「健康寿命延伸都市」を支える松本ヘルスバレー構想
第7章
松本ヘルスバレー構想を通じ改めて考える
地方創生のあり方
インタビューに応えていただいた、松本市商工観光部の小林氏と丸山氏
行政が主体的に地域経済に関わっていく時代
地方創生の必要性が叫ばれ始めてから、既に長い年月が経過している。内閣においても、2015年より正式に内閣府特命担当大臣としていわゆる地方創生担当大臣が配置され、諸々の施策が議論されている。
とはいえ、突き詰めればやはり、地域内の産業を活性化し(域外からの)投資を呼び込むことが地方創生のための最重要課題とであるという答えに辿り着くであろう。そのためには、まずは域内で新しい挑戦を行い事業化する。新しいと言ってもゼロからのスタートである必要はない。既存の資源を改訂するだけでも新しい挑戦にはなり得る。それができてやっとスタート地点に立つこととなる。無論、事業にはリスクも伴う。住民の税金を預かる立場の自治体としては、軽々に決断できるものではない。しかし、地方創生を国の使命として預けてしまい、降ってくる施策を待つだけなら、その自治体の未来は暗い。なぜなら、全国一律で適用可能で効果も見込める魔法のような施策など、そうは無いからだ。
真の地方創生のためには、それぞれの地域の条件や特性に適合した個別のアイデアが不可欠である。そしてそのアイデアは地方から生まれるものであることが理想だ。地方自身が自発的にかつ主体性を持ってアイデアを出し、そしてチャレンジする。この動きこそが、真の地方創生の「はじめの一歩」ではなかろうか。
地理的な不利を補うための創意工夫
長野県松本市は、決して地理条件が良い都市ではない。東京からのアクセスを見ると、新宿からスーパーあずさで3時間弱。同じ長野県の県庁所在地である長野市には、1997年より北陸新幹線(開通当時は長野新幹線)が通り東京駅からの所要時間が1時間25分程度と一気に短縮したが、その長野市からも特急列車で約50分を要す。最も近い大都市といえば名古屋だが、その名古屋からも特急列車で約2時間の距離にあり、企業との接点を作ろうにも物理的な障壁があることは否めない。
その言わば「不便な街・松本」が、松本市民の健康増進を実現すべく、大都市に本社を置く大企業の視線を集めるための創意工夫こそが「松本ヘルスバレー構想」という事業体であり、そこから生まれた結晶が「松本ヘルス・ラボ」という市民組織なのだ。
行政側からの始動で、民間と積極的な関係づくりを
果たして、松本市のようなスキームが全国の市町村でも展開されることを願うのは、理想論なのであろうか。もちろん簡単なことではない。まずは医師会など関係団体の賛同も得る必要がある。事実、この関係づくりに難航したため地域包括ケアシステムが充分に効力を発揮しない地域も存在するという。
そして大学との連携、これも言葉にするほど簡単なことではない。大学には大学の使命があり利害がある。行政とWIN-WINの関係を構築するためには、行政の側が互いのニーズを分析し、そして真摯な姿勢で問いかける必要があるだろう。
それを実現したことに、松本市の強みがある。その最たる表れが、「世界健康首都会議」という2日間に渡るイベントである。世界健康首都会議は実行委員会組織で開催されている。その実行委員会の会長は市長が、そして副会長を医師会長が務めている。
2018年11月に松本市で開催された世界健康首都会議の様子
また、地域企業だけでなくナショナルブランドを含む多数の企業や複数の大学に至るまで幅広く協賛を得ている。このことからも、松本市が、医師会、大学、そして産業界と強固な関係性を維持していることが垣間見える。