第12回 からだづくり三鷹
将来への不安から今の状態を
「維持」するために運動するシニア
からだづくり三鷹フィットネスクラブ 所長 寺本由美子氏
『会員様ひとりひとりのニーズに合わせたトレーニング指導』を心がける、からだづくり三鷹フィットネスクラブ。それぞれの目的を達成できるよう、健康状態に合わせたプログラムを提供し、定期的な個別カウンセリングを行う等、一人一人に密着しているため、ご高齢の方にも評価を頂いています。今回のインタビューでは、施設の概要や特徴をはじめとして、健康運動指導士、西東京糖尿病療養指導士、介護福祉士の資格を持つ寺本所長が、日々のトレーニングを通じて感じるシニア層の特徴について、幅広くお話をお聞きしました。
2015年6月 取材
Q.様々な資格をお持ちですが、まず寺本所長のプロフィールについて教えてください
大学を卒業してから健康運動指導士の資格を取得し、一般のフィットネスでインストラクターをしていました。運動指導自体は約30年弱やっていますが、ここに来る前は、介護施設の運営会社の職員でした。
そこでは介護業務もしておりましたので、介護福祉士の資格を取得し、デイサービスやグループホーム、介護付有料老人ホームの入居者への運動指導、市から委託される介護予防運動教室での指導もしておりました。
西東京糖尿病療養指導士は、高齢者の糖尿病が非常に多く、糖尿病セミナーのお手伝いをさせていただく機会があって、高齢者と関わるのであれば、勉強したほうがいいだろうと思い、昨年取りました。
介護予防の仕事に携わり、参加者を見ていると、色々な変化があって、とても面白いんです。これまでの経験を活かして、高齢者の運動指導のスペシャリストになりたいですね。
Q.からだづくり三鷹フィットネスクラブの会員はどのような方が多いのでしょうか。
若い方もいらっしゃいますが、大手フィットネスに比べて全体の年齢層は高いです。一番多い世代は40代・50代ですが、60代以上が全体の1/3を占めており、平均年齢が現在52.8歳です。40代・50代は主婦層が多いのですが、60代以上は男性のほうが若干多いですね。
現在は元気な会員ばかりですが、以前は介助が必要で、付き添いの方とトレーニングに来られる方もいらっしゃいました。
また、中には糖尿病の方もいらっしゃいます。ただ、ここに来られる方は通院されていて、医師の指導に基づいた自己管理をきちんとされている方が多いですね。西東京糖尿病療養指導士、介護福祉士の資格を持っておりますので、症状や数値等をお聞きしながら、状態に合った指導にしています。
Q.「健康クラブiみたか」について詳しくお聞かせいただけますか。
「健康クラブiみたか」は、経済産業省からの助成金をもとに、株式会社まちづくり三鷹を中心に薬・食・運動がトータルに連携して、生活習慣の改善や介護予防を目的につくられた会員制健康クラブです。
内科クリニック、調剤薬局とフィットネスが連携して、皆さんの健康づくりをトータルでサポートできるように、平成22年に三鷹産業プラザ5階に開設されました。
内科クリニックでの定期健康診断結果に基づいた栄養相談、調剤薬局での服薬相談、フィットネスでの運動プログラムを作成するといった、一貫した会員の健康維持を目指していましたが、残念ながら平成26年3月をもってサービスを終了いたしました。
Q.どういう目的で通われていらっしゃるのでしょうか。
会員によって違いますが、多いのは健康診断の血液検査の結果で、病気までではなくとも、数値が悪く、食事や運動に気を付けるよう言われた方が多いですね。
40代・50代の主婦の方は「痩せたい」という方が多いですね。どうしても50代になると、特に女性はホルモンバランスが変化して痩せにくくなってしまうんです。
対して、60代以上の方は、「筋力を向上させたい」、「痩せたい」というよりも、皆さん将来に不安を抱えていらっしゃるようで、「寝たきりになりたくない」「介護を受けたくない」という理由から、「今の状態を維持したい」という方が多いです。70代・80代はほとんどそういう方ですね。
若い世代は、体脂肪率を何%にしたい、体重を何キロ落としたいなど、明確な数字で言われる方が多いですが、高齢者は感覚的な動機が多い気がします。
Q.60代以上の方のトレーニングはどのようにされているのですか。
日頃のお悩みは、階段を上がるのが大変になってきた、椅子からなかなか立ち上がれなくなってきた、歩くとフラフラする、と皆さん異なります。ただ、足を鍛えたいからといって足を動かせばいいというわけではありません。足を動かすためには、まず関節や筋肉の動きが滑らかにする必要があります。そのためには、まず身体をほぐす、ということから始めます。万遍なく全身を動かさなければいけませんので、どんな方でも最初に行うメニューはある程度決まっています。
はじめは、言った通りのトレーニングを一緒にするのですが、ある程度一人でできるようになると、独り立ちしていただきます。そうすると、皆さんそれぞれの自己流になります。やはり運動の効果を上げるためにはフォームや動きが重要になりますので、随時スタッフがチェックし、注意するようにしています。
更に慣れてくると、「このメニューはやりにくい」、「ここが痛い」など、だんだん自分の意見が出てきますので、進捗に合わせたメニューになるよう、15回のトレーニングごとにプログラムの見直しをしています。
とはいっても、高齢者の場合、無理をしないようにしなければいけません。高齢になればなるほど、身体が思うように動かなるため、腕を伸ばせなかったり、膝を曲げられなかったり等、できない事が増えてきます。そのため、極力身体に負荷をかけず、できるメニュー/できないメニューを見極めながら、その人に合ったメニューにアレンジしています。
中には「物足りない!」、「もっとやりたい!」とおっしゃる方もいらっしゃいます。ただ、無理な運動をしてしまうと、次の日まで疲れが残りますし、筋肉痛にもなってしまいますので、まずは物足りないくらいが丁度良いです、とお話しています。高齢者ほど頑張り過ぎる方が多いですね・・・苦笑
Q.普段トレーニングをされていて、シニア層の特徴としてお気づきの点があればお聞かせください。
高齢者といっても、戦前生まれと戦後生まれは全く違うように感じます。
60代・70代の方は、「ここが痛い」という訴えが多いですが、80代の方は大抵「できます」、「大丈夫です」とおっしゃいますし、我慢して頑張り過ぎる傾向にあります。実は足腰が痛い、血圧が高いため毎日服薬している、心臓が弱かったりする方でも、それを見せないのが80代です。
会員の最高齢で87歳の男性がいらっしゃるのですが、毎回マシーンで30分歩いて、筋トレもされます。更に、ご自宅でも毎朝30分の運動もされているそうです。非常に健康意識が高く、とにかく元気ですね。心臓が悪いそうですが、全くそうは見えないんですよね。
色々お話を伺っていると、80代の方は、戦時中の苦しい生活を経験されています。生活が苦しいと、生きていくために働かなければいけませんし、そのためには動かなければいけませんので、かなり身体を使っていたと思います。筋肉の貯金みたいな感じでしょうか。身体の地盤ができているような気がします。
それに対して、60代・70代の方は、苦労されていないとは言い切れませんが、戦争を体験されている80代と比べるとやはり違いますね。
今の若い世代は、ファーストフードやジャンクフード等、食べ物ひとつとっても昔とは全く違います。小さい子供の遊ぶ場所にしても、昔は外で走り回ることが多かったですし、公園で何をしてもいいという時代でしたが、最近はボール遊びができない公園があったり、身体を動かす場所が少ないですよね。遊び方の選択肢も増えて、家の中でゲームをする子供もいます。
子供の体力低下が問題になっていますが、恐らく今の子供世代が大人になった時、病気や怪我をしやすく、回復する力も弱いと思います。
やはり世代や、育つ生活環境によって全く違うと思いますね。1週間に何百人と接していると、結構感じるものですよ。
Q.他のフィットネスクラブとの違いはどのようなところでしょうか。
一番の違いは、パーソナルトレーニングとはいかないまでも、個人に密着しているところでしょうか。
若い世代ですと、自分のペースで「黙々とトレーニングをしたい」という方が多いのですが、年齢層が高くなると、「これでいいんだろうか」、「ちゃんとやれているのだろうか」と不安をお持ちの方が多いです。
ここでは、お一人でメニューをこなせるまで指導しますし、お一人でやられていても、スタッフが随時チェックしています。施設面積は決して広くはありませんが、スタッフの目が行き届いています。会員の年齢層が高いのはそのためではないでしょうか。
もうひとつは、会員同士の会話が活発なことです。特に高齢の方がそうおっしゃいますね。
一人暮らしの高齢の方ですと、家に帰っても会話する相手がいないので、だんだんと言葉も出づらくなくなってしまいますが、色んな人と会話すると、脳の体操になります。運動は脳の活性化に効果があり、認知症の予防になると言われていますので、ここに来れば身体だけではなく会話でも脳を活性化できるということですね。もちろん、大手のフィットネスクラブでも会話はあると思いますが、ここは狭い分、会話をする時間が多いと思います。
実際にここでお知り合いになられたコミュニティーもあります。午前中は女性の方たちが本当に賑やかですよ(苦笑)。女性のコミュニケーションの凄さは目を見張るものがあります。とにかくパワーがありますし、年齢は関係ないようなので、女性特有なのかもしれません。
時には女性コミュニティーと同じ時間帯に来られる70代・80代の男性も混じっていらっしゃることもあります。リードする方は年齢層の高い女性が多いですが、積極的に男性にも声をかけられていますね。
皆さんはじめは運動するために来られているのですが、だんだんとコミュニティーも楽しくなり、それを楽しみにされている方もいらっしゃると思います。
カウンターの前にマシーンがありますので、カウンターにいるスタッフに声をかけていただいたりすることもあり、施設の構造自体もそうですが、私たち自身も目が届きやすく会話が生まれやすい環境づくりを心掛けています。
あと、地域密着型ということでしょうか。ここから歩いて数分のところにお住まいの方が多く、近隣住民の方がほとんどです。中にはトレーニングウエアを着てこられて、ご自宅でシャワーを浴びるという方もいらっしゃいます。
Q.総務省主導のプロジェクトに携わっていらっしゃるとお聞きしたのですが、具体的にはどのようなことをされていらっしゃるのでしょうか。
ICT健康モデル事業の実証プロジェクトですね。ICTシステムや健診データ等を活用した健康モデル(予防)の確立・普及に向けて、地方自治体が主体となった実証実験です。超高齢社会の医療費や労働人口の減少等の問題解決のために、高齢者の健康を維持して病気を予防するための取り組みです。
実際には、運動前後の体力測定データや、普段からお持ちの活動量計のデータ、健康データ等、ネットワークを通じて共有して分析するそうです。
現在このプロジェクトで受け入れている方は、65歳以上の21名です。アクティブシニアがプロジェクトの対象ですので、基本的には皆さん元気で活動的な方が多いです。お話を聞くと、別のスポーツクラブに通っていらっしゃったり、毎日歩いていらっしゃったり、自分で健康維持の方法を見つけて、取り組まれている方が多いです。
特に皆さんプロジェクトの趣旨を理解していらっしゃいますので、お休みされることなく来られます。出席率はほぼ100%ですね。
Q.最後に、寺本さんにとっての“シニア”とは何かお聞かせください。
私にとっては目標ですね。自分がその年代になったときに、こうなっていたいなと思います。
本当に皆さんお元気で、逆に我々スタッフが元気をもらっているくらいです。
介護予防事業でも、アクティブシニアに近い方たちを対象とした体操教室をやっているのですが、そのパワーに圧倒されます。教室の場合は回数が予め決まっていますので、調子が悪くて、運動する元気がなくても、見ているだけでもいいので来てください、というお話をします。一度休んでしまうと休み癖がついてしまいますからね。そうすると皆さんいらっしゃるんですが、見ているうちに、何となくやりたくなって、できることだけやってみると、スッキリして元気になって帰られることがよくあります。若い方よりも元気ですよね・・・
これからもフィットネスを通じて、シニアの皆さんが元気になるお手伝いをして、元気を共有していきたいですね。
からだづくり三鷹フィットネスクラブWEBサイト
http://karadadukuri.jp/
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