第10回 フランスベッド株式会社
フランスベッドが提供する”人にやさしい
モノづくり”ブランド「リハテック」
フランスベッド株式会社 インテリア営業企画部 佐藤則行 氏
フランスベッドホールディングス株式会社 広報部 梅本綾乃 氏
フランスベッド株式会社様は、言わずと知れた日本を代表するインテリアメーカーですが、電動アシスト機能付三輪車や介護用ベッドなど、介護・福祉用品メーカーとしても30有余年の歴史を有し、業界を牽引する存在です。インテリアメーカーとしての技術・ノウハウを介護・福祉用品の開発にも生かした「リハテック」シリーズの商品はシニア層から強い支持を得ており、直営の「リハテックショップ」も運営されています。今回のインタビューでは、アクティブシニアをターゲットとした「リハテック」ブランドのモノづくりを通じて、そこにあるマーケティング手法や商品開発に至るまでのプロセスなど、様々なお話をお聞きしました。
2014年12月 取材
Q.早速ですが、御社の「リハテック」ブランドの沿革からお聞かせいただけますか。
佐藤氏) フランスベッドという会社は、皆様にはインテリア事業において馴染みかと思いますが、実は介護・福祉用具の販売・レンタルを30年前から行っていたという経緯があります。
ご承知の通り日本では高齢化が進行しています。そこで、私どもが30年間培ってきた福祉分野のノウハウ、そして特にお客様と直接触れ合ってきた実績値を何かに活かそうと考えた結果、介護が必要になる少し手前の比較的アクティブなシニア層へ商品を提供しようということになりました。そこで作られたブランドが「リハテック」なんです。
梅本氏) 私どもは創業65周年の会社ですが、その65年というのは、主にご家庭で使っていただくようなベッドなどインテリア用品を造ってきた歴史といえます。
しかしながら実はその間に、2社程の別会社も擁立しており、その一つが先ほど佐藤が申し上げた介護・福祉用具の販売・レンタルを提供してきた「フランスベッドメディカルサービス」という会社なのです。メディカルサービスは1987年の設立以来、在宅介護ベッドや福祉用具の販売・レンタルを手掛けてきた会社です。
その後、2009年にフランスベッドと合併し、両社の血が混ざりあうことによって、幅広い商品開発につながっています。
合併するまでの両社は兄弟会社ではあったものの、インテリアと介護福祉という畑違いな業界にいましたので、なかなか融合する機会がありませんでした。合併により両社の強みを共有しシナジーを生むべく創立したのが「リハテック」ブランドになります。
Q.最初の商品がリリースされたのはいつ頃だったのですか?
梅本氏) 実際の商品がリリースされたのは今から3年前のことになります。
我々は元来ベッドを作るメーカーですので、“寝る”ことについては多数のノウハウがあります。リハテックでも“寝る”ことに関する商品からスタートしそうなものなのですが、実は「リハテック」ブランドの最初の商品はベッドとは全く違うものからスタートしました。それは、自社開発の「電動アシスト三輪自転車」なんです。
この商品をリリースした背景としては、当時、「買い物難民」という言葉が世間の話題になりつつあったことが挙げられます。「買い物難民」は、つまり高齢化により足腰や身体が不自由になった高齢者が、なかなか買い物に出かけることができず、生活に支障が出てしまう問題です。例えば東京だけ見ているとこの問題は看過されがちですが、地方に行けば今も大変切実な問題です。
まずシニアの方は車の運転ができない。そして地方では鉄道は充実してない場所も多いですし、生活の足であるはずのバスも本数が少なく待ち時間が長い。もちろん、重い荷物を持って長い道のりを歩けないですし、もし家族がいたとしても、その家族の都合など顔色を伺いながらの買い物というのもなかなか苦痛なことです。
そういう負の事情を一つでも軽減しようという想いから開発したのが「電動アシスト三輪自転車」なんです。
Q.商品の開発をするにあたって秘話などがあればお聞かせください。
梅本氏) 商品開発にあたっては、何より「世の中の人が求めているモノを考え、それをカタチにする」というプロセスを基本として進んでいきます。
例えば前述した「電動アシスト三輪自転車」も、弊社の社員が実際に地方を回り、その実情を見て「大変な現実があるな」という想いから発案があり、そして開発に至りました。
ただ、本格的な福祉用具というわけではなくて、あくまでアクティブなシニア、つまり「まだまだ動きたいという思いがある層」に向けて開発した商品なので、全体的にコンパクトなデザインを心がけ、アクディブシニアにとって扱いやすい形状を心がけています。
また、乗り降りの際にまたぎやすいようにフレームの高さも低くし、小さな回転で漕げるようペダルを配置しています。イメージとしては、だいたい140センチくらいの小柄な方でも乗りやすいような設計と言ってもいいかもしれません。車体自体も28Kgと軽いうえ、電動アシストがついているのでこぎやすく動きやすいですよ。
佐藤氏) 更にこの商品の特長を補足すると、カーブを曲がるときに必要な調整バーに工夫があることです。
自転車ですので左右に曲がる際には必ず車体が傾きますし、傾かないと曲がれないのですが、三輪の場合この傾きが自然に発生するように車体の軸に傾き調整バーを装着する必要があります。
実は当社の三輪自転車の傾き調整バーは、ベッドに使っているものと同じ部品で造られているんです。
といいますのも、元々弊社ではスクーターのサドルを造っていた時代があるんです。
そしてそのサドル部分にはスプリングが入っていまして、そのスプリング製造技術を転用して始まったのがベッドの生産なんです。
今はもうスクーターのサドルは製造していませんが、順番から言うとベッド生産の方が後から始まったことになります。
そういう意味では当社は、今も昔も、「持っている技術を転用して、他のフィールドで活かすことが得意な会社」と言えるかもしれませんね。
Q.ターゲットにしている人たちは?
梅本氏) やはり、アクティブなシニアということになりますね。
理由はシンプルです。我が国の人口比率のボリュームゾーンがシニア層、そして特にアクティブシニア世代にあるからということになります。世代でいえば、60代後半~80歳の方々を想定しています。
ちなみに、「リハテック」の利用者は介護保険の対象ではない方が中心です。最近の傾向として感じるのは、高齢者であっても介護保険を利用せずに介護用用具を購入する人が多いということです。ですので、皆さん気持ちはまだまだお若いですし、最近は70代の人でもとてもお元気です。考えてみれば、つい最近まで第一線でバリバリにお仕事をこなしていらっしゃった方も多いわけですから、当然といえば当然ですよね。
そういう皆さんをターゲットにしているので、デザインにはとても気を使っています。いわゆる「年寄り臭い」デザインには絶対にしません。
弊社の強みは機能性もデザイン性も兼ね備えた商品をプロデュースできることと自負しています。長年インテリアの世界で研鑽を重ねてまいりましたので、この点についてはノウハウがあります。
佐藤氏) 介護保険のお話で言うと、シニア層の厚みがどんどん増している状況ですので、将来的に介護保険を継続することができないのではないか、国の財政では賄えないのではないかという懸念があります。
事実、今既にそれに対応する動きは始まっており、重度化しないと介護保険そのものが使えない制度に変わりつつあります。
例えば、2015年4月からは要支援1、2の人はデイサービスやヘルパーが、段階的に介護保険ではなく、地域の財源で実施する方向に変わっていく見通しです。
今まで介護保険が利用できていたのに、利用できなくなってしまうのは悲しいことですが、リハテックのような商品があることによって、そういった方々の日常生活に、役立ったような事例がひとつでも増えてくれたら嬉しいですし、実際そう言っていただけるような商品を幅広くプロデュースしているつもりです。
Q.デザイン性のお話が出ましたが、特にデザイン性を意識した商品事例などはありますか?
佐藤氏) 例えばシルバーカーですね。細かいことになるのですが、実は他メーカーでフレームまで着色しているものは少ないです。メッキむき出しのものが多いですが、弊社商品はフレーム部分まで赤や青などで塗装を施し、細かい点までこだわってモノづくりをしています。
梅本氏) 機能性の面では、シルバーむき出しの方が清潔だと考えることができるかもしれませんし、もしかすると手入れもしやすいかもしれません。
しかし、最近のシニアの方々は、本当にお若いのです。現実に「本当はタータンチェックのデザインのモノが欲しいんだ」という声も挙がっております。
まだ開発には至っていないのですが、検討の余地はありそうですね。需要があるのですから(笑)。
佐藤氏) 今のデザインもご好評をいただいているのですが、これ、実は元々フランスベッドの掛け布団カバーなどのデザインを利用して作っているんですよ。ファッション性を大切にしている背景には、フランスベッドでの商品開発の実績があるんです。
梅本氏) あと、シニアの皆さんにとってのデザイン性という意味で非常に重要なことは、「選べる」ということです。「シニアにはこれが受けるだろう」という一点を作るのではなく、多様な指向に対応できるよう選択肢をたくさん用意して差し上げることが、シニアの皆さんの満足に繋がるという傾向を感じています。
これまでの介護用具やシルバー向け商品と言えば「皆さん方の世代にはこれですよね」というような商品展開が多かったと思いますし、そういう商品を迷いなく買ってくださる方が多かったのが事実です。
しかし昨今はたくさんの中から選択する、つまり「買い物そのものから楽しむ」方が増えています。ですからメーカーも「選べる楽しさ」を提供する必要があります。
Q.マーケット分析はどのような手法で行っていらっしゃいますでしょうか?
梅本氏) 商品開発に活かす調査と言う点でいえば、まさに現場の声がソースになっているといえます。当社は福祉用具のレンタルを直接行っておりますので、スタッフが在宅のお客様のお宅にお伺いをすることもありますし、またケアマネージャーとも繋がっています。ですので、お客様の生の声を聞くことができるのが強みです。
佐藤氏) また、「リハテック」の推進担当を全国に設けて、各支社で情報の吸い上げをしております。
彼らがお客様と触れ合う現場で上がってきた声を集め、これも商品開発や改良に役立てています。
実際に先ほどお話をした「電動アシスト三輪自転車」もそういった声を聞いて初期モデルから改良を重ねてきています。
あとは販路拡大という点でいうと、最近は広告活動よりもいわゆる試乗会などのタッチアンドトライの場の創出にチカラを入れています。各地域の様々なコミュニティと協力関係を構築し、そこで試乗会を開催しています。やはりシニアの皆さんにとっては、実際の商品に触れて、乗って、感じていただくのが一番の商品機能訴求になるようです。
梅本氏) イメージで購入されても実際には使えなかったとか、あまりニーズにフィットしていなかったという事例もありますので、そういうミスマッチを防ぐ意味でも、タッチアンドトライの場を通じて商品を体験・体感していただいて、納得してからご購入いただける流れがベストだと思います。ご自身の親御さんをイメージしてみてください。その時に「こんなサービスがあったらいいな」、「こんな風に商品を買ってくれたら安心だな」というイメージがあると思います。それをひとつずつ具現化しようとしています。
Q.そんな現場の声から生まれた商品で、今のイチオシはありますか?
梅本氏) お尋ねくださってありがとうございます(笑)。イチオシは「超低床フロアーベッド」ですね。
これは寝台が電動で上下するベッドなのですが、なんと、寝台を床面まで下げることが可能になったのです。一見単純な機能に思われるかもしれないのですが、薄い筐体と細い脚の中にすべてのムーブメントを収納しつつ、水平をとりながら寝台を動かすことは技術的に大変なことなのです。実際、この商品を開発するために2年の歳月を必要としました。
手前味噌を承知で申し上げますが、弊社開発部、かなり頑張りました!(笑)これこそまさに現場の声を聞いて開発した商品になります。
高齢者の方は畳の上に布団を敷いて寝ていることが多いので、ベッドに慣れていない方も多くいらっしゃいます。床面まで下げて寝ていただければ、お布団で寝ているような感覚が得られますし、手すりの必要もありません。万が一、ベッドからの落ちたとしても高さが低いのでケガのリスクを抑えられます。
実は介護ベッドの脇にお布団を敷いてご家族が寝ているケースがありますが、目線の高さが違い、立ち上がらないとベッドの上の様子がわかりません。このフロアーベッドならお布団を並べて敷く感覚でご使用いただけ、双方にとって安心です。
また、ご利用者様がベッドから離れるときは、ベッドの高さを上げて立ち上がりやすくすることも、車いすの高さに合わすこともできます。
介護する側にとっても多くのメリットがあります。例えば寝台を上げることで、腰に負担なくお世話できます。寝るときには寝台を下げることで、介護ベッドでよくある挟み込みの事故も避けられます。
さらに、ボードも取り外しが可能なので、頭側からも、足側からもアプローチが可能です。こういった工夫は全て介護の現場からの生の声を元にして、商品開発へと反映しました。
Q.最後に、御社がシニアをターゲットにして展開をする中で、参考にしている企業などはありますか?
佐藤氏) メーカーさんではないのですが、サービスという点ではイオンさんの取り組みは興味を惹かれますね。単なるモノ売りだけでなく、積極的にコミュニティを展開していて、シニア層の取り込みに注力されていらっしゃいます。なかなかすぐに結果に結び付けるのは難しいですが、チャレンジ精神をもって、取り組んでおられるので参考にしたいですね。当社がこれから商品を開発していく際に、こうした小売業の方向性は、参考にさせていただけそうな要素を感じますね。
フランスベッド「リハテック」ホームページ
http://www.francebed.co.jp/brand_site/Rehatech/
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