第22回 花王株式会社

乳幼児用紙おむつの研究開発から生まれた
高齢者向け歩行解析装置

開発研究第2セクター パーソナルヘルスケア研究所
仁木佳文氏 須藤元喜氏

 

乳幼児から高齢者まで膨大な歩行データを収集し、研究を重ねてきたパーソナルヘルスケア研究所。今回は、わずかな距離を歩行するだけで個人の歩行の特徴が測定出来る装置「ヘルスウォーク」と、高齢者の歩行を支援する「ホコタッチ」、そして高齢者が積極的に外出するきっかけとなっている「ホコタッチスポット」についてお話をお伺い致しました。

                                   2016年10月取材

 

シニアマーケット シニア向け商品

 


Q. シニア向け歩行解析装置を開発した経緯について教えて下さい

当社は乳幼児用紙おむつの開発を通して、数多くの乳幼児の歩行パターンを研究してきましたが、その歩行解析のノウハウを高齢者にも当てはめる事が出来ないだろうか、また、高齢者の歩行を支援する方向にも使えないだろうかと考え、歩行パターンが解析できるシステムを開発する事になりました。

しかしながら、歩行の特徴は様々で、平均値などのデータをまとめていくことは決して容易ではありません。その為、まずはより多くの歩行データを収集する為、乳幼児から高齢者まで一万人以上の歩行データを収集し、それらの分析を進めていくことにしました。

分析を進めていく中で、高齢者の歩行を細かく解析していくと、健康維持の為には、歩数や歩行時間(量)だけではなく、歩行速度や歩き方(質)も重要であるという事が、だんだんとわかってきました。

また、歩行パターンの解析データは、ただ数値化したものではなく、高齢者がわかりやすいように「可視化」できるように開発を進め、高齢者の歩行の量と質を向上させることを目的とした、わかりやすい独自の歩行支援プログラムが開発され、「ヘルスウォーク」が誕生したのです。

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このヘルスウォークは、各地の商業施設や高齢者施設などで実施している測定会でご利用頂く事が出来ますので、まずは多くの方に興味を持っていただき、歩行に対して関心をもってもらえたらと思っています。また、普段の高齢者の生活の中でも、手軽に歩行を計測出来るようにしたいと考えていましたので、コンパクトサイズの「ホコタッチ」という健康サービスも開始致しました。

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ホコタッチは、独自の分析手法から日常生活における歩数、歩行速度、そして生活に応じた「歩行生活年齢」などの指標を提示してくれる特徴がありますが、これらの結果は「ホコタッチスポット(データの読み取り場所)」で、専用シートを印刷して結果を確認する事が出来るのです。また、装着して普段歩いていると歩行計内にどんどんデータが蓄積されていくのですが、ホコタッチスポットでの最終通信時から30日以上経過すると画面にTOUCHと表示され、歩数が非表示となりますので、ホコタッチスポットに行くタイミングをお知らせしてくれます。

一見、不便に思われるかもしれませんが、わざわざホコタッチスポットに出向かなければならない機能やWEBやスマホを使わないようにしているのは、実は当初から考えていた事です。このような設定により、高齢者が外出するきっかけとなりますし、皆さんがホコタッチスポットに集まることにより高齢者同士のコミュニケーションがうまれるのです。

ちなみに、ホコタッチスポットは、パソコンとプリンタが設置可能な屋内であればどんな場所でも大丈夫です。ホコタッチユーザーは、ホコタッチを専用リーダーにかざすだけで簡単に結果シートが出力できますので、高齢者にも大変使いやすくなっています。

Q. 研究開発の際、特にご苦労された点について教えて下さい

乳幼児の歩行は「成長」に向かっている段階なので、比較的データを解析しやすいのですが、高齢者の歩行は、今までの生活や体の老化などが原因となり、バリエーションがより増えてしまう為、解析するのが非常に困難でした。また、データを取得する段階でも、高齢者が転倒しないか、怪我をしないかなど、お一人お一人をケアしながら、十分に注意をして作業を進めていく必要がありました。

更に、取得したデータをどのような特徴としてフィードバックするか、指標に対して高齢者にどのように説明すればわかりやすいのか、なども苦労した点です。

例えば、膝に痛みがある高齢者は多いのですが、それが普段の歩行とどのように関係しているのか、今後はどのようにすれば良いのかなど、出てきた数字を元に説明し、アドバイスをする事は決して簡単な事ではありませんでした。しかし、歩行データにはどのような意味があるのかなどの価値観を伝えて理解してもらう事が大切ですので、出来る限りお一人お一人丁寧に対応致しました。

Q. 導入実績などを教えて下さい

愛知県高浜市で行われている取り組みをご紹介したいと思います。高浜市は人口が約47,000人で、2013年度から「健康自生地」という仕組みをスタートさせています。何歳になっても自分らしく生きがいをもって、可能な限り介護を必要としない暮らしを続けてもらうために、家に閉じこもらずに自ら出かけたくなる場所、仲間と触れ合える居場所を「健康自生地」と設定して、このような場所を市内に増やす取り組みを積極的に行っているのです。

健康自生地は、商店や飲食店、公共施設など高齢者同士のコミュニケーションが取れる場所にしていますが、そこではポイントがもらえるアクティビティを実施したり、賞品が当たる抽選会など楽しいイベントを開催したりしています。

現在、日本国内では多くの自治体が高齢化の問題と直面していますが、高浜市では積極的にその問題に取り組んでいるのです。

そして、この高浜市で2015年9月から国立研究開発法人国立長寿医療研究センター島田裕之予防老年学研究部長と花王と高浜市の協働プロジェクトを開催し、採血検査や体組成、筋力に加えて、認知機能の測定及び歩行機能の計測を行っています。
特に、歩行機能に関しては、ヘルスウォークを使って計測、解析を行っており、高齢者が積極的に外出して歩くことをサポートする仕組みを提供しています。

また、健康自生地にはホコタッチスポットを設置して、歩行計を持っている高齢者が、より積極的に健康自生地に出かけられるようにしました。その為、高齢者の外出機会が増えて、多くの方が意識的に歩くようになり、また飲食店などの健康自生地には高齢者の来店客が増え、町全体が活性化しています。

このように、ホコタッチは歩行の質を高めるだけでなく、高齢者の社会参加を後押しして、心身両面から認知症や介護の予防に役立たっており、更には町の活性化にも寄与させて頂けることは大変喜ばしく思っています。今後もこのような場所を全国各地に広げていきたいと考えています。

Q. ご利用者の反応はいかがでしょうか

高浜市などの自治体以外にも、ヘルスウォークによる歩行測定会は全国各地で行っていますが、毎回とても好評です。測定結果で歩行年齢などが表示されますので、「若くなるにはどうすれば良いの?」「もっと健康になりたい」などという前向きなご質問も多くあります。
また、測定会は不定期で開催しているのですが、測定後に参加者の方から「次はどこで開催するのですか?」などと興味をもってもらうことも多々あります。

ホコタッチのご利用者も、ホコタッチスポットでは人とのつながりが自然とうまれますし、歩行という楽しみが増えて、ホコタッチが共通の話題になっている事も多いようです。また、普通の活動計だとそのまま継続して使えると思いますが、ホコタッチの場合、定期的にホコタッチスポットに行かなければなりませんので、それが外出するきっかけとなり、ご利用者からも「ホコタッチスポットでの対話が嬉しい」、「積極的に歩く事が増えた」などという反応もあります。また、ニックネームで順位が表示されますので、楽しみながら健康にも興味をもってもらい頑張っている高齢者が多くいらっしゃいます。

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ホコタッチの結果シートでは、歩行速度や歩数などの活動結果がわかりやすく数値で表示され、更に総合的にそれらを4段階で評価します。その他、活動カレンダーや活動タイプが印字されますので、日常歩行の振り返りができます。ご利用者からも「ホコタッチシートがわかりやすい」、「自分にあった歩数や速度がわかった」などの声もあり、高く評価して頂いています。

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Q. 今後の事業展開について教えて下さい

今後も全国各地での歩行測定会を通じて、多くの高齢者に歩行への興味をもってもらいたいと思っています。また、より多くの高齢者施設や高齢者が集まる場所に導入し、各自治体や企業にも積極的に活用してもらいたいと思っています。

更に、海外の方にもご利用頂けるような機能も今後は必要だと考えています。日本と海外では、体型だけでなく、歩く環境や歩き方なども違いますので、クリアしなければならない問題や未知な部分など課題も多くありますが、是非チャレンジしていきたいと思います。

また、歩行装置そのものをより簡便化する事も必要だと考えています。例えば、今は靴を脱ぐ必要があるのですが、靴を脱がなくても計測できるようにすることや、歩行したら瞬時に結果が出るなど、より気軽に計測できるようにしたいです。また、簡便化とは逆の発想になってしまいますが、より深いデータをフィードバックしていくことも重要だと考えています。

更には、何か楽しみながら歩行が出来るような仕組みも取り入れて、より多くの高齢者に興味をもってもらい、意識的に歩くことにより高齢者の外出機会が増え、コミュニティが更に活発になるようにサポートしていきたいです。

花王株式会社 http://www.kao.com/jp/

食と健康ナビTOP http://health-food-bev.kao.com/

歩行測定記事 http://health-food-bev.kao.com/movablebody/1016/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

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