第18回 TOTO株式会社
ユニバーサルデザインと
シニアマーケットのニーズ
プレゼンテーション推進部 安達氏 販売統括本部 市川氏 広報部 浅妻氏
ユニットバスやウォシュレットを先進的に日本に導入してきたTOTO。 バリアフリーやユニバーサルデザインについての意識が高く、様々な製品に垣間見えます。 100年近く続くTOTOの歴史の中で、どのようにしてユニバーサルデザインへ取り組むようになったかなど様々なお話をお聞きしました。
2016年4月 取材
Q.ユニバーサルデザインに取り組み始めたきっかけは何ですか。
TOTOは約100年前からトイレの便器を製造しております。その長い歴史の中で様々な使用者のニーズを研究し開発に活かしてきました。
携帯電話や文具のように、ひとりひとりが個人で使用するものではなく、子供からお年寄りまでが同じトイレやお風呂を使用するケースがほとんどです。だからこそ一人でも多くの人が使いやすさを感じ、快適に使用できるユニバーサルデザインの開発に取り組んでいます。
まず初めにきっかけのひとつとなったのは、1964年東京オリンピック・パラリンピック開催の時でした。
特にパラリンピックが開催されることで、世界各国から身体に様々なハンデを抱えている方が集まり、バリアフリートイレの問い合わせが増えました。
当時はユニバーサルデザインという言葉は無く、バリアフリーへの取り組みではありますが後にユニバーサルデザインとなる初めの一歩でした。
Q2.どのようにしてバリアフリーへの取り組みからユニバーサルデザインという考えに変化していったのですか。
パラリンピックをきっかけにバリアフリーへの取り組みが加速化し、使いやすい空間の設計図などを掲載したバリアフリーブックを1978年に発刊しました。このころ、日本の高齢化は進んでいたものの、ベビーブームということもあって高齢化はあまり深刻な問題として取り上げられることはほとんどありませんでした。
当時の日本は、新しい事業や商品の開発にも力を入れる企業が多くありました。TOTOも例外でなく、新しい製品の開発に取り組んでおりました。
その時にアメリカから輸入したのがウォッシュエアシートという、現在のウォシュレットです。
主に病院向けに医療用や福祉施設用に導入されていました。その後、TVCMによるプロモーションなどの効果もあり、1990年代ウォシュレットが世間に広まっていきました。
1990年代になり、出生率が低下し少子高齢化がささやかれるようになってきました。高齢者の割合が増え、医療費が増えていくことが懸念され、行政の対策として2000年から介護保険が始まることが決定しました。
それに伴いTOTOでは高齢者向け製品の開発を促進するシルバー研究室を発足し、2000年までの間に様々な製品や仕組みの開発を促進しました。
そこではいま高齢者の市場でどのような製品が求められ、必要とされているのかを調査し、TOTOの製品開発に活かしていました。例えばバスルームの出入り口部分に段差をなくしたのはそのころです。
当時はバスルームの出入り口に段差があることが通常でしたが、段差のない床にすることで、高齢者やお子様がつまずいて転倒することを防いだり、車いすのままでも安全に入室できるようになりました。
発売当初、段差のないフラットな床では、バスルームの外が水浸しになってしまう懸念があり、洗い場全体にグレーチングを設計していました。
しかしそれは掃除をする、介護をする立場の方に負担になってしまいます。今ではグレーチングがなくても排水出来る商品にしました。このように当時から現在に掛けて研究を重ね進化を遂げています。
先ほどのお話にもありましたが1990年代には、2000年から住宅のリフォームにも適用される介護保険が始まるとのことで、介護向け製品の開発に力を入れておりました。
どのようなニーズがあるか、どうすれば使いやすい製品になるのかを検証するため、シニアの生活実態を研究するシルバー研究室を発足しました。
そこでは実際にシニアの方の生活動作を観察し、その後、レブリス推進部(シルバーの英字「SILVER」を逆から読んで「REVLIS<レブリス>と名付けました」の一部としてシニア市場でどのような製品が求められているのか、また今後必要とされるのはどのような製品なのかを研究し企画・開発を行っていきました。
2000年代に入るとさらに少子高齢化が進み、「高齢者にやさしい生活は、みんなが楽しい生活だ」として楽&楽計画事業がスタートしました。
高齢者にもハンデがある人にも一人でも多くの人が使いやすいものをつくる、高齢者やハンデのある方向けで無く、だれにでも平等に使いやすいというユニバーサルデザインへの取り組みに変わっていきました。
その取り組みを経て2004年TOTOは会社全体でユニバーサルデザインへの取り組みを行っていくようになりました。
それに伴い90年代にシニアの生活実態などを研究していたシルバー研究室が進化し2006年に「R&Dセンター」が設立されました。
Q.TOTOの考えるシニアマーケットとユニバーサルデザインの関係とはどのようなものでしょうか。
2007年、日本は65歳以上の割合が人口の21%を超え、超少子高齢社会となった日本は2011年から2020年にかけて60万の高齢者向け住宅を建設する計画をスタートしました。その計画のころにつくられたのが、病院・高齢者施設の主にトイレや浴室の施工のプランを集約した「病院・高齢者施設水まわりブック」です。
例えば浴室であれば浴槽と壁の間に介助用のスペースを確保する設計にするプランなど、利用者だけでなくそこで働くひとにも快適な水まわりの提供を現在もし続けています。
今後の高齢者向けの展開としては、住生活基本法に基づき、65歳以上のシニアが居住する住宅のバリアフリー化率を2011年から2020年までの期間で75%まで引き上げる計画があります。
国民の住生活の安定を確保および向上の促進に関する期間計画で、この計画は5年ごとに見直されることになっており、2015年には5年先送りの計画となりました。
この計画でいうバリアフリーの基準は2か所以上の手すり配置と屋内段差解消となっているため、手すりの設置や段差解消の整備に補助金などの支援が始まると考えられます。
しかし、かつての日本と比べ、今の社会でシニアといえど60代や70代でも生活に苦悩するほど健康に支障がなく、シニア向けのツールを好まない割合が増えています。
その一方で65歳以上の人口の割合は年々増えており、加齢による生活の変化に対応するツールの需要はどんどんと増えています。
現在はニーズが無くても、将来のために設置してもデザイン性を損なわない、デザイン性を重視した手すりなども多く展開しています。
このような現代におけるシニアとのコミュニケーションでTOTOが心がけているのは、未来のために備えた、身体が不自由な方だけではなく、誰にでも使いやすい生活を提供していくことです。
現代のシニアの特徴を捉えた、シニアだけに向けたデザインではなく、誰にでも受け入れられるユニバーサルデザインという考え方はTOTOがこれからもめざしていく未来の形です。
TOTO株式会社ホームページ
http://www.toto.co.jp/index.htm
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。