハビリテーション科(当時)の酒向先生(理学療法士)との出会いから始まります。更には整形外科医の先生方の協力も得ながら研究開発を行って誕生しました。軽量化を実現するため靴底にはエクスパンセル(ガスを入れたプラスチック球状発泡剤)を採用し、ゴムへの配合率や焙造条件(温度や時間など)を独自に研究し、量産を実現しました。
また、デザイン面については、面ファスナー部分を素材メーカーと共同で開発し、医療機関で検証を行いました。消費者は厳しい視点を持っています。健康に関わる付加価値を持った商品というのは、メーカーの独りよがりでは売れません。やはり、専門家の知識や助言という裏付けが絶対的に必要です。
シニアマーケットへの事始め ~ 会社更生法適用時代を経て
【SLS】御社は早い時点(1999年頃)にすでに高齢者マーケットに着手していますが、当時の背景をお聞かせください。
【穴井】高齢化が加速する日本では、要介護の基準、サービス運営基準など、公的介護保険の詳細について定めた法律である介護保険法が1997年に制定され、2000年より施行された時代背景があります。当時の商品開発テーマとして、「21世紀の高齢化社会へ対応する商品開発構想」を掲げ、シニア向け商品の開発に着手しました。
またこの頃の靴市場は、すでに韓国製、中国製など海外生産製品が席巻しており、価格競争が激化していました。これは国内の自社工場で生産を行っている弊社にとって苦しい状況でした。
そこで方針を転換し、自社工場だからこそ作れる他社には真似のできない付加価値を持った商品を開発する必要がありました。そしてそのような商品は高齢者マーケットにこそ需要があると考えました。
【SLS】では、国産に拘ることが高齢者マーケットへたどり着くきっかけだったということですか?
【穴井】そうです。更に掘り下げると、弊社が1998年に会社更生法の手続きを申請したという実情が背景にあります。つまり倒産です。当時、弊社の主たる取引先は、商店街の靴屋さんでした。大型ショッピングセンターはまだ少なく、商店街に元気があった時代です。売上自体はあったのですが、その実態は苛烈な安売り競争に苛まれ、利益は非常に少なかった。売れれば売れるほど、その翌年に小売店から仕入原価を下げるよう要請が来ました。「あと1%引いてくれ」と。厳しい要請ですが、しかし取引先を切るわけにはいかないから泣く泣く値引きする。結果として、売っても売っても経営が苦しいという負の連鎖が続き、過剰在庫もあり最終的に倒産に追い込まれました。当時の反省も踏まえ、現在は商品の価格を下げないという原則を守っています。
【SLS】会社の再生を通じて、価格競争に苛まれないための経営戦略に移行されたのですね。
【穴井】そうです。これがきっかけで大量生産による競争路線から、オンリーワンの機能を持った自社ブランド路線へとシフトしていきます。その一環がシニア向けの商品開発だったのです。
自社工場を武器にするための経営戦略
【SLS】会社再建当時に「これからはシニアを攻める」と聞かされた時は、現場にいらっしゃった穴井さんはどうお感じになりましたか?
【穴井】正直言ってシニアをターゲットにすることに対し、それほど何かを感じるということはありませんでした。ただやるだけだと。それよりも、工場をフル稼働させたいという思いがありました。
【SLS】ここまでのお話からも、久留米の自社工場について強い思い入れを感じていました。
【穴井】それには理由があります。実は前述した会社更生法が適用された頃に、工場存続の危機があったのです。会社は経営再建を目指してスポンサーを探します。当時、ありがたいことに、弊社の再建のために手を挙げてくださったいくつかのスポンサー候補がありましたが、そのほとんどが「自社工場を手放し、全国にある販売網の活用に重点を置く」ことを再建の条件として提示されました。
しかし、当時の弊社経営陣は自社工場の存続に強く拘りました。その背景には「従業員の雇用を守りたい」という思いがあったからだと思います。幸いなことに、この考えを強力に進めてくれる管財人が就任され、そこから再建が図られることになりました。
このような経緯の後に残すことができた工場であり従業員ですので、これを何とか自分たちのチカラで最大限に稼働させたいと思いました。かと言って、無闇にモノを作ればいいというわけではありません。例えば人気を理由にブーツなどの季節需要のある商品などに寄ってしまうと、闇雲にアイテムが増え工場の負担は瞬間的に大きくなるだけでなく、年間の稼働率に偏りが出てしまいます。工場を健全に維持し続けるためには、年間を通じて平均的な需要が見込める定番商品、つまり安定した「自社ブランド」商品を作ることが最重要課題でした。
【SLS】「自社ブランド」路線にシフトした後、工場の稼働率はどのように推移しましたか?
【穴井】その後「快歩主義」を始めとした様々なブランドが着々と成長し、今では、アサヒシューズの商製品全体における7割が自社工場による生産となっています。
【SLS】国内工場比率が70%というのは、靴メーカーとして比類のない数字なのでは?
【穴井】そうですね。珍しいと思います。
独自のプロモーション施策
【SLS】そんな自社工場で生産される「快歩主義」についてですが、高齢者の皆さんには「日本製」というキーワードは響きますか?
【穴井】響いていると思います。実際に「さすが日本製だけあって、モノが違う」というお声も多数頂いています。
【SLS】靴市場におけるシニアマーケットの特性を教えてください。
【穴井】まず大前提として、「快歩主義」の売上のうち多くを占めるのがリピーター需要ということです。靴というのはそもそもリピート需要が大きい商品なのですが、「快歩主義」は一度お試しくださったお客様が繰り返し購入してくださることがとりわけ多い商品です。
【SLS】新規ユーザーの獲得については、どのように取り組んでいらっしゃいますか?
【穴井】これまでは新聞広告を中心に全国紙の15段広告や、時には5段広告も出稿してきました。しかしながら、期待するほどのレスポンスには至りませんでした。
特に地方についてはブロック紙や県紙などの地方紙が強く、全国紙ではなかなかリーチしないという印象を持ちました。そこで考え方を変えて、2018年からテレビ通販によるダイレクトマーケティングを実施しています。
(穴井氏も出演する通販番組)
【SLS】ここまでの反響はどうですか?
【穴井】反応は良いと感じております。衛星放送を中心に29分の尺で放送していますが、毎日予測値以上の反応があります。卸先の靴屋さんからは「メーカー直販すること」に対しお叱りをいただくことがあります。しかし私どもの真意は靴屋さんと競合することではありません。この番組の主目的は、ブランドの持つストーリーや価値を伝達しながら快歩主義を知らない方にブランドの存在を知って頂く事です。通販はあくまで副次的な要素と考えています。番組を通じてアサヒシューズの「快歩主義」をシニアの皆さんに知っていただき、その上で店舗に足を運んで頂きたいのです。
事実、靴は履いてみないと自分に合うかどうかわからない商品です。ご近所の靴屋さんで弊社商品と出会った際に、「テレビで見た商品だ」ということでお試し頂くきっかけになればと期待しております。
このことは営業マンがそれぞれの靴屋さんに足を運んでご説明しております。
【SLS】販売よりも流通対策としての意味合いが強いのですね。
【穴井】そうですね。快歩主義は一度お履き頂ければ必ずといっていいほどリピーターになって下さる方が多い商品です。一度お試し頂ける方を増やしたいという意味合いが強いですね。また番組内では靴をご購入いただいた方へのノベルティとして「オリジナルの今治ハンカチタオル」をプレゼントしていますが、実はこのノベルティは店頭でもちゃんとご用意しております。
弊社としては何より小売店さんを大切にしたいという思いがありますので、店舗へ足を運んでくださったお客様が「プレゼントはテレビ通販だけなの?」という疑問や不満を持たれるのは本意ではありません。ですので「快歩主義」を取り扱うすべての小売店さんに同じノベルティを提供させていただいております。
多様なニーズへの対応がシニア攻略の鍵
【SLS】こうしたシニアマーケットへの取り組みが結実していると実感したのはいつ頃からですか?
【穴井】シニアマーケットにはまだまだ新しいニーズが存在するのだと気づいた辺りからです。
例えば同じ80歳の婦人を比較しても、20年前の80歳と今の80歳とでは全然違いますよね。
私自身もあと1年で60歳です。自分が子どもの頃の印象では60歳と言ったらお爺ちゃんでしたが、実は私は今もハーレーを乗り回しています。
【SLS】ハーレーとは、すごい(笑)
【穴井】これが今60歳の実態です。もちろん一例ですが(笑)。
快歩主義で言うと、10年前はベージュ、黒、ワイン色などの定番商品しかありませんでした。
しかし、今のシニアは多様なニーズを持っています。それに呼応するため、今は定番以外にもたくさんのデザインをご用意しています。いわゆる「年寄り扱い」をしてはいけません。こちらのショールームにはラインナップの一部を置いていますが、全体を見渡して頂くと、結構派手だと思いませんか(笑)
【SLS】そう思います。
【穴井】ちょっと派手なくらいが気持ちを高揚させてくれるし、その気持ちが歩いたり動いたりする原動力になります。
【SLS】リハビリ用の商品もデザイン性が高いですね。
【穴井】よくあるリハビリ対応の靴はデザイン性を考慮しない「上履き」的なものが多いのですが、私たちはリハビリ対応の靴であったとしてもデザインには拘っています。
とある介護施設で聞いた話をご紹介します。その施設の入所者さんたちが履く靴は全員が同じモノで間違いやすかった。そこに気づいた入所者の娘さんが、靴に名前を書く代わりにその方がお気に入りの着物の切れ端をミシンで靴に縫い付けたところ、とても喜んでくれた上に間違いも減ったそうです。私どもはそのアイデアを即座にいただきまして、着物風の生地をワンポイントであしらった商品も作りました。商品開発をしていても楽しいです。多少突飛なアイデアだったとしても、恐れずどんどんチャレンジしています。できれば他社にはない独自性のある商品をたくさん作りたいと思っています。
実際、社内会議で不評であったデザインでも、思い切って発売してみると、これが意外とよく売れることがあるのです。正直言って何がウケるかなどやってみないとわかりません。もちろん定番商品自体は大事な存在です。そちらのラインナップはしっかりと維持しつつも、一方で色やカタチを少しずつ変えたアレンジ商品をラインナップとして増やしていく。そうすると2足目、3足目のプラス需要として売れていきます。だからこそ攻めていく姿勢は大事です。この戦術は、コンバースさんの「オールスター」シリーズからヒントを得ています。柱となる定番商品を持ちつつ、一方では常に攻めの商品ラインナップ開発を行っていく。これがシニアマーケティング攻略のポイントのひとつだと思います。
まだある、自社工場生産のメリット
【SLS】しかし、実際はこんなにたくさんのデザイン商品を作るのは大変なのではないですか?
(ハローキティともコラボレーションするなど、バリエーション豊富な快歩主義)
【穴井】こうした試みができるのも、自社工場があるからです。
仮に海外生産をしていたらこうはいきません。海外生産を行うためには、ロットと期間に制約が生まれます。靴の世界でいえば、最低でも5,000足発注しなければ海外生産のコスト面のメリットは生まれず、しかも発売の半年前に発注するという条件が付きます。商品の売れ行きが見えない段階で、大量の発注を余儀なくされるわけで一種の賭けです。リスクも大きい。仮に賭けに勝ちヒット商品を生んだとしても、そこからがまた大変です。更なるヒットを生むために新型のモデルを大量に生産し販売する。そうすると当然前のモデルの中に売れ残りが発生し、それが安売りの対象になります。最新でなくても安い方がいいという需要は必ず一定数はあります。そうすると売りたいはずの最新モデルが売れなくなり、ひいてはブランドの瓦解に繋がっていきます。
業種を超えた流通対策
【SLS】それでは、いよいよ販売と流通に関する手法について教えてください。
【穴井】まず、漫画を書いています(笑)
正確には、漫画そのものは別の社員に依頼しているのですが、設定やストーリーはすべて私が自分で考えています。
【SLS】面白いのが、街のカメラ屋さんに快歩主義の取扱いをオススメするというストーリーになっていることです。
【穴井】これ、実は異業種向けの新規開拓用営業ツールです。今、私どもが積極的に取り組んでいるのが、異業種の小売店さんを開拓することです。靴屋さんではない全くの異業種の小売店さんに「快歩主義」を置いていただくことにチカラを入れております。
【SLS】いろいろお聞きしたいのですが、まずは最初の質問です。なぜ漫画に行き着いたのですか?
【穴井】商店街で営業を行っていると、お話を聞いてくださる店主さんやオーナーさんも、皆さんシニア層の方です。そういう方々に、杓子定規にとりまとめられた文字ばかりの企画書をお持ちしても興味をもってもらえません。しかも、異業種の皆さんです。そんな方にいきなり靴の取扱のお話をしても「えっ?!」と思われてしまいます。だから、ひと目でわかりやすく、内容も入っていきやすい漫画に着目したのです。
【SLS】次に、異業種開拓へチャレンジした理由をお聞かせください。
【穴井】理由は単純です。靴屋さんだけをターゲットにしていても販路拡大には限界があるからです。
今は、いくら探しても新規の靴屋さんなどありません。言い換えればほとんどの街の靴屋さんが既に弊社のお取引先です。
そして、その靴屋さんが今、減少傾向にあります、というのは靴屋さんというのは大変な商売です。1つの商品を売るためにおよそ5~8種類のサイズを用意しておかなければなりません。在庫というのは靴屋さんにとってそれは大きな負担です。そういう理由もあって、街の靴屋さんは事業継承されず廃業されるケースも多く、同時に弊社の取引先も減っていきます。だからと言って何もしないわけにいかない。年々減っていく得意先を悲しんでいても何も生まれません。だからこそ異業種開拓です。開拓先は主に商店街の店舗です。全国的に商店街は衰退傾向ですが、実はシニアの方にとって商店街は未だ大事な存在です。シニアの行動範囲は限られています。郊外のショッピングセンターまでなかなか足を伸ばせません。
【SLS】俗に言う「買い物難民」問題ですね。
【穴井】そうです。だから私たちはもう靴屋さんに限定せず、「レジのあるところならばどこへでも提案する」という方針で開拓を進めています。洋服屋さんは元より、電気屋さん、クリーニング屋さんなど、商店街にあるいろんな業態に靴の取扱いをオススメしています。更には、道の駅、ガソリンスタンド、ネイルサロン、家具屋、ランジェリーショップなどにも置いてもらっています。この漫画のモデルになっているカメラ屋さんは(広島県の)呉駅前にあるんですが、今では、店舗の半分が靴の展示スペースで占められています。
【SLS】いわば、靴を通じた、シニアの方と商店街のマッチングですね。
【穴井】これはコカ・コーラさんの「喉が乾いたらコカ・コーラ」という戦略からヒントをいただきました。いわば、「シニアがいるところには快歩主義」です。「快歩主義」を置いてくださる店舗さんには、展示用・装飾用の什器と店頭用のノボリなどを一式でご提供しています。少しの空きスペースにこれらを置いて頂いて、シニアの皆さんとの接触ポイントを作っています。もし、購入意思のあるお客様がいらっしゃれば、店舗内で靴(のサイズ)合わせをしていただきます。「快歩主義」のデザインは多数ありますが、ベースは同じなので(22.5~25.0までの)5サイズ分だけ店舗内に置いておいていただければ靴屋としての商売が成立します。あとは設置したカタログからデザインを選んで頂きます。そうすれば翌日には弊社から商品をお届けすることができます。
【SLS】専門家がいなくても、試し履きが何よりの商品説明になるから、商売になるのですね。
【穴井】今は、こういう異業種店舗向けの販路開拓を行う専門チームが社内にあります。当初は西日本が中心でしたが今は首都圏においても開拓を進めています。首都圏内においても困っている商店街や買い物難民エリアはたくさんあります。
異業種店舗で靴が売れる、その理由
【SLS】各店舗オーナーさんからはどんなお声が挙がっていますか?
【穴井】手前味噌ですが、よく売れると喜んでもらっています。人が離れたと言っても、実は店舗さんはちゃんとお客さんをお持ちです。中には名簿や台帳を作ってお客さんをしっかり管理していらっしゃる店舗さんもあります。
そして、売れるのにはもうひとつ理由があります。店舗オーナーさんご自身もシニア層の方が多いので、商品を実際に試してくれます。従ってお客様への説明にもリアリティがあるのだと思います。売る側が納得しているから、買う側にも響きます。
【SLS】アイデアだけでなく、それを行動に移しカタチにしたことにも感心します。
【穴井】それは私たちが「営業」だからだと思います。常に外にキモチが向いているからです。もちろん、社内を見渡せばこのような取り組みに反対意見もありました。それは当然のことです。営業が動くだけと言っても現実には人件費も交通費も使います。経費はかかっています。しかも1日に10件、20件回って成果がゼロということもあります。そうそう結果が出るわけではありません。そもそも、全くの異業種に対して「靴を売りませんか」と言っているのですから、結果が出なくて当たり前なのです。
しかし、動かなければ何も始まりません。それに仮に一店舗採用していただけると、そこから横の繋がりによって別のお店でも検討していただけることもあります。
【SLS】一通りのお話をお聞きすると、前述された「テレビ通販も流通対策の一環」というお話がよくわかります。
今後の展開と企業としての社会的使命
【SLS】思い描いていらっしゃる今後の展開等がございましたらお聞かせ下さい。
【穴井】これからも何ら変わりません。更なる新規提案と更なる販路開拓、この2点に尽きます。
例えばサンダル型のニーズがあるというのならばすぐにでも開発したいですし、とあるエリアには販売店がないとなれば開拓に行きたいと思います。終わりはありません。
【SLS】今後、シニアマーケットを追求していくにあたって、靴業界に限らずベンチマークしていらっしゃる企業さんはありますか?
【穴井】前述しましたが、やはりコカ・コーラさんですかね。街を見渡せば、どこかに赤い自販機があるというコカ・コーラさんの取り組みは、常に意識しております。シニアがいらっしゃるところならば全国どこでも快歩主義が売られている状況を作りたい。同じ視点で、セブンイレブンさんの出店戦略も参考になります。
販路拡大について補足ですが、実は今取り組んでいる新しい施策があります。それは、徳島の山奥を走る移動スーパーでして、そこで「快歩主義」を取り扱ってもらっているのです。
【SLS】山村部を1週間に数回走る、小型トラックの商店ですよね。
【穴井】移動スーパー内のほとんどの商品が数百円ですが、そこに弊社の5,900円の商品を置いていただいております。当然最も高い商品となります。他の店舗さんと同様、複数のサイズのサンプル靴を置いて、もし購入していただければ、次回の移動販売の際に商品をお持ちするというカタチになります。
当然、オーナーさんにこのご提案をするにあたっては苦労もありました。しかし最終的にはニーズがあるとご判断頂き、採用していただけました。
【SLS】届けるといえば、海外からの需要についてはどのような取り組みをしていますか?
【穴井】例えば、東南アジアや韓国、台湾では販売が始まっています。更に中国についてはこれから本腰を入れて取り組んで行かねばなりませんが、今は慎重に事を進めています。それは商標の問題です。韓国や台湾については問題なく「快歩主義」の商標も確保したのですが、中国はこれが簡単ではありません。実際問題として、中国で「快歩主義」を想起させる類似の商標を他人が既に登録しているなどの難しい問題などがありました。しかし、この問題もようやく解決して中国での展開が始まりました。
【SLS】これが前に進めば、営業さんとしては中国向けの販路開拓という大きな仕事が待っていますね。
【穴井】そうなれば人員もまた増えるでしょうし、着実に成し遂げて、後進へよい財産を残していきたいと思います。
【SLS】改めて販路開拓に対する営業さんの情熱には、アタマが下がります。
【穴井】その原動力にはやはりお年寄りへの愛情があるのだと思います。トイレ、風呂、そして靴は毎日使うものです。良いものを使えば、健康寿命が伸びると考えています。
「快歩主義」は他の靴と比べるとちょっと高いかもしれませんが、「本物」だと自負しております。
シニアの皆様には大事なことにはちゃんとお金を使って欲しい。そして健康寿命を伸ばして欲しい。
だからこそ、山村にいらっしゃるたった一人のお年寄りへも、本物をお届けしたいのです。我が国が高齢化社会と言われて久しいですが、高齢者の皆さんにとって「自分の足で歩く」ということが本当に大事なことだと実感しています。
私自身は現在59歳で子どももいますが、将来自分の子供に負担をかけたくはないという思いが強くあります。これは全ての親が共通して持つ心情だと思います。歩くことが困難になり寝たきりになったりすると、これに伴い身体の全ての機能が低下するリスクが上がります。「歩くこと」は健康の源ともいえます。この、日常の「歩く」という行為をサポートすることが弊社の使命だと考えております。
例えば、一度健康を損ねてしまった方にとってはリハビリテーションはとても大事で、そのための商品を開発しているメーカーさんも多数あります。これは大いに社会的意義のある仕事です。同様に、弊社はリハビリの手前、つまり「健康を維持し元気に生活し続ける」ための商品を開発し提供する位置づけであり、弊社なりの社会貢献でもあると考えています。
労苦を共にした仲間とともに夢を実現する
【SLS】お話を通じて、種まきしたブランドが芽を出し花が咲きつつある、そんな時期かと感じました。
【穴井】 「快歩主義」は現在年間で60万足ほど売れていますが、目標は100万足を掲げています。
【SLS】100万足とは大きな目標ですね。でも現実味もあると思います。
【穴井】この目標を達成するために、今弊社内ではキャンペーンを実施中です。キャンペーンのコンセプトは「ひとりの夢はただの夢、みんなで見る夢は実現できる」です。100万足という目標は簡単なことではないが、みんなでこの「夢」を実現しようと。そして、このキャンペーンの責任者は何を隠そう私です。そのプレッシャーたるや大きいですが、奮闘しております。
【SLS】100万足は「目標」でもあり、「夢」でもあるのですね。
【穴井】これまでも、本社、全国の営業部、そして工場にいるすべての従業員が一緒の方向へ進み、同じ夢を見てきました。なぜなら、弊社には苦しかった時代があるからです。あの頃の分を取り返すためにたくさん売りたいという気持ちがあります。快歩主義をたくさん作って売ることにより、従業員、その家族、そして販売店さんに至るまで、皆で幸せを分かち合いたいのです。ありがたいことに今はそのチャンスがあります。そのキモチの表れが胸につけているバッジです。
【SLS】社員間にある種の「絆」があるのですね。
【穴井】あると思います。会社に残った従業員たちの中に強い気持ちがあったからこそここまで来られたのだとも言えます。
【SLS】全体を通じてチャレンジすることに躊躇がない、そんな御社の姿勢がよくわかるお話でした。
【穴井】会長、社長を筆頭に経営陣も従業員も全てこのマインドです。一か八かでもいい、今までもやってきたのだから迷うことはない。現在、弊社は無借金会社です。いや、元々借金ができなかったという背景もありますが(笑)。従って、最大の株主は社員の持株会です。「だから誰にも遠慮や配慮もいらない。みんなで儲けて、みんなで分配すればいい。それだけだ。」と社長が日々言っています。これは、「残ってくれた社員に対する恩返し」という意味も含んでくれているのだと思います。
【SLS】最後まで熱く、かつ気づきも多いお話で感銘を受けました。
【穴井】熱さだけは負けません(笑)。ビジネスは最終的には人間対人間ですから。ぜひ一度、久留米の工場にもお越し下さい。工場では靴を作る体験などもできますし、まだまだご紹介したいことがたくさんあります。美味しいものもたくさんありますよ(笑)。
【SLS】ぜひお伺いしたいです!!本日は貴重なお時間を頂戴し、本当にありがとうございました。
アサヒシューズ株式会社
https://www.asahi-shoes.co.jp/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
警備業界最大手が超高齢化社会に取り組む
セコム・マイホームコンシェルジュ
SMARTプロジェクト プロジェクトリーダー 勝亦真一氏
SMARTプロジェクト セコム暮らしのパートナー久我山 主任 奥村政彦氏
コーポレート広報部 部長 井踏博明氏
コーポレート広報部 中川翔平氏
警備業界の最大手のセコム株式会社。超高齢社会に対し、様々な取り組みを行っています。
今回のインタビューでは、セコムグループの中で、医療や介護、セキュリティなどのサービス体制が充実している東京都久我山地域で生まれた「セコム・マイホームコンシェルジュ」についてお話をお伺いしました。
2018年2月取材
Q.「セコム・マイホームコンシェルジュ」の提供を開始した経緯を教えてください
弊社は警備会社として知られていますが、セキュリティだけでなくメディカルや防災など幅広く事業を展開しております。
各事業の力を活用して、超高齢社会における社会課題に対して出来ることを探るために2014年にSMARTプロジェクトを立ち上げ、まずご高齢者の困りごとを調査することにしました。
弊社でも、これまでの経験から、ある程度の知見は持っており、行政やリサーチ会社による、超高齢社会の課題調査を参考にしていましたが、実態の正確な把握が必要だと判断し、自分たちで実際に調査することにしました。
そうして、超高齢社会の課題を発掘するために、高齢者のお困りごとに対応する相談窓口「セコム暮らしのパートナー久我山」を開設いたしました。
「セコム暮らしのパートナー久我山」では、「なんでもお声掛けください」と実際に困りごとを受け付けて、ご自宅に出向き、状況確認・解決までの対応を行い、10か月で550件の困りごとのお手伝いをすることができました。
実際に困りごとを集計してみると、我々の想定と異なり、セキュリティやメディカルに関するものは、それほど多くはなく、日常のあらゆる場面で問題が発生していることがわかりました。
日常の困りごとへの対応の中で、超高齢社会の課題の源が見えてきました。
心身の衰えによって、高齢者自身で出来ないことが増える中、時代の急激な流れで世の中が複雑になり、やるべきことが増えてもどうすればいいのかわからない、誰に聞けばいいのかもわからない。
ちょっとしたことの積み重ねで暮らしの不自由さを感じ、不安を抱える方が非常に多くいらっしゃいました。
そんな日常的な不安を抱えている方々に、これからの見通しを尋ねてみると、施設への入居を検討しているけれど、本当は自宅での生活を望んでいるとの回答が得られました。簡単なお手伝いをしてくれたり、ちょっとした相談に乗ってくれたりする人さえいれば、まだまだ自宅で過ごせるような方々が大勢いらっしゃいます。
そのような経緯があり、自宅生活のお手伝いができるサービスをやってみようと、「セコム暮らしのパートナー久我山」で得た知見を活かした「セコム・マイホームコンシェルジュ」が生まれました。
Q.「セコム・マイホームコンシェルジュ」のサービス内容を教えてください
「セコム・マイホームコンシェルジュ」は、暮らしのお困りごとに対応する拠点「セコム暮らしのパートナー久我山」を中心とした地域限定のサービスです。
いつまでも住み慣れた自宅で暮らしたいと思われる高齢者の方々を対象に「いつでも」「あらゆること」に「セコム暮らしのパートナー久我山」がワンストップで対応します。
24時間365日、日常生活上の相談受付、解決方法の提案・情報提供を行います。携帯電話の使い方のレクチャーや電球交換といった軽作業を行うだけでなく、医療、介護、リフォームといった専門職への取り次ぎ・手配も対応しております。また、「セコム・ホームセキュリティ」をベースにした見守り、駆け付けサービスはもちろん、その方にあった形でのお役立ち情報の配信、定期的な暮らしの状況確認、遠方にお住まいのご家族への対応レポート配信なども行っております。
Q.取り組みの中で苦労されたことを教えてください
サービスの内容をなかなか理解してもらえないことです。
「セコム暮らしのパートナー久我山」を設立して間もない頃、1,000件程のサービスを案内させていただきましたが、まったく電話が鳴りませんでした。
我々としても想定内の状況であったため、すぐに訪問によるサービスの説明に励みました。
サービスの内容を理解してもらえなかったり、「本当になんでもやってくれるのか?」と、いわゆる「便利屋」のサービスとの違いを説明することに苦労しました。
「セコム・マイホームコンシェルジュ」は、富裕層向けのサービスだと思われてしまうことがあります。しかし、我々の考えでは、事業継続の為に相応の対価をいただく事、また対価に見合ったサービスの提供が重要だと考えています。
地域包括支援センターや介護保険をベースにした事業所では、「パソコンを教えて欲しい」、「重い荷物を運んで欲しい」といった、介護保険では対応できないことを頼まれることが多々あると聞きます。
そういった部分を我々が対応することで、役割分担も可能だと考えています。一方で、自治体側は、特定の民間企業のサービスを推しづらい立場でもあり、そこに難しさも存在します。
Q.サービス提供を通じて、シニアに対する認識の変化はございましたか
サービス提供開始前は、70代前後で要支援や要介護認定前の方がサービスの対象の中心になると想定していました。
しかし実際には、サービスご利用者の平均年齢が約82歳で、そのうち半数程度の方が介護保険を利用していらっしゃいます。
ケアプランのスケジュール外で急に必要になった時や病院への付き添い、介護保険でカバーしきれない部分といったことに我々の価値を考えていただけているのだと認識しました。
また、「セコム・マイホームコンシェルジュ」を提供するために、前提としている「セコム・ホームセキュリティ」については、防犯はもちろんですが、高齢者にとっては見守りのニーズにも応えていると感じます。
Q.シニア層の特徴として気づいたことはありますか
ご自身の困っている状況を自分からはなかなか発信しないことが大きな特徴だと思います。
もちろん活発に発信する方もいらっしゃいますが、自分からお願いしたり、何かを聞いたりすることを嫌う方も多くいらっしゃいます。
何かを頼んでも断られたり、たらい回しにされたりすると大きなストレスを感じるものですが、そうなると人に聞かない、誰にも頼らない、我慢しようと考えてしまいます。
その事に起因して、人間関係の希薄化も進み、情報を得る機会が減ってしまいます。
そのため、認知症予防体操や相談会といった高齢者向けの様々な地域の取組みや民間サービスの情報が、本当に必要な方に届かなくなるといった問題も生まれています。
そういった方々に対して、我々も微力ながらセミナーを開催したり、訪問先でイベントを薦めたりと情報提供をしております。
Q.社員教育に関して何か特別な取り組みを行っていますか
セコムグループの医療介護スタッフに研修をしてもらったり、外部セミナーに出来る限り参加することで、高齢者の生活に関わる基本的な知識や技術を身に付けています。
また、「セコム・マイホームコンシェルジュ」の会員様のケアプランに関わるサービス担当者会議に参加することもあります。会議で得た専門知識をスタッフで共有するだけでなく、ケアマネージャーさんの把握できていないところを我々が情報提供することでお互いを補うこともあります。
加えて、一般的な生活者の目線は失うことのないように気をつけています。
サービスの特性上、幅広く対応する必要性がある我々が専門家になってしまうと、客観的、かつ俯瞰的な見方を出来なくなってしまう可能性があるからです。
我々の役割はあくまで専門家とお客様をおつなぎすること、つまりハブの役割を果たすことだと考えています。
Q.現状の課題を教えてください
エリア展開が課題の一つです。
ありがたいことにエリア展開のご要望をいただいていますが、事業性や人材の確保などの課題があるので検討中です。
Q.今後のお取り組み予定を教えてください
自治体や他企業とのより密な連携を取る必要があると思っています。
地域包括支援センターでは、要介護認定を受けた方を中心にサービスを行いますが、我々はその前の段階で関わりをもつことが必要だと考えています。地域の一つのチャネルとして、高齢者に対して有益な情報を提供したり、他企業のサービスをコーディネートすることで、健康的な生活につなげることが出来れば、介護保険のお世話になることが先延ばしとなり、社会保障費の抑制にもつながります。
また、ICTやAIを活用したサービスの本格的な運用を考えています。
現在は、トライアル的に他企業のサービスとも連携しながら、コミュニケーションロボットやスマートスピーカー等のコミュニケーションツールを使った取り組みをしており、「今日は暑いから外出は控えましょうね」「薬をちゃんと飲みましょうね」とお客様の生活維持に必要なお声掛けをさせていただいています。
現在「セコム暮らしのパートナー久我山」には9名の従業員がいますが、多くのご利用者に均質に声をかけることは、困難な状況になりつつあります。
そこでICTを使って、均一に、信頼性の高いコミュニケーションの提供が出来ないかを検討しており、会話を中心とした、有効で、タイムリーなコミュニケーションが実現できれば様々な課題の解決に役立つのではと考えています。
会話することが、高齢者にとっては外部の刺激として認知症予防になりますし、口の運動として嚥下機能低下予防にもなると考えられます。
また詐欺の電話がかかってきたときも、「その電話は詐欺かもしれないから気を付けてね」とAIを活用して呼びかけすることもできます。
このような高度なコミュニケーションを同時に、多数のお客様に行うことができる可能性があります。
また、会話だけでなく情報提供にも役立てることが出来ます。
近隣との関係が希薄になる中で、人同士の直接のコミュニケーションが少なくなってきている最近の流れからも、ICTを活用した声掛けであれば、抵抗感なく受け入れていただけるかもしれません。
ICTによってコミュニケーションの質を高めることができると考えられますし、その人に適した情報提供を、コストをかけずに行うことも可能になると考えられます。
現在、ICT活用はトライアルの段階です。
活用実績を1件でも増やし、知見を積み重ねていけば、自治体の協力が得られるようになり、効率性と体制確保のバランスを取ることで、事業性の問題も解決できるかもしれません。
将来的にはエリアを展開し、多くの方のお役に立ちたいという想いがあります。
セコム株式会社 公式ホームページ
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
グランド・ジェネレーション
(G.G)世代に向けた眼鏡店
イオンリテール株式会社ファーマシー商品部
外部出店ユニットG Glass-Upグループ マネージャー 今川 匡氏
国内メガネ市場は、2011年以降5年連続でプラス成長を続けています。誰しも加齢とともに目の衰えは避けられないもの。シニア層をグランド・ジェネレーションと位置づけるイオンリテール(株)が運営するメガネ店「 Glass-Up(グラスアップ)」について、お話をお伺いしました。
2017年10月取材
Q.御社の考えるシニアの定義とは何でしょうか?
イオングループでは「アジアシフト」「都市シフト」「シニアシフト」「デジタルシフト」という4本の経営戦略を掲げておりますが、シニア層へアプローチしていく取り組みが「シニアシフト」になります。 その中で、55歳以上のアクティブなシニア層の呼称を「グランド・ジェネレーション(G.G)」としました。
取り組みとしては、シニア向けブランドの立ち上げ、シニア向けの店舗改装、また55歳以上のお客様が入会できる「GGカード」の発行などです。 ただ最近では元気なシニアな方がとても多いので、イオングループ社内では「65歳以上のお客様」をアクティブシニアとしてマーチャンダイジング上は設定しております。
Q.シニアの捉え方、特徴とはどのようなものでしょうか?
個人消費の約半数は60歳以上だと言われています。また、日本の個人金融資産が1800兆円となり、そのうちの約6割がシニア層といった話がありますが、結局シニアがメインストリームと化していると私は思っています。 ですから、その層を狙っていくのは、至極当然のことだと思っています。
イオンは総合スーパーをやっているので、お店や地域によってはもうシニア層がメインになっている店もございますし、その中の眼鏡屋さんとしては、いわゆるシニア層はもうど真ん中ですよね。 シニアの方は、長く生きてこられたので、今まで色々な経験を経たり、感じてきたりされたというのがあって、個人の多様性がすごく出やすい、というのが、俗にいうシニアの特徴だと思います。 健康状態というのもあるでしょうが、ばらつきが大きいですね。資産形成をしてこられたり、様々なライフスタイルにチャレンジされてきたりというのもまた、シニアの特徴だと思います。
この辺りが若い人たちとの違いで、シニアの方は、すごく多様性があるので、お客様の嗜好に合わせてどういったスタイルがあっているかマッピングを行っていますが、すごくバラバラになります。
その為、多彩なバリエーションに無造作に当てはめるのではなく、ストーリー性を持って接客していかないとご満足していただけない。多様性に柔軟に答えていかないといけないのが若い人と違うところだと思います。
また、物事をよく理解されているというか「このカテゴリーの商品は銀座まで行って買わなくてもいいんじゃない?」「こういうのは近場でも買えるよね?」という判断があったり、やはり近隣であることのメリットが良くお分かりになっておられる方が多いので、比較的地域に密着したビジネスの有効性が高まると考えています。
Q.「グラスアップ」の事業内容について教えてください。
65歳の方をメインターゲットとした眼鏡店でありますので、お客様がより楽しんで満足して買い物されることを考えています。
お店の立地によって、コンセプトを少しずつ変えています。こちらの店舗は、路面店で都心に位置しているので、品揃えも接客もそれに合うようにしています。 総合スーパーの中にある店舗は、もっと簡素でフレンドリーで価格帯の低いものを扱っていたりはします「メインターゲットが65歳」というところは変わりありません。
Q.競合や類似サービスとの違いはいかがでしょうか?
「丁寧に接客すること」が当たり前ですが、とても大事だと思っています。 シニアになってくると、メガネを掛けざるを得なくなってきますが、メガネで顔の印象はすごく変わるので、お客さま個々人、ご自身の魅力をもっと引き出してあげられるようなフレームをご提案することを心掛けております。
接客をさしていただいて感じるのは、65歳を過ぎると男性の場合、見た目のデザイン以上にレンズやフレームの機能性にとくに注目される方が多いという傾向に対して、女性の場合は、見た目のデザインや、ご自身にお似合いになられるかということに対して、より一層気を使う方が大変多いと感じます。
また、初めは、メインはシニア市場だからこのような手法で運営しようとか考えていましたけど、どちらかというとそれぞれの方が「素直に欲しいものを買う」傾向があるので、その方々が望まれるご提供方法で接客するようにしています。そのほうが業績も良くなりますね。(笑)
Q.商品開発で苦労したことはどのような点でしょうか?
これは、グラスアップのオリジナルフレームなのですが「ガルウイングフレーム」といって「世界初のレンズ跳ね上げ可動方式」を採用しています。
片手で簡単に跳ね上げることができるようになっています。アクションが面白いだけではなく、従来の跳ね上げフレームと違い、レンズ面を触ることなくレンズを上下させることができます。 こちらのフレーム枠は老眼の人向けなのですが、「ブロー」と呼ばれる形状で、最近の若い人に人気の形です。いつまでもオシャレでカッコよく老眼を楽しんでもらいたいと考えて作りました。
眼鏡店がオリジナルフレームを作るのは珍しくないのですが、オリジナルの開発方針を「老眼世代が使いやすく、不満を解決すること」を中心に考えてやってるところは少ないと思います。
Q.地域に対してどのような展開を考えていますか?
冒頭にお話しした通り、グループ戦略として、「アジアシフト」「都市シフト」「シニアシフト」「デジタルシフト」の4シフトを掲げていますが、「シニアシフト」、「都市シフト」を考えると、東京近郊と大阪近郊の店を出来れば増やしたいと思っています。
しっかりとした接客で常連客を増やすためには、車で来るようなSCとは違い、どうしても商圏エリアが狭くなってしまいます。となるとビジネスとして成り立たせるためには、人口密度の高い所で展開していかないといけないと考えています。
Q.スタッフ教育・育成についてどのようなことを行っていますか?
マニュアルはたくさん作っています。それをチェックする仕組みもあって、達成基準をクリアしていくという仕組みになっています。お店によっては、未経験者を含めたパートの方もいます。機器の取り扱いなど難しいものもあるので、マニュアルには力を入れて分かり易く作っています。
社内には「メガネアドバイザー」という検定資格もありますし、初心者の方を早期育成し、実際に戦力として販売に従事できるようになる、というところが我々の強みだと思います。 マニュアルは、検査、加工だけではなく、最近はさらに接客を重視したものに改訂を進めています。特にシニア層のお客様は接客対応を大事にされる方が多いので、そこを強化しようと考えています。
イオンは、ずっとセルフサービスで育ってきた会社なので、接客が重要なのはわかっているのですが、なかなか難しい部分でもあります。競合他社から見れば普通のことかもしれませんが、しっかり先行企業様からも学び続けて行きたいと考えております。
Q.メガネ市場の今後の展開と将来像をどのように考えていらっしゃいますか?
この事業を始めた時からずっと言っていたのは、40歳以上の人は割合としてだけじゃなく、数として増えていく、という事です。老眼の人も間違いなく増えるので、老眼のメガネ需要も増えていきますよね。
また、年代によってメガネの値段は上がっていくんです。 理由は2つあって、レンズが遠近両用になって高機能なレンズじゃないとよく見えなくなるのと、フレームに関してはちょっといいメガネをしたい、という欲求が上がってきます。 例えば、65歳を超えて、絶対メガネをかけたくないと思っていた女性が、実際にメガネをかけざるをえなくなった時には「だったら、すごく美しくなるメガネがしたい」となるわけです。
そういった方が今後も増えるので、メガネのニーズはここ5年、10年は成長市場でありましたが、これからももっと伸びるのは間違いないと思います。
商品は多様化しているので、ネットでも検索できるのですが、「そういうのは好きじゃない」というシニアのお客様も多いと思います。「お店から自分に合うメガネを勧めてほしい」という方も多いので、その気持ちをしっかり読み取って、お客様に最適なご提案をすることが大事にしています。
メガネ 補聴器 レンズ交換 Glass-Up(グラスアップ)
https://www.glass-up.com/
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お客様の声から生まれた
シニアのための婚活サイト
株式会社エクシオジャパン 取締役 宮島 秀樹氏
株式会社エクシオジャパン 広報部 婚活アドバイザー 北川 志穂氏
婚活サイト動員数NO.1企業*のエクシオジャパン。人間はいくつになっても恋愛はしたいもの。お客様の声からシニアに特化した婚活サイト「シニア婚活」についてお話をお伺いしました。*東京工商リサーチ調べ
2017年3月取材
Q.“シニア婚活”の事業内容と経緯を教えてください。
50歳以上の方向けに婚活パーティーを開催しています。当初、若者向け婚活パーティーを開催していたなかで、シニア層の方々からシニア向けの婚活パーティーを開催して欲しいとの声が集まりまして、2008年より首都圏で開催したのが始まりです。初めは首都圏のみでの開催でしたが、地方の方々から各地での開催を求める声が挙がり現在では月に1、2回程度47都道府県で開催しています。
パーティーの流れは、男女約15人ずつで集まって頂き、1対1の会話を約5分間ローテーションで行います。全員の異性の方と話して頂き、カップルになっても良いかなと思う方の番号を書きマッチングすればカップル成立となります。
当社の若者向け婚活パーティーは約150のカテゴリ分けをしており、年収、年齢や趣味などで分けていますが、シニア向け婚活パーティーは、あまりカテゴライズしてしまうと母数が少なくなってしまうので特にカテゴライズはせず、男女共に参加条件として「独身、社会人(収入がある)の方」としています。
シニア婚活は、ネットからのお申し込みがほとんどですが、ネットが得意でない方には婚活のスケジュールを郵送し電話での予約にも対応しております。サイトは登録制ではないのでお申し込みは都度、ご自身で調べてご連絡をいただいています。お友達に誘われて参加する方も多く、また、ご自身のお子様の薦めで参加される方も増えています。
最近では“シニア婚活”という言葉自体が世間でもよう耳にするようになりましたが、実際に、シニア婚活を取り上げる番組も増えてきており、テレビ番組の取材を受ける件数も増えてきています。
Q.御社の考えるシニアの定義とは何でしょうか?
当社の考える定義は、シニア婚活でお申し込みができる”社会人で独身”の50歳以上の男女になりますね。メインのターゲットとして今後、獲得していきたいのは60歳〜70歳の男女です。特に年齢の制限は設けてないので80歳の方でも”社会人で独身”であればご参加頂いています。
Q. ターゲットがシニアだからこそ、工夫していることは何かありますか?
そうですね、サイトや配布物の文字のフォントは若い方より大きくしています。またパーティーの説明やアナウンスも、よりはっきり、ゆっくりと話すことを心がけております。一連の流れもシニア婚活はわかりやすくしています。
Q. シニアマーケットをどのように捉えていますか?
今後も更に発展していく可能性のあるマーケットだと考えています。まだまだシニア婚活は認知度が足りないので、どのように認知してもらい活用してもらうかが重要になると考えています。ただ、プロモーションは媒体選定など非常に難しいと感じています。
行政や福祉センターの行っている婚活サイトとの差別化をどのようにしていくかが課題です。やはり行政の行っているものは安心感がありますので…。
Q.競合他社との違いや強み差別化はいかがでしょうか?
そうですね。バスツアーやクッキングなどパーティーにバリエーションが豊富なのも差別化のひとつです。バスツアー婚活は、地域によってですが2ヶ月に1回の頻度で行っています。日帰り旅行のバスツアーに婚活の要素を組み込んでいるのですが、約半日になるので通常の婚活パーティーより長く一緒にいることが出来ます。1対1での会話もありますが昼食を一緒に取って頂いたり、例えばイチゴ狩りに一緒に参加して頂いたりと通常の婚活パーティーより仲を深めることが出来ます。
ありがたいことに婚活パーティーの中では、弊社が総動員数NO.1*の称号を頂いております。また、全国47都道府県で開催しておりますので基盤となるオペレーションが徹底されていることも強みのひとつです。全国で同じマニュアル、進行で統一しているので、「何処の会場でも安心して参加できます」というお声も実際に多く頂いております。
競合他社ではありませんが関連業界との違いも明確にしています。交流会やサークルなどでは集まった仲間の中で恋愛に発展していくかと思いますが、当社の場合は“恋をしたい”という思いを大切にしています。
人間いくつになっても“恋をしたい”と思うもの、友だち作りではなく“恋をしたい”と思う方々が集まっていることも差別化している内のひとつです。実際に参加されるお客様の中には将来を見据え、いずれ引越しの予定があるので現在住んでいるエリアとは違うエリアでパーティーに参加する方もいます。*東京工商リサーチ調べ
Q. スタッフの教育で気をつけられていることはありますか?
お客様により安心して婚活パーティーに参加して頂くために、全国で同一レベルのサービスを提供するということを徹底しております。アルバイトから社員まで、入社時にパーティー進行役のオペレーション(A4用紙で約10枚)を、一語一句間違えずに暗記するというテストがございます。何度か間違えると入社できません。こういったテストで同一のサービスを常に提供できるようにしています。
Q. どのような婚活パーティーが人気ですか?
やはり婚活バスツアーが一番人気ですね。四季を感じられるバスツアーでは会話も弾みますし、パワースポットで今後の縁結びの祈願など婚活に適したバスツアーを企画しています。お相手の方と会話をしながら目的地へ向かうので、距離感を縮めやすくカップル率も高くなっています。また、会話に困ってしまう方でも、行先があることで話題作りにそれほど困らずに会話を楽しめます。単独の参加者が8割と圧倒的に多いですが、グループで来られた場合でも固まらないよう、なるべくこちらでグループを分け、男女2名2名で散策などもしてもらっています。通常のパーティーよりもカジュアルなスタイルで参加して頂ける分、実際に「最初は戸惑いましたが、次第に楽しくなって、ツアーが終わるころには誘った友人に感謝するほど。楽しい時間を一緒に過ごしてくれた女性と、今は連絡を取り合う仲になりました。」(50代男性)というお声も頂いています。
Q. 今後の展開として、将来像をどのように考えていらっしゃいますか?
先ほども簡単お話ししましたが、シニア婚活は、まだまだ認知度が足りないなと感じています。60代~80代の方にもっと認知して頂き、現在用意しているパーティーは15対15ですが、25対25とより参加者を増やしていければと考えています。
また、バスツアーやクッキングなど婚活パーティーのバリエーションをもっと増やしていきたいと思います。
「婚活パーティーエクシオ」 ホームページ https://www.exeo-japan.co.jp/
「シニア婚活」 ホームページ http://www.senior-mariage.com/
株式会社エクシオジャパン ホームページ http://www.exeojapan.com/
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少子高齢化社会からうまれた、
より多くの人が使えることを目指した
三菱電機のユニバーサルデザイン
「らく楽アシスト」
リビング・デジタルメディア技術部 坂田理彦博士
リビング・デジタルメディア事業本部 家電映情事業部 香内由美子氏
“より多くの人が使いやすい”と感じる家電商品の開発に力を入れている三菱電機。今、全商品がユニバーサルデザインになることをめざし、会社の本部方針として取り組んでいます。大手家電メーカーとして第一線を走るだけでなく、三菱電機がどのようにして高齢者対策も含めたユニバーサルデザインを牽引する会社になったのか、何故ユニバーサルデザインに力を入れてきたのか、どのような取り組みをされているのかなど、幅広くお話を伺いしました。
2017年2月取材
Q. ユニバーサルデザインをどう定義していますか
当社ではユニバーサルデザインを“らく楽アシスト”と呼んでいます。「らく楽アシスト」では、子どもから高齢者、また身体の不自由な人までできるだけ多くの人があん心して、らくに、楽しく使えるデザインを通じて「暮らしのクオリティ向上」を目指しています。また現在、「あしたを、暮らしやすく。SMART QUALITY」をブランド戦略に掲げ、少子高齢化など社会全体の課題と向き合いながら、できるだけ多くの方が使えることを基本にして製品を作っています。
“らく楽アシスト”の視点は大きく分けて3つあります。
1点目は「Easy to Use=らくに使える」。これは一般的にいわれるユニバーサルデザイン、身体への負担を減らし使いやすさをアシストします。
2点目は「Safe to Use=あん心して使える」。三菱電機の安全基準は非常に高く、通常の法規制よりも当社の安全基準のほうが厳しい場合が多々あります。
これら「Easy to Use」、「Safe to Use」の二つの視点はマイナスをゼロにする取り組みですが、3点目はゼロをプラスにする取り組み「Fun to Use=楽しく使える」です。これは、製品を使うことで、使うことの楽しさをアシスト、使う時の心地よさをアシスト、また使う人のレベルアップをアシストする視点です。先程の「Easy to Use」、「Safe to Use」は従来から着々と実施している取組みであり、ある程度満足している製品が多いため、今後はこの「Fun to Use=楽しく使える」の視点をできるだけ多く盛込みたいと思っています。
「Fun to Use=楽しく使える」の中でも最も必要性を感じている視点は“使う人のレベルアップをアシスト”です。人と製品の理想的な関係は、使い込んでいくうちに、人も製品も学習し、賢くなったり、レベルアップすることだと考えています。
例えば、料理は段取りを必要とするパラレル作業で、高度な認知活動と捉える事ができます。つまり、複数の献立を朝食や夕食の時間までに同時に仕上げる必要があります。作業工程や効率を考える事で頭を使い認知能力の維持に役立ちますし、キッチンを動き回る事で身体能力の維持にも役立ちます。
安全でかんたんに使いこなせる調理製品であれば、高齢者でも料理をし続けることを促すことが出来ますし、料理が不得意な若い主婦でも、かんたんに料理が出来れば、いつもと同じシンプルな料理からちょっと手の込んだ料理へトライしようという意欲を促すことができ、自然にレシピのレパートリーが増え、調理上手になるかもしれません。
当社のIHクッキングヒーター,レンジグリル,ジャー炊飯器,冷蔵庫等のキッチン製品は、安全性はもちろん、操作が簡単で誰でも迷わず料理を行うことが出来、ユーザー自身の料理の腕もレベルアップすることを目指しています。
Q. 「らく楽アシスト」導入の歴史をお伺いしても良いでしょうか
世界的には1970年代に“バリアフリー”、80年代にかけては誰でも使える“ユニバーサルデザイン”が提唱されてきました。当社でも研究所や個々の製品開発の中では同様の時期から取り組んできましたが、本部方針として組織的なユニバーサルデザイン活動を開始したのは2005年にブランド戦略「ユニ&エコ」を立ち上げたときからです。
当初は超高齢化社会に対応するため、高齢者配慮に重点を置いていましたが、2008年にブランド戦略を「ユニ&エコチェンジ!」に変更したタイミングで少子高齢化の視点から、対象を「子どもから高齢者の方々」に広げました。2010年からは三菱ユニバーサルデザインの名称を「らく楽アシスト」として活動を強化しています。
Q. 社内での教育やスタッフ育成で取り組まれていることはありますか
社内では、年に数回、基礎講座(e-ラーニング)が開催されユニバーサルデザインの基本事項やデザインのコツを共有し、製品の使いやすさの向上を目指しています。
そのほか高齢者や車いすの疑似体験、ユーザー評価の実践講座などもあり、三菱電機グループ全社員を対象にしています。実際に私(坂田)が講師として登壇していたこともあります。
また、社外の大学や専門学校から特別講師としてお招き頂き、ユニバーサルデザイン及び三菱ユニバーサルデザイン「らく楽アシスト」の取り組みなどを講義することで、将来の日本のデザイナーを育成するお手伝いにも努めています。
Q. ユニバーサルデザインで考えるシニアの定義は何ですか
一般的にシニア(高齢者)は65歳以上と言われますが、らく楽アシストでは”60歳の方が定年退職をして10年後にも使える商品を提供しよう”ということを目指しています。その為、ユニバーサルデザインの社内ガイドラインの基準値は70歳以上に設定しています。
Q. シニアに対する取り組みは何かされていますか
そうですね。1人、2人世帯が増え、高齢者の人口が増えていることから、そういった方々を対象にした商品の情報を改めて発信する必要があると考え、当社の生活お役立ちサイト「Club Mitsubishi Electric」上で“三菱大人家電”を立ち上げました。ターゲットとしては高齢者の方を含む大人世代(予備軍も含めた50歳以上の方)で考えています。
三菱大人家電は、大人世代の方々が家電量販店で自身に合う商品を見つけ出すことは難しいのではないか、よりスムーズに商品を訴求できるキッカケはないのかと考え2015年8月から発信を始めました。サイト内では、三菱電機の家電の中から厳選した10製品を掲載し、よくある高齢の方からのお悩み相談を紹介しています。
実際に当社のお客さま相談センターにも高齢の方からの声が増えています。一例ですが「夫婦2人。現在1合~1.5合でお米を炊いているがおいしく炊けない。三菱のものでおいしく炊けるものを教えてください。(80代男性)」 「コンロをガスからIHに買い換えたいがどの製品を選んだら良いかわからないので教えてください。(70代女性)」等、実際にこのような相談が入ってきています。
“これからの暮らしにちょうどいい大きさ。カンタンに操作できて、使い勝手に優れたもの。そして、上質な暮らしにふさわしい暮らしを快適にしてくれる機能が充実したもの。”をモットーに長年家電を見てきた方々に対し三菱の家電を使うことで暮らしを豊かにしてもらいたいと思っております。そのような思いから三菱大人家電を提案しています。
Q. 今後「らく楽アシスト」をどう展開していきたいと考えていますか
日本の少子高齢化は深刻であり、世界は日本の対応を見ていると思います。少子高齢化のソリューションを提供するのは日本の使命であり、電機メーカーの中では当社がリーディングカンパニーとして引っ張っていくべきと思っています。そのために今後もできるだけ多くの人に使いやすく、やさしい商品の開発を愚直に継続、強化していくつもりです。
商品力、市場における認知力ともにまだまだですが、近い将来、電気屋さんでお客様から「どの商品が使いやすいですか?」と聞かれたときに、店員さんがすぐに「三菱電機」を想起していただくよう、今後も活動を続けるつもりです。
そして、少子高齢化対応において三菱電機が世界のリーディングカンパニーになることを目指します。
三菱電機株式会社
http://www.mitsubishielectric.co.jp/
SMART QUALITY(スマートクオリティ)CONCEPT(らく楽アシスト)
http://www.mitsubishielectric.co.jp/sq/assist/rakuraku/
生活お役立ちサイト「Club Mitsubishi Electric」
http://www.mitsubishielectric.co.jp/club-me/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
乳幼児用紙おむつの研究開発から生まれた
高齢者向け歩行解析装置
開発研究第2セクター パーソナルヘルスケア研究所
仁木佳文氏 須藤元喜氏
乳幼児から高齢者まで膨大な歩行データを収集し、研究を重ねてきたパーソナルヘルスケア研究所。今回は、わずかな距離を歩行するだけで個人の歩行の特徴が測定出来る装置「ヘルスウォーク」と、高齢者の歩行を支援する「ホコタッチ」、そして高齢者が積極的に外出するきっかけとなっている「ホコタッチスポット」についてお話をお伺い致しました。
2016年10月取材
Q. シニア向け歩行解析装置を開発した経緯について教えて下さい
当社は乳幼児用紙おむつの開発を通して、数多くの乳幼児の歩行パターンを研究してきましたが、その歩行解析のノウハウを高齢者にも当てはめる事が出来ないだろうか、また、高齢者の歩行を支援する方向にも使えないだろうかと考え、歩行パターンが解析できるシステムを開発する事になりました。
しかしながら、歩行の特徴は様々で、平均値などのデータをまとめていくことは決して容易ではありません。その為、まずはより多くの歩行データを収集する為、乳幼児から高齢者まで一万人以上の歩行データを収集し、それらの分析を進めていくことにしました。
分析を進めていく中で、高齢者の歩行を細かく解析していくと、健康維持の為には、歩数や歩行時間(量)だけではなく、歩行速度や歩き方(質)も重要であるという事が、だんだんとわかってきました。
また、歩行パターンの解析データは、ただ数値化したものではなく、高齢者がわかりやすいように「可視化」できるように開発を進め、高齢者の歩行の量と質を向上させることを目的とした、わかりやすい独自の歩行支援プログラムが開発され、「ヘルスウォーク」が誕生したのです。
このヘルスウォークは、各地の商業施設や高齢者施設などで実施している測定会でご利用頂く事が出来ますので、まずは多くの方に興味を持っていただき、歩行に対して関心をもってもらえたらと思っています。また、普段の高齢者の生活の中でも、手軽に歩行を計測出来るようにしたいと考えていましたので、コンパクトサイズの「ホコタッチ」という健康サービスも開始致しました。
ホコタッチは、独自の分析手法から日常生活における歩数、歩行速度、そして生活に応じた「歩行生活年齢」などの指標を提示してくれる特徴がありますが、これらの結果は「ホコタッチスポット(データの読み取り場所)」で、専用シートを印刷して結果を確認する事が出来るのです。また、装着して普段歩いていると歩行計内にどんどんデータが蓄積されていくのですが、ホコタッチスポットでの最終通信時から30日以上経過すると画面にTOUCHと表示され、歩数が非表示となりますので、ホコタッチスポットに行くタイミングをお知らせしてくれます。
一見、不便に思われるかもしれませんが、わざわざホコタッチスポットに出向かなければならない機能やWEBやスマホを使わないようにしているのは、実は当初から考えていた事です。このような設定により、高齢者が外出するきっかけとなりますし、皆さんがホコタッチスポットに集まることにより高齢者同士のコミュニケーションがうまれるのです。
ちなみに、ホコタッチスポットは、パソコンとプリンタが設置可能な屋内であればどんな場所でも大丈夫です。ホコタッチユーザーは、ホコタッチを専用リーダーにかざすだけで簡単に結果シートが出力できますので、高齢者にも大変使いやすくなっています。
Q. 研究開発の際、特にご苦労された点について教えて下さい
乳幼児の歩行は「成長」に向かっている段階なので、比較的データを解析しやすいのですが、高齢者の歩行は、今までの生活や体の老化などが原因となり、バリエーションがより増えてしまう為、解析するのが非常に困難でした。また、データを取得する段階でも、高齢者が転倒しないか、怪我をしないかなど、お一人お一人をケアしながら、十分に注意をして作業を進めていく必要がありました。
更に、取得したデータをどのような特徴としてフィードバックするか、指標に対して高齢者にどのように説明すればわかりやすいのか、なども苦労した点です。
例えば、膝に痛みがある高齢者は多いのですが、それが普段の歩行とどのように関係しているのか、今後はどのようにすれば良いのかなど、出てきた数字を元に説明し、アドバイスをする事は決して簡単な事ではありませんでした。しかし、歩行データにはどのような意味があるのかなどの価値観を伝えて理解してもらう事が大切ですので、出来る限りお一人お一人丁寧に対応致しました。
Q. 導入実績などを教えて下さい
愛知県高浜市で行われている取り組みをご紹介したいと思います。高浜市は人口が約47,000人で、2013年度から「健康自生地」という仕組みをスタートさせています。何歳になっても自分らしく生きがいをもって、可能な限り介護を必要としない暮らしを続けてもらうために、家に閉じこもらずに自ら出かけたくなる場所、仲間と触れ合える居場所を「健康自生地」と設定して、このような場所を市内に増やす取り組みを積極的に行っているのです。
健康自生地は、商店や飲食店、公共施設など高齢者同士のコミュニケーションが取れる場所にしていますが、そこではポイントがもらえるアクティビティを実施したり、賞品が当たる抽選会など楽しいイベントを開催したりしています。
現在、日本国内では多くの自治体が高齢化の問題と直面していますが、高浜市では積極的にその問題に取り組んでいるのです。
そして、この高浜市で2015年9月から国立研究開発法人国立長寿医療研究センター島田裕之予防老年学研究部長と花王と高浜市の協働プロジェクトを開催し、採血検査や体組成、筋力に加えて、認知機能の測定及び歩行機能の計測を行っています。
特に、歩行機能に関しては、ヘルスウォークを使って計測、解析を行っており、高齢者が積極的に外出して歩くことをサポートする仕組みを提供しています。
また、健康自生地にはホコタッチスポットを設置して、歩行計を持っている高齢者が、より積極的に健康自生地に出かけられるようにしました。その為、高齢者の外出機会が増えて、多くの方が意識的に歩くようになり、また飲食店などの健康自生地には高齢者の来店客が増え、町全体が活性化しています。
このように、ホコタッチは歩行の質を高めるだけでなく、高齢者の社会参加を後押しして、心身両面から認知症や介護の予防に役立たっており、更には町の活性化にも寄与させて頂けることは大変喜ばしく思っています。今後もこのような場所を全国各地に広げていきたいと考えています。
Q. ご利用者の反応はいかがでしょうか
高浜市などの自治体以外にも、ヘルスウォークによる歩行測定会は全国各地で行っていますが、毎回とても好評です。測定結果で歩行年齢などが表示されますので、「若くなるにはどうすれば良いの?」「もっと健康になりたい」などという前向きなご質問も多くあります。
また、測定会は不定期で開催しているのですが、測定後に参加者の方から「次はどこで開催するのですか?」などと興味をもってもらうことも多々あります。
ホコタッチのご利用者も、ホコタッチスポットでは人とのつながりが自然とうまれますし、歩行という楽しみが増えて、ホコタッチが共通の話題になっている事も多いようです。また、普通の活動計だとそのまま継続して使えると思いますが、ホコタッチの場合、定期的にホコタッチスポットに行かなければなりませんので、それが外出するきっかけとなり、ご利用者からも「ホコタッチスポットでの対話が嬉しい」、「積極的に歩く事が増えた」などという反応もあります。また、ニックネームで順位が表示されますので、楽しみながら健康にも興味をもってもらい頑張っている高齢者が多くいらっしゃいます。
ホコタッチの結果シートでは、歩行速度や歩数などの活動結果がわかりやすく数値で表示され、更に総合的にそれらを4段階で評価します。その他、活動カレンダーや活動タイプが印字されますので、日常歩行の振り返りができます。ご利用者からも「ホコタッチシートがわかりやすい」、「自分にあった歩数や速度がわかった」などの声もあり、高く評価して頂いています。
Q. 今後の事業展開について教えて下さい
今後も全国各地での歩行測定会を通じて、多くの高齢者に歩行への興味をもってもらいたいと思っています。また、より多くの高齢者施設や高齢者が集まる場所に導入し、各自治体や企業にも積極的に活用してもらいたいと思っています。
更に、海外の方にもご利用頂けるような機能も今後は必要だと考えています。日本と海外では、体型だけでなく、歩く環境や歩き方なども違いますので、クリアしなければならない問題や未知な部分など課題も多くありますが、是非チャレンジしていきたいと思います。
また、歩行装置そのものをより簡便化する事も必要だと考えています。例えば、今は靴を脱ぐ必要があるのですが、靴を脱がなくても計測できるようにすることや、歩行したら瞬時に結果が出るなど、より気軽に計測できるようにしたいです。また、簡便化とは逆の発想になってしまいますが、より深いデータをフィードバックしていくことも重要だと考えています。
更には、何か楽しみながら歩行が出来るような仕組みも取り入れて、より多くの高齢者に興味をもってもらい、意識的に歩くことにより高齢者の外出機会が増え、コミュニティが更に活発になるようにサポートしていきたいです。
花王株式会社 http://www.kao.com/jp/
食と健康ナビTOP http://health-food-bev.kao.com/
歩行測定記事 http://health-food-bev.kao.com/movablebody/1016/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
50代以上の留学プログラム『大人の留学』
代表取締役副社長 加藤 ゆかり氏
創業から45年もの間、国内最大級の約20万人もの留学生に選ばれ続けている留学エージェント「留学ジャーナル」。2016年には、アジア最優秀留学エージェント(ST Star Agency Asia)に選ばれ、雑誌『留学ジャーナル』の発行を始めとして、留学に関する様々なサービスを展開していますが、今回は、シニア向けの留学プログラム『大人の留学』についてお話をお聞きしました。
2016年11月取材
Q. シニアマーケットに取り組むきっかけと貴社が考えるシニアの定義について教えて下さい
年配のお客様から「私の年齢で留学出来るプログラムはありますか?」などのお問合せは、以前からたくさん頂いておりました。どうしても、留学は「学生が行くもの」というイメージが強かったからだと思いますが、留学を「旅行の延長」くらいに考えてもらいたいと思い、どの年齢でもチャレンジできるものにしようと取り組みを始めました。また、媒体の進歩もあり、シニアにアプローチしやすくなっている事もきっかけの一つとなりました。
取り組み始めた当初は、「45歳以上」をアクティブシニアと定義していたのですが、その年齢だとまだまだ若い方が多く、シニアとは呼べないと感じました。一方、海外の語学学校では、30歳以上・40歳以上・50歳以上の限定クラスというように、年齢制限を設けているプログラムがあり、その中でも一般的にシニア向け留学プログラムとして提供されているのが「50歳以上のプログラム」です。その為、現在では50歳以上の方をシニアと定義し、パンフレットやホームページなどでご紹介していますが、実際は年齢を強く意識しているわけではなく、どの年齢でもどんどん留学にチャレンジしてもらいたいと考えています。
Q. シニア向け留学プログラム「大人の留学」の特徴を教えて下さい
シニアのお問合せは、以前からありましたが、その際は、通常の留学プログラムをご紹介していました。しかし、もっと多くの方に、そしてシニアの方でも気軽に留学するきっかけをご提供したいと考え、シニア向けの留学プログラムを「大人の留学」と名付けてリリースしました。ホームページやパンフレットなども、デザインを落ち着いたテイストにし、更に「大人」と表現することにより、留学を身近に感じて頂きやすくなったようで、お問合せ件数も大変増えています。
中でも、海外の語学学校に通いながら、現地の一般家庭にホームステイするプログラムは、若い方と同様にシニアにも人気があります。また、留学先では「イギリス」が人気です。文化を学びたいとか、若い頃に憧れた風景や音楽を肌で感じたいとか、交通の便など動きやすさのご希望条件を考えますと、こちらからもイギリスをおすすめする事が多くなります。また、最近では「マルタ島」もとても人気があります。メディアでも度々紹介されていますし、地中海のリゾート暮らしに憧れる方も多いようです。
今の50代、60代のみなさんが学生の頃は、英語の授業が普通にあったと思います。学生時代にどの位英語を勉強してきたかにもよるのですが、最終学歴が大卒というシニアも多いので、基本的な英語を勉強してきた方であれば、3ヶ月も海外で生活をしたら、それほど生活に困らなくなると思います。是非多くの方に「大人の留学」にチャレンジしてもらいたいと願っています。
Q. シニアの対応で気を付けている部分などはございますか
年齢に関わらず、「常にお客様目線にたって考え、対応する」という事を一番大切にしています。留学は、決して安い金額のものではありませんので、期待もそれなりに高くなります。その期待にしっかりと応えられるように、お客様の目線で物事を考え行動しています。ただ、シニアの方から見ると、自分の子供や孫のようなスタッフが関わる場合もあるわけですから、丁寧な言葉づかいや接遇などができるように、営業スタッフのみならず、他の全スタッフにも研修を行っています。
また、旅行の場合は、滞在するホテルがオーシャンビューだとか、交通の便が良いとか、選んだ条件がその方の希望通りであるかどうかは明確です。しかし、ホームステイとなると、人と人の相性もあり、Aさんが良いと評価したホームステイ先をBさんが悪く評価するなど望む条件に完璧に沿うかどうかは難しい部分があります。ホテルのように、部屋を変えればいいという単純なものではありません。また、ホームステイもお金を支払って泊めていただいているとはいえ、見知らぬ外国人を滞在させてくれていることに感謝の気持ちを持つことも大切です。
異文化の中で、思い通りにならないことも経験していただくのが「留学」ですから、留学プログラムの内容に関しては、誤解の無いようご理解いただけるように丁寧に説明をしています。その為、シニアのお客様への対応は、ある程度経験を積んだ留学カウンセラーが担当するようにしています。
Q. シニアマーケットをどのように捉えていますか
留学は、一生のキャリアの中の一過程であり、一生の中でいつ行っても良いと考えてiいます。自分の人生を豊かにする、子供の頃のあこがれや夢を実現するということがシニア留学の目的にはあると私たちは思っています。実際に、留学したシニアのお客様は、ビジネスで必要というよりも、自分の学生時代には資金的制約があり行けなかった、もしくは、行けないと思い込んでいた方々が多いです。大人になって今度は、仕事や家庭が忙しくなって時間がなくなった。そうした方々がシニア世代になり、時間とお金に余裕が出てきた今、「自分でも留学に行けるんだ」と興味をもつようになったり、海外に住んでみたいと考えたりするなど、潜在的なマーケットはかなり大きいと思っています。
Q. 競合や類似サービスとの違いはございますか
お客様が考えている「自分の海外体験像」のイメージに近いものを、いかに現実として提供できるかが重要ですので、その為に必要な情報量、リサーチ力、海外ネットワークなどを持っているのが他社との違いかと思います。そのあたりは、提案力が勝負だと思っていますし、その点にも自信があります。
また、雑誌『留学ジャーナル』は雑誌として存在するので、商品ラインナップのパンフレットとは異なり、よりリアルな部分をお伝えすることができていると思います。また、雑誌として書店に並んでいるので、英語の勉強をしたいと思って書店に行った時や図書館で『留学ジャーナル』を手に取ってもらえれば、シニア世代を含めた留学生の体験談なども載っていますから、留学に興味をもって頂きやすいと思います。その為、媒体を持っているということが一番の強みだと思っております。
Q. 今後の展開をどのように考えていますか
当社の親会社は、英会話のイーオンですが、趣味で英会話を習っているようなシニアの方々に、一つの経験として海外留学にもチャレンジして頂けたら嬉しいです。外国の方と日常的にお話しをしたり、外国で様々な体験をしたりして、綺麗な英語だけではなく多様な文化なども学んで頂きたいと思っています。
また、シニアの方々が「留学を経験して良かった」と思って頂ければ、その子供や孫世代にも留学の魅力が伝わっていくと思います。早い時期に留学という選択肢がある事を分かっていたり、その成果が分かっていたりすると、もっと若い時代に行けたらより豊かな人生につながったのではないか、と感じると思います。
シニアの方が、留学に行って終わりではなくて、留学の魅力を次の世代に伝えてくれるように、プログラムやサービスの質を更に向上していきたいと思います。
株式会社 留学ジャーナルホームページ
http://www.ryugaku.co.jp/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
0歳から一生涯の健康づくりに貢献する
執行役員 介護予防事業部長 相川正男氏
介護予防事業部シニアマネージャー 大東俊彦氏
経営企画室マネージャー 平山智志氏
スポーツ健康産業のパイオニアである「セントラルスポーツ株式会社」。1969年に「世界に通用する選手を育てる」という目標を掲げて開校された水泳教室と体操教室に端を発する「スクール事業」からその歴史はスタートしました。その後も「フィットネス事業」、「レジャー関連事業」と様々な事業を展開してきましたが、今回はスポーツクラブのパイオニアだからできる「介護予防サポート事業」に関してお話しをお聞きしました。
2016年10月取材
Q.介護予防サポート事業を始めた経緯と内容について教えて下さい
当社として「介護予防事業部」を立ち上げる以前より、民間の老人ホームから「インストラクターを派遣してくれないか」というお声はいただいており、できる限り対応していました。その後、2005 年に(地独)東京都健康長寿医療センターから「介護予防運動指導員」の育成事業に協力してもらえないかと、当社にお声がかかったことがきっかけとなり、この事業を開始する事になりました。
当時、当社のフィットネスクラブの会員様で高齢の方の割合がどんどん増えてきたことで、「高齢者の運動指導に対する知識をもっと深めたい」というスタッフが多くいたこと、また、デイサービスや高齢者施設で働いている介護福祉士やヘルパーの方々で「科学的根拠に基づく適切な運動指導のノウハウを学びたい」という方も多くいたことから、まずはこのような人達に資格を取ってもらおうと考え、「介護予防運動指導員養成講座」を開催し、介護予防スタッフのための教育や人材育成に力を入れていきました。
現在、介護予防運動指導員は全国に約3 万人になりますが、その内当社主催の養成講座卒業生は約6千人います。また、毎年全体で約2 千人が資格を取得されていますが、その内約700~800 人が当社で養成した資格取得者となります。ただ、当社では資格取得だけが目的ではなく、実際に現場で働いてもらうことを意識していますので、資格を取得したら当社にお仕事登録をしてもらい、定期的に研修を行った上で、介護予防運動指導員として活躍して頂いています。
実際に、地方自治体で実施される介護予防事業には、現地に近い登録スタッフが教室の運営を担当したり、最寄りに当社のクラブがあればそのクラブに所属する有資格者を出張させています。また、老人ホームなどで実施しているプログラムでは、食堂などに椅子を並べて、車いすの方や認知症の方も含めてみんなで運動などのアクティビティをしています。普段はほとんど反応のない認知症の方が、体をピクっと動かすこともあり、施設の方やご家族の方に大変喜ばれています。
今では、その施設も200 以上になりますが、今後は老人ホームだけでなく、デイサービスやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などにも広げていきたいと考えています。
Q.「シニア」をどのように定義されていますか
当社はフィットネスクラブに所属する会員様の年齢構成を10 歳刻みで管理しているということもあり、便宜上「60 歳以上」を「シニア」と設定しています。ただ、実際のところは年齢だけで一律に「シニア」と定義してしまうのは適切ではないと思います。高齢者の中でも体力がある方や無い方、また虚弱な方など体力面でも個人差がありますし、運動するにあたっての目的も様々です。あくまでもその方々の「ニーズ」にあったプログラムをご提供することを大切にしています。
近年、フィットネスクラブの会員様の年齢構成を見ると、最近では50 歳以上、60 歳以上の方の割合が増えてきています。こうした状況下、「60歳以上」と一律にくくるのではなく、アクティブな方には若い方と同じようなプログラムを、体力に自信がない方には、無理のないソフトなプログラムをご用意するなど、ひとりひとりのニーズにお応えできるサービスをご提供しなければならないと考えています。
高齢者の体力をピラミッドで分けますと、スポーツクラブに通う程元気で健康意識が高い「体力エリート高齢者」が一番上にくるのですが、全体的な割合ではごく一部で、その下の、元気ではあるけれど体力低下が懸念される「一次予防」の方の割合がかなり多いのが現状です。またその下には、介護予備軍となる「二次予防」に該当する虚弱な高齢者、更に支援や介護が必要な「介護認定者」と区分されますが、介護予防事業部としては、地域支援事業などを通じて介護予備軍を元気にしていくこと、ボトムアップしていくことが重要だと考え取り組んでいます。
Q.シニアマーケットをどのように捉えていますか。また、シニアに対する貴社としての今後のお取り組み予定があれば教えて下さい
高齢者全体の約80%は元気な方々なのですが、その内の3~5%程度しかスポーツクラブなどの運動施設に通っていないのが現状です。その為、潜在的には高齢者のマーケットはまだまだ拡大の余地があると考えています。最近は、ヨガスタジオや小規模ジムなど、比較的小規模な専門型クラブが増えていますが、当社はフィットネスクラブとしての役割だけではなく、高齢者の方々の社交場の一つとして、総合型クラブならではの特徴を強みとしていきたいと考えています。つまり、ただ運動の場を提供するのではなく、メンバー間で仲間づくりをしてもらい「クラブライフ」を楽しんでもらいたいのです。
例えば、スポーツ以外でも英会話教室、パソコン教室など楽しいアクティビティを通じて高齢者の方に集まってもらえる場を積極的に提供しているクラブもあります。運動による「身体の健康」はもちろんのこと、「心の健康」にも貢献できる場を創造していきたいと考えています。
また、当社は旅行業の資格ももっているのですが、同じクラブに通う仲間と行く日帰りのウォーキングツアーなどは大変人気があります。気軽に参加できて、楽しみながらしっかり体も動かせるので、高齢者の方でも楽しんで頂けるツアーの一つです。
また、毎年12月に開催される「ホノルルマラソンツアー」は27 年間も継続している恒例行事となっており、毎年約800 人の参加があるビックイベントです。フルマラソンというとハードルが高そうなイメージがありますが、実はシニアの方の参加も非常に多いのが特徴です。「一生に一度はフルマラソンを走ってみたい」という想いを持っている方は少なくありません。私たちは、そうした方々の想いを後押しし、感動のゴールへと導くトレーニングをサポートしていきます。ここでもやはり、参加者の皆さんが同じ目標を共有する「仲間」と出会い、一緒にゴールを目指していくことで、時にはつらいトレーニングも乗り越えられるのです。
フルマラソン完走という大きな目標を達成し、仲間と感動を共有しているシニアの方々の姿は、私たちが目指す「0歳から一生涯の健康づくりに貢献する」という企業理念を具現化したものだと思います。
その他、水泳は当社の得意分野ですが、「マスターズ水泳大会」を全国各地で開催しており、こちらも1000人以上の方が参加するビックイベントで毎回盛り上がっています。運動は、そのもの自体、スキルの向上や体力アップなどの達成感がありますが、それに加えて仲間が増えたり、仲間と楽しんだり、モチベーションを維持する為にも定期的なイベント開催はとても大事だと考えています。
Q.地域に根ざした介護予防事業の今後の展開について
体力測定など気軽に参加できるイベントを通じて、まずは運動や健康に興味をもってもらうことが重要だと考えています。また、効果測定をして数値化する、つまり「見える化」することが大切だと思っています。トレーニングは基本的には単調で面白味にかけるものととらえられがちです。その為、様々なデータを元に参加者をサポートし、参加者にあったプログラムをスクリーニングして提供し、運動を継続してもらうことが重要です。
当社はさいたま新都心にデイサービスも運営していますが、ご利用者の多くの方はインターネットなど最近のものにも興味があり意欲も高い方が多いです。例えば、スマホやタブレットを使っての認知機能向上プログラムも大変好評です。さらに、地域に密着した様々なイベントを企画、開催し、高齢者に興味を持ってもらい、より多くの方に健康に対する興味をもってもらえるように努力していきたいと考えています。
また、できれば介護予防事業の参加者が、その後当社クラブにも足を運んでもらえれば、同じような高齢者の方がたくさんいますから、「自分にも出来るかな」という気持ちになってもらい、運動を継続してもらえたら嬉しいです。
Q.プログラム開発で苦労したことや、他社サービスとの違いなどがあれば教えて下さい
当社は1982年に民間で初めてスポーツ科学の研究所をつくり、科学的トレーニングをはじめ、長期にわたってデータ取りや測定などを行ってきました。自社で開発した運動プログラムの効果測定も研究所で検証をおこなっており、安全で効率的で楽しく実施できるプログラムを提供するように努力しています。
また、会員やインストラクターとのコミュニケーションの取りやすさも当社の特徴です。フィットネスクラブに入会する際は、ほとんどの方が個人でお申込みされますが、その後グループエクササイズなどに参加し、会員やインストラクターとのコミュニケーションを深めていく方が多いので、クラブ側が会員のコミュニケーションを取りやすくする事も大切です。参加率の高い会員は、継続してご利用頂ける可能性も高く、会員からの紹介入会も増える事につながりますので、当社ではどこよりもコミュニテイーづくりを大事にしています。
Q.高齢者施設指定管理受託事業について教えて下さい
港区の高齢者施設を複数管理しています。介護予防としては23 区内で初めての施設である港区立介護予防総合センター「ラクっちゃ」では、様々な企業と組んで高齢者向けのプログラムを行っています。
例えば、このセンターには調理施設があり、独居の男性高齢者を主な対象者とした料理教室なども大変好評です。この料理教室では、ただ調理を行うだけではなく、材料の準備なども必要がありますので、段取りを考える事により、認知症予防にもつながります。
また、スポーツクラブで行っているプログラムを高齢者向けにアレンジして提供したり、新しいプログラムを開発するために、多業種との共同研究も行っています。実際に効果が出たプログラムは、他の地域にも広げていく予定です。
セントラルスポーツ株式会社ホームページ
http://www.central.co.jp/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
IoTを活用したシニアの
ライフスタイル向上のための
新たな補聴器サービス
株式会社nessaJapan (ネッサ ジャパン)
シンガポールに本社を置くnessaの⽇本法⼈として本年5⽉にスタートした株式会社 nessa Japan。最新のテクノロジーによって、新しい「きこえの体験」を提供するサービスを2016年8⽉より⽇本国内にて初めてスタート。2016年7月15日開催のプレスカンファレンスで発表されたサービス概要についてご紹介いたします。
2016年7月 取材
nessa Japanについて
nessaは2015年10月にシンガポールで設立した補聴器のグローバルカンパニーです。単なる補聴器販売会社としてではなく、ネットワーク端末を介したコンシェルジュサービスと、「きこえ」のライフスタイルを豊かにする付加価値をパッケージ化して提供しています。
現在、シンガポールをビジネス拠点として、2016年5月から日本法人としてスタートすることになりました。
また、今後はマレーシアでも展開する予定です。
日本総人口の約11%、約1,400万人が聴覚困難であると言われています。しかしながら、補聴器を使用しているのはそのうちの約13%にとどまっており、多くの高齢者の方々が不自由な生活を強いられています。この現状こそが、我々が日本マーケットに進出する大きな理由です。
高齢者の生活を良くすることの一つ、「きこえ」に対するサポートをすることが、我々の使命であると考え、IoTの技術を用いて、遠隔操作を基盤にしたオンラインサポートをコアコンピタンスとして、今後1年間で約12億を投資し、12月までにシェア1%を目指して参ります。
日本における難聴者と補聴器難の現状
高齢者の方々は、耳が聞えないことで社会とのつながりが希薄になるという現状があります。
日本で300人の方に「聴力が衰えることで起こったことを教えてください。」と聞いたところ、51%の人が「声が聞こえにくいことで、人と話しづらく感じた」と答えています。また、28%の方が「職場での会話が聞き取れず、話についていけなくなった」、「テレビやラジオなどの音量を注意された」と答えています。このことから、聴力低下により、様々な不安を抱えている人が多くいることが分かります。
また、アメリカの老人病学会によると、コミュニケーションができる人とできない人とでは、社会的な関わりに大きな差があり、コミュニケーションが少ないと不安定になり、社会的な関わりが少なくなるそうです。更に、補聴器を使用して聴覚が回復すると、認知低下を防げるとも言われています。
nessaのIoT技術を活用したサービスの特長
単なる補聴器販売会社ではないということをお話しましたが、我々のサービスの特徴は大きく3つあります。
1つめは、高性能な補聴器を提供しているということです。我々が提供している補聴器は、Apple社と共同開発しており、ワイヤレス通信が可能なスマート補聴器として、iPhoneやiPad等のiOSや、テレビ等の機器との連動が可能です。また、デンマーク製で、世界各国での販売・利用実績があります。世界トップクラスの小サイズで、デザイン性も高く、着け心地も非常に良く設計されています。
2つめの特徴として、無制限でオンラインサポートをご提供しています。コールセンターにきこえの専門スタッフを配備していますので、高齢者に対しても親切なオンラインサポートを無制限でご利用いただけます。更に、遠隔操作によってお客様は、家にいながらにして補聴器の調整設定を受けることが可能です。
我々のサービスにお申込みいただくと、世界初の「ホームリモートボックス」をご自宅にお届けいたします。このボックスの中には、4G/LTEのSIMカードが内蔵されていますので、補聴器とネットワーク接続することで遠隔操作を行うことが可能です。この遠隔操作によってフィッティングから、随時調整を行います。つまり、このボックスがご自宅と我々のコールセンターをつなぐ基地になるということです。
もう1つはライフスタイルの付加価値のご提供です。我々は店舗販売ではなく、無店舗販売を基本としているため、エコシステムという考え方のもと、そこでうまれる利潤はできる限りお客様にフィードバックさせていただきたいと考えています。具体的には、補聴器と共にパッケージされた3つのコースからお客様にお選びいただけます。
1. iPadコンシェルジュ
iPadmini4を補聴器と一緒にお届けします。お届けするボックスにはwifiが内蔵されていますので、iPadminiからLINEやskypeの他、インターネットを活用したい高齢者の方々に対してのテクニカルなサポートも行います。
2. ライフスタイルコンシェルジュ
耳が聞えるようになった方がより外での生活を楽しんでいただけるよう、ヨガや陶芸体験、ハイキング等、ソウ・エクスペリエンス株式会社と提携した体験型のギフトチケットをお届けします。
3. TVコンシェルジュ
32型テレビとTVストリーマーを合わせてお届けさせていただきます。このストリーマーは、テレビを見る時に使用できるものです。ワイヤレスでテレビから音を直接取り込み、7mの距離までクリアなステレオサウンドでテレビを楽しむことができます。
これらのサービスは、まずコールセンターにお申込みのご連絡いただき、聴覚測定を行った上で、「ホームリモートボックス」をお届けするという流れになっていますので、ご自宅にいながらにして全て完結させることができます。
サービスの販売開始は8月上旬を予定しています。
これまでになかった価格設定~月額の会費制
前述のとおり、補聴器のイメージの1位として「本体代が高い」という大きな壁がありますので、ローコスト化を目指しています。
具体的にお話すると、片耳・両耳のコースがあり、片耳では月額4,600円、両耳では月額7,900円で3年間提供いたします。3年後は新しい補聴器をご契約いただくか、月額料金を下げてまた契約していただくことになります。
また、1か月間の無料お試し期間を設けていますので、まずは製品を試していただき、ご納得いただいた上で本契約という流れになります。
はじめに初期の補償金として2万円頂戴しますが(本契約いただいた場合は販売価格に含まれます)、仮に無料期間中ご納得いただけなかった場合は、全額返金させていただきますので、どなたでも気軽にお試しいただけるかと思います。
「ヒアリング・エッグ」を活用した新しい販売方法
基本的にはオンラインにて販売を予定していますが、高齢者がインターネット上の広告やリスティング広告からサイトへアクセスして購入するのは、慣れていないと思いますので、商業施設をはじめとした様々な場所に、我々が新たに開発した、世界初のリモート聴覚測定カプセルチェア「ヒアリング・エッグ」を設置するキャラバンを予定しています。
日本においては、耳が聞こえにくく感じた際、まず耳鼻咽喉科で医師の診断を仰ぐ必要がありますが、特に介護施設などにおいては簡単に耳鼻咽喉科に行くことができない人も多くいらっしゃいますので、高齢者が多くいらっしゃるデイケアセンターへの設置導入も検討しています。
この「ヒアリング・エッグ」を活用し、より多くの方に気軽に聴覚検査をしていただき、ご自身の「きこえ」に対する気づきを創出、解決できればと考えています。
この「ヒアリング・エッグ」の中に入っていただくと防音の状態になります。中の方には ヘッドフォンをしていただき、装置の外からiPadを通じて検査音を発信します。聞える音に対してiPadで操作していただくと同時に、ビデオ通話を通じて、専門スタッフから聴力測定の結果や説明を聞くことができます。
この「ヒアリング・エッグ」を使って、まずはご自身の「きこえ」の現状を知っていただき、補聴器を身近な存在として捉えていただきたいと思います。そして、最終的には我々の補聴器を使用することで「周りの音が聞こえるとこんなにも楽しい!」と多くの方に実感してもらい、高齢者のコミュニケーション活発化の一助になれれば嬉しいです。
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
ユニバーサルデザインと
シニアマーケットのニーズ
プレゼンテーション推進部 安達氏 販売統括本部 市川氏 広報部 浅妻氏
ユニットバスやウォシュレットを先進的に日本に導入してきたTOTO。 バリアフリーやユニバーサルデザインについての意識が高く、様々な製品に垣間見えます。 100年近く続くTOTOの歴史の中で、どのようにしてユニバーサルデザインへ取り組むようになったかなど様々なお話をお聞きしました。
2016年4月 取材
Q.ユニバーサルデザインに取り組み始めたきっかけは何ですか。
TOTOは約100年前からトイレの便器を製造しております。その長い歴史の中で様々な使用者のニーズを研究し開発に活かしてきました。
携帯電話や文具のように、ひとりひとりが個人で使用するものではなく、子供からお年寄りまでが同じトイレやお風呂を使用するケースがほとんどです。だからこそ一人でも多くの人が使いやすさを感じ、快適に使用できるユニバーサルデザインの開発に取り組んでいます。
まず初めにきっかけのひとつとなったのは、1964年東京オリンピック・パラリンピック開催の時でした。
特にパラリンピックが開催されることで、世界各国から身体に様々なハンデを抱えている方が集まり、バリアフリートイレの問い合わせが増えました。
当時はユニバーサルデザインという言葉は無く、バリアフリーへの取り組みではありますが後にユニバーサルデザインとなる初めの一歩でした。
Q2.どのようにしてバリアフリーへの取り組みからユニバーサルデザインという考えに変化していったのですか。
パラリンピックをきっかけにバリアフリーへの取り組みが加速化し、使いやすい空間の設計図などを掲載したバリアフリーブックを1978年に発刊しました。このころ、日本の高齢化は進んでいたものの、ベビーブームということもあって高齢化はあまり深刻な問題として取り上げられることはほとんどありませんでした。
当時の日本は、新しい事業や商品の開発にも力を入れる企業が多くありました。TOTOも例外でなく、新しい製品の開発に取り組んでおりました。
その時にアメリカから輸入したのがウォッシュエアシートという、現在のウォシュレットです。
主に病院向けに医療用や福祉施設用に導入されていました。その後、TVCMによるプロモーションなどの効果もあり、1990年代ウォシュレットが世間に広まっていきました。
1990年代になり、出生率が低下し少子高齢化がささやかれるようになってきました。高齢者の割合が増え、医療費が増えていくことが懸念され、行政の対策として2000年から介護保険が始まることが決定しました。
それに伴いTOTOでは高齢者向け製品の開発を促進するシルバー研究室を発足し、2000年までの間に様々な製品や仕組みの開発を促進しました。
そこではいま高齢者の市場でどのような製品が求められ、必要とされているのかを調査し、TOTOの製品開発に活かしていました。例えばバスルームの出入り口部分に段差をなくしたのはそのころです。
当時はバスルームの出入り口に段差があることが通常でしたが、段差のない床にすることで、高齢者やお子様がつまずいて転倒することを防いだり、車いすのままでも安全に入室できるようになりました。
発売当初、段差のないフラットな床では、バスルームの外が水浸しになってしまう懸念があり、洗い場全体にグレーチングを設計していました。
しかしそれは掃除をする、介護をする立場の方に負担になってしまいます。今ではグレーチングがなくても排水出来る商品にしました。このように当時から現在に掛けて研究を重ね進化を遂げています。
先ほどのお話にもありましたが1990年代には、2000年から住宅のリフォームにも適用される介護保険が始まるとのことで、介護向け製品の開発に力を入れておりました。
どのようなニーズがあるか、どうすれば使いやすい製品になるのかを検証するため、シニアの生活実態を研究するシルバー研究室を発足しました。
そこでは実際にシニアの方の生活動作を観察し、その後、レブリス推進部(シルバーの英字「SILVER」を逆から読んで「REVLIS<レブリス>と名付けました」の一部としてシニア市場でどのような製品が求められているのか、また今後必要とされるのはどのような製品なのかを研究し企画・開発を行っていきました。
2000年代に入るとさらに少子高齢化が進み、「高齢者にやさしい生活は、みんなが楽しい生活だ」として楽&楽計画事業がスタートしました。
高齢者にもハンデがある人にも一人でも多くの人が使いやすいものをつくる、高齢者やハンデのある方向けで無く、だれにでも平等に使いやすいというユニバーサルデザインへの取り組みに変わっていきました。
その取り組みを経て2004年TOTOは会社全体でユニバーサルデザインへの取り組みを行っていくようになりました。
それに伴い90年代にシニアの生活実態などを研究していたシルバー研究室が進化し2006年に「R&Dセンター」が設立されました。
Q.TOTOの考えるシニアマーケットとユニバーサルデザインの関係とはどのようなものでしょうか。
2007年、日本は65歳以上の割合が人口の21%を超え、超少子高齢社会となった日本は2011年から2020年にかけて60万の高齢者向け住宅を建設する計画をスタートしました。その計画のころにつくられたのが、病院・高齢者施設の主にトイレや浴室の施工のプランを集約した「病院・高齢者施設水まわりブック」です。
例えば浴室であれば浴槽と壁の間に介助用のスペースを確保する設計にするプランなど、利用者だけでなくそこで働くひとにも快適な水まわりの提供を現在もし続けています。
今後の高齢者向けの展開としては、住生活基本法に基づき、65歳以上のシニアが居住する住宅のバリアフリー化率を2011年から2020年までの期間で75%まで引き上げる計画があります。
国民の住生活の安定を確保および向上の促進に関する期間計画で、この計画は5年ごとに見直されることになっており、2015年には5年先送りの計画となりました。
この計画でいうバリアフリーの基準は2か所以上の手すり配置と屋内段差解消となっているため、手すりの設置や段差解消の整備に補助金などの支援が始まると考えられます。
しかし、かつての日本と比べ、今の社会でシニアといえど60代や70代でも生活に苦悩するほど健康に支障がなく、シニア向けのツールを好まない割合が増えています。
その一方で65歳以上の人口の割合は年々増えており、加齢による生活の変化に対応するツールの需要はどんどんと増えています。
現在はニーズが無くても、将来のために設置してもデザイン性を損なわない、デザイン性を重視した手すりなども多く展開しています。
このような現代におけるシニアとのコミュニケーションでTOTOが心がけているのは、未来のために備えた、身体が不自由な方だけではなく、誰にでも使いやすい生活を提供していくことです。
現代のシニアの特徴を捉えた、シニアだけに向けたデザインではなく、誰にでも受け入れられるユニバーサルデザインという考え方はTOTOがこれからもめざしていく未来の形です。
TOTO株式会社ホームページ
http://www.toto.co.jp/index.htm
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
福祉車両ウェルキャブの
「普通のクルマ化」を目指した開発
製品企画本部 吉田氏 国内商品部 大野氏 広報部 堀野氏
世界トップクラスの自動車メーカー、トヨタ自動車(株)は福祉車両をWelcab(ウェルキャブ)と呼んでいます。Welfare(福祉)、Well(健康)、Welcome(温かく迎える)+Cabin(客室) 「すべての方に移動する自由を」のコンセプトを基に、お身体の不自由な方や高齢の方はもちろん、介護する方にとっても快適で安全なクルマをご提供できるよう、様々なウェルキャブを開発しているトヨタ自動車。今回は国際福祉機器展にて、2015年12月21日より発売予定の新開発「助手席回転チルトシート車」を中心にトヨタ自動車のウェルキャブ開発への思いをお聞きしました。
2016年3月 取材
Q.ウェルキャブ新車両「助手席回転チルトシート車」とはどのような車両ですか?
ウェルキャブには大きく分けて3つの種類があります。
車いすのまま乗り込むことができる「車いす仕様車」、お身体の不自由な方ご自身の運転をサポートする運転補助装置「フレンドマチック取付専用車」、座席への乗り降りをサポートする機能を装備した車両の3つです。
「助手席回転チルトシート車」は文字通り助手席が回転し、チルト(傾けること)により乗り降りをサポートする車両です。シートを手動で車両の外側へ回転させ、さらにチルトすることで従来のシートよりも立ち上がる際の体重移動が楽になり、足腰への負担を軽減できます。
そして介助する方が最も力を使うであろう引き起こす動作がほとんど必要なくなります。介助される方だけでなく介助する方にも優しい車両なのです。
Q.助手席回転チルトシート開発にはどのような背景があるのでしょうか?
本年12月21日より発売予定の新しいウェルキャブ「助手席回転チルトシート車」の開発は、いま日本が抱えている超高齢社会の問題へトヨタ自動車としてどのように取り組んでいくべきか考えるところから始まりました。
後期高齢者(75歳以上)の人口は、2010年に1,407万人、2025年には2,179万人と15年間で人口は1.5倍になると言われています。介護を必要とする人口が増えるのに対し、支える側の若者は減少し、2010年には1人の後期高齢者を5.4人で支えていたのが、2025年には3人で支えることになり、負担は約2倍になります。
医療費や介護費の拡大も予測され、このままでは破たんが危惧されるため国は政策の見直しの1つとして、在宅介護を中心とした制度改革を進めようとしています。
その結果、在宅介護サービスの利用者は2011年の300万人から2025年には約500万人に増え、実に総人口の4%にもなると予想されます。
こうした状況から、高齢者の在宅介護が増えることで「閉じこもり」の増加が心配されます。在宅高齢者は身体的機能の低下や活動意欲の低下、家族環境の変化などから家に閉じこもりがちになります。日常生活が非活動的になることで廃用症候群を発症、やがて寝たきりになり要介護者に進行しがちです。
高齢者本人の幸せのためにも、家族の介護負担を減らすためにも「閉じこもり」のない生活が重要です。自動車会社として、より高齢者が外出しやすい車両を提供することで高齢者の閉じこもりを少しでも減らし、いつでも気軽に出かけて欲しいという思いから、「助手席回転チルトシート車」を開発しました。
Q.助手席回転チルトシート車はどのような点で「介護負担の少ないクルマ」なのですか?
まず1つ目に、普通の駐車場スペースで使用できることです。既存の助手席への乗り降りをサポートする車両「助手席リフトアップシート車」は、例えば杖を使う高齢者が立ち上がるとき、頭が車両側面から110cmまで張り出します。
そのため車いすマークの駐車場以外では十分な幅を確保することができず、使用することができませんでした。
それに対して新開発の「助手席回転チルトシート車」は乗り降りの際に必要なスペースが、車体から最低45cmと大幅に小さくなったため、一般車両と同じ駐車スペースで使用できるようになりました。福祉車両を使用しているという感覚が薄れるのと同時に“よりたくさんの場所で人目も気にせずに使用できる”ということに繋がったのです。
そして2つ目に、雨の日にも使用しやすいことです。
上記でも述べたように車体から最低45cmのスペースのみで乗り降りできるということは、車体から出てくるシートの面積が小さくて済みます。
乗り降りをサポートする際に介助される方に傘をさしてあげると、シートも雨からカバーすることができます。そうすると人もシートも濡れずに済むのです。
シートを車内へ戻す時間も、既存の「助手席リフトアップシート車」では40秒かかったところを、新設の「助手席回転チルトシート車」では片手の操作で3秒と大幅に改善され、雨の日にも使いやすい車両が実現しました。
この2つの点により「介護負担の少ないクルマ」となりました。
Q.2014年から取り組まれている「普通のクルマ化」について教えてください
重ね重ねになりますが、高齢者の人口の割合が増え、在宅介護が進んでいるということは、福祉車両を必要とする方が増えるとも言えます。
ですが実際に介護をする年数が5年ほどというデータもある中で、介護が必要になった親のために福祉車両を購入しても、介護のために5年使用したのち、残った家族で使用するには使いづらい、短い期間だけのための購入はもったいないなどの理由で購入をあきらめる方もいます。
ですが、“親孝行をしたいその気持ちを諦めてほしくない”と私たちは考えました。
健常者のみで使用する際にも使いやすい、福祉車両と一般車両の隔たりを如何に無くした、介護される方にも介護する方にも優しいクルマの実現を試みました。
まだまだ世の中では福祉車両は特別なもの、大袈裟なものだと思われがちです。
歳を重ねてきて足腰が少し弱ったくらいで福祉車両なんて…、という声も聞いております。
そんな方にウェルキャブを福祉車両ではなく、標準車の1グレードとしての捉え方をしてもらえるようになれば、使用することがもっと身近になると思います。
私たちは“使いやすいクルマとは何か”を研究し改善することが、福祉車両の普及につながると考えています。人にとって使いやすいとは、機能性や用途だけでなく気軽さも重要なことです。
高齢者の人口の割合が増え、福祉車両の需要が増えれば、福祉車両をもっと気軽に導入できる環境が必要です。 今後もさらに「普通のクルマ化」を進めて、ウェルキャブをもっと気軽に取り入れるマーケットづくりが重要になってくると思います。
Q.福祉車両の購入を考える際に重要なことのひとつに「価格」があると思いますが、コストへの工夫はされていますか
まず新設の「助手席回転チルトシート車」は手動で動かすという点で、リモコンで自動作動する「助手席リフトアップシート車」よりもコストが低いです。
さらに今取り組んでいるのが、ベース車を製作する段階から要件を織込むことです。
例えば後方の屋根を下げることにより、デザイン性はスポーツカーのようでカッコよくなりますが、下げてしまうと車いすで乗り入れることができなくなってしまいます。
そこで、初めからデザインに制約をかけ、ベース車の製造ラインを一般車両と同じにすることで、コスト削減ができます。
その他にも、車いすスロープ車には乗り入れをしやすくするために車体後方の高さを下げる「エアサス」という機能があります。この機能を後付しやすい構造を、一般車両としてのベース車両に取り込むよう、開発を同時に進めています。
しかし、福祉車両独自の機構に関しましては、数量が増えないことにはこれ以上コストを削減することは難しくなってきています。その点で、より多くの方へウェルキャブを普及させることが課題になります。
Q.今後、シニアに向けてどのような展開をお考えですか?
車両の開発はもちろんですが、新しい動きとしましては既存車両に取り付けることができるフレンドリー用品に力を入れております。
主に一般車両に取り付けることで、乗り降りのサポートをしたり、走行中の車内でも安心して乗車いただけるようなアイテムを取り揃えております。
既存車両へ取り付けするタイプですので費用も抑えられますし、福祉車両の購入までは至らないという方にぜひ体験してみて欲しいです。高齢者の方はカーブや段差を走行する際、体重を支えきれず少しの揺れでも不安に感じる方もいます。そういった不安を解消できるのが新型シエンタから投入した「フレンドリー用品」です。
例えば「アシストグリップ」は助手席の後方に取り付けたグリップを、セカンドシートへ座った高齢者が掴み、姿勢を維持することができます。そうすることで安全で安心な乗り心地を体感していただけます。
さらに手すりの替わりにもなるので、車両への乗り降りもサポートすることができます。その他にも楽にシートベルトを装着できるアイテムや、車体の揺れから上体を抑えるためにシートにパットを取り付けるなど、現在9種類のアイテムをご用意しております。
福祉車両など新技術の開発はもちろんですが、それだけではなく、どうすればすべてのひとが「移動する自由」をもっと身近に感じ、楽しく出かけられるクルマになるかを考えることで、介護される方はもちろん、介護する方にも快適で安心なクルマをこれからも提供し、暮らしをサポートしつづけていきます。
トヨタ自動車株式会社ホームページ
http://toyota.jp/
トヨタウェルキャブ(福祉車両)ホームページ
https://toyota.jp/welcab/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
アクティブ・シニア世代の
「人生」と「暮らし」にホンモノを極める月刊誌
株式会社小学館 ライフスタイル局 サライ編集室
編集長 三浦一夫氏(雑誌担当)
編集長 稲葉成昭氏(WEB担当)
2021年2月 取材
大人のための最終学年誌。 『サライ』は、「食」「運動」「趣味」「旅行」「生きがい」を通して、 読者へ常に人生を楽しむ情報を発信し続けている雑誌です。
【サライ(本誌)】
- 発行:小学館
- 毎月10日頃
- 平均発行部数:116,000部
- サイズ:A4変形 平綴じ
【サライ.jp】
- 発行:小学館
- 定期配信日:毎日
- 月間PV数: 10,920,000PV/月間UU数:3,700,000UU(2021.1月)
Q.お二人のこれまでの経緯と『サライ』について教えてください。
(三浦氏)
2008年7月にサライ編集部へ異動し、2019年7月より9代目編集長に就任しました。 現在は編集室というセクションで、紙媒体 の『サライ』は私が編集長で、公式Webサイトの『サライ.jp』は稲葉編集長という形で棲み分けてやっています。
(稲葉氏)
2018年7月に当時、新設されたライフスタイル・ブランドスタジオに入り、『サライ.jp』を始めとした3サイトの運営を担当した後に、2020年10月よりサライ編集室に異動し、現在は『サライ.jp』の専任として運営しています。
(三浦氏)
『サライ』は平成元年―1989年9月創刊で、今年の秋に創刊32周年を迎えます。当時はシニア向け雑誌として発行していたわけではありません。当時のキャッチフレーズは「我が国初、大人の生活誌」で、大人向けではありましたが、決してシニア向けというわけではなく、またシニアを意識して作るということもしていませんでした。
それが、「美術」や「伝統工芸」「伝統芸能」「歴史」というテーマを扱っていくうちに、読者の年齢層が上がってきましたし、あらゆる世界の「本物」を追求した結果、そこに興味を持ったり、惹かれた方たちの多くが年配の方たちだったという事です。
(写真右)三浦一夫氏、(写真左)稲葉成昭氏
Q.編集方針について教えてください。
(三浦氏)
読者の平均年齢は号によって異なりますが、50代後半~60代前半の間で推移しています。ただ、創刊時と比べると日本の平均寿命はかなり延びまして人生80年時代だったのが今では人生100年時代になってきました。また、以前は60歳といえば定年退職の年齢でしたが、現在は再雇用などで働いている期間が長くなってきましたので、50代、 60代は現役世代です。ですから、今はそういう方々に向けて情報をお届けするのだと考えています。
現在はコロナ禍ということで「食」や「旅行」といった『サライ』らしいテーマが扱い難く歯痒く思っています。外出や移動が制限される中でそういった世代の方々に興味を持っていただけるテーマをいかに深掘りできるかが編集上の課題です。
Q.コンテンツの選定にあたっては何かお考えがありますか?
(三浦氏)
「わかりやすく」「やさしく」「寄り添うように」という思いで『サライ』を編集しています。
『サライ』は男性誌ではありますが、家庭でも回読してもらえるように作ってきました。今は50代以上の“おひとり様”の読者が増えているように思います。企画によって変動はしますが、女性の“おひとり様”読者もここ2、3年で増えていることは実感としてありますし、実際に、書店のPOSデータを見ても女性の比率が高くなってきています。「食」「旅」「歴史」「美術」「伝統」といったテーマを重要視して作っていますが、これらの分野への女性の興味は高いですね。『サライ.jp』でも、NHKの大河ドラマ『麒麟がくる』の記事は女性層にかなり読まれていました。なので、現在は男性誌というよりも男女ともに“本物”を求めている人向けの雑誌に変化してきていると思います。
付録については、生活に密着した役立つモノを付けるようにしています。若い頃に学年誌の担当だったこともあり、付録を付けることに違和感はありませんし、『サライ』というのは“最終学年誌”なんじゃないかなと思っています。そこは、小学館が年齢別のクラスマガジンを得意としてきたことが受け継がれているのかと思います。
Q.通販に関するビジネスモデルについてのお考えは?
(三浦氏)
通販は大きな収益となっています。『サライ.jp』では常時掲載されていますが、本誌には通販別冊として偶数月号に『大人の逸品』、年に2回ほど国産品だけに限った『買えるメイド・イン・ニッポン』を付録としてつけています。
昨年は高知県と組んで、高知県産のみの通販別冊を初めて作りました。これは“本物”という話にも繋がるのですが、かねてより国産品へのご要望が多くあったので国産品だけを扱う別冊をつくったら評判を呼び、このスタイルを地方の工芸品等に広げて取り組んだものです。今後は新しいビジネスモデルとして他の都道府県や市町村、地方自治体と組んでやっていきたいと思います。
『サライ』の読者は本当に好奇心が旺盛で、また弊誌をとても信頼してくださっています。例えば、ファッションを特集すると帽子から靴まで同じものをくださいという方が扱う店に多くいらっしゃったり、料理の写真では盛り付けた皿にまで問い合わせがあったりと、私たちが驚くほど丁寧に読んでいただいています。通販に関してもそういった読者の方々の好奇心を満たす内容と“本物志向”が『サライ』への信頼に繋がっていると感じています。
Q.着任されてから今日までご苦労がありましたら教えてください。
(三浦氏)
やはりデジタル化というかネット社会にどう取り組んでいくかということでしょうか。
私が『サライ』に来たのは12、3年前ですが、その時の読者の携帯の所有率は驚くほど少なかったように思います。当時の編集者が今の『サライ』を見たら驚くと思いますね。
『サライ.jp』も雑誌のWebサイトとしはかなり早い時期に立ち上げましたが、Webというものがどうしたら本誌の後押しになるのか、どうやって共存していけばよいのかということを模索してきました。今日では本誌を補完するというものではなく、もちろん紙媒体の『サライ』があってこそですが、それぞれが独立したメディアとしてやっています。
Q.『サライ.jp』について経緯等教えてください。
(稲葉氏)
『サライ』は2001年にWebサイトを立ち上げていました。私が就任した2018年当時は、PV自体も伸びず、本誌が発行されたときに宣伝も兼ねて記事を配信する、というようなメディアでした。しかし、小学館全体でWebというもの自体の勢いが出てきたということもあり、今後は『サライ.jp』をメディアとして大きくしていくという方針がありました。
現在は基本的に本誌の記事も掲載しますが、8割以上はWebのオリジナル記事です。
2020年6月にフルリニューアルをし、デザインだけでなく構造的にもいろいろ変えて刷新しました。内容は、『サライ』で人気のあるテーマの「食」「旅行」「趣味・教養」「健康」、そして「生活」というところに「定年」や「お金」等の話を盛り込んでいます。「いのちと食」というカテゴリーでは、「おいしい健康」という会社と組んで管理栄養士の料理レシピや医師の取材を紹介しながら、人生100年時代をどう健康に生きていくのかを提言しています。更にもう一つ『大人の逸品』という小学館が運用している通販カテゴリーがあります。
Webならではの動画系コンテンツにも力を入れています。例えば明智光秀は本能寺までどのようなルートを実際に通ったのかを撮影したり、教養として漢字の読み方などを紹介する「脳トレ漢字」などの動画を作っています。
また、『サライ.jp』はYahoo!ニュースやSmartNews、Gunosyなどにも記事を配信しています。こういった場合は『サライ』という雑誌のカテゴリーを外れて、記事が独り歩きしていきます。そういったところで読まれる記事というものに関しては、読者層が若い傾向にあります。『サライ.jp』自体も370万ユニークユーザー、1,000万PV以上(2001年1月調査)ありますが、属性を見ると配信先では35歳から45歳が多くなっています。
また、男女別においてもWebは女性が半数を占めています。さらに、毎週月曜日、水曜日、金曜日の夕方に配信しているLINE NEWSでは「友だち」登録が75万人以上いて、その多くが女性となっています。このように紙媒体では届かない層まで幅広く補っていき、基本的にはサライ世代が興味を持つあらゆるテーマを扱い、シニアのライフスタイルマガジンという位置付けでやっていこうと考えています。
Q.独立した媒体として『サライ.jp』の運営への決断の背景やコンテンツ作成にあたって留意していることは?
(稲葉氏)
出版社ですので『サライ』読者をいかに取り込んでいくかという点で、これからデジタルは避けて通れないと考えていました。
方法論で言えばデジタルの方が優れている面、例えば動画での解説とかがありますが、
雑誌で伝えられる部分とWebで伝えられる部分がそれぞれ相乗効果を持ってくれれば良いかと思います。
(三浦氏)
本誌で積み上げてきた見せ方のノウハウから、フォントを明朝体にする、文字の大きさを大きくする、行間を広めにとるなどそういったことも行っていますが、紙でできないことを補えたらいいなと思っています。例えば、『麒麟がくる』の時は番組終了とともにネタバレ記事をタイムリーに配信しましたらFacebookのコメント欄にたくさんのコメントが寄せられました。長年「歴史」記事を扱ってきた『サライ』ブランドの信頼性があってこそだと思います。WebはWebで本誌にはない即時性を大事にしていきたいですね。
コスト面では、Webは毎日記事を更新しないといけないのですべての記事に1本何十万も掛けられません。ゴルフ記事であれば、アコーディア・ゴルフさんと組んで動画・記事を作成したり、ビジネス系の記事であれば、コンサルティング会社の識学さんから記事を頂いて『サライ.jp』の体裁に整えて掲載しています。『サライ』ブランドが確立しているのでこうした提携が実現しています。
他にもオンラインの特性を活かし、現在のように外出もままならない状況でなかなか旅行に行けない読者にむけて琴平バスさんとコラボした「オンラインバスツアー」や、H.I.Sさんとコラボした「オンラインワインツアー」、渋谷の街を大人の街にしたいという東急プラザ渋谷さんとタイアップした「オンライン落語会」などにも取り組んでいます。
インスタライブなども行っていますが、『サライ』読者には、まだあまり届いていないようです。そういったスマホの敷居が高い、使い方がわかないという層へ向けて「スマホ基本のき」という連載記事でシニアに寄り添ったアプローチもしています。
Q.今後、「サライ」をどのようにしていきたいですか
(三浦氏)
これからも大人向けのゆったりとした、読みやすい雑誌にしていきたいと思っています。「食」「伝統工芸」「趣味」などの分野で“本物”を紹介するという使命を残しながらも、成熟した読者や大人の皆さまに満足していただける誌面をいかに届けられるかが大きな課題と思っています。
『サライ』の読者は雑誌と真摯に向かい合っていただいているのが実感できて本当に感謝しています。創刊から31年経ちましたが、この繋がりを大切に40年、50年と続けていきたいと思っています。
(稲葉氏)
通常WEB記事などはスマホで見る率が高いのですが、『サライ.jp』に関してはスマホとPCの割合が大体同じ比率です。長時間スマホの画面を見続けるというのは難しいといった読者へコンテンツを届ける為に今後は音声コンテンツの充実を考えています。老眼で小さな文字が読めなくなっても“サライ読者”と言ってもらえるようなメディアになりたいですね。
Q.最後に、「シニア」をどう捉えられているのか教えてください
(三浦氏)
年齢ではないと思っています。常に新しいことに取り組んだり、知的好奇心が旺盛だったり、行動力があったり、経験値がある人。例えば落語のように人生経験を経てきた人のほうがより楽しめる豊饒な世界があります。それをどこまで追求し、楽しめるのか、それを知っている人がシニアだと思います。
(稲葉氏)
人生経験を積んで、子供や後進に伝えられる自分の考えを持っている大人はみんなシニア。大人でもそのような自分の考えを持っていない人はまだシニアじゃない。心も体も成熟した大人の方がシニアではないかと個人的には思っています。
「サライ(本誌)」https://www.shogakukan.co.jp/magazines/series/095000
「サライ.jp」https://serai.jp/
シニアライフ総研®では、シニア向けメディアページ内でご紹介している各メディアの中から、特におすすめのシニア向けメディアについて、メディア担当者へのインタビューを通じて、ターゲット属性や人気コンテンツ、出稿事例などを掘り下げ、ご紹介いたします。
健康のスペシャリストや専門家の声が必要、
そんな時個性あふれる医療従事者がすぐに見つかる
「女医+(じょいぷらす)」
「医師+(いしぷらす)」
株式会社 医師のとも PR部 里見由生子氏
2019年7月 取材
シニア向けメディア/医師向けサンプリングアンケート
医療のみならず「健康」「ヘルスケア」「ウェルネス」「ビューティ」のスペシャリストでもある医師が商品・サービスを試用し、感想をアンケート形式でフィードバックするサービスです。医師の評価をプロモーションに活用いただくことで、訴求力アップやブランド力向上が期待できます。
シニアビジネスマッチング/医師・歯科医師キャスティング「女医+」、「医師+」
医師としての活動はもちろん、プラスαの知識や経験を持つ医師・歯科医師が約400名所属、医療・健康・美などに関する情報発信やプロモーションを支援しています。医学的知見に基づいた確かな情報により、商品の信頼性向上やブランド力強化など新たな価値を創造します。
Q.医療関係者を会員として集めることができたきっかけや、医師のともの成り立ちをお聞かせください。
まず、「医師のとも」は、ドクターの人生に寄り添うドリームサポーターを目指して設立されました。
医師が働きやすくなり、より良い医療が出来ようできることで医療界全体の発展につながるのではないかという考えの元、医師の転職のサポートをスタートし、その後、開業や事業継承のサポート、婚活イベントの主催などプライベートにも寄り添ったサービスを展開するに至りました。
会社の名前である「医師のとも」は、多角的に事業を展開し、医師にとってかけがえのないパートナーになりたいとの思いに由来しています。
現在、10,000名を超える医師や歯科医師に会員として登録いただいていますが、最初の医師とのつながりは、弊社社長である柳川(代表取締役 柳川圭子氏)がライターをしていた時に、ジャミックジャーナル(リクルートドクターズキャリアの前身)でドクターのキャリアについての連載を行っていたことや、週刊誌に女医が登場するコラム(週刊ポストのインタビュー記事『美人女医の秘密のカルテ』)を連載していたことが発端です。
その後、先生方が普段から抱えている様々なお悩みもお伺いするようになり、そのお悩みの解消を支援すべく、2012年に会社を設立しました。
Q. では、医師のともさんでは現在、どのような事業を展開しておられるのでしょうか。
先ほど触れたように、医師の転職サポートが主な事業内容です。
まず、医師には常勤、非常勤、スポットでの勤務など、様々な勤務の仕方がありますが、ワークライフバランスの充実やキャリアアップといった、医師それぞれの要望に対して最適と思われる転職先や勤務先を紹介しています。
また、医師の人生に寄り添うという意味では、新規の開業や、開業している医院の事業承継もライフステージにおいて重要なイベントです。それらを「開業サポート事業」や「継承サポート事業」を通じて支援しています。
これらは医師の職業に対するサポートですが、そのほかに医師のプライベートに寄り添った支援も行っています。例えば、婚活や異業種交流など、人と人とのつながりをサポートする「イベント事業」や、不動産投資やご子息の教育などのアドバイスなどの「ライフサポート事業」がそれにあたります。
さらに、このように多くの医師や歯科医師が会員として加わり大きなネットワークができた強みを活用して、医師と各種企業とのコラボレーションで商品のプロモーション支援や情報発信をサポートする「PR事業」も行っています。
Q. その「PR事業」について詳しく教えてください。
弊社の「PR事業」では、女性医師が所属する「女医+(じょいぷらす)」と男性医師が所属する「医師+(いしぷらす)」の二つのユニットを運営しています。
活動内容は大きく分けて二つあります。
まず一つ目は「情報発信活動」です。これは、医師のメディア出演や雑誌・WEBで配信される記事の監修などに対して適切な医師を紹介したり、雑誌や新聞などの取材、企業がおこなう講演会の講師として医師を紹介したりしています。
もう一つは「プロモーション支援活動」です。新商品の企画・開発のアドバイス、商品販売の際に医師を対象としたサンプリングアンケートの実施、医師からの専門的なコメントの提供、イベントへの医師のキャスティングなど、商品やサービスのプロモーション活動を支援するような活動です。
「女医+」と「医師+」には公式サイトがあり、ここで詳しいサービスメニューや事例を紹介しています。
また、所属医師の専門科目や様々なプロファイルなどもご覧いただくことができます。
医師としての知見だけでなく、野菜ソムリエやアロマテラピーアドバイザー、サプリメントアドバイザー、気象予報士などの有資格者や、ママさん女医など、多彩でユニークなプラスαの資格や経験を持った医師が揃っているのも、女医+、医師+の特徴です。
ある広告代理店さんからお伺いしたお話をご紹介します。とあるクライアントの商品PRのための医師が必要でしたが、当初は商品にマッチした医師をどのように探すしたらよいのか全く見当がつかなかったそうです。
その後、書籍を出している医師なら意見をもらえるかもしれないと考え、書店に行き著者を確認し、出版社に事情を説明して著者の医師を紹介してもらうなど、大変ご苦労されたそうです。また、このように大変な思いをしてせっかく行き当たった医師の都合が合わないといったこともあり得ます。
その後、もっと効率的な良い方法はないかということでネット検索を経て、「女医+」を知っていただきました。結果として、すぐにニーズに合った医師を一度に数名ご紹介させていただいたのですが、ご希望にあった医師をアサインすることができて大変喜んでいただきました。
Q. 具体的な「女医+」、「医師+」の事例をご紹介ください。
はい、まず一つ目はサンプリングアンケートの事例です。
サンプリングアンケートとは、医師が対象となる商品を試用し、その感想をアンケート形式で回答し、その結果データをマーケティングや販売促進に活用いただくサービスです。
ある企業からの依頼で、既存商品であるバナナを内科系の医師57名に食べてもらい、アンケートに回答いただきました。その結果、83%の回答者から「健康のためにこのバナナをすすめたい」との回答を得ることができ、商品のラベルや店頭のPOPにドクターが推奨する商品として表示し、競合商品との差別化対策として活用いただいています。
もう一つの事例は講演会です。ある食品会社が、栄養価が高くスーパーフードとして注目されているモリンガを含む青汁を発売するにあたり、メディア向けのセミナーを開催しました。その際に「女医+」がご紹介した糖尿病内科医が登壇し、モリンガの栄養と有用性について解説しました。この講演の内容は各種メディアに掲載されました。
なお、プロモーション支援として医師から発信するコメントや講演内容は、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)などの関連法令を遵守して取り扱っていますし、企業様からいただく企画の段階で、関連法令や規則などの遵守をお願いしています。
例えば、医薬品ではないものについて治療効果があるかのような説明や、特定の製品に誘導するような表現は広告規制に抵触しますので、事前にチェックしています。
Q. いずれの事例も専門家としての意見が加わり、訴求力の向上につながりそうですね。では「女医+」や「医師+」の申し込みから実際の利用までの流れを教えてください。
お電話や、「女医+」や「医師+」の公式サイトからお問い合わせいただくことができます。
まず企業の担当者様から企画の内容をお聞きし、どのような形態のプロモーション施策とするかを協議します。弊社では多種多様な医師会員の中から、企画の内容にマッチした医師をキャスティングし、出演交渉や条件交渉をマネジメントします。
実際に医師が決定した際に、契約を締結します。そして企業様と医師との間で進行管理をおこないます。
企業様から企画をいただいて弊社で候補医師を提案する場合もありますし、サイトを見て「この先生にお願いしたい」という希望を提示される企業様もあります。
今年度(令和元年度)からは、この「女医+」や「医師+」の認知度をさらに上げ、更に多くの企業様とのコラボレーションを展開したいと考えています。
Q. 「女医+」、「医師+」がシニアライフにどのようにかかわっていくか、お考えをお聞かせください。
これまでご紹介した「女医+」と「医師+」には、糖尿病や高血圧といった生活習慣病の領域の医師、人間ドック専門医、認知症予防の領域などの医師がいますので、シニア向け商品のプロモーションと親和性が高いと考えています。
また昨今、予防医学という考え方も浸透してきています。その流れの中では、シニア世代になっても健康・アクティブでいられるために、シニアと呼ばれるより前の世代から健康のことをしっかり考えた生活を送ることも重要です。そういった観点での専門的な知見を提供できるのが、「女医+」、「医師+」の強みだと考えています。
弊社では医師とともに歯科医師も多く登録していただいています。これまでは、歯科医師は主にホワイトニングや口臭管理など、オーラルケアに向けたご依頼が多かったのですが、歯周病と肥満や糖尿病などの生活習慣病が関連しているなど、お口のケアがからだ全体の健康につながるという情報もあり、注目されています。
弊社に登録されている歯科医師の中にも、歯科からトータルヘルスケアの実現を考えておられる方もいらっしゃいます。
また、歯科を口腔管理の医学と広く捉えると、嚥下障害・誤嚥により肺炎を発症してしまう高齢者が多くいらっしゃいます。このような分野も歯科医師の専門領域です。
医科と歯科のコラボレーションでシニアの健康に貢献していきたいと考えています。
Q. では、現在の事業活動の中で課題と考えていることはありますか?
「女医+」と「医師+」が企業のマーケティングや販促担当者にもっと広く知られることが、今後の課題です。これまでは知り合いの企業からの依頼や口コミでお問い合わせをいただいていましたので、商品のプロモーションに医療者としての専門的見解を提供する支援事業としてはまだ知名度が高いとは言えないと考えています。
一方で、お取引いただいた企業からは、別案件の依頼を頂戴する機会が多く、顧客リピート率は80%を超えています。ニーズの高いサービスだと実感しており、会社にとっての第2の柱の事業となるべく尽力しているところです。
Q. 最後に、今後の活動についてお考えをお聞かせください。
超高齢化社会に突入し、平均寿命と健康寿命の乖離もしばしば取り上げられています。
シニアの方たちが健康で毎日をすごし、健康寿命を延伸させるためにも、健康のスペシャリストである医師の知見を身近に取り入れていただけるきっかけとなるよう、様々な企画とのコラボレーションを更に展開していきたいと思っています。
「女医+(じょいぷらす)」https://joy-plus.net/
「医師+(いしぷらす)」http://www.ishi-plus.net/
シニアライフ総研®では、シニア向けメディアページ内でご紹介している各メディアの中から、特におすすめのシニア向けメディアについて、メディア担当者へのインタビューを通じて、ターゲット属性や人気コンテンツ、出稿事例などを掘り下げ、ご紹介いたします。
アクティブシニアに向けた
人と人をつなぐコミュニティサイト
松竹ブロードキャスティング株式会社 事業開発部 常包久美氏
2019年10月 取材
ナビトモ(旧:シニア・ナビ)は、アクティブシニアの生き方さがし、友だち作りを応援するコミュニティサイトです。コミュニティサイトでは珍しく、リアルな場でのイベントも実施し、人と人の繋がりを大切にしています。
- PV数:約900,000PV/月
- 運営開始日:1999年3月
- 累計会員数:約34,600人(内アクティブ会員は約23,500人)
Q.「ナビトモ」の概要・特徴を教えてください。
ナビトモは今年3月に開設20周年を迎えたコミュニティサイトです。会員層は50歳以上が約95%を占めており、インターネットを通じて、同じ趣味をもつ会員との出会い、ネット上や地域での交流活動をしています。交流の場としてはオンライン上とオフライン上の2つがあり、オンライン上ではブログや写真の投稿、そして会員が管理者となり、同じ趣味を持った仲間でグループ活動を行うサークル活動などがあります。
また、ナビトモだけの強みとして力を注いでいるのが、事務局主催のオフィシャルイベントを定期的に開催していることです。
他のコミニュティサイトでは、イベントやオフ会を行う場合、会員同士で自由に企画運営を行っていることが多いですが、ナビトモでは、それ以外に事務局が企画し開催するイベントを行っています。
会員の皆さんはとてもアクティブです。ですが、実際にあったことない方たちと会うのは緊張しますし、勇気がいること。そんな方々のあと一歩のお手伝いとして、事務局スタッフがサポートするオフィシャルイベントを開催することで、気軽にイベントにご参加いただき交流の輪を広げていただければと思っています。
Q.どのような会員の方が多いですか?
ナビトモには北海道から九州・沖縄まで全国に会員の方がいらっしゃいます。
中でも関東圏にお住まいの方が約半数を占めており、次いで関西圏が約2割となっています。
また先日行ったアンケートによると、会員の約95%が1日に1時間以上インターネットを利用し、そのうち23%が4時間以上利用するという結果が出ました。これには大変驚かされましたが、ここ最近、スマホを利用してのナビトモアクセスがとても多くなっており、インターネットを手軽に利用できる若者たちと遜色ないアクティブシニアが多く登録しています。
Q.御社の考えるシニアのイメージは?
「シニア」と聞くと介護や終活など、内にこもったイメージされる方もいらっしゃるかと思います。
私もよく、クライアント様とお話していると「シニアがコミュニティサイト?」と驚かれますが、ナビトモの会員はとにかく前向きな方が多く、何事にも積極的に取り組まれる印象です。
Q.シニアといえば紙媒体の方が強いイメージがありますが、何故あえて媒体をWEBにされたのでしょうか?
近年、スマホが普及し、手軽にインターネットを楽しむことができるようになりました。先程お話したインターネットの利用時間が1時間以上という会員が多いように、ナビトモを検索し、登録・活動することは、シニアにとっても抵抗なく利用できる媒体だと思ったからです。
また、WEBですとどこにいても全国の方々とつながることができます。ナビトモサイトの役割は「コミュニティ=交流」だと思うので、場所を選ばず交流できる場としてWEB媒体を選択しました。
Q.サイトに対する会員の方の声や反応はどうでしょうか?
みなさんとても積極的に事務局に連絡を下さいます。
イベントではアンケートをお願いしているのですが、丁寧に答えてくださり、一緒にナビトモを盛り上げて下さる熱い思いを強く感じています。
また、サイトを熱心に使われている方が多くいらっしゃるので、操作方法に関するお問い合わせが多く、使いやすさを追求したご意見もたくさんいただけてとてもありがたいです。
Q.シニアマーケットの難しさを感じることはありますか?
あります。みなさんそれぞれ違った人生を歩まれてきましたから、すべての皆さんに喜んでいただける企画を行うのはなかなか難しいです。
ただ、気に入っていただけるととても喜んでいただけるので、そういった光景や感想を伺うととても嬉しいですし、やりがいを感じます。
また、それとは逆で一度嫌な思いをされるとなかなか戻ってきたもらうことが難しいです。距離を置きすぎるのもダメ、と言って馴れ馴れしすぎるのも失礼になります。その都度、その方に合わせた対応に難しさを感じています。
Q.人気のコンテンツはどのコンテンツになりますでしょうか?
人気があるのはギャラリーです。カメラがお好きな方が多いので、撮った写真を投稿し、そこに誰かが反応してくれると嬉しく、また投稿しよう!という気持ちになるようです。
写真は、手軽に投稿できる交流ツールです。「あっ!これナビトモで投稿しよう」と常にナビトモを頭の片隅に入れながら皆さん行動してくださっていると思うと嬉しいですし、私もついつい楽しみながら拝見しています。
Q.会員の方が反応しやすい商材はどのようなものでしょうか?
旅行や舞台などのエンタメ関連は反応がいいです。特に映画の劇場鑑賞券は毎回数百件の応募があります。旅行関連では、宿泊施設を運営される企業様とイベントを行ったのですが、とても反応が良かったそうです。
やはり外に出て新しいことを求める会員が多いので、反応も必然的に良くなるのだと思います。
広告をご出稿いただくにあたり、おすすめなのは実際に商材を体験いただけるイベント実施です。「メンバータイアップ」というメニューになりますが、これまでご出稿いただいた企業様からは、成約率の高さにご満足いただくことが多く、ご好評頂いています。
Q.どんな業界の出稿事例がありますか?
これまでの出稿事例は、旅行、健康、不動産、電化製品など多種に渡ります。
また、通販サイトとのコラボ企画として商品の体験者モニターを実施しましたが、体験した会員の方からは、日常生活で困っていた悩みを解決できて本当に良かったと喜びの声をいただき、クライアント様からは想定以上に生の声が聞けて良かったとお褒めの言葉を頂きました。
ナビトモの広告メニューは、バナーの純広告、プレゼントキャンペーン、会員が参加するタイアップや体験イベント等があります。全国に会員が在籍しておりますので、幅広く商材を認知させたい企業様にはバナーやメルマガを、意欲の高いお客様を捕まえたい!という企業様には、メンバータイアップをおすすめしています。そのためには、メールや電話だけでなく直接お会いして、ご要望を伺った上でご提案することを心がけており、時には企業様に合わせたカスタマイズ企画を提案し、実際に実施いただくこともあります。
Q.今後どのようなサイトを目指していきたいとお思いでしょうか?
「顔の見える事務局」をモットーに定期的に会員の皆さんと顔を合わせ、話合いをしながらよりよいサイト運営をしていきたいと思っています。
インターネットはとても便利ですが、不安に思う部分も多く感じている方がいらっしゃるかと思います。そういった方たちにも安心してナビトモをご利用いただけるよう、常に皆様と同じ目線に立った会員サポートを全力で行っていきたいです。
Q.今後新たに取り組みたい施策は何でしょうか?
より一層のサイト活性化を行っていきたいと思っています。
ナビトモにはとにかくアクティブな方々が多いです。中には、映画好き、音楽好き、カメラ好きなど様々な趣味をお持ちの方も多く、そういった方々を対象としたイベント企画や情報提供を行っていくことが、大きなコミュニティに発展する第一歩だと考えています。
また、会員の皆さんにナビトモスタッフとして運営にお力添えいただけないかと考えています。
ナビトモは全国に会員がいながらも事務局主催のイベントはどうしても関東に偏ってしまい、「私たちの地域でもやって!」というお声を多数頂いています。
そういった時、各地域に会員として活動いただける方がいらっしゃれば、毎日どこかでナビトモイベントを行うことも夢ではありません。
ナビトモは、あくまで会員のみなさんが主役です。その思いを軸に今後も運営を行っていきたいと思います。
「ナビトモ(旧:シニア・ナビ)」https://www.navi-tomo.com
シニアライフ総研®では、シニア向けメディアページ内でご紹介している各メディアの中から、特におすすめのシニア向けメディアについて、メディア担当者へのインタビューを通じて、ターゲット属性や人気コンテンツ、出稿事例などを掘り下げ、ご紹介いたします。
三重県亀山市の旧東海道関宿
日本は世界に冠たる超高齢社会であり、2025年には「団塊の世代」が後期高齢者(75歳以上)となり、介護や福祉分野の需要はますます増え続け、介護予防や介護の問題、単身化や孤独の問題が急増する。
このため厚生労働省においては、2025年を目途に高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進している。
具体的に地域の行政はどのような取り組みをしているのだろうか。地域包括ケアシステムの構築をはじめた三重県亀山市を取材した。
取材にご協力いただいた方
- 三重県亀山市 健康福祉部 高齢障がい支援室 室長(兼)地域包括支援センター長 古田 秀樹 氏 (左)
- 三重県亀山市 健康福祉部 高齢者障がい支援室 副室長 藤本 泰子 氏 (中)
- 三重県亀山市内 田中内科医院 院長 田中 英樹 氏 (右)
※2014年2月取材時
第1章 ケアシステムの全体像
「在宅での看取り」を核とした
三位一体の地域包括ケアシステム
厚生労働省からは、「団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を実現する」とある。そんな中、地方自治体はどのようなオペレーションを実施しているのだろうか。ここでは、三重県亀山市の取り組みを例に、地方自治体が実際に取り組む地域包括ケアシステムを紹介していく。
2014年2月 取材
「在宅での看取り」を核としたシステム構築
昨今の高齢化により、政府としても社会保障の観点から在宅医療・在宅介護を推し進めており、各県市区町村の行政としての対策も急務となっている。
しかし、今回取材を行った三重県亀山市では、医療費負担を上げる等の対策により、一方的に在宅医療・介護を市民に押し付けるような仕組みづくりをしているわけではない。
あくまでも本人と家族の意志を尊重し、福祉的な措置や手当を加えながら、医療・介護が受けられ、生まれ育った自宅で最期を看取る。つまり、本人及びその家族が喜ぶ、「在宅での看取り」を選択肢のコアにする事を目的にしている。
「行政」・「医療」・「介護」の三位一体のシステム
まず、「在宅での看取り」の受け皿となる体制づくりとして、行政主導のもと、ケアマネージャー・社会福祉士・保健師を中心とした、「行政」・「医療」・「介護」の三位一体の地域包括ケアシステムの構築を進めている。このシステム構築にあたり、モデルケースとしている他市があるそうだが、そこでは医療連携がメインであり、介護連携がうまくいっていないケースが目立つ。
ではなぜ亀山市は医療と介護の連携にこだわるのか…
それは、急性期病院や回復期病院から退院した後、在宅での生活を円滑に進めるためには、医療保険から介護保険への移行など、医療・介護に関わるスタッフが密接に連携して、シームレスにサービスを受けることができるよう、支援していく必要があるからだ。
また、同様の取り組みを医師会が主導で行う市区町村もあるようだが、亀山市はあくまでも行政が主導である。行政が主導であることにより、市民の声を取り入れやすく、また「在宅での看取り」の啓発活動も行うことができる。
更には、これまで医療業界と介護業界は隔たりがあったが、医療面を支える病院や診療所、介護面の2つの領域において重要な役割を担いハブとなるケアマネジャー、社会福祉士、保健師をキーパーソンとすることにより、連携しやすい環境が作られる。
具体的な活動としては、2013年3月より、在宅医療・介護に携わる事業社が参加する連携会議が開催されている。そこには、医師や看護師、歯科医師、薬剤師をはじめとする医療従事者、ケアマネージャー・ヘルパー、そして、市が運営する「地域包括支援センター」のケアマネージャー・社会福祉士をはじめとする介護従事者が参加し、各所の役割の明確化~情報共有を行う。
「リビング・ウィル」による本人意思の尊重~市民啓発へ
いくら三位一体の地域包括ネットワークが構築できたとしても、中には最新の医療技術を受けながら病院で最期を迎えたい、施設で最期を迎えたいという市民もいるだろう。
最終目的は「在宅での看取り」ができることであるが、その受け皿となる医療と介護の連携したネットワークを構築しながら、在宅医療・介護を押し付けるのではなく、あくまでも本人・家族の意志を尊重する。そのため多くの市民が「在宅での看取り」を望むよう、また理解を得るための啓発活動が欠かせない。
それにはメディア等を活用した一方的な情報発信ではなく、“最期をどう迎えたいのか”の意思を表明する「リビング・ウィル」というカードを発行している。このカードにより、本人がどう最期を迎えたいか、家族や親戚・知人と共にきちんと終末期について考える機会を市民に与えながら、在宅医療に対する理解が広まることを目指している。
この三位一体の地域包括システム構築と市民啓発は亀山市だから進められる要因がいくつかある。 以降の章でその理由について紹介していくとする。
「進化する努力」と「変わらない勇気」、
シニアマーケティングには両方が必要
株式会社バスクリン
販売管理部 販売促進課 マネージャー広報責任者 石川泰弘 氏
製品開発部 ヘルスケア企画課 リーダー 梨本里美 氏
「健康は、進化する。」というコーポレート・スローガンのもと、社名である入浴剤「バスクリン」と近年では「きき湯」を主力商品として事業展開する株式会社バスクリン。同社は、「入浴を健康として捉える意識を有した人々」をシニア・マーケティングのターゲット捉え、日々のマーケティング活動を推進しています。今回のインタビューでは、入浴剤市場の概要から、入浴への啓蒙活動、商品パッケージの工夫、そして今後の取り組みに至るまで、幅広くお話をお聞きしました。
2014年10月 取材
Q.まずは、入浴剤市場の概況からをお聞かせください
石川氏) 現在、入浴剤の市場シェアは、花王さんと弊社で54~55%を占めております。 入浴剤の市場は比較的安定しているといえます。 2013年度は、前年比103%で推移しており、その市場規模は520億弱であり、年推移で500億円前後を上下している状況です(※バスクリン調べ)。 ここ数年は、炭酸ガスの入浴剤市場が伸長傾向にあり、弊社においては平成15年に発売した「きき湯」がご好評をいただいていると共に、同じく弊社の主力商品である「バスクリン」と肩を並べるロングセラー商品になってまいりました。
Q.「きき湯」がマーケットでうけた、何かきっかけのようなものはありましたか?
石川氏) あります。 私どもがきっかけの一つとして考えているのが、2009年に放映されたビートたけしさんの「みんなの家庭の医学」というテレビ番組です。 その日は「炭酸ガスの温泉は動脈硬化にいい」という内容だったのですが、それをきっかけに炭酸ガスの入浴剤ブームに火がつき、弊社商品の「きき湯」もそのブームに乗ることができました。 それ以前から売り上げは伸びていたのですが、番組をきっかけに、40~50代の方、それより上の世代の方に売れ始めたと共に、そこへ同時期に盛り上がっていた美容ブームが後押しをして一気に市場へ浸透いたしました。 そんな経緯の後、いまではブームの段階を脱して、市場にしっかり定着してくれた感触をもっております。
Q.シニアの方が効果・効能別に合わせて入浴剤を使い分けているというデータ等による裏付けはあるのでしょうか?
梨本氏) データの上からは、マーケット全体で入浴剤を使用されている年代は40~50代がボリュームゾーンとなっております。
一方で、バスクリンは50~60代のお客様に支持をいただいているという調査結果が出ております。 これは、バスクリンが長い歴史を有している商品であるゆえ、子供の頃に入って良かったというブランドの原体験が理由だと考えております。 バスクリンを入浴剤利用の入り口にして、その実感がループした後、当社の「きき湯」やあるいは他社商品へと選択肢が広がっていくように思います。
石川氏) 若い方は美容やリラックスへの意識が高いですが、シニアの方は健康への意識が高く、これが入浴剤利用の理由となっているようです。 とりわけ50代以上の人達は「健康寿命を延ばす」という意識が高いこともわかっております。 具体的には、50代以上の人はお風呂でストレッチする人達が増えているなど、バスルームを活用していかに健康でスマートな身体作りをするかということに意識が向いています。
Q. シニアに特化した、入浴についての啓蒙活動などのお取り組みはありますか?
石川氏) 例えば、老人ホーム等で行われる銀行様が主催なさるセミナーに講師としてご招待いただくことなどが多いため、そこで入浴剤の使い方や効能、また温泉についてなどの講演をさせていただくなど、シニアの方の前で入浴のお話をさせていただく場面は数多くございます。 当然のごとくシニアの方は、「健康」をテーマにしたお話にとても興味をもっていらっしゃるので、聴講いただいたシニアの皆様からもご好評をいただいています。 ひいては主催者様からも喜んでいただいております。 事実、主催者様からは、その後の「相続」に関するお話にも円滑に発展できるとお聞きしておりますので、私どもの公演が主催者様のビジネスにも多少は寄与しているのではないでしょうか(笑)。
Q. シニアの方から支持される商品を開発するための工夫などがあれば教えてください。
梨本氏) 特に「シニアターゲットに向けて特別に商品を作る」というようなことはいたしません。 それより、「商品を選択していいただく楽しさ」や「新しい商品との出会いから得られる新鮮さ」を表現することが重要だと考えております。
例えば、メインターゲットが40~50代である「バスクリン・クール」という商品について言えば、数ある商品ラインナップから、お客様の気分やニーズに合わせて商品を選んでいただく楽しさが提供できるような商品であるよう様々な工夫をしてますね。
バスクリンクールのラインナップ
石川氏) あえて年齢を意識してモノ作りをしないことには理由があります。
例えば「今の50代は昔の50代より若い」ということです。若い感性や先駆的な感覚をもつた今の50代は、商品選択をすることにおいてもいつもと同じものを選ぶのではなく、違うものにチャレンジしようとする積極的な行動が見受けられます。
従って、シニア向けに「シニアの皆様に特化した商品です」という提案するのではなく、年代に関わらず、広く市場ニーズに対応した商品をリリースするようにしています。 そのことこそが、結果としてシニアの皆様から支持をいただく手法なのだと考えております。
Q. 商品パッケージにおいてどんな工夫を施していらっしゃいますか?
梨本氏) 石川が前述した通り、いかにも「シニアの皆様を意識しました」風なデザインは好まれません。もちろん、商品購買層としては50~60代がボリュームゾーンとなりますので、手に取った際の使いやすさなど、商品開発上のシニアの皆様への配慮は必要です。
しかし、ここにばかり意識を置きすぎると地味でつまらない商品になってしまいます。これはシニアの方をターゲットにする場合に限った話ではありません。
入浴剤の商品特徴を確実に伝えるためには、何より「パッケージ上における情報の視認性」が最重要課題だと考えております。
こういうお言葉をお聞きするのが私たちの苦労が報われる瞬間であり、とても嬉しく思うのですが、その「わかりやすさ」の最大の要因は「色」だと思います。「色」がお客様に与える情報はとても大きいのです。
Q. 「新しい取り組みを推進する」ことと、「ブランドを守っていく」という行為は、一見、相反する使命のように思いますが、その点で苦労はありますか?
石川氏)正直なところ、ブランドイメージや商品体系などを変えたくても、なかなか変えられないというのが現状です。
特に香りの話でいえば、梨本が申し上げたように、言葉やビジュアルで伝えるのが難しい要素です。当社の商品は歴史が長いので、お客様は長年愛用された商品名と香りが頭の中でしっかり紐づけされています。しかし、それをある日突然変えてしまうと、お客様が戸惑ってしまい、ひいては「違うでしょ」というご指摘をいただくことになってしまいます。
例えば、バスクリンには「ジャスミン」という商品があります。人気商品で長年多くのお客様から支持をいただいているのですが、これはあくまで「バスクリンのジャスミン」といえます。これをあえて本物のジャスミンの香りに近づけてしまうと、多くの苦情が来てしまいます。
このように、変えたい商品があっても、長年積み重ねてきた「バスクリンらしさ」というものが確立しているため、無暗に商品の仕様を変えられない、という事例もいくつかあります。
実は、バスクリンのイメージ調査をしてみたときに最も評価していていただいているポイントが「安心・安全」であることもわかっています。
つまり、長い期間お使いいただいている安心感や、それでいて何の問題も起こしていない安全性というのを当社ブランドに対し感じ続けていただいているわけです。
そう考えると、「変わらずにいる」ことこそが私たちに課せられた大事な使命なのかもしれません。
Q. シニアの方にとって大変興味がある、「入浴と寿命についての関係」についてお聞かせ願えますか
石川氏) はい、まずシニアの方は健康への思いは人一倍強いので、このテーマはセミナーでもとても興味をもっていただけます。
このテーマで講演すると若い人達は普通に聴講されていますが、シニアの方は積極的にメモをとられたり、「こういうときはどうしたらいいのか」とご質問をくださったりします。
私がセミナーでお話することの中から一つあげさせていただくとすると、入浴行為そのものも大事ですが、「お風呂掃除」を積極的にすることがシニアの健康寿命を延ばすということです。
お風呂掃除は膝を曲げたり手を伸ばしたり、実はシニアの皆様にとって健康を維持し体力を養う、とてもいい運動要素になります。
昨今では、ノーリツさんの自動洗浄浴槽という商品をシニア向けに開発しましたが、実際の購入者は30代の方々が多いと聞いております。すなわち、忙しくてお風呂洗う時間がとれない方々です。
一方で、シニアの皆さんは時間的な猶予はあるので、ウォーキングやエクササイズと同様に「お風呂掃除」も健康維持の一環として取り組んでいただければと思います。
Q. シニアの方の入浴剤の選び方にはどのような特徴がありますか?
梨本氏) そもそも入浴剤は、「どの香りにするか」、「どの効能を選ぶか」などを、家族みんなの総意によって選ぶ傾向がある商品です。しかしシニアの皆様の多くは、お子さんも独立しセカンドライフを満喫されていらっしゃいます。そうすると入浴剤についても「本当はこれを使いたかった」という自分主体のモノ選びをするシーンが中心になります。
そうすると、これまでバスクリンを使っていた方々が、改めて他の商品にも注目が至り、例えば当社の「きき湯」に流れていくなど様々な選択肢へ広がりが発生することが考えられます。
その際の商品選定のポイントとしては、やはり健康維持です。病院にかからず健康な生活を送るための、予防医学的な意識が商品選定に大きく影響してくると思います。
Q. 改めて、シニアマーケットをどう定義づけられていらっしゃいますか?
梨本氏) 実は、シニアマーケットについて、社内で明確な決まりがあるわけではありません。年齢軸でいうなら50~60代以上と考えることができますが、ただ年齢軸で区切るのは乱暴な話だと考えてます。
あえて言うならば、入浴剤という市場においてシニアマーケットを定義するための最初の指標は、やはり家族構成なのではないかと考えております。
よりシャープな分け方をするならば、お子さんが巣立ったご家庭であるのかどうか、その年齢はどれ位なのか、という区切り方です。
その次に来るのは、入浴という行為の意義です。お風呂に入るという行為を、単純に体の汚れが落とすための行為とみなしているか、あるいは前述した美容や健康などのニーズを叶えるための時間として捉えているかという区分です。
とかくシニア層においては、入浴を単なる洗浄行為とみなしてなく、付加価値のある行動と考えています。
更にもうひとつの指標が、入浴に対するニーズやモチベーションです。具体的には、「健康」を重要視して生活しているのか、もしくはこれは若い層や女性などが中心になってくると思いますが、「美容」という要因に寄っているのかで、マーケティング的なアプローチが異なってきます。
これら3つの要素を掛け合わせ、つまり、「家族構成を前提とした年齢軸」×「入浴の意義」×「入浴に対するニーズ」という3つの軸の掛け合わせで、マーケットを区分することができ、その中の1象限がシニアマーケットと捉えられるのではないかと考えております。
Q. 海外展開へ向けたお取り組みは何かされていらっしゃるのでしょうか?
石川氏) 海外には日本のような入浴文化はないので、日本と同じような展開では商品は波及いたしません。
一方で、日本に来た外国人は、必ずと言っていいほど温泉に入りその良さを体感していきます。
ですので、まずはひとりでも多くの外国人に入浴の体験をしていただくような施策を考えることが最初のステップだと思います。これができれば、あとは各国が自主的にインフラ整備をやっていただけると思いますし、入浴文化は拡がると思います。
そのためのきっかけとして2020年の東京オリンピックはとても重要なタイミングだと考えています。
もし仮に、「日本人選手が活躍するその裏にはお風呂の存在があった」いうことを伝えられれば、各国への入浴文化の波及、そして弊社商品の海外展開にも大きく寄与すると思うのです。
Q. 最後に、今後のお取り組みについてお聞かせください
梨本氏) モノ作りの観点からいうと、今のブランド資産を活かしながら、更に入浴剤というものの用途も拡大しつつ、同時に使いやすさも追求していくべきだと考えています。買いやすく、持ち運びしやすく、また使うときの出し入れしやすさ、そして捨てやすさに至るまで一気通貫で気配りのある商品を展開していきたいです。
もちろん、これまでにも長年に渡って取り組んできたテーマですが、まだまだ課題はたくさんありますし、終わりのない仕事だと考えております。
株式会社バスクリン ホームページ
https://www.bathclin.co.jp/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。