第28回 株式会社ファンケル
無添加×飽くなき開発力で
支持を受けるマチュア世代向け化粧品
ビューティーブーケ
マーケティング本部化粧品事業部
商品企画第一グループ課長 土井 幸永子氏
創業以来「無添加」というに強いこだわりを持ち続け「化粧品」、「サプリメント」そして「発芽玄米」などのそれぞれの業態分野で長く市場を牽引している株式会社ファンケル。
今回はその中でも、マチュア世代(※)向け化粧品「ビューティブーケ」にスポットを当てお話をお伺いしました。(※成熟した世代の意)
2018年11月取材

Q. ビューティーブーケの企画から開発までの経緯についてお聞かせください。
「ビューティブーケ」は2016年10月に発売したマチュア世代向けの化粧品です。
ファンケルの商品は概ねオールターゲットで開発していますが、加齢に伴った体の衰えや変化を原因にして引き起こされる使い辛さにまで配慮して作られたのがこのビューティブーケです。
容器の開封のしやすさや使用順序がわからなくなってしまう点などを意識して開発しました。

Q. 商品開発への拘り、そして強みはどこにありますか?
まず、ファンケルのいわば代名詞ともいえる「無添加」。ここには強い拘りを持っています。その一つの研究成果として、防腐剤であるパラベンは老化を加速させるという結果を出しています。また原料の開発にも力を入れています。ビューティーブーケは、当社で積極的に行っている発酵の研究技術を活かし、当社の発芽玄米商品である発芽米を発酵させて、マチュア世代に効果的な成分を抽出するに至りました。

Q. この商品のターゲット層について、御社では「マチュア世代」という表現を使っていますが、その意図とペルソナについてお聞かせください。
シニアという言葉には70歳以上の方、そして仕事を含めて引退して「美容」よりも「健康」を意識した生き方にシフトしているイメージがありました。
ビューティブーケは、「美容」と「健康」の両方に意識が高い60歳以上の女性をターゲットとして設定したかった。そこで、この層を「マチュア世代」というワードで定義することにしました。
ターゲットを決定した後、この層についての定量的な調査を行いました。
また、実際にマチュア世代の方と行動を共にして定性的な調査を行いました。
マチュア世代の方と触れ合ってみると、例えばフラダンスやハイキングなどアクティブな趣味をお持ちの方が多いことに気づかされました。
また当然のごとく多くの経験値や知見も有しており、化粧品選びに関しても「本当にいいもの」をお求めになるという傾向が見えてきました。

Q. シニアマーケティングを進める中で、他社の活動を参考にした部分はありますか?
他社さんのシニア向けの商品については、実際にいくつかを購入してみましたし、それ以外にもシニア向け通販サイトが実践するご案内の手法、そしてシニアの方の目の動きなどを考慮したUI(ユーザインタフェース)なども参考にしました。
特に、家電用品の説明書から得るものは多くありました。マチュア世代に当社の商品を使っていただくに当たり、いかに説明書を間違えなく使えるご案内にするか、受け入れ易い表現にするかという点で参考にした部分が多くありました。
Q. 昨年(2018年)10月10日に、新商品「薬用 美白エイジングケアクリーム」が発売されましたが、こちらの開発経緯などをお聞かせください。

こちらは「金のいぶき」という発芽米を発酵させ、原材料として使っております。従来配合している発芽米発酵液よりさらに効果が高く、エイジングケア、美白効果、シミ予防に更なる効果を発揮します。
また使いやすさの点でも新しい配慮を行いました。
「薬用 美白エイジングケアクリーム」の開発に当たっては、従来の「ビューティブーケ」のユーザに集まって頂きヒアリング調査を行いました。
そこで、「一般的なスパチュラ(クリームをすくい取るためのヘラ)は小さい」というご意見を得ることができました。スパチュラは透明なものが多く、下に落としてしまった際に、どこに落としたからがわかり辛いというご指摘でした。
そこで、スパチュラ(掲載写真右下)を大きくしてつまみやすくし、他の色と識別しやすい色にしました。更に、内蓋のつまみを大きくして、従来のジャータイプの容器よりももっと開け易い容器にしました。

Q. 「薬用 美白エイジングケアクリーム」の売れ行きはいかがですか?
ありがたいことに、本当に多くの反響をいただいており、現在は販売数に対し生産が追い付かないほどです。
Q. 最後に今後マチュア世代(シニア世代)に対し、どのようなアプローチをお考えですか?
これから更に高齢化が進んでいくことは自明ですので、当社としても更なる注力を行っていきます。
今後は「マチュア世代向けのライフスタイルブランド」として位置づけ、広く美に対するお手伝いの提案をしていきたいと考えています。
ビューティーブーケ公式サイト
https://www.fancl.co.jp/beauty/beautybouquet/index.html
株式会社ファンケル
https://www.fancl.jp/index.html
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
日本製への拘りと独自の販路開拓によって
育成されたブランド「快歩主義」
執行役員 / 営業・商品本部戦略ブランド販売部
快歩主義グループ ブランドマネージャー
穴井 政春氏
創業以来120年以上に渡って、高品質の靴を作り続けてきたアサヒシューズ株式会社。確かな技術と信頼の背景には、国内工場製造への深い拘りがありました。
そして、今シニア市場で話題の商品「快歩主義」は、健康・快適シューズ市場においてNo.1のブランド(※)に成長しています。(※2012年シューズポスト紙調べ)
今回は、この「快歩主義」ブランドの育成と販路拡大を含め、アサヒシューズのシニアマーケティングへの取り組みについて深くお話をお伺いします。
2018年5月取材

はじめに
【シニアライフ総研(以下、SLS)】今回はシニア用の靴市場において、自社ブランドである「快歩主義」が大きな支持を得ているアサヒシューズさんにお話をお聞きします。
お話くださるのが同社営業セクションを経て現在はブランドマネージャーを努めていらっしゃる穴井さんです。
【穴井】まずは、弊社に興味を持っていただいて光栄に思います。
【SLS】本日は、本社のある福岡県久留米市からわざわざお越しいただき(※)、本当にありがとうございます。(※編集部注 : インタビューは、東京・有楽町にあるアサヒシューズ様ショールームにて実施)
【穴井】弊社は新幹線とJR在来線の久留米駅近くの、電車からもよく見える川沿いに本社と自社工場があります。
主たるシューズメーカーにおいては、国内で自社工場を有する会社は少なくなっていて、国内工場があったとしてもアッパーと呼ばれる靴の上部の縫製は海外で行い、靴底との接着だけ国内で行う工場が多く、弊社のようにアッパーの縫製も自社や久留米市近隣の協力工場で行っている会社は珍しいと思います。
靴には様々な種類がありますが、弊社は高齢者向けのブランドとして「快歩主義」というブランドを企業の主要ブランドと位置付けています。お陰様で、65歳以上の市場においては、ナイキやプーマをご存じない方でも「アサヒシューズ」や「快歩主義」の認知が徐々に高まっていることを実感しています。
私からは営業という立場から、高齢者マーケットへの取り組みについて「熱く」お話したいと思います(笑)。
【SLS】ぜひ「熱く」よろしくお願いいたします(笑)。
「快歩主義」の商品特性
【SLS】まず、「快歩主義」の商品特性についてお聞かせください。

【穴井】「快歩主義」定番商品のメーカー希望小売価格は5,900円です。他社さんからはこれに競合する商品が3,900円程度で売られているようです。そう考えると決して安くはないのですが、弊社は「快歩主義」発売以来この価格を維持しております。なぜなら商品の品質に絶対的な自信を持っているからです。
商品の差別化ポイントはゴム底にあります。ゴムというのは本来重いものなのですが、「快歩主義」に使用されているゴムは圧倒的に軽いのです。

(※快歩主義の最軽量商品の重量は約130g)
実は、ゴム底製造の歴史こそが、弊社の歴史と言っても過言ではありません。弊社は足袋の生産から始まり、その後、地下足袋へと移行してきました。久留米は近隣に三池炭鉱、田川炭鉱など炭鉱が多く、炭鉱夫のために地下足袋を作って最初に特許登録したのが弊社です。これがゴム加工を始めたきっかけとなるのですが、ここから長年に渡りゴム加工技術の研鑽を積み重ねてきました。
靴のデザイン部分は流行やライフスタイルに合わせて変動しますが、ゴム底加工の技術だけはそれぞれの会社に脈々と受け継がれてきたノウハウがあり、簡単には真似できないはずです。靴底(裏側)を見ていただければすぐにわかっていただけます。「快歩主義」は靴底の全面にゴムを使用しており、これが履き心地の良さを生んでいます。
他社さんの製品は、そのほとんどが軽量化のために発泡させた合成樹脂を使用し、滑り止めとして部分的にゴムを使っている商品が多いはずです。
【SLS】更には、各方面の専門家の助力があったとお伺いしておりますが…。
【穴井】「快歩主義」には基本設計として「正常歩行機能(フットオンコントローラーシステム)」が採用されています。加齢により骨格構造や歩行が変化してくことに対応する機能で、特許登録もしております。

この技術は、1999年に松波総合病院リハビリテーション科(当時)の酒向先生(理学療法士)との出会いから始まります。更には整形外科医の先生方の協力も得ながら研究開発を行って誕生しました。軽量化を実現するため靴底にはエクスパンセル(ガスを入れたプラスチック球状発泡剤)を採用し、ゴムへの配合率や焙造条件(温度や時間など)を独自に研究し、量産を実現しました。
また、デザイン面については、面ファスナー部分を素材メーカーと共同で開発し、医療機関で検証を行いました。消費者は厳しい視点を持っています。健康に関わる付加価値を持った商品というのは、メーカーの独りよがりでは売れません。やはり、専門家の知識や助言という裏付けが絶対的に必要です。
シニアマーケットへの事始め ~ 会社更生法適用時代を経て
【SLS】御社は早い時点(1999年頃)にすでに高齢者マーケットに着手していますが、当時の背景をお聞かせください。
【穴井】高齢化が加速する日本では、要介護の基準、サービス運営基準など、公的介護保険の詳細について定めた法律である介護保険法が1997年に制定され、2000年より施行された時代背景があります。当時の商品開発テーマとして、「21世紀の高齢化社会へ対応する商品開発構想」を掲げ、シニア向け商品の開発に着手しました。
またこの頃の靴市場は、すでに韓国製、中国製など海外生産製品が席巻しており、価格競争が激化していました。これは国内の自社工場で生産を行っている弊社にとって苦しい状況でした。
そこで方針を転換し、自社工場だからこそ作れる他社には真似のできない付加価値を持った商品を開発する必要がありました。そしてそのような商品は高齢者マーケットにこそ需要があると考えました。
【SLS】では、国産に拘ることが高齢者マーケットへたどり着くきっかけだったということですか?
【穴井】そうです。更に掘り下げると、弊社が1998年に会社更生法の手続きを申請したという実情が背景にあります。つまり倒産です。当時、弊社の主たる取引先は、商店街の靴屋さんでした。大型ショッピングセンターはまだ少なく、商店街に元気があった時代です。売上自体はあったのですが、その実態は苛烈な安売り競争に苛まれ、利益は非常に少なかった。売れれば売れるほど、その翌年に小売店から仕入原価を下げるよう要請が来ました。「あと1%引いてくれ」と。厳しい要請ですが、しかし取引先を切るわけにはいかないから泣く泣く値引きする。結果として、売っても売っても経営が苦しいという負の連鎖が続き、過剰在庫もあり最終的に倒産に追い込まれました。当時の反省も踏まえ、現在は商品の価格を下げないという原則を守っています。
【SLS】会社の再生を通じて、価格競争に苛まれないための経営戦略に移行されたのですね。
【穴井】そうです。これがきっかけで大量生産による競争路線から、オンリーワンの機能を持った自社ブランド路線へとシフトしていきます。その一環がシニア向けの商品開発だったのです。
自社工場を武器にするための経営戦略
【SLS】会社再建当時に「これからはシニアを攻める」と聞かされた時は、現場にいらっしゃった穴井さんはどうお感じになりましたか?

【穴井】正直言ってシニアをターゲットにすることに対し、それほど何かを感じるということはありませんでした。ただやるだけだと。それよりも、工場をフル稼働させたいという思いがありました。
【SLS】ここまでのお話からも、久留米の自社工場について強い思い入れを感じていました。
【穴井】それには理由があります。実は前述した会社更生法が適用された頃に、工場存続の危機があったのです。会社は経営再建を目指してスポンサーを探します。当時、ありがたいことに、弊社の再建のために手を挙げてくださったいくつかのスポンサー候補がありましたが、そのほとんどが「自社工場を手放し、全国にある販売網の活用に重点を置く」ことを再建の条件として提示されました。
しかし、当時の弊社経営陣は自社工場の存続に強く拘りました。その背景には「従業員の雇用を守りたい」という思いがあったからだと思います。幸いなことに、この考えを強力に進めてくれる管財人が就任され、そこから再建が図られることになりました。
このような経緯の後に残すことができた工場であり従業員ですので、これを何とか自分たちのチカラで最大限に稼働させたいと思いました。かと言って、無闇にモノを作ればいいというわけではありません。例えば人気を理由にブーツなどの季節需要のある商品などに寄ってしまうと、闇雲にアイテムが増え工場の負担は瞬間的に大きくなるだけでなく、年間の稼働率に偏りが出てしまいます。工場を健全に維持し続けるためには、年間を通じて平均的な需要が見込める定番商品、つまり安定した「自社ブランド」商品を作ることが最重要課題でした。
【SLS】「自社ブランド」路線にシフトした後、工場の稼働率はどのように推移しましたか?
【穴井】その後「快歩主義」を始めとした様々なブランドが着々と成長し、今では、アサヒシューズの商製品全体における7割が自社工場による生産となっています。
【SLS】国内工場比率が70%というのは、靴メーカーとして比類のない数字なのでは?
【穴井】そうですね。珍しいと思います。
独自のプロモーション施策
【SLS】そんな自社工場で生産される「快歩主義」についてですが、高齢者の皆さんには「日本製」というキーワードは響きますか?
【穴井】響いていると思います。実際に「さすが日本製だけあって、モノが違う」というお声も多数頂いています。
【SLS】靴市場におけるシニアマーケットの特性を教えてください。
【穴井】まず大前提として、「快歩主義」の売上のうち多くを占めるのがリピーター需要ということです。靴というのはそもそもリピート需要が大きい商品なのですが、「快歩主義」は一度お試しくださったお客様が繰り返し購入してくださることがとりわけ多い商品です。
【SLS】新規ユーザーの獲得については、どのように取り組んでいらっしゃいますか?
【穴井】これまでは新聞広告を中心に全国紙の15段広告や、時には5段広告も出稿してきました。しかしながら、期待するほどのレスポンスには至りませんでした。
特に地方についてはブロック紙や県紙などの地方紙が強く、全国紙ではなかなかリーチしないという印象を持ちました。そこで考え方を変えて、2018年からテレビ通販によるダイレクトマーケティングを実施しています。

(穴井氏も出演する通販番組)
【SLS】ここまでの反響はどうですか?
【穴井】反応は良いと感じております。衛星放送を中心に29分の尺で放送していますが、毎日予測値以上の反応があります。卸先の靴屋さんからは「メーカー直販すること」に対しお叱りをいただくことがあります。しかし私どもの真意は靴屋さんと競合することではありません。この番組の主目的は、ブランドの持つストーリーや価値を伝達しながら快歩主義を知らない方にブランドの存在を知って頂く事です。通販はあくまで副次的な要素と考えています。番組を通じてアサヒシューズの「快歩主義」をシニアの皆さんに知っていただき、その上で店舗に足を運んで頂きたいのです。
事実、靴は履いてみないと自分に合うかどうかわからない商品です。ご近所の靴屋さんで弊社商品と出会った際に、「テレビで見た商品だ」ということでお試し頂くきっかけになればと期待しております。
このことは営業マンがそれぞれの靴屋さんに足を運んでご説明しております。
【SLS】販売よりも流通対策としての意味合いが強いのですね。
【穴井】そうですね。快歩主義は一度お履き頂ければ必ずといっていいほどリピーターになって下さる方が多い商品です。一度お試し頂ける方を増やしたいという意味合いが強いですね。また番組内では靴をご購入いただいた方へのノベルティとして「オリジナルの今治ハンカチタオル」をプレゼントしていますが、実はこのノベルティは店頭でもちゃんとご用意しております。
弊社としては何より小売店さんを大切にしたいという思いがありますので、店舗へ足を運んでくださったお客様が「プレゼントはテレビ通販だけなの?」という疑問や不満を持たれるのは本意ではありません。ですので「快歩主義」を取り扱うすべての小売店さんに同じノベルティを提供させていただいております。
多様なニーズへの対応がシニア攻略の鍵
【SLS】こうしたシニアマーケットへの取り組みが結実していると実感したのはいつ頃からですか?
【穴井】シニアマーケットにはまだまだ新しいニーズが存在するのだと気づいた辺りからです。
例えば同じ80歳の婦人を比較しても、20年前の80歳と今の80歳とでは全然違いますよね。
私自身もあと1年で60歳です。自分が子どもの頃の印象では60歳と言ったらお爺ちゃんでしたが、実は私は今もハーレーを乗り回しています。
【SLS】ハーレーとは、すごい(笑)
【穴井】これが今60歳の実態です。もちろん一例ですが(笑)。
快歩主義で言うと、10年前はベージュ、黒、ワイン色などの定番商品しかありませんでした。
しかし、今のシニアは多様なニーズを持っています。それに呼応するため、今は定番以外にもたくさんのデザインをご用意しています。いわゆる「年寄り扱い」をしてはいけません。こちらのショールームにはラインナップの一部を置いていますが、全体を見渡して頂くと、結構派手だと思いませんか(笑)

【SLS】そう思います。
【穴井】ちょっと派手なくらいが気持ちを高揚させてくれるし、その気持ちが歩いたり動いたりする原動力になります。
【SLS】リハビリ用の商品もデザイン性が高いですね。
【穴井】よくあるリハビリ対応の靴はデザイン性を考慮しない「上履き」的なものが多いのですが、私たちはリハビリ対応の靴であったとしてもデザインには拘っています。
とある介護施設で聞いた話をご紹介します。その施設の入所者さんたちが履く靴は全員が同じモノで間違いやすかった。そこに気づいた入所者の娘さんが、靴に名前を書く代わりにその方がお気に入りの着物の切れ端をミシンで靴に縫い付けたところ、とても喜んでくれた上に間違いも減ったそうです。私どもはそのアイデアを即座にいただきまして、着物風の生地をワンポイントであしらった商品も作りました。商品開発をしていても楽しいです。多少突飛なアイデアだったとしても、恐れずどんどんチャレンジしています。できれば他社にはない独自性のある商品をたくさん作りたいと思っています。
実際、社内会議で不評であったデザインでも、思い切って発売してみると、これが意外とよく売れることがあるのです。正直言って何がウケるかなどやってみないとわかりません。もちろん定番商品自体は大事な存在です。そちらのラインナップはしっかりと維持しつつも、一方で色やカタチを少しずつ変えたアレンジ商品をラインナップとして増やしていく。そうすると2足目、3足目のプラス需要として売れていきます。だからこそ攻めていく姿勢は大事です。この戦術は、コンバースさんの「オールスター」シリーズからヒントを得ています。柱となる定番商品を持ちつつ、一方では常に攻めの商品ラインナップ開発を行っていく。これがシニアマーケティング攻略のポイントのひとつだと思います。
まだある、自社工場生産のメリット
【SLS】しかし、実際はこんなにたくさんのデザイン商品を作るのは大変なのではないですか?

(ハローキティともコラボレーションするなど、バリエーション豊富な快歩主義)
【穴井】こうした試みができるのも、自社工場があるからです。
仮に海外生産をしていたらこうはいきません。海外生産を行うためには、ロットと期間に制約が生まれます。靴の世界でいえば、最低でも5,000足発注しなければ海外生産のコスト面のメリットは生まれず、しかも発売の半年前に発注するという条件が付きます。商品の売れ行きが見えない段階で、大量の発注を余儀なくされるわけで一種の賭けです。リスクも大きい。仮に賭けに勝ちヒット商品を生んだとしても、そこからがまた大変です。更なるヒットを生むために新型のモデルを大量に生産し販売する。そうすると当然前のモデルの中に売れ残りが発生し、それが安売りの対象になります。最新でなくても安い方がいいという需要は必ず一定数はあります。そうすると売りたいはずの最新モデルが売れなくなり、ひいてはブランドの瓦解に繋がっていきます。
業種を超えた流通対策
【SLS】それでは、いよいよ販売と流通に関する手法について教えてください。
【穴井】まず、漫画を書いています(笑)
正確には、漫画そのものは別の社員に依頼しているのですが、設定やストーリーはすべて私が自分で考えています。
【SLS】面白いのが、街のカメラ屋さんに快歩主義の取扱いをオススメするというストーリーになっていることです。
【穴井】これ、実は異業種向けの新規開拓用営業ツールです。今、私どもが積極的に取り組んでいるのが、異業種の小売店さんを開拓することです。靴屋さんではない全くの異業種の小売店さんに「快歩主義」を置いていただくことにチカラを入れております。
【SLS】いろいろお聞きしたいのですが、まずは最初の質問です。なぜ漫画に行き着いたのですか?
【穴井】商店街で営業を行っていると、お話を聞いてくださる店主さんやオーナーさんも、皆さんシニア層の方です。そういう方々に、杓子定規にとりまとめられた文字ばかりの企画書をお持ちしても興味をもってもらえません。しかも、異業種の皆さんです。そんな方にいきなり靴の取扱のお話をしても「えっ?!」と思われてしまいます。だから、ひと目でわかりやすく、内容も入っていきやすい漫画に着目したのです。
【SLS】次に、異業種開拓へチャレンジした理由をお聞かせください。
【穴井】理由は単純です。靴屋さんだけをターゲットにしていても販路拡大には限界があるからです。
今は、いくら探しても新規の靴屋さんなどありません。言い換えればほとんどの街の靴屋さんが既に弊社のお取引先です。
そして、その靴屋さんが今、減少傾向にあります、というのは靴屋さんというのは大変な商売です。1つの商品を売るためにおよそ5~8種類のサイズを用意しておかなければなりません。在庫というのは靴屋さんにとってそれは大きな負担です。そういう理由もあって、街の靴屋さんは事業継承されず廃業されるケースも多く、同時に弊社の取引先も減っていきます。だからと言って何もしないわけにいかない。年々減っていく得意先を悲しんでいても何も生まれません。だからこそ異業種開拓です。開拓先は主に商店街の店舗です。全国的に商店街は衰退傾向ですが、実はシニアの方にとって商店街は未だ大事な存在です。シニアの行動範囲は限られています。郊外のショッピングセンターまでなかなか足を伸ばせません。
【SLS】俗に言う「買い物難民」問題ですね。
【穴井】そうです。だから私たちはもう靴屋さんに限定せず、「レジのあるところならばどこへでも提案する」という方針で開拓を進めています。洋服屋さんは元より、電気屋さん、クリーニング屋さんなど、商店街にあるいろんな業態に靴の取扱いをオススメしています。更には、道の駅、ガソリンスタンド、ネイルサロン、家具屋、ランジェリーショップなどにも置いてもらっています。この漫画のモデルになっているカメラ屋さんは(広島県の)呉駅前にあるんですが、今では、店舗の半分が靴の展示スペースで占められています。
【SLS】いわば、靴を通じた、シニアの方と商店街のマッチングですね。
【穴井】これはコカ・コーラさんの「喉が乾いたらコカ・コーラ」という戦略からヒントをいただきました。いわば、「シニアがいるところには快歩主義」です。「快歩主義」を置いてくださる店舗さんには、展示用・装飾用の什器と店頭用のノボリなどを一式でご提供しています。少しの空きスペースにこれらを置いて頂いて、シニアの皆さんとの接触ポイントを作っています。もし、購入意思のあるお客様がいらっしゃれば、店舗内で靴(のサイズ)合わせをしていただきます。「快歩主義」のデザインは多数ありますが、ベースは同じなので(22.5~25.0までの)5サイズ分だけ店舗内に置いておいていただければ靴屋としての商売が成立します。あとは設置したカタログからデザインを選んで頂きます。そうすれば翌日には弊社から商品をお届けすることができます。
【SLS】専門家がいなくても、試し履きが何よりの商品説明になるから、商売になるのですね。
【穴井】今は、こういう異業種店舗向けの販路開拓を行う専門チームが社内にあります。当初は西日本が中心でしたが今は首都圏においても開拓を進めています。首都圏内においても困っている商店街や買い物難民エリアはたくさんあります。
異業種店舗で靴が売れる、その理由
【SLS】各店舗オーナーさんからはどんなお声が挙がっていますか?
【穴井】手前味噌ですが、よく売れると喜んでもらっています。人が離れたと言っても、実は店舗さんはちゃんとお客さんをお持ちです。中には名簿や台帳を作ってお客さんをしっかり管理していらっしゃる店舗さんもあります。
そして、売れるのにはもうひとつ理由があります。店舗オーナーさんご自身もシニア層の方が多いので、商品を実際に試してくれます。従ってお客様への説明にもリアリティがあるのだと思います。売る側が納得しているから、買う側にも響きます。
【SLS】アイデアだけでなく、それを行動に移しカタチにしたことにも感心します。
【穴井】それは私たちが「営業」だからだと思います。常に外にキモチが向いているからです。もちろん、社内を見渡せばこのような取り組みに反対意見もありました。それは当然のことです。営業が動くだけと言っても現実には人件費も交通費も使います。経費はかかっています。しかも1日に10件、20件回って成果がゼロということもあります。そうそう結果が出るわけではありません。そもそも、全くの異業種に対して「靴を売りませんか」と言っているのですから、結果が出なくて当たり前なのです。
しかし、動かなければ何も始まりません。それに仮に一店舗採用していただけると、そこから横の繋がりによって別のお店でも検討していただけることもあります。
【SLS】一通りのお話をお聞きすると、前述された「テレビ通販も流通対策の一環」というお話がよくわかります。
今後の展開と企業としての社会的使命
【SLS】思い描いていらっしゃる今後の展開等がございましたらお聞かせ下さい。
【穴井】これからも何ら変わりません。更なる新規提案と更なる販路開拓、この2点に尽きます。
例えばサンダル型のニーズがあるというのならばすぐにでも開発したいですし、とあるエリアには販売店がないとなれば開拓に行きたいと思います。終わりはありません。
【SLS】今後、シニアマーケットを追求していくにあたって、靴業界に限らずベンチマークしていらっしゃる企業さんはありますか?
【穴井】前述しましたが、やはりコカ・コーラさんですかね。街を見渡せば、どこかに赤い自販機があるというコカ・コーラさんの取り組みは、常に意識しております。シニアがいらっしゃるところならば全国どこでも快歩主義が売られている状況を作りたい。同じ視点で、セブンイレブンさんの出店戦略も参考になります。
販路拡大について補足ですが、実は今取り組んでいる新しい施策があります。それは、徳島の山奥を走る移動スーパーでして、そこで「快歩主義」を取り扱ってもらっているのです。
【SLS】山村部を1週間に数回走る、小型トラックの商店ですよね。
【穴井】移動スーパー内のほとんどの商品が数百円ですが、そこに弊社の5,900円の商品を置いていただいております。当然最も高い商品となります。他の店舗さんと同様、複数のサイズのサンプル靴を置いて、もし購入していただければ、次回の移動販売の際に商品をお持ちするというカタチになります。
当然、オーナーさんにこのご提案をするにあたっては苦労もありました。しかし最終的にはニーズがあるとご判断頂き、採用していただけました。
【SLS】届けるといえば、海外からの需要についてはどのような取り組みをしていますか?
【穴井】例えば、東南アジアや韓国、台湾では販売が始まっています。更に中国についてはこれから本腰を入れて取り組んで行かねばなりませんが、今は慎重に事を進めています。それは商標の問題です。韓国や台湾については問題なく「快歩主義」の商標も確保したのですが、中国はこれが簡単ではありません。実際問題として、中国で「快歩主義」を想起させる類似の商標を他人が既に登録しているなどの難しい問題などがありました。しかし、この問題もようやく解決して中国での展開が始まりました。
【SLS】これが前に進めば、営業さんとしては中国向けの販路開拓という大きな仕事が待っていますね。
【穴井】そうなれば人員もまた増えるでしょうし、着実に成し遂げて、後進へよい財産を残していきたいと思います。
【SLS】改めて販路開拓に対する営業さんの情熱には、アタマが下がります。

【穴井】その原動力にはやはりお年寄りへの愛情があるのだと思います。トイレ、風呂、そして靴は毎日使うものです。良いものを使えば、健康寿命が伸びると考えています。
「快歩主義」は他の靴と比べるとちょっと高いかもしれませんが、「本物」だと自負しております。
シニアの皆様には大事なことにはちゃんとお金を使って欲しい。そして健康寿命を伸ばして欲しい。
だからこそ、山村にいらっしゃるたった一人のお年寄りへも、本物をお届けしたいのです。我が国が高齢化社会と言われて久しいですが、高齢者の皆さんにとって「自分の足で歩く」ということが本当に大事なことだと実感しています。
私自身は現在59歳で子どももいますが、将来自分の子供に負担をかけたくはないという思いが強くあります。これは全ての親が共通して持つ心情だと思います。歩くことが困難になり寝たきりになったりすると、これに伴い身体の全ての機能が低下するリスクが上がります。「歩くこと」は健康の源ともいえます。この、日常の「歩く」という行為をサポートすることが弊社の使命だと考えております。
例えば、一度健康を損ねてしまった方にとってはリハビリテーションはとても大事で、そのための商品を開発しているメーカーさんも多数あります。これは大いに社会的意義のある仕事です。同様に、弊社はリハビリの手前、つまり「健康を維持し元気に生活し続ける」ための商品を開発し提供する位置づけであり、弊社なりの社会貢献でもあると考えています。
労苦を共にした仲間とともに夢を実現する
【SLS】お話を通じて、種まきしたブランドが芽を出し花が咲きつつある、そんな時期かと感じました。
【穴井】 「快歩主義」は現在年間で60万足ほど売れていますが、目標は100万足を掲げています。
【SLS】100万足とは大きな目標ですね。でも現実味もあると思います。
【穴井】この目標を達成するために、今弊社内ではキャンペーンを実施中です。キャンペーンのコンセプトは「ひとりの夢はただの夢、みんなで見る夢は実現できる」です。100万足という目標は簡単なことではないが、みんなでこの「夢」を実現しようと。そして、このキャンペーンの責任者は何を隠そう私です。そのプレッシャーたるや大きいですが、奮闘しております。
【SLS】100万足は「目標」でもあり、「夢」でもあるのですね。
【穴井】これまでも、本社、全国の営業部、そして工場にいるすべての従業員が一緒の方向へ進み、同じ夢を見てきました。なぜなら、弊社には苦しかった時代があるからです。あの頃の分を取り返すためにたくさん売りたいという気持ちがあります。快歩主義をたくさん作って売ることにより、従業員、その家族、そして販売店さんに至るまで、皆で幸せを分かち合いたいのです。ありがたいことに今はそのチャンスがあります。そのキモチの表れが胸につけているバッジです。
【SLS】社員間にある種の「絆」があるのですね。
【穴井】あると思います。会社に残った従業員たちの中に強い気持ちがあったからこそここまで来られたのだとも言えます。
【SLS】全体を通じてチャレンジすることに躊躇がない、そんな御社の姿勢がよくわかるお話でした。
【穴井】会長、社長を筆頭に経営陣も従業員も全てこのマインドです。一か八かでもいい、今までもやってきたのだから迷うことはない。現在、弊社は無借金会社です。いや、元々借金ができなかったという背景もありますが(笑)。従って、最大の株主は社員の持株会です。「だから誰にも遠慮や配慮もいらない。みんなで儲けて、みんなで分配すればいい。それだけだ。」と社長が日々言っています。これは、「残ってくれた社員に対する恩返し」という意味も含んでくれているのだと思います。
【SLS】最後まで熱く、かつ気づきも多いお話で感銘を受けました。
【穴井】熱さだけは負けません(笑)。ビジネスは最終的には人間対人間ですから。ぜひ一度、久留米の工場にもお越し下さい。工場では靴を作る体験などもできますし、まだまだご紹介したいことがたくさんあります。美味しいものもたくさんありますよ(笑)。
【SLS】ぜひお伺いしたいです!!本日は貴重なお時間を頂戴し、本当にありがとうございました。
アサヒシューズ株式会社
https://www.asahi-shoes.co.jp/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
警備業界最大手が超高齢化社会に取り組む
セコム・マイホームコンシェルジュ
SMARTプロジェクト プロジェクトリーダー 勝亦真一氏
SMARTプロジェクト セコム暮らしのパートナー久我山 主任 奥村政彦氏
コーポレート広報部 部長 井踏博明氏
コーポレート広報部 中川翔平氏
警備業界の最大手のセコム株式会社。超高齢社会に対し、様々な取り組みを行っています。
今回のインタビューでは、セコムグループの中で、医療や介護、セキュリティなどのサービス体制が充実している東京都久我山地域で生まれた「セコム・マイホームコンシェルジュ」についてお話をお伺いしました。
2018年2月取材


Q.「セコム・マイホームコンシェルジュ」の提供を開始した経緯を教えてください
弊社は警備会社として知られていますが、セキュリティだけでなくメディカルや防災など幅広く事業を展開しております。
各事業の力を活用して、超高齢社会における社会課題に対して出来ることを探るために2014年にSMARTプロジェクトを立ち上げ、まずご高齢者の困りごとを調査することにしました。
弊社でも、これまでの経験から、ある程度の知見は持っており、行政やリサーチ会社による、超高齢社会の課題調査を参考にしていましたが、実態の正確な把握が必要だと判断し、自分たちで実際に調査することにしました。
そうして、超高齢社会の課題を発掘するために、高齢者のお困りごとに対応する相談窓口「セコム暮らしのパートナー久我山」を開設いたしました。
「セコム暮らしのパートナー久我山」では、「なんでもお声掛けください」と実際に困りごとを受け付けて、ご自宅に出向き、状況確認・解決までの対応を行い、10か月で550件の困りごとのお手伝いをすることができました。
実際に困りごとを集計してみると、我々の想定と異なり、セキュリティやメディカルに関するものは、それほど多くはなく、日常のあらゆる場面で問題が発生していることがわかりました。

日常の困りごとへの対応の中で、超高齢社会の課題の源が見えてきました。
心身の衰えによって、高齢者自身で出来ないことが増える中、時代の急激な流れで世の中が複雑になり、やるべきことが増えてもどうすればいいのかわからない、誰に聞けばいいのかもわからない。
ちょっとしたことの積み重ねで暮らしの不自由さを感じ、不安を抱える方が非常に多くいらっしゃいました。
そんな日常的な不安を抱えている方々に、これからの見通しを尋ねてみると、施設への入居を検討しているけれど、本当は自宅での生活を望んでいるとの回答が得られました。簡単なお手伝いをしてくれたり、ちょっとした相談に乗ってくれたりする人さえいれば、まだまだ自宅で過ごせるような方々が大勢いらっしゃいます。
そのような経緯があり、自宅生活のお手伝いができるサービスをやってみようと、「セコム暮らしのパートナー久我山」で得た知見を活かした「セコム・マイホームコンシェルジュ」が生まれました。

Q.「セコム・マイホームコンシェルジュ」のサービス内容を教えてください
「セコム・マイホームコンシェルジュ」は、暮らしのお困りごとに対応する拠点「セコム暮らしのパートナー久我山」を中心とした地域限定のサービスです。
いつまでも住み慣れた自宅で暮らしたいと思われる高齢者の方々を対象に「いつでも」「あらゆること」に「セコム暮らしのパートナー久我山」がワンストップで対応します。
24時間365日、日常生活上の相談受付、解決方法の提案・情報提供を行います。携帯電話の使い方のレクチャーや電球交換といった軽作業を行うだけでなく、医療、介護、リフォームといった専門職への取り次ぎ・手配も対応しております。また、「セコム・ホームセキュリティ」をベースにした見守り、駆け付けサービスはもちろん、その方にあった形でのお役立ち情報の配信、定期的な暮らしの状況確認、遠方にお住まいのご家族への対応レポート配信なども行っております。

Q.取り組みの中で苦労されたことを教えてください
サービスの内容をなかなか理解してもらえないことです。
「セコム暮らしのパートナー久我山」を設立して間もない頃、1,000件程のサービスを案内させていただきましたが、まったく電話が鳴りませんでした。
我々としても想定内の状況であったため、すぐに訪問によるサービスの説明に励みました。
サービスの内容を理解してもらえなかったり、「本当になんでもやってくれるのか?」と、いわゆる「便利屋」のサービスとの違いを説明することに苦労しました。
「セコム・マイホームコンシェルジュ」は、富裕層向けのサービスだと思われてしまうことがあります。しかし、我々の考えでは、事業継続の為に相応の対価をいただく事、また対価に見合ったサービスの提供が重要だと考えています。
地域包括支援センターや介護保険をベースにした事業所では、「パソコンを教えて欲しい」、「重い荷物を運んで欲しい」といった、介護保険では対応できないことを頼まれることが多々あると聞きます。
そういった部分を我々が対応することで、役割分担も可能だと考えています。一方で、自治体側は、特定の民間企業のサービスを推しづらい立場でもあり、そこに難しさも存在します。
Q.サービス提供を通じて、シニアに対する認識の変化はございましたか
サービス提供開始前は、70代前後で要支援や要介護認定前の方がサービスの対象の中心になると想定していました。
しかし実際には、サービスご利用者の平均年齢が約82歳で、そのうち半数程度の方が介護保険を利用していらっしゃいます。
ケアプランのスケジュール外で急に必要になった時や病院への付き添い、介護保険でカバーしきれない部分といったことに我々の価値を考えていただけているのだと認識しました。
また、「セコム・マイホームコンシェルジュ」を提供するために、前提としている「セコム・ホームセキュリティ」については、防犯はもちろんですが、高齢者にとっては見守りのニーズにも応えていると感じます。
Q.シニア層の特徴として気づいたことはありますか
ご自身の困っている状況を自分からはなかなか発信しないことが大きな特徴だと思います。
もちろん活発に発信する方もいらっしゃいますが、自分からお願いしたり、何かを聞いたりすることを嫌う方も多くいらっしゃいます。
何かを頼んでも断られたり、たらい回しにされたりすると大きなストレスを感じるものですが、そうなると人に聞かない、誰にも頼らない、我慢しようと考えてしまいます。
その事に起因して、人間関係の希薄化も進み、情報を得る機会が減ってしまいます。
そのため、認知症予防体操や相談会といった高齢者向けの様々な地域の取組みや民間サービスの情報が、本当に必要な方に届かなくなるといった問題も生まれています。
そういった方々に対して、我々も微力ながらセミナーを開催したり、訪問先でイベントを薦めたりと情報提供をしております。


Q.社員教育に関して何か特別な取り組みを行っていますか
セコムグループの医療介護スタッフに研修をしてもらったり、外部セミナーに出来る限り参加することで、高齢者の生活に関わる基本的な知識や技術を身に付けています。
また、「セコム・マイホームコンシェルジュ」の会員様のケアプランに関わるサービス担当者会議に参加することもあります。会議で得た専門知識をスタッフで共有するだけでなく、ケアマネージャーさんの把握できていないところを我々が情報提供することでお互いを補うこともあります。
加えて、一般的な生活者の目線は失うことのないように気をつけています。
サービスの特性上、幅広く対応する必要性がある我々が専門家になってしまうと、客観的、かつ俯瞰的な見方を出来なくなってしまう可能性があるからです。
我々の役割はあくまで専門家とお客様をおつなぎすること、つまりハブの役割を果たすことだと考えています。
Q.現状の課題を教えてください
エリア展開が課題の一つです。
ありがたいことにエリア展開のご要望をいただいていますが、事業性や人材の確保などの課題があるので検討中です。
Q.今後のお取り組み予定を教えてください
自治体や他企業とのより密な連携を取る必要があると思っています。
地域包括支援センターでは、要介護認定を受けた方を中心にサービスを行いますが、我々はその前の段階で関わりをもつことが必要だと考えています。地域の一つのチャネルとして、高齢者に対して有益な情報を提供したり、他企業のサービスをコーディネートすることで、健康的な生活につなげることが出来れば、介護保険のお世話になることが先延ばしとなり、社会保障費の抑制にもつながります。
また、ICTやAIを活用したサービスの本格的な運用を考えています。
現在は、トライアル的に他企業のサービスとも連携しながら、コミュニケーションロボットやスマートスピーカー等のコミュニケーションツールを使った取り組みをしており、「今日は暑いから外出は控えましょうね」「薬をちゃんと飲みましょうね」とお客様の生活維持に必要なお声掛けをさせていただいています。
現在「セコム暮らしのパートナー久我山」には9名の従業員がいますが、多くのご利用者に均質に声をかけることは、困難な状況になりつつあります。
そこでICTを使って、均一に、信頼性の高いコミュニケーションの提供が出来ないかを検討しており、会話を中心とした、有効で、タイムリーなコミュニケーションが実現できれば様々な課題の解決に役立つのではと考えています。
会話することが、高齢者にとっては外部の刺激として認知症予防になりますし、口の運動として嚥下機能低下予防にもなると考えられます。
また詐欺の電話がかかってきたときも、「その電話は詐欺かもしれないから気を付けてね」とAIを活用して呼びかけすることもできます。
このような高度なコミュニケーションを同時に、多数のお客様に行うことができる可能性があります。
また、会話だけでなく情報提供にも役立てることが出来ます。
近隣との関係が希薄になる中で、人同士の直接のコミュニケーションが少なくなってきている最近の流れからも、ICTを活用した声掛けであれば、抵抗感なく受け入れていただけるかもしれません。
ICTによってコミュニケーションの質を高めることができると考えられますし、その人に適した情報提供を、コストをかけずに行うことも可能になると考えられます。
現在、ICT活用はトライアルの段階です。
活用実績を1件でも増やし、知見を積み重ねていけば、自治体の協力が得られるようになり、効率性と体制確保のバランスを取ることで、事業性の問題も解決できるかもしれません。
将来的にはエリアを展開し、多くの方のお役に立ちたいという想いがあります。
セコム株式会社 公式ホームページ
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
グランド・ジェネレーション
(G.G)世代に向けた眼鏡店
イオンリテール株式会社ファーマシー商品部
外部出店ユニットG Glass-Upグループ マネージャー 今川 匡氏
国内メガネ市場は、2011年以降5年連続でプラス成長を続けています。誰しも加齢とともに目の衰えは避けられないもの。シニア層をグランド・ジェネレーションと位置づけるイオンリテール(株)が運営するメガネ店「 Glass-Up(グラスアップ)」について、お話をお伺いしました。
2017年10月取材
Q.御社の考えるシニアの定義とは何でしょうか?
イオングループでは「アジアシフト」「都市シフト」「シニアシフト」「デジタルシフト」という4本の経営戦略を掲げておりますが、シニア層へアプローチしていく取り組みが「シニアシフト」になります。 その中で、55歳以上のアクティブなシニア層の呼称を「グランド・ジェネレーション(G.G)」としました。
取り組みとしては、シニア向けブランドの立ち上げ、シニア向けの店舗改装、また55歳以上のお客様が入会できる「GGカード」の発行などです。 ただ最近では元気なシニアな方がとても多いので、イオングループ社内では「65歳以上のお客様」をアクティブシニアとしてマーチャンダイジング上は設定しております。
Q.シニアの捉え方、特徴とはどのようなものでしょうか?
個人消費の約半数は60歳以上だと言われています。また、日本の個人金融資産が1800兆円となり、そのうちの約6割がシニア層といった話がありますが、結局シニアがメインストリームと化していると私は思っています。 ですから、その層を狙っていくのは、至極当然のことだと思っています。
イオンは総合スーパーをやっているので、お店や地域によってはもうシニア層がメインになっている店もございますし、その中の眼鏡屋さんとしては、いわゆるシニア層はもうど真ん中ですよね。 シニアの方は、長く生きてこられたので、今まで色々な経験を経たり、感じてきたりされたというのがあって、個人の多様性がすごく出やすい、というのが、俗にいうシニアの特徴だと思います。 健康状態というのもあるでしょうが、ばらつきが大きいですね。資産形成をしてこられたり、様々なライフスタイルにチャレンジされてきたりというのもまた、シニアの特徴だと思います。
この辺りが若い人たちとの違いで、シニアの方は、すごく多様性があるので、お客様の嗜好に合わせてどういったスタイルがあっているかマッピングを行っていますが、すごくバラバラになります。
その為、多彩なバリエーションに無造作に当てはめるのではなく、ストーリー性を持って接客していかないとご満足していただけない。多様性に柔軟に答えていかないといけないのが若い人と違うところだと思います。
また、物事をよく理解されているというか「このカテゴリーの商品は銀座まで行って買わなくてもいいんじゃない?」「こういうのは近場でも買えるよね?」という判断があったり、やはり近隣であることのメリットが良くお分かりになっておられる方が多いので、比較的地域に密着したビジネスの有効性が高まると考えています。
Q.「グラスアップ」の事業内容について教えてください。
65歳の方をメインターゲットとした眼鏡店でありますので、お客様がより楽しんで満足して買い物されることを考えています。
お店の立地によって、コンセプトを少しずつ変えています。こちらの店舗は、路面店で都心に位置しているので、品揃えも接客もそれに合うようにしています。 総合スーパーの中にある店舗は、もっと簡素でフレンドリーで価格帯の低いものを扱っていたりはします「メインターゲットが65歳」というところは変わりありません。
Q.競合や類似サービスとの違いはいかがでしょうか?
「丁寧に接客すること」が当たり前ですが、とても大事だと思っています。 シニアになってくると、メガネを掛けざるを得なくなってきますが、メガネで顔の印象はすごく変わるので、お客さま個々人、ご自身の魅力をもっと引き出してあげられるようなフレームをご提案することを心掛けております。
接客をさしていただいて感じるのは、65歳を過ぎると男性の場合、見た目のデザイン以上にレンズやフレームの機能性にとくに注目される方が多いという傾向に対して、女性の場合は、見た目のデザインや、ご自身にお似合いになられるかということに対して、より一層気を使う方が大変多いと感じます。
また、初めは、メインはシニア市場だからこのような手法で運営しようとか考えていましたけど、どちらかというとそれぞれの方が「素直に欲しいものを買う」傾向があるので、その方々が望まれるご提供方法で接客するようにしています。そのほうが業績も良くなりますね。(笑)
Q.商品開発で苦労したことはどのような点でしょうか?
これは、グラスアップのオリジナルフレームなのですが「ガルウイングフレーム」といって「世界初のレンズ跳ね上げ可動方式」を採用しています。
片手で簡単に跳ね上げることができるようになっています。アクションが面白いだけではなく、従来の跳ね上げフレームと違い、レンズ面を触ることなくレンズを上下させることができます。 こちらのフレーム枠は老眼の人向けなのですが、「ブロー」と呼ばれる形状で、最近の若い人に人気の形です。いつまでもオシャレでカッコよく老眼を楽しんでもらいたいと考えて作りました。
眼鏡店がオリジナルフレームを作るのは珍しくないのですが、オリジナルの開発方針を「老眼世代が使いやすく、不満を解決すること」を中心に考えてやってるところは少ないと思います。
Q.地域に対してどのような展開を考えていますか?
冒頭にお話しした通り、グループ戦略として、「アジアシフト」「都市シフト」「シニアシフト」「デジタルシフト」の4シフトを掲げていますが、「シニアシフト」、「都市シフト」を考えると、東京近郊と大阪近郊の店を出来れば増やしたいと思っています。
しっかりとした接客で常連客を増やすためには、車で来るようなSCとは違い、どうしても商圏エリアが狭くなってしまいます。となるとビジネスとして成り立たせるためには、人口密度の高い所で展開していかないといけないと考えています。
Q.スタッフ教育・育成についてどのようなことを行っていますか?
マニュアルはたくさん作っています。それをチェックする仕組みもあって、達成基準をクリアしていくという仕組みになっています。お店によっては、未経験者を含めたパートの方もいます。機器の取り扱いなど難しいものもあるので、マニュアルには力を入れて分かり易く作っています。
社内には「メガネアドバイザー」という検定資格もありますし、初心者の方を早期育成し、実際に戦力として販売に従事できるようになる、というところが我々の強みだと思います。 マニュアルは、検査、加工だけではなく、最近はさらに接客を重視したものに改訂を進めています。特にシニア層のお客様は接客対応を大事にされる方が多いので、そこを強化しようと考えています。
イオンは、ずっとセルフサービスで育ってきた会社なので、接客が重要なのはわかっているのですが、なかなか難しい部分でもあります。競合他社から見れば普通のことかもしれませんが、しっかり先行企業様からも学び続けて行きたいと考えております。
Q.メガネ市場の今後の展開と将来像をどのように考えていらっしゃいますか?
この事業を始めた時からずっと言っていたのは、40歳以上の人は割合としてだけじゃなく、数として増えていく、という事です。老眼の人も間違いなく増えるので、老眼のメガネ需要も増えていきますよね。
また、年代によってメガネの値段は上がっていくんです。 理由は2つあって、レンズが遠近両用になって高機能なレンズじゃないとよく見えなくなるのと、フレームに関してはちょっといいメガネをしたい、という欲求が上がってきます。 例えば、65歳を超えて、絶対メガネをかけたくないと思っていた女性が、実際にメガネをかけざるをえなくなった時には「だったら、すごく美しくなるメガネがしたい」となるわけです。
そういった方が今後も増えるので、メガネのニーズはここ5年、10年は成長市場でありましたが、これからももっと伸びるのは間違いないと思います。
商品は多様化しているので、ネットでも検索できるのですが、「そういうのは好きじゃない」というシニアのお客様も多いと思います。「お店から自分に合うメガネを勧めてほしい」という方も多いので、その気持ちをしっかり読み取って、お客様に最適なご提案をすることが大事にしています。
メガネ 補聴器 レンズ交換 Glass-Up(グラスアップ)
https://www.glass-up.com/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
お客様の声から生まれた
シニアのための婚活サイト
株式会社エクシオジャパン 取締役 宮島 秀樹氏
株式会社エクシオジャパン 広報部 婚活アドバイザー 北川 志穂氏
婚活サイト動員数NO.1企業*のエクシオジャパン。人間はいくつになっても恋愛はしたいもの。お客様の声からシニアに特化した婚活サイト「シニア婚活」についてお話をお伺いしました。*東京工商リサーチ調べ
2017年3月取材

Q.“シニア婚活”の事業内容と経緯を教えてください。
50歳以上の方向けに婚活パーティーを開催しています。当初、若者向け婚活パーティーを開催していたなかで、シニア層の方々からシニア向けの婚活パーティーを開催して欲しいとの声が集まりまして、2008年より首都圏で開催したのが始まりです。初めは首都圏のみでの開催でしたが、地方の方々から各地での開催を求める声が挙がり現在では月に1、2回程度47都道府県で開催しています。
パーティーの流れは、男女約15人ずつで集まって頂き、1対1の会話を約5分間ローテーションで行います。全員の異性の方と話して頂き、カップルになっても良いかなと思う方の番号を書きマッチングすればカップル成立となります。
当社の若者向け婚活パーティーは約150のカテゴリ分けをしており、年収、年齢や趣味などで分けていますが、シニア向け婚活パーティーは、あまりカテゴライズしてしまうと母数が少なくなってしまうので特にカテゴライズはせず、男女共に参加条件として「独身、社会人(収入がある)の方」としています。
シニア婚活は、ネットからのお申し込みがほとんどですが、ネットが得意でない方には婚活のスケジュールを郵送し電話での予約にも対応しております。サイトは登録制ではないのでお申し込みは都度、ご自身で調べてご連絡をいただいています。お友達に誘われて参加する方も多く、また、ご自身のお子様の薦めで参加される方も増えています。
最近では“シニア婚活”という言葉自体が世間でもよう耳にするようになりましたが、実際に、シニア婚活を取り上げる番組も増えてきており、テレビ番組の取材を受ける件数も増えてきています。

Q.御社の考えるシニアの定義とは何でしょうか?
当社の考える定義は、シニア婚活でお申し込みができる”社会人で独身”の50歳以上の男女になりますね。メインのターゲットとして今後、獲得していきたいのは60歳〜70歳の男女です。特に年齢の制限は設けてないので80歳の方でも”社会人で独身”であればご参加頂いています。
Q. ターゲットがシニアだからこそ、工夫していることは何かありますか?
そうですね、サイトや配布物の文字のフォントは若い方より大きくしています。またパーティーの説明やアナウンスも、よりはっきり、ゆっくりと話すことを心がけております。一連の流れもシニア婚活はわかりやすくしています。
Q. シニアマーケットをどのように捉えていますか?
今後も更に発展していく可能性のあるマーケットだと考えています。まだまだシニア婚活は認知度が足りないので、どのように認知してもらい活用してもらうかが重要になると考えています。ただ、プロモーションは媒体選定など非常に難しいと感じています。
行政や福祉センターの行っている婚活サイトとの差別化をどのようにしていくかが課題です。やはり行政の行っているものは安心感がありますので…。
Q.競合他社との違いや強み差別化はいかがでしょうか?

そうですね。バスツアーやクッキングなどパーティーにバリエーションが豊富なのも差別化のひとつです。バスツアー婚活は、地域によってですが2ヶ月に1回の頻度で行っています。日帰り旅行のバスツアーに婚活の要素を組み込んでいるのですが、約半日になるので通常の婚活パーティーより長く一緒にいることが出来ます。1対1での会話もありますが昼食を一緒に取って頂いたり、例えばイチゴ狩りに一緒に参加して頂いたりと通常の婚活パーティーより仲を深めることが出来ます。
ありがたいことに婚活パーティーの中では、弊社が総動員数NO.1*の称号を頂いております。また、全国47都道府県で開催しておりますので基盤となるオペレーションが徹底されていることも強みのひとつです。全国で同じマニュアル、進行で統一しているので、「何処の会場でも安心して参加できます」というお声も実際に多く頂いております。
競合他社ではありませんが関連業界との違いも明確にしています。交流会やサークルなどでは集まった仲間の中で恋愛に発展していくかと思いますが、当社の場合は“恋をしたい”という思いを大切にしています。
人間いくつになっても“恋をしたい”と思うもの、友だち作りではなく“恋をしたい”と思う方々が集まっていることも差別化している内のひとつです。実際に参加されるお客様の中には将来を見据え、いずれ引越しの予定があるので現在住んでいるエリアとは違うエリアでパーティーに参加する方もいます。*東京工商リサーチ調べ
Q. スタッフの教育で気をつけられていることはありますか?
お客様により安心して婚活パーティーに参加して頂くために、全国で同一レベルのサービスを提供するということを徹底しております。アルバイトから社員まで、入社時にパーティー進行役のオペレーション(A4用紙で約10枚)を、一語一句間違えずに暗記するというテストがございます。何度か間違えると入社できません。こういったテストで同一のサービスを常に提供できるようにしています。
Q. どのような婚活パーティーが人気ですか?
やはり婚活バスツアーが一番人気ですね。四季を感じられるバスツアーでは会話も弾みますし、パワースポットで今後の縁結びの祈願など婚活に適したバスツアーを企画しています。お相手の方と会話をしながら目的地へ向かうので、距離感を縮めやすくカップル率も高くなっています。また、会話に困ってしまう方でも、行先があることで話題作りにそれほど困らずに会話を楽しめます。単独の参加者が8割と圧倒的に多いですが、グループで来られた場合でも固まらないよう、なるべくこちらでグループを分け、男女2名2名で散策などもしてもらっています。通常のパーティーよりもカジュアルなスタイルで参加して頂ける分、実際に「最初は戸惑いましたが、次第に楽しくなって、ツアーが終わるころには誘った友人に感謝するほど。楽しい時間を一緒に過ごしてくれた女性と、今は連絡を取り合う仲になりました。」(50代男性)というお声も頂いています。
Q. 今後の展開として、将来像をどのように考えていらっしゃいますか?
先ほども簡単お話ししましたが、シニア婚活は、まだまだ認知度が足りないなと感じています。60代~80代の方にもっと認知して頂き、現在用意しているパーティーは15対15ですが、25対25とより参加者を増やしていければと考えています。
また、バスツアーやクッキングなど婚活パーティーのバリエーションをもっと増やしていきたいと思います。
「婚活パーティーエクシオ」 ホームページ https://www.exeo-japan.co.jp/
「シニア婚活」 ホームページ http://www.senior-mariage.com/
株式会社エクシオジャパン ホームページ http://www.exeojapan.com/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
少子高齢化社会からうまれた、
より多くの人が使えることを目指した
三菱電機のユニバーサルデザイン
「らく楽アシスト」
リビング・デジタルメディア技術部 坂田理彦博士
リビング・デジタルメディア事業本部 家電映情事業部 香内由美子氏
“より多くの人が使いやすい”と感じる家電商品の開発に力を入れている三菱電機。今、全商品がユニバーサルデザインになることをめざし、会社の本部方針として取り組んでいます。大手家電メーカーとして第一線を走るだけでなく、三菱電機がどのようにして高齢者対策も含めたユニバーサルデザインを牽引する会社になったのか、何故ユニバーサルデザインに力を入れてきたのか、どのような取り組みをされているのかなど、幅広くお話を伺いしました。
2017年2月取材

Q. ユニバーサルデザインをどう定義していますか
当社ではユニバーサルデザインを“らく楽アシスト”と呼んでいます。「らく楽アシスト」では、子どもから高齢者、また身体の不自由な人までできるだけ多くの人があん心して、らくに、楽しく使えるデザインを通じて「暮らしのクオリティ向上」を目指しています。また現在、「あしたを、暮らしやすく。SMART QUALITY」をブランド戦略に掲げ、少子高齢化など社会全体の課題と向き合いながら、できるだけ多くの方が使えることを基本にして製品を作っています。
“らく楽アシスト”の視点は大きく分けて3つあります。
1点目は「Easy to Use=らくに使える」。これは一般的にいわれるユニバーサルデザイン、身体への負担を減らし使いやすさをアシストします。
2点目は「Safe to Use=あん心して使える」。三菱電機の安全基準は非常に高く、通常の法規制よりも当社の安全基準のほうが厳しい場合が多々あります。
これら「Easy to Use」、「Safe to Use」の二つの視点はマイナスをゼロにする取り組みですが、3点目はゼロをプラスにする取り組み「Fun to Use=楽しく使える」です。これは、製品を使うことで、使うことの楽しさをアシスト、使う時の心地よさをアシスト、また使う人のレベルアップをアシストする視点です。先程の「Easy to Use」、「Safe to Use」は従来から着々と実施している取組みであり、ある程度満足している製品が多いため、今後はこの「Fun to Use=楽しく使える」の視点をできるだけ多く盛込みたいと思っています。
「Fun to Use=楽しく使える」の中でも最も必要性を感じている視点は“使う人のレベルアップをアシスト”です。人と製品の理想的な関係は、使い込んでいくうちに、人も製品も学習し、賢くなったり、レベルアップすることだと考えています。
例えば、料理は段取りを必要とするパラレル作業で、高度な認知活動と捉える事ができます。つまり、複数の献立を朝食や夕食の時間までに同時に仕上げる必要があります。作業工程や効率を考える事で頭を使い認知能力の維持に役立ちますし、キッチンを動き回る事で身体能力の維持にも役立ちます。
安全でかんたんに使いこなせる調理製品であれば、高齢者でも料理をし続けることを促すことが出来ますし、料理が不得意な若い主婦でも、かんたんに料理が出来れば、いつもと同じシンプルな料理からちょっと手の込んだ料理へトライしようという意欲を促すことができ、自然にレシピのレパートリーが増え、調理上手になるかもしれません。
当社のIHクッキングヒーター,レンジグリル,ジャー炊飯器,冷蔵庫等のキッチン製品は、安全性はもちろん、操作が簡単で誰でも迷わず料理を行うことが出来、ユーザー自身の料理の腕もレベルアップすることを目指しています。
Q. 「らく楽アシスト」導入の歴史をお伺いしても良いでしょうか
世界的には1970年代に“バリアフリー”、80年代にかけては誰でも使える“ユニバーサルデザイン”が提唱されてきました。当社でも研究所や個々の製品開発の中では同様の時期から取り組んできましたが、本部方針として組織的なユニバーサルデザイン活動を開始したのは2005年にブランド戦略「ユニ&エコ」を立ち上げたときからです。
当初は超高齢化社会に対応するため、高齢者配慮に重点を置いていましたが、2008年にブランド戦略を「ユニ&エコチェンジ!」に変更したタイミングで少子高齢化の視点から、対象を「子どもから高齢者の方々」に広げました。2010年からは三菱ユニバーサルデザインの名称を「らく楽アシスト」として活動を強化しています。
Q. 社内での教育やスタッフ育成で取り組まれていることはありますか

社内では、年に数回、基礎講座(e-ラーニング)が開催されユニバーサルデザインの基本事項やデザインのコツを共有し、製品の使いやすさの向上を目指しています。
そのほか高齢者や車いすの疑似体験、ユーザー評価の実践講座などもあり、三菱電機グループ全社員を対象にしています。実際に私(坂田)が講師として登壇していたこともあります。
また、社外の大学や専門学校から特別講師としてお招き頂き、ユニバーサルデザイン及び三菱ユニバーサルデザイン「らく楽アシスト」の取り組みなどを講義することで、将来の日本のデザイナーを育成するお手伝いにも努めています。
Q. ユニバーサルデザインで考えるシニアの定義は何ですか
一般的にシニア(高齢者)は65歳以上と言われますが、らく楽アシストでは”60歳の方が定年退職をして10年後にも使える商品を提供しよう”ということを目指しています。その為、ユニバーサルデザインの社内ガイドラインの基準値は70歳以上に設定しています。
Q. シニアに対する取り組みは何かされていますか
そうですね。1人、2人世帯が増え、高齢者の人口が増えていることから、そういった方々を対象にした商品の情報を改めて発信する必要があると考え、当社の生活お役立ちサイト「Club Mitsubishi Electric」上で“三菱大人家電”を立ち上げました。ターゲットとしては高齢者の方を含む大人世代(予備軍も含めた50歳以上の方)で考えています。
三菱大人家電は、大人世代の方々が家電量販店で自身に合う商品を見つけ出すことは難しいのではないか、よりスムーズに商品を訴求できるキッカケはないのかと考え2015年8月から発信を始めました。サイト内では、三菱電機の家電の中から厳選した10製品を掲載し、よくある高齢の方からのお悩み相談を紹介しています。
実際に当社のお客さま相談センターにも高齢の方からの声が増えています。一例ですが「夫婦2人。現在1合~1.5合でお米を炊いているがおいしく炊けない。三菱のものでおいしく炊けるものを教えてください。(80代男性)」 「コンロをガスからIHに買い換えたいがどの製品を選んだら良いかわからないので教えてください。(70代女性)」等、実際にこのような相談が入ってきています。
“これからの暮らしにちょうどいい大きさ。カンタンに操作できて、使い勝手に優れたもの。そして、上質な暮らしにふさわしい暮らしを快適にしてくれる機能が充実したもの。”をモットーに長年家電を見てきた方々に対し三菱の家電を使うことで暮らしを豊かにしてもらいたいと思っております。そのような思いから三菱大人家電を提案しています。

Q. 今後「らく楽アシスト」をどう展開していきたいと考えていますか
日本の少子高齢化は深刻であり、世界は日本の対応を見ていると思います。少子高齢化のソリューションを提供するのは日本の使命であり、電機メーカーの中では当社がリーディングカンパニーとして引っ張っていくべきと思っています。そのために今後もできるだけ多くの人に使いやすく、やさしい商品の開発を愚直に継続、強化していくつもりです。
商品力、市場における認知力ともにまだまだですが、近い将来、電気屋さんでお客様から「どの商品が使いやすいですか?」と聞かれたときに、店員さんがすぐに「三菱電機」を想起していただくよう、今後も活動を続けるつもりです。
そして、少子高齢化対応において三菱電機が世界のリーディングカンパニーになることを目指します。
三菱電機株式会社
http://www.mitsubishielectric.co.jp/
SMART QUALITY(スマートクオリティ)CONCEPT(らく楽アシスト)
http://www.mitsubishielectric.co.jp/sq/assist/rakuraku/
生活お役立ちサイト「Club Mitsubishi Electric」
http://www.mitsubishielectric.co.jp/club-me/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
乳幼児用紙おむつの研究開発から生まれた
高齢者向け歩行解析装置
開発研究第2セクター パーソナルヘルスケア研究所
仁木佳文氏 須藤元喜氏
乳幼児から高齢者まで膨大な歩行データを収集し、研究を重ねてきたパーソナルヘルスケア研究所。今回は、わずかな距離を歩行するだけで個人の歩行の特徴が測定出来る装置「ヘルスウォーク」と、高齢者の歩行を支援する「ホコタッチ」、そして高齢者が積極的に外出するきっかけとなっている「ホコタッチスポット」についてお話をお伺い致しました。
2016年10月取材

Q. シニア向け歩行解析装置を開発した経緯について教えて下さい
当社は乳幼児用紙おむつの開発を通して、数多くの乳幼児の歩行パターンを研究してきましたが、その歩行解析のノウハウを高齢者にも当てはめる事が出来ないだろうか、また、高齢者の歩行を支援する方向にも使えないだろうかと考え、歩行パターンが解析できるシステムを開発する事になりました。
しかしながら、歩行の特徴は様々で、平均値などのデータをまとめていくことは決して容易ではありません。その為、まずはより多くの歩行データを収集する為、乳幼児から高齢者まで一万人以上の歩行データを収集し、それらの分析を進めていくことにしました。
分析を進めていく中で、高齢者の歩行を細かく解析していくと、健康維持の為には、歩数や歩行時間(量)だけではなく、歩行速度や歩き方(質)も重要であるという事が、だんだんとわかってきました。
また、歩行パターンの解析データは、ただ数値化したものではなく、高齢者がわかりやすいように「可視化」できるように開発を進め、高齢者の歩行の量と質を向上させることを目的とした、わかりやすい独自の歩行支援プログラムが開発され、「ヘルスウォーク」が誕生したのです。

このヘルスウォークは、各地の商業施設や高齢者施設などで実施している測定会でご利用頂く事が出来ますので、まずは多くの方に興味を持っていただき、歩行に対して関心をもってもらえたらと思っています。また、普段の高齢者の生活の中でも、手軽に歩行を計測出来るようにしたいと考えていましたので、コンパクトサイズの「ホコタッチ」という健康サービスも開始致しました。

ホコタッチは、独自の分析手法から日常生活における歩数、歩行速度、そして生活に応じた「歩行生活年齢」などの指標を提示してくれる特徴がありますが、これらの結果は「ホコタッチスポット(データの読み取り場所)」で、専用シートを印刷して結果を確認する事が出来るのです。また、装着して普段歩いていると歩行計内にどんどんデータが蓄積されていくのですが、ホコタッチスポットでの最終通信時から30日以上経過すると画面にTOUCHと表示され、歩数が非表示となりますので、ホコタッチスポットに行くタイミングをお知らせしてくれます。
一見、不便に思われるかもしれませんが、わざわざホコタッチスポットに出向かなければならない機能やWEBやスマホを使わないようにしているのは、実は当初から考えていた事です。このような設定により、高齢者が外出するきっかけとなりますし、皆さんがホコタッチスポットに集まることにより高齢者同士のコミュニケーションがうまれるのです。
ちなみに、ホコタッチスポットは、パソコンとプリンタが設置可能な屋内であればどんな場所でも大丈夫です。ホコタッチユーザーは、ホコタッチを専用リーダーにかざすだけで簡単に結果シートが出力できますので、高齢者にも大変使いやすくなっています。
Q. 研究開発の際、特にご苦労された点について教えて下さい
乳幼児の歩行は「成長」に向かっている段階なので、比較的データを解析しやすいのですが、高齢者の歩行は、今までの生活や体の老化などが原因となり、バリエーションがより増えてしまう為、解析するのが非常に困難でした。また、データを取得する段階でも、高齢者が転倒しないか、怪我をしないかなど、お一人お一人をケアしながら、十分に注意をして作業を進めていく必要がありました。
更に、取得したデータをどのような特徴としてフィードバックするか、指標に対して高齢者にどのように説明すればわかりやすいのか、なども苦労した点です。
例えば、膝に痛みがある高齢者は多いのですが、それが普段の歩行とどのように関係しているのか、今後はどのようにすれば良いのかなど、出てきた数字を元に説明し、アドバイスをする事は決して簡単な事ではありませんでした。しかし、歩行データにはどのような意味があるのかなどの価値観を伝えて理解してもらう事が大切ですので、出来る限りお一人お一人丁寧に対応致しました。
Q. 導入実績などを教えて下さい
愛知県高浜市で行われている取り組みをご紹介したいと思います。高浜市は人口が約47,000人で、2013年度から「健康自生地」という仕組みをスタートさせています。何歳になっても自分らしく生きがいをもって、可能な限り介護を必要としない暮らしを続けてもらうために、家に閉じこもらずに自ら出かけたくなる場所、仲間と触れ合える居場所を「健康自生地」と設定して、このような場所を市内に増やす取り組みを積極的に行っているのです。
健康自生地は、商店や飲食店、公共施設など高齢者同士のコミュニケーションが取れる場所にしていますが、そこではポイントがもらえるアクティビティを実施したり、賞品が当たる抽選会など楽しいイベントを開催したりしています。
現在、日本国内では多くの自治体が高齢化の問題と直面していますが、高浜市では積極的にその問題に取り組んでいるのです。
そして、この高浜市で2015年9月から国立研究開発法人国立長寿医療研究センター島田裕之予防老年学研究部長と花王と高浜市の協働プロジェクトを開催し、採血検査や体組成、筋力に加えて、認知機能の測定及び歩行機能の計測を行っています。
特に、歩行機能に関しては、ヘルスウォークを使って計測、解析を行っており、高齢者が積極的に外出して歩くことをサポートする仕組みを提供しています。
また、健康自生地にはホコタッチスポットを設置して、歩行計を持っている高齢者が、より積極的に健康自生地に出かけられるようにしました。その為、高齢者の外出機会が増えて、多くの方が意識的に歩くようになり、また飲食店などの健康自生地には高齢者の来店客が増え、町全体が活性化しています。
このように、ホコタッチは歩行の質を高めるだけでなく、高齢者の社会参加を後押しして、心身両面から認知症や介護の予防に役立たっており、更には町の活性化にも寄与させて頂けることは大変喜ばしく思っています。今後もこのような場所を全国各地に広げていきたいと考えています。
Q. ご利用者の反応はいかがでしょうか
高浜市などの自治体以外にも、ヘルスウォークによる歩行測定会は全国各地で行っていますが、毎回とても好評です。測定結果で歩行年齢などが表示されますので、「若くなるにはどうすれば良いの?」「もっと健康になりたい」などという前向きなご質問も多くあります。
また、測定会は不定期で開催しているのですが、測定後に参加者の方から「次はどこで開催するのですか?」などと興味をもってもらうことも多々あります。
ホコタッチのご利用者も、ホコタッチスポットでは人とのつながりが自然とうまれますし、歩行という楽しみが増えて、ホコタッチが共通の話題になっている事も多いようです。また、普通の活動計だとそのまま継続して使えると思いますが、ホコタッチの場合、定期的にホコタッチスポットに行かなければなりませんので、それが外出するきっかけとなり、ご利用者からも「ホコタッチスポットでの対話が嬉しい」、「積極的に歩く事が増えた」などという反応もあります。また、ニックネームで順位が表示されますので、楽しみながら健康にも興味をもってもらい頑張っている高齢者が多くいらっしゃいます。
ホコタッチの結果シートでは、歩行速度や歩数などの活動結果がわかりやすく数値で表示され、更に総合的にそれらを4段階で評価します。その他、活動カレンダーや活動タイプが印字されますので、日常歩行の振り返りができます。ご利用者からも「ホコタッチシートがわかりやすい」、「自分にあった歩数や速度がわかった」などの声もあり、高く評価して頂いています。

Q. 今後の事業展開について教えて下さい
今後も全国各地での歩行測定会を通じて、多くの高齢者に歩行への興味をもってもらいたいと思っています。また、より多くの高齢者施設や高齢者が集まる場所に導入し、各自治体や企業にも積極的に活用してもらいたいと思っています。
更に、海外の方にもご利用頂けるような機能も今後は必要だと考えています。日本と海外では、体型だけでなく、歩く環境や歩き方なども違いますので、クリアしなければならない問題や未知な部分など課題も多くありますが、是非チャレンジしていきたいと思います。
また、歩行装置そのものをより簡便化する事も必要だと考えています。例えば、今は靴を脱ぐ必要があるのですが、靴を脱がなくても計測できるようにすることや、歩行したら瞬時に結果が出るなど、より気軽に計測できるようにしたいです。また、簡便化とは逆の発想になってしまいますが、より深いデータをフィードバックしていくことも重要だと考えています。
更には、何か楽しみながら歩行が出来るような仕組みも取り入れて、より多くの高齢者に興味をもってもらい、意識的に歩くことにより高齢者の外出機会が増え、コミュニティが更に活発になるようにサポートしていきたいです。
花王株式会社 http://www.kao.com/jp/
食と健康ナビTOP http://health-food-bev.kao.com/
歩行測定記事 http://health-food-bev.kao.com/movablebody/1016/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
50代以上の留学プログラム『大人の留学』
代表取締役副社長 加藤 ゆかり氏
創業から45年もの間、国内最大級の約20万人もの留学生に選ばれ続けている留学エージェント「留学ジャーナル」。2016年には、アジア最優秀留学エージェント(ST Star Agency Asia)に選ばれ、雑誌『留学ジャーナル』の発行を始めとして、留学に関する様々なサービスを展開していますが、今回は、シニア向けの留学プログラム『大人の留学』についてお話をお聞きしました。
2016年11月取材

Q. シニアマーケットに取り組むきっかけと貴社が考えるシニアの定義について教えて下さい
年配のお客様から「私の年齢で留学出来るプログラムはありますか?」などのお問合せは、以前からたくさん頂いておりました。どうしても、留学は「学生が行くもの」というイメージが強かったからだと思いますが、留学を「旅行の延長」くらいに考えてもらいたいと思い、どの年齢でもチャレンジできるものにしようと取り組みを始めました。また、媒体の進歩もあり、シニアにアプローチしやすくなっている事もきっかけの一つとなりました。
取り組み始めた当初は、「45歳以上」をアクティブシニアと定義していたのですが、その年齢だとまだまだ若い方が多く、シニアとは呼べないと感じました。一方、海外の語学学校では、30歳以上・40歳以上・50歳以上の限定クラスというように、年齢制限を設けているプログラムがあり、その中でも一般的にシニア向け留学プログラムとして提供されているのが「50歳以上のプログラム」です。その為、現在では50歳以上の方をシニアと定義し、パンフレットやホームページなどでご紹介していますが、実際は年齢を強く意識しているわけではなく、どの年齢でもどんどん留学にチャレンジしてもらいたいと考えています。
Q. シニア向け留学プログラム「大人の留学」の特徴を教えて下さい
シニアのお問合せは、以前からありましたが、その際は、通常の留学プログラムをご紹介していました。しかし、もっと多くの方に、そしてシニアの方でも気軽に留学するきっかけをご提供したいと考え、シニア向けの留学プログラムを「大人の留学」と名付けてリリースしました。ホームページやパンフレットなども、デザインを落ち着いたテイストにし、更に「大人」と表現することにより、留学を身近に感じて頂きやすくなったようで、お問合せ件数も大変増えています。
中でも、海外の語学学校に通いながら、現地の一般家庭にホームステイするプログラムは、若い方と同様にシニアにも人気があります。また、留学先では「イギリス」が人気です。文化を学びたいとか、若い頃に憧れた風景や音楽を肌で感じたいとか、交通の便など動きやすさのご希望条件を考えますと、こちらからもイギリスをおすすめする事が多くなります。また、最近では「マルタ島」もとても人気があります。メディアでも度々紹介されていますし、地中海のリゾート暮らしに憧れる方も多いようです。
今の50代、60代のみなさんが学生の頃は、英語の授業が普通にあったと思います。学生時代にどの位英語を勉強してきたかにもよるのですが、最終学歴が大卒というシニアも多いので、基本的な英語を勉強してきた方であれば、3ヶ月も海外で生活をしたら、それほど生活に困らなくなると思います。是非多くの方に「大人の留学」にチャレンジしてもらいたいと願っています。

Q. シニアの対応で気を付けている部分などはございますか
年齢に関わらず、「常にお客様目線にたって考え、対応する」という事を一番大切にしています。留学は、決して安い金額のものではありませんので、期待もそれなりに高くなります。その期待にしっかりと応えられるように、お客様の目線で物事を考え行動しています。ただ、シニアの方から見ると、自分の子供や孫のようなスタッフが関わる場合もあるわけですから、丁寧な言葉づかいや接遇などができるように、営業スタッフのみならず、他の全スタッフにも研修を行っています。

また、旅行の場合は、滞在するホテルがオーシャンビューだとか、交通の便が良いとか、選んだ条件がその方の希望通りであるかどうかは明確です。しかし、ホームステイとなると、人と人の相性もあり、Aさんが良いと評価したホームステイ先をBさんが悪く評価するなど望む条件に完璧に沿うかどうかは難しい部分があります。ホテルのように、部屋を変えればいいという単純なものではありません。また、ホームステイもお金を支払って泊めていただいているとはいえ、見知らぬ外国人を滞在させてくれていることに感謝の気持ちを持つことも大切です。
異文化の中で、思い通りにならないことも経験していただくのが「留学」ですから、留学プログラムの内容に関しては、誤解の無いようご理解いただけるように丁寧に説明をしています。その為、シニアのお客様への対応は、ある程度経験を積んだ留学カウンセラーが担当するようにしています。
Q. シニアマーケットをどのように捉えていますか
留学は、一生のキャリアの中の一過程であり、一生の中でいつ行っても良いと考えてiいます。自分の人生を豊かにする、子供の頃のあこがれや夢を実現するということがシニア留学の目的にはあると私たちは思っています。実際に、留学したシニアのお客様は、ビジネスで必要というよりも、自分の学生時代には資金的制約があり行けなかった、もしくは、行けないと思い込んでいた方々が多いです。大人になって今度は、仕事や家庭が忙しくなって時間がなくなった。そうした方々がシニア世代になり、時間とお金に余裕が出てきた今、「自分でも留学に行けるんだ」と興味をもつようになったり、海外に住んでみたいと考えたりするなど、潜在的なマーケットはかなり大きいと思っています。
Q. 競合や類似サービスとの違いはございますか
お客様が考えている「自分の海外体験像」のイメージに近いものを、いかに現実として提供できるかが重要ですので、その為に必要な情報量、リサーチ力、海外ネットワークなどを持っているのが他社との違いかと思います。そのあたりは、提案力が勝負だと思っていますし、その点にも自信があります。
また、雑誌『留学ジャーナル』は雑誌として存在するので、商品ラインナップのパンフレットとは異なり、よりリアルな部分をお伝えすることができていると思います。また、雑誌として書店に並んでいるので、英語の勉強をしたいと思って書店に行った時や図書館で『留学ジャーナル』を手に取ってもらえれば、シニア世代を含めた留学生の体験談なども載っていますから、留学に興味をもって頂きやすいと思います。その為、媒体を持っているということが一番の強みだと思っております。

Q. 今後の展開をどのように考えていますか
当社の親会社は、英会話のイーオンですが、趣味で英会話を習っているようなシニアの方々に、一つの経験として海外留学にもチャレンジして頂けたら嬉しいです。外国の方と日常的にお話しをしたり、外国で様々な体験をしたりして、綺麗な英語だけではなく多様な文化なども学んで頂きたいと思っています。
また、シニアの方々が「留学を経験して良かった」と思って頂ければ、その子供や孫世代にも留学の魅力が伝わっていくと思います。早い時期に留学という選択肢がある事を分かっていたり、その成果が分かっていたりすると、もっと若い時代に行けたらより豊かな人生につながったのではないか、と感じると思います。
シニアの方が、留学に行って終わりではなくて、留学の魅力を次の世代に伝えてくれるように、プログラムやサービスの質を更に向上していきたいと思います。

株式会社 留学ジャーナルホームページ
http://www.ryugaku.co.jp/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
0歳から一生涯の健康づくりに貢献する
執行役員 介護予防事業部長 相川正男氏
介護予防事業部シニアマネージャー 大東俊彦氏
経営企画室マネージャー 平山智志氏
スポーツ健康産業のパイオニアである「セントラルスポーツ株式会社」。1969年に「世界に通用する選手を育てる」という目標を掲げて開校された水泳教室と体操教室に端を発する「スクール事業」からその歴史はスタートしました。その後も「フィットネス事業」、「レジャー関連事業」と様々な事業を展開してきましたが、今回はスポーツクラブのパイオニアだからできる「介護予防サポート事業」に関してお話しをお聞きしました。
2016年10月取材

Q.介護予防サポート事業を始めた経緯と内容について教えて下さい
当社として「介護予防事業部」を立ち上げる以前より、民間の老人ホームから「インストラクターを派遣してくれないか」というお声はいただいており、できる限り対応していました。その後、2005 年に(地独)東京都健康長寿医療センターから「介護予防運動指導員」の育成事業に協力してもらえないかと、当社にお声がかかったことがきっかけとなり、この事業を開始する事になりました。
当時、当社のフィットネスクラブの会員様で高齢の方の割合がどんどん増えてきたことで、「高齢者の運動指導に対する知識をもっと深めたい」というスタッフが多くいたこと、また、デイサービスや高齢者施設で働いている介護福祉士やヘルパーの方々で「科学的根拠に基づく適切な運動指導のノウハウを学びたい」という方も多くいたことから、まずはこのような人達に資格を取ってもらおうと考え、「介護予防運動指導員養成講座」を開催し、介護予防スタッフのための教育や人材育成に力を入れていきました。
現在、介護予防運動指導員は全国に約3 万人になりますが、その内当社主催の養成講座卒業生は約6千人います。また、毎年全体で約2 千人が資格を取得されていますが、その内約700~800 人が当社で養成した資格取得者となります。ただ、当社では資格取得だけが目的ではなく、実際に現場で働いてもらうことを意識していますので、資格を取得したら当社にお仕事登録をしてもらい、定期的に研修を行った上で、介護予防運動指導員として活躍して頂いています。
実際に、地方自治体で実施される介護予防事業には、現地に近い登録スタッフが教室の運営を担当したり、最寄りに当社のクラブがあればそのクラブに所属する有資格者を出張させています。また、老人ホームなどで実施しているプログラムでは、食堂などに椅子を並べて、車いすの方や認知症の方も含めてみんなで運動などのアクティビティをしています。普段はほとんど反応のない認知症の方が、体をピクっと動かすこともあり、施設の方やご家族の方に大変喜ばれています。
今では、その施設も200 以上になりますが、今後は老人ホームだけでなく、デイサービスやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などにも広げていきたいと考えています。
Q.「シニア」をどのように定義されていますか
当社はフィットネスクラブに所属する会員様の年齢構成を10 歳刻みで管理しているということもあり、便宜上「60 歳以上」を「シニア」と設定しています。ただ、実際のところは年齢だけで一律に「シニア」と定義してしまうのは適切ではないと思います。高齢者の中でも体力がある方や無い方、また虚弱な方など体力面でも個人差がありますし、運動するにあたっての目的も様々です。あくまでもその方々の「ニーズ」にあったプログラムをご提供することを大切にしています。
近年、フィットネスクラブの会員様の年齢構成を見ると、最近では50 歳以上、60 歳以上の方の割合が増えてきています。こうした状況下、「60歳以上」と一律にくくるのではなく、アクティブな方には若い方と同じようなプログラムを、体力に自信がない方には、無理のないソフトなプログラムをご用意するなど、ひとりひとりのニーズにお応えできるサービスをご提供しなければならないと考えています。
高齢者の体力をピラミッドで分けますと、スポーツクラブに通う程元気で健康意識が高い「体力エリート高齢者」が一番上にくるのですが、全体的な割合ではごく一部で、その下の、元気ではあるけれど体力低下が懸念される「一次予防」の方の割合がかなり多いのが現状です。またその下には、介護予備軍となる「二次予防」に該当する虚弱な高齢者、更に支援や介護が必要な「介護認定者」と区分されますが、介護予防事業部としては、地域支援事業などを通じて介護予備軍を元気にしていくこと、ボトムアップしていくことが重要だと考え取り組んでいます。
Q.シニアマーケットをどのように捉えていますか。また、シニアに対する貴社としての今後のお取り組み予定があれば教えて下さい
高齢者全体の約80%は元気な方々なのですが、その内の3~5%程度しかスポーツクラブなどの運動施設に通っていないのが現状です。その為、潜在的には高齢者のマーケットはまだまだ拡大の余地があると考えています。最近は、ヨガスタジオや小規模ジムなど、比較的小規模な専門型クラブが増えていますが、当社はフィットネスクラブとしての役割だけではなく、高齢者の方々の社交場の一つとして、総合型クラブならではの特徴を強みとしていきたいと考えています。つまり、ただ運動の場を提供するのではなく、メンバー間で仲間づくりをしてもらい「クラブライフ」を楽しんでもらいたいのです。
例えば、スポーツ以外でも英会話教室、パソコン教室など楽しいアクティビティを通じて高齢者の方に集まってもらえる場を積極的に提供しているクラブもあります。運動による「身体の健康」はもちろんのこと、「心の健康」にも貢献できる場を創造していきたいと考えています。
また、当社は旅行業の資格ももっているのですが、同じクラブに通う仲間と行く日帰りのウォーキングツアーなどは大変人気があります。気軽に参加できて、楽しみながらしっかり体も動かせるので、高齢者の方でも楽しんで頂けるツアーの一つです。
また、毎年12月に開催される「ホノルルマラソンツアー」は27 年間も継続している恒例行事となっており、毎年約800 人の参加があるビックイベントです。フルマラソンというとハードルが高そうなイメージがありますが、実はシニアの方の参加も非常に多いのが特徴です。「一生に一度はフルマラソンを走ってみたい」という想いを持っている方は少なくありません。私たちは、そうした方々の想いを後押しし、感動のゴールへと導くトレーニングをサポートしていきます。ここでもやはり、参加者の皆さんが同じ目標を共有する「仲間」と出会い、一緒にゴールを目指していくことで、時にはつらいトレーニングも乗り越えられるのです。
フルマラソン完走という大きな目標を達成し、仲間と感動を共有しているシニアの方々の姿は、私たちが目指す「0歳から一生涯の健康づくりに貢献する」という企業理念を具現化したものだと思います。

その他、水泳は当社の得意分野ですが、「マスターズ水泳大会」を全国各地で開催しており、こちらも1000人以上の方が参加するビックイベントで毎回盛り上がっています。運動は、そのもの自体、スキルの向上や体力アップなどの達成感がありますが、それに加えて仲間が増えたり、仲間と楽しんだり、モチベーションを維持する為にも定期的なイベント開催はとても大事だと考えています。

Q.地域に根ざした介護予防事業の今後の展開について
体力測定など気軽に参加できるイベントを通じて、まずは運動や健康に興味をもってもらうことが重要だと考えています。また、効果測定をして数値化する、つまり「見える化」することが大切だと思っています。トレーニングは基本的には単調で面白味にかけるものととらえられがちです。その為、様々なデータを元に参加者をサポートし、参加者にあったプログラムをスクリーニングして提供し、運動を継続してもらうことが重要です。
当社はさいたま新都心にデイサービスも運営していますが、ご利用者の多くの方はインターネットなど最近のものにも興味があり意欲も高い方が多いです。例えば、スマホやタブレットを使っての認知機能向上プログラムも大変好評です。さらに、地域に密着した様々なイベントを企画、開催し、高齢者に興味を持ってもらい、より多くの方に健康に対する興味をもってもらえるように努力していきたいと考えています。
また、できれば介護予防事業の参加者が、その後当社クラブにも足を運んでもらえれば、同じような高齢者の方がたくさんいますから、「自分にも出来るかな」という気持ちになってもらい、運動を継続してもらえたら嬉しいです。
Q.プログラム開発で苦労したことや、他社サービスとの違いなどがあれば教えて下さい
当社は1982年に民間で初めてスポーツ科学の研究所をつくり、科学的トレーニングをはじめ、長期にわたってデータ取りや測定などを行ってきました。自社で開発した運動プログラムの効果測定も研究所で検証をおこなっており、安全で効率的で楽しく実施できるプログラムを提供するように努力しています。
また、会員やインストラクターとのコミュニケーションの取りやすさも当社の特徴です。フィットネスクラブに入会する際は、ほとんどの方が個人でお申込みされますが、その後グループエクササイズなどに参加し、会員やインストラクターとのコミュニケーションを深めていく方が多いので、クラブ側が会員のコミュニケーションを取りやすくする事も大切です。参加率の高い会員は、継続してご利用頂ける可能性も高く、会員からの紹介入会も増える事につながりますので、当社ではどこよりもコミュニテイーづくりを大事にしています。
Q.高齢者施設指定管理受託事業について教えて下さい
港区の高齢者施設を複数管理しています。介護予防としては23 区内で初めての施設である港区立介護予防総合センター「ラクっちゃ」では、様々な企業と組んで高齢者向けのプログラムを行っています。
例えば、このセンターには調理施設があり、独居の男性高齢者を主な対象者とした料理教室なども大変好評です。この料理教室では、ただ調理を行うだけではなく、材料の準備なども必要がありますので、段取りを考える事により、認知症予防にもつながります。
また、スポーツクラブで行っているプログラムを高齢者向けにアレンジして提供したり、新しいプログラムを開発するために、多業種との共同研究も行っています。実際に効果が出たプログラムは、他の地域にも広げていく予定です。
セントラルスポーツ株式会社ホームページ
http://www.central.co.jp/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
IoTを活用したシニアの
ライフスタイル向上のための
新たな補聴器サービス
株式会社nessaJapan (ネッサ ジャパン)
シンガポールに本社を置くnessaの⽇本法⼈として本年5⽉にスタートした株式会社 nessa Japan。最新のテクノロジーによって、新しい「きこえの体験」を提供するサービスを2016年8⽉より⽇本国内にて初めてスタート。2016年7月15日開催のプレスカンファレンスで発表されたサービス概要についてご紹介いたします。
2016年7月 取材

nessa Japanについて
nessaは2015年10月にシンガポールで設立した補聴器のグローバルカンパニーです。単なる補聴器販売会社としてではなく、ネットワーク端末を介したコンシェルジュサービスと、「きこえ」のライフスタイルを豊かにする付加価値をパッケージ化して提供しています。
現在、シンガポールをビジネス拠点として、2016年5月から日本法人としてスタートすることになりました。
また、今後はマレーシアでも展開する予定です。
日本総人口の約11%、約1,400万人が聴覚困難であると言われています。しかしながら、補聴器を使用しているのはそのうちの約13%にとどまっており、多くの高齢者の方々が不自由な生活を強いられています。この現状こそが、我々が日本マーケットに進出する大きな理由です。
高齢者の生活を良くすることの一つ、「きこえ」に対するサポートをすることが、我々の使命であると考え、IoTの技術を用いて、遠隔操作を基盤にしたオンラインサポートをコアコンピタンスとして、今後1年間で約12億を投資し、12月までにシェア1%を目指して参ります。

日本における難聴者と補聴器難の現状
高齢者の方々は、耳が聞えないことで社会とのつながりが希薄になるという現状があります。
日本で300人の方に「聴力が衰えることで起こったことを教えてください。」と聞いたところ、51%の人が「声が聞こえにくいことで、人と話しづらく感じた」と答えています。また、28%の方が「職場での会話が聞き取れず、話についていけなくなった」、「テレビやラジオなどの音量を注意された」と答えています。このことから、聴力低下により、様々な不安を抱えている人が多くいることが分かります。
また、アメリカの老人病学会によると、コミュニケーションができる人とできない人とでは、社会的な関わりに大きな差があり、コミュニケーションが少ないと不安定になり、社会的な関わりが少なくなるそうです。更に、補聴器を使用して聴覚が回復すると、認知低下を防げるとも言われています。
nessaのIoT技術を活用したサービスの特長
単なる補聴器販売会社ではないということをお話しましたが、我々のサービスの特徴は大きく3つあります。
1つめは、高性能な補聴器を提供しているということです。我々が提供している補聴器は、Apple社と共同開発しており、ワイヤレス通信が可能なスマート補聴器として、iPhoneやiPad等のiOSや、テレビ等の機器との連動が可能です。また、デンマーク製で、世界各国での販売・利用実績があります。世界トップクラスの小サイズで、デザイン性も高く、着け心地も非常に良く設計されています。
2つめの特徴として、無制限でオンラインサポートをご提供しています。コールセンターにきこえの専門スタッフを配備していますので、高齢者に対しても親切なオンラインサポートを無制限でご利用いただけます。更に、遠隔操作によってお客様は、家にいながらにして補聴器の調整設定を受けることが可能です。
我々のサービスにお申込みいただくと、世界初の「ホームリモートボックス」をご自宅にお届けいたします。このボックスの中には、4G/LTEのSIMカードが内蔵されていますので、補聴器とネットワーク接続することで遠隔操作を行うことが可能です。この遠隔操作によってフィッティングから、随時調整を行います。つまり、このボックスがご自宅と我々のコールセンターをつなぐ基地になるということです。

もう1つはライフスタイルの付加価値のご提供です。我々は店舗販売ではなく、無店舗販売を基本としているため、エコシステムという考え方のもと、そこでうまれる利潤はできる限りお客様にフィードバックさせていただきたいと考えています。具体的には、補聴器と共にパッケージされた3つのコースからお客様にお選びいただけます。
1. iPadコンシェルジュ
iPadmini4を補聴器と一緒にお届けします。お届けするボックスにはwifiが内蔵されていますので、iPadminiからLINEやskypeの他、インターネットを活用したい高齢者の方々に対してのテクニカルなサポートも行います。

2. ライフスタイルコンシェルジュ
耳が聞えるようになった方がより外での生活を楽しんでいただけるよう、ヨガや陶芸体験、ハイキング等、ソウ・エクスペリエンス株式会社と提携した体験型のギフトチケットをお届けします。

3. TVコンシェルジュ
32型テレビとTVストリーマーを合わせてお届けさせていただきます。このストリーマーは、テレビを見る時に使用できるものです。ワイヤレスでテレビから音を直接取り込み、7mの距離までクリアなステレオサウンドでテレビを楽しむことができます。

これらのサービスは、まずコールセンターにお申込みのご連絡いただき、聴覚測定を行った上で、「ホームリモートボックス」をお届けするという流れになっていますので、ご自宅にいながらにして全て完結させることができます。
サービスの販売開始は8月上旬を予定しています。
これまでになかった価格設定~月額の会費制
前述のとおり、補聴器のイメージの1位として「本体代が高い」という大きな壁がありますので、ローコスト化を目指しています。
具体的にお話すると、片耳・両耳のコースがあり、片耳では月額4,600円、両耳では月額7,900円で3年間提供いたします。3年後は新しい補聴器をご契約いただくか、月額料金を下げてまた契約していただくことになります。
また、1か月間の無料お試し期間を設けていますので、まずは製品を試していただき、ご納得いただいた上で本契約という流れになります。
はじめに初期の補償金として2万円頂戴しますが(本契約いただいた場合は販売価格に含まれます)、仮に無料期間中ご納得いただけなかった場合は、全額返金させていただきますので、どなたでも気軽にお試しいただけるかと思います。
「ヒアリング・エッグ」を活用した新しい販売方法
基本的にはオンラインにて販売を予定していますが、高齢者がインターネット上の広告やリスティング広告からサイトへアクセスして購入するのは、慣れていないと思いますので、商業施設をはじめとした様々な場所に、我々が新たに開発した、世界初のリモート聴覚測定カプセルチェア「ヒアリング・エッグ」を設置するキャラバンを予定しています。
日本においては、耳が聞こえにくく感じた際、まず耳鼻咽喉科で医師の診断を仰ぐ必要がありますが、特に介護施設などにおいては簡単に耳鼻咽喉科に行くことができない人も多くいらっしゃいますので、高齢者が多くいらっしゃるデイケアセンターへの設置導入も検討しています。
この「ヒアリング・エッグ」を活用し、より多くの方に気軽に聴覚検査をしていただき、ご自身の「きこえ」に対する気づきを創出、解決できればと考えています。
この「ヒアリング・エッグ」の中に入っていただくと防音の状態になります。中の方には ヘッドフォンをしていただき、装置の外からiPadを通じて検査音を発信します。聞える音に対してiPadで操作していただくと同時に、ビデオ通話を通じて、専門スタッフから聴力測定の結果や説明を聞くことができます。
この「ヒアリング・エッグ」を使って、まずはご自身の「きこえ」の現状を知っていただき、補聴器を身近な存在として捉えていただきたいと思います。そして、最終的には我々の補聴器を使用することで「周りの音が聞こえるとこんなにも楽しい!」と多くの方に実感してもらい、高齢者のコミュニケーション活発化の一助になれれば嬉しいです。
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
ユニバーサルデザインと
シニアマーケットのニーズ
プレゼンテーション推進部 安達氏 販売統括本部 市川氏 広報部 浅妻氏
ユニットバスやウォシュレットを先進的に日本に導入してきたTOTO。 バリアフリーやユニバーサルデザインについての意識が高く、様々な製品に垣間見えます。 100年近く続くTOTOの歴史の中で、どのようにしてユニバーサルデザインへ取り組むようになったかなど様々なお話をお聞きしました。
2016年4月 取材

Q.ユニバーサルデザインに取り組み始めたきっかけは何ですか。
TOTOは約100年前からトイレの便器を製造しております。その長い歴史の中で様々な使用者のニーズを研究し開発に活かしてきました。
携帯電話や文具のように、ひとりひとりが個人で使用するものではなく、子供からお年寄りまでが同じトイレやお風呂を使用するケースがほとんどです。だからこそ一人でも多くの人が使いやすさを感じ、快適に使用できるユニバーサルデザインの開発に取り組んでいます。
まず初めにきっかけのひとつとなったのは、1964年東京オリンピック・パラリンピック開催の時でした。
特にパラリンピックが開催されることで、世界各国から身体に様々なハンデを抱えている方が集まり、バリアフリートイレの問い合わせが増えました。
当時はユニバーサルデザインという言葉は無く、バリアフリーへの取り組みではありますが後にユニバーサルデザインとなる初めの一歩でした。
Q2.どのようにしてバリアフリーへの取り組みからユニバーサルデザインという考えに変化していったのですか。
パラリンピックをきっかけにバリアフリーへの取り組みが加速化し、使いやすい空間の設計図などを掲載したバリアフリーブックを1978年に発刊しました。このころ、日本の高齢化は進んでいたものの、ベビーブームということもあって高齢化はあまり深刻な問題として取り上げられることはほとんどありませんでした。
当時の日本は、新しい事業や商品の開発にも力を入れる企業が多くありました。TOTOも例外でなく、新しい製品の開発に取り組んでおりました。
その時にアメリカから輸入したのがウォッシュエアシートという、現在のウォシュレットです。
主に病院向けに医療用や福祉施設用に導入されていました。その後、TVCMによるプロモーションなどの効果もあり、1990年代ウォシュレットが世間に広まっていきました。
1990年代になり、出生率が低下し少子高齢化がささやかれるようになってきました。高齢者の割合が増え、医療費が増えていくことが懸念され、行政の対策として2000年から介護保険が始まることが決定しました。

それに伴いTOTOでは高齢者向け製品の開発を促進するシルバー研究室を発足し、2000年までの間に様々な製品や仕組みの開発を促進しました。
そこではいま高齢者の市場でどのような製品が求められ、必要とされているのかを調査し、TOTOの製品開発に活かしていました。例えばバスルームの出入り口部分に段差をなくしたのはそのころです。
当時はバスルームの出入り口に段差があることが通常でしたが、段差のない床にすることで、高齢者やお子様がつまずいて転倒することを防いだり、車いすのままでも安全に入室できるようになりました。
発売当初、段差のないフラットな床では、バスルームの外が水浸しになってしまう懸念があり、洗い場全体にグレーチングを設計していました。
しかしそれは掃除をする、介護をする立場の方に負担になってしまいます。今ではグレーチングがなくても排水出来る商品にしました。このように当時から現在に掛けて研究を重ね進化を遂げています。
先ほどのお話にもありましたが1990年代には、2000年から住宅のリフォームにも適用される介護保険が始まるとのことで、介護向け製品の開発に力を入れておりました。
どのようなニーズがあるか、どうすれば使いやすい製品になるのかを検証するため、シニアの生活実態を研究するシルバー研究室を発足しました。
そこでは実際にシニアの方の生活動作を観察し、その後、レブリス推進部(シルバーの英字「SILVER」を逆から読んで「REVLIS<レブリス>と名付けました」の一部としてシニア市場でどのような製品が求められているのか、また今後必要とされるのはどのような製品なのかを研究し企画・開発を行っていきました。
2000年代に入るとさらに少子高齢化が進み、「高齢者にやさしい生活は、みんなが楽しい生活だ」として楽&楽計画事業がスタートしました。
高齢者にもハンデがある人にも一人でも多くの人が使いやすいものをつくる、高齢者やハンデのある方向けで無く、だれにでも平等に使いやすいというユニバーサルデザインへの取り組みに変わっていきました。
その取り組みを経て2004年TOTOは会社全体でユニバーサルデザインへの取り組みを行っていくようになりました。
それに伴い90年代にシニアの生活実態などを研究していたシルバー研究室が進化し2006年に「R&Dセンター」が設立されました。

Q.TOTOの考えるシニアマーケットとユニバーサルデザインの関係とはどのようなものでしょうか。
2007年、日本は65歳以上の割合が人口の21%を超え、超少子高齢社会となった日本は2011年から2020年にかけて60万の高齢者向け住宅を建設する計画をスタートしました。その計画のころにつくられたのが、病院・高齢者施設の主にトイレや浴室の施工のプランを集約した「病院・高齢者施設水まわりブック」です。
例えば浴室であれば浴槽と壁の間に介助用のスペースを確保する設計にするプランなど、利用者だけでなくそこで働くひとにも快適な水まわりの提供を現在もし続けています。
今後の高齢者向けの展開としては、住生活基本法に基づき、65歳以上のシニアが居住する住宅のバリアフリー化率を2011年から2020年までの期間で75%まで引き上げる計画があります。
国民の住生活の安定を確保および向上の促進に関する期間計画で、この計画は5年ごとに見直されることになっており、2015年には5年先送りの計画となりました。
この計画でいうバリアフリーの基準は2か所以上の手すり配置と屋内段差解消となっているため、手すりの設置や段差解消の整備に補助金などの支援が始まると考えられます。
しかし、かつての日本と比べ、今の社会でシニアといえど60代や70代でも生活に苦悩するほど健康に支障がなく、シニア向けのツールを好まない割合が増えています。
その一方で65歳以上の人口の割合は年々増えており、加齢による生活の変化に対応するツールの需要はどんどんと増えています。
現在はニーズが無くても、将来のために設置してもデザイン性を損なわない、デザイン性を重視した手すりなども多く展開しています。


このような現代におけるシニアとのコミュニケーションでTOTOが心がけているのは、未来のために備えた、身体が不自由な方だけではなく、誰にでも使いやすい生活を提供していくことです。
現代のシニアの特徴を捉えた、シニアだけに向けたデザインではなく、誰にでも受け入れられるユニバーサルデザインという考え方はTOTOがこれからもめざしていく未来の形です。

TOTO株式会社ホームページ
http://www.toto.co.jp/index.htm
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
福祉車両ウェルキャブの
「普通のクルマ化」を目指した開発
製品企画本部 吉田氏 国内商品部 大野氏 広報部 堀野氏
世界トップクラスの自動車メーカー、トヨタ自動車(株)は福祉車両をWelcab(ウェルキャブ)と呼んでいます。Welfare(福祉)、Well(健康)、Welcome(温かく迎える)+Cabin(客室) 「すべての方に移動する自由を」のコンセプトを基に、お身体の不自由な方や高齢の方はもちろん、介護する方にとっても快適で安全なクルマをご提供できるよう、様々なウェルキャブを開発しているトヨタ自動車。今回は国際福祉機器展にて、2015年12月21日より発売予定の新開発「助手席回転チルトシート車」を中心にトヨタ自動車のウェルキャブ開発への思いをお聞きしました。
2016年3月 取材

Q.ウェルキャブ新車両「助手席回転チルトシート車」とはどのような車両ですか?
ウェルキャブには大きく分けて3つの種類があります。
車いすのまま乗り込むことができる「車いす仕様車」、お身体の不自由な方ご自身の運転をサポートする運転補助装置「フレンドマチック取付専用車」、座席への乗り降りをサポートする機能を装備した車両の3つです。
「助手席回転チルトシート車」は文字通り助手席が回転し、チルト(傾けること)により乗り降りをサポートする車両です。シートを手動で車両の外側へ回転させ、さらにチルトすることで従来のシートよりも立ち上がる際の体重移動が楽になり、足腰への負担を軽減できます。
そして介助する方が最も力を使うであろう引き起こす動作がほとんど必要なくなります。介助される方だけでなく介助する方にも優しい車両なのです。

Q.助手席回転チルトシート開発にはどのような背景があるのでしょうか?
本年12月21日より発売予定の新しいウェルキャブ「助手席回転チルトシート車」の開発は、いま日本が抱えている超高齢社会の問題へトヨタ自動車としてどのように取り組んでいくべきか考えるところから始まりました。
後期高齢者(75歳以上)の人口は、2010年に1,407万人、2025年には2,179万人と15年間で人口は1.5倍になると言われています。介護を必要とする人口が増えるのに対し、支える側の若者は減少し、2010年には1人の後期高齢者を5.4人で支えていたのが、2025年には3人で支えることになり、負担は約2倍になります。
医療費や介護費の拡大も予測され、このままでは破たんが危惧されるため国は政策の見直しの1つとして、在宅介護を中心とした制度改革を進めようとしています。
その結果、在宅介護サービスの利用者は2011年の300万人から2025年には約500万人に増え、実に総人口の4%にもなると予想されます。
こうした状況から、高齢者の在宅介護が増えることで「閉じこもり」の増加が心配されます。在宅高齢者は身体的機能の低下や活動意欲の低下、家族環境の変化などから家に閉じこもりがちになります。日常生活が非活動的になることで廃用症候群を発症、やがて寝たきりになり要介護者に進行しがちです。
高齢者本人の幸せのためにも、家族の介護負担を減らすためにも「閉じこもり」のない生活が重要です。自動車会社として、より高齢者が外出しやすい車両を提供することで高齢者の閉じこもりを少しでも減らし、いつでも気軽に出かけて欲しいという思いから、「助手席回転チルトシート車」を開発しました。


Q.助手席回転チルトシート車はどのような点で「介護負担の少ないクルマ」なのですか?
まず1つ目に、普通の駐車場スペースで使用できることです。既存の助手席への乗り降りをサポートする車両「助手席リフトアップシート車」は、例えば杖を使う高齢者が立ち上がるとき、頭が車両側面から110cmまで張り出します。
そのため車いすマークの駐車場以外では十分な幅を確保することができず、使用することができませんでした。
それに対して新開発の「助手席回転チルトシート車」は乗り降りの際に必要なスペースが、車体から最低45cmと大幅に小さくなったため、一般車両と同じ駐車スペースで使用できるようになりました。福祉車両を使用しているという感覚が薄れるのと同時に“よりたくさんの場所で人目も気にせずに使用できる”ということに繋がったのです。
そして2つ目に、雨の日にも使用しやすいことです。
上記でも述べたように車体から最低45cmのスペースのみで乗り降りできるということは、車体から出てくるシートの面積が小さくて済みます。
乗り降りをサポートする際に介助される方に傘をさしてあげると、シートも雨からカバーすることができます。そうすると人もシートも濡れずに済むのです。
シートを車内へ戻す時間も、既存の「助手席リフトアップシート車」では40秒かかったところを、新設の「助手席回転チルトシート車」では片手の操作で3秒と大幅に改善され、雨の日にも使いやすい車両が実現しました。
この2つの点により「介護負担の少ないクルマ」となりました。

Q.2014年から取り組まれている「普通のクルマ化」について教えてください
重ね重ねになりますが、高齢者の人口の割合が増え、在宅介護が進んでいるということは、福祉車両を必要とする方が増えるとも言えます。
ですが実際に介護をする年数が5年ほどというデータもある中で、介護が必要になった親のために福祉車両を購入しても、介護のために5年使用したのち、残った家族で使用するには使いづらい、短い期間だけのための購入はもったいないなどの理由で購入をあきらめる方もいます。
ですが、“親孝行をしたいその気持ちを諦めてほしくない”と私たちは考えました。
健常者のみで使用する際にも使いやすい、福祉車両と一般車両の隔たりを如何に無くした、介護される方にも介護する方にも優しいクルマの実現を試みました。
まだまだ世の中では福祉車両は特別なもの、大袈裟なものだと思われがちです。
歳を重ねてきて足腰が少し弱ったくらいで福祉車両なんて…、という声も聞いております。
そんな方にウェルキャブを福祉車両ではなく、標準車の1グレードとしての捉え方をしてもらえるようになれば、使用することがもっと身近になると思います。
私たちは“使いやすいクルマとは何か”を研究し改善することが、福祉車両の普及につながると考えています。人にとって使いやすいとは、機能性や用途だけでなく気軽さも重要なことです。
高齢者の人口の割合が増え、福祉車両の需要が増えれば、福祉車両をもっと気軽に導入できる環境が必要です。 今後もさらに「普通のクルマ化」を進めて、ウェルキャブをもっと気軽に取り入れるマーケットづくりが重要になってくると思います。
Q.福祉車両の購入を考える際に重要なことのひとつに「価格」があると思いますが、コストへの工夫はされていますか

まず新設の「助手席回転チルトシート車」は手動で動かすという点で、リモコンで自動作動する「助手席リフトアップシート車」よりもコストが低いです。
さらに今取り組んでいるのが、ベース車を製作する段階から要件を織込むことです。
例えば後方の屋根を下げることにより、デザイン性はスポーツカーのようでカッコよくなりますが、下げてしまうと車いすで乗り入れることができなくなってしまいます。
そこで、初めからデザインに制約をかけ、ベース車の製造ラインを一般車両と同じにすることで、コスト削減ができます。
その他にも、車いすスロープ車には乗り入れをしやすくするために車体後方の高さを下げる「エアサス」という機能があります。この機能を後付しやすい構造を、一般車両としてのベース車両に取り込むよう、開発を同時に進めています。
しかし、福祉車両独自の機構に関しましては、数量が増えないことにはこれ以上コストを削減することは難しくなってきています。その点で、より多くの方へウェルキャブを普及させることが課題になります。
Q.今後、シニアに向けてどのような展開をお考えですか?
車両の開発はもちろんですが、新しい動きとしましては既存車両に取り付けることができるフレンドリー用品に力を入れております。
主に一般車両に取り付けることで、乗り降りのサポートをしたり、走行中の車内でも安心して乗車いただけるようなアイテムを取り揃えております。
既存車両へ取り付けするタイプですので費用も抑えられますし、福祉車両の購入までは至らないという方にぜひ体験してみて欲しいです。高齢者の方はカーブや段差を走行する際、体重を支えきれず少しの揺れでも不安に感じる方もいます。そういった不安を解消できるのが新型シエンタから投入した「フレンドリー用品」です。
例えば「アシストグリップ」は助手席の後方に取り付けたグリップを、セカンドシートへ座った高齢者が掴み、姿勢を維持することができます。そうすることで安全で安心な乗り心地を体感していただけます。
さらに手すりの替わりにもなるので、車両への乗り降りもサポートすることができます。その他にも楽にシートベルトを装着できるアイテムや、車体の揺れから上体を抑えるためにシートにパットを取り付けるなど、現在9種類のアイテムをご用意しております。
福祉車両など新技術の開発はもちろんですが、それだけではなく、どうすればすべてのひとが「移動する自由」をもっと身近に感じ、楽しく出かけられるクルマになるかを考えることで、介護される方はもちろん、介護する方にも快適で安心なクルマをこれからも提供し、暮らしをサポートしつづけていきます。
トヨタ自動車株式会社ホームページ
http://toyota.jp/
トヨタウェルキャブ(福祉車両)ホームページ
https://toyota.jp/welcab/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
「進化する努力」と「変わらない勇気」、
シニアマーケティングには両方が必要
株式会社バスクリン
販売管理部 販売促進課 マネージャー広報責任者 石川泰弘 氏
製品開発部 ヘルスケア企画課 リーダー 梨本里美 氏
「健康は、進化する。」というコーポレート・スローガンのもと、社名である入浴剤「バスクリン」と近年では「きき湯」を主力商品として事業展開する株式会社バスクリン。同社は、「入浴を健康として捉える意識を有した人々」をシニア・マーケティングのターゲット捉え、日々のマーケティング活動を推進しています。今回のインタビューでは、入浴剤市場の概要から、入浴への啓蒙活動、商品パッケージの工夫、そして今後の取り組みに至るまで、幅広くお話をお聞きしました。
2014年10月 取材

Q.まずは、入浴剤市場の概況からをお聞かせください

石川氏) 現在、入浴剤の市場シェアは、花王さんと弊社で54~55%を占めております。 入浴剤の市場は比較的安定しているといえます。 2013年度は、前年比103%で推移しており、その市場規模は520億弱であり、年推移で500億円前後を上下している状況です(※バスクリン調べ)。 ここ数年は、炭酸ガスの入浴剤市場が伸長傾向にあり、弊社においては平成15年に発売した「きき湯」がご好評をいただいていると共に、同じく弊社の主力商品である「バスクリン」と肩を並べるロングセラー商品になってまいりました。

Q.「きき湯」がマーケットでうけた、何かきっかけのようなものはありましたか?
石川氏) あります。 私どもがきっかけの一つとして考えているのが、2009年に放映されたビートたけしさんの「みんなの家庭の医学」というテレビ番組です。 その日は「炭酸ガスの温泉は動脈硬化にいい」という内容だったのですが、それをきっかけに炭酸ガスの入浴剤ブームに火がつき、弊社商品の「きき湯」もそのブームに乗ることができました。 それ以前から売り上げは伸びていたのですが、番組をきっかけに、40~50代の方、それより上の世代の方に売れ始めたと共に、そこへ同時期に盛り上がっていた美容ブームが後押しをして一気に市場へ浸透いたしました。 そんな経緯の後、いまではブームの段階を脱して、市場にしっかり定着してくれた感触をもっております。
Q.シニアの方が効果・効能別に合わせて入浴剤を使い分けているというデータ等による裏付けはあるのでしょうか?

梨本氏) データの上からは、マーケット全体で入浴剤を使用されている年代は40~50代がボリュームゾーンとなっております。
一方で、バスクリンは50~60代のお客様に支持をいただいているという調査結果が出ております。 これは、バスクリンが長い歴史を有している商品であるゆえ、子供の頃に入って良かったというブランドの原体験が理由だと考えております。 バスクリンを入浴剤利用の入り口にして、その実感がループした後、当社の「きき湯」やあるいは他社商品へと選択肢が広がっていくように思います。
石川氏) 若い方は美容やリラックスへの意識が高いですが、シニアの方は健康への意識が高く、これが入浴剤利用の理由となっているようです。 とりわけ50代以上の人達は「健康寿命を延ばす」という意識が高いこともわかっております。 具体的には、50代以上の人はお風呂でストレッチする人達が増えているなど、バスルームを活用していかに健康でスマートな身体作りをするかということに意識が向いています。
Q. シニアに特化した、入浴についての啓蒙活動などのお取り組みはありますか?
石川氏) 例えば、老人ホーム等で行われる銀行様が主催なさるセミナーに講師としてご招待いただくことなどが多いため、そこで入浴剤の使い方や効能、また温泉についてなどの講演をさせていただくなど、シニアの方の前で入浴のお話をさせていただく場面は数多くございます。 当然のごとくシニアの方は、「健康」をテーマにしたお話にとても興味をもっていらっしゃるので、聴講いただいたシニアの皆様からもご好評をいただいています。 ひいては主催者様からも喜んでいただいております。 事実、主催者様からは、その後の「相続」に関するお話にも円滑に発展できるとお聞きしておりますので、私どもの公演が主催者様のビジネスにも多少は寄与しているのではないでしょうか(笑)。
Q. シニアの方から支持される商品を開発するための工夫などがあれば教えてください。
梨本氏) 特に「シニアターゲットに向けて特別に商品を作る」というようなことはいたしません。 それより、「商品を選択していいただく楽しさ」や「新しい商品との出会いから得られる新鮮さ」を表現することが重要だと考えております。
例えば、メインターゲットが40~50代である「バスクリン・クール」という商品について言えば、数ある商品ラインナップから、お客様の気分やニーズに合わせて商品を選んでいただく楽しさが提供できるような商品であるよう様々な工夫をしてますね。
バスクリンクールのラインナップ

石川氏) あえて年齢を意識してモノ作りをしないことには理由があります。
例えば「今の50代は昔の50代より若い」ということです。若い感性や先駆的な感覚をもつた今の50代は、商品選択をすることにおいてもいつもと同じものを選ぶのではなく、違うものにチャレンジしようとする積極的な行動が見受けられます。
従って、シニア向けに「シニアの皆様に特化した商品です」という提案するのではなく、年代に関わらず、広く市場ニーズに対応した商品をリリースするようにしています。 そのことこそが、結果としてシニアの皆様から支持をいただく手法なのだと考えております。
Q. 商品パッケージにおいてどんな工夫を施していらっしゃいますか?

梨本氏) 石川が前述した通り、いかにも「シニアの皆様を意識しました」風なデザインは好まれません。もちろん、商品購買層としては50~60代がボリュームゾーンとなりますので、手に取った際の使いやすさなど、商品開発上のシニアの皆様への配慮は必要です。
しかし、ここにばかり意識を置きすぎると地味でつまらない商品になってしまいます。これはシニアの方をターゲットにする場合に限った話ではありません。
入浴剤の商品特徴を確実に伝えるためには、何より「パッケージ上における情報の視認性」が最重要課題だと考えております。
こういうお言葉をお聞きするのが私たちの苦労が報われる瞬間であり、とても嬉しく思うのですが、その「わかりやすさ」の最大の要因は「色」だと思います。「色」がお客様に与える情報はとても大きいのです。
Q. 「新しい取り組みを推進する」ことと、「ブランドを守っていく」という行為は、一見、相反する使命のように思いますが、その点で苦労はありますか?

石川氏)正直なところ、ブランドイメージや商品体系などを変えたくても、なかなか変えられないというのが現状です。
特に香りの話でいえば、梨本が申し上げたように、言葉やビジュアルで伝えるのが難しい要素です。当社の商品は歴史が長いので、お客様は長年愛用された商品名と香りが頭の中でしっかり紐づけされています。しかし、それをある日突然変えてしまうと、お客様が戸惑ってしまい、ひいては「違うでしょ」というご指摘をいただくことになってしまいます。
例えば、バスクリンには「ジャスミン」という商品があります。人気商品で長年多くのお客様から支持をいただいているのですが、これはあくまで「バスクリンのジャスミン」といえます。これをあえて本物のジャスミンの香りに近づけてしまうと、多くの苦情が来てしまいます。
このように、変えたい商品があっても、長年積み重ねてきた「バスクリンらしさ」というものが確立しているため、無暗に商品の仕様を変えられない、という事例もいくつかあります。
実は、バスクリンのイメージ調査をしてみたときに最も評価していていただいているポイントが「安心・安全」であることもわかっています。
つまり、長い期間お使いいただいている安心感や、それでいて何の問題も起こしていない安全性というのを当社ブランドに対し感じ続けていただいているわけです。
そう考えると、「変わらずにいる」ことこそが私たちに課せられた大事な使命なのかもしれません。
Q. シニアの方にとって大変興味がある、「入浴と寿命についての関係」についてお聞かせ願えますか

石川氏) はい、まずシニアの方は健康への思いは人一倍強いので、このテーマはセミナーでもとても興味をもっていただけます。
このテーマで講演すると若い人達は普通に聴講されていますが、シニアの方は積極的にメモをとられたり、「こういうときはどうしたらいいのか」とご質問をくださったりします。
私がセミナーでお話することの中から一つあげさせていただくとすると、入浴行為そのものも大事ですが、「お風呂掃除」を積極的にすることがシニアの健康寿命を延ばすということです。
お風呂掃除は膝を曲げたり手を伸ばしたり、実はシニアの皆様にとって健康を維持し体力を養う、とてもいい運動要素になります。
昨今では、ノーリツさんの自動洗浄浴槽という商品をシニア向けに開発しましたが、実際の購入者は30代の方々が多いと聞いております。すなわち、忙しくてお風呂洗う時間がとれない方々です。
一方で、シニアの皆さんは時間的な猶予はあるので、ウォーキングやエクササイズと同様に「お風呂掃除」も健康維持の一環として取り組んでいただければと思います。
Q. シニアの方の入浴剤の選び方にはどのような特徴がありますか?
梨本氏) そもそも入浴剤は、「どの香りにするか」、「どの効能を選ぶか」などを、家族みんなの総意によって選ぶ傾向がある商品です。しかしシニアの皆様の多くは、お子さんも独立しセカンドライフを満喫されていらっしゃいます。そうすると入浴剤についても「本当はこれを使いたかった」という自分主体のモノ選びをするシーンが中心になります。
そうすると、これまでバスクリンを使っていた方々が、改めて他の商品にも注目が至り、例えば当社の「きき湯」に流れていくなど様々な選択肢へ広がりが発生することが考えられます。
その際の商品選定のポイントとしては、やはり健康維持です。病院にかからず健康な生活を送るための、予防医学的な意識が商品選定に大きく影響してくると思います。
Q. 改めて、シニアマーケットをどう定義づけられていらっしゃいますか?
梨本氏) 実は、シニアマーケットについて、社内で明確な決まりがあるわけではありません。年齢軸でいうなら50~60代以上と考えることができますが、ただ年齢軸で区切るのは乱暴な話だと考えてます。
あえて言うならば、入浴剤という市場においてシニアマーケットを定義するための最初の指標は、やはり家族構成なのではないかと考えております。
よりシャープな分け方をするならば、お子さんが巣立ったご家庭であるのかどうか、その年齢はどれ位なのか、という区切り方です。
その次に来るのは、入浴という行為の意義です。お風呂に入るという行為を、単純に体の汚れが落とすための行為とみなしているか、あるいは前述した美容や健康などのニーズを叶えるための時間として捉えているかという区分です。
とかくシニア層においては、入浴を単なる洗浄行為とみなしてなく、付加価値のある行動と考えています。
更にもうひとつの指標が、入浴に対するニーズやモチベーションです。具体的には、「健康」を重要視して生活しているのか、もしくはこれは若い層や女性などが中心になってくると思いますが、「美容」という要因に寄っているのかで、マーケティング的なアプローチが異なってきます。
これら3つの要素を掛け合わせ、つまり、「家族構成を前提とした年齢軸」×「入浴の意義」×「入浴に対するニーズ」という3つの軸の掛け合わせで、マーケットを区分することができ、その中の1象限がシニアマーケットと捉えられるのではないかと考えております。
Q. 海外展開へ向けたお取り組みは何かされていらっしゃるのでしょうか?

石川氏) 海外には日本のような入浴文化はないので、日本と同じような展開では商品は波及いたしません。
一方で、日本に来た外国人は、必ずと言っていいほど温泉に入りその良さを体感していきます。
ですので、まずはひとりでも多くの外国人に入浴の体験をしていただくような施策を考えることが最初のステップだと思います。これができれば、あとは各国が自主的にインフラ整備をやっていただけると思いますし、入浴文化は拡がると思います。
そのためのきっかけとして2020年の東京オリンピックはとても重要なタイミングだと考えています。
もし仮に、「日本人選手が活躍するその裏にはお風呂の存在があった」いうことを伝えられれば、各国への入浴文化の波及、そして弊社商品の海外展開にも大きく寄与すると思うのです。
Q. 最後に、今後のお取り組みについてお聞かせください
梨本氏) モノ作りの観点からいうと、今のブランド資産を活かしながら、更に入浴剤というものの用途も拡大しつつ、同時に使いやすさも追求していくべきだと考えています。買いやすく、持ち運びしやすく、また使うときの出し入れしやすさ、そして捨てやすさに至るまで一気通貫で気配りのある商品を展開していきたいです。
もちろん、これまでにも長年に渡って取り組んできたテーマですが、まだまだ課題はたくさんありますし、終わりのない仕事だと考えております。
株式会社バスクリン ホームページ
https://www.bathclin.co.jp/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
将来への不安から今の状態を
「維持」するために運動するシニア
からだづくり三鷹フィットネスクラブ 所長 寺本由美子氏
『会員様ひとりひとりのニーズに合わせたトレーニング指導』を心がける、からだづくり三鷹フィットネスクラブ。それぞれの目的を達成できるよう、健康状態に合わせたプログラムを提供し、定期的な個別カウンセリングを行う等、一人一人に密着しているため、ご高齢の方にも評価を頂いています。今回のインタビューでは、施設の概要や特徴をはじめとして、健康運動指導士、西東京糖尿病療養指導士、介護福祉士の資格を持つ寺本所長が、日々のトレーニングを通じて感じるシニア層の特徴について、幅広くお話をお聞きしました。
2015年6月 取材

Q.様々な資格をお持ちですが、まず寺本所長のプロフィールについて教えてください

大学を卒業してから健康運動指導士の資格を取得し、一般のフィットネスでインストラクターをしていました。運動指導自体は約30年弱やっていますが、ここに来る前は、介護施設の運営会社の職員でした。
そこでは介護業務もしておりましたので、介護福祉士の資格を取得し、デイサービスやグループホーム、介護付有料老人ホームの入居者への運動指導、市から委託される介護予防運動教室での指導もしておりました。
西東京糖尿病療養指導士は、高齢者の糖尿病が非常に多く、糖尿病セミナーのお手伝いをさせていただく機会があって、高齢者と関わるのであれば、勉強したほうがいいだろうと思い、昨年取りました。
介護予防の仕事に携わり、参加者を見ていると、色々な変化があって、とても面白いんです。これまでの経験を活かして、高齢者の運動指導のスペシャリストになりたいですね。
Q.からだづくり三鷹フィットネスクラブの会員はどのような方が多いのでしょうか。
若い方もいらっしゃいますが、大手フィットネスに比べて全体の年齢層は高いです。一番多い世代は40代・50代ですが、60代以上が全体の1/3を占めており、平均年齢が現在52.8歳です。40代・50代は主婦層が多いのですが、60代以上は男性のほうが若干多いですね。
現在は元気な会員ばかりですが、以前は介助が必要で、付き添いの方とトレーニングに来られる方もいらっしゃいました。
また、中には糖尿病の方もいらっしゃいます。ただ、ここに来られる方は通院されていて、医師の指導に基づいた自己管理をきちんとされている方が多いですね。西東京糖尿病療養指導士、介護福祉士の資格を持っておりますので、症状や数値等をお聞きしながら、状態に合った指導にしています。
Q.「健康クラブiみたか」について詳しくお聞かせいただけますか。
「健康クラブiみたか」は、経済産業省からの助成金をもとに、株式会社まちづくり三鷹を中心に薬・食・運動がトータルに連携して、生活習慣の改善や介護予防を目的につくられた会員制健康クラブです。
内科クリニック、調剤薬局とフィットネスが連携して、皆さんの健康づくりをトータルでサポートできるように、平成22年に三鷹産業プラザ5階に開設されました。
内科クリニックでの定期健康診断結果に基づいた栄養相談、調剤薬局での服薬相談、フィットネスでの運動プログラムを作成するといった、一貫した会員の健康維持を目指していましたが、残念ながら平成26年3月をもってサービスを終了いたしました。
Q.どういう目的で通われていらっしゃるのでしょうか。
会員によって違いますが、多いのは健康診断の血液検査の結果で、病気までではなくとも、数値が悪く、食事や運動に気を付けるよう言われた方が多いですね。
40代・50代の主婦の方は「痩せたい」という方が多いですね。どうしても50代になると、特に女性はホルモンバランスが変化して痩せにくくなってしまうんです。
対して、60代以上の方は、「筋力を向上させたい」、「痩せたい」というよりも、皆さん将来に不安を抱えていらっしゃるようで、「寝たきりになりたくない」「介護を受けたくない」という理由から、「今の状態を維持したい」という方が多いです。70代・80代はほとんどそういう方ですね。
若い世代は、体脂肪率を何%にしたい、体重を何キロ落としたいなど、明確な数字で言われる方が多いですが、高齢者は感覚的な動機が多い気がします。
Q.60代以上の方のトレーニングはどのようにされているのですか。
日頃のお悩みは、階段を上がるのが大変になってきた、椅子からなかなか立ち上がれなくなってきた、歩くとフラフラする、と皆さん異なります。ただ、足を鍛えたいからといって足を動かせばいいというわけではありません。足を動かすためには、まず関節や筋肉の動きが滑らかにする必要があります。そのためには、まず身体をほぐす、ということから始めます。万遍なく全身を動かさなければいけませんので、どんな方でも最初に行うメニューはある程度決まっています。
はじめは、言った通りのトレーニングを一緒にするのですが、ある程度一人でできるようになると、独り立ちしていただきます。そうすると、皆さんそれぞれの自己流になります。やはり運動の効果を上げるためにはフォームや動きが重要になりますので、随時スタッフがチェックし、注意するようにしています。
更に慣れてくると、「このメニューはやりにくい」、「ここが痛い」など、だんだん自分の意見が出てきますので、進捗に合わせたメニューになるよう、15回のトレーニングごとにプログラムの見直しをしています。
とはいっても、高齢者の場合、無理をしないようにしなければいけません。高齢になればなるほど、身体が思うように動かなるため、腕を伸ばせなかったり、膝を曲げられなかったり等、できない事が増えてきます。そのため、極力身体に負荷をかけず、できるメニュー/できないメニューを見極めながら、その人に合ったメニューにアレンジしています。
中には「物足りない!」、「もっとやりたい!」とおっしゃる方もいらっしゃいます。ただ、無理な運動をしてしまうと、次の日まで疲れが残りますし、筋肉痛にもなってしまいますので、まずは物足りないくらいが丁度良いです、とお話しています。高齢者ほど頑張り過ぎる方が多いですね・・・苦笑
Q.普段トレーニングをされていて、シニア層の特徴としてお気づきの点があればお聞かせください。
高齢者といっても、戦前生まれと戦後生まれは全く違うように感じます。
60代・70代の方は、「ここが痛い」という訴えが多いですが、80代の方は大抵「できます」、「大丈夫です」とおっしゃいますし、我慢して頑張り過ぎる傾向にあります。実は足腰が痛い、血圧が高いため毎日服薬している、心臓が弱かったりする方でも、それを見せないのが80代です。
会員の最高齢で87歳の男性がいらっしゃるのですが、毎回マシーンで30分歩いて、筋トレもされます。更に、ご自宅でも毎朝30分の運動もされているそうです。非常に健康意識が高く、とにかく元気ですね。心臓が悪いそうですが、全くそうは見えないんですよね。
色々お話を伺っていると、80代の方は、戦時中の苦しい生活を経験されています。生活が苦しいと、生きていくために働かなければいけませんし、そのためには動かなければいけませんので、かなり身体を使っていたと思います。筋肉の貯金みたいな感じでしょうか。身体の地盤ができているような気がします。
それに対して、60代・70代の方は、苦労されていないとは言い切れませんが、戦争を体験されている80代と比べるとやはり違いますね。
今の若い世代は、ファーストフードやジャンクフード等、食べ物ひとつとっても昔とは全く違います。小さい子供の遊ぶ場所にしても、昔は外で走り回ることが多かったですし、公園で何をしてもいいという時代でしたが、最近はボール遊びができない公園があったり、身体を動かす場所が少ないですよね。遊び方の選択肢も増えて、家の中でゲームをする子供もいます。
子供の体力低下が問題になっていますが、恐らく今の子供世代が大人になった時、病気や怪我をしやすく、回復する力も弱いと思います。
やはり世代や、育つ生活環境によって全く違うと思いますね。1週間に何百人と接していると、結構感じるものですよ。
Q.他のフィットネスクラブとの違いはどのようなところでしょうか。
一番の違いは、パーソナルトレーニングとはいかないまでも、個人に密着しているところでしょうか。
若い世代ですと、自分のペースで「黙々とトレーニングをしたい」という方が多いのですが、年齢層が高くなると、「これでいいんだろうか」、「ちゃんとやれているのだろうか」と不安をお持ちの方が多いです。
ここでは、お一人でメニューをこなせるまで指導しますし、お一人でやられていても、スタッフが随時チェックしています。施設面積は決して広くはありませんが、スタッフの目が行き届いています。会員の年齢層が高いのはそのためではないでしょうか。
もうひとつは、会員同士の会話が活発なことです。特に高齢の方がそうおっしゃいますね。
一人暮らしの高齢の方ですと、家に帰っても会話する相手がいないので、だんだんと言葉も出づらくなくなってしまいますが、色んな人と会話すると、脳の体操になります。運動は脳の活性化に効果があり、認知症の予防になると言われていますので、ここに来れば身体だけではなく会話でも脳を活性化できるということですね。もちろん、大手のフィットネスクラブでも会話はあると思いますが、ここは狭い分、会話をする時間が多いと思います。
実際にここでお知り合いになられたコミュニティーもあります。午前中は女性の方たちが本当に賑やかですよ(苦笑)。女性のコミュニケーションの凄さは目を見張るものがあります。とにかくパワーがありますし、年齢は関係ないようなので、女性特有なのかもしれません。
時には女性コミュニティーと同じ時間帯に来られる70代・80代の男性も混じっていらっしゃることもあります。リードする方は年齢層の高い女性が多いですが、積極的に男性にも声をかけられていますね。
皆さんはじめは運動するために来られているのですが、だんだんとコミュニティーも楽しくなり、それを楽しみにされている方もいらっしゃると思います。
カウンターの前にマシーンがありますので、カウンターにいるスタッフに声をかけていただいたりすることもあり、施設の構造自体もそうですが、私たち自身も目が届きやすく会話が生まれやすい環境づくりを心掛けています。

あと、地域密着型ということでしょうか。ここから歩いて数分のところにお住まいの方が多く、近隣住民の方がほとんどです。中にはトレーニングウエアを着てこられて、ご自宅でシャワーを浴びるという方もいらっしゃいます。
Q.総務省主導のプロジェクトに携わっていらっしゃるとお聞きしたのですが、具体的にはどのようなことをされていらっしゃるのでしょうか。
ICT健康モデル事業の実証プロジェクトですね。ICTシステムや健診データ等を活用した健康モデル(予防)の確立・普及に向けて、地方自治体が主体となった実証実験です。超高齢社会の医療費や労働人口の減少等の問題解決のために、高齢者の健康を維持して病気を予防するための取り組みです。
実際には、運動前後の体力測定データや、普段からお持ちの活動量計のデータ、健康データ等、ネットワークを通じて共有して分析するそうです。
現在このプロジェクトで受け入れている方は、65歳以上の21名です。アクティブシニアがプロジェクトの対象ですので、基本的には皆さん元気で活動的な方が多いです。お話を聞くと、別のスポーツクラブに通っていらっしゃったり、毎日歩いていらっしゃったり、自分で健康維持の方法を見つけて、取り組まれている方が多いです。
特に皆さんプロジェクトの趣旨を理解していらっしゃいますので、お休みされることなく来られます。出席率はほぼ100%ですね。
Q.最後に、寺本さんにとっての“シニア”とは何かお聞かせください。
私にとっては目標ですね。自分がその年代になったときに、こうなっていたいなと思います。
本当に皆さんお元気で、逆に我々スタッフが元気をもらっているくらいです。
介護予防事業でも、アクティブシニアに近い方たちを対象とした体操教室をやっているのですが、そのパワーに圧倒されます。教室の場合は回数が予め決まっていますので、調子が悪くて、運動する元気がなくても、見ているだけでもいいので来てください、というお話をします。一度休んでしまうと休み癖がついてしまいますからね。そうすると皆さんいらっしゃるんですが、見ているうちに、何となくやりたくなって、できることだけやってみると、スッキリして元気になって帰られることがよくあります。若い方よりも元気ですよね・・・
これからもフィットネスを通じて、シニアの皆さんが元気になるお手伝いをして、元気を共有していきたいですね。
からだづくり三鷹フィットネスクラブWEBサイト
http://karadadukuri.jp/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
シニアへの認知・理解促進は、
第三者を介在させた
間接的コミュニケーション
株式会社大塚製薬工場 OS-1事業部 マーケティング部 坂下 悠一氏
世界の人々の健康に貢献することを目標として事業展開する大塚グループの中で、日本市場の約50%シェアを誇る輸液メーカー、大塚製薬工場。そして、医療現場で蓄積したノウハウから、一般生活者向けに開発された“経口補水液”『オーエスワン』。今回のインタビューでは、『オーエスワン』の開発のきっかけから、リーディングカンパニーとしてのマーケティングゴール、現在の課題、そして今後拡大するシニアマーケットをどう捉えているのかなど、幅広くお話をお聞きしました。
2015年3月 取材

Q.まず『オーエスワン』の商品についてお聞かせいただけますか?

『オーエスワン』は、いわゆる“経口補水液”といって、軽度から中等度の脱水状態の際に失われる、水と塩分を補給・維持するのに適した“病者用食品”です。
私たちの身体の中にある体液というのは、単なる水だけではありません。
ナトリウム(塩分)やカリウム等、健康な身体を維持するために必要な成分が含まれております。汗や尿・便によって日常的に排出され、それを食べ物や飲み物から吸収する、というサイクルでバランスを保っています。
しかし、真夏に暑熱環境で作業をする時や風邪をひき発熱がある時など、大量に汗をかいたり、嘔吐・下痢などによって体液の排出が続くと、必要な水分や塩分が不足してしまいます。こうした体液の不足によって起こるのが脱水症です。
脱水症が起こると、とにかく水を摂ることを意識する方が多いのですが、単なる水だけではなく、体液と同じように塩分を含んだものが必要になります。
この必要な成分をバランスよく配合し、脱水状態に適した飲料が『オーエスワン』なのです。
Q.一般的に言われる水分補給飲料とは成分が違うんですね。
はい。ではまず、“経口補水液”について、ご説明します。
風邪をひいたとき等に病院で点滴処置をされることがあると思います。これを “輸液療法“と言います。“輸液療法”は血管に直接水分や電解質、栄養などを補給する方法です。
それに対して、軽度から中等度の脱水状態に対して、必要な水分・電解質を口から取り入れる(経口的に補給する)”経口補水療法(Oral Rehydration Therapy;ORT)“という方法があります。脱水状態への対処において経口補水療法(ORT)は点滴と同等の効果があることが知られています。
この経口補水療法に用いられるのが『経口補水液』で、WHOや米国小児科学会等でその組成が決められています。『オーエスワン』は米国小児科学会の基準に準じた組成となっております。
冒頭に、“病者用食品”とお話しましたが、開発過程で臨床試験を行い、エビデンスを持っております。
そのため、“特定の疾病のための食事療法上の期待できる効果の根拠が、医学的・栄養学的に明らかにされている食品“という意味で、消費者庁から“個別評価型病者用食品”の表示許可を得ています。

Q.開発に至る背景をお聞かせいただけますか?
経口補水療法は実は古くから発展途上国で用いられている方法で、世界的に注目されたのも1970年代でした。南アジアでコレラが流行した際に用いられ、コレラによる死亡率が劇的に改善しました。
しかし、先進国では比較的医療へのアクセスが容易なこと、また衛生環境が整っていること、さらに日本では輸液(点滴)を希望する患者が多いことから、経口補水療法は一般に用いられていませんでした。
一方で、冬場に流行する感染性胃腸炎は、乳幼児で流行し、コレラのような激しさはないものの下痢や嘔吐を伴うことから、脱水状態に陥りやすい疾患です。
治療には大人と同様に輸液が用いられますが、小さな子供に輸液を行うことは、技術的な困難に加えて、針を刺すことを当然子供は嫌がります。
そこで、輸液によらずに脱水状態の進行を回避できる方法がないかと考え、経口補水療法に用いられる経口補水液の本邦での開発に着手し、製品化に至りました。
輸液に比べて経口補水液による脱水状態への対処は、針を刺さないため痛みを伴わず、口から飲むだけの簡便なもので、方法を理解すれば自分で(小さい子供の場合はその親が)対応することが出来ます。
Q.『オーエスワン』の購入者に特徴があればお聞かせください。
小さいお子さんをお持ちのママや、ご高齢の購入者が多い傾向にありますね。
乳幼児は新陳代謝が活発なことに加えて、体の水分量を調整する機能が未発達ですし、免疫力(抵抗力)が低いため感染症にかかりやすいという特徴があります。特に冬場の感冒・感染性胃腸炎などに罹患すると脱水状態に陥りやすい傾向にあります。
高齢者は、加齢と共に筋肉量が低下するため、体に保持できる水分量が少なくなります。
それに加えて喉の渇きを感じにくくなったり、更には食事の量が減るなど、様々な機能低下による水分摂取量の減少によって脱水症になるリスクが高くなります。ですので、最近では一度医師に奨められて体感された方が常備用ということで、オーエスワンをケースで購入して下さる方も増えてきました。
Q.マーケティングゴールはどこに設定されていらっしゃるのでしょうか。
脱水症のリスクをきちんと理解していただいた上で、『オーエスワン』を知っていただき、家に“常備”してもらうということです。
あくまで、経口補水療法についての理解が前提ですが、脱水状態が進行する前に対処をすることが可能になれば、脱水状態に苦しむ人を少なくすることができると考えています。
そのためのコミュニケーションとして、タレントの所ジョージさんを起用して「STOP脱水、ストックOS-1」というキャッチコピーで広告・宣伝活動を行っています。

Q.経口補水液のリーディングカンパニーである御社ですが、何か課題があればお聞かせください。
我々は、先ず脱水状態に陥るリスクの高い方々に製品と情報をお届けすることを第一に、特に小さいお子さんをお持ちのママと高齢者とのコミュニケーションに取り組みました。
2010年に猛暑日が続き、熱中症の注意喚起がメディアを通じてされるようになりましたので、皆さん水分と塩分も摂らなければいけない、という事はご存じなのですが、具体的にどうすれば良いのか認知されていないのが現状です。
本来であれば、我々も広くコミュニケーションをしていかなければならないのですが、“病者用食品“という特殊なカテゴリですので、「健康増進法」や「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保用に関する法律」等に従う必要があります。そのため一般消費者の方にわかりやすい表現が難しいというジレンマを持っています。
これら制約の中で、最適なコミュニケーション方法を見出す事が一番の課題ですので、常に模索していますね。
Q.現在シニアに対してはどのようなコミュニケーションを取られているのでしょうか。
現在は、医療従事者を介在した、間接的なコミュニケーションをメインとしています。
『オーエスワン』は 飲料ですが、日頃から常用的に飲むことを目的としたものではなく、主に調剤薬局とドラッグストアを流通販路としています。これは医師や薬剤師からきちんと説明を受けた上で購入していただく、という当局との指示を主旨としているためです。
従って、商品サンプリングに代表されるような、消費者との直接的なコミュニケーション手法は採用しておりません。
Q.具体的なコミュニケーションとしてはどのようなことが挙げられますか?
〝病者用食品“という位置づけにもある通り、基本的に脱水状態にある方に対して医師の指示のもと、飲用いただく製品であるため、医師および医療関係者にご紹介し、オーエスワンを必要とする方に勧めていただいております。
最近の取り組みですと、高齢者の熱中症対策として何かできないか、約2年前から社会福祉協議会等、地域の高齢者の見守りをされている方などへの情報提供の方法も模索しています。
その他、脱水症に対する注意喚起の啓発活動も行っております。
その成果もあり、高齢者にも経口補水液に関しての認知は進んでいるようです。しかし、残念ながら十分な理解までは至っていないようですね。
これまでは経口補水療法(ORT)の啓発活動をすることによって、必然的に『オーエスワン』の購入が増えると考えておりましたが、類似商品も増えましたし、近年は企業の宣伝を鵜呑みにされない傾向にありますので、コミュニケーションにも工夫をしていかなければいけませんね。
Q.現在シニアマーケットは拡大傾向ですが、これについてはどうお考えでしょうか。

脱水症リスクが高い高齢者が増えるということは、今後力を注がなければならないと考えています。
しかしながら、高齢者にだけ注力するではありません。
『オーエスワン』は高齢者だけが使う商品でもありませんので、それぞれの需要期に対してきちんとアプローチをしていく必要があります。
今のところはシニアマーケットが拡大してもしなくしなくても、必要な方に、必要な時に飲んでもらう、ということですね。
とは言え、乳幼児の頃から『オーエスワン』を飲んでいただき、時間をかけながら各自の日常にブランド・商品を認知いただく、年を重ねても「脱水症状の時には『オーエスワン』!」と思い出していただける、といったような長期的な取り組みも重要だと思います。もしかしたら、これもある意味シニアマーケティングの一環かもしれませんね。かなり長期的に見た場合ですが・・・(笑)。
Q.最後に、今後の課題をお聞かせいただけますでしょうか。
ひとつは、脱水症の“予防”ですね。
『オーエスワン』の開発過程で、輸液(点滴)との補水効果の同等性のエビデンスは持っていますが、“予防”についてのエビデンスはまだ持っていません。
本来であれば、脱水症になってからではなく、脱水症になる前に対処するのが最も良い方法だと思います。
将来的に、予防適用や表示許可等のエビデンスを持って啓発できれば、需要も高くなると想定されますし、飲んでいただくシーンも広がると思います。
我々としては、高齢者をはじめとして、乳幼児、暑熱環境にある方などが少しでも脱水状態が進行するリスクを回避できる環境づくりを目指していきたいですね。
株式会社大塚製薬工場ホームページ
https://www.otsukakj.jp/
『オーエスワン』オフィシャルサイト
http://www.os-1.jp/index.html
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
三世代マーケティングは、歴代
「ウルトラマン」の共演と、世代を超えて
共有したいメッセージが重要」
株式会社円谷プロダクション 代表取締役社長 大岡 新一 氏
ウルトラマンシリーズのテレビ放送開始から、来年で50周年を迎える円谷プロダクション。今回のインタビューでは、ウルトラマンが支持される理由、作品に込められているメッセージから、シニアの定義、そして三世代マーケティングに成功したキャラクターといわれる要因など、幅広くお話をお聞きしました。
2015年7月 取材

Q.ウルトラマンは長年のヒットシリーズですが、ヒットの要因は何だと思われますか?

ウルトラマンシリーズは1966年に『ウルトラマン』がテレビ初放映されてから、いよいよ来年の2016年には50周年、また『ウルトラマンティガ』が放映されてから20周年と、節目の年を迎えます。
これだけの長きにわたってウルトラマンシリーズを続けてこられたのは、やはり創業者の円谷英二をはじめとした制作スタッフの誰も見たことがない作品を作り上げようという情熱と、それを支持してくれたファンのおかげでしょうね。
多くの方に支持される作品というのは、計算だけでは絶対につくれないと思うんです。一番重要なのは情熱じゃないでしょうか。
円谷英二と一緒に仕事をして、会話したことのある人間は、円谷プロダクションの中でほぼ私だけだと思いますが、円谷英二は「映画ではなく、テレビで新しいことをやりたい」、「子供たちに喜んでもらえるものを作りたい」、「いいものを作りたい」という熱い想いを持つ、いわゆる“職人”でした。
その熱意で、30分のテレビ番組とはいえ、撮影中にピアノ線が少しでも映り込んだ時や、編集されたものが面白くなければ、すぐやり直しをするようにスタッフに命じていましたね。あまり大きな声では言えませんが、相当な赤字だったはずです。(苦笑)

また、円谷英二だけではなく、シリーズ構成を担当した脚本家の金城哲夫や、ヒーローや怪獣のデザインを担当した成田亨をはじめとした他スタッフも同じ想いを持っていました。
作品にはクレジットが残りますし、人気を得たシリーズならば再放送という形で5~10年先でも見てもらえる可能性があります。そのため、スタッフもいい加減な作品にはできないので余計に力が入るという別の作用もあったのかもしれません。
今現在でも我々はその情熱を受け継いで作品をつくっていますが、限られた制作費の中で、知恵を出しながら、視聴者が期待に応える作品をつくらなければいけませんので、いい意味でプレッシャーを感じています。“ものづくり”は本当に苦しいですよ。
また、円谷英二だけではなく、シリーズ構成を担当した脚本家の金城哲夫や、ヒーローや怪獣のデザインを担当した成田亨をはじめとした他スタッフも同じ想いを持っていました。
作品にはクレジットが残りますし、人気を得たシリーズならば再放送という形で5~10年先でも見てもらえる可能性があります。そのため、スタッフもいい加減な作品にはできないので余計に力が入るという別の作用もあったのかもしれません。
今現在でも我々はその情熱を受け継いで作品をつくっていますが、限られた制作費の中で、知恵を出しながら、視聴者が期待に応える作品をつくらなければいけませんので、いい意味でプレッシャーを感じています。“ものづくり”は本当に苦しいですよ。
もう一つの要因を挙げるとしたら、メディアの変遷です。
1966年当時のカラーテレビの普及率は1~2%程度でしたので、当時の視聴者の多くは、モノクロで見ていたんです。ウルトラマン特有の赤と銀のカラーリングや、カラータイマーの点滅、隊員のたちの服装の色も、何色なのか分からない。
それが、カラーテレビが普及するようになると、モノクロの世界観とは全く違う作品に見えますので、更に深く記憶に残ったのかもしれません。
更に、当時は特撮作品がほとんどありませんでしたし、ヒーローものも今ほど多くありませんでした。そのため、怪獣ものなどの特撮作品はお金を払って映画館で見るしかなかったのですが、ウルトラマンはテレビで無料で見られるということもあり、一気に支持を得ました。当時の最高視聴率は42.8%。今振り返ってみても、すごい数字ですよね。「映画ではなく、テレビで新しいことをやりたい」というスタッフの情熱が視聴者にも伝わったのではないでしょうか。
もう一つの要因を挙げるとしたら、メディアの変遷です。
1966年当時のカラーテレビの普及率は1~2%程度でしたので、当時の視聴者の多くは、モノクロで見ていたんです。ウルトラマン特有の赤と銀のカラーリングや、カラータイマーの点滅、隊員のたちの服装の色も、何色なのか分からない。
それが、カラーテレビが普及するようになると、モノクロの世界観とは全く違う作品に見えますので、更に深く記憶に残ったのかもしれません。
Q.ウルトラマンシリーズを通じた三世代マーケティングについてお聞かせください。

ウルトラマンシリーズの放送開始当時に子供だった世代は、現在55歳~65歳になります。放送開始から来年で50年になり、その間にシリーズを作り続けてきましたので、その子供も孫もウルトラマンシリーズを見ているんですね。
過去の作品を三世代で見るというのはなかなか難しいかもしれませんが、最新の作品の中で、ウルトラマンが戦ってピンチになると、歴代のウルトラマンが助けにくる設定にしています。つまり、今の子どもが見ている最新のウルトラマンシリーズの中で、親や祖父の世代に登場したウルトラマンが共演するということです。三世代で同じヒーローを共有できますので、「このウルトラマンは昔こうだったんだよ」、「この当時こんな怪獣と戦っていたんだよ」と世代間の会話が生まれます。世代が違っても、共通項の話題が持てる。これが我々の三世代マーケティングの特徴ですね。
1966年当時は放送時間帯も含めて、子供のためだけの作品ではなく、大人を含めたファミリー向けの内容でした。平成以降は玩具メーカーのバンダイさんと一緒につくってきた経緯もありますので、どうしても子供向けコンテンツとして思われがちです。しかし、我々は昔から変わらず、子供だけではなく大人に対しても大人だからこそ本質的に分かるメッセ―ジを込めて制作しています。
そのメッセージの根底にあるのは、「愛」、「正義」、「あきらめない気持ち」といった普遍的なものですが、各時代の背景や価値観を踏まえています。
どの作品でも、ヒーローであるウルトラマンが、地球の平和のため怪獣と戦う、というストーリーですが、登場する怪獣の特徴やバックグラウンドの設定で我々のメッセージを込めて表現することが多いですね。
怪獣あってのウルトラマンですし、数多くの怪獣がいることでファンに楽しみを与えていますので、一番のヒーローはウルトラマンですが、主役は怪獣といっても過言ではありません。
Q.込められたメッセージの具体例があれば教えてください。
2011年3月11日の東日本大震災が起きる前、新しい映画の脚本開発をしており、ほぼ方向性が決まったところでした。しかし、その後震災が起き、あれだけの甚大な被害がありましたので、怪獣がビルを次々に壊すというという描写を全て変更することにしました。そして完成させた作品が、2012年3月公開の「ウルトラマンサーガ」です。
今の世の中、どうしても目先のことばかりになってしまいがちですし、震災のことも時が経てば風化してしまいます。
しかし、あの時日本全国で共有した「復興」、「助け合おう」、「みんなでがんばろう」といったことは、これから先の世代とも共有していかなければなりませんよね。「ウルトラマンサーガ」にはそんなメッセージを込めました。
直接的なメッセージではないですが、震災を経験した世代が、将来の子供、孫と一緒に見てメッセージを共有できるよう、映画の最後にウルトラマンが宇宙に帰るシーンで、夜の暗い東北地方に明かりが少しずつ点いていく演出にしました。
我々としては、こういったメッセージを込めたウルトラマンシリーズが各世代間をつなげる、接着剤になってくれると信じています。
Q.「シニア」とはどう定義づけされていますか?

よく60歳以上、65歳以上をシニアとされることが多いようですが、60代後半でも現役の方もいらっしゃいますし、色んな立場の方がいらっしゃいますので、年齢で定義づけないほうがいいですね。
我々はコンテンツ軸で定義づけており、「ウルトラマン」放送開始当時の視聴率約40%を支えてきた世代の方を「シニア」としています。
また、ウルトラマンというヒーローの特性上、どうしても我々にとっての「シニア」=男性になってしまいます。ウルトラマンの認知度自体は90%以上ありますが、一般的に女性はヒーローに興味ないですよね(笑)。ウルトラマンという名前は知っているが詳しい内容までは分からないという女性がほとんどだと思います。 ただ、女性が安心してお子さんやお孫さんに見せることができるコンテンツ、キャラクターだと思いますので、女性の好感度も高いのではないでしょうか。
「シニア」世代は長年のファンですから大切にしていきたいですし、これから更に密なるコミュニケーションをとっていきたいと考えています。
ウルトラマンというキャラクターを通じて若い頃を思い出し、元気をもらうなどして活力にしていただきたいですね。それが今までウルトラマンを育ててくれたファンへの恩返しですし、社会の一員として我々がやらなければいけないことだと思っています。
Q.「シニア」とはどんな特徴を持っていると思われますか?
私も68歳(取材当時)のいわゆるシニア(認めたくはありませんが・・・)ですが、70年安保時代を経験した世代ですので、それぞれが異なる価値観・生きる指針を持っています。何か押し付けられると、“そうじゃない!おれたちはこういうやり方をしてきたんだ!”という、プライドのようなものですね。
そのため、「シニア」という大きい括りの中で、何か一方的に押し付けても、あまり響かないと思います。価値観が多種多様だからこそ、それぞれのバックグラウンドに応じたやり方が必要です。
しかし、唯一大きい括りの「シニア」の中で入り込めるキーワードがあるとすれば、それは「孫」です。
私自身も3人の孫がおりますが、孫には絶対嫌われたくないんですよ(苦笑)。ここだけの話、子供より可愛いです。親ではないので、教育についての責任もないですし、とにかく財布の紐が緩みます。同窓会での話題も、「病気」か「孫」の話がほとんどですし、皆「孫」の話になると顔つきが変わりますよ。
Q.ウルトラマンは三世代を共有できる数少ないキャラクターと思いますが、何かベンチマークされている企業やキャラクターはありますか?
他キャラクターや企業の展開を模倣するのではなく、円谷プロダクションならではの展開をしていきたいと思いますので、特にベンチマークしているところはありません。できれば、我々が「三世代マーケティング」におけるモデルケースになるように結果を残さなければいけませんし、それが責務だと考えています。
前例がないため、新しい取り組みとなると知恵を絞らなければいけませんね。
例えばですけど、日本国内だけでなく、ウルトラマンの認知度の高いアジアでの企画展開等、マーケットを広げていきたいと思っています。それには、さまざまな視点や戦略が必要ですし、海外の方と情報共有・交換することにより、我々の想像を超えた成果が生まれるかもしれませんね。

©円谷プロ
株式会社円谷プロダクション ホームページ
http://www.tsuburaya-prod.co.jp/
円谷ステーション – ウルトラマン、円谷プロ公式サイト
http://m-78.jp/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
シニアマーケット創出には
「リピーターの育成」が重要
株式会社京王百貨店
経営企画室 部長(経営企画・広報担当) 新藤 佐知子氏
営業政策部 営業政策担当 統括マネージャー 常井 克清氏
「シニアマーケティング」という単語すらない20年前からシニア層をターゲティングしてきた株式会社京王百貨店。同社はお客様の声を第一と捉え、売場の販売員と連携しながら長きにわたりマーケティング活動を推進しています。今回のインタビューでは、取り組みのきっかけから、シニア予備軍の取り組み施策、また2014年11月にオープンした「くらしサプリ」、そして今後の取り組みに至るまで、幅広くお話をお聞きしました。
2015年3月 取材

Q. 現在シニアマーケティングにお取り組みされていらっしゃいますが、まずお取り組みのきっかけを教えてください。
まずは、取り組みを始めたのは20年前に遡りますが、当時はまだ「シニア」というよりも50代の「ミセス」という据え方でした。この「中高年」のお客様を大事にしようという考え方が、当社のシニアマーケティングの第一歩だったといえます。
そして、このような考えに至ったのは、百貨店の売上が1991年をピークに下落傾向に入った頃のことです。
また、同タイミングで新宿の南口に髙島屋さんが出店されることになり、大型百貨店がひしめく新宿駅エリアに髙島屋さんができたら、本当にお客様がいなくなってしまうのではないか・・・と、創業以来最大の危機と受け止め対策を講じることになりました。
そこで、京王百貨店としての強みを新たに見直したときに出た案の一つが、「中高年」や「ミセス」だったわけです。
新宿店のように駅に隣接する店舗は、比較的年齢層の高いお客様が多い傾向にあります。
更に当時は創業30周年を迎えるタイミングでした。
つまり京王百貨店が創業した当時に、20~30代で、長きに渡り当社を支え続けてくださっていたお客様が、50~60代にさしかかる頃です。
50~60代という年代は、ご自分の時間ができ、お金が持てるようになり、また若い頃、独身の頃のように買い物に戻ってきてくださる年代でもあります。
そこで、創業当時からご愛顧くださったお客様を改めて大切にしていくという意味も込めて、このような取り組みを始めました。
Q.具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか。
ひとつ目にはミセスの皆様へのわかりやすいアプローチです。
京王百貨店には婦人服フロアが3つあるのですが、そのうちの1つを戦略フロアと位置付け、ミセスのお客様にターゲットを絞った商品展開を開始しました。それが1995年の秋頃の試みになります。
ミセスの皆様が洋服の購買する動機として最も大きいのが「旅行」です。しかし、当時はまだバブル直後でしたので、他の百貨店も含めて洋服はまだまだ価格が高い時代でした。
そこでミセスの皆様向けに、1万円前後の価格帯で、かつ旅行や日常のちょっとしたお出かけに相応しい洋服ラインナップの充実化を図りました。ポイントとしては、「旅行にも使えるけど、あくまで日常性を大事にする」ということです。
ふたつ目の取り組みが、1階に設置したウォーキングシューズの専用コーナーです。今でこそこのような売り場はよく見られるようになりましたが、当時の百貨店の婦人靴売り場というのは、パンプスなどのヒールがある靴が圧倒的に中心で、ウォーキングシューズは売場の片隅に置いてある程度でした。
新宿店は駅に隣接している店舗ですし、ミセスは特に足に悩みのあるお客様が多いだろうと想定し、そのお客様をリピーターにつなげるための独自性のある売り場をつくれるのではないかということで、ウォーキングシューズの専用コーナーを作りました。
新設した売り場では、単に商品を並べるのではなく、お客様に積極的に商品提案できるような環境も整備しました。
シューフィッターの資格を持つ社員を配置し、お客様の足に合う一足を、ブランドの枠を超えてご提案できるような体制を整えました。この試みが非常に好評で、今に至っております。
Q.お取り組みをされるにあたり、当時ご苦労されたことはありますか?
繰り返しになりますが、当時はシニアマーケットという言葉自体ありませんでした。ですので、シニアというターゲットの中に大きなマーケットが存在するのかどうか、そして仮にそのようなマーケットが存在したとしてそのマーケットは百貨店が狙うべきものなのかどうか、手探りのまま進めておりました。
その当時の当社の決断は業界内でも異端児扱いされました。取引先様からも当社の先行きを疑問視するお声をいただいた記憶もございます(苦笑)。
Q.シニアマーケットという言葉自体がなかった当時から現在に至るまで、マーケットを分析にはどのような手法を用いられましたか?
当初からシニアマーケットの創出のために重要なのは「リピーターの育成である」と考えておりました。そのための施策としてカード会員の獲得キャンペーンをはじめました。売上の約7割がカード会員の情報になると、カード会員情報が店全体の傾向を示してくれると言われています。ですので、まずはとにかく7割のお客様にカードを保有していただくべく、積極的にカード会員様を増やしていきました。
その結果、1994年は約20万人程度だった会員が、1999年に50万人を突破しました。現在は100万人を超えています。カードデータというのは、いつ、どこで、何を買ったのかが明白にわかります。ひいてはそこからお客様の顔が見えてきます。流通業にとってカードから得られる購入履歴というのはナニモノにも変えがたい非常に有益な情報です。
しかし購入履歴をベースにしているカード情報だけでは、どうしてもわからない情報があります。それは「買わなかった」という情報です。
マーチャンダイジングを行うに当たって、「お客様が何を購入しなかったのか」、「なぜ買わなかったのか」という情報は、「買っていただいた」という情報に勝るとも劣らず重要なソースとなります。この情報を得るためには、お客様と会話をしている販売員から情報を吸い上げるしかありません。
この点を踏まえ、カードからの購買データ、いわゆる定量データと、販売員メモとして収集するお客様の声、いわゆる定性データをうまく組み合わせて、マーチャンダイジング、顧客対策、そして売場づくりにフィードバックしていったのです。やがてこの活動が奏功し、お客様がまたご来店され、またその声に応える・・・という好循環のスキームが始まりました。
このスキームにより、少しずつお客様のご支持を得るカテゴリーを増やしていくことができました。今のような売り場が構築できた背景には、このようなマーケティング分析があります。
Q.当時の百貨店の戦略はエリアマーケティングが主流だったと思うのですが、その点はいかがでしたか?
はい、ご存知のとおり、京王百貨店はご存知のとおり京王電鉄を核とした京王グループの百貨店です。ですので、必然的に京王沿線を中心とした小田急線・中央線沿線などを含んだ、いわば新宿以西が、主要な商圏になっておりました。
しかし、生き残りの策としては取り組んだ中高年戦略は、他の百貨店にない特徴です。
立地だけではなくニーズによって店を選ぶという時代に少しずつ変わっていく中で、当社の試みは結果的に新宿に乗り入れている都営新宿線や埼京線等、広域エリアのお客様にも振り向いていただくことに繋がりました。
結果として、シニアというターゲット設定を行ったことが、京王百貨店の商圏を「新宿以西という線から、新宿を中心とした面へ拡げてくれた」と言ってもいいかもしれません。
Q.京王百貨店の突出したシニアマーケティングは、その後どのような反響を生みましたか?
当社の戦略が少しずつ認知され、また、団塊世代の定年退職に伴いシニアマーケットが俄然話題性を集めたのが2007年頃でしたが、ちょうどその頃から、私どもも自身の持っている強みを、もっと外に切り出していけないかという検討を始めておりました。
そしてちょうどその頃、三井不動産のららぽーとさんから、出店のオファーをいただきました。当時、ショッピングモールは増加傾向にあり、全国各地に大型のショッピングモールが林立し始めていましたが、そのテナントはほとんどが若年層をターゲットにしている出店傾向でした。
そんな中「3世代集客」という課題に取り組まれていたららぽーとさんでは、3世代の皆様に幅広くお買い物をしていただけるようなモール作り、すなわち特に祖父母世代の皆様にも支持していただけるようなテナント展開を実現するため、当社のノウハウにご期待くださったのです。
その後2009年にららぽーと新三郷内に京王百貨店初のサテライト店を出店。洋服を始め和・洋菓子、そしてギフト商品などを取り揃えたショップですが、京王百貨店のシニア戦略が、沿線外へ進出を果たした第一歩となりました。
前述したとおり、元々鉄道系の会社ですので、京王線沿線以外に出店するイメージはなかったと思いますし、私ども自身にもそのような発想はありませんでした。
しかし、中高年に強いという特徴を作れたからこそ、このようなお声掛けいただけたのだと思います。
ららぽーと新三郷への出店により、都心部とは違った百貨店に対する需要があることが分かりましたので、2012年にはセレオ八王子にも出店し、2015年の4月にはららぽーと富士見にも出店することになりました。ここから得られる新しいノウハウをもとに、今後は更に新しい市場への進出に取り組んで行きたいと考えています。
Q.出店のみならず、商品開発にもチカラを入れてらっしゃるとお聞きしておりますが?
はい、2014年からアパレル事業への取り組みをはじめております。長年の取り組みにより、ミセスファッションのノウハウも蓄積されてきましたので、同じ京王グループの関連会社である株式会社エリートを通じて、「ミ・デゥー」という婦人服ブランドの製造・小売り・卸売を手掛けています。
当初は新宿店と聖蹟桜ヶ丘店の2店舗でスタートしましたが、今後はメーカーとして他の百貨店への出店や専門店への卸売り事業を進めていきたいと考えています。
また、2年目となるこの春夏商品からは、価格を抑えたセカンドラインを立ち上げました。
聖蹟桜ヶ丘店やサテライト店のような郊外型の店舗では、より買いやすい価格帯が求められるからです。現在はサテライト3店舗でも展開をしています。
これらのブランドをうまくミックスさせながら、地方や郊外にも出ていきたいと考えており、2015年秋からは他の百貨店にも出店する予定です。
Q.マーケティング活動をされる中で、何かキーワードになるものはありますか?
皆様もお気づきの通りだと思いますが、やはりシニアの皆様の関心事というのは、まずは「健康」、そしてその先にある「美」といったキーワードだと思います。ただ、今では想像し易いこれらキーワードですが、私どもがそこに需要があるということが分かり始めたのは2001年頃だったと思います。言い換えれば、特にその頃からシニアの皆様の「健康と美」への投資が目立ってきたと言えるのではないでしょうか。
また、20年もシニアマーケットと向き合っていますと、その間にもお客様の世代交代、そしてライフスタイルや嗜好の変化を感じる場面は多々あります。顕著なのは、当初私たちがターゲットにしていた戦前生まれのシニア方と、団塊世代の違いです。戦前生まれの方は日本式のスタイルで育ち、よく歩かれ、そして畳の上で暮らす生活を主としていました。しかし戦後世代は椅子中心の生活を送ってらっしゃる上、戦前世代の皆様とは食事環境や栄養摂取状況も違います。
ライフスタイルの違いについてはよく言われますが、このような生活環境の違いから戦前世代と団塊世代では、例えば足の形などにも違いが見出せます。同じシニアといっても、20年の間に心身ともに変化が起こっているのです。
ならば、同じウォーキングシューズでも戦前生まれの方たちとは形状も異なりますので、世代に合わせた商品を提案していかなければいけません。ひとつの売り場内でも、このようなマイナーチェンジを繰り返していく必要があります
Q.戦前生まれから団塊世代、そしてその先の世代はどのように捉えられているのでしょうか。
これから先の世代として特徴的なのは、バブル世代やハナコ世代とも呼ばれるグループに象徴されるような40代後半から50代のお客様ですね。この15年間の顧客動向を見ると50代後半から70代前半にかけて大きなお買上げのヤマができる傾向にあります。次世代シニアであるハナコ世代へもっと種をまき、購買を増やしていく必要があります。常に現在の中心顧客を大切にしながらも次の新しいシニア層との接点を拡大し、そのニーズを探り、挑戦していかなくてはなりません。
幸い私たちが店を構える西新宿はオフィス街であり、ここには次世代シニア層である40・50代の女性が数多く勤務していらっしゃいます。この方たちへのアプローチを数年前から強化しています。この世代は年を重ねてもシニアと呼ばれたくないと思っているものの、年齢による体型変化に対応した、おしゃれで着心地の良い婦人服を求めています。そこで、2014年に「プレミアムキャリアスタイル」というキーワードで婦人服売場を改装し、管理職もいらっしゃるであろうこの層のオフィスファッションを拡充しました。3フロアある婦人服売場の中でも、このゾーンは好調で確実に顧客を増やしています。
目の前にいらっしゃる顧客のニーズを吸い上げ、売場展開に反映させていく、というのは当社の得意な手法ですので、これまで私たちが培ってきた強みをうまく生かしていきたいと思います。
Q.シニアターゲットに訴求する際気を付けていらっしゃること等あればお聞かせください。
なんといってもシニアは百貨店に対して大きな信頼を寄せてくださっていますので、その信頼に応えることが第一です。それとともに百貨店にいらっしゃる方は、店頭での人と人とのつながり、会話を求めていらっしゃる方が多いので、売場での接客対応が重要です。
また信頼、ということでは、たとえばテレビでご覧になるアナウンサーの方がお召しになっているファッションなどにも好感を持っていらっしゃいますし、お友達の口コミを含めて信頼できる相手からの情報を優先する傾向は強いと思います。
その他、シニア世代への訴求はWEBメディアが有効でないというお話もよく耳にしますが、以前に比べてWEBでのお買物は増えています。シニアとWEBの関係も変化していると思いますし、これからのターゲットに対してWEBは一つの情報の動線に十分なりうるであろうと捉えています。
Q.昨今の新たなお取り組み、「くらしサプリ」についてお聞かせください。
ミセスへの取り組みをはじめた約20年前の中高年の環境や関心、ニーズはある程度ステレオタイプでした。しかしながらこの10年ほどで急速に幅が広がっていると実感します。嗜好や消費動向も変化していますし、また非常に多様化していると言えます。
これまでのモノ軸ではある程度お客様のニーズに応えた商品展開や売場づくりができていると思うのですが、それだけではニーズの多様化に応えられなくなってきました。
そこで、モノ軸だけでなく、もう一歩踏み込んだコトを充実させようと取り組みをはじめ、2014年11月に8階フロアにある「くらしサプリ」をスタートさせました。
現在、「いきいきと生きる」「わくわくを楽しむ」「あんしんを増やす」「かいてきに暮らす」という4つの分野で写真のようなサービスを展開しております。

近年は、シニア向けのサービスもかなり増えてきていますが、そのニーズが多様化している分、利用者の目線に合致していないものも多数あります。
例えば、人間ドッグやMRI等は、医療機関に申し込めばどなたでも受診可能ですが、ご夫婦で一緒に受診しようと思ってもこれらのサービスは実は受診可能日が男性と女性分かれていることが多いのです。「夫婦一緒に人間ドッグに行きたい」というお客様のお声を受けて、医療機関様に働きかけています。
また、「くらしサプリ」は一次的なニーズに呼応するだけでなく、「潜在的な部分まで含めてニーズに対応してくれる場所」、「問題を解決できる場所」、そして「楽しいことがある場所」であることを目指しています。そのためカウンターサービスだけではなく、定期的にイベントも開催しています。買い物に来られたついでに同じ建物内で教室等に参加できるという気軽さもあり、非常に好評です。もちろん、リピーターのお客様も多くいらっしゃいますので、毎回違うコンテンツで楽しんでいただけるよう、季節に合わせて変化させたりするような工夫も施しています。

Q.コトを商品にするとなると、目に見えないものを商品化するわけですが、どのようなプロセスで商品開発をされるのでしょうか。
モノ軸と同様に、お客様が望まれることを対面で拾い上げ、それに応えられるようなサービスに開発しています。特にお客様のニーズを拾うということは、京王百貨店としてこれまで売場で実践してきたことを十分に活かせる部分です。
売場ではありませんが、8階にはカウンターを設けておりますし、イベント開催時にお客様のお声・ニーズをできる限り拾うようにしています。
カウンターではコンシェルジュのように色々なサービスの中からお客様のニーズにあう商品をご提案しているわけですが、当然お応えできない場合もあります。もっとこんなサービスがあればニーズに応えられるのに、といった現場の声も重要になってきます。
またお客様のお声がモノにつながることもあります。お客様自身何となくこんなコトがしたい、とおっしゃっていても、お話を聞いていくとニーズを満たすのが実はモノであったりします。本来「くらしサプリ」はコトのサービスですが、モノの商品開発にもつなげていける可能性も秘めています。
それができるのも、京王百貨店が全国展開していないからというのもあると思います。全国何十店舗も展開していれば、ニーズの最大公約数を反映せざるを得ないのですが、2店舗という小規模でありながらも、新宿という立地である程度のターゲット母数がありますので、それに応えるだけでもかなりのマーケットはありますね。
Q.人気のサービスやイベントはどのようなものでしょうか。
イベントですと、スマートフォンやタブレット教室、絵画教室等が人気です。
「健康」というキーワードも非常に人気ですが、それと同じくらい「楽しむ」ことに対しての関心が大きいように思います。特に絵画教室はお申込み多数で早くから定員に達することが多いですね。「楽しむ」ということや「趣味」に関しては、これから元気なシニアが増える中で非常に有用なコンテンツかと思います。
Q.戦前生まれの方から団塊世代、ハナコと3つのフェーズがあるとお聞きしたのですが、大きくなっていくシニアマーケットをどのように区分し整理していらっしゃるのでしょうか?
これまで年代を軸にターゲットを考えてきましたが、近年定年後も仕事をされる方もいらっしゃれば、年金をもらっている方、単身の方等さまざまですし、生活スタイルも多様化しています。昔は比較的画一的なマーケットだったものが、最近は年齢軸だけでは区切れないほど細分化されていますので非常に難しいですね。これからもお客様のお声を分析し、新たな軸を見つけていきます。
Q.最後に、「くらしサプリ」も含め、今後の取り組みについてお聞かせいただけますでしょうか。
これから、もっともっと元気なシニアが増えることが想定されますので、趣味の分野は増やしていきたいと考えています。
これと、同時にやはりニーズが大きい介護関連への取り組みも重要と考えています。
趣味と介護は真逆の要素ではありますが、ニーズが顕在化しているにも関わらずそれに応える商品・サービスが不足していますので、我々としても何とかお客様の声にお応えできるようにしたいです。
シニアという言葉はどうしてもネガティブな印象がつきまとってしまう側面があります。
しかしそんなイメージを払拭して余りあるほど、明るく楽しく暮らしていただけるような、ポジティブな施策をどんどん打って行きたいと考えています。
特に介護となると、大変、辛い、というイメージが強くなってしますが、極端なことを言えば「介護でさえ明るく前向きに」なるようなサービスをご提供することが私どもの使命です。
そしてもう一点、今後の強化ポイントはWEBとの連動です。
イベント等の告知ももちろんですが、イベントへのエントリーや、WEB上のコンテンツ自体がサービスの一環になるように提供していきたいですね。
今のシニアの皆様も既にWEBには積極的に触れ合っていらっしゃいますが、これから5~10年後のシニアにおいてはその傾向は更に顕著です。
例えばWEBでのお買い物など何の抵抗もなく、当たり前にこなされる世代です。
現在でも一部eコマースには取り組んでおりますが、この点を更に強化し今後更にお客様と接点を拡大していきたいですね。
そうすれば、「お客様の声を現場に反映する」という従来からの京王百貨店らしさを、WEBによっても築いていくことができるはずです。
最後に、私ども京王百貨店には幸いにしてご支持をいただいている「お客様」と、コミュニケーションの場としての「スペース」があります。
これらの経営資源を活用して、これからも新しいマーケティング活動にチャレンジしていきたいと考えております。
ですので、同じくシニアマーケティングにチャレンジしようとしているメーカー様やサービス業様とは積極的に協力し、新たな商品やサービスの開発をさせていただければと願っております。ぜひ、お声掛けをお待ちしております。
株式会社京王百貨店 ホームページ
http://www.keionet.com/defaultMall/top/CSfTop.jsp
くらしサプリ ホームページ
http://info.keionet.com/shinjuku/event/kurashisapli.html
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
セラピー効果に期待度が高まる
メンタルコミットロボット「パロ」
ヒューマン・ケア事業推進部 ロボット事業推進室主任 大場奈緒子氏
今や、産業界のみならず生活に身近で様々な利便性を提供してくれるロボット。 その中で今回は、人を元気づけ、安らぎを与えるメンタルコミットロボット※1「パロ※2」をはじめとしたロボット事業を展開している大和ハウス工業株式会社に取材を行い、シニアマーケットの中で「パロ」がどのような役割を担っているのか、また今後のシニアマーケットへの展開についてお聞きしました。
※1「Mental Commit Robot」、「メンタルコミットロボット」は国立研究開発法人産業総合技術研究所の登録商標です。※2「PARO」、「パロ」は株式会社知能システムの登録商標です。
2015年11月 取材

Q. メンタルコミットロボット「パロ」について教えて頂けますか?
「パロ」は、タテゴトアザラシの赤ちゃんをモデルに作られ、2002年2月26日にギネスブックに認定された「世界で最もセラピー効果のあるロボット」です。国立研究開発法人産業総合技術研究所の柴田崇徳上級主任研究員によって開発され、現在は、どのようにしてセラピーに取り入れていくかを二人三脚で考えています。
ちなみに、初めて販売を開始した時の「パロ」は第8世代ですが、現在のモデルは第9世代です。色のラインナップはホワイト・ゴールド・チャコールグレー・ももいろの4色です。
「パロ」には、アニマルセラピーと同等の効果が認められており、人を元気づける・動機づける「心理的効果」、ストレスを軽減させる「生理的効果」、コミュニケーションを活性化させる「社会的効果」の3つのメリットが期待されます。
コストの問題や、排せつ・食事、アレルギー等の問題で実際の動物を飼うことが難しい方に対して、24時間いつでも利用者に寄り添うロボットとして活用されています。主に認知症の周辺症状(BPSD)の抑制、緩和が期待され、特別養護老人ホームやデイサービスなどの高齢者向け福祉施設だけでなく、小児病棟などでも採用されています。
世界的にも、アメリカでは医療機器として認定されている他、デンマークでは、自治体が運営するケアホーム等の約70%にて導入されています。
また、オーストラリアにおいても、大規模な検証実験が行われています。私たちは「パロ」とともに国内の施設を巡りながら有効的な利用方法をご案内するとともに、現場のご要望などをメーカーへフィードバックする役割も担っています。

Q.ターゲットに対してはどのようなアプローチをしてらっしゃいますか?
当社は、平成元年に医療・介護施設に関わる問題を専門的に調査・分析する研究機関「シルバーエイジ研究所」を設立しており、高齢者向け施設の建設棟数は国内でトップクラスの実績があります。
そのため、ロボットだけでなく医療・介護施設の建設や、有料老人ホームなどの施設へのご案内等、大和ハウスグループ全体で総合的なサポートを提供できる体制をとっており、お客さまに対して「お困りのことは何ですか」といえるようにしています。
このように施設のスタッフの皆様や、施設をご利用頂いているお客さまの幅広いご要望にお応えしていくことで、これから先も末永くお付き合いさせて頂きたいと考えております。
Q.パロにこめられたこだわりなどを教えてください。
「パロ」は、性別や性格などの細かい設定はあえてしておりません。それぞれご利用いただくお客さまが、「パロ」をどう捉えるのか、という点にお任せしております。
例えば、犬を飼っていた方が、「パロ」にその犬の名前を付けることで心穏やかに過ごしていただけるのであれば、それで十分であり、その方の気持ちに寄り添うことが大切なのです。この仕事に携わらせて頂いてから、逆に勉強させて頂いています。
さみしい気持ちを抱えていたり、何か役に立ちたいという気持ちがあったり、思ったことが上手く出せなかったりする方でも、「パロ」を介して思いを引き出してあげることができるかもしれませんし、パロをお世話することで守ってあげたい存在ができるという点は大きいと思います。
Q.本日は、パロの実物を見せて頂いているのですが、とても可愛らしいですね。
音を感知するセンサーを全面に備えており、音に反応して顔を向けるようになっています。
また、なるべく本物の動物に近づけるため、スイッチが見えないところに隠されていたり、縫い目が分からない形になっていたりと、様々な工夫が凝らされています。
さらに、少ないアクチュエイターで自然な動きができるように追求してつくられています。いい言葉には喜び、悪い言葉には悲しそうな反応を示します。叩かれた感覚もわかるのです。日々の触れ合いの中で元気に育っていったり、おとなしくなったり、まるで感情があるかのように学習していきます。
また、「パロ」は自分で温度管理をしており、温度が上がりすぎると自ら休憩し、動物のような自然な温かさを保ちます。実際に抱いていただくとわかると思うのですが、新生児の赤ちゃんと同じくらいの大きさと重さになっており、体重は約2.5kgです。これはお子様が生まれたときに抱っこした感覚を踏襲しています。
パートナーとして長くご使用いただくために、一体ずつ手作りで仕上げられており、それぞれわずかながら表情に違いがあります。
制菌加工、防汚加工、抜け毛加工が施された人口羽毛が使われています。電磁シールドを施してあるので、ペースメーカーをお使いの方でも安心してご使用いただけるようになっております。
Q. パロが施設にいたら本当に人気者になりそうですね。パロに対して実際はどのような反響があるのでしょうか?
非常にご好評をいただいています。心穏やかに触れ合ってもらうことができるロボットですので、コミュニケーションを活性化させるツールの一つとして使って頂きたいと思っております。施設でのアクティビティとしてはもちろん、個室に連れて行って可愛がる方もいらっしゃいます。

また、非常に嬉しい報告をお手紙でも頂いています。認知症を患うことによる不安な気持ちを解消してくれた、本人も家族も「パロ」によって元気になったというお話を聞くと、私たちとしても大変喜ばしく思います。
Q.シニアマーケットをどのように見ていますか。
超高齢化社会で、働く人が少なくなっていく中、マーケットとしては非常に大きいと感じています。
中でも、高齢者世代にはロングライフ時代の老後の暮らしに対する不安とどう向き合うか、あるいは快適な老後生活を実現するためのQOL(生活の質)の向上が強く問われているところがありますが、一番大切なことは「元気で長生き」というところだと思います。
こうした、「元気で長生き」をサポートする製品については、現場で利用する方の声が開発側者に届きにくく、現場と開発側にミスマッチがあると言われています。
そこで、利用者の声を届けるためには、販売代理店である私たちが、こういった生活支援ロボットの特性を理解し、利用者側に伝え、あわせて、現場ではどのような活用がされているのか、どのような改善点があるのかを開発者に伝えるという役割は非常に重要だと感じています。
もちろん「パロ」が全ての方に合うわけではないと思います。これからコミュニケーションを自ら活発にとる、介護予防ができる、脳の活性化を進めるなどといった特徴的なロボットが世に出てくることで、選択の幅が広がり、一家に一台ロボットがある状態も夢ではないと考えております。
また、サービスロボット業界全体の活性化にもつながると考えています。弊社も様々な用途のロボットを展開することで、在宅にて、「元気で長生き」していただけるよう励んで参ります。
Q.課題などありましたらお聞かせください。
介護負担の軽減のためにも「パロ」やその他のロボットを使って頂けたら、と思っております。常に徘徊する方や目を離したすきに移動してしまう方に対しては、つきっきりになる必要があるため、介護する側にもストレスや腰痛などの負担がかかってしまいます。
高齢化社会の中で、人でなければできないところ以外をロボットにサポートしてもらうことができれば、効率的で良い働き方に変わっていくのでは、と感じます。
「パロ」は、日本ではまだまだペットの代わりという面が強いので、セラピーとしての使用方法を普及させていきたいと思います。まずは、多くの人に知って頂くことが必要だと感じています。

Q.様々なロボット展開をされているということですが、そのほかにはどのようなロボットがあるのでしょうか。
尿を自動で吸引しおむつ交換の手間や負担を軽減する「ヒューマニー※3」、体重を免荷しながら安全な歩行訓練をサポートする「POPO(ポポ) ※4」、脚力が低下した方や下肢の不自由な方の自律動作をサポートするロボットスーツ「HAL(ハル) ※5」、難聴の方をサポートする耳につけない会話支援機器「COMUOON(コミューン) ※6」、悪路でもスムーズな車椅子の移動をサポートする「JINRIKI(ジンリキ) ※7」など、人・暮らし・社会をアシストするための事業展開を行っております。
実際に触れてみなければ分からないこともあるかと思います。大和ハウス東京ビル1階にございます、当社の高齢社会への取り組みを紹介する施設「D’s TETOTE(ディーズ テトテ)」では、コンセプトムービーや実際の商品を紹介しておりますので、当社にお越しの際はぜひお立ち寄りください。
※3「HUMANY(ヒューマニー)」、「Humany」はユニ・チャーム株式会社の登録商標です。
※4「POPO(ポポ)」は株式会社モリトーの登録商標です。
※5「ロボットスーツHAL(ハル)」「CYBERDYNE」、「ROBOTSUIT」はCYBERDYNE株式会社の登録商標です。
※6「COMUOON(コミューン)」はユニバーサル・サウンドデザイン株式会社の登録商標です。
※7「JINRIKI(ジンリキ)」は中村正善氏の登録商標です。
大和ハウス工業株式会社 ホームページ
http://www.daiwahouse.co.jp/index.html
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
フランスベッドが提供する”人にやさしい
モノづくり”ブランド「リハテック」
フランスベッド株式会社 インテリア営業企画部 佐藤則行 氏
フランスベッドホールディングス株式会社 広報部 梅本綾乃 氏
フランスベッド株式会社様は、言わずと知れた日本を代表するインテリアメーカーですが、電動アシスト機能付三輪車や介護用ベッドなど、介護・福祉用品メーカーとしても30有余年の歴史を有し、業界を牽引する存在です。インテリアメーカーとしての技術・ノウハウを介護・福祉用品の開発にも生かした「リハテック」シリーズの商品はシニア層から強い支持を得ており、直営の「リハテックショップ」も運営されています。今回のインタビューでは、アクティブシニアをターゲットとした「リハテック」ブランドのモノづくりを通じて、そこにあるマーケティング手法や商品開発に至るまでのプロセスなど、様々なお話をお聞きしました。
2014年12月 取材

Q.早速ですが、御社の「リハテック」ブランドの沿革からお聞かせいただけますか。

佐藤氏) フランスベッドという会社は、皆様にはインテリア事業において馴染みかと思いますが、実は介護・福祉用具の販売・レンタルを30年前から行っていたという経緯があります。
ご承知の通り日本では高齢化が進行しています。そこで、私どもが30年間培ってきた福祉分野のノウハウ、そして特にお客様と直接触れ合ってきた実績値を何かに活かそうと考えた結果、介護が必要になる少し手前の比較的アクティブなシニア層へ商品を提供しようということになりました。そこで作られたブランドが「リハテック」なんです。
梅本氏) 私どもは創業65周年の会社ですが、その65年というのは、主にご家庭で使っていただくようなベッドなどインテリア用品を造ってきた歴史といえます。
しかしながら実はその間に、2社程の別会社も擁立しており、その一つが先ほど佐藤が申し上げた介護・福祉用具の販売・レンタルを提供してきた「フランスベッドメディカルサービス」という会社なのです。メディカルサービスは1987年の設立以来、在宅介護ベッドや福祉用具の販売・レンタルを手掛けてきた会社です。
その後、2009年にフランスベッドと合併し、両社の血が混ざりあうことによって、幅広い商品開発につながっています。

合併するまでの両社は兄弟会社ではあったものの、インテリアと介護福祉という畑違いな業界にいましたので、なかなか融合する機会がありませんでした。合併により両社の強みを共有しシナジーを生むべく創立したのが「リハテック」ブランドになります。
Q.最初の商品がリリースされたのはいつ頃だったのですか?
梅本氏) 実際の商品がリリースされたのは今から3年前のことになります。
我々は元来ベッドを作るメーカーですので、“寝る”ことについては多数のノウハウがあります。リハテックでも“寝る”ことに関する商品からスタートしそうなものなのですが、実は「リハテック」ブランドの最初の商品はベッドとは全く違うものからスタートしました。それは、自社開発の「電動アシスト三輪自転車」なんです。

この商品をリリースした背景としては、当時、「買い物難民」という言葉が世間の話題になりつつあったことが挙げられます。「買い物難民」は、つまり高齢化により足腰や身体が不自由になった高齢者が、なかなか買い物に出かけることができず、生活に支障が出てしまう問題です。例えば東京だけ見ているとこの問題は看過されがちですが、地方に行けば今も大変切実な問題です。
まずシニアの方は車の運転ができない。そして地方では鉄道は充実してない場所も多いですし、生活の足であるはずのバスも本数が少なく待ち時間が長い。もちろん、重い荷物を持って長い道のりを歩けないですし、もし家族がいたとしても、その家族の都合など顔色を伺いながらの買い物というのもなかなか苦痛なことです。
そういう負の事情を一つでも軽減しようという想いから開発したのが「電動アシスト三輪自転車」なんです。
Q.商品の開発をするにあたって秘話などがあればお聞かせください。
梅本氏) 商品開発にあたっては、何より「世の中の人が求めているモノを考え、それをカタチにする」というプロセスを基本として進んでいきます。
例えば前述した「電動アシスト三輪自転車」も、弊社の社員が実際に地方を回り、その実情を見て「大変な現実があるな」という想いから発案があり、そして開発に至りました。
ただ、本格的な福祉用具というわけではなくて、あくまでアクティブなシニア、つまり「まだまだ動きたいという思いがある層」に向けて開発した商品なので、全体的にコンパクトなデザインを心がけ、アクディブシニアにとって扱いやすい形状を心がけています。
また、乗り降りの際にまたぎやすいようにフレームの高さも低くし、小さな回転で漕げるようペダルを配置しています。イメージとしては、だいたい140センチくらいの小柄な方でも乗りやすいような設計と言ってもいいかもしれません。車体自体も28Kgと軽いうえ、電動アシストがついているのでこぎやすく動きやすいですよ。
佐藤氏) 更にこの商品の特長を補足すると、カーブを曲がるときに必要な調整バーに工夫があることです。
自転車ですので左右に曲がる際には必ず車体が傾きますし、傾かないと曲がれないのですが、三輪の場合この傾きが自然に発生するように車体の軸に傾き調整バーを装着する必要があります。
実は当社の三輪自転車の傾き調整バーは、ベッドに使っているものと同じ部品で造られているんです。
といいますのも、元々弊社ではスクーターのサドルを造っていた時代があるんです。
そしてそのサドル部分にはスプリングが入っていまして、そのスプリング製造技術を転用して始まったのがベッドの生産なんです。
今はもうスクーターのサドルは製造していませんが、順番から言うとベッド生産の方が後から始まったことになります。
そういう意味では当社は、今も昔も、「持っている技術を転用して、他のフィールドで活かすことが得意な会社」と言えるかもしれませんね。
Q.ターゲットにしている人たちは?
梅本氏) やはり、アクティブなシニアということになりますね。
理由はシンプルです。我が国の人口比率のボリュームゾーンがシニア層、そして特にアクティブシニア世代にあるからということになります。世代でいえば、60代後半~80歳の方々を想定しています。
ちなみに、「リハテック」の利用者は介護保険の対象ではない方が中心です。最近の傾向として感じるのは、高齢者であっても介護保険を利用せずに介護用用具を購入する人が多いということです。ですので、皆さん気持ちはまだまだお若いですし、最近は70代の人でもとてもお元気です。考えてみれば、つい最近まで第一線でバリバリにお仕事をこなしていらっしゃった方も多いわけですから、当然といえば当然ですよね。
そういう皆さんをターゲットにしているので、デザインにはとても気を使っています。いわゆる「年寄り臭い」デザインには絶対にしません。
弊社の強みは機能性もデザイン性も兼ね備えた商品をプロデュースできることと自負しています。長年インテリアの世界で研鑽を重ねてまいりましたので、この点についてはノウハウがあります。
佐藤氏) 介護保険のお話で言うと、シニア層の厚みがどんどん増している状況ですので、将来的に介護保険を継続することができないのではないか、国の財政では賄えないのではないかという懸念があります。
事実、今既にそれに対応する動きは始まっており、重度化しないと介護保険そのものが使えない制度に変わりつつあります。
例えば、2015年4月からは要支援1、2の人はデイサービスやヘルパーが、段階的に介護保険ではなく、地域の財源で実施する方向に変わっていく見通しです。
今まで介護保険が利用できていたのに、利用できなくなってしまうのは悲しいことですが、リハテックのような商品があることによって、そういった方々の日常生活に、役立ったような事例がひとつでも増えてくれたら嬉しいですし、実際そう言っていただけるような商品を幅広くプロデュースしているつもりです。
Q.デザイン性のお話が出ましたが、特にデザイン性を意識した商品事例などはありますか?

佐藤氏) 例えばシルバーカーですね。細かいことになるのですが、実は他メーカーでフレームまで着色しているものは少ないです。メッキむき出しのものが多いですが、弊社商品はフレーム部分まで赤や青などで塗装を施し、細かい点までこだわってモノづくりをしています。
梅本氏) 機能性の面では、シルバーむき出しの方が清潔だと考えることができるかもしれませんし、もしかすると手入れもしやすいかもしれません。
しかし、最近のシニアの方々は、本当にお若いのです。現実に「本当はタータンチェックのデザインのモノが欲しいんだ」という声も挙がっております。
まだ開発には至っていないのですが、検討の余地はありそうですね。需要があるのですから(笑)。
佐藤氏) 今のデザインもご好評をいただいているのですが、これ、実は元々フランスベッドの掛け布団カバーなどのデザインを利用して作っているんですよ。ファッション性を大切にしている背景には、フランスベッドでの商品開発の実績があるんです。

梅本氏) あと、シニアの皆さんにとってのデザイン性という意味で非常に重要なことは、「選べる」ということです。「シニアにはこれが受けるだろう」という一点を作るのではなく、多様な指向に対応できるよう選択肢をたくさん用意して差し上げることが、シニアの皆さんの満足に繋がるという傾向を感じています。
これまでの介護用具やシルバー向け商品と言えば「皆さん方の世代にはこれですよね」というような商品展開が多かったと思いますし、そういう商品を迷いなく買ってくださる方が多かったのが事実です。
しかし昨今はたくさんの中から選択する、つまり「買い物そのものから楽しむ」方が増えています。ですからメーカーも「選べる楽しさ」を提供する必要があります。
Q.マーケット分析はどのような手法で行っていらっしゃいますでしょうか?
梅本氏) 商品開発に活かす調査と言う点でいえば、まさに現場の声がソースになっているといえます。当社は福祉用具のレンタルを直接行っておりますので、スタッフが在宅のお客様のお宅にお伺いをすることもありますし、またケアマネージャーとも繋がっています。ですので、お客様の生の声を聞くことができるのが強みです。

佐藤氏) また、「リハテック」の推進担当を全国に設けて、各支社で情報の吸い上げをしております。
彼らがお客様と触れ合う現場で上がってきた声を集め、これも商品開発や改良に役立てています。
実際に先ほどお話をした「電動アシスト三輪自転車」もそういった声を聞いて初期モデルから改良を重ねてきています。
あとは販路拡大という点でいうと、最近は広告活動よりもいわゆる試乗会などのタッチアンドトライの場の創出にチカラを入れています。各地域の様々なコミュニティと協力関係を構築し、そこで試乗会を開催しています。やはりシニアの皆さんにとっては、実際の商品に触れて、乗って、感じていただくのが一番の商品機能訴求になるようです。
梅本氏) イメージで購入されても実際には使えなかったとか、あまりニーズにフィットしていなかったという事例もありますので、そういうミスマッチを防ぐ意味でも、タッチアンドトライの場を通じて商品を体験・体感していただいて、納得してからご購入いただける流れがベストだと思います。ご自身の親御さんをイメージしてみてください。その時に「こんなサービスがあったらいいな」、「こんな風に商品を買ってくれたら安心だな」というイメージがあると思います。それをひとつずつ具現化しようとしています。
Q.そんな現場の声から生まれた商品で、今のイチオシはありますか?

梅本氏) お尋ねくださってありがとうございます(笑)。イチオシは「超低床フロアーベッド」ですね。
これは寝台が電動で上下するベッドなのですが、なんと、寝台を床面まで下げることが可能になったのです。一見単純な機能に思われるかもしれないのですが、薄い筐体と細い脚の中にすべてのムーブメントを収納しつつ、水平をとりながら寝台を動かすことは技術的に大変なことなのです。実際、この商品を開発するために2年の歳月を必要としました。
手前味噌を承知で申し上げますが、弊社開発部、かなり頑張りました!(笑)これこそまさに現場の声を聞いて開発した商品になります。
高齢者の方は畳の上に布団を敷いて寝ていることが多いので、ベッドに慣れていない方も多くいらっしゃいます。床面まで下げて寝ていただければ、お布団で寝ているような感覚が得られますし、手すりの必要もありません。万が一、ベッドからの落ちたとしても高さが低いのでケガのリスクを抑えられます。
実は介護ベッドの脇にお布団を敷いてご家族が寝ているケースがありますが、目線の高さが違い、立ち上がらないとベッドの上の様子がわかりません。このフロアーベッドならお布団を並べて敷く感覚でご使用いただけ、双方にとって安心です。

また、ご利用者様がベッドから離れるときは、ベッドの高さを上げて立ち上がりやすくすることも、車いすの高さに合わすこともできます。
介護する側にとっても多くのメリットがあります。例えば寝台を上げることで、腰に負担なくお世話できます。寝るときには寝台を下げることで、介護ベッドでよくある挟み込みの事故も避けられます。
さらに、ボードも取り外しが可能なので、頭側からも、足側からもアプローチが可能です。こういった工夫は全て介護の現場からの生の声を元にして、商品開発へと反映しました。
Q.最後に、御社がシニアをターゲットにして展開をする中で、参考にしている企業などはありますか?
佐藤氏) メーカーさんではないのですが、サービスという点ではイオンさんの取り組みは興味を惹かれますね。単なるモノ売りだけでなく、積極的にコミュニティを展開していて、シニア層の取り込みに注力されていらっしゃいます。なかなかすぐに結果に結び付けるのは難しいですが、チャレンジ精神をもって、取り組んでおられるので参考にしたいですね。当社がこれから商品を開発していく際に、こうした小売業の方向性は、参考にさせていただけそうな要素を感じますね。
フランスベッド「リハテック」ホームページ
http://www.francebed.co.jp/brand_site/Rehatech/
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
自社テクノロジーの集大成
それが「らくらくホン」
富士通株式会社
ユビキタスビジネス戦略本部 プロモーション統括部 統括部長 土井敬介 氏
モバイルプロダクト統括部 第一プロダクト部 シニアマネージャー 古木健悦 氏
富士通株式会社様は、テクノロジーをベースとしたグローバルICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)企業です。人々がICTの力を活用して、ビジネス・社会のイノベーションを起こし、豊かな社会を築いていく「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」の実現を目指しており、「らくらくホン」を開発するモバイル事業は、人とのインターフェイスの一部を担っています。今回のインタビューでは、携帯電話市場を取り巻く現状や「らくらくホン」の開発に取り組まれた経緯、開発プロセスや海外事業の展開までをお聞きしました。
2014年10月 取材

Q. まずシニア向けの携帯電話にお取り組みを始められた経緯からお教えください。
古木氏 らくらくホンは元々他メーカーが初号機を作られたのですが、弊社は2001年2号機(F671i)からお声掛けをいただきました。 当時、携帯電話は、シニア層にはまだまだ行き届いていない状況でしたので、シニアの方々に便利に積極的にご利用いただけるような携帯電話を開発しようという取り組みを開始しました。 一方、一般の方々には携帯電話はかなり普及していた段階でしたので、携帯電話以外の市場を見て、シニア向けの携帯電話市場も今後同様に伸びるだろうという予測を持っていました。 ちょうどシニア向けのプロダクト・サービスが徐々に増えてきている状況だったと記憶しています。

Q. 富士通さんとしての初号機の売れ行きは如何でしたか?
土井氏) 当初は、スロースタートだったと記憶しています。 冒頭古木が申したように、シニアの方が携帯電話を利用する時代が到来するだろうという見込みはありましたので、手ごたえのようなものは感じていましたが、最初から販売が好調だったというわけではありません。
Q.当時シニアの方が集まるマーケット展望の裏付けとして、リサーチ等はされましたか?
古木氏) ご存知のとおり、シニア市場は分析や攻略が困難な市場です。たとえばリサーチするにしても、これまで利用したことのないものを取り上げて、「これを利用したいですか?」という問いを投げかけても、参考になる情報は得られません。その点を踏まえ、弊社はある程度の「仮説」をもってプロジェクトを開始しました。
実際にシニアの方が集まる現場に赴き、携帯電話の活用にどのような課題があるのか、またどのような利用方法が考えられるかという意見を掬い上げて、その上で商品開発に転嫁させる方法を採用しました。そして、この方法は、今でも変わらず継続しています。
また、「らくらくホン」リリース当初から、全国の携帯電話ショップで「携帯電話教室」が開講されているのですが、参加者の方の高齢者比率は比較的高く、教材は必然的にらくらくホンになります。
全国にいる拠点社員が、キャリア様のご支援という形で教室に赴き講師としてサポートします。それを実施することで、”利用者の声”がわかります。
どの携帯電話を購入しようか迷われている方や、上手く使いこなせない方等、つまずく箇所やご要望の声が上がってきます。
それらを集約することにより、実際にご利用されているお客様の声に耳を傾けることができ、こうした仕組みを製品開発に活かしています。
Q. 開発において特に重心を置いていらっしゃるのはどのような点でしょうか?

土井氏) らくらくホンのアプローチは、携帯電話の基本動作、いわゆる”見る”、”聞く”、”話す”、”操作する”を徹底的に磨き上げることの積み重ねです。
ですので、”聞きやすさ”や”見やすさ”という基本性能は、どこにも負けないと自負する技術を注入しています。
シニアにとっても利便性の高い機能は使いやすさに配慮し徐々に追加しておりますが、反面、遊びの機能や派手な部分には敢えて手を出しません。
すべては、シニアの方や機械に強くないお客様にも使いやすいと感じてもらうための戦略です。
この点については、富士通研究所と共同で技術開発を行っており、結果として当社からリリースする携帯電話の中で、最もテクノロジーが注入されている商品が「らくらくホン」だと言えるかもしれません。
「らくらくホン」は、あくまでユニバーサルデザインの観点から開発しています。結果として、シニアの方もご利用しやすいですし、それ以外の方にも利用しやすい仕様を目指しています。
シニア層のみならず、目がご不自由な方にも幅広くご利用いただいているのも大きな特徴です。
Q. ハードウェア開発においてご苦労された点はありますか?

古木氏) とにかく多くのテクノロジーが集結している「らくらくホン」ですので、言い出せばキリがないですが…(笑)
まず挙げられるのは、「音声読み上げ」機能ですね。これは、メールやHP上のコンテンツを音声で読み上げる機能ですが、弊社の初号機から盛り込んでいる機能です。商品開発のたびにモニターとして目がご不自由な方にご参加していただき、たくさんのご意見をお聞きして、さらに改善を積み上げてきた経緯があります。
また、ディスプレイは特注のモノを採用しています。他社の携帯電話の液晶のほとんどは、縦長で進化してきました。しかし、「らくらくホン」の場合は、文字の一覧性と大きさを実現するために、横幅をきちんと保てるようなディスプレイを採用し続けています。
さらに言えば、キー部分にも拘りがあります。新機種のほとんどはシートキーを採用しているため、”押した!”という実感が残りません。「押し感」を保つよう心掛けています。
また昨今売れ行きが伸長している「らくらくスマートホン」は、”触れて確認、押して動く”という「らくらくタッチ」機能というのを付けました。通常のスマートホンは指で触った感覚が残らないのでボタンを操作したことがわかりませんが、この「らくらくタッチ」は、触れた時に読み上げ、そのまま押し込めば起動する直観的な読み上げ機能を実現しています。
Q. らくらくホンユーザー向けのコンテンツサービスについても教えて下さい。
土井氏) 「らくらくコミュニティ」というSNSサービスがあります。らくらくコミュニティの利用者は、累計15万人を突破しました。一回ご利用になられた方の多くがリピート利用してくださり、アクティブユーザー率が高いのが特徴です。

古木氏) もう1つ、新サービスを紹介させてください。らくらくコミュニティを更に進化させ、「ファミリーページ」という新機能を追加しました。
今回のサービスは、家族間のコミュニケーションを重視しています。子供の写真を投稿すると、フォトパネルのように自動的に待ち受け画面に写真を貼り付けられる機能です。ただ単に貼り付けただけではつまらないので、そこに一言メッセージを掲載できます。自ら発信せずとも、見るだけでも十分お楽しみになれます。
これをきっかけにしてコミュニティ・サービスをご利用していただけると、さらにお楽しみいただけて、世界がもっと広がります。
親御さん、お爺ちゃんお婆ちゃんばかりでなく、お子さんまでご参加いただいて”デジタルな親孝行”のためのツールとしてご利用いただければ嬉しいですね。
Q. 最後に、らくらくホンの技術やお取り組み方法が、海外から注目されていると聞きましたが、その点についてお聞かせいただけますでしょうか。
土井氏) 2013年から、Orangeという世界的なオペレーターと組んで、フランスでらくらくホン事業を展開しています。フランスは日本に次いで高齢化が進んでいます。当然オペレーターとしても、マーケットの高齢化にどう対応すべきかという課題を持っています。
弊社は、日本において、らくらくホンで一定の成功を収めておりますので、注目をいただいています。
富士通株式会社ホームページ
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。