第45回 株式会社コミュニケーションプランニング

歌舞伎鑑賞の観客向けに特化した
イヤホンガイドCM

株式会社 コミュニケーションプランニング 代表取締役 宇野陽平様

歌舞伎座イヤホンガイドの協賛放送を手がけるコミュニケーションプランニング。シニアの観客が多いことや銀座という立地に合致したCMを流すことで大きな効果を上げています。代表取締役の宇野陽平氏に、サービスの詳細などについてうかがいました。

2024年4月取材

Q. 貴社の業務内容について教えてください。

新聞、雑誌、インターネットの広告エージェントとして、また、歌舞伎・能など古典芸能のイベントプランニング、SPグッズ、記念品、販促用ノベルティーの提案を行っています。なかでも力を入れているのは、歌舞伎座イヤホンガイド協賛放送です。イヤホンガイドとは舞台の進行に合わせてあらすじ、配役、衣裳、道具、約束ごとなどをタイミングよく解説するもので、歌舞伎に詳しくない人や歌舞伎を初めてご覧になる人も楽しく鑑賞できると人気です。また、歌舞伎に詳しい人でも解説によってより作品への理解が深まるということで、鑑賞の際はかならず借りるという人も少なくありません。当社は歌舞伎座を中心とした歌舞伎公演する劇場で、歌舞伎を鑑賞されるお客様の半数以上が使用される歌舞伎鑑賞用イヤホンガイドCMの唯一の広告エージェントで、歌舞伎俳優などのナレーションによる耳から聴く広告を扱っています。

Q. どのような経緯でイヤホンガイドCMを扱われるようになったのでしょう。

当社は約40年前に設立、ギフト事業が軌道に乗りました。ギフトのラッピングが大変になったので東京都の外郭団体にお願いしたことがきっかけで、シニア向け事業に着目するようになりました。その一方で、もともと広告の仕事も好きなので、ギフト事業と並行して行っていました。また、現在に至るまで歌舞伎役者によるセミナーなどを通して歌舞伎を観客の立場から支え、その普及と振興を図っていくことを目指す「花道会」の管理者も務めています。そんなわけで歌舞伎とも長くご縁があった関係で、イヤホンガイドから相談を受けました。以前CMを流したことがあったそうなのですが、ラジオのCMをそのまま流しただけだったため、イヤホンガイドを使っていた観客の方たちが驚いてしまい、うまくいかなかったそうです。けれどもう一度チャレンジしたいという話をいただきましたので、それなら歌舞伎座に合った専用のCMを制作して流そうという話になり、2018年からスタートしました。

Q. 歌舞伎座イヤホンガイドCMの主旨やこれまでの実績をお聞かせください。

歌舞伎の観客は富裕層の中高年女性が多いので、クライアントも銀座界隈の高級店や老舗など、客層を意識しています。私が担当するのはクライアントの獲得と見積り、キャスティング、シナリオです。クライアントにひいきの歌舞伎役者がいるなどキャストのリクエストがあった場合は、「その役者なら歌舞伎座には●月と●月に出演しますよ」とご提案します。そうすれば自社のCMが流れる月は、うまい具合に役者本人が出演する月となります。これはこちらが情報を持っているからできるご提案といえるでしょう。そしてどんなCMを流したいのかクライアントの要望を聞いたうえで数本シナリオを考え、その中からクライアントに選んでいただきます。その後の制作はイヤホンガイドの担当です。CMは60秒または30秒の2パターンあり、幕が上がる前の静かな緊張感のあるときに流すのがもっとも効果的です。 実績としては、小澤酒造、和光、ウテナ化粧品、銀座天一、叙々苑、高級時計のMINASEなどのCMを制作しました。小澤酒造の創業と歌舞伎の演目にもある忠臣蔵の赤穂事件は同じ元禄15年、しかもCMを流す時期がちょうど中村雀右衛門さんが襲名時期だったので、雀右衛門さんのナレーションでCMにしたところ、非常に評判がよかったです。歌舞伎座で歌舞伎役者がナレーションすると、CMがCMとして聞こえるというよりは、イヤホンガイドの解説の一部かのように、とても自然に耳に入ってくるのです。

Q. 歌舞伎座イヤホンガイドCM導入までの経緯や苦労された点などを教えてください。また、クライアントからどのような反響、反応がありましたでしょうか。

歌舞伎に親しいクライアントはごく一部です。ご紹介すると最初はみなさん「いいですね」とおっしゃるものの、そこから契約に結びつけるのはなかなか難しいところがあります。また、窓口の担当者もどんどん若くなっていて歌舞伎を観たことがないという人も多いので、「歌舞伎は難しくて」と関心が薄く、歌舞伎座でCMを流すことの利点をわかっていただきにくい点には苦労しました。 ただ、広告効果が予想以上によかったといううれしい誤算が起こることもあります。
MINASE(協和精工株式会社)は国産高級時計ブランドです。MINASEの社長様が松本幸四郎丈の大ファンでしたので、MCは幸四郎丈にお願いしました。CMを放送中には、イヤホンガイドカウンターにはかなりの来場者の問い合わせがあり、広告効果が絶大で大変喜ばれ、現在は歌舞伎座1階ロビーにあるショーケースで展示していただいています。

Q. ほかにもシニアをターゲットとしている事業はありますか。

歌舞伎座地下の木挽町広場にある歌舞伎座直営店で配布する企業のチラシを制作しています。また、歌舞伎座1階ロビーのショーケース内の展示なども当社が担当しています。

Q. 現在の課題がありましたらお聞かせください。

歌舞伎座イヤホンガイドCMで歌舞伎役者さんにナレーションしてもらうと、その分コストがかかります。そこに二の足を踏んでしまうクライアントから「歌舞伎役者でなくてもいい」と言われた場合は、イヤホンガイド社内の女性のMCがナレーションします。そうすると一気にCM感が出て、観客の反応も薄くなりがちです。やはり歌舞伎好きな方が歌舞伎座で聴くCMだからこそ広告効果がぐっと高まるので、ここをいかに理解していただきクライアントの獲得に結びつけていくかが課題です。

Q. 貴社はシニアマーケットをどう捉えていらっしゃるでしょうか。貴社における「シニア」の定義を教えてください。

今、シニアとひとくくりに言ってもその内訳はとても幅広いですよね。歌舞伎座にいらっしゃる方も、まだまだお元気で働いている方から車椅子でいらっしゃる方までさまざまで、一言ではくくれないと常々感じています。ですから当社ではあえて定義づけをしていません。

Q. シニアマーケティングに対する今後のお取り組み予定や今後の展望についてお聞かせください。

歌舞伎座で仕事をしていると、シニア世代の来場者の中でも元気なアクティブシニアが多いことに気づきます。このように、シニア世代の中でも元気で、かつ歌舞伎鑑賞を楽しむ余裕のあるセカンドライフを楽しまれているアクティブシニアに訴求した事業を展開していければと考えています。テレビのCMは席を立たれてしまうこともあるでしょうが、

イヤホンガイドCMはイヤホンガイドを利用している方の耳に確実に届きます。

現在、イヤホンガイドCMは歌舞伎座のほか、名古屋の御園座や大阪松竹座で、京都南座でも実施しています。今後は歌舞伎公演が定期的に開催されている、博多座などでもイヤホンガイドCMを展開していくことを目指します。どの劇場でもCMの入らない月がないくらい普及させることを、自分自身のライフワークにしたいと思っています。

 

 

 

 

 

予防・治療・介護を通して
一人ひとりのQOL向上に貢献

森永乳業クリニコ株式会社 クリニカルマーケティング部
製品開発グループ マネージャー 坂本純子様
マーケティング企画グループ グループ長 吉村俊一郎様
マーケティング企画グループ アシスタントマネージャー 斉田朋子様

栄養補助食品や流動食などの開発・販売を行っている森永乳業クリニコ株式会社。医療や介護の現場でさまざまな障害により食べることが困難な方々も楽しくおいしく食事を摂り、食べる喜びを感じてもらうべく、日々製品の開発に臨んでいます。今回は製品開発グループの坂本様、そしてマーケティング企画グループの吉村様と斉田様に製品開発のご苦労やこだわり、強み、そして今後の展望などについてお話をうかがいました。

2024年5月取材

Q. 貴社の沿革と業務内容について教えてください

(斉田氏)
当社は森永乳業グループの中の病態栄養部門という位置づけで、通常の食事だけでは身体に必要な栄養を満たすことができない方のための食品として、流動食や栄養補助食品などの開発と販売を担っています。1978年に森永乳業の100%出資で設立され、国立がんセンターとの共同開発で流動食「MA-3」を製品化したところから始まりました。2011年には流動食「CZ-Hi」が特別用途食品 病者用食品 総合栄養食品 表示許可第1号を、2020年にはとろみ調整食品「つるりんこQuickly」が特別用途食品 えん下困難者用食品 とろみ調整用食品の第1号として消費者庁より表示許可を受けました。入院されている方や介護施設に入所されている方、ご自宅にお住まいになっている方などどなたでもご使用いただけるよう、医療・介護施設向けの販売や通信販売など幅広く展開しています。 2024年3月には、「株式会社クリニコ」から現社名へ変更し、入院・入所・在宅療養すべてのステージで今まで以上にお客様のQOL向上に貢献したいという想いをもって新たな一歩を進んでいます。

Q. 介護食品事業への取り組み全体についての理念や特色などお聞かせください

(斉田氏)
当社の経営理念が「予防・治療・介護を通して、一人ひとりのQuality of Lifeの向上に貢献する。」ですので、事業のすべてはそこに繋がっています。特に製品力や製品開発の部分には力を入れており、森永乳業の研究所や本社と連携して安全・安心な製品の開発・提供をしております。また、各分野のオピニオンリーダーの先生方のご支援をいただきながら、栄養情報の発信、啓発なども行っております。 そして、流動食や栄養補助食品、とろみ調整食品、プレ・プロバイオティクス食品など、幅広い製品展開をすることによって、多くの方々のお役に立てるように取り組んでいます。製品開発にあたっては、おいしさには大変こだわっていますし、容器や使い勝手といった細かな点にも配慮して進めています。実際に召し上がる利用者様だけなく、そのご家族や医療・介護従事者のスタッフの方も含めた皆様のQOL向上につなげたいという想いがあるからです。

Q. 「特別用途食品 えん下困難者用食品」表示許可を取得したビタミンサポートゼリー開発の経緯や特色などをお聞かせください。

(坂本氏)
嚥下が困難な方でも食べやすく、さらに味もおいしく、食を楽しんでいただけることを意識して開発しました。少量でも栄養が摂れるよう、1個(78g)の製品の中にビタミンC500mgや食物繊維5g、オリゴ糖2g、シールド乳酸菌100億個などを配合しています。試行錯誤しながら数十種類もの味を試した結果、みかん味、マスカット味、パイナップル味、はちみつレモン味の4種を選定しました。ありがたいことに「おいしい」との声をたくさんいただいています。 嚥下困難な方に食べやすいものとなると物性を重視してしまい、栄養素があまり入っていない製品も少なくありません。その点、ビタミンサポートゼリーは栄養もしっかり摂れるという点が、大きな強みになっていると思います。

(許可文言:「本品は、誤えんに配慮した、えん下困難者に適した、栄養補給ゼリーです。」)

また、ビタミンサポートゼリーの他にも、食欲が落ちてきた方の効率的なエネルギー補給に配慮したタイプや喫食量が低下した方でも食べきりやすい少量タイプなど、さまざまなカップタイプのゼリーを取り揃えているのも当社の特長です。

Q. 製品を開発する上での留意点はどんなところでしょう。

(斉田氏)
栄養補助食品や流動食のみを食事としている方も多くいらっしゃいますので、製品の安全性はもちろんのこと、安定供給の点は非常に注意を払っています。当社の製品が生命線である方がいらっしゃいますから責任は重大です。味や栄養素、容器の微細な変更であっても、さまざまな視点から慎重に進めています。お客様の病態もさまざまですので、オピニオンリーダーの先生から、あるいは学会などで情報収集したりお客様の声を現場からいただいたりすることで、ひとりでも多くのお客様に寄り添い、困りごとを解決できる製品の開発を心がけています。

(吉村氏) とりわけ流動食に関しては、それだけで生命を維持されている方々がたくさんいらっしゃいます。製造拠点は盛岡と神戸の2カ所におき、BCP対策にも取り組んでいます。

Q. 貴社ならではの強みはどんなところにあると思われますか。

(斉田氏)
製品の種類の豊富さ、フレーバーの種類の多さといった充実したラインアップは当社の大きな強みです。流動食ひとつとっても何種類もありますし、疾患に配慮した組成を組んだ流動食・栄養補助食品もとりそろえています。森永乳業の研究所と連携して、「おいしさ」にもこだわり開発していますし、味のバリエーションが豊富な製品が多く、お客様が好みの味を見つけたり、飽きずに毎日食事を楽しめたりすることを意識した製品開発は徹底しています。

また、以下のような工夫も当社の強みと言えると思います。

「飲みやすさ」にこだわり、ストロー付き製品には、口径が大きく吸い込みやすい設計のストローを採用しています。

「開けやすさ」にこだわり、小さな力で開封しやすいマジックトップ™(密封性と開けやすさを両立させたパッケージングシステム)やラージキャップを採用しています。

「見た目や香り、味」にこだわり、食事時間を楽しんでいただけるよう食品本来のおいしさをお届けできる工夫も凝らしています。

「食べる楽しみ」にこだわり、栄養補助食品を身近に感じてもらえるようなアレンジレシピ(Enjoy Smileレシピ®)もホームページ上でご提案しています。

Q. 貴社の製品について医療従事者や利用者からはどのような反響がありますか。

(坂本氏)
やはり当社が強くこだわって開発している味(おいしさ)の部分については、特に高い評価をいただいています。8種類の味を揃えている栄養補助飲料「エンジョイクリミール」の利用者様から「胃からロイヤルミルクティーの香りがしました」というお手紙をいただいたことがありました。ほかにも、栄養状態が悪くなっているがん患者さんにもおいしく召し上がっていただきたいという思いで開発したカップタイプ製品では、「重い症状のがん患者さんが食欲のない時でも召し上がっていただける」、「パンだけの朝食にこの製品を付けるだけで、たんぱく質など不足しがちな栄養素が摂れる」という喜びの声もいただきました。

栄養補助食品はあまりおいしくないというイメージを抱く方も少なくなく、医療介護従事者の方でもその傾向があるため、そのイメージを覆すつもりで開発しています。ですから味について高くご評価いただくことが多いのは、本当にうれしくありがたいです。

やはり食べ続けていただかないと意味がありませんから、そのためにも今後もおいしさは追求していきたいと考えています。

Q. 現在、とりわけ力を入れている事業についてお聞かせください。

(吉村氏)
ここ10年ほど取り組み続けている事業のひとつに「リハビリテーション栄養」があります。「サルコペニア」という概念は、10年ほど前は、日本国内ではあまり知られておらず、一部のトップランナーの医療従事者のみが提唱しているという状況でした。このサルコペニアに対する栄養サポートが欠かせないものになると感じ、当社も取り組みを開始しました。

サルコペニア・リハビリテーション栄養の概念普及を目的に全国でのフォーラムに共催したり、オピニオンリーダーの先生に講演していただいたりといった啓発活動をはじめ、現在も継続しています。同時にリハビリテーション前後でも飲みやすいゼリー飲料タイプの栄養補助食品を開発しました。この製品は、おいしさにこだわった上でリハビリテーションにおける栄養管理で必要な栄養素(BCAA・たんぱく質、ビタミンD)を配合しています。

低栄養な状態でリハビリを行うと筋肉が減少してしまい、かえって状態が悪くなってしまいます。リハビリで体を動かしたことによるエネルギーの消費量や体重増加を目指したエネルギー蓄積量も考えて、より多くのエネルギーを取ることが大切です。かつては「回復途上でのリハビリなんだから体重が減るのが当たり前でしょうがないこと」という認識でしたが、現在ではADLの維持・向上を目的に、運動と栄養の複合的介入の重要性が理解されていて、国内の診療ガイドライン(サルコペニア診療ガイドライン2017)にも記載されるところまで広がっています。それに伴い、栄養補助食品のニーズも高まっていると認識しています。令和6年度診療報酬改定では、リハビリ(運動)・栄養・口腔管理の三位一体の取組みに注目が集まっており、今後ますます強化される分野と感じます。

また、在宅療養関連の取り組みとしては、入院されていた患者様が退院されてからの在宅生活のポイントをリーフレットと動画でお伝えする「今日も笑顔で『いただきます』」というシリーズ企画を実施中です。リハビリテーション科の医師、在宅医療がご専門の医師、管理栄養士、歯科衛生士といった各分野のトップランナーにご協力いただき、在宅生活に役立つ情報を発信しています。このリーフレットや動画はご本人だけでなく、ご家族にも好評です。

(斉田氏)
歯科と食(栄養)に関する取り組みにも力を入れています。食べる入口である口を整えること、そのうえでしっかりと栄養を摂ることの重要性を、多くの方により早い段階から理解していただきたいと考えています。ちょうど、2024年4月に新しいオーラルフレイルの概念が発表されました。オーラルフレイルとは歯の喪失や食べること、話すことに代表されるさまざまな機能の軽微な衰えが重複し、口の機能低下の危険性が増加しているものの改善も可能な状態を言います。当社もこの概念普及に協力しています。当社のサービスとしては、「もぐもぐ日記」というお食事相談サポートシステムを開発しました。歯科医療機関(モニタリングツール)と患者様(スマホアプリ)を連携すると、アプリ内に登録した患者様の食事写真を共有・解析できるシステムです。患者様はスマホアプリで食事の写真を撮るだけで操作はとても簡単です。その食事写真をAIが解析、食事のバランスやもぐもぐスコアをアプリが自動で算出して食習慣を4つの動物タイプに判定する仕組みで、患者様がゲーム感覚で楽しめます。また、歯科医療機関側では患者様の食事写真がそのまま確認できるだけでなく、食習慣の傾向や各種スコアの経時変化も確認できるため、患者さまの食事相談に活用できます。歯科領域での食事相談の普及が、健康寿命延伸につながればと考えています。

いずれも、当社の企業理念に合致する取り組みとして、今後も力を入れていきたい事業です。

Q. 現段階で業務上の成果、課題などがありましたらお聞かせください。

(斉田氏)
原材料の高騰への対応は喫緊の課題です。その他、これまでの販売先は病院や介護施設が多いため、在宅療養という分野にどのように取り組んでいくか、どうすればお役に立てるのかという点はまだまだ検討の余地があると思います。

Q. 貴社はシニアマーケットをどう捉えていらっしゃるでしょうか。貴社における「シニア」の定義を教えてください。

(斉田氏) 「フレイル」という概念が普及していきていますが、当社では「フレイル」の予防領域から終末期までをシニアのターゲットと考えています。

Q. シニアマーケティングに対する今後のお取り組み予定や今後の展望についてお聞かせください

(斉田氏)
リハビリ(運動)・栄養・口腔という三位一体の取り組みは、国としても推進しているところです。当社がこれまで行ってきたリハビリテーション栄養の取り組みに、この概念を絡めながら事業を展開していければと思っています。また、先の課題でお伝えしたように在宅療養の領域も取り組みを強化していきたいですし、各種製品カテゴリーについてもナンバー1の信頼をいただけるよう、今後も開発を続けていきたいと考えています。

 

(坂本氏)
当社がこだわっている「おいしさ」についても製品開発だけでなく、より広く捉えています。「おいしい」と感じるのは、食事の味だけではなく、食事をするときの環境も大きく影響します。製品の味へのこだわりはもちろんですが、「おいしく感じていただく環境づくり」や「食の楽しみの提供」にも取り組んでいきたいと考えています。そのひとつとして、みんなで「いただきます」を言いながら笑顔を繋いでいこうという「おいしい笑顔プロジェクト」を進めています。

このプロジェクト以外にも、栄養補助食品やとろみ調整食品を多くの方々にもっと身近に感じていただけるような取り組みを進めており、私たちはこれを「ボーダーレス化」と言っています。たとえばコメダ珈琲店に開発協力した「TOROMI COFFEE(とろみコーヒー)」というコーヒーが発売され、SNSでも話題になっています。とろみのついたコーヒーは嚥下困難な方だけでなく、健康な方も含めて新食感コーヒーという感覚で飲まれています。食生活に栄養補助食品やとろみ調整食品を自然に浸透させていくことで、介護食に対するマイナスのイメージを変えていければと思っています。

 

(吉村氏)
炭酸飲料向けとろみ調整食品「つるりんこシュワシュワ」も、嚥下困難でも炭酸好きな方が、私たちが想像している以上に多かったことから生まれました。通常のとろみ調整食品では炭酸感を残してとろみをつけることが難しいのですが、炭酸に特化した「つるりんこシュワシュワ」を開発したことで、炭酸感を残したまま、飲料本来の味もそのままにおいしく飲んでいただけるようになりました。この「つるりんこシュワシュワ」もとろみ調整食品へのイメージを変えるきっかけづくりにしたいと考えています。

今後も当社は、いつまでも笑顔で「食の楽しみ」を感じていただけるようなサポートをすることで、ご本人だけでなくご家族や周りの皆さまのQuality of Lifeの向上に貢献していければと思っています。

 


 

 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

43回 
パナソニックホールディングス
株式会社
第42回 
エアデジタル株式会社
第41回
NTT東日本

介護施設向け介護業務支援サービス
「ライフレンズ」と連携可能な「排泄センサー」

パナソニックホールディングス株式会社 事業開発室 スマートエイジングプロジェクト
総括担当/プロジェクトリーダー 山岡勝様

パナソニックハウジングソリューションズ株式会社 水廻りシステム事業部 トワレ事業推進部
商品企画課 主務 南弘嗣様

ビジネスアワード2023 プロダクト賞を受賞したパナソニックホールディングス株式会社の『介護施設向け介護業務支援サービス「ライフレンズ」と連携可能な「排泄センサー」』。今回はプロジェクトを担当されたパナソニックホールディングス株式会社の山岡勝様と販売を担当されたパナソニックハウジングソリューションズ株式会社の南弘嗣様に、「排泄センサー」開発の経緯や今後の展望などについてお話をうかがいました。

2024年4月取材

Q.「ライフレンズ」と連携可能な「排泄センサー」を「ライフレンズ」のオプションとして提供開始してから2024年3月で1年経ちました。このシステムを開発することになった経緯を教えてください。

(山岡氏)
2020年から介護施設向け介護業務支援サービス「ライフレンズ」の提供を始めました。これはシート型センサーとカメラにより入居者のお部屋での状態や生活リズムがリアルタイムで把握でき、入居者の状況に応じたケア対処を可能にし、夜間巡視の軽減など見守り業務を効率化する介護業務支援サービスです。ただ、入居者に対するより質の高いケアを提供するには、排泄も大きな要素になるという話になりました。

そこで大学などとも連携しながら現場で排泄センサーの実機評価を行ったところ、期待値は非常に大きいものでした。利尿剤を服用している入居者もいますし、服薬効果の確認に対して定量的なデータがあれば、看護師などの負担軽減にもつながります。実際、排泄の状態を管理しなければいけない入居者に対し、排泄が終わるまでトイレの前で待っているのは入居者と看護師双方の負担になりますし、入居者が流してしまうこともよくあるそうです。入居者はもちろん、看護師の心理的、身体的負担を軽減する意味でも、排泄を管理するセンサーが世に出る意味があるというということで、事業として立ち上げました。

Q. この1年の導入事例や成果についてお聞かせください

(山岡氏)
介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホームでご利用いただきました。期待通り、排泄の記録や観察が効率化できているのは実感しています。今後は業務の効率化のところだけではなく、排泄物の性状情報から健康状態の把握にどうつなげていくかを導入事業者さんと作り上げていくフェーズになります。

Q. 「排泄センサー」を導入された施設などからはどのような反響がありましたか。

(山岡氏)
「見えていないときでも定量的に把握できる」という点が、一番反響がありました。入居者が夜間に頻回に離床する現象はもともと「ライフレンズ」によって把握できており、その多くがトイレ動作を含んでいることもわかっていました。それに加えて「排泄センサー」によって、どういう性状の排泄がされているもわかるようになり、特に人の目が行き届かない夜間の生活リズムを睡眠と排泄という両面から課題を導き出していくアセスメントのデータとして使っていただくところが非常に喜んでいただいています。

服薬効果の確認という観点からは、入居者から「便が出ない」と言われ、医師がより強い薬に変更していくのは珍しいことではありません。それが今回の排泄センターをつけてみると、実際はかなりの頻度で水状便を繰り返していることがわかりました。こういうデータがあると、下剤が入りすぎているということもいち早く把握できます。認知症の方も多くいらっしゃるところなので、正しい情報に基づいた服薬管理の参考情報になっていくだろうという手ごたえを感じていています。

Q.実際に導入してから想定外のことはあったでしょうか。課題と対策についてもお聞かせください。

(山岡氏)
「ライフレンズ」が個室用にチューンナップされて作られているので、「排泄センサー」もおのずと個室のトイレを対象としていました。それが共用トイレを利用される頻度が、私たちが想定していたよりも多かったです。そこにいかに対応していくかが最大の課題といえます。現在、共用トイレにおける「排泄センサー」にとって最適な「人の認証」がどういうもいのか、現場のみなさまと共に実証実験を始めたところです。

また、今回は「ライフレンズ」に組み合わせて「排泄センサー」を使う形ですが、「排泄だけ見たい」という希望も現場から多くありました。そこで「排泄センサー」だけで稼働するような「ライフレンズ」の検討も始めています。

ほか、何も出ていないという表示が出たときでも、少量の尿や便の排泄があることもあるのですが、少なすぎて検知できていないというケースがありました。介護の観点からも、まったく出ていないのか、少量でも出ているのかは大きな違いになってくるので、そこはより精度を上げていかなければならないと感じています。


(南氏)
入居者が施設内の違う部屋に移るケースも予想以上に多かったため、必然的に部屋から部屋の移設の頻度も想定よりも多くなりました。そのため、今以上に設置性を簡易的にできるような形にしていきたいと考えています。

Q.  貴社における「シニア」の定義を教えてください。

(山岡氏)
プロジェクトによってシニアの定義も年齢の設定も変わります。「ライフレンズ」においては介護施設に入居される方がシニアということになりますので、要介護2以上の方や、介護職員さんのサポートがないと生活が難しいというレベルの方となります。現場の介護職員さんの負担を軽減するというところが重要ですので、高齢者のデータを取りつつ、いかに介護職員さんに意味のあるソリューションになるかというところを日々考えています。

Q.  「排泄センサー」ならびにシニアターゲティング市場における今後の抱負をお願いいたします。

(南氏)
排泄センサーはB to B向けということで対象は施設ですが、パナソニックはB to Cも得意とする領域ですので、いずれは個人が購入し、ご家庭で「ライフレンズ」と「排泄センサー」を利用していただけるころまで持っていけたらと思っています。また、現在所属している部署では排泄センサーだけでなくトイレ事業を全体で見られるため、介護支援向けだけでなく、障害やハンデのある方へのサービスや製品の提供についても考えていきたいです。


(山岡氏)
当社は介護予防にも力を入れており、事業開発の連携パートナーであるポラリスさんというデイサービス事業所と自立支援介護プラットフォームを共同開発しました。たとえば寝たきりになってしまったシニアの方にも正しいリハビリテーションを通して、もう一度自分の足で歩けるようにするなどです。要介護4の寝たきりの方が半年後に自分の足で歩けるようになった事例もあり、「もう一度元気になってやりたいことをやる」というのは社会的にも素晴らしいことです。さらに今後は要介護高齢者だけでなく、介護予防期にある高齢者、独居の高齢者の孤立を解消するといったところも含めてサポートできればと思っています。

2040年に全世代人口減が始まると介護施設の需要が減り、従来よりも重症化した要介護者のケアを在宅で行わなければいけません。われわれとしては介護施設で培ったノウハウを生かし、在宅の介護の役に立つことが使命だと考えています。今後は在宅の高齢者に関する事業にも力を入れていきたいと思っています。

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第42回 
エアデジタル株式会社
41回
NTT東日本
40回 
トリニティ・テクノロジー
株式会社

楽しみながらフレイル予防する
運動習慣化施設

エアデジタル株式会社 
代表取締役 前田相伯様

ビジネスアワード2023 ビジネスモデル賞を受賞したエアデジタル株式会社の「楽しみながらフレイル予防する運動習慣化施設」。今回は代表取締役の前田相伯様に、現在の施設の状況や課題とその対策、今後のビジョンなどについてお話をうかがいました。

2024年4月取材

Q.「楽しみながらフレイル予防する運動習慣化施設」の新業態を開始されてから1年以上経過しました。まずは施設のご紹介をお願いします。

当社はもともとデジタルスポーツ空間の販売やレンタルをしており、その実機を展示・体験いただく場として埼玉県久喜市のショッピングモール、アリオ鷲宮に体験型デジタルスポーツフィールド「スポーツ60&スマート」を開設しました。そこを昨年、「健康は保ちたいがフィットネスクラブに通うほどでない」という中高年・高齢者がスポーツを通じて楽しく運動できるよう、デジタルと非デジタルが共存する空間としてリニューアルオープンしました。連携協定を締結した久喜市、株式会社安藤・間とも協力し、本気のスポーツにデジタルを掛け合わせたEスポーツフィールドで構成されるデジタルスポーツフィールドに、 本格筋力マシンフィールドを融合させた施設です。

デジタルスポーツフィールドはデジタルコンテンツで脳神経を活性化させ、体も動かしながら身体機能の向上を狙い、トレーナーやプレイヤー間の交流も楽しめるフィールドです。バランス感覚を強化するレジェンドティーバッティング、足腰を鍛えるレジェンドサッカー、胸部のトレーニングになるレジェンドアーチェリーなど、11種類のコンテンツを提供しています。筋力マシンフィールドはデジタルスポーツ空間での運動で不足する筋力や可動域拡張を解決するため、トレーナーのサポートのもとで行う筋力トレーニングフィールドで、いわゆるフィットネスクラブにあるマシンをイメージしていただくとわかりやすいと思います。

Q. この1年の成果についてお聞かせください。

月に300~600名ぐらいのご利用があり、平日はシニアの方、土日祝日はファミリーで利用されるケースが多く、来訪者の約半数がリピーターです。年齢層も幅広く、3歳でゲームしている子もいれば、90歳以上の方がいらっしゃることもあります。障害のある方のご利用もあり、車椅子の方などは利用できないマシンなどもありますが、料金を半額にした上で理学療法士やサポーターをつけて、楽しみながら安全に利用していただけるようにしています。

個人での来訪だけでなく、近隣のデイケアセンターから団体でいらっしゃることもあります。シニアの方にとって使い方のわからないマシンは怖くて利用できないでしょうし、一度使い方を教わっても忘れてしまうこともありますから、こちらも安全・安心に利用していただけるようサポート体制を整えています。

Q. 実際に新業態を開始してから、想定外のことがありましたら具体例をお聞かせください。

当初は40~70代の方の利用を想定していたので、これほどまでに幅広い年代の方にご利用いただけていることにはやはり驚きました。また、施設の中でもとりわけ人気の高いものについては、休日ですと順番を待って並ぶという状況も生じました。たとえばデジタルスポーツフィールドにあるレジェンドティーバッティングやレジェンドサッカーは、大人はもちろんお子さんにも大変な人気です。待ち時間が生じた場合はほかのフィールドで楽しんでいただくなどの誘導も行っています。また、シミュレーションゴルフについては当初扱っていませんでしたが、地元からのニーズが高く導入しました。

Q.「楽しみながらフレイル予防する運動習慣化施設」という新しい業態をスタートする際、苦労されたのはどんなことでしょう。

私はもともとゲームなどデジタルの世界が長かったので、デジタルとフィットネスやフレイル予防というヘルスケアをいかに結びつけるかにはやはり苦労しました。理学療法士やトレーナーなどの専門的な知見のあるスタッフからたくさんヒアリングしてこの形態にすることができました。

Q.  施設利用者の方からはどのような反響があったでしょう。

最初は「どの方にも楽しく利用していただきたい」という思いでいましたが、リニューアルオープンしてしばらくしてから「それは違うな」と思うようになりました。来訪される方がフィットネスでトレーニングしたい方、デジタルスポーツフィールドでサッカーや野球を満喫したい方、パソコンでゲームを楽しみたい方など用途が多種多様なので、目的がそれぞれ異なる以上ひとくくりにはできないと。ただ、リピーターの方が多いということは、やはりお客様ごとに満足していただける要素があったのだろうと感じます。

Q.  現段階の課題とその対策についてお聞かせください。

いわゆるフィットネスクラブを運営するぐらいの収益性まではいたってないのが課題です。リニューアル後も利用料金を上げる勇気がないということも一因で、立地の面からも値上げは難しいところです。解決のためには平日の利用者を増やすことが必須ですので、地域のデイケアセンターなどとの連携を試みるほか、施設の使い勝手などを再検討し、現在レイアウトから改めて作り直そうとしているところです。

Q. 貴社における「シニア」の定義を教えてください。

実はシニアを「●歳から」などと定義づけたことがありません。今回リニューアルした施設についても「40~70歳」というざっくりとしたターゲットは設定していましたが、ふたを開けてみればこれだけ幅広い年齢層にご利用いただいていることからも、あえて設定する必要はないと考えています。

Q.  シニアターゲティング市場における今後の抱負をお願いいたします。

まず、近隣のデイケアセンターさんと連携するようなビジネスはぜひやっていきたいと思っています。今よりもっとシニアターゲティングに特化させていくなら、公的な支援も受けた上で店舗もデイサービスの区画、デジタルスポーツフィールドの区画といった形にし、休日は全区画開放して従来通りご家族で楽しんでいただけるスペースとすることは、次の目標として見すえています。

また、うちの機器とモバイルを連携させることも最優先事項として進めていく予定です。そうすると運動量を計測するウェアラブルがあれば、うちのコンテンツのゲームの予約にも使えますし、モバイルと連携する機会も増えるので、そうなったらアプリがあるとより便利ということになりますから、順に段階を踏んでいければと思っています。センサーカメラをつけてお客様のプレーしている模様の写真か動画いずれかをQRコードで操作パネル上に出して、お客様がモバイルで取り込めるようにします。これはエンタメの分野になりますが、エンタメから入ればアプリをインストールしていただきやすいので、それからヘルスケアの提案につなげていきたいと考えています。

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シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

41回 
NTT東日本
40回 
トリニティ・テクノロジー
株式会社
39回 
東京トラベルパートナーズ
株式会社

産官学連携による

「シニア×ドローン×地域課題解決」

~ドローン操縦を通じた、

シニアが健康で活躍できる地域づくり』への

取り組みに向けた協定を締結~

 

NTT東日本 ビジネスイノベーション部 まちづくり推進グループ まちづくり推進担当 岩見晃希様

NTT東日本 ビジネスイノベーション部 まちづくり推進グループ まちづくり推進担当 林若菜様

埼玉県本庄市役所 市民生活部市民活動推進課 課長補佐 小林弘幸様

ビジネスアワード2023 シニアライフ賞を受賞したNTT東日本『産官学連携による「シニア×ドローン×地域課題解決」~ドローン操縦を通じた、シニアが健康で活躍できる地域づくり』への取り組みに向けた協定を締結。今回は共同実験を牽引されてきたNTT東日本の岩見晃希様と林若菜様、共同実験のフィールドとなった本庄市の小林弘幸様に、実験の成果やシニアの定義、そして今後の展望などについてお話をうかがいました。

2024年3月取材

左からNTT東日本林氏、岩見氏、本庄市小林氏

Q.ドローン操縦によるシニアの健康増進や社会参画促進への取り組みと、産官学連携を形成された経緯についてお聞かせください。

(岩見氏)
日本の65歳以上人口は3621万人と総人口の28.9%まで増加しており、高齢者の健康問題が社会課題とされています。ドローンの操縦技術の習得と実際の活用がシニアの健康維持・社会参画促進、さらに地域課題解決に有用性があるのではないかという仮説のもと、それらを検証するため、産官学連携にて共同実験を実施することとしました。


具体的な役割分担としては、シニアへのドローン施策の実施にあたり、シニアのフィジカルやメンタルに及ぼす影響の効果測定・考察を筑波大学、シニア向けドローン講習のカリキュラム作成、講習実施・運営を一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)、本庄市自治会連合会にターゲットシニアの募集や参加シニアからの問い合わせ対応や実証実験の運用支援を担当していただきました。弊社は、シニア向けドローン講習カリキュラム作成支援、情報取り纏めなど実証実験の全体管理およびシニアドローンパイロット育成とドローンの活用による地域活性化モデルの検討および社会実装検討の役割を担いました。

(林氏)
そもそもなぜシニアとドローンを紐づけたかといいますと、ドローンは弊社のアセットでもあり、橋梁点検業務などで広く活用しております。我々も実際にドローンを操作してみたところ、想像以上に指先の神経を使い、上手く飛ぶと気持ちが高揚し、次はどんな風に飛ばそうかと思考し、屋外にでて歩き回ることを体感しました。そこで「もしもシニアの方が私達と同様にドローンを扱ったらフレイル予防につながるのではないか」、「家に閉じこもりがちのシニアの方も、ドローンであれば楽しみながら屋外に出て地域の方々と交流するきっかけになるのではないか」とそんな考えから始まりました。最初は社内外で「シニアの健康維持や地域活性化になぜドローンなのか?」という声はあったのですが、この実証により現在もシニアの方々はドローン操縦を趣味とし、地域コミュニティが深まり生き甲斐や楽しみとなっていることからメンタル面では大きな影響力があったと感じております。

Q. 今回の共同実験に参加されたシニアの選出基準や対象者について教えてください。

(林氏)
参加条件は本庄市在住の65~75歳ということのみで、自ら応募してくださった方全員が、そのまま受講生となりました。実際の参加者の年齢は65歳から72歳、全員男性でした。実は全員が脱落することなく最後まで楽しく参加してくださったのも想定外で、半数くらいは途中でリタイアされるかもしれないという状況も想定していました。しかし、参加シニアの皆様のドローン操縦技術の向上意欲が非常に高く、シニアの皆様は大変お元気で楽しくドローンを操縦されておりました。「後期高齢者にドローン操縦は難しいのでは」とこちらの先入観で75歳までのシニアの方と定義したのですが、みなさまの生き生きとした様子を目の当たりにして、上限の年齢を80歳くらいにしても、きっと元気に参加してくださっただろうと思いました。

Q. 共同実験の具体的な取り組み内容をお聞かせください。

(岩見氏)
実際にシニアがドローン操縦をするにあたり知識・技術の習得が可能なのかという検証から、シニア自身の健康増進への影響、さらにはシニアドローンパイロットの活躍による地域課題解決や多世代が共生するまちづくりが可能かについて調査を行ってきました。講習会への参加者への事前説明会では、やはりみなさんが初対面ですからすぐさま打ち解ける、という感じではありませんでした。講習会では、シニア間で全員の方々とコミュニケーションを取ってもらいたいと思っていたので、カリキュラムを進める際のグループは毎回シャッフルをしていました。講師の先生方にも各グループ内でお互いに助け合えるようなカリキュラムにしていただくよう、グループ全員で操縦者を応援したり操縦者の補助役をしたりと、協力しあえる講習内容にいたしました。結果、参加されたシニアのみなさん全員が最後まで講習をやりとげ、ドローン操縦技術を身につけられました。
講習終了後も、実証に参加された13名で自発的に本庄市シニアドローンクラブを立ち上げ、今も頻繁にみなさんでドローン操縦の腕を高められております。講習後にそのような形で自発的にドローンとの関わりを続けられるとは思ってもみなかったので、これこそ今回の実験の最大の成果ではないかと感じますし、今も変わらないメンバーで活動されていることを大変うれしく思います。
また、趣味としてドローン操縦を楽しむだけでなく、地域の小学生にドローン操縦教室を開催したり、地域の防災活動にドローンを使って参加したり、地元の小学生の地域学習授業のため本庄市の現状をドローンにて空撮し、授業に用いたりと、活動の幅を広げていらっしゃいます。

Q.小学校でのドローン空撮動画を使った授業や、ドローン操縦教室について詳しくお聞かせください。

(岩見氏)
本庄市と弊社は 2023 年 9 月 15 日に、シニア活躍推や多世代共生による地域活性化の実現にむけて「ドローンを活用した小学校授業動画作成及び授業のトライアル実施に関する協定」を締結しました。本協定にもとづき、ドローンクラブのみなさまがドローンで撮影した地域の映像を、弊社の社内映像チームが授業用の映像へ編集し、2024 年 2 月 14 日の本庄市立共和小学校の地域学習授業で活用しました。
児童からは動画視聴中に「あれ学校だ!」「ここ見たことある!」など自身の生活に照らした感想が多くでました。また、ドローンクラブのみなさまには授業の一環でドローンの紹介やデモフライトを実施いただき、児童は初めて触れるドローンに興味津々でした。
本施策を通じて、われわれとしては、ドローン空撮映像は児童の授業理解を促進し、よりよい学習へと昇華させることができるものと感じました。先生方からも同様の意見を伺っています。ドローンクラブのみなさまには、児童がどうしたら喜んでくれるか創意工夫してくださり、多世代共生の取り組みのよい事例になったと思います。

(小林氏)
ドローンクラブの皆様には、授業の素材となる映像撮影のため、朝早くから現地で撮影していただきました。ほかにも、授業内容の深掘り、授業で使用する資料の収集にもご協力いただくなど、今回の事業実施に大きく貢献していただきました。シニアと小学生が触れ合う機会を作ることができ、大変有意義な取り組みだったと考えています。

地域学習授業の様子
(NTT東日本・本庄市・本庄市シニアドローンクラブ)
児童もドローンに興味津々
(NTT東日本・本庄市・本庄市シニアドローンクラブ)
地域学習授業でドローンによる空撮映像を使用
(NTT東日本・本庄市・本庄市シニアドローンクラブ)

Q.  シニアがドローン操縦を学び、地域貢献活動に参加することで期待されるのはどんなことでしょう。

(小林氏)
本庄市には市民提案型協働事業制度があり、ドローンクラブも「ドローンでこういう場所を空撮したい」とか、それをどんなことに使いたいかといったご提案をいただき、小学校でのドローン操縦教室のように本庄市の協働事業という形で進めたものもあります。今後も市としては会場の提供や関係機関との連絡調整、また広報などの分野で支援するなど、協働で事業を進めていければと考えています。こういった方々がどんどん社会に参加して活動していただきたいですし、地域で交流の機会が生まれるような取り組みができればと考えています。

(岩見氏)
シニアのみなさまがやりがいや生き甲斐をもって元気に生活できるように、さらには地元の子どもとの交流の場を広げたり、地元のためにドローン技術を活用して活動したりして、地域活性化を促進したいです。新たな雇用が生まれるなど、ビジネスとしても成り立ち、経済循環ができることが理想です。

屋内でのドローン操縦
本庄市シニアドローンクラブのみなさんと
本庄市小林氏、NTT東日本林氏・岩見氏

Q.  共同実験に参加されたシニアのみなさまからはどのような感想の声が届いたのでしょう。

(岩見氏)
参加者のみなさまからは以下のような感想をいただきました。抜粋してご紹介します。

・講習会は同年代の方々でとても楽しかった。その後、講習会参加者でクラブを設立し、マイドローンを所有するまでに至った。大変楽しい老後の趣味を見つけた。


・ドローンには興味を持っていたものの年齢的に無理かなと思っていたが、シニア対象の講習会があると知り、チャンスと思い参加。年齢が近い人の集まりなのであまり気張らずにできた。クラブの発足により機体の購入や登録申請なども相談でき、飛行の環境なども指導してくれる仲間がいるので楽しく活動している。ひとりではとてもできなかったと思う。


・普段は付き合いのない仲間ができ、参加して本当によかった。


・子どもの見守り活動に使えないかと考え参加した。講習も先生方がフランクに教えてくださり楽しかった。クラブもでき、色々な地域の才能豊かな人達と知り合えたことが、ドローン以上に自分へのプレゼントだと感じる。


・ドローン講習の最初の座学でドローンを取り巻く法令の洗礼を受け、重い気持ちのスタートだった。しかしドローンを用いた操縦実施訓練になると毎回楽しくて、講習終了後まもなく練習用のドローンを購入した。また、講習を一緒に受けた素晴らしい仲間とも意気投合しクラブを結成、充実した日々を送っている。もし、今の自分にドローンがなかったら寂しい日々を過ごしていたと思う。ドローン講習の企画を出してくれた NTT東日本 のみなさま、ドローン講習の機会を提供していただいた本庄市役所の方々、ドローン講習に共に参加し充実した時間を共有してくれる仲間たちに心から感謝している。


・写真が趣味なのでドローンでの撮影にも興味があった。座学で色々な法令の規程があると知った。老化防止も兼ねて今後も楽しく活動したい。


・ドローンが不法投棄や小学生の登下校時の見守りなどに役立てないかと考えた。引きこもりがちだったが、講習を経てドローンクラブができたおかげでみなさんと日々楽しく、忙しく過ごしている。これからも飛行練習や法令の習得に精進し、1 等無人航空機操縦士を目指したい。


・田畑への農薬散布に利用できないかと思い参加を決めたが、最初の座学でそれが簡単ではないことがわかりがっかりした。しかし実技は日を重ねるたびに楽しくなり、今では仲間と一緒にマイドローンを飛ばすことができるようになったので、講習に参加してよかった。


・昔から自由に飛べる空が好きだったので、ドローンにも興味があり講習に参加。ドローンを操縦できるようになり、さらにクラブに入って新たな生活リズムが生まれた。


・ドローンは空飛ぶオモチャと思っていたが講習を受けるとなかなか難しく、だからこそ面白くなった。


・講習の参加者が13名という人数はちょうどよかったと感じる。メンバーのシャッフルにより参加者全員と話せたことが、その後のクラブ設立につながったと思う。新しい趣味の友人ができてうれしい。今後は私的な趣味として楽しむのはもちろん、公共的なことにもドローンを介して協力していきたい。

Q. 御社はどのように「シニアの定義」を設定されているのでしょう。

(岩見氏)
われわれで定義としているのは、65歳以上の地域のみなさんです。定年退職などで会社を引退し、「地域のためになにか行動したいがなにをやろうか」、「老後の趣味を探している」という方々と地域活性化をつなげる、新たな雇用を生み出すといったまちづくり活動を行っています。

Q.  今後の抱負をお聞かせください。

(岩見氏)
シニア世代の活躍促進や多世代交流促進によって、やりがいや存在価値を感じるアクティブシニアの増加や地域愛あふれる若者輩出、持続可能な活気あふれるまちづくりに向けて引き続き取り組んでまいります。シニアの皆様向けのドローン講習プログラムの提供に加えて、NTT 東日本内の映像チーム V-TECHXがSNS の伴走支援や画像/動画編集の技術習得のサポートをすることで、地域の魅力を発信できる集団へと昇華することができると考えています。その他にも NTT ではドローンによる設備点検のスキルも有しており、シニアのみなさまが市内の設備点検ができるよう支援することも可能だと考えます。また、グループ会社の NTT e-Drone Technology では農業用のドローンを操縦できるようにするプログラムも提供していますので、シニアのみなさまが多様な分野で活躍できるように支援することも可能です。今回が実験だけで完結するのではなく、さらに次のステージに進むための最初の一歩となることを願っています。

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40回 
トリニティ・テクノロジー
株式会社
39回 
東京トラベル
パートナーズ株式会社
第38回 
パナソニック株式会社

人にしかできないサービスを
テクノロジーの力で展開


トリニティ・テクノロジー株式会社
取締役COO兼CTO 大谷真史様

「スマート家族信託」など高齢者向けサービスを展開するリーディングカンパニーとして急成長中のトリニティ・テクノロジー。取締役COO兼CTOの大谷真史氏に、サービスの詳細や30年後の日本を見すえた取り組み、今後の展望などについてうかがいました。

2023年8月取材


Q.シニアマーケット市場への参入までの経緯と、提供されているサービスについて教えてください。

当社は2012年に司法書士法人トリニティ・グループを創業し、法律系士業として事業を行ってきました。次第に相続やライフエンディングといった領域の仕事を手がけるようになり、シニアマーケットにおける業務の比重が大きくなっていきました。2020年にトリニティ・テクノロジーを創業し、「人×テクノロジーの力でずっと安心の世界をつくる」をミッションに掲げ、スタートアップ企業として活動しています。

現在は「スマート家族信託」「おひさぽ」「スマホde相続」「TRINITY LABO.」という4つのサービスを展開しています。「スマート家族信託」は認知症による資産凍結を防ぐ家族信託を全国に正しく普及させる事業、「おひさぽ」はお一人の高齢者の方が安心して暮らせるよう、家族の代わりに寄り添うサービスです。「スマホde相続」は相続アドバイザーと経験豊富な専門家が相続手続きをサポートするサービスです。「TRINITY LABO.」は税理士・司法書士・保険のプロフェッショナルなどが自らの専門領域を超えてプロフェッショナルを目指すコミュニティで、4つの事業のうちこの「TRINITY LABO.」のみB to Bとなっています。残り3つはB to Cの事業で、いずれも高齢者の方々の課題を解決するものです。

Q. 「スマート家族信託」について、詳しい内容をお聞かせください。

「スマート家族信託」は家族信託を活用したサービスですので、家族信託が重要性を増している背景からお話します。

日本では、高齢者数が増加するとともに認知症患者数も増加しており、2020年には約630万人だった認知症患者は、2050年には1000万人に達すると言われています。2050年の日本は人口が1億人を切ると予想されているので、およそ10人に1人が認知症患者という状況になると予想されています。

認知症になると意思確認ができなくなり、判断能力を失ってしまうといった問題が生じます。そうすると、銀行で自分の預金を引き出すことが認められず、自宅を売却して介護施設に入ろうと思っても自宅を売ることができない、定期預金の解約ができないなど、いわゆる「資産凍結」に陥ってしまいます。

この資産凍結問題への対策として登場したのが家族信託です。家族信託を活用することで、高齢者が認知症になる前に、財産や資産の管理・処分権を信頼できる家族などに託すことで、認知症になった後でも財産の凍結を免れることができるのです。親御さまが認知症になってしまっても、お子さまの意思で財産を自由に動かせるといった仕組みです。

そこで、家族信託を誰でも簡単・便利に利用できるものにし、家族信託を日本全国に正しく普及させることを目指して「スマート家族信託」をはじめました。認知症になり介護や医療など様々なシーンでお金が必要になった際、いざ貯めてきた老後資金を使おうとしてお金を動かせないというのは大変な打撃です。それを事前に回避するための仕組みが家族信託なのです。サービス開始から2年ほどが経ち、現在では年間数千件のお問い合わせをいただくなど、順調にサービスの普及が進んでおります。

Q. 一度凍結されてしまった財産は、もう戻ってこないのでしょうか。

実はひとつ方法があります。成年後見制度といって、認知症などで判断能力が低下した人をサポートする制度です。本人に代わって契約手続きや財産管理のサポートを行なう「後見人」が家庭裁判所によって選任され、本人の代わりに契約手続きや財産管理などを行います。ただ、一度後見制度を利用すると財産が後見人の管理下に置かれることになります。「認知症のお母さんのためにエプロンを買いたい」と家族が言ったものの後見人に「なぜ必要なんですか」と言われ、認めてもらえなかったということがありました。本人の財産の保全を目的とするあまり使い勝手がよくないなど、課題が散見されており普及がなかなか進んでいません。

Q.「おひさぽ」についてもサービスの詳しい内容をお聞かせください。

「おひさぽ」はお一人様の高齢者を支援するサービスで、「スマート家族信託」を通じて得た気づきから生まれました。自身の財産を丸ごと託せるようなご家族がいらっしゃる方は、決して多くありません。

お子さまがいらっしゃらないケースや、お子さまがいたとしても遠方に暮らしていて親御さまの財産を管理することが難しかったり、疎遠になっていたりというケースがあります。そのような方をサポートするためのサービスが「おひさぽ」です。お子さまの代わりに親御さまに生涯寄り添っていくというのが、このサービスのコンセプトです。定期的な電話連絡や訪問、緊急時の対応、生活事務支援などさまざまなサポートを行うほか、介護施設や病院などで求められる身元保証人にもなります。さらにご本人がお亡くなりになった際には葬儀などの死後事務も行います。これらのサービスにより、高齢者の財産管理や相続、ライフエンディングに関する課題を解決します。

Q.  御社独自のシニアマーケティング戦略の特徴はどのようなものでしょう。

当社がスタートアップであるという背景があります。司法書士発のスタートアップというのは非常に稀な存在です。当社は法律系士業のバックグラウンドを持ち、専門性を活かした事業を行っています。また、アライアンスも重視しており、現在までに顧客紹介などのアライアンスを結んだ金融機関は10行を超え、今後も拡大予定です。

このような士業としてのバックグラウンドと金融機関を中心としたアライアンス活動が当社の強みであり、マーケティング戦略の一翼を担っています。

家族信託については2016年から司法書士法人として扱っているため、実績としては全国トップクラスであり「家族信託のトリニティ」というブランディングが少しずつ積み上がってきていると感じます。

Q.  シニアマーケットについてはどのように捉えていらっしゃいますか。

日本市場が縮小傾向にある中で、シニアマーケットは非常に大きな潜在力を秘めた市場だと考えています。また、この分野には世界的にも未解決の課題が多く存在します。日本は高齢化が急速に進んでおり、これに対処するための新たなアプローチが求められています。シニアマーケットが重要な分野であることは間違いありません。

Q. 他社へのOEM提供についてプランや予定はありますか。

他社へのOEM提供についてはいくつかのアプローチを取っていますが、現状はスマート家族信託のOEM提供・パートナーシップ戦略を重点的に行っており、顧客のニーズに合わせたサービス提供を行っております。

Q.  サービスの今後の展開についてお聞かせください。

「スマート家族信託」を中心に新たな展開を模索しています。認知症患者数の増加に伴い家族信託の需要が増大することが予測されるため、まずは家族信託市場の拡大に注力しています。現在、家族信託に対する認知率は、お子さま(受託者)世代でおおよそ約30%となっていますが、この数字を引き上げることが第一の目標です。家族信託のリーディングカンパニーとして、家族信託の重要性や資産凍結問題による影響を広く理解していただけるよう、認知度を高めていきます。

また、家族信託は信託法に基づく制度であり、受託者には帳簿レシートはすべて保存する必要があったりと雑務も生じるのですが、どうしても「財産を凍結されないようにする」「信託契約を締結する」という1点にフォーカスしてしまい、その後の財産の使い道や法的な準拠が抜け落ちてしまいがちです。結果として信託された財産を使いっぱなしにして報告していない状態になってしまう事例もあります。そこで、当社が「スマート家族信託」で提供しているシステムを活用していただければ、自動的に記帳されたり、レシートの画像から帳簿を作成したりと、記帳や情報管理の効率化を図ることができます。家族信託が正しく運用されしっかり市民権を獲得していくためにはここまでやらないと、マーケットリーダーを目指す企業としての責任は果たせないと思っています。家族信託を扱う企業でこのようなシステム提供を行っているのは現時点では当社だけですので、今後もさらに家族信託の正しい運用を支援し、認知度アップに努めていかなければという使命感が、社員のモチベーションにもつながっています。

Q.シニアマーケットの今後についてはどのようにお考えでしょうか。

現在、シニア向けの特定のプレーヤーが伸長しており、そのニーズが高まっています。これに伴いウェアやサービスも増加し、シニアマーケットはさらなる拡大を遂げると予測されます。競合他社の増加も予想されますので、当社は「スマート家族信託」のサービスを通じて業界のリーダーとしての責任を果たしていきたいと考えています。

 

Q.御社はどのように「シニアの定義」を設定されているのでしょう。

65歳以上」などと年齢でのくくりもあるとは思いますが、当社では年齢を単純な指標としては見ていません。実は社内ではシニアという言葉はほとんど使われていないのです。そもそもシニアマーケットという中でしか事業を展開していないので、あえて定義づけられてもいません。というのも、「スマート家族信託」の顧客の平均年齢は約50歳。つまり高齢者ご本人のみではなく、お子さんとご一緒にお問い合わせされる方が非常に多いのです。家族信託においては、単にシニアだけでなくそのご家族をサポートすることが大切なので、「当社におけるシニアとは●●である」と定義づける意義や必要性がもないとも言えるでしょう。

 

Q.御社が現在抱えている課題とその対策についてお聞かせください。

現在の課題は、市場の成長速度を追い越すことです。家族信託の市場自体も毎年成長していますが、私たちの成長は市場の成長を追い越さなければなりません。シニアマーケットにおいては、大々的な広告キャンペーンよりも信頼性のある情報発信が重要なのですが、ただ認知度を上げるだけでなく、必要な方に適切な情報を届ける方法を模索しているところです。

Q.今後予定している取り組み、さらに今後の展望をお聞かせください。

「スマート家族信託」を拡大して大きな事業にしていくことを目指しています。私たちのミッションである「人×テクノロジーの力で安心な世界を作っていく」を達成するため、高齢社会の課題を解決し、安心な社会を実現するために取り組んでいます。家族信託を通じて高齢者とその家族の不安や課題を解消し、社会全体の課題を少しずつ解決していくことで「そういえば過去にそんな社会問題があったね」という状態にしていきたいですし、それを受けての企業成長だと思っています。これからも高齢者の課題を解決しつつ社会全体の課題にも貢献していける企業として、ミッションの実現を目指します。

 

 

トリニティ・テクノロジー株式会社 ホームページ https://trinity-tech.co.jp/


 

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第39回 
東京トラベル
パートナーズ株式会社
第38回 
パナソニック株式会社
第37回 
AYAクリエイティブ

孫がプロデュースするTikToker
シニアインフルエンサー「きょうかのばあば」

きょうかのばあば氏  菅原京香氏

2023年6月 取材

 

Q. TikTok「きょうかのばあば」を始めた経緯をお聞かせください。

(菅原京香氏)

TikTok「きょうかのばあば」を始めるきっかけとなったのは、大学進学のため上京したのを機に祖母と2人暮らしを始め、彼女がスマホを自在に使いこなしている様子を目にしたことです。PayPayでお年玉を贈ったり、Zenlyで私の帰りを確認したり、モバイルPASMOで電車に乗ったりする姿を見るたび、70代とは思えないほど巧みにテクノロジーを使いこなしていると驚きました。その様子をTikTokをはじめとするSNSに投稿したところ、多くの方から反響をいただきました。これをきっかけに、日本のシニアマーケットの可能性や、日本におけるデジタル化の遅れを解決するアプローチになるのではないかと考えるようになり、実際にTikTok「きょうかのばあば」として始めることにしました。

数あるプラットフォームからTikTokを選んだ理由は、今あるSNSの中で、アルゴリズムという観点とユーザー数が増えるという面で、一番伸びるポテンシャルがあるSNSだと考えたからです。TikTokのアルゴリズムは、新しいアカウントの動画はまず数百人のユーザーに表示、動画がどのように受け入れられるかを確認し、好評ならより多くの人々に表示するというものなので、0からアカウントを作ったとしても伸びしろがあると考えました。実際、配信を始めて6カ月の間に、35万回以上の再生数を誇る動画を3本ほど生み出すことができました。また、リサーチする中で、TikTok上でのシニアインフルエンサーが増えてきているとわかったことも理由のひとつでした。

シニアの定義は「65歳以上の人々」ととらえていますが、ライフスタイルや健康状態、価値観などによって十人十色です。テクノロジーをどれくらい使いこなせているかという点だけでも、かなりの幅があると思います。TikTok「きょうかのばあば」では、テクノロジーを駆使して日々を謳歌するひとりのシニアの日常を発信したいと考えました。なお、メインはTikTokですが、Instagram、YouTube shorts、lemon8などにも投稿しています。

(きょうかのばあば氏)

1975年に同志社大学の工学部を卒業後、日本電子計算株式会社でプログラマーとして勤務しました。退職後は夫の海外赴任でドイツに約4年滞在していた時期もあります。プログラミングとは無縁の生活になっていましたが数学好きは変わっていなかったので、ドイツでは日本人の子どもに数学を教えていました。また、日本文化を紹介するため現地でお点前を披露したらとても喜ばれたことがきっかけで、帰国後は茶道の教室を開き、今にいたります。

携帯電話は息子にすすめられ持つようになりましたが、ガラケーで特に不便もありませんでした。それが、息子がスマホを買い替えるタイミングでお古をくれたことでスマホを使うようになり、そこからアプリも利用するようになりました。電子マネーやモバイルPASMO、タクシーアプリのGOなどは日常的に使っていましたが、京香と暮らすようになってから、よりスマホを活用できるようになりました。

京香にはずっと「TikTokやろう」と声をかけられていたものの、断り続けていました。動画配信はもちろん、Twitterなどで発信したこともありませんでしたし、私の動画など誰も見るわけがないと思っていたのです。けれど「世間に若くて可愛い子は山ほどいる。シニアということに個性がある、ばあばだから見てもらえるんだよ」と妙に説得力のあることを言われ(笑)、孫のためにもなるのならと挑戦してみることにしました。

 

Q. TikTok配信を始めて、どのような感想を持たれましたか。

(きょうかのばあば氏)

TikTokで印象的だったテクノロジーは電動キックボードのLUUP、スマホ充電レンタルのチャージスポット、海外向けレンタルWi-fiのWifibox、傘のシェアリングサービスのアイカサなどです。また、TikTokをすることで、同じシニア世代といるだけでは知らないままだった世界を見られる面白さがありました。LUUPに乗ってみるなど初めての体験は、自分自身が楽しめましたね。

こちらが気合を入れて撮ったものがより多く再生されるとは限らず、むしろ「なぜこの動画が?」と思うものがバズる不思議さも体験しました。たとえば、新幹線の改札にスマホをかざして通るだけの動画が100万回以上再生されました。これはスマートEXで新幹線のチケットを購入し、チケットレスで乗車したときの様子を撮ったものです。シンプルな動画ですが、これまでは窓口に並んで買ってきたチケットをスマホで事前に購入することで、混雑した窓口で待つストレスやチケットを忘れたり紛失したりする心配もないという情報が詰まっていたことが再生回数につながったのかもしれません。ファストフードで食事する際、事前にモバイルオーダーで注文しておき、レジに並ばず指定された席で待っていると注文した品がテーブルまで届くという動画もたくさん見てもらえました。

また、ネットを通じてライブをやると日本中のみんなとお友達になれる感覚がとても楽しいです。たくさんの人と交流でき、世代を超えた交流ができます。一期一会というか、出会いが人生を作っていくのだと改めて実感しました。

 
 

Q. TikTokの企画は京香さんが考えていらっしゃるとのことですが、その際に心がけているのはどんなことでしょう。

(菅原京香氏)

まず、「日本のデジタル化を促進する」というビジョンからずれないコンテンツを発信することを意識しています。現在「きょうかのばあば」をフォローしてくださっているのは「もっとテクノロジーについて知りたい」という思いを抱いている方だと思うので、テクノロジーに関する有益な情報を発信し続けるのが私たちのミッションだと考えています。

また、伸びるコンテンツを作成するというところで、視聴者が動画をどれくらい見続けたのかを表す視聴維持率が高くなるコンテンツを生成することも意識しています。具体的には、TIkTokで視聴維持率が高くなるために欠かせない要素のひとつはコメントだと考えているので、コメントがつきやすいコンテンツを作ることを心がけています。

 
 

Q. TikTokでの配信を始められて、どのような反響がありましたか。

(菅原京香氏)

周りの知人には「『きょうかのばあば』見ているよ。応援してる」「お母さんにシェアしたよ」「きょうかのばあば、すごすぎる」など言ってもらえます。仕事でお会いした方に「『きょうかのばあば』の方ですよね」と言われたこともありました。

(きょうかのばあば氏)

私自身は、私生活を全部見られているような恥ずかしさが今もあります。友人やお茶の生徒さんも見てくれているようですが、気を遣ってくれているのかあまり突っ込んだ質問をされたりはしないので助かっています。

 
 

Q. TikTokとシニア世代の相性についての考えをお聞かせください。

(菅原京香氏)

TikTokのフォロワーさんの55歳以上の方は12%なので、シニアへのリーチという観点では、相性は良いとは言えないのが現状です。ただ、6月の時点でフォロワー約5300人のうち、650人近くのシニア世代が見てくださっているのはすごいという思いもあります。

(きょうかのばあば氏)

TikTokを通じて自分自身もできることが増えていくのは知的好奇心を刺激されて楽しいですし、同年代にもぜひ現代のテクノロジーを活用してもらいたいと思うようになりました。電子マネーも慣れれば便利なものですし、ネットスーパーを使えば重い荷物を持ち帰る苦労もありません。SuicaやPASMOはシニアも使いますが、スマホとは連携させている人は多くありません。あとひとつのステップアップをすることでもっと便利になること、QOLが向上することを、TikTok「きょうかのばあば」で知ってもらえたら、お役に立ててうれしく思います。

 
 

Q. TikTokのフォロワーをより増やすため、今後検討しているプランを教えてください。

(きょうかのばあば氏)

Tik Tokで声がけして集まった人とお茶のイベントを開催したり、旅行に行ったりできたらいいですね。メディア露出の件では、6月にはBS朝日の「太陽生命 Presents 草野仁の名医が寄りそう!カラダ若返りTV」に出演しました。今年はTikTokのフォロワー1万人を目標に、そして3年以内にCM出演を目指します。

(菅原京香氏)

TikTokのフォロワーさんが求めている有益コンテンツの継続的な更新、どういうコンテンツが伸びどういうコンテンツが伸びないのかといった分析は今後も継続します。それに加えてほかのインフルエンサーとのコラボレーション、テレビやWEBメディアなどのメディア露出を増やすということを計画しています。

今後はTikTokを通じてだけでなく、さまざまなチャネルでシニアと若者の交流を一層深めていきたいと思っています。人生を長く生きられているシニアの方から若者が学ぶことは沢山あります。日本ではシニア=高齢者ととらえますが、英語では「年長者」「先輩」を指すように、シニアが長い年月をかけて得た経験や知見、そして叡智は、次世代にとって貴重な教訓になるでしょう。また、シニアは若者から元気や刺激をもらえるので、win-winな関係を築けると思っています。

デジタルを自在に使いこなせるシニアの方はまだ少ないと感じます。シニア世代がよりテクノロジーを使いこなせるようになることで日本のデジタル化はより進むと考えていますので、その一助となるべくTikTokでの活動を続けていきたいと思っています。


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シニアライフ総研®では、シニア向けメディアページ内でご紹介している各メディアの中から、特におすすめのシニア向けメディアについて、メディア担当者へのインタビューを通じて、ターゲット属性や人気コンテンツ、出稿事例などを掘り下げ、ご紹介いたします。

株式会社小学館
『サライ』第2回
株式会社 医師のとも
『医師+』『女医+』
松竹ブロードキャスティング株式会社
『ナビトモ』

介護施設向け「伊勢神宮」
オンラインツアー

東京トラベルパートナーズ株式会社
代表取締役 栗原茂行様

ビジネスアワード2021 ビジネスモデル賞を受賞した東京トラベルパートナーズ株式会社「介護施設向け『伊勢神宮』オンラインツアー」。今回は代表の栗原茂行様に、オンラインツアー「旅介ちゃんねる」の成果や利用者からの声、シニアの定義、そして今後の展望などについてお話をうかがいました。

2022年11月取材


Q.「旅介ちゃんねる」の近況をお聞かせください。

2021年2月27日に伊勢神宮のオンラインツアーを実施してから、施設内にいながら旅行気分を味わえるレクリエーション「旅介ちゃんねる」というシステムで運営し、これまでに120本ほど配信しました。

当社の「旅介」ではリフト付福祉車両を使用した少人数制の旅行サービスを提供していたのですが、コロナ禍でそれができなくなり、旅行に行きたくても行けない方のために、参加型、生中継、高画質映像にこだわったオンラインツアー「旅介ちゃんねる」を始めました。現在はデイサービス、有料老人ホーム、特別養護老人ホーム、サービス付き高齢者住宅、介護老人保健施設、グループホームなど、約3000施設にサービスを提供しています。

どの番組も楽しくご覧いただいていますが、2022年1月に出雲大社で初詣をする番組はとりわけ好評でした。また、「旅介ちゃんねる」の発展型として、高校の吹奏楽部の演奏のライブ配信を行ったところ、予想以上の反響がありました。生徒の躍動感から元気をもらうだけでなく、ハイレベルな演奏が響いたようです。あまりに好評だったので先日第2弾も開催したところ、500施設、約1万人が視聴しました。さらにこの動画を見た介護施設のスタッフさんが、お子さんが通っている高校の和太鼓部を紹介してくださり、そちらも近々後公開予定です。もともと私の中で「中学・高校の吹奏楽部と全国の介護施設をマッチングさせ、定期的に介護施設に演奏に行けるような仕組みが作れたら」という思いがあったので、このような形で実現できたことはうれしいですし、「旅介ちゃんねる」のいいコンテンツだと感じています。

介護施設などでは、「旅気分が味わえる」「昔行った場所が映った」など、スタッフと入居者の会話のきっかけになることもあるという

Q.「旅介ちゃんねる」の特色に「参加型」があります。具体的にどのようなことをされているのでしょう。

番組内でクイズをしたりチャットを読んだり、体操、川柳投句コーナーなど、旅介リポーターと一緒に脳や体を使っていただけるようにしています。体操については最初の頃はやっていませんでしたが、施設からの要望があり取り入れました。

参加型の企画として開催した塗り絵大会では、芸術作品と呼べるような素晴らしい作品が続々と届き、そのクオリティの高さにわれわれも驚きました。優秀作品は番組で発表、施設に賞状と商品をお送りしています。さらに「旅介ちゃんねる」サイト内に美術館ページを設け、作品を公開しており、お礼のお手紙をいただくこともあります。普段の日常で行っている塗り絵という行為が、応募するとなると取り組み方が変わりますし、人から見られたり評価されたりすることで生きがいにもつながるようです。フルハイビジョンの滑らかな映像で楽しんでいただくだけでなく、番組や季節のテーマに合わせた塗り絵大会にも参加していただくといった取り組みは、高齢者の方のQOL向上に寄与できているのではと感じています。

「旅介ちゃんねる」の特色のひとつである参加型の一例。番組内でクイズを出すことで、入居者も盛り上がる

Q.「旅介ちゃんねる」を利用された方からはどのような声があるでしょう。

さまざまな施設からをたくさんの声をいただいています。一例として、「レクリエーションの幅が広がり利用者さんも楽しんでいる。当日は放送開始の1時間前からツアー目的地をYouTubeで予習して盛り上げている」、「ひとりで過ごすことの多かった方が『旅介ちゃんねる』の常連になった」、「オンラインツアー中に行われるクイズ、川柳、体操など、参加型の企画が楽しい」、「ご入居者様が過去の旅行の思い出などを話しくれるようになった」、「番組内で自分の名前が呼ばれたり、ホーム名を言っていただくと拍手や歓喜の声が上がる」、「『旅介ちゃんねる』を導入している施設というアピールポイントになる」、「スクリーンから65インチテレビに替えたところ高画質の本領が発揮され、大人気のレクリエーションになった」、「『旅介ちゃんねる』を見たくて利用日の振替をされる利用者様がいる」などです。

Q.これまでにとりわけ印象深い案件などありましたらお聞かせください。

ライブ配信なので、ハプニングやアクシデントのエピソードには事欠きません。ひやひやしながら事なきを得たこともたくさんあります。たとえば最近では2022年夏に配信したよさこい祭りで、突然カメラが故障して映像が配信できない状態になってしまいました。カメラマンは代わりのカメラを取りに走り、しかしライブ配信時間は刻々と迫り、「どうする!?」となったところでカメラが復活したんです。それが配信開始10秒前でした。けれどカメラマンはいませんから、急きょ私がカメラマンとして配信しました。生中継にトラブルはつきものだけに、このようにどう対処するか必死になっている案件が印象深いです。

完全な放送事故も2回ありました。ひとつめは、スマホで配信していた初期のことです。リハーサルでは問題なかったのに、本番では急に電波が途切れ途切れになり、60分のうち半分くらいが見えなくなってしまいました。ふたつめは、コロナ禍で保育園が休園中のスタッフが子ども同伴で出勤したとき、配信中にその子がパソコンの電源を切ってしまい、配信が終了してしまったことです。

また、1本のオンラインツアーを配信するためには、何カ月も前から企画し、現地と調整し、告知するなど、さまざまな準備が必要ですから、当日が土砂降りでも雪でも予定通り配信します。一面の芝桜と富士山の組み合わせが絶景の「富士芝桜まつり」では、当日は1m先も見えない濃霧でしたがそのまま配信しました。写真などで実際の光景は紹介しているものの、中継としては芝桜がまるで映っていない状態です。けれどそれもひとつの旅の形ですし、この天候も含めて生中継にこだわっています。それによって「今、この瞬間をみんなで見ることで、番組ともみんなともつながっている」という一体感が生まれることを大切にしたいのです。実際、リアルで旅行に行っても天気が悪いということは珍しくありません。その辺のリアリティも「旅介ちゃんねる」ならではと考えています。

Q.60分のオンラインツアーを配信するためには何倍もの時間をかけて準備し、見えない部分のご苦労もあるのではないでしょうか。

まずは配信先の施設さんの予定があるので、2カ月前くらいには日程を押さえ、1カ月前には番組内容を告知します。それに合わせて旅先を企画、準備していくので、やはり時間には常に追われている感じですね。旅先が決まっても肝心の場所の撮影許可がなかなか下りないこともありますし、限られた予算のなか、レポーターとカメラマンの二人で現地から配信する現場ならではの苦労もあります。視聴しているシニアのみなさんが楽しんでくださっている様子を職員さんから聞くことが、われわれの励みになっています。

Q.御社における「シニアの定義」をお聞かせください。

われわれの事業と合致するシニアの定義ということで言えば、いたって元気なアクティブシニアというよりは、ちょっと外に出るのが億劫になってきたとか、外出機会が減ったとか、あるいは何らかの介護の支援を受けている方ということになります。現在「旅介ちゃんねる」をお楽しみいただいているのも、介護施設や有料老人ホームといったところがメインです。もちろんリアル旅行も楽しめる75歳以上のアクティブシニアの方にも番組を見ていただけるのは大歓迎ですが、「シニアの定義」に特化するならば、当社は「何らかの支援が必要、かつその支援を受けている75歳以上の高齢者」ということになります。

Q.現在の課題やその対策についてお聞かせください。

従来はなかったコンテンツなのでお客様も比較検討できないということもあり、営業は積極的に行っているのですが、売り上げは想定していたよりも緩やかな上がり方というのが課題です。今以上たくさんの方に視聴していただくためには、高校の吹奏楽部のライブ演奏のように、旅以外のコンテンツを充実させていく必要性を感じています。コロナ禍でいくつもの旅行会社がオンラインツアーを行いましたが、継続することができませんでした。われわれはその環境において、一番いいオンラインツアーを作ってきたという自負があります。ですから、課題解決のためには「旅」の部分を基調としながらもさらなる展開が必要だと考えている次第です。塗り絵大会のように想像以上に好評だったイベントや、番組内でのクイズ大会などが好評なことが指針となるでしょう。

Q.今後の展望、目標をお聞かせください。

これまでの顧客は施設がメインでしたが、2023年には「旅介ちゃんねる」のテレビ用アプリができるので、自宅のテレビで気軽に参加していただくことができるようになります。パソコンを立ち上げてログインしてという手間が省ける分、サービスに参加できる方の大幅な増加が期待できます。そのため、これまでは介護施設を対象にした番組づくりをしてきましたが、今後はアクティブシニアが楽しめる参加型のコンテンツも充実させていきたいと思っています。 最近は「旅介ちゃんねる」からいろいろなものが派生しています。例えばシニア向けのスマホ教室では、「旅介ちゃんねる」を使ってチャットを打つ練習をしているそうです。オンラインツアーがこういったご縁をいくつも繋いでくれたので、今後は順次それらのリリースもしていく予定です。まずはテレビのアプリによって事業の広がりが実現できるよう、尽力したいと思います。

東京トラベルパートナーズ株式会社 ホームページ 

https://www.tokyotravelpartners.jp/


 

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第38回 
パナソニック株式会社
第37回 
AYAクリエイティブ
第36回
朝日新聞社

高齢化社会に対応した廃棄物処理システム

パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 FLUX課
ランドリー・クリーナー事業部 ビジネスデザイン部
主務 岡林典雄様

和歌山県橋本市水道環境部 生活環境課
環境企画係長 植木慎哉様

 

 ビジネスアワード2021 ビジネスモデル賞を受賞したパナソニック株式会社「高齢化社会に対応した廃棄物処理システム」。今回はプロジェクトを牽引されてきたパナソニックの岡林典雄様と共同実証した橋本市の植木慎哉様に、プロジェクトの進捗具合や成果、シニアの定義、そして今後の展望などについてお話をうかがいました。

2022年8月取材

 


Q.パナソニックと橋本市の連携協定の締結から1年が経ちました。実証実験の進捗状況などをお聞かせください。

(岡林氏)
2021年7月にプレスリリースを発表してから、準備を経て今年1月から3月にかけて令和3年度の実証実験を実施しました。その結果を踏まえ、今年度は11月くらいから実証実験を始める予定となっています。

橋本市にはもともと、ごみをごみステーションまで出すことが困難な世帯に対して、定期的に自宅までごみの収集に行くという「ごみの福祉収集」という制度があります。そこで昨年度の実証実験は、そのごみの量を「見える化」するような仕組みを作り、合理的なタイミングで収集に行くシステムが役立つか、また見守りにも活用できるかという部分の検証を目的としました。画面とセンサー、通信機能を付けたスマートごみ箱を用意し、福祉収集を利用されている要介護認定者の世帯と要介護認定を受けておらず福祉収集を利用されていない世帯、計9世帯に設置しました。

当初はコロナも落ち着いている状態だったので順調に進められるのではと考えていたのですが、実証実験と第5波による感染者増加の時期が重なってしまい、ごみ箱は設置したものの、訪問して逐次意見を聞くということがほとんどできない状態でした。本来、実証実験は現場で話を聞いたり利用状況を直接見て確認したりしながら進めるものですが、それができなかったのは残念です。ただ、成果もありました。高齢者に対する福祉収集にフォーカスしすぎて、そこだけにどんどん特化していきかねないところを実証実験によって方向転換できたのです。

(植木氏)
実証実験によって「高齢者」と「福祉」を結びつけるのが必ずしも正解ではないということがわかったのは、一番の成果でした。今の時代、高齢でも元気な方はたくさんいらっしゃいますから、「高齢になると支援が受けられる」ではなく、「高齢になっても若い頃と同じような生活が違和感なくできている、実はそこに自治体の支援がある」という考え方をしていくべきなのではと気づかされました。

(岡林氏)
要介護支援者は訪問介護を受けている方が多いので、ごみ出しもヘルパーさんなどがサポートしてくれます。そのため、スマートごみ箱を設置するような支援は予想していたよりも必要とされているわけではなかったという気づきがありました。一方、要介護認定を受けておらず自立して生活できている方にとっては「見守られている」という安心感があると同時に、自宅までごみを取りに来てもらえることをかなり喜ばれていました。

要介護者よりも要介護者ではない高齢者のほうにニーズがあるのではという発見があったと同時に、まだ人の手を借りずに生活できている方からすると、支援の対象がごみということもあって「ちょっと嫌だな」と感じたり、あるいは「収集に来てくれるなんて悪いな」といった心理的な部分が作用したりすることもわかりました。規模の小さな実証実験でしたが、それでもこれだけさまざまな検証をすることができました。

Q.昨年度の実証実験から、高齢化社会に対応した廃棄物処理システム構築というテーマの到達点は示されたのでしょうか。

(植木氏)
市としては、今後ますます増加していく高齢者に対するゴミ出し支援に取り組んでいかなければいけない一方で、高齢者だけに特化して手厚くサービスを展開するというのも難しいものがあります。また、今年度から可燃ごみ収集日を週1回とし、市民のみなさまにもごみの減量化にご協力をお願いしているので、ごみ出し支援について積極的に事業を展開するとむしろごみが増えてしまうという矛盾も生じます。さらに市のマンパワーだけではカバーしきれないところはパナソニックさんのスマートごみ箱がヒントになるのではと、昨年から取り組ませていただいているわけです。ですからまだ事業としてこうしていく、という到達点を具体的に示せる段階にはありません。

(岡林氏)
「ゴールに向かってこの辺まで来ています」というより、ゴールそのものも模索しているところです。当社としては、本来はターゲットを決めてプロジェクトを進めていくのですが、自治体と一緒の場合は植木さんが言われたように、どうしても「高齢者への支援は必要だけれどほかの人にも必要、ごみ出し支援は大事だけれどそれ以外も大事」と、絞りきれない面があります。どこにポイントを置きつつ最終的に何を狙うかというのを詰めるため、今年度も実証実験を行います。

昨年度は要介護者への支援という色がかなり強めでしたが、今年度は要介護認定を受けている世帯だけでなく、65歳以上の高齢者のみの世帯まで対象を広げました。色々な世帯に一緒に減量や分別に取り組んでもらい、その結果、橋本市のごみ処理費用が減少すれば、その分を別のサービスに回せます。

昨年度作ったスマートごみ箱は、利用者から「使い勝手がよくない」といったご意見がありました。橋本市の小さいサイズの可燃ごみ袋ではごみ箱のサイズとフィットせず、大きいサイズのごみ袋だとごみが重くなりすぎて取り出しにくいということでした。今年度はその点を改良するとともに、昨年度は1つのごみ箱でしたが分別してもらうことを前提に、ごみ箱が3個連結した形にしました。また、家庭における生ごみの占める量はかなりあるので、小さな生ごみ処理機も組み込みました。事前に乾燥させて捨てる習慣をつけ、水分を減らすだけでもごみ処理コストの削減につながります。今年度は20世帯くらいには配布したいと考えています。

(植木氏)
今回の実証実験で「ごみの分別の細分化をしっかりしてもらえれば戸別収集できます」という、市民と市のWin-Winのような事業展開を考えられたら一番いいですね。

R3 試作概要

Q.今回のプロジェクトにおけるシニアはどう定義されているのでしょうか。

(岡林氏)
多くの自治体が抱えるごみ出し困難者の問題には、特に高齢者(≒シニア)が多いという実態があります。しかし本事業はSDGsで目指している「誰ひとり取り残さない持続可能でよりよい社会」に向けたサービス実装を目標のひとつと考えていますので、高齢者セグメントに特化したマーケティングやサービス開発だけでは不十分です。「高齢者に特化した」ではなく「高齢者を含む」事業ですので、シニアの定義は特に定めていません。

Q.現段階で課題などはありますでしょうか。

(岡林氏)
企業の側から見ると時間がかかり過ぎていることは否めません。とはいえは目先のことだけ解決すればそれでいいというわけではなく、深掘りをして一番役に立つものをつくらないといけないと感じています。社内の理解を得つつ、橋本市のニーズにわれわれの提供するものをフィットさせていきたいと考えています。

(植木氏)
行政としての課題は、事業展開するときは必ず予算が結びついてくるので、市民のみなさまにも協力してもらわないと限界が来るという点です。ごみ出しの支援でいうと、分別をさらに進める代わりに戸別収集という手厚いサービスをするというのは、パナソニックさんのような企業さんと協力して実際にものを用意し、市民のみなさまと実証実験を実施していかないと事業の展開は難しいというところが見えてきました。

Q.今後の抱負をお願いいたします。

(植木氏)
ごみ処理の施策は人間が生きていく中で永遠のテーマです。いつの時代でもごみは常に出るものですが、ライフスタイルが変わったり平均寿命が延びたり、またごみの内容物も時代とともに変化しています。それに対応し、市民のみなさまにとっても橋本市にとっても最善の施策を展開できるよう、実証実験などを通じてヒントを得ながら取り組んでいきたいと思っています。

実は今年度から可燃ごみの収集日を週1回にしたことについて、市民の方からは不満の声もいただいています。そんなときに、誰もが知っているパナソニックさんという大きな企業と一緒に取り組んでいる試みがあるということを記事に取り上げていただくことで、市民のみなさまからも「ただ市民に強制しているわけではなく前向きに取り組んでいるんだな」とわかっていただける機会になります。どうもありがとうございます。

(岡林氏)
もともとわれわれの事業部では生ごみ処理機をつくっていたので、その進化形はどんなものだろうと考え始めたのが、今回のプロジェクトに取り組む発端でした。その中で、世の中ではごみ処理のコストが問題になったり、ごみ処理をする人も施設も不足したりと、サスティナブルな状況ではないというのがわかってきました。同時に高齢化や人口の減少もあり、いかにSDGsの考え方に沿ってやっていく必要があるのかなど、われわれも学ぶところがありました。

家庭用生ごみ処理機

事業としては、パナソニックは今まで家庭内で掃除機や生ごみ処理機など、家事という視点でのお役立ちというところはできていました。今後はこれまでの「清潔・快適・便利」で機能を構成していたものから、よりエシカルに、より環境に配慮した機能を組み込んでいきたいと思っています。さらには家庭内でのお役立ちだけでなく、それを取り巻く地域、自治体さんや廃棄物処理業者さんなどとも繋いでいくようなシステムも提供できればと思っています。今回の取り組みはその第一歩です。

昨年発信したリリースがシニアライフ総研でビジネスアワード2021を受賞し、大変感謝しています。そのようなリアクションがあったことで、世の中の期待のようなものを感じることができました。今後も橋本市さんと協力して成果を上げられるように頑張っていきます。

R3 活動実績
R4 活動計画
新規事業として目指す姿

パナソニック株式会社 ホームページ 

https://www.panasonic.com/jp/about.html


 

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第37回 
AYAクリエイティブ
第36回 
朝日新聞社
第35回 
株式会社 明治

子育て専業主婦の労働力を活かした
「自分史ウェブサイト制作事業」

自分史ウェブサイト制作事業
AYAクリエイティブ 代表 松坂智美氏

ビジネスアワード2021 ビジネスモデル賞を受賞したAYAクリエイティブ「自分史ウェブサイト制作事業」。今回は代表の松坂智美様に事業スタートからの近況から制作スタイルや、これまでの取組の中で特に印象に残ったこと、シニアの定義、今後の展望など幅広くお話をお伺い致しました。

2022年10月取材 

祖父の自分史を持つ代表の松坂さん


Q.「自分史ウェブサイト制作事業」の近況をお聞かせください。

 

事業をスタートしてから、さまざまなメディアに取り上げていただきました。この1年半で新聞7紙をはじめ雑誌で紹介されたり、ラジオで話したりする機会に恵まれました。実際の自分史ウェブサイト制作については、立ち上げ当初はスタートダッシュでたてつづけにご注文をいただきましたが、現在は新たなお客様を見つけていくというところで、まだまだ道半ばといったところです。

 

 

自分史

 

 

Q.性別や年代も含め、申し込まれる方の特色や傾向はありますでしょうか。

 

これまで申し込まれた方は60~80代の方が多く、性別では男性が多いです。また、ご本人からの依頼だけでなく、お子さんが「父の自分史を作ってほしい」と申し込まれるケースも目立ちます。私の営業や発信が当事者よりもそのお子さんの年代に届きやすいという部分があるのかもしれませんが、お父様の記念日に合わせてお子さんからのプレゼントという形ですね。申し込まれるのはお子さんでも、実際のやりとりは自分史のご本人と進めます。結婚を機に家庭に入り専業主婦として何十年、という女性の方の自分史もぜひ手がけたいのですが、残念ながらまだその機会はありません。

これまでに何度も悔しい思いをしているのが、お子さんが申し込まれても親御さんが拒まれてとん挫してしまうパターンです。「自分のことを話すなんて照れくさい」「残すほどたいそうな話などない」という謙虚さや照れが前面に出てしまったり、「パソコンとかわからないから」とネットや機器に抵抗感があったり。お子様の熱意が実らず断念、ということは何度もありました。

 

 

 

Q.制作のスタイルをお聞かせください。

ご本人が書かれたものをそのまま使用する場合と、こちらでインタビューしてテキストにする場合があり、比率はちょうど半々といったところです。お客様がご用意されたテキストにこちらで手を加えるのは、誤字脱字のチェックや「てにをは」などの最小限にとどめ、ご本人の言葉を大事にするようにしています。この事業では、子どもに、孫に、その先の子孫に、自分の思いをどんな言葉で伝えるかが重要な部分だと思っていますので、「きれいに整えてほしい」というリクエストがある場合はプロのライターが対応しますが、自分たちから「文に手を加えるともっと読みやすくなりますよ」といったご提案はしません。一般的な自分史制作だとはじめからプロの手が入り、素晴らしい文章でストーリーに仕上げていくと思いますが、あえてご本人の言葉を大事にして作るという点は当社の特色ともいえます。

インタビューややりとりにネットが使えないという方の依頼もお受けしています。これまでに訪問してインタビューしたケースもありましたし、ご本人が使えなくてもご家族なり介助者につないでいただければ何とかなります。また、自分史をウェブ上だけでなく冊子にもしたいというリクエストにも応じています。ただし冊子のみのお申し込みはお受けせず、あくまでウェブサイトでの自分史を制作された方が対象となります。

 

 

 

Q.取材、制作、校正を担当するママはどのような基準で採用されていらっしゃいますか。

結婚を機に専業主婦になった女性に、在宅で働ける雇用を創り出したいという思いから生まれた事業なので、採用基準はとにかく低いです。経験不問で、最低限パソコンが使えること、くらいでしょうか。もちろん必要に応じてプロのライターやデザイナーにも頼みますが、基本的に未経験者大歓迎です。
ひとつの仕事が発生するとグループLINEで共有し、「取材担当」「文字起こし担当」「デザイン担当」「校正担当」など募集すると、スケジュールの都合がつく人がやりたい仕事に手を挙げて、早いもの順で担当を決めます。「専業主婦」「ママ」という言い方をしていますが、実際はほかにもパートの仕事をしていたり、結婚はしているけれど子どもはいなかったりと、背景はさまざまです。
プロの集団ではないので「ママさんと依頼主さんがアットホームな雰囲気の中でやりとりしながら手作り感満載の作品を作る」に共感し、一緒にやりたいと思ってくださる方が、これまでお客様になってくださってきました。一方で「デザインにもこだわり本格的なサイトにしてほしい」というご要望もありますので、その際はプロが引き受けています。
実際にママたちに働いてもらうと、彼女たちの能力の高さには驚かされました。傾聴力に長け、コミュニケーション能力も高く、シニアのみなさんと和気あいあいと制作することができています。

 

 

 

Q.これまでにとりわけ印象深い案件などありましたらお聞かせください。

現在も代表としてママ向けポータルサイト「ぐるっとママ」を展開されている山本欣子さんの自分史は、印象深く心に残っています。自分史の中にお姑さんとの確執が書かれていて、しかもそれが原因で家出までしたことがあった、という一節がありました。その後はお姑さんとの関係性は改善し仲良くなられたそうで、「自分史の制作にあたり過去を文字にして書いてみたことで、振り返りの素晴らしい機会になった」とおっしゃっていただきました。さらに、彼女の自分史ウェブサイトを見た友人たちから「女性経営者としてばりばり働き、何の悩みもなくすべてを成功に導いてきたというイメージがあったけれど、家庭では嫁としてそんな苦労があったとは。自分史で彼女の内面を知ることができてうれしい」と感想が寄せられました。それを聞いたとき、ご本人だけでなく第三者から評価されたことがとてもうれしく、これこそ自分史の意義、効果ではないかと感じました。

 

 

 

Q.現在の課題やその対策についてお聞かせください。

営業は一番の課題です。自ら作りたいという方がまだあまり多くないこと、先ほど申し上げたようにお子様が作りたいとおっしゃっても肝心の親御様のご協力が得られないことなど、営業面で苦戦しています。あとやはりコロナ禍というご時世ですので、シニアの方々にお会いする機会が生み出せないという点も厳しいですね。高齢者施設や高齢者の集まるサークルなどにお手伝いに行かせていただきたいというアプローチはかなりたくさんしたのですが、いずれも今の情勢では部外者は受け入れられないと。「人命第一なので」と言われてしまうと、それ以上何も言えなくなってしまいます。

そこで現在私が暮らしている徳島県神山町で、長年地域に貢献・活躍されてきた70~80代の方を取材、自分史ウェブサイトを制作させていただいています。それによって、地域のみなさんにより深くその方を知っていただくことができます。また、神山町は地域創生の先端地として、そして若い人の移住先としても注目を浴びているところなので、そんな神山町の発展を支えてきた方のバックグラウンドを知る機会を提供できればという思いもあります。多くの方々と接しお話しながら、よりブラッシュアップしていきたいと思っています。

 

 

 

Q.御社がどのように「シニアの定義」を設定されているのか教えてください。

私はアメリカで暮らしていた時期があるので、シニアという言葉は「上級の」「人生経験が豊かな」という意味でとらえており、それがそのまま当社のシニアの定義となっています。日本ではシニア=高齢者というイメージがありますが、単語の意味はそれだけではありませんよね。

 

 

徳島県神山町の神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックスにて

 

 

 

 

Q.今後の展望、目標をお聞かせください。

自分史ウェブサイト事業を始めたことで、個人の情報を半永続的に残すことに価値があると感じるようになりました。たとえばデータとして保存しても拡張子は時代とともに変わりますし、URLも無期限で見られるわけではありません。「1の保存方法がだめになったら2、2がだめになったら3」と技術的な対策を講じた個人アーカイブの分野へ進出したいというのが今後のビジョンです。最終的な到達点としては、その個人の思いのこもった膨大な個人データが100年先、200年先の後世に伝わっていく、そんな社会を目指しています。自分史ウェブサイトはそのための最初の一歩になりました。

目先の目標としては、できるだけ多くのビジネスコンテストなどに応募して、女性起業家として社会にメッセージをしていく機会をたくさん持つように努めていきたいですね。ちょうど先日、徳島ニュービジネス支援賞のファイナリストに選ばれました。最終審査結果は10月13日、徳島ビジネスチャレンジメッセ2022のオープニングセレモニーで発表されます。今後も自分のライフストーリーを残していく価値や、個人の情報を後世に伝えていくという選択をすることの必要性・必然性、意義を幅広く訴えていきたいと思っています。

AYAクリエイティブホームページ  

https://ayacreative.jimdofree.com/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

第36回 
朝日新聞社
第35回 
株式会社明治
第34回 
シャープ株式会社

映画「老後の資金がありません!」
取材レポート

映画監督 前田 哲氏

前作『こんな夜更けにバナナかよ』で「介助」というシリアスな題材にもかかわらず笑いを交えて描いた前田監督が、「老後」というこれもシリアスな問題を取り上げ、再び笑いで包んで届けてくれます。

新作『老後の資金がありません!』にまつわる裏話から「老後問題」等を通して透けて見える日本の現状にも言及していただきました。

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Q.映画『老後の資金がありません!』の制作に至った経緯を教えてください。

TBSのプロデュサーから直接映画制作のお声をかけていただき、簡単なプロットを拝見しただけでしたが、面白いと思って関わらせていただきました。キャスティングについてはすでに天海祐希さん主演で決まっていましたが、私も天海さんがピッタリだと感じました。

その後プロデューサーとシナリオライターと一緒に原作(垣谷美雨著)と照らし合わせながらの脚本作りに取り組み、映画的にどういう風に膨らませていくか足し算引き算しながら1年ほどかけて一昨年の春過ぎに決定稿を仕上げました。

Q.老後問題について今回の作品以前に考えられていたこと、思っていたことがありましたか?

「老後2000万円問題」や麻生財務大臣の発言、それ以前にあった「年金不払い問題」などによって国の政策に対する不安や懐疑がありました。特に老後の問題は私の父母が高齢ですのでとても身につまされました。

普段から「子供と老人に優しくない国は亡んでいく」と思っていますので、映画を通してみなさんがもっと政治や行政に関わるキッカケとなり、社会を少しでも良くする方向に動けばと考えていました。

Q.「老後2000万円問題」では報道によって不安が煽られた側面があったように思うのですが、今作を拝見して「老後なんて工夫次第じゃないのかな」と肯定的な気持ちになりました。

メディアは少し不安を煽り過ぎたかもしれません。老後資金の問題について調べてみても4000万円ほど必要だという説や、私のようなフリーランスだと9000万円必要だという説もあって、どのようなレベルの生活を選択するかによって千差万別かと思います。そんな千差万別の中から作品の中には“シェアハウス”というそこに住む老若男女がお互い助け合う生活を選択するという設定を加えました。

図らずもこのコロナ禍で人間にとってコミュニケーションの大切さがあぶり出されたと思うのですが、かつての共同体のようにお互いが尊重して譲り合うということがどんどん失われ、不寛容になっている・・・ルールも大事ですが、もう少し大らかに過ごしても良いのではないでしょうか。

だから今後の生活の選択肢のひとつにそういう思いを込めましたし、草笛光子さんが演じる主人公の義母の象徴的なセリフ、「わがままに生きた方が勝ちよ」というのは、それぞれの違いを認め合った上でそれぞれの自由を尊重して上手く共生していく、そうした世の中になって欲しいという私の思いでもあります。

本当は国や自治体がそういう事をもう少し手厚くみるべきだと思うのですが、今はそういった事が疎かにされているように感じています。

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ⓒ2021映画「老後の資金がありません!」製作委員会

 

Q.『こんな夜更けにバナナかよ』もそうでしたが、シリアスな問題を笑いで包んで作るにあたって留意されたことは何でしょう?

辛いモノを辛いまま描いても仕方がありません。『こんな夜更けにバナナかよ』では「介助」「障がい者」というシビアな題材を取り上げましたが、それをストレートに表現するのは自分が観ても辛いし苦手なため、私は作りたくありません。ファンタジーではありませんが、「感情はリアルに、設定は少し、3cmか5cm浮いている世界」という作り方をいつも心掛けています。

コメディに拘っている訳ではありませんが、人間は生きていく上で希望や笑いが必要だと思いますから軽妙洒脱に、エンタテインメントな映画として描きたいと考えています。笑うことで人は元気になりますし、免疫力も高まると言われていますから。

Q.制作にあたって様々なリサーチをされたと思いますがいかがでしょうか?

私はフリーランスなので会社勤めの方と感覚が違うということもあって、知り合いの昔の同級生までかなり広範囲にリサーチしました。また主人公の夫役である建築会社の部長クラスの年収などお金に関してもきっちりと調べました。経済評論家の萩原博子さんの本も参考にしましたし、ご本人にも出演していただきました。設定も家族構成から家の立地、会社の規模、出演者それぞれの役の履歴書まで細かく作った上でどこまで映画上に反映するかのアウトプットをコントロールしました。

リサーチして実際の状況を知った上でどう“ウソ”をつくか・・・事実としてのノンフィクションを知った上でどうやって映画としてのフィクションに落とし込むか、ということです。

Q.監督はシニアの線引きをどこに置いていらっしゃいますか?

以前は60歳くらいと思っていましたが、今は70歳くらいをイメージしています。

今は私の周りにも元気なシニアの方々が多いです。草笛さんは撮影当時86歳でしたが、ヨガのシーンなど「CGですか?」と質問されるほどの動きをされています。草笛さんは誰よりも若々しく柔軟だし、いつも新しい企画を追いかけていらっしゃって、天海さんをはじめ我々はとてもリスペクトしています。共演していただいた毒蝮三太夫さんも非常にお元気でしたし、その娘役で共演の柴田理恵さんが「私たちより80代の人たちの方が元気で恐れ入りました。」とおっしゃっていたのが印象的です。

世間ではよく「老害」と言いますが、それは前例を踏襲するだけで慣習の名のもとに居座っている人たちのことであって、新しいことにどんどん挑戦しようという人たちはいくつになっても“青春”しているということではないでしょうか。

Q.監督自身は以前から老後問題を意識されていたとのことですが、今回の制作を通じて意識など変わったことがありますか?

草笛さんと出会って、新しい事に挑戦される姿勢にすごく刺激を受けました。その上で映画としては「介助」や「障がい者」そして「老後」を取り上げたので次は「介護」だと再認識しました。

「介護」≒「老後」ということで『老後の資金がありません!」と同じようですが、私の“振り幅”としてもう少しダークなモノを考えています。5月に公開していた『ファーザー』というアンソニー・ホプキンスがアカデミー賞を獲得した映画もそうですが、「介護」に関してはどんな形にせよ映画にしたいと模索しています。

実際私の父は軽い認知症で、意思疎通はできますが先月あった事も覚えていません。そういったことを悲観していても人生つまらないですし、父が私のことを忘れても私が父のことを覚えていれば良い訳で、そのように少しでも見方を変えられるような映画を作りたいと思っています。どこまで映画の力があるか分かりませんが、漢方薬のようにじんわり効いていけば良いと思っています。

Q.老後問題に関して企業に何か期待されることがありますか?

やはり一番は、定年制度を止めた方が良いということです。人は精神年齢や肉体年齢などそれぞれ違いますから、その違いを活かすべきなのではないでしょうか。年功序列も必要ないと考えています。映画のキャスティングやスタッフィングもそうですが、バランスが重要ということです。組織の中でいかに各人を上手く配置・活用するか、それがトップ・リーダーの差配の素養だと思います。

有名な話ですが、落合博光さんが中日ドラゴンズの監督に就任され、「ドラフトも何もしなくて、現状の戦力で優勝できる」と言われた時、選手たちは「我々は(優勝する)力があるんだ」って思ったはずです。そして実際にドラゴンズは優勝しました。

評価の低い選手を単に交換するのではなく、彼らのモチベーションを高めること、スキルアップをさせることはリーダーがちゃんと見極めてやっていくことではないでしょうか。翻って、今はまったく間違ったリーダーを選んでいる日本というのは沈没しそうです。そのリーダーを選んでいるのは我々ですから我々にハネ返ってきているといえるでしょう。

企業にも国にも求めることはリーダーの人選です。リーダーは一番厳しいポジションだと思います。「山は登れば登るほど風が強くなる」と例えられるように、上に行けば行くほど厳しく律しなければならないのに、単にそのポジションに行きたいだけの人が多いのではないでしょうか。挙句にコネや忖度などおかしなことが横行して・・・それが当たり前のような環境で育っていく今の子供たちを見ていますと、非常に情け無く思います。

小学生が見てもおかしな事をしている人(政治家)は替えるべきだと思います。みなさん諦めているようですが、たった10%投票率が上がるだけで政治は変えられます。今40%くらいの投票率を10%上げると全部の政治家の首をすげ替えられます。実を言うと「選挙に行こう!」といった映画を撮りたいという思いがあるくらいです。

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ⓒ2021映画「老後の資金がありません!」製作委員会


映画「老後の資金がありません!」

【公式サイト】 https://rougo-noshikin.jp/

【公式twitter】 twitter.com/rougo_noshikin

【公式facebook】 facebook.com/rougonoshikin/


 

シニアマーケットがビジネスの新たなチャンスとして注目される中、それらに関連する数多くのイベントや展示会が開催されています。シニアライフ総研®では、イベント主催者や運営団体に独占取材しその内容をご紹介しています。

2018年5月7日開催「日本栄養支援配食事業協議会」設立総会
2018年3月13日開催
「京王シニア応援フェスタ」
2018年3月6日開催「ヤマハ耳トレ声トレ体験イベント」

アクティブシニアに向けて新たな情報や
社会とのつながりの場を提供する、
朝日新聞社のコミュニティプロジェクト

総合プロデュース本部 コンテンツ事業部
Reライフ.net 編集長 菊池 功氏

新聞紙面から始まったアクティブシニアを応援する「Reライフプロジェクト」
そのプロジェクトが運営するコミュニティ「Reライフ読者会議」は、50代、60代の男女を中心に1万人以上が集い、紙面×ネット×リアルイベントを通して、アクティブに生きるシニアのための情報共有の場となっています。
今回はシニアマーケティングを考える上でも貴重なコミュニティを運営していらっしゃる朝日新聞社 Reライフ.net の編集長 菊池 功氏にお話を伺いました。

2021年6月取材

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2021年、大きな転換期を迎えたシニアとネットの関係性

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Q.まず、朝日新聞社が「Reライフプロジェクト」を通じてシニアマーケティングに取り組むことになったキッカケをお聞かせください。

朝日新聞に「Reライフ」という人気の紙面があります。
人生100年時代、定年・子育て後が長くなり、50代以降の数十年をいかに生きるかが問われるようになりました。
元気なシニアが増えるとともに、長寿化・高齢社会による不安も膨らんでいる。そんな方々の生き方を提言する紙面です。

そのファンの方々に向け、新聞だけでなく、ウェブやリアルイベントなどでも情報や体験を提供しようと「Reライフプロジェクト」を立ち上げました。
月間100万PVを超えるネットメディア「Reライフ.net」や、春秋年2回の大型イベント「Reライフフェスティバル」などを運営しています。

「Reライフフェスティバル」はリアルの時は1開催あたり約3,000人、コロナ禍でオンライン化してからは1開催期間中延べ11万人以上の方にご参加いただいています。

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そして、もうひとつ特徴的な活動が「読者会義」です。
オンラインで登録していただき、登録後はセミナーや座談会に参加したり、様々なプレゼント企画に応募できたりします。
参加者は50代~60代のアクティブシニアといわれる世代の人たちです。登録者数は1万人を超えました。
「人生後半」を健康で、より豊かに生きるために、同世代の生活者同士がつながり、語り合い、共感する場をつくる。
そして、そこに集う人たちの課題解決を専門家や企業が支援する。
そんなプラットフォームになることを目指して立ち上げたコミュニティです。

Q.当時、ネットの分野でシニアマーケットに取り組むということに対して懐疑的な意見などはありませんでしたか?

特にはありませんでした。
当時の当社にはすでに「朝日新聞デジタル」があり、10年ほど前からは徐々にデジタル独自のコンテンツも発信するようになっていました。
そうした取り組みの中で、当社は紙だけでなく、デジタルにも力を入れていく方針を決めました。

一つのテーマを深掘りしていくネットメディアも次々と立ち上げました。
そうした流れの中で「アクティブシニア」にターゲットを絞り、その層にふさわしい情報を提供する「Reライフ.net」がスタートしました。

Q.コミュニティへの参加経路はオンライン一択なようですが、オフラインはないのでしょうか?

読者会議への登録や各種イベントへの申し込みはすべてネット上で行っています。
当初は紙面でメンバー募集を告知していたため、電話での問い合わせもありましたが、想定していたよりもアクティブシニアのデジタルリテラシーが高く、スムーズに登録者が増えていきました。

登録はオンラインですが、コロナ禍以前は、リアルのイベントを開催していました。
そこで読者会議のメンバー同士や我々編集部ともふれあってきました。

イベントを通じて新たに会員になってくださった方もいます。
今現在は三密を避ける必要からリアルのイベントについては開催を見合わせておりますが、いずれコロナ禍が収束すれば、以前のような活動を再開する予定です。

Q.コロナ禍で世界のネット環境やネット活用が一気に進化したとも言われますが、「Reライフ」の運営においても感じることはありましたか?

読者会議メンバーへのアンケート調査でも、コロナ禍前はオンラインイベントに参加していなかった方々においても、コロナ禍の中で様々な集まりや仕事上の会議がオンライン化されたことにより、必要に迫られてオンラインイベントに参加する人が増えていることがわかっています。

当社の調査によれば、(そのようなオンラインでのコミュニケーションについて)7割近い人たちが経験していました。
徐々に操作に慣れてきて、今ではオンラインでの美術展や旅行などを楽しむ人も増えています。
今後、オンラインイベントは様々な発展を遂げるでしょう。

また、私たちの活動においても、ファッションや医療関係などオンラインイベントの数を増やしており、リアルイベント、オンラインイベントは読者会議活動の両輪となると思っています。

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その一方で、課題も見えてきています。
高齢の方の場合、家庭内のネット環境が整備されていないケースが見受けられます。
オンラインイベントへの参加は、スマートフォンよりパソコンの方が画面も大きくて便利です。
すべての家庭でwi-fiが整備されるなどのネット環境の充実化が実現すれば、私たちの活動もより幅が広がるのではないでしょうか。

Q.ネットの比重が大きくなる中で、読者とのコミュニケーションが変わりましたか?

新聞は購読者の減少という課題に直面しています。
仮に購読していても、新聞の記事量は新書一冊分といわれるほど多く、すべての記事が読まれるわけではありませんし、また、日々の記事が読まれたのかどうかを確かめるすべもありません。
そのため、「大事な話は5回書け!」と先輩から言われたほどです。

ネットの場合、メルマガで直接情報を送ると、それをもとにどれくらいの読者がWebに流入したのかをある程度知ることができます。
Web上の記事も、どれぐらい読まれたのかを計測することができます。そういう意味では、Webでは読者の反応がリアルにわかり、直接話すことはなくても関心があるテーマなどを推し量ることができます。

私たちは様々なデータを読み解くことで、常に読者とコミュニケーションをとっているといえるでしょう。
またコミュニティ活動では、オンラインであっても「Face to Face」でつながることを大切にして、ZOOMミーティングなどを活用しています。
読者会議コミュニティの強みはオンラインであっても「顔や人となりがわかる」ことです。

会員のモチベーションの高さ、その理由と活用方法とは

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Q.「生活のヒント」や「How toモノ」など、ネタ作り・コンテンツ作りはどのようにされているのですか?

編集に携わるスタッフが案を出し、相談しながら編集作業をしています。
編集担当には50~60代のメンバーも多く、自分の関心と読者の興味は重なり合っています。

わたしたちが果たすべき役割は、大きく二つあると思います。

まず一つ目は、読者が自分の立ち位置を知ることができるデータを提供することです。
現状を認識して、どんな行動をとったらいいのか考えるヒントにしてもらいたいと考えています。自らを相対化するための情報は、「PDCAサイクル」に必要です。

二つ目は、「Well-being」=「幸せで豊かな人生を送るために必要な情報を提供すること」です。
「ライフシフト」(リンダ・グラッドン/アンドリュー・スコット著)にも記述がありますが、老後を幸せに生きるためには財産や家族だけでなく、「健康」「仲間」「スキル」「知識」などが必要です。
読者が健康や知識といった無形資産の必要性に気づき、新しいステージに立つことができる情報の提供です。

このような観点での情報提供を心がけています。

Q.「Reライフ読者会議」の会員組織の特徴をお聞かせください。

まず、「積極性」という特性でしょうか。
例えばアンケートをすると、通常だと未記入が多い自由記述回答に詳細に答えてくださる方が多い。そこには気づきがあります。

またリアルイベントでも会員の積極性は垣間見えます。
例えば、「老後2000万円問題」というテーマのセミナーを実施した際、お隣同士で話し合っていただく時間を設けました。
皆さん初めて会った方たちばかりのはずなのですが、大変盛り上がりました。

他には、「遺品整理」「断捨離」といったお片付けに関する議題でも皆さん議論が伯仲していました。
まさに皆さん、「自分の言葉がある読者さん」ですね。

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Q.なぜ「Reライフ読者会議」の会員にはそのような積極性があるとお考えですか?

「Reライフ読者会議」メンバーの皆さんには、「社会に貢献したい」とか「社会を良くする為に自分の意見を言いたい」というモチベーションがあるのだと思います。

また、参加者は「言語化するチカラが高い」という印象があります。
当然、朝日新聞の読者の方々が多いこともあり、日ごろから社会の課題に関心があるためではないでしょうか。

さきほどお話したアンケートの自由記述回答にも表れています。
企業の商品モニター座談会を開いたときも、自分の思い、意見をしっかり語ってくれます。発言内容のレジュメを作ってもって来てくれる方もいます。
自分が何を言うべきか、どういう主張をすべきなのかということを、しっかりと考察された上で参加してくれています。

更に言えば、名前を出すこと、顔を出すこともOKという方が多いのも特徴です。アウトプットする情報の中に、実在する人物として登場していただけるので、リアリティがあります。

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Q.では、企業が「読者会議」を活用してシニア向けのサンプリングや商品モニターを実施する場合のメリットやアピールポイントをお聞かせください。

シニアのモニターという母集団は世の中には少ないと思います。
その中で「Reライフ」には1万人を超える読者会議メンバーがいて、率直かつ的確な意見を発してくれます。
先日のモニター会でも、使用した感想はもとより、改善点まで指摘してくれます。

厳しい意見も忌憚なく述べてくれるので、企業様が想定していなかった気付きを得るきっかけになると思います。

Q.商品モニターの事例やエピソードはありますか?

大手メーカーへOEM供給をしているレンジフード専門メーカーさんから、自社製品の利用状況を調べてほしいという依頼がありました。
このメーカーさんの利用者さんが見つかるかどうか不安でしたが、多くのメンバーさんがわざわざ製品型番を調べてくださり、想定人数以上のモニターにインタビューすることができました。
製品番号を調べることもいとわず、積極的に対応してくれる人たちが多いということです。

シニア女性向けの靴の商品開発に協力させていただいたときは、メーカーさんが想定していなかった「50になっても60になってもおしゃれなヒールの靴を履きたい」、「シニア向けのおしゃれなヒールがない」という声が多く寄せられ、当初の想定とは異なるコンセプトで開発に乗り出すケースもありました。

また、ファッションイベントを開いた際には、シニアモデルとして役割を担ってくださる女性もいましたし、書籍の良さをアピールするイベント「ビブリオバトル」では、ビブリオバトルの参加方法、プレゼン方法を勉強して、参加してくれました。

意欲の高い方が多く、無作為で集めたモニター集団とは質的に一線を画すと自負しています。

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Q.モニター活動を積み重ねて、シニアマーケットについて感じられることはありますか?

一般的なマーケティング以上に、シニアマーケティングの方が多様化や細分化への対応がより重要であると感じています。
なぜならば、シニアの皆さんはそれぞれ違う道のりを歩んできた方々で、価値観が違います。

シニアマーケティングでは「個」を意識することが極めて重要だと思っています。
以前、「50代から輝く100人のキレイ」という企画がありました。
スタイリストの石田純子さんにご協力をいただいたのですが、ファッションのポイントだけを解説する記事ではなく、「あなたにとってお洒落とは何か?」、「日常どんな風に暮らしているのか?」というインタビューも交えた100人のページをつくりました。
これは大変な人気企画となり、「個」にフォーカスを当てる重要性を再認識しました。

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Q.最後に、今後の展開や目指すところなどをお聞かせください。

シニアの方々の多くは人生に対し何らかの不安を抱えています。
その不安の内容は、人によって違います。それぞれの問題を解決し、よりよい人生を送るためのヒントや心構えを「Reライフ」で提供したいと思っています。

今回は“オールドメディア”から出発して今やネットでのシニアコミュニティという特化した形でその存在感を示している「Reライフ.net」の菊池功編集長に貴重なお話を伺いました。
様々な流れがネット化の方向に進んでいる中で、「Reライフプロジェクト」は、そのコンテンツは勿論、拘りを持ったリテラシー能力の高い人々が参加しているコミュニティとしてシニアマーケティングにおいて非常にポテンシャルの高いものと感じました。

朝日新聞社 「Reライフプロジェクト」

https://www.asahi.com/relife/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

第35回 
株式会社明治
第34回 
シャープ株式会社
第33回 
株式会社ホビージャパン

「明治メイバランス」シリーズ初の宅配専用商品
One to One のサービスが強みの
宅配事業で拡大を目指す

食品開発本部 中島綾子氏
マーケティング本部 小池康文氏、安元敬亮氏

 

株式会社 明治の、長い歴史を持った「明治メイバランス」シリーズ。その種類は現在80種以上にのぼります。
今回はその「明治メイバランス」について、この春から新しくはじまる取り組み・展開も含めたお話しを伺いました。

2021年3月取材

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左から小池氏、中島氏、安元氏

Q.明治といえばお菓子というイメージで子どもの頃から身近なブランドですが、それとは少し異なる医療系のジャンルに着手されたのはどういった背景があったのでしょうか?また、このジャンルに積極的に関与して行こうとされたきっかけは何でしたか?

(中島氏)
1980年代に発売された「YH 80」という商品(YHはヨーグルトYogurt・ハニーHoneyの略)が弊社の流動食の始まりでした。「明治メイバランス」が生まれたのは1995年ですが、流動食に関しては「明治メイバランス」が発売する前から少しずつスタートさせていました。
「明治メイバランス」は、もともと病院や介護施設で使われている口から食べることができない方の栄養補給のための商品です。今ではアイスやゼリーといったものまでラインナップが広がり、80以上の「明治メイバランス」シリーズ商品があります。近年はできるだけ口から食べることを推奨する動きが高まってきており、「明治メイバランス」も飲むタイプだけでなく、ゼリーやアイスなど、お客様のニーズに合わせて様々な形態の商品を展開しています。

(安元氏)
元々の始まりは先ほどお話に出てきましたヨーグルトと蜂蜜を使用した「YH 80」という商品で、ヨーグルトという素材を応用していこうというのがきっかけです。
「明治メイバランス」の話をする際に切っても切り離せない話なのですが、ある男の子が全身大火傷を負ってしまい、病院へ運び込まれ、医師がお腹に優しくて栄養豊富なヨーグルトでなんとかこの男の子を救えないかと当社に問い合わせをしたことが歴史のはじまりとされています。栄養豊富なヨーグルトとカロリーが高い蜂蜜を投与することで男の子は一命を取り留めました。その後その栄養補給の手法が広まり、医師から商品化して欲しいという声をいただいて商品化に至りました。
チーム医療の考えが進み、医師や医療・介護従事者が一丸となって医療を行っている医療機関、介護施設が多いですが、今でも医師の先生方だけでなく、医療・介護従事者の方々のお力を借りて商品を開発したり、お客様に伝える活動をしたりしています。

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明治メイバランスシリーズ

 

 

Q. ドラックストアの栄養補助食売り場で多く「明治メイバランス」を見かけますが、B to C に向けて展開された際の工夫点、売り方で何か気をつけてらっしゃる点や、意識されている点は何でしょうか?

(安元氏)
高齢化が進み、高齢になっても住み慣れた地域と自宅で過ごしながら療養をされたいと希望する方のボリュームが増えたことや病床抑制による医療費の削減を背景に在宅医療・介護の流れが進む中で、手軽に店頭で流動食を買えるということが価値になるのではないかと考え、明治メイバランスの市販化を進めました。
この商品は、お客さまに商品の良さを理解していただく必要がある商品なので、販売スタッフの方への勉強会を開催するなど、(展開する)ドラッグストアさんと手を組みながらしっかりと丁寧に販売をしていきました。元々は介護食というカテゴリーの中でお食事がとりづらい方のニーズを想定して販売しておりましたが、ご購入いただくお客さまが増えていくにつれ、「介護食という狭い世界だけにとどまらない価値があるのではないか」と考え、栄養補助の観点からの提案を行っていったところ、流通様からもご賛同頂き、栄養補助食売り場にも置いていただけるようになりました。

Q. 購入者としては介護をする方と介護をされる方、どちらを想定してこのような商品展開にされたのでしょうか?

(安元氏)
両方を想定しています。実際に飲用する方に対しては、おいしく飽きずに飲んでいただきたいという思いから、味の改良を重ねています。一方で、医療機関で使用されているという安心感や、「明治メイバランスMiniカップ」については独自設計の「小型カップ」と蛇腹のストローで、介護するご家族が使いやすいような商品になるように考えています。
ですので、どちらか一方を想定した商品展開ではなく、介護者・被介護者どちらも重視し展開しています。

 

Q. 「明治メイバランス」のスタート時、1980年代の介護は小さな市場だったと思いますが、当時から社内でマーケット・事業として評価に値するものという位置づけをされていたのでしょうか?

(安元氏)
弊社にはヨーグルトや菓子をはじめ様々な商品があり、市場トップシェアのメガブランド商品も多々あります。 「明治メイバランスMiniカップ」もトップシェアではあるものの、市販における売上がまだ小さいのも事実です。しかし、社内で非常に重要なブランドとして位置づけられている実感があります。この商品は、栄養で社会に貢献できる商品として、研究・開発から販売まで、力を入れて取り組んでいます。

Q. 「メイバランス」というネーミングには何かストーリーがあるのでしょうか?

(中島氏)
「メイバランス」は、明治(“メイ”ジ)の“バランス”の良い栄養食品という意味合いで名付けられています。
始まりは1つの商品でしたが、医療従事者や患者さま、そのご家族のニーズにお応えできるよう、今では80種類以上のラインナップを揃えており、医療現場でいちばん使われている栄養食ブランド※に成長しました。
「明治メイバランスを使っていれば安心」と思っていただけるようにこれからもお客様のお声にこたえていきたいと思っています。
当商品群は、用途やニーズに応じた栄養設計、ラインナップ、味、物性、使いやすさや識別性・安全性を重視した容器などに配慮をして開発をしています。
※ (株)シード・プランニング「2019年版 高齢者/病者用食品市場総合分析調査」における病院・介護施設での経口栄養流動食(容量125ml以下のリキッドタイプ)シェア(2016年4月~2019年3月)

Q. この2021年春、新商品が出ると聞きましたが、開発の背景をお伺いできますでしょうか?

(中島氏)
この春から「明治メイバランス」の宅配専用商品を販売します。
「明治メイバランスMiniカップ」の販売開始後、お客様からは「1本で栄養素がいっぱい摂れるのは嬉しいです。」という声をいただいた一方で、「1本で200kcalは多すぎる」、「味が濃いので飲みづらい」と言うご意見もありました。しかし「宅配で定期的に届けてくれるのは、体のメンテナンスが習慣化できて良いと思います」という声が後押しとなり、宅配に1番マッチする「明治メイバランス」は何かを考え、明治の強みである「ヨーグルト」にたどり着きました。
皆さまの期待に答えられる味に仕立てるということ、これだけの栄養素をわずか100mlの商品に入れるということには苦労が多くありました。「明治メイバランスで培った栄養設計技術」、「ヨーグルトの健康価値とおいしさ」、「定期宅配による習慣化」・・これらを合わせたのがこの商品です。

(小池氏)
商品設計にあたり、1回で飲みきりやすく、ひんやりした口当たりが好評の小型タイプのビン入りの商品にしたいと社内で提案しました。しかし、ビンに本商品を充填すると、光が当たることで様々な栄養素がダメージをうけてしまうという問題に直面しました。その課題を開発チームがクリアしてくれたことで、発売に至ることができました。

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明治メイバランスのむヨーグルト(宅配専用) (2021年4月5日発売)

Q. 昔からある牛乳配達などの宅配サービスが減少した中、今もう一度力を入れられるにあたって新しくネットワークを構築されたのでしょうか?

(小池氏)
1970年代からスーパーやコンビニが台頭していくことで急激にお客様軒数が減り、宅配事業存続の危機でした。しかし、宅配専用商品の開発や保冷可能な受箱の導入、さらには配達員の営業活動時間のシフトチェンジなどに取り組んだ結果、V字回復をしてきました。現在では全国250万軒のお客さまにお届けしています。最近の例で申しますと、小型ビンタイプの「明治プロビオヨーグルトR-1ドリンクタイプ(以下、「R-1」)」において市販品とは差別化した中身で発売することで、スーパーで「R-1」を購入している方々が「宅配を届けてくれるほうが続けやすい」と、宅配に切り替えてくださる例が非常に増えているようです。

もちろんネットワークの構築・維持に関しては、全国3,000店の明治特約店さんと共同してそのインフラの構築を進めています。明治の特約店さんは我々の大切なパートナーであり、全国の高頻度定期チルド配達網は、当社の強みだと考えています。更なる価値創造に向けて、去年からワタミの宅食さんとも取り組みを開始しました。ワタミさんのお弁当を届ける時に「R-1」などの宅配商品も一緒に届けていただき、反対に明治の宅配商品を届ける時にワタミさんのお弁当もお届けするなど、お互いの顧客網を使いながら相互に送客し合うことで、お客様の健康的な生活をサポートすることを目指しています。
さらにこのコロナ禍でお客さまの健康意識が高まっていて、解約をするお客さまが減っています。新規営業時においても、在宅勤務や活動自粛による在宅率の向上でお客様との接点が増え、新規軒数も増加しています。2020年度は宅配事業の売上が非常に好調です。新商品「明治メイバランスのむヨーグルト(宅配専用)」の発売によって、2021年度も更に飛躍できると考えています。

(安元氏)
元々(商品と宅配に)親和性があるなと思いながら、商品的なブレイクができなかったというところを今回(の宅配専用「明治メイバランス」で)できたというのは非常に大きいと思います。

Q. これからの「明治メイバランス」宅配サービスに対する意気込みや思いをお聞かせください。

(中島氏)

「明治メイバランス」シリーズをヨーグルトに展開できることについて、チャレンジングな取り組みですが期待感も強く感じています。

「明治メイバランスMiniカップ」の市販展開をスタートした頃は医療従事者・介護従事者からの紹介でこの商品を購入していただく方がほとんどでしたが、近年では、お客さまご自身が店頭でご覧になって買っていただくというお客さまが増えています。しかし店頭ではすべてのお客様に直接、「明治メイバランス」がどのような商品なのかをお伝えすることはできません。その点宅配では、お客さま一人ひとりとお話して大切な情報をお届けできるため、この商品と相性の良いチャネルだと思っています。お客さまに気に入っていただき、「毎日飲みたい!」と感じていただけるよう、チャレンジしていきたいと思います。

Q. 宅配サービスのエリアや想定されるターゲットやペルソナはどうお考えでしょうか?

(小池氏)

エリアは全国です。ターゲットとしては、アクティブシニアとギャップシニアをメインターゲットとして想定していますが、私たちの中では年齢というよりその方の状態が重要と考えています。状態・気持ちで商品を選んでいただくことが必要なのかと思います。あまりシニア感を出さず、介護ということでなく、あくまで食事のバランスを整えるという面でアプローチしていく予定です。30、40代の朝食を抜いてしまったという方にも、栄養バランスを整えようという訴求の中で、シニア以外の層の獲得もできるのではないかと期待しています。
発売前にお客様見本を配布し、営業活動を進めていますが、非常に好評です。基本、特約店さんの営業活動と、Webでの「4本無料お試しキャンペーン」、 新聞広告等でのプロモーションを展開していく予定です。

Q. 今回ネットでのサービスの申し込みというところも重要視されているのでしょうか?また、デジタルマーケティングにおけるシニアの方々の反応をどう捉えられていらっしゃいますか?

(小池氏)

昔より随分シニアの方々のITリテラシーは上がっているかと思いますが、やっぱり新聞の方がリーチ率は高いと考えています。Webは30~40代、新聞は60~70代。「新聞に広告を出して、事務局を設置して電話受付対応する」よりは「Web広告を出し、レスポンス自動受付で、メール配信」の方が、コスト効率がいい…その辺のバランスを取りながら対応していこうと思います。
あとは、離れて暮らす親御さんへのプレゼント需要を狙っています。私も親が遠くで一人暮らしをしているので、宅配でお届け、支払いはこちらで、とこっそりプレゼントするつもりです。

Q. 宅配ビジネスというものの可能性や課題でベンチマークされたものはありましたか?

(小池氏)

宅配で言うと、ECサイトでの時間指定配達や、生協さんのような豊富なラインナップ対応もできないと思っています。我々の強みは週に2、3回という頻度でお客さんの家に行ってone to oneのコミュニケーションを取ることなので、そのコミュニケーションを商品と合わせて提案することで、地域包括ケアシステムの一翼を担う、予防活動に貢献していきたいと思います。「宅配で週に2、3回来てくれるから、見守りも兼ねているよね」、「コミュニケーションが社会との繋りとなって孤独にならないよね」といった、コミュニケーションとセットした新しい宅配モデルの構築を目指しています。闇雲に商品ラインナップを増やしていこう、「明治メイバランス」のシェアを増やしていこう、と言うことではなく、限られた商品の中でそこにプラスの価値を付与して戦っていきます。「離れて住む子どもよりも近くに住む牛乳屋さん」のような健康習慣のインフラにしていきたいです。
この商品の必要性をお客さま一人ひとりにしっかりと理解してもらうことが大切です。置けば売れる商品というわけではなく、しっかりと理解してもらいながらこの商品を取っていただくというのが、習慣化につながり、お客様の健康習慣に貢献できると思います。

 Q. 一定の説明と利用者側の理解・咀嚼があって、初めてコミュニケーションが成立して維持・発展していく商品ということでしょうか?

(中島氏)

そうですね。今回の取り組みが、お客様のヘルスリテラシーを高めるための一助になればと思っています。
3食しっかり食べているつもりでも、実は栄養素が十分に摂れていないことが多くあります。年齢を重ねるほど、食べる量が減るためその傾向は強まります。栄養素の不足が長く続くとフレイルなどへのリスクが高まるので、そうならないよう、予防的な取り組みを広めていきたいですね。

株式会社明治 

https://www.meiji.co.jp/

明治の宅配 

https://www.meiji.co.jp/takuhaimeiji/commodity/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

第34回 
シャープ株式会社
第33回 
株式会社ホビージャパン
第32回 
INHOP株式会社

実証実験に基づいたシームレスな
介護施設支援ソリューション
「頭の健康管理サービス」「頭の健康@HOME」

シャープマーケティングジャパン株式会社 ビジネスソリューション社
システム機器営業推進部 佐田 いち子氏

シャープ株式会社 ビジネスソリューション事業本部
システムソリューション事業部 商品企画部 井上 貴英氏

 

「頭の健康管理サービス」「頭の健康@HOME」はシャープ株式会社が開発・運営を行う介護施設支援ソリューションです。最終エンドユーザーの利用者(=高齢者)を見据えた法人向けの生活機能・認知機能訓練に特化したシームレスな運用ができることが特徴です。
今回は、システム機器営業推進部の佐田いち子氏、システムソリューション事業部商品企画部の井上貴英氏にお話しをお伺いいたしました。
※今回はシャープ株式会社のオンライン会議サービス「TeleOffice」を使用して取材いたしました。

2021年2月取材

シャープ 人物写真

              井上貴英氏            佐田いち子氏


Q.はじめに、シニアの定義をどうお考えですか。

弊社といたしましては、特段シニアというものを定義しようとはしておりません。ここからは個人的な感想になりますが、“高齢者”という響きはなんとなくネガティブな印象があります。それをふんわりと置き換えると“シニア”とか、年齢層を引き下げて“人生史上最高の時”のような“グランドジェネレーション”といったそういう言い方もあるのだろうなと思いますが、その言葉自体にはあまり拘ってはおりません。

Q.「頭の健康管理サービス」について教えてください。

顧客ターゲットは、通所施設――デイサービスやデイケア、入所施設――介護老人保護施設あるいはサービス付き高齢者向け住宅、などです。
サービスの概要につきましては、介護施設の業務効率をアップし、人手不足の解消を支援する新しいソリューションということで、利用者(=高齢者)が楽しみながら認知機能を訓練することができるサービスになっています。特に私どもは生活機能、中でも認知機能は日常生活で欠かせない脳の働きということで、これに着目し強化することを考えております。

システムの構成といたしましては、40型タッチディスプレイあるいはタブレットを高齢者ご自身がお使いになります。画面にタッチをして訓練用ゲームをすると、その結果がクラウドサーバーに保存されます。施設スタッフは操作の支援や、結果を見たりすることができるシステム――アセスメント→計画作成→訓練実施→結果・評価といったケアプランの業務フローをシームレスに支援できるシステムとなっております。

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Q.「頭の健康管理サービス」の開発~販売までの背景・経緯をお聞かせください。

2012年頃、「タブレットを活用して健康管理をしたい」というお話を奈良県王寺町の高齢者団体「未病クラブ」というところからいただき開発をスタート致しました。
そこから、奈良県や神奈川県の公募事業で実際に健康管理・介護予防ソリューションという取り組みを本格的にスタートしております。また、その後経済産業省公募事業として三重県亀山市と亀山市シルバー人材センターと協業して、ビジネスの実証実験を2015年から開始しております。さらに、「頭の健康管理サービス」の介護トライアルということで近畿経済産業局の実証プロジェクトを経て、2019年8月に「頭の健康管理サービス」の販売を開始させていただきました。

私どもビジネスソリューション事業本部は事業の柱の一つとしてBtoB向けのディスプレイを扱っております。そのディスプレイを活用いただくため、ディスプレイに表示するコンテンツを配信するソフトウェアの開発も行っております。
さらに、傘下の販売会社がシステムインテグレーションやサポートができる体制も整えております。
「頭の健康管理サービス」はこうした当社のもつBtoBビジネスのリソースと、これまでの実証実験やトライアルから得たノウハウ、それから各大学との連携による知見、そのようなものを組み合わせることで、今後増加する高齢者の受け皿となる介護施設の課題解決に貢献できると考えて商品化しております。

2017年から実施している介護フィールド実証で、介護施設の方々にご意見を伺ったところ、まず1番目には2018年の介護保険法改正に伴う収入減の対策をしたいという声、2番目には介護施設間の競争が激しいので認知機能対策訓練としての差別化を図りたいという声、3番目には多忙な機能訓練指導員の仕事を少しでも軽減して楽にしたいという声、4番目には厚生労働省より生活改善を重視する方向が示されており、今後の介護報酬の改定を見越して生活機能訓練を充実させたい、という4つの声が聞かれました。
このようなニーズにお応えできるというのが「頭の健康管理サービス」であるということで、我々は商品化に取り組んで参りました。

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Q.BtoBへ特化している理由をお聞かせください。

シニアマーケットを考えたときに、もちろんBtoCということも考えられ、弊社でも、火を使わない調理家電など、様々なシニアにフィットする商品をご提供しています。しかしながら、「頭の健康管理サービス」や「頭の健康@HOME」にはICT機器の操作が伴い、これをサポートすることが必要になってきます。
私どもは、高齢者への操作サポートが、高齢者とのコミュニケーションの機会になりうるのではないかと考えております。

自治体全体で支えあい、シルバー人材などがキーとなって支援できる地域包括ケアに貢献するモデルを作れるのではないか。それが自治体の要望でもあるし、動ける方がサポートする、そういった高・高支援モデルが望ましいと考えています。
その考えに至った背景は、2012年から始めている高齢者団体「未病クラブ」での実証実験にあります。アクティブシニア同士でもいろいろなレベル差があり、ICT機器に関しても非常に良くご理解されている方、ちょっと良く分からないという方、と様々です。良くお分かりの方は「こういう風にするんだよ」と不案内な方に教えてあげるのですが、その姿がとっても微笑ましくて、また私どものような年代の者が教えるよりもはるかに自然に受け入れてもらえる。
こういう姿があり得るのだなということを目の当たりにしました。

その後、県や国の公募事業でも、自治体の中で、シルバー人材の方にサポートしていただくと、教える側も根気よく教えていただけるし、聞く側も聞きやすいというモデルが成り立つことが分かりましたので、そこをターゲットにしようと考えています。
また、介護施設支援ソリューションでは、トレーニングの実施に際し使い方を教え、教わるシーンが、施設の機能訓練指導員やセラピストと、高齢者とのコミュニケーションツールとしても役立っているとお聞きしており、正に、理想通りに活用いただいております。

弊社以外の企業でも、介護施設スタッフの労力削減や業務効率アップという観点からの開発は進めておられると思いますが、“高齢者が使う”というところに拘り、10年以上費やして、全ての日常生活の根幹である認知機能という点にフォーカスした取り組みというのは、他社には無いだろうと考えています。
自治体向けモデルにせよ、介護施設向けにせよ、主役は一人ひとりの高齢者なのです。ただ前述の経緯・想いから、そこにサービスを届ける方法、ルートをBtoBとしている、と考えていただければと思います。

Q.導入にあたってのメリットを教えてください。

導入いただいた場合のメリットは、利用者(=高齢者)にとっては、楽しく訓練用ゲームをしながら認知機能を刺激できるということ。これによって顧客満足度が向上し、他の施設との差別化ができます。
施設様にとっては、機能訓練の効率化ができるという点が大きなメリットとなっています。

機能訓練について、施設様ではケアプラン計画書の原案を作成し、アセスメントを行って計画を完成させます。そこから訓練を実施し、計画書に評価を記載して、最終的にはその結果をご本人やご家族に説明して同意をいただく、というフローが一般的です。
「頭の健康管理サービス」の場合は、アセスメントの部分について、厚労省の作成した「興味・関心チェックシート」を、さらに深く掘り下げた質問に回答していただきます。その結果を基に、強化すべき認知機能を自動的に割り出し、個々人にあった訓練用ゲームが自動提示される流れとなっています。個人を識別するICカードをカードリーダーにかざしていただくとその日やるべきゲームが提示され、実施していくとまた次のゲームが提示されるような仕組みになっています。

Q.サービスの特徴はいかがでしょうか。

特徴として1つ目のポイントは、現場ニーズにお応えできる独創的な機能訓練です。介護施設でのフィールド実証や、ヒアリング観察に加え、脳医学あるいは機能訓練関係の大学との連携によって、アセスメントから計画作成・評価までできる独創的なシステムを生み出すことができました。
2つ目のポイントは、実証の中から生まれた、高齢者にも使いやすいUIです。介護現場での観察結果を基に、高齢者でも直感的に操作しやすく仕上げております。
3つ目のポイントは、サービス内のゲームの一部を東北大学の川島隆太教授に直接学術指導を受け開発していることです。東北大学では効果のエビデンスを取得し、論文発表もして下さっています。
4つ目のポイントは、直感的に変化が分かる結果の“見える化”です。機能訓練の結果が自動保存されるのはもちろんのこと、チャートや折れ線グラフなど、様々な形式でのアウトプットができます。

Q.ハードウェアからすべてご提供する理由について教えてください。

介護業界はまだまだICT化が進んでいないのが現状なので、すべてキッティング(機器の設定・調整作業)してご提供し、何かお困り事があったらサポートできるように考えております。お手持ちの機材で利用できると、コスト面からみると施設様にとっては良いかもしれませんが、トラブルが起きた時、解決に時間がかかる可能性が高くなります。
そういうことから、現在は決められたハードウェアをフルキッティングしてご提供しております。この先、どんどんICTが浸透すれば、また別の様態もあるかとは思います。

もう一つ別の理由があります。科学の世界では認知機能を維持・向上させるためには脳の処理能力を上げることが有効とされています。そのためには訓練ゲームの実施速度を向上させていく必要がありますが、お使いいただく機材が異なる場合、その実施速度の差が脳の処理能力によるものなのか、機材の反応によるものなのか判断がつかないとデータ自体の意味が無くなってしまいます。ですので、現時点では、弊社の機材で統一してお使い頂いています。

Q.「頭の健康管理サービス」を実施するにあたって必要なシステムを教えてください。

ハードウェアの構成としては、40V型タッチディスプレイ・コントローラーボード(パソコン)・フロアスタンド・ICカード・ICカードリーダーになります。このICカードは個人管理をするために必要となっています。カード1枚で個人を特定することができます。ディスプレイ・コントローラーボード・フロアスタンドの代わりにタブレットもお使いいただけます。
そこに「施設基本」・「機能訓練」・「個人管理」の各ライセンスが必要になります。
「施設基本ライセンス」というのは施設に1ライセンス必要なもので、この中にはゲーム系のものが全て入っています。「機能訓練ライセンス」は、機能訓練に活用するために、スタッフがお使いいただくものになります。「個人管理ライセンス」は、個人のデータ管理をするためのものになります。
以上のようなハードウェアとソフトウェアで成りたっております。
この他、「健康管理ライセンス」というものがあり、こちらはこの後の「頭の健康@HOME」にも繋がっていきますが、タブレットでお使いいただくときに健康管理もできるというようなものになっています。

構造

Q.導入事例を教えてください。

導入施設様Aでは、導入前は認知機能を維持強化したいという取り組みを考えておられました。その中で訓練計画とか結果・履歴を簡単に管理できたら良いなというような課題感を持って探されていたところ、「頭の健康管理サービス」にたどり着かれたということでした。
実際に導入されてみると、利用者が楽しみながら取り組める効果的なトレーニングであると感じておられること、介護スタッフの業務が軽減されたということ、一人一人のアセスメントによってそれぞれに合った訓練用ゲームが提示される為、時間的にスタッフが高齢者に寄り添う余裕ができたというお声を頂いております。

もう一事例として挙げたいのは、導入施設様Bのケースになります。
オープン前から施設の内覧会でケアマネージャー様にご意見を伺ったところ、「これまでにないサービスだ」と、非常にポジティブな感想をいただきました。ケアプランの立案や実績の記録などが簡単にできるということで導入をお決めになりましたが、導入当初は「いろいろな認知機能の方がいる中で本当に利用できるのかな?」というような疑問を持ったスタッフもいらっしゃったそうです。結果といたしましては、すんなりとすべての方が利用できたということで、ご家族やスタッフの方も驚き喜んでいらっしゃったとお聞きしています。

Q.「頭の健康@HOME」についてお聞かせください。

「頭の健康@HOME」の顧客ターゲットは見守る側、事業を進める側として自治体やシルバー人材センター。
お使いいただく側としては在宅のシニアと考えております。
現時点では、介護施設向け「頭の健康管理サービス」の付帯サービスという位置付けになっております。ご自宅ではそれぞれの高齢者がご自身のタブレットやスマートフォンを利用して健康記録、あるいは頭の健康ゲームを実施したデータをサーバーで管理し、介護施設のスタッフから電話などでお声掛けをするようなご利用方法になります。高齢者のご家族とも連携した健康見守りもできますし、アクティブシニアに対しては健康管理や介護予防による健康寿命の延伸を図り、要介護認定者には適切な健康管理による重症化防止を目指しています。

③

現在約3,500万人の高齢者がおられますけれども、その多くはアクティブシニアと呼ばれる方々、そして要介護・要支援認定者が全体の18.3%にあたる645万人(2018年度分、2020年7月厚生労働省発表)、アクティブシニアと要介護・要支援認定者の間におられるのが介護リスクの高い「フレイル群」と呼ばれるメザニンシニアになります。
自治体やシルバー人材センター、高齢者団体、NPOなどが、介護予防事業などを行うことで健康寿命の延伸と社会保障費の削減を目指しています。また、医療・介護事業者は、重症化防止の取り組みを行っています。この両方で、「頭の健康@HOME」の在宅利用というのは成立します。
特に感染リスクへの懸念から、一時的に施設に通うことができない高齢者に対し、「頭の健康@HOME」はご自宅での生活機能・認知機能訓練の一助になると思っております。

①

Q.サービス開発について苦労されたことや、やりがいをお聞かせください。

企業が実証フィールドを求めて、いきなり自治体や介護施設にアプローチするのは非常に難しいですね。
ですので、やはりそこは公的プロセス、官公庁の公的な事業に参画しました。公募に応募して正式に採択をされ、世の中にこれは必要な事業だと官公庁からも認められた上で推進しています。
いわば、正攻法の取り組みです。そうした上で、マッチングをしていただくなど、実証フィールドを与えていただいて開発を進めています。

私どもの特徴の1つとしましては、研究開発を行う技術者が現場に入り込んで、直接しっかりとお声を聴くということをしています。お忙しい中でお時間をいただくわけですから、まずお聴きする際に「何かお困りことはありませんか?」と漠然とお尋ねするのではなく、こういう課題感を持っていらっしゃるのではないかという仮説を立てた上で、ヒアリングしていくアプローチをしましたし、また「こんなことで困っている」とお聴きできたなら、それをできるだけ商品に反映して次の機会にお持ちする、ということの繰り返しになります。いわゆるアジャイル開発(作りながらブラシュアップしていく)というような手法になりますけれども、そういった地道な積み重ねで商品を仕上げているということになります。

2017年頃から介護施設様向けのフィールド実証を進めていますが、その時は少し早過ぎたかもしれません。ですが、最近は厚労省がデジタル化・科学的根拠に基づいた介護という指針を提示するようになってきました。そうなると、私どものシステムがお役に立てるだろうと考えています。
ヒアリングや観察に関しては、実際に介護現場で働いておられるプロフェッショナルの方々に、ご利用者様(=高齢者)もそこにおられる中でお時間を割いていただく、またご利用者様(=高齢者)には観察もさせていただく。失礼な話ですよね。まったくの他人がその場に訪れてじっと見るわけですから。
そういう事をなるべく違和感を覚えないように、控えめに短時間で済むようにと苦労しながら進めています。

その結果、やりがいというところでは、実証フィールドとして協力してくださった介護施設様から、本格的なサービスの導入をいただいたり、サービス利用者様の笑顔を拝見できたり、契約を更新してくださったり、「とても手放せないものになっている」というお声を聞くといった事でしょうね。

Q.利用するにはどのような流れになるでしょうか。

「頭の健康管理@HOME」は昨年の6月24日に提供を開始したものですが、個人向けサービスは昨年9月末にて終了しております。
法人向けにつきましは、まずIDを取得して頂きますと高齢者、またはご家族に招待メールが届き、メールに従って高齢者が参加すると毎日ご自身のタブレットやスマホに“お題メール”が届きます。“お題メール”にあるワンタイムURL(その日しか利用できません。)から健康情報の入力や、頭の健康ゲームをする画面が表示される、といった仕組みになっています。

Q.収集データについてはどのような活用を考えていますか。

個人情報にあたりますので、データについては高齢者様自身にも施設様にも同意をいただいた上で収集させていただき、現在はシステムのバージョンアップということに活用することしか考えておりませんが、たくさんデータが集まればもちろんその“ビッグデータ”から引き出せる新たなサービスなどはあると考えています。
収集するデータについては、訓練用ゲームの結果だけでなく、全ての操作ログも収集できますので、そこから何か抽出できるのではないかと考えています。

Q.介護施設の方へ認知していただくためには、今後どのような仕組みが必要になると思われますか。

現在介護医療現場には弊社の複合機あるいはプラズマクラスターイオン発生機、こういったものを多数導入頂いています。また、感染拡大防止対策を支援するという観点から、顔認証+自動検温システムやフェイスシールドといったニューノーマル商品、遠隔対応ソリューション等の新規ソリューションも進めております。今後は「頭の健康管理サービス」はもちろんのこと、こうした個々の介護事業向け商材を群として、シャープがワンストップで提供できるようにしていきたいと考えております。

Q.今後の見通しや注力していきたいポイントを教えてください。

今でもかなり意識していますが、やはり、科学的根拠に基づいた介護に寄与する方向に向かって、施設の方々がご苦労なさらずにそれを実現することに注力していきたいと思っています。
せっかくご協力いただいた施設様や、導入してこれをお使い頂いている方々がこれを使ったがために労力がかかっている、というのであればそれは問題です。意識しなくても科学的な根拠、エビデンスが取れていくようにしていきたい。そのために、なるべくICTを利用する際の障壁を取り払っていけるような取り組みができたら、と考えています。

介護の世界というのは、労務的にもコスト的にもなかなか課題が多いとお聞きしています。その中で、介護スタッフは一生懸命頑張っておられます。そこで何が起こるかというと、スタッフ一人ひとりにノウハウが溜まっていくのですね。
そしてスタッフが辞めると、ノウハウも一緒に失われてしまう。ですので、“介護の平準化”というのが必要だと思っており、そこをサポートできるのが「頭の健康管理サービス」であると考えています。誰がやっても一定の質で、ご苦労なさらずに機能訓練ができる。そして、介護スタッフには、もっと利用者との触れ合いに時間を割いて欲しいと思っています。
高齢者と関わる時にこのサービスがあれば、もっと人と人とが寄り添う、いわゆる人間にしかできないことがやれるのではないかなと思っているので、そういう方向に持って行きたいですね。

シャープ株式会社 

https://corporate.jp.sharp/

頭の健康管理サービス

https://jp.sharp/business/solution/atama-kenko/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

第33回 
株式会社ホビージャパン
第32回 
INHOP株式会社
第31回 
株式会社ベルーナ

1969年創業ホビージャパンの新たなチャレンジ
シニア向け「大人のぬり絵集」

経営管理部 広報宣伝課 課長 岡本恭範 氏
刀剣画報編集部 編集長 笹岡政宏 氏
刀剣画報編集部 井原凛大 氏

1969年にミニカーの輸入・販売からスタートした株式会社ホビージャパン。趣味・嗜好性が高いいわゆるマニアックな書籍を多く出版されていますが、シニア向け「大人のぬり絵集」にスポットを当て、出版の経緯、ご苦労された話、ターゲットへリーチさせるための工夫から今後のアプローチまで、幅広くお話をお伺いしました。

2020年12月取材

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Q. 「大人のぬり絵集」というスタート時からシニア層を狙おうとしたキッカケは何かあったのでしょうか?

当社では従来から「刀剣画報」という刀剣に関する雑誌、そしてその前には「歴史探訪」という歴史の雑誌をリリースしていました。歴史の雑誌はメインの読者はご想像の通りシニア層で、特に50歳前後がコアとなります。
このように、弊社の出版物は70代以上も含めそもそもシニア層の読者層が多いという実情があり、この層へ改めてアクションしたという、いわば自然な流れの中でのことだったと思います。

とはいえ当時、社内的には「歴史」をテーマにやっていこうという事自体割と新しいチャレンジでした。
本来は模型関係の商材や出版物が主であったのですが、この辺りのターゲット層も徐々に高齢化し、50歳前後の方々が中心になっていました。つまり、シニアの入口くらいといったところでしょうか。
そんな背景もあってもう一歩先、つまり更に年齢が高い層にもリーチするようなチャレンジを考えていました。

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 Q. もう1つ上の層を狙っていくためにどのようなことを考えましたか?

まずは既存の顧客層の特性から考えました。そもそもホビージャパン社が取り扱う商材には、年齢を超えて共有できるオタク的な要素(興味を持つ分野)が含まれることが多くあります。

例えばガンダムであれば「ミリタリー」や「戦争」というキーワードがあがってきますし、一方で「歴史」とか「史実」といった要素を好む層でもあります。
そんな繋がりから「歴史」関連の出版物へと繋がっていったと思います。

ですので見方を変えれば、シニアを狙うというより「趣味を持ちながら歳を取っていく方々」がどうやって暮らして行くかという事に寄り添うという考えが先に立っていたのだと思います。

Q. 実際のところ「大人のぬり絵集」に目を向ける方は、どの世代でしょうか?

これまでお話した層(50~60代)よりは、もう少し上ですね。最初は、葛飾北斎とか趣味性・歴史性の強い絵からスタートしました。ぬり絵としてはちょっと難易度が高いといえます。

ここからもっと簡単に楽しめるもの、緻密なものよりも描く喜びが感じられるものという方向にシフトしていきました。
その結果ターゲットが拡がり、70代以上の方々にもご興味を持っていただけるようになりました。

結果的に、「大人のぬり絵」が当社内で一番高年齢向けのコンテンツになったという次第です。

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Q.趣味・嗜好性が強いユーザー層からシニアにまでターゲットを拡げていく試みについては社内では何か議論はありましたか?

社内には従来から「面白そうなものはやってみよう」という意識が根付いていました。新しいことには寛容な社風、興味のあるものに取り組む社風ですね。ですので、新しいチャレンジには、それがシニアターゲットであったとしても肯定的ではありました。

確かに弊社は趣味・嗜好性が高い、いわゆるマニアックな商品が多いのは事実ですが、別にマニアックじゃなくても良いんです。マニアックであることがマストではありません。ニーズがあるものには素直にチャレンジしますし、更に言うならば「ホビージャパン」という社名の通り「好きなコトをやろう」というマインドです。

Q.創業されて半世紀以上(1969年創業)の歴史をお持ちですが、本当に自由な社風なのですね。

確かに歴史は長いですね。しかし、「ホビージャパン」という“入れ物”は変わらないのですが、時代に合わせてその“中身”、つまりリリースする商品は柔軟に変わってきています。

最初はミニカーの輸入・販売から始まった会社なのですが、その後会報誌をリリースし、それが月刊の模型誌になりました。模型誌についても、当初から「ガンダム」を扱っていた訳ではなく、ミニカーや車両模型がコンテンツの中心でした。
1980年代になってミリタリー系の模型になりキャラクター模型やフィギュアを扱うように変化を経てきております。

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Q. 「大人のぬり絵」という新しい取り組みでご苦労された点は?

やった事がないので当初は手探り状態でした。リリースしては読者の反応を見るの繰り返し、つまりはトライ&エラーですね。

反応を見るのも苦労しました。若い世代をターゲットにした商材であればネット、特にSNSなどで反応を見る事ができるのですが、基本的にシニアマーケットについては(ターゲットがオフラインであるため)その手段が有効ではりません。
ですので、そこはマーケターの勘に頼らざるを得ません。つまりは”主観的な推察”とでもいうのでしょうか。

シニアの方については、その行動を可視化するのが難しいといえます。あまり家から出ず、我々にとってはその行動がブラインドの状態であることが多いわけです。ですので観察すること自体が困難です。

例えば、本屋に行って店頭をウォッチしたりもするのですが、そこではどんな方が購入してくれているのかから始まります。そして仮に若い方が商品を購入してくださった場合、それはプレゼント需要なのか?移動手段がないシニアに頼まれて代理で買いに来たのか?などを想像します。更には、商品についてどこで情報を得たのか?という点も、勘を働かせる必要があります。この勘を養うためには、結局は経験が重要になると思います。当社で言えば、「何が受けるか?」を考えながら長年に渡り出版物や商品をリリースしてきました。この経験の中で自ずと勘が養われてきたのだと思います。

違いがあるとすれば、これまでは担当者自身が「やりたい」、「作りたい」と考えていたことを実現する「等身大マーケティング」を行っていたのに対し、これからはターゲット(シニア層)の生活様式や行動形態を類推してモノ作りをする「論理マーケティング」へとシフトしていく、それだけのことです。

SNSなどを分析して世にどんな需要があるかを分析することも結構ですが、自分とは違う誰かの需要に気づくためには、自身の勘を最大限に働かせて見えない何かを「狙い撃ちする」ような感覚も必要だと思います。

Q. 商品の存在をターゲットにリーチさせるための工夫などはありますか?

そこが一番の悩みどころですね。シニアの皆さんは、年を追うごとに(我々が生活する)世間からの距離が徐々に遠くなる傾向にあります。ネットはもちろん、従来メディアも必ずしも有効であるとは限りません。
そうなるとやはり工夫すべきは、インストアでのポジションということでしょうか。
書店の棚に並んでいる時の存在感を感じてもらえる、選択肢の中に入れてもらえるようにどうするか…という事になろうかと思います。

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Q. 今後のラインナップやアプローチで、こんな事を考えているというものがおありでしょうか?

現在の売れ筋ある「花」シリーズについては引き続き力を入れていきたいと考えています。

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また現行の「大人のぬり絵」シリーズ全体についてもこれまでかなり精査を繰り返してきて、ある意味完成に近づいてきているので、更に一歩進んだ形にもチャレンジしてみたいと思います。

例えば「ぬり絵+パズル」で「脳トレ」のようなものを作るとか、ぬり絵をベースにそこにもうひとつの要素を付け足して発展させていきたいですね。

株式会社ホビージャパン 

http://hobbyjapan.co.jp/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

第32回 
INHOP株式会社
第31回 
株式会社ベルーナ
第30回 
株式会社C&P
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超高齢社会化が進行する我が国においては、「介護保険」の存在が国民生活にとって不可欠な存在となっている。しかしその介護保険が国や地方自治体の財政を逼迫させる一因になっていることもまた事実である。

そんな状況に画期的な手法で風穴を開けようと奮闘する自治体が長野県松本市である。
松本市は、2016年度から要介護認定を必要としない地域支援事業における総合事業を開始させ、その結果認定者の伸び幅は2017年度以降横ばい傾向を見込めている。

その中核にあるのが「松本ヘルスバレー」構想である。それは一体どのような施策であろうか。
今回、自らを「健康寿命延伸都市」と標榜する松本市の担当者に話を聞いた。


取材にご協力いただいた方

松本市商工観光部 小林氏、丸山氏
  • 松本市商工観光部 健康産業・企業立地担当 小林浩之部長(左)
  • 松本市商工観光部 健康産業・企業立地課 丸山克彦係長(右)

※2018年10月取材時


第1章

「松本ヘルスバレー構想」誕生の背景

市民の健康を産業面から支える「松本ヘルスバレー構想」

2017年4月1日現在、我が国の総人口は1億2,676万1千人であり、そのうち65歳以上の高齢者人口は過去最高の3,489万8千人、高齢化率は27.5%に達している。
また、2015年には「団塊の世代」が高齢期を迎え、2025年にはこの層が75歳以上の後期高齢者になる。
これに伴い、2000年度から開始している介護保険制度においても、第一号被保険者数および要支援・要介護認定者数は増加の一途を辿っている。
特に要支援・要介護の認定者数については、制度の開始当初であった2000年には256万2千人であったが、2014年度末には605万8千人に至っており、その数は開始当初の237%にあたる。

高齢者人口と要支援・要介護の認定者数

介護保険自体は国民生活にとって不可欠な存在になる一方で、このままでは近い将来、介護保険の存在が財政を逼迫させる一因になることも自明である。

そんな状況に画期的な手法で風穴を開けようと奮闘する自治体がある。長野県松本市である。
松本市は、2016年度から要介護認定を必要としない地域支援事業における総合事業を開始させ、その結果認定者の伸び幅は2017年度以降横ばい傾向を見込めている。
自らを「健康寿命延伸都市」と標榜する松本市が推進する施策、それこそが市民の健康を産業面から支えるという「松本ヘルスバレー」構想だ。


「日本の平均的都市」松本市を取り巻く環境

松本市は長野県中信地方の中心都市であり、人口は長野市(37.7万人)に次ぐ24.1万人を擁す旧城下町である(※2016年時点)。また、周辺人口を合わせるとおよそ45万人に至る。

一方、市域面積は、2005年以降の周辺町村との合併を経て978.47平方キロメートル(県内1位)に至っており、これは東京23区と横浜市を足した面積に匹敵する。
この広域な面積を誇る同市には、人口集中区域に当たる中心市街地、その周辺にあたる人口密集地域、更に人口が少ない郊外地域の三つに大別される。

中心市街地にはドーナツ現象や高齢化世帯の増加といった問題が発生しており、その周辺地域には子育て世帯の増加よる教育環境の混雑や待機児童の問題も発生している。

また、郊外地域には過疎化の問題もある。
市全体の老年人口割合は27.2%(長野県は30.7%)で全国平均よりは少し高く、県平均よりは少し低いという状況だが、いずれにせよ高齢化が進行は他の市町村と同様に大きな課題である。
いわば松本市は、日本国内に存在するあらゆる人口に関する問題を包含している平均的な自治体と定義することができる。


広大な市域を持つ松本の福祉を支えるインフラ

その松本市が他の市町村と一線を画す従来からの取り組みの一つとして挙げられのが、広域に渡る市域を35の地区に分けたきめ細やかな地域包括ケアの体制である。

この区割りは国が推奨している中学校区を単位にしたものよりは小さな単位となっている。このことからも、松本市の地域包括ケアに対する取り組みの自主性が垣間見える。

松本市が行うこうした地域包括支援事業は、国(厚生労働省)が提唱する枠内にとどまらない「地域共生社会」という独自の方針に立脚しており、公民館など総務省系の末端機能や、はたまた産業機能、そして医療に至るまでの全てを横断的に課題解決していこうという考え方の表れである。

そして、その方針を支える象徴的な存在が「地区福祉ひろば」である。

市内35地区のそれぞれには、従来の公民館とは別に「地区福祉ひろば」という独自の施設が存在する。

これは「健康づくりのための公民館」と位置付けることができ、ここでは市民向けの運動イベントや健康づくりのための講座などが開催されている。

地域住民にとっては「交流サロン」、行政にとっては「地域福祉の拠点」とも言える施設であるが、特筆すべきはこの施設の運営は、基本的に地域住民の自主性に託されているという点である。
また、市内各所には他の市町村の支所・出張所にあたる「地域づくりセンター」があり、市役所と地域づくりセンター、そして地区福祉ひろばがまさに三位一体となることで様々な課題解決に取り組んでいる。

これが広大な市域面積を有す松本市の福祉行政を支えるインフラである。


「三ガク都のまち」を牽引する医療人市長

松本市を紹介するキーワードは、「3つのガク」である。それは、

  • 山岳のまち「岳」都(上高地)
  • 音楽のまち「楽」都(セイジ・オザワ 松本フェスティバル)
  • 学問のまち「学」都(重要文化財:旧開智学校 信州大学本部)

を表すのだが、この「三ガク都のまち」を圧倒的なリーダーシップで牽引するのが、現職の市長である菅谷昭氏である。
その菅谷市長は、医療人というもう一つの顔を持つ。そう、市長は医師なのだ。

菅谷昭市長

医療人という経歴を持つ、菅谷市長

医師の首長という事例は他にもあるが、その中でも菅谷市長は少々特殊な経験を積んできている。
それは菅谷市長が、チェルノブイリ原発事故が発生した際に現地で医療活動を行ったという経歴に起因している。

大学病院において甲状腺外科の専門医であった菅谷氏が、1986年4月にチェルノブイリ原子力発電所事故が発生した際に、現地の子どもたちに甲状腺がんが多発しているという情報を耳にした。そして大学を辞職。自費で現地に赴き、退職金が尽きるまでの5年間に渡り無料で医療活動を行ったという。

帰国後は一旦大学に戻るが、チェルノブイリでの経験が発端となり、更には自分の人生観も相まって、県の衛生部長へと転身。そして60歳で松本市長選挙に出馬し当選、松本市長に就任するに至った。

就任当初から「これからは量の時代ではなく、質の時代である」という考え方を標榜する菅谷市長。そんな市長をよく知る周囲の人は、市長の人物像を「政治的なノウハウではなく、自分の信念で動くタイプ」と評す。そしてその言葉の端々からは市長の中にある「圧倒的なリーダーシップ」も同時に伝わってくる。


「健康寿命延伸都市・松本」

松本市周辺には信州大学や松本歯科大学、そして夏川草介氏の小説「神様のカルテ」のモデルであり、小平奈緒さん(平昌オリンピック・女子スピードスケートの金メダリスト)が所属することでも有名な相澤病院などもある、医療環境と医師人材に恵まれたエリアである。

そんな松本市が、成熟型社会の都市モデルとして2008年より標榜しているのが「健康寿命延伸都市・松本」の創造というスローガンである。

松本市政は早い段階から「健康寿命」というワードに着眼しており、総合計画や基本計画の中でもこのワードが重要な位置づけとして取り扱われている。

また松本市な全ての基本政策は「健康」という言葉を交えて表現されている点も特徴的である。

具体的には、「人の健康」、「生活の健康」、「地域の健康」、「環境の健康」、「経済の健康」、そして「教育・文化の健康」の六つであるが、これはWHOが提唱する「社会的健康」という理念が背景にあるという。

このような「健康」に主眼を置いた市政が推進される背景には、前述した医療人としての菅谷市長の存在とリーダーシップがある、菅谷市長の健康に対する理念には、「量から質への転換」という思いが込められている。

当選1期目は、自身が掲げた公約はありつつまずは前市長の活動を踏襲し継続性を担保しながら政策を進めた時期であった。その上で、「子育て支援」、「健康づくり」、そして「危機管理」の3つを標榜し、これを「3Kプラン」と銘打った。この時点で「健康づくり」はテーマとして掲げられてはいたが、あくまで3つのプランの一環という位置づけであった。
そして2期目を迎えたときに、まさに「健康寿命」というキーワードが政策の中心に据えられた。
その時の市長から発せられたのが「長野県は平均寿命こそ長いが、これからは健康寿命の時代」という言葉であった。

松本市のある長野県といえば、長寿の県として広く認知されている。
平成27年度に厚生労働省が発表した「都道府県別生命表」によると、

  • 全国の男性の平均寿命が80.77歳
  • 全国の女性の平均寿命が87.01歳

であるのに対し、

  • 長野県の男性の平均寿命が81.75歳で全国2位(1位は滋賀県で81.78歳)
  • 長野県の女性の平均寿命が87.67歳で全国1位

となっている。

しかし、菅谷市長の視線の先にあるのは平均寿命ではない。平均寿命は「生きる量」を表す指標といえるが、これからの時代は自分がやりたいことに従い、自分の暮らしを決めていくことに価値を見出す、つまり「生きる質」が重要なのだと市長は言う。市民が自身の生きる質を高め、その質を維持しつつ一日も長く生きることに寄与する、それが市長の考える市政の骨子である。

こうした市長の理念が最初に具現化されたのは、2011年7月に設置された「松本地域健康産業推進協議会」である。

これは「松本ヘルスバレー構想」のプラットフォームに当たる組織だが、ではその松本ヘルスバレー構想とは一体何を目指すものなのであろうか。

 

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  • 日本栄養支援配食事業協議会

    (Japan Nutrition Support Food Delivery Conference)

    設立総会 取材レポート


    高齢化が急速に進んでいる日本において、高齢者への適切な食事供給が課題となっている。

    その中で配食事業を営む企業の内、計26社が連携し『日本栄養支援配食事業協議会(英表記:Japan Nutrition Support Food Delivery Conference)』を2018年5月7日(月)に設立した。

    同日の設立総会では、設立目的と「日本栄養支援配食事業協議会(以下、NSD)」に対する国や行政の期待する社会的役割などが紹介された。

    現代の高齢者の食事による栄養摂取状況とそれに対する行政・企業の動向を取材した。

    NSD設立の背景

    近年、急速な高齢化の進展に伴い嚥下や咀嚼が困難な高齢者に向けた専用食品や提供サービスが数多く開発され、少しずつ手の届くものになってきた。しかし、健常な高齢者も含めたひとりひとりの栄養摂取状況をみると、まだまだ高齢者の多くが「低栄養状態」であるという実態が明らかになってきた。そこで厚生労働省は医療などの措置面だけではなく、日常の食事面から健康のベースをしっかりと作ることが極めて重要であると発信し始めたのだ。

    高齢者に対し「低栄養状態」を防ぐ食事摂取の必要性と手法を指導していくには、今までのような医師・栄養士などの疾患改善を主にするスペシャリストだけではなく、日常的に食事を提供する配食事業を営む法人企業全体にも同義が求められる時代になってきたと言えるだろう。

    NSD設立の目的

    NSDはこうした社会背景に呼応し、配食事業企業が連携して超高齢社会における国民の健康維持・増進に貢献するための食事のあり方について検討するとともに、様々なガイドラインの素案作りや企業の社会的役割などを議論し、行政機関や企業との調整や啓蒙、生活者への発信などをすることを目的に当該協会は設立された。

    差し当って、すでに厚生労働省が定めている「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン」を、国民そして配食業界全体に対して啓蒙と理解促進を図っていく活動がNSDには期待されている。

    ※日本栄養支援配食事業協議会幹事メンバーはこちら

    • 会長   株式会社ヘルシーネットワーク      黒田 賢氏

    • 副会長  株式会社はーと&はあと ライフサポート 宮崎 吉昭氏

    • 事務局長 トーアス株式会社            岡本 篤志氏

    • 理事   キッセイ薬品工業株式会社        小池 雅志氏

    • 理事   株式会社シニアライフクリエイト     清水 勝氏

    • 理事   タイヘイ株式会社            大重 尚道氏

    • 理事   日清医療食品株式会社          大東 正人氏

    • 理事   株式会社ニチレイフーズ         大川 真一氏

    • 理事   株式会社武蔵野フーズ          山本 恭士氏

    • 理事   ワタミ株式会社             小松 一茂氏

    ※その他参加企業はこちら

    日東ベスト株式会社、国文グループ本社株式会社、シルバーライフ株式会社、ヨシケイ開発株式会社、株式会社トーカン、ドクターフーヅ株式会社、モルツウェル株式会社、株式会社パレット、ひまわりメニューサービス株式会社、株式会社ファンデリー、株式会社ベネッセパレット、株式会社ベルーナ、株式会社ジョイント、株式会社ソーシャルクリエーション、栗木食品株式会社、グローバルキッチン株式会社

    設立総会の第2部では、厚生労働省健康局健康課栄養指導室 室長補佐の塩澤 信良氏より日本栄養支援配食事業協議会に期待される役割が語られた。

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    「配食事業者1社が今後生活者から求められる栄養相談・食材・商品・献立作りなどのあらゆるニーズにすべて対応していくのは恐らく難しい。栄養指導に沿った内容から1つずつできることから進めていくのが良いのではないか。物理的に社内の栄養士だけでは対応できない場合には自治体の健康指導部門にはほぼ100%の確率で栄養士が常駐している為、積極的に相談・活用をしてほしい。」

    配食事業者が今後求められる自らの社会的役割を認識し達成するためには、自社だけでなくあらゆる機関とコンタクトを取っていく事が重要との事だ。そして、NSDにおいても同業他企業との連携基盤として活用可能であったり、外部からの相談対応機能を持った協議会になることへも期待していた。

    現在、多くの企業が高齢者に向けた食品を販売しているが、企業と生活者の相互理解が進んでいるとは言いがたい現状がある。今後相互理解を深めていく為の1つの情報発信元として配食業者への期待度は高い。NSCが機能することによってこれらを推進することができれば、高齢者への適切な食事供給の課題解決はもとより、「超長寿国日本」の新たなる食文化育成に寄与するものではないだろうか。

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    日本栄養支援配食事業協議会

    https://j-nsd.org/


     

    シニアマーケットがビジネスの新たなチャンスとして注目される中、それらに関連する数多くのイベントや展示会が開催されています。シニアライフ総研®では、イベント主催者や運営団体に独占取材しその内容をご紹介しています。

    2018年3月13日開催
    「京王シニア応援フェスタ」
    2018年3月6日開催「ヤマハ耳トレ声トレ体験イベント」
    2015年2月4日~6日開催
    「ヘルシニア」

    「ホップで希望を創り出す」
    熟成ホップで人々をもっと健康に!
    注目のキリンホールディングス株式会社の
    社内ベンチャー

    CEO 金子裕司 氏

    ビールが好きな方なら誰しも「ホップ」というものをご存知ではないだろうか。実はホップというものは10世紀以上前からヨーロッパで薬用ハーブとして利用されており、現代ではその力から健康素材としての活用もされている。

    今回はキリンホールディングス株式会社(以下キリン)の社内ベンチャーとして、「熟成ホップ」を活用した健康サポート製品を開発・販売しているINHOP株式会社(以下INHOP)のCEO,金子裕司氏に「いつまでもブレない自分で人生を送りたい」と願うシニアの方々向けの「ブレメンテ」という商品についてお話しを伺った。

    2021年 1月取材

    金子さん

    Q 熟成ホップは認知機能改善効果があるという観点から商品の開発を行ったとキリンの記事で拝見しましたが(※)、どのように発見されたのか、開発に至る背景等お聞かせください。

    ビールに不可欠なホップですが、ビールに使われ始める前より、健康機能がある植物であることが歴史的に知られています。ホップは伝統的なハーブでもあるのです。しかし、ホップの苦味は食品としてはビール以外の転用が難しく、様々な食品に展開できるように、どうにか健康機能を維持したまま苦味のみを抑えられないか、と研究を重ねて出来上がったのが「熟成ホップ」です。熟成(酸化)したホップは苦味が穏やかになる、という醸造学の知見を応用して開発しました。

    (※)参考URL https://www.kirin.co.jp/company/rd/result/closeup/09.html

    塾生ホップエキス

    熟成ホップエキス

    Q シニアマーケットに対する考え方、参入される際にターゲティングや売り出し方など考慮されたポイントがあればお聞かせください。

    まずは弊社の企業理念の話からになりますが、弊社は「ホップで希望を創りだす」という理念を掲げています。古くから生活を支えてきたハーブであるホップに、現代サイエンスを掛け合わせることで新しい可能性を創り出せるのではないか。そして未来に向かう子供たちの「希望」や、日本を担うビジネスパーソンの「希望」や、「人生100年時代を楽しく生きたい」という大人の「希望」に繋げていきたいと考えています。

    その中で「人生100年時代」に対して、年齢を重ねても自分らしさを失いたくない、いつまでも生き生きと仕事をしたい、等のニーズが顕在化してきています。そこに対して、我々もお役に立てるのではないかと考え、「熟成ホップ」をシニア向けに展開していこうと決めました。マーケットが広がっているからという面もあるのですが、マーケットがあるというよりはお客様のお悩みに対する私たちの回答を提示していきたいという形での展開です。

    弊社からリリースした最初の商品は、受験生をサポートするために開発した「受験力」という製品で、その次の製品が「いつまでもブレない自分で人生を送りたい」と願うシニアの方々向け「ブレメンテ」になります。

    Q 現在シニアマーケティングの実施に向けて声を聴くということをしていると思いますが、いまどのようなリアクションが集まっていますか?

    まだ集まっているお声は少ないですが、「飲み始めてしばらくしたら、毎日が軽やかになった気がする。」、「長時間の打ち合わせが続いた日など、家に帰ってからブレメンテを飲んで、次の日に影響を残さないようにしています。おかげでスッキリした毎日を送れています。」等の声をいただいています。

    おじちゃんとブレメンテ

    ブレメンテ 飲用シーンイメージ

    Q ブレメンテを販売するにあたっての工夫点はありますか?

    お客様の反応を見ながらコミュニケーションや商品をブラッシュアップしていこうと考えました。それを実現するために「ブレメンテ」の場合は自社サイトではなく、「makuake」というクラウドファンディングでの販売から開始しました。商品に対してどのような人から興味を持たれるのか、どのような声が集まるのかを検証し、その後自社サイトでの販売を開始しました。

    makuake

    クラウドファンディング「makuake」の商品ページ

    Q クラウドファンディングを利用されたという事は非常に興味深いのですが、どんな目的で資金調達をされたのでしょうか?

    資金調達の目的ではありません。クラウドファンディングでよくある「商品製造前に販売し資金を集める」ではなく、商品を製造した上の販売です。新商品に対する感度が高い方が集まるクラウドファンドというプラットフォームを利用することで、この商品にどのような人が興味を持つのか、どのような声が集まるのかを検証するのと同時に、商品認知を図ることが目的でした。

    実際に利用してみて、コミュニケーションについては改善の余地があることがわかったので、自社サイトでの販売では改良しています。

    Q コロナ禍でこれまでの取り組みが活きた事例はございますか?

    設立が2019年で、商品の販売開始が2020年7月なので、コロナの影響を比較評価できる状況にはありません。正にコロナ禍での販売開始であるため、活きた事例があるというよりはゼロベースで試行錯誤しながらの活動でした。

    Q それでは、コロナ禍で売り出すにあたってなにか変更したことなどはありましたか?

    元々実店舗での販売と自社サイトを組み合わせた販売を計画していましたが、自社サイト主体の販売戦略に切り替えました。

    ブレメンテ

    ブレメンテ 商品イメージ

    Q ネットでのコミュニケーション、ネットを通じたシニアマーケットとの親和性はどうお感じでしょうか?

    まだ実績がないので大きなことは言えないですが、自分たちがアプローチしたいターゲット次第では、ネット主体で取り組むことに問題はないと考えています。シニアの方のネット利用率、スマホ保有率も年々増加していますし、実際にクラウドファンディングや自社サイトを介してシニアの方も繋がっています。私たちは、アクティブシニアは勿論、50代ビジネスマンなどネットとの繋がりの多い方々へのリーチを積極的に進めていき、お客様の声に寄り添ったビジネスを展開していければと思っています。

    Q 今後のシニアに対するお取り組み予定は何かありますか?

    まずはブレメンテの販売を通じて、お客様に寄り添いながら、製品をブラッシュアップすることを考えております。規模が小さくてもお悩みを持ったお客様方へ深くアプローチをしていきたいです。

    また、「ブレメンテ」のような商品単体ではなく、運動や睡眠など他の生活習慣とも連動した無理なく継続いただける仕組みについても考えていこうと思っております。

    INHOP株式会社 

    https://inhop.co.jp/

    自社通販サイト 

    https://inhop.co.jp/products/


     

     

    シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

    第31回 
    株式会社ベルーナ
    第30回 
    株式会社C&P
    第29回 
    国際メディカルタイチ協会

    京王シニア応援フェスタ取材レポート

    京王フェアウェルサポート株式会社  長谷川氏
    京王電鉄株式会社 事業創造部(兼務)

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    2018年3月13日に開催された『京王シニア応援フェスタ』を取材して参りました。
    アクティブシニア向けの多種多様なセミナーや相談ブースが来場者でにぎわったイベントの様子について、「京王メモリアル」の名称で葬儀会館(セレモニーホール)を運営している京王フェアウェルサポート株式会社・長谷川氏のインタビューを通じてご紹介させて頂きます。


    Q.取り組みに至った経緯を教えてください

    まず京王メモリアルでは、イベントやセミナーを定期的に開催しております。
    その狙いとしまして、葬儀社の広告やチラシで伝わらない部分を伝えられたらと思っています。
    一般的に葬儀社に対して敷居が高いと感じたり、しつこく営業されるのではないかとご不安を抱いたりする方が多くいらっしゃいます。
    スーパーやコンビニと違ってお客様と接する機会が少ないものですから、イメージが先行してしまうのが現状です。
    日常的な接点が少ないからこそ、葬儀については不安な事も多いはずです。もっと気軽にご相談いただけたらとの思いから、イベントを開催し、直接スタッフと接していただく場を設けるようにしています。
    思っていたよりずっと接しやすいな、親切だな、とプラスの印象を持っていただければ、何かあったときに、イベントで会ったあの人たちなら安心できるな、と思い出していただくことができると考えています。
    こういった経緯からイベントをより多く開催したいと考えているのですが、葬儀をテーマにしてもお客様の層は限られてきますし、マンパワー的にも限界があります。
    そこで規模を広げ、より多くの人を巻き込んだイベントの開催を考えました。

    それが「京王シニア応援フェスタ」になります。
    アクティブシニアに向けてシニアライフを応援します、という形にすると、幅広い分野を扱うことが出来ますし、多くの企業と力を合わせることが出来ます。
    京王グループは様々な事業を展開していますが、各々の担当者がそれぞれの得意分野をひとつに融合する機会は少ないため、グループの担当者の連携強化の意味合いもあります。
    また京王グループだけではなく多くの方々にご協力をお願いし、より多くのお客様にお越し頂けるようなイベントを開催することになりました。

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    Q.イベントのテーマを教えてください

    テーマは「多摩市をはじめとする京王沿線にお住いのシニアの皆さんに、より元気で快適に過ごしていただくためのヒントを提供する」となっております。
    「より元気で快適に」という言葉には二つの方向性がありまして、ひとつは「より人生を楽しむ方向」、もうひとつは「不安を解消する方向」となります。

    「より人生を楽しむ方向」は、普段の生活にプラスになる情報を提供することが目的です。
    健康をテーマにした講演や、メイクアップのデモンストレーションやポートレートの撮影、旅行のご提案等があります。
    「不安を解消する方向」は、普段の生活からマイナスを減らすことが目的です。
    自宅の中を片づけて住みやすい空間を作る家事代行や生前整理をはじめ、不動産・葬儀の事前準備・相続・介護施設探しといった悩みに関して、それぞれの相談ブースで対応させていただきます。
    更に今回は「知的」の要素も取り入れ、国境なき医師団の方々にお越しいただきました。
    この講演が、社会参加や社会貢献活動のきっかけになっていただければ幸いです。

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    Q.お客様の反応はいかがでしたか?

    お天気にも恵まれまして、初めての開催にも関わらず、想定していたよりも多くのお客様にお越しいただくことが出来ました。
    時間帯によってばらつきはあるものの、満席になるセミナーもありました。

    <お客様アンケート結果>

    • 【年齢層】60代~80代の方に多くご来場いただきました
    • 【性別】女性のご来場者数の方が多くいらっしゃいました
    • 【参加形態】お一人でご参加いただいた方が多くいらっしゃいました
    • 【目当てのブース】各セミナー・ブースに対して万遍なく回答いただきました。
    • (一番回答数が多かったものは健康をテーマとした講演)
    • 【今後について】健康やシニア向け体操、介護、空き家、医療をテーマとした セミナーやイベントを開催してほしいとの声をいただきました

    Q.オススメのプログラムはありますか?

    全部です(笑)
    「パーソナルカラー&簡単チーク術」セミナーは満席になりまして、参加された女性が身を乗り出して話を聞かれていました。
    隣のブースにプロの方がカラー診断をし、実際にチークをいれる実践コーナーもご用意させていただきましたので、お話を聞いた方の多くはそこに足を運んでいただいて、実際に自分にはどんなメイクが似合うのかを確かめていました。

    ポートレートコーナーも盛況でした。
    カラー診断をしてもらった女性の方はもちろん、男性も大勢いらっしゃいました。
    プロに撮影してもらうため、皆さん背筋が伸びて笑顔がより一層輝いていらっしゃいました。

    他にも生前整理についてのセミナー「今からのお片付け」や不動産ブース「あなたの家が年金になる」、「夫婦の老後の生き方を考える(不動産編)」も「そろそろ考えなきゃと思って・・・」と仰るお客様が多くいらしていました。

    Q.京王グループとしてこれからシニアに対してどう向き合っていくのでしょうか

    これまで京王グループは、沿線の生活サービスを充実させようと取り組んできました。
    ここ数年は、子育て世代の保育園問題への取り組みや、シニアにフォーカスした多摩エリアでの移動販売、介護施設、葬儀、納骨堂の運営といったサービスの拡充をしてきました。
    価値観の多様化に合わせて多面的なサービスが望まれています。
    京王グループとしてこれからより快適に、より便利に、より豊かな生活を応援するという方針でサービスを拡充させていくことを考えています。
    京王グループの特徴は、お客様に対して誠実であり続ける、という姿勢で、これからもお客様に安心して生活できるようなお手伝いができればと思っております。

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    京王フェアウェルサポート株式会社
    代表取締役社長 長谷川尚美様
    (京王電鉄株式会社 事業創造部事業担当課長 兼務)

    イベント当日のお忙しいなか取材にご協力頂きましてありがとうございました。今後のイベント開催も楽しみにしております。


     

    シニアマーケットがビジネスの新たなチャンスとして注目される中、それらに関連する数多くのイベントや展示会が開催されています。シニアライフ総研®では、イベント主催者や運営団体に独占取材しその内容をご紹介しています。

    2018年3月6日開催「ヤマハ耳トレ声トレ体験イベント」
    2015年2月4日~6日開催
    「ヘルシニア」
    2014年9月3日~5日開催
    「オイシニア」

    多様な商品ときめ細やかなラインナップで
    顧客のニーズに呼応
    我が国のシニアマーケティングの先駆者でもある
    通販事業のリーディングカンパニー

    企画本部 第1企画室 室長 田村大介 氏
    マーケティング本部 マーケティング室 室長代理 高橋頼将 氏

    創業地である埼玉県上尾市に本社を置く株式会社ベルーナ(以下「ベルーナ」)は、主婦層をメインターゲットとして衣料品や生活雑貨、家具類から健康食品も含め幅広いジャンルで通信販売事業を展開するリーディングカンパニーですが、視点を変えれば国内でいち早くシニアマーケティングに着手し成功を収めた企業でもあります。
    今回はこのベルーナの本社を訪問し、起業時から続く総合通販事業の様々な取り組みについて、企画本部・第1企画室・室長の田村大介氏とマーケティング本部・マーケティング室・室長代理の高橋頼将氏にお話をお伺いしました。

    2019年10月取材

    TOP

    Q. まずは現在の会員様のデモグラフィからお伺いできますでしょうか。

    まず当社の商品をご利用いただいているお客様の属性についてご紹介したいと思います。

    弊社のお客様は8割が女性で占められており、その中でも60代の方々がボリュームゾーンです。
    (会員登録をしてくださっている)お客様は、日本の60代女性の約27%に及ぶことがわかっています。
    更に昨今は70代の会員様が増加傾向にあり、60代と拮抗してきています。
    それに対して20代から40代の世代はまだまだ少ないので、このゾーンを伸長させていくことも課題の一つですね。

    会員構成比(男女別)
    会員構成比(男女別)
    会員構成比(人口ピラミッドとの比較・女性のみ・単位:1,000人) ※総務省統計局データを元にベルーナにて作成
    会員構成比(人口ピラミッドとの比較・女性のみ・単位:1,000人)
    ※総務省統計局データを元にベルーナにて作成
     

    Q. 地域別の特徴はありますでしょうか?

    統計局から発行されている人口データと比較して、弊社会員の地域分布の構成比には、それほど大きな違いはないと思います。
    しかし、あえて特徴を挙げるとするならば、北海道・東北地方では会員の比率が高いと言えますね。
    これらの地域には、お住まいの方の生活圏にあまりお店が多くなく、いわゆる「買い物難民」の方も多く存在していると言えるでしょう。その結果、通信販売をご利用いただいているのではないかと分析しています。

    会員構成比(地域別)
    会員構成比(地域別)
     

    Q. ベルーナさんには多様なカタログがありますが、それぞれの媒体のブランド展開についてお聞かせください。

    まず、ファッションブランドについてご説明申し上げますが、ミセス系カタログである「BELLUNA(ベルーナ)」をはじめ、「ルフラン」、「Ranan(ラナン)」、「GeeRA(ジーラ)」といった年代別のカタログをご用意しています。また「BELLUNA」と「Ranan」は店舗も展開しています。

    年代別にブランドを整理すると、20~40代の「GeeRA」、30~50代の「Ranan」、40〜60代の「BELLUNA」、50〜70代の「ルフラン」をそれぞれ割り当てています。
    しかし、これはあくまで現状のブランドラインナップに過ぎず、ことファッションに関しては、ブランドを年齢に固定するような一筋縄の施策ではニーズに適合しきれません。
    ブランドもお客様とともに年齢を重ねていきますので、ブランドそのものがお客様のニーズに合わせて変わっていく必要もあります。「新陳代謝に対応したブランディング」とも表現できますね。

    年代別にターゲティングされているベルーナ内の各種ブランド(ベルーナオフィシャルサイトより)
    年代別にターゲティングされているベルーナ内の各種ブランド(ベルーナオフィシャルサイトより)

    さらに、各世代において(そのブランドでは呼応しきれない)新しいニーズが発生することもあります。
    その場合は、ニーズにフィットした新ブランドを臨機応変に立ち上げ、育成していくような展開も必要でしょう。例えば、弊社が今年6月にローンチした若年層向けのオンラインモール「RyuRyumall」は、若年層のオンライン購入需要の高まりを背景にスタートした新事業です。

    若年層向けブランド「RyuRyumall」のトップページ
    若年層向けブランド「RyuRyumall」のトップページ

    Q. 時代的にECが主流になる中、シニアマーケットにおけるカタログ通販の強みとは何ですか?

    インターネット購入の特徴として顧客単価が低いことが挙げられます。ネット販売では競合も多く、品質や価格を比較してより安いものを購入されたり、あらかじめ決まっている欲しい商品だけ購入されたりするケースも多いため、単価が伸びにくい傾向があります。いわゆる「比較購買」「目的買い」ですね。

    対してカタログは、家の中でお客様がパラパラとページをめくってじっくり見るという、「1対1の時間」をプロデュースできます。付箋を付けて商品を見比べたり、色んな商品の購入を悩んだりするというような有機的な時間をご提供できることがカタログ販売の強みであり、ネット販売との差別化ポイントかと思います。

    Q. 昨今は御社でもインターネット通販の占める割合が大きくなっていると思いますが、そのことによる変化はありますか?

    インターネット時代以前の通販は、お客様の獲得手段として新聞の折り込みチラシが主流でした。
    新聞の購読者も若く、40代をターゲットの中心と捉えていた時代です。
    あれから20年が経ち、今では折り込みチラシを中心にご利用いただいているお客様は60代にシフトしています。このことがまさに「お客様とともにブランドが年齢を重ねてきた」という感覚にあたります。

    一方、現在40代のお客様は、嗜好も接触媒体も以前とは大きく変化しました。
    ご提供するブランドや商品はもちろん、活用するメディアも世代別に考慮する必要が出てきましたね。

    Q. 折り込みチラシの話が上がりましたが、昨今の広告媒体選定についてもう少し具体的に教えてください。

    ここ数年で新規獲得数に最も繋がっているのはインターネット広告で、その次が折り込みチラシです。
    広告活動全体の中でもこの2つの媒体が占める割合が最も大きいのですが、その他としては新聞への広告掲載も行っていますし、スーパーやドラッグストアに設置してあるフリーペーパーへも出稿しています。
    またテレビCMも行っていますが、こちらはイメージCMの他、インフォマーシャルなども利用しています。
    いずれにせよ、生活者にダイレクトにリーチ可能なメディアを中心にプランニングしているのが特徴的だと思います。

    Q. インターネット広告とシニアマーケティングの親和性について、どのような所感をお持ちですか?

    現時点では、インターネット広告はあくまで若年層をターゲットにしているのが実情です。
    65歳以上の層におけるネット販売購入利用は1割前後で、総合通販事業全体でもインターネットは2割程度です。ただし、若年層向けの「GeeRA」を切り離して考えると約半数のお客様にインターネットからご注文いただいています。また「RyuRyumall」を切り離してから、ベルーナの自社ECサイトでも少しずつですが変化の波は感じています。自社ECサイトの利用者は40~50代が中心で、一般的なイメージよりは高い年齢層と言えるでしょう。その利用者数は伸長傾向にあり、お客様に併せてユーザビリティを高めていくことで、今後さらに伸びていくと予想しています。

    Q. シニア層においては多くの既存顧客をお持ちですが、新規のお客様はいらっしゃいますか?

    シニア層の会員数増加に伴い、継続メディアからの新規顧客率は年々減速していますが、それでも新聞広告や折り込みチラシを実施すると、一定数の新規のお客様がいらっしゃいます。
    また、すでにベルーナのご利用経験があり、しばらくの間購入されていなかったという、いわゆる「休眠顧客」の方々が再び購入してくださるケースもあります。

    ご利用いただくきっかけは「たまたま」というお客様が意外と多いです。
    例えば、これまではご自身で近隣のお店に買いに出かけていた方が、「足が悪くなった」などの事情で通販を利用することになり、ベルーナというブランドの認知に加えて、偶然良い商品があったから利用したというケース。

    お客様の状況やニーズはタイミングにより変化しますので、常に様々なニーズを想定して準備し、必要なときに思い出される存在でありたいですね。

    Q. さきほど「買い物難民」という話題がありましたが、居住地域によらずお店に行くことが難しくなって通販を利用しているという顧客層は多くいらっしゃいますか?

    全体に対する比率は不明ですが、一定数はいらっしゃいます。
    ただ、完全に動けなくなった方よりも「以前と比べて出かけることが減ってきた」という方々が中心ですね。
    弊社の商品は、シニア向けであっても「オシャレを楽しみたい」というニーズに応えられるよう、ファッション性やトレンド感のあるラインナップを意識しています。ただし、最先端で奇抜なものではなく、ターゲットに合わせた程よい加減が重要ではないかと思います。

    カタログの実物を使ってわかりやすく説明くださる田村氏と高橋氏
    カタログの実物を使ってわかりやすく説明くださる田村氏と高橋氏

    Q. 御社ではシニアマーケティングを行うにあたって、シニアの属性をどのように分類していらっしゃいますか?

    弊社では、シニア内をさらにカテゴライズするという考え方は採用しておりません。社内のミーティングなどで「アクティブシニア」という言葉を使うことはありますが、本来、通販事業は、どなたにでも商品をお届けできることが特徴ですので、あえてアクティブシニアに特化する必要はありません。そのため商品企画も多岐に渡っており、あらゆる会員の皆様にご利用いただけることを目指しています。

    もちろんカタログごとの顧客のペルソナは設定していますが、顧客の身体的な自由度や快活度などを指標にした「アクティブシニア向け」、「非アクティブシニア向け」という分類はしていません。
    まずは徹底的に情報収集を行って商品を企画・開発し、売れればニーズがあったと判断してペルソナに反映していくイメージです。商品や結果を見ながらブランドやセグメント属性を固めていく感覚ですね。

    Q.売れ行きを見守る中で意外な売れ筋や印象的な反応はありましたか?

    最近で言えば、「アンパンマンのぬいぐるみ」を非常に多くご購入いただけたことですかね(笑)。
    当初、社内ではこの商品がそれほど売れるとは予想していませんでしたが、実際は「お孫さんへのプレゼント」という需要で予想外に売れました。
    やはりシニアのお客様の財布が緩むのはお孫さんの存在であると再確認した出来事でしたね。

    また、前述したとおり、お客様の男女比は2:8で女性が多いのですが、実は男性向けの商品も結構売れています。それも日常ユースの商品が中心です。
    これは女性(奥さん)が男性(旦那さん)のために購入する、代理購買にあたります。

    Q. シニアの顧客へ商品を提供するにあたって心がけていることがあれば教えてください。

    シニア層は商品を見る目が肥えていますので、ファッションと言ってもえど単純に「可愛い」「オシャレ」というだけの商品は選んでいただけません。例えばミセスファッションでは、ゆったりとしたアームホールや、胸元が開き過ぎないネックラインなど、シニアならではというお悩みを上手にカバーしてくれるデザインが好まれます。気を遣わず楽に着られて、疲れないアイテムは一層選ばれやすいですね。

    また、肌への刺激が少ない天然素材をはじめ、ピーリング対策生地や汗ジミカット機能など、素材の扱いやすさや機能を重視される方も多いです。さらに、サイズについては5Lまで揃えることを基本として、多いものでは10Lくらいまで扱うなど、巨大な物流倉庫を持つ通販だからこそ、店舗ではフォローしきれないような豊富なラインナップを実現できます。

    バリエーションの豊富さに圧倒的な強みを持つベルーナの通販事業
    バリエーションの豊富さに圧倒的な強みを持つベルーナの通販事業

    Q. 今後目指していく事業展開についてお考えをお聞かせください。

    大きくは3つあります。
    まず1つ目は、まだまだ開拓・拡大の余地のある60~70代向けのラインナップ強化と新規獲得に改めて取り組んでいきたいと考えています。そのためのメディアプランニングとして、テレビやラジオなどを積極的に活用し、できる限り多くのお客様と接触できるよう手段を拡げる準備をしています。
    昨今はとかくデジタルマーケティングに着目されがちで、40代以下はスマートフォンの使用によりテレビを見る機会が減っていますが、実は60代以上ではテレビの視聴量は減っていないのです。
    事実、ベルーナグループでは食品、化粧品、健康食品などを(テレビの)インフォマーシャルという形でプロモーションしており、お客様からの反応も良いと感じています。

    インフォマーシャル01_おせち
    インフォマーシャル02_ワイン
    インフォマーシャル03_日本酒
    インフォマーシャルのイメージ

    2つ目は、「ベルーナらしさ」の復活です。
    これまで、シニア層をターゲットとした市場において、情報が少ないながらも様々な分析を行い、商品展開にフィードバックして参りました。
    そうしてデータに基づく開発を続けてきた結果、次第に弊社の商品ラインナップが一般市場と変わらなくなってきてしまった面があり、弊社ならではの価値提供について再考しています。データを活用しながらも、よりリアルなニーズに呼応できるような商品企画が必要ですね。

    例えば、弊社のビジネスの元となった「頒布会型ビジネスモデル」の復活が挙げられます。
    頒布会というのは、会員の皆さんが毎月一定額をお支払いいただくことで月々商品をお届けするというシステムです。現在の「サブスク」に近いですね。
    お客様の中に「コレクションを好む」という趣向があることから生まれた仕組みですが、ただ購入するだけでなく「集める楽しさ」「選ぶ楽しさ」という付加価値を提供できるビジネスモデルです。

    3点目は、通信販売であることの優位性に着目したオリジナル商品展開です。
    例えば、加齢による軽い尿漏れに悩む男性は、これを解決してくれる商品を取り扱う店舗が少なかったり、商品があっても恥ずかしさから店舗で購入できなかったりする場合があります。しかし、店員さんとの対面を必要としない通信販売であれば、購入しやすいかもしれません。これからも時流に合わせて新しい挑戦をし続け、「ベルーナだけ」「今だけ」しか買えないような価値ある商品を提供できるよう努めてまいります。

    Q. 最後に、今後のシニアマーケットの展望について、どのように考えておられますか。

    高齢化真っ只中にある我が国においては、加齢を原因とする悩みを解消する商品の需要は高まっていきます。

    お悩みを年齢や現象によってきめ細かく捉え、応えられるような品揃えを多数ご用意して、それをお求めやすい価格でご提供する。それこそが弊社の使命であり、またビジネスチャンスであるとも考えています。今後も、客思考・客密着の商品開発でお客様の生活と幸せの向上に貢献できるよう取り組んでまいります。

    笑いも交え丁寧にインタビューに応じてくださった田村氏と高橋氏
    笑いも交え丁寧にインタビューに応じてくださった田村氏と高橋氏

    株式会社ベルーナ

    https://www.belluna.co.jp/

    ベルーナ 通販サイト 

    https://belluna.jp/

    RyuRyumall 通販サイト 

    https://ryuryumall.jp/


     

    シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

     

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