第11回 株式会社バスクリン
「進化する努力」と「変わらない勇気」、
シニアマーケティングには両方が必要
株式会社バスクリン
販売管理部 販売促進課 マネージャー広報責任者 石川泰弘 氏
製品開発部 ヘルスケア企画課 リーダー 梨本里美 氏
「健康は、進化する。」というコーポレート・スローガンのもと、社名である入浴剤「バスクリン」と近年では「きき湯」を主力商品として事業展開する株式会社バスクリン。同社は、「入浴を健康として捉える意識を有した人々」をシニア・マーケティングのターゲット捉え、日々のマーケティング活動を推進しています。今回のインタビューでは、入浴剤市場の概要から、入浴への啓蒙活動、商品パッケージの工夫、そして今後の取り組みに至るまで、幅広くお話をお聞きしました。
2014年10月 取材
Q.まずは、入浴剤市場の概況からをお聞かせください
石川氏) 現在、入浴剤の市場シェアは、花王さんと弊社で54~55%を占めております。 入浴剤の市場は比較的安定しているといえます。 2013年度は、前年比103%で推移しており、その市場規模は520億弱であり、年推移で500億円前後を上下している状況です(※バスクリン調べ)。 ここ数年は、炭酸ガスの入浴剤市場が伸長傾向にあり、弊社においては平成15年に発売した「きき湯」がご好評をいただいていると共に、同じく弊社の主力商品である「バスクリン」と肩を並べるロングセラー商品になってまいりました。
Q.「きき湯」がマーケットでうけた、何かきっかけのようなものはありましたか?
石川氏) あります。 私どもがきっかけの一つとして考えているのが、2009年に放映されたビートたけしさんの「みんなの家庭の医学」というテレビ番組です。 その日は「炭酸ガスの温泉は動脈硬化にいい」という内容だったのですが、それをきっかけに炭酸ガスの入浴剤ブームに火がつき、弊社商品の「きき湯」もそのブームに乗ることができました。 それ以前から売り上げは伸びていたのですが、番組をきっかけに、40~50代の方、それより上の世代の方に売れ始めたと共に、そこへ同時期に盛り上がっていた美容ブームが後押しをして一気に市場へ浸透いたしました。 そんな経緯の後、いまではブームの段階を脱して、市場にしっかり定着してくれた感触をもっております。
Q.シニアの方が効果・効能別に合わせて入浴剤を使い分けているというデータ等による裏付けはあるのでしょうか?
梨本氏) データの上からは、マーケット全体で入浴剤を使用されている年代は40~50代がボリュームゾーンとなっております。
一方で、バスクリンは50~60代のお客様に支持をいただいているという調査結果が出ております。 これは、バスクリンが長い歴史を有している商品であるゆえ、子供の頃に入って良かったというブランドの原体験が理由だと考えております。 バスクリンを入浴剤利用の入り口にして、その実感がループした後、当社の「きき湯」やあるいは他社商品へと選択肢が広がっていくように思います。
石川氏) 若い方は美容やリラックスへの意識が高いですが、シニアの方は健康への意識が高く、これが入浴剤利用の理由となっているようです。 とりわけ50代以上の人達は「健康寿命を延ばす」という意識が高いこともわかっております。 具体的には、50代以上の人はお風呂でストレッチする人達が増えているなど、バスルームを活用していかに健康でスマートな身体作りをするかということに意識が向いています。
Q. シニアに特化した、入浴についての啓蒙活動などのお取り組みはありますか?
石川氏) 例えば、老人ホーム等で行われる銀行様が主催なさるセミナーに講師としてご招待いただくことなどが多いため、そこで入浴剤の使い方や効能、また温泉についてなどの講演をさせていただくなど、シニアの方の前で入浴のお話をさせていただく場面は数多くございます。 当然のごとくシニアの方は、「健康」をテーマにしたお話にとても興味をもっていらっしゃるので、聴講いただいたシニアの皆様からもご好評をいただいています。 ひいては主催者様からも喜んでいただいております。 事実、主催者様からは、その後の「相続」に関するお話にも円滑に発展できるとお聞きしておりますので、私どもの公演が主催者様のビジネスにも多少は寄与しているのではないでしょうか(笑)。
Q. シニアの方から支持される商品を開発するための工夫などがあれば教えてください。
梨本氏) 特に「シニアターゲットに向けて特別に商品を作る」というようなことはいたしません。 それより、「商品を選択していいただく楽しさ」や「新しい商品との出会いから得られる新鮮さ」を表現することが重要だと考えております。
例えば、メインターゲットが40~50代である「バスクリン・クール」という商品について言えば、数ある商品ラインナップから、お客様の気分やニーズに合わせて商品を選んでいただく楽しさが提供できるような商品であるよう様々な工夫をしてますね。
バスクリンクールのラインナップ
石川氏) あえて年齢を意識してモノ作りをしないことには理由があります。
例えば「今の50代は昔の50代より若い」ということです。若い感性や先駆的な感覚をもつた今の50代は、商品選択をすることにおいてもいつもと同じものを選ぶのではなく、違うものにチャレンジしようとする積極的な行動が見受けられます。
従って、シニア向けに「シニアの皆様に特化した商品です」という提案するのではなく、年代に関わらず、広く市場ニーズに対応した商品をリリースするようにしています。 そのことこそが、結果としてシニアの皆様から支持をいただく手法なのだと考えております。
Q. 商品パッケージにおいてどんな工夫を施していらっしゃいますか?
梨本氏) 石川が前述した通り、いかにも「シニアの皆様を意識しました」風なデザインは好まれません。もちろん、商品購買層としては50~60代がボリュームゾーンとなりますので、手に取った際の使いやすさなど、商品開発上のシニアの皆様への配慮は必要です。
しかし、ここにばかり意識を置きすぎると地味でつまらない商品になってしまいます。これはシニアの方をターゲットにする場合に限った話ではありません。
入浴剤の商品特徴を確実に伝えるためには、何より「パッケージ上における情報の視認性」が最重要課題だと考えております。
こういうお言葉をお聞きするのが私たちの苦労が報われる瞬間であり、とても嬉しく思うのですが、その「わかりやすさ」の最大の要因は「色」だと思います。「色」がお客様に与える情報はとても大きいのです。
Q. 「新しい取り組みを推進する」ことと、「ブランドを守っていく」という行為は、一見、相反する使命のように思いますが、その点で苦労はありますか?
石川氏)正直なところ、ブランドイメージや商品体系などを変えたくても、なかなか変えられないというのが現状です。
特に香りの話でいえば、梨本が申し上げたように、言葉やビジュアルで伝えるのが難しい要素です。当社の商品は歴史が長いので、お客様は長年愛用された商品名と香りが頭の中でしっかり紐づけされています。しかし、それをある日突然変えてしまうと、お客様が戸惑ってしまい、ひいては「違うでしょ」というご指摘をいただくことになってしまいます。
例えば、バスクリンには「ジャスミン」という商品があります。人気商品で長年多くのお客様から支持をいただいているのですが、これはあくまで「バスクリンのジャスミン」といえます。これをあえて本物のジャスミンの香りに近づけてしまうと、多くの苦情が来てしまいます。
このように、変えたい商品があっても、長年積み重ねてきた「バスクリンらしさ」というものが確立しているため、無暗に商品の仕様を変えられない、という事例もいくつかあります。
実は、バスクリンのイメージ調査をしてみたときに最も評価していていただいているポイントが「安心・安全」であることもわかっています。
つまり、長い期間お使いいただいている安心感や、それでいて何の問題も起こしていない安全性というのを当社ブランドに対し感じ続けていただいているわけです。
そう考えると、「変わらずにいる」ことこそが私たちに課せられた大事な使命なのかもしれません。
Q. シニアの方にとって大変興味がある、「入浴と寿命についての関係」についてお聞かせ願えますか
石川氏) はい、まずシニアの方は健康への思いは人一倍強いので、このテーマはセミナーでもとても興味をもっていただけます。
このテーマで講演すると若い人達は普通に聴講されていますが、シニアの方は積極的にメモをとられたり、「こういうときはどうしたらいいのか」とご質問をくださったりします。
私がセミナーでお話することの中から一つあげさせていただくとすると、入浴行為そのものも大事ですが、「お風呂掃除」を積極的にすることがシニアの健康寿命を延ばすということです。
お風呂掃除は膝を曲げたり手を伸ばしたり、実はシニアの皆様にとって健康を維持し体力を養う、とてもいい運動要素になります。
昨今では、ノーリツさんの自動洗浄浴槽という商品をシニア向けに開発しましたが、実際の購入者は30代の方々が多いと聞いております。すなわち、忙しくてお風呂洗う時間がとれない方々です。
一方で、シニアの皆さんは時間的な猶予はあるので、ウォーキングやエクササイズと同様に「お風呂掃除」も健康維持の一環として取り組んでいただければと思います。
Q. シニアの方の入浴剤の選び方にはどのような特徴がありますか?
梨本氏) そもそも入浴剤は、「どの香りにするか」、「どの効能を選ぶか」などを、家族みんなの総意によって選ぶ傾向がある商品です。しかしシニアの皆様の多くは、お子さんも独立しセカンドライフを満喫されていらっしゃいます。そうすると入浴剤についても「本当はこれを使いたかった」という自分主体のモノ選びをするシーンが中心になります。
そうすると、これまでバスクリンを使っていた方々が、改めて他の商品にも注目が至り、例えば当社の「きき湯」に流れていくなど様々な選択肢へ広がりが発生することが考えられます。
その際の商品選定のポイントとしては、やはり健康維持です。病院にかからず健康な生活を送るための、予防医学的な意識が商品選定に大きく影響してくると思います。
Q. 改めて、シニアマーケットをどう定義づけられていらっしゃいますか?
梨本氏) 実は、シニアマーケットについて、社内で明確な決まりがあるわけではありません。年齢軸でいうなら50~60代以上と考えることができますが、ただ年齢軸で区切るのは乱暴な話だと考えてます。
あえて言うならば、入浴剤という市場においてシニアマーケットを定義するための最初の指標は、やはり家族構成なのではないかと考えております。
よりシャープな分け方をするならば、お子さんが巣立ったご家庭であるのかどうか、その年齢はどれ位なのか、という区切り方です。
その次に来るのは、入浴という行為の意義です。お風呂に入るという行為を、単純に体の汚れが落とすための行為とみなしているか、あるいは前述した美容や健康などのニーズを叶えるための時間として捉えているかという区分です。
とかくシニア層においては、入浴を単なる洗浄行為とみなしてなく、付加価値のある行動と考えています。
更にもうひとつの指標が、入浴に対するニーズやモチベーションです。具体的には、「健康」を重要視して生活しているのか、もしくはこれは若い層や女性などが中心になってくると思いますが、「美容」という要因に寄っているのかで、マーケティング的なアプローチが異なってきます。
これら3つの要素を掛け合わせ、つまり、「家族構成を前提とした年齢軸」×「入浴の意義」×「入浴に対するニーズ」という3つの軸の掛け合わせで、マーケットを区分することができ、その中の1象限がシニアマーケットと捉えられるのではないかと考えております。
Q. 海外展開へ向けたお取り組みは何かされていらっしゃるのでしょうか?
石川氏) 海外には日本のような入浴文化はないので、日本と同じような展開では商品は波及いたしません。
一方で、日本に来た外国人は、必ずと言っていいほど温泉に入りその良さを体感していきます。
ですので、まずはひとりでも多くの外国人に入浴の体験をしていただくような施策を考えることが最初のステップだと思います。これができれば、あとは各国が自主的にインフラ整備をやっていただけると思いますし、入浴文化は拡がると思います。
そのためのきっかけとして2020年の東京オリンピックはとても重要なタイミングだと考えています。
もし仮に、「日本人選手が活躍するその裏にはお風呂の存在があった」いうことを伝えられれば、各国への入浴文化の波及、そして弊社商品の海外展開にも大きく寄与すると思うのです。
Q. 最後に、今後のお取り組みについてお聞かせください
梨本氏) モノ作りの観点からいうと、今のブランド資産を活かしながら、更に入浴剤というものの用途も拡大しつつ、同時に使いやすさも追求していくべきだと考えています。買いやすく、持ち運びしやすく、また使うときの出し入れしやすさ、そして捨てやすさに至るまで一気通貫で気配りのある商品を展開していきたいです。
もちろん、これまでにも長年に渡って取り組んできたテーマですが、まだまだ課題はたくさんありますし、終わりのない仕事だと考えております。
株式会社バスクリン ホームページ
https://www.bathclin.co.jp/
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