第5回 特定非営利活動法人高齢者安全運転支援研究会
高齢者の末永く安全な運転を目指して
特定非営利活動法人 高齢者安全運転支援研究会
理事 諸井恵氏 / 事務局次長 中村拓司氏
特定非営利活動法人高齢者安全運転支援研究会は、認知症をはじめ身体機能の衰えなど高齢化による運転能力に及ぼす諸々の影響など、高齢者の安全運転支援につながる研究を通じ、高齢者が安心して運転を続けられる環境づくりに取り組んでいます。今回のインタビューでは高齢運転者の実状から現在の「認知症」をキーワードとした具体的な取組、今後の活動までお話をお聞きしました。
2013年8月 取材
「交通弱者」でもある一方、「加害者」予備軍でもある高齢運転者の実情
まず一つ目は、運転者自身に身体的な衰えや認知症の可能性があることを自覚してもらうための啓発活動です。
現在の日本は超高齢社会に突入し、2045年の高齢化率は35%を超える見通しだと言われていますが、交通事故での犠牲者の高齢化も進んでいます。現在、交通事故による犠牲者のうち65歳以上の割合が最も高く、その事故状況としては歩行中がほぼ半数、次いで自動車乗車中、自転車乗用中となっています。
「交通弱者」としての被害者であることはもちろんですが、事故加害者として高齢者が顕在化していることが危惧されています。現在65歳以上の運転免許保有者も増加しており、現在では全運転免許保有者の約17%の1420万人となっています。 更に団塊世代から女性が社会進出するようになりましたので、これから女性の運転免許保有者が増加し、必然的に女性高齢者の事故件数が増えると予測されています。
加齢に伴い運動能力はもちろんですが、判断力・認知力・記憶力・視力、そして聴力も低下し事故の危険性は高まります。中でも高速道路の逆走や、ブレーキとアクセルの踏み間違いによる急発進などによる事故が目立っています。
この現状を解決するための法律や仕組みはまだ確立されておらず、主体的に活動している団体や機関も多くはありません。さらに高齢者と車社会の関わりを追求していくにつれ、「認知症」がひとつの危険因子として関係しているということが分かってきました。
そこで認知症専門の医師と連携することによって、まずは「認知症」に特化し様々なデータや知見を蓄積するという意図で「研究会」として設立したのが、我々特定非営利活動法人高齢者安全運転支援研究会です。
高齢者の運転の是非を体系的・理知的に考える存在
現在、道路交通法により75歳以上の方が免許証を更新する場合には「講習予備検査(認知機能スクリーニング)」が必要とされています。その検査結果において、「認知症の疑いが強く一定期間内に特定の交通違反があった場合には医師の診察を受ける、そしてその診察において認知症と診断された場合には免許証を返納する」という仕組みがあります。
しかし生活の足として車が不可欠である郊外や地方では、高齢者ほど車の必要性が高くなります。そのため一方的に高齢運転者を排除するのではなく、高齢者が安全に車を運転し安心して道路を利用できるための仕組みが必要です。
そこで我々は、各分野の組織や団体と連携して、医学、心理学、及び工学等の見地から高齢化に伴い減退する判断能力や身体能力に関するデータの収集や分析を行い、安全な車社会の実現に向けての改善策を検討・提言して行きます。
具体的には冒頭でも触れた「高齢者に運転をさせないための活動」だけではなく、「高齢者でも積極的に運転を行ってもらうための施策」にも取り組んでいます。この点を踏まえ、私どもの活動は4つの種類に大別できると思います。
「自分はまだ運転できる」…その思い込みから脱却してもらうために
まず一つ目は、運転者自身に身体的な衰えや認知症の可能性があることを自覚してもらうための啓発活動です。
先ほどお話した通り、現在75歳以上の運転免許保有者に対しては「講習予備検査(認知機能スクリーニング)」が行われていますが、この「一律75歳以上」という線引きが果たして適正なのかどうかという議論があります。
厚労省が行った最近の調査によりますと、65歳以上の7人に1人(15%)は認知症であると発表されました。しかしながら認知症の疑いがあっても、そういう方は自分から病院に行かないことがほとんどというのが実情です。
私どもが実施する「高齢者向け交通安全教室」の中でアンケート調査を実施したことがあるのですが、「自分の運転に自信がありますか?」という問いに対して、ほぼ全員の方が「自信がある」と回答されました。
また、「いつ免許を返納しますか?」という問いに対しては、「自分で危険だと感じるまで運転する」と答えた方がこれまたほぼ全員でした。
言い換えるとほとんどの高齢ドライバーがご自身の運転に関して、「自分はまだ十分に運転が可能な身体能力を有している」、「安全運転ができている」と思い込んでおられることになります。
もちろんそれが事実であれば何ら問題はないのですが、大多数の方が一時停止を守らない、車間距離が不十分、ブレーキのタイミングが遅れるなど、事故に結びつきかねない運転をされています。
また、もし認知症であった場合「危険と感じたことを記憶しておくことができない」という問題もあります。
例えば認知症の方が危険な運転をしてしまった場合を考えてみます。運転者は、そのときは「自分が危険な運転をしてしまった」、「自分の身体能力を過信してはいけない」と自覚するかもしれません。一時的には自身の運転能力についても省みるでしょう。しかし認知症では時間経過と共にそのこと自体を忘れてしまい、結果としてすべてが記憶に残らないことになります。当然、運転者自身が免許を返納するには至らないことになります。中には免許を返納したこと自体を忘れてしまう方もいらっしゃいます。
このような現状を変えていくために、私どもは、鳥取大学医学部の浦上教授により開発された「物忘れ相談プログラム」という認知症を見つけるための装置が有効と考えております。
この装置を2カ所の自動車教習所に持ち込み、高齢者講習受講対象である70歳以上の方々に任意でテストしてもらいました。その結果によると約3割に認知症の疑いが見られました。この3割の中には徐々に認知症が進行する方もいらっしゃるはずです。
認知症というのは皆さんが思っているより身近な存在です。そして何より認知症の初期段階の「物忘れ」が病的なものか、一般的なものかを自覚をすることが重要です。物忘れがひどくなる認知症の初期段階は「軽度認知障害(MCI)」=「認知症予備群」とされ、そのまま放置すると翌年には12%、3~4年後には約半数の人が認知症になると言われています。このMCIの時点で積極的な予防対策を取ることにより、認知症に移行することを防いだり、進行を遅らせたりすることができます。
そのことから私どもは認知症予備群を早期発見できる場所として、自動車教習所などと連携し主に60歳以上を対象とした安全運転講習会を行っております。そこで物忘れの度合いをチェックし、運転能力の客観的な評価や認知症予防のためのトレーニング等を行うことにより、運転者に認知症の前兆の有無や、予防による運転継続の可能性を示唆しています。
いつでも、どこでも、簡単に物忘れをチェックしてもらう
二つ目の活動は、認知症の検査をしやすい環境・インフラを創造することです。
前述した「物忘れ相談プログラム」は、非常に簡便に認知機能の状態を調べることが可能なシステムなのですが、これを自動車教習所をはじめとして、全国の行政の窓口や病院、薬局など高齢者の行動範囲内にも積極的に設置していきたいと考えています。
イメージとしては血圧計です。様々な施設に血圧計が置いてあるのをよく目にしますよね。誰でも簡単に血圧を測ることができると思いますが、それと同じでもっと認知症を身近なものに感じてもらい、身近なところでチェックできるようにしたいですね。
認知症の疑いを自分自身で自覚し、予防プログラムにトライする、自分自身で病院に行く、これをあるべき姿としてそれを具現化するための社会インフラの構築を私たちは目指しています。
免許をとりあげるだけじゃない、認知症でも運転できる社会インフラを
三つ目は、少々のハンディキャップがあっても運転可能な社会インフラや仕組みを作ることです。
ここまでは認知症の方が運転することの危険性に触れてきましたが、一概に危険視することには違和感があります。専門医の間でも一部の認知症では軽度の段階であれば一定の条件下で自動車の運転をしても問題ないと考えられています。
現実問題として特に地方では車を運転できないと生活そのものに支障が出てしまいます。そのため少々のハンディキャップがあったとしても、安全に運転を行うことができるような仕組みや対策が求められます。
もちろん程度の進んだ認知症の方に運転を促すのではありません。ただ、一部の軽度の方においては、例えば地理や道路事情にも慣れた自宅近隣エリアのみに限定して運転できるようなルールづくりをするのもひとつの方法だと思います。
これに伴って、メーカーなどとの連携により、GPS機能と連動して限定エリアを超えるとアラートが出る仕組みを開発するとか、認知症予防につながる操作体系を有した機器を開発するとか、我々だからこそ追求すべき可能性は様々あると考えております。
運転そのものが認知症を回避するための役に立つ?!
話は変わるのですが、特に高齢者はマニュアル車を運転している事が非常に多く、オートマ車を運転できない方が多いようです。
以前、千葉県で高齢者交通安全教室を行った際、自分の車を持ち込んでもらいブレーキ等の運転の講習を行ったのですが、その際の車は一台を除き全部マニュアルでした。
マニュアル車はペダルを三つ使わなければいけませんし、頭で考えながら運転する必要があります。また今では当たり前ですが昔はカーナビもなく、コースも考えながら運転していました。最近は車のスペックが向上していますので頭を使わなくても簡単に運転ができるようになっていますが、これまでマニュアル車を運転してきた方のほうが認知症の発症は少ない可能性もあります。もしかしたら運転を継続させること自体、認知症を予防するための生活習慣になるかもしれません。
そのため我々としては、免許をやみくもに返納いただくのではなく少々のハンディキャップがあって運転しても問題ないような技術や仕組み、ルールを提言していきたいと考えています。
免許を返納してもらうだけでなく、その後の生活について考えるのも使命
そして四つ目、それが運転困難な高齢者から円滑に免許を返納してもらうための取り組みです。
現在75歳以上に「講習予備検査(認知機能スクリーニング)」が義務付けられていますが、年齢の引き下げも含め、検査の対象者を広げていく必要があると考えています。
事実、高齢者が免許を更新する際に、そのご家族からこっそり自動車教習所に連絡があり「認知症の疑いがあるから免許を更新させないでほしい」と言われることもあります。しかしこの場合でも、自動車教習所には免許を更新したい方に対して返納させる強制力はありません。従って高齢者講習を受ければ免許は付与されてしまいます。こういう事例も踏まえて、本当に危険な認知症の方が返納できる仕組みを作らなければなりません。
また、返納のシステムを見直すのと同時に、返納後の生活を支える社会インフラについても考慮が必要です。
例えば、東京大学のオンデマンド交通プロジェクトとの連携などがあげられます。これは電話やパソコン、携帯電話で「移動したい」という意思表示、つまり予約をすると、効率的な運転計画が自動で作成されると共に、交通事業者のドライバーのもとへ情報が提供されるというシステムです。交通事業者とリアルタイム性の高いネットワークを構築することにより、自宅のすぐそばから目的地までドア・トゥ・ドアの移動が可能になります。
あと、市場を見渡せばネットショッピングやスーパーマーケットの宅配サービスなどはどんどん進化していますし、同時に高齢者向けに操作が非常に簡便化・簡素化された専用のデジタルデバイスなども開発されつつあります。こういう事例も参考にしつつ、免許を返納して車がなくなった方々のための買い物支援策にも取り組んでいきたいと考えています。
長く安全に運転していただくと共に、返納した人へのセーフティネットも確保する。これを企業とのコラボレーションにより実現していきたいですね。
認知症の最大の問題、それは「認知症」に対する理解度の低さ
以上の四つが私どもの活動になるのですが、現時点では特に一つ目、二つ目で触れた「認知症と運転」について特に注目しております。
その中で私たちが特に課題だと考えているのが、我が国における認知症という病気に対する理解度の低さです。
ご存じのとおり認知症は、昔は「呆(ぼ)け老人」、「痴呆」などの呼び方をしていました。しかしその言葉自体のイメージが悪く、人権を虐げるような印象であったため、それが改められ今では一般的に「認知症」と呼称されるようになりました。
しかしこれはあくまで言葉が変わっただけで、抜本的に病気に対するイメージが改められたわけではありませんよね。
事実、統計によると高齢者がかかりたくない病気の1位が認知症です。また認知症の検診を受けること自体への抵抗感も非常に大きく、発症本人も隠したくなる傾向にあります。しかしながら65歳以上の7人に1人は認知症であると言われていますし、予備群を含めると実際には1,000万人以上とも言われています。
誰もが発症する可能性がある病気ですが、近年の医療技術の発達により様々な治療薬も開発され、初期段階では認知機能の維持・回復のための医学的手法が確立されつつありますので、認知症を特別なものとせず、高齢者の理解と社会的なコンセンサスを得られるように我々としても働きかけていきたいですね。
認知症についてもっと科学的なアプローチを
さらに、ひとえに「認知症」といっても、その種類は様々で一言で括るには無理があります。風邪に例えると、同じ風邪の中にも鼻水が出たり、喉が痛んだり、熱が出たりと様々な症状があります。それ同じで、認知症にも様々な病態があります。中でも日本人に多いのはアルツハイマー型で、認知症患者の約半数を占めると言われており、アルツハイマー型の初期段階であれば全く問題なく運転できると言う医師もいるそうです。その他血管性、レビー小体型、前頭側頭型が多いのですが、特に前頭側頭型は悪いことを悪いと認識していても自分自身をコントロールできないため、赤信号でも自分が行きたいと思ったら行ってしまうという危険性を持っているそうです。
つまり認知症の種類や段階でゾーンを設定し、どのゾーンが運転しても良いのか、免許は返納すべきなのか。また自分の家の周りのエリア限定で運転を許可する、等の運転免許制度も整備していくべきだと考えています。
日本は世界的に見ても高齢化が進んでおりますので、我々の活動そのものが先進的だと思います。他のマーケティング事例と同様に日本で仕組みを確立できれば、中国や韓国をはじめとしたこれから高齢化が深刻化する国へ、ノウハウを提供できるのではないかと考えています。
大切なのは家族の存在と協力
特に認知症という病気は家族の存在が重要になります。認知症という病気は社会生活への支障の有無で最終的な判断をされますので、物忘れが激しくなったとしても家族のサポートがあり、これまで通り社会生活が送られるのであれば大きな問題はありません。
また認知症は自分自信では気づきにくい・認めたくない病気ですので、家族が日頃からコミュニケーションを取り、日常の変化に気づき、運転すべきではない高齢者には免許の返納を促すべきですね。免許を返納するということは、生活の足が奪われるということなので非常にご本人には辛いことですが、からこそ家族の理解と協力が必要になります。
高齢者をとりまく周りの方々が高齢者の運転という行為の是非に対し、正確な情報を背景にして理解を深めてほしいと思います。
更に進む高齢化、今後の活動は…
高齢者が安全に運転できる社会、それは簡単ではありませんし、私たちだけで作れるものでもありません。
しかしそこから派生し創出されるマーケットがあるのも事実です。高齢者でも安全に車を運転できるような技術革新や、免許の返納後の生活の足となる社会インフラづくりなどは、一般企業やメーカーにとってもビジネスチャンスになり得ると思います。
ですので、今後は今以上に一般企業とのコラボレーション事例なども増やして、積極的に協力して活動していきたいですね。
また我々の活動により仕組みが確立され体系化された際には、是非海外にも展開したいと考えています。
特定非営利活動法人 高齢者安全運転支援研究会
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
介護と医療を通じて
「暮らし」をプロデュースする
株式会社ファインケア 代表取締役社長 永田嘉弘氏
株式会社ファインケアは、ココカラファイングループの「人々のココロとカラダの健康を追求し、地域社会に貢献する」という理念のもと介護事業を専門として関東中心に在宅サービスや施設サービスを展開しています。今回のインタビューではココカラファイングループ内での連携をはじめ将来的な構想やシニアマーケットまで広くお話をお聞きしました。
2013年7月 取材
Q.ココカラファイングループの主軸はドラッグストア事業・調剤事業だと思いますが、グループ内で介護事業をはじめられたきっかけ・経緯をお聞かせください。
約10年前、当時㈱セイジョーの代表取締役社長であった塚本(現㈱ココカラファイン代表取締役社長)が打ち出した理念が、「問題を解決できる企業になりたい」というものでした。そしてこの理念を具体化するための柱として、現在の「ドラッグストア事業」、「調剤事業」以外に、「介護事業」、「フィットネス事業」、そして「通販事業」の3事業を創出することになりました。その当時、私自身は「新規事業」の開発の担当で、介護事業とフィットネス事業、通販事業「OEC」の立ち上げに携わっておりました。ただ介護事業に関しては新たに立ち上げると言ってもそう簡単なものではないため、2006年に当時ドラッグストア業界で一番介護に対して先進的であったシブヤ薬局をM&Aで取得、これをセイジョー内に部門化して介護事業を推進して参りました。そしてココカラファイングループとして今後の日本社会において大きな問題になる介護に本格的に取り組んでいこうということで、昨年ファインケアを設立するに至りました。
また、やはりこれも新規事業であった通販事業については、ココカラファイングループが掲げる「おもてなし」というキーワードとEC(electronic commerce)を組み合わせ「OEC」と銘打ち、新会社を新たに立ち上げました。
フィットネス事業については2008年に政府が打ち出した保険制度である特定健診に則り進めていこうとしていたのですが、国の政策の行き詰まりと同時に我々も断念しました。ただしこの取り組みは現在、介護事業の中にある理学療法士による機能訓練という活動に形を変えて推進しております。
Q.フィットネス事業を始められた当初は高齢者向けだったのでしょうか?
単純に高齢者をターゲットにするというよりも「介護予防」を狙う事業です。
当時はちょうど「生活習慣病」や「メタボリックシンドローム」といったキーワードが一般化してきた頃でしたので、あくまでもこれらを予防するための措置として事業をスタートしました。当社にはドラッグストア事業を通じて登録販売者の資格を取得した者が多数おります。彼らが管理栄養士や健康運動指導士という準国家資格を取得すれば、「薬」と「食事」とそして「運動」の3つをご提案できるようになります。
この3つの知見と資格を取り揃えている人材は非常に貴重な存在であり、場合によっては医師や薬剤師よりも生活習慣病予防に対してトータルなアドバイスが可能です。このような人材育成を積極的に推進していくことを構想しておりましたが、現実的には難しい問題も多く、残念ながら単独事業としては撤退するに至りました。
ただし、その際のノウハウを我々ファインケアの中で理学療法士(PT)や作業療法士(OT)の国家資格を持つ専門家によって、2013年4月に立ち上げたリハビリ特化型デイサービス「ボナール」で活かしていく方向で考えております。
Q.ファインケアでは数多くの施設サービスを運営されていますが、ドラッグストア事業・調剤事業と何か連携は取られているのでしょうか。
私どもファインケアが常に考えていることは、
「高齢者が住み慣れた地域で、できれば自分の家で暮らし続けていけるようにするために、我々は何をすべきか」
ということです。つまり、高齢者の方々が単に私どもの施設に入居していただくカタチに捉われるのではなく、在宅の方にも優良なサービスを提供したり、あるいは高齢者向けの集合住宅を提供するなど、「住む」、「暮らす」という感覚にこだわったサービスを実現したいのです。体の弱い高齢者はなかなか外出できませんので買い物にも行けません。そしておのずと介護や医療が必要になってきます。このような方々に対し、必要なときに必要な介護や医療のサービスを提供する、そんなネットワークを構築して行こうというのがファインケアの構想です。住環境だけを提供するのではなく、各種サービスを含めた多方面から高齢者の皆さんをサポートするということです。そのためには様々な知見や人材が必要になりますが、私どもココカラファイングループには多くの薬剤師や管理栄養士等の専門家は元より、ネット通販機能もあり、そしてファインケアには高齢者の生活を支援する介護の専門家も擁しております。このようにグループ内に存在する多くの資源を連携させることにより、高齢者の生活支援や食事の栄養管理、介護・医療など在宅や施設で安心して暮らすためにトータルな支援をしていきたいと思っています。
その一方で、実は私どものグループ内には医療と食事の分野が不足しています。この部分については外部との連携も積極的に行い機能を補完、そして充実化していこうと考えております。例えば医療の分野では規模の大小関わらず、特に地元の医療機関と連携を進めております。この点については現在、厚生労働省でも地域包括ケアシステムの実現を指針として掲げていることも手伝って、医療機関様とのお話が比較的進めやすい状況にあります。
また、食事の分野をはじめ不足している部分についても、やはり外部との連携をとりつつ、グループ内も一丸となって新たなネットワークづくりに尽力していきたいと考えています。
Q.つまり、「街」のインフラを作っていく感覚に近いのでしょうか。
そうですね。まさに「街づくり」ですね。将来的には高齢者が安心して暮らせることに主眼を置いた「街」を作りたいと考えております。
現在当社は、約100名の方にご利用いただけるサービス付き高齢者向け住宅をご提供しておりますが、今後住宅のみならず、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、調剤薬局等の店舗までを誘致しようとすると、1,000名単位の利用者を集めなければなりません。
また、サービス付き高齢者向け住宅というと、どちらかといえば富裕層向けのサービスというイメージがつきまといがちですが、私どもは富裕層向けのサービスを構築して行くつもりはありません。むしろ家賃を極力安価にしてそこに多くの高齢者が集まってくださることにより、経済が循環し潤うような仕組みづくりが理想だと考えています。その理想形はいかなるものなのか、それは実現の可能性があるのか、そして実現できるのはいつになるのか、現時点ではまだ見えていないことも多いのですが、明らかに言えることは、今、このような仕組みが生活者は元より行政からも待望されているということです。ニーズがあるのは間違いありませんので、何とか私どもの手で実現していきたいです。
Q.医療機関との連携のお話がありましたが、その他課題として何かあればお聞かせください。
課題はやはり人材の確保ということになります。介護事業では、国家資格を保有する介護や医療の専門家が必ず何人必要という人員基準があります。ドラッグストア事業であれば、若い管理者クラスの育成が比較的短期間でできる仕組みがあります。例えば、新卒で採用し、店舗へ配属後教育するとおよそ2年程度で店長になれます。しかし、残念ながら、当社の介護事業においては現時点でこのような仕組みが存在しません。資格保有者や経験者を採用するのが、人材確保の基本的な動きになっております。
また、人材確保と共に人材育成も課題となっています。特に管理者の育成が難しく、これも今後必要とされる仕組みです。特に若い方でも我々の会社に入社していただく為には、人材育成と給与体系の仕組みづくりは今以上に重要となっていくでしょう。
Q.介護サービスの質の向上のために普段から心がけていらっしゃることはありますでしょうか。
ドラッグストア事業ですと、各店員一人一人が日々お客様と接する中で気を付けるべきポイント等を学ぶものですが、介護・医療業界は多職種連携です。1人のご利用者様のお世話をする際にも、医者や看護師、ヘルパー、ケアマネージャー等、各専門家数名のチームで対応しています。特に当社の場合、医療部門は社内に人材がいないため病院と連携する必要がありますし、外部の会社や行政との連携が必要になることもあり得ます。従って各スタッフには、多職種との連携が取れる素質を植え付けていかなければなりません。この連携がしっかり取れないと利用者にとっても不幸ですし、サービス提供の観点からも大変効率が悪くなります。ひいては経営の観点からしても利益を創出しづらくなりますので、普段からスムーズな連携を心がけています。
Q.サービスの質についてはスタッフ個人の素質に依存する部分が大きいと思いますが、会社としてルールやスキームなど確立されているのでしょうか。
これに関しては相反する2つの見方ができます。
我々の業界は100人の利用者がいれば100通りの対応方法があり、マニュアルや仕組みを作ること自体難しいという現実があります。無理にマニュアル化してもそれはナンセンスと言われることもあります。
しかしその一方で、会社という組織である以上はあらゆるノウハウや技術が個人の中だけに蓄積していってしまうことを是とするわけにはいきません。やはり組織としてノウハウや技術を保有し、これが人材育成シーンにおいてスタッフに供給されていくようなガイドラインは必要だと考えております。もちろん人員が育っていくカタチも千差万別ですので、その育成プロセスを詳細に至るまで全て仕組みとして確立することはできません。しかし、一定のガイドラインは構築し、社内の財産にしていきたいとは考えています。
Q.100人の利用者に100通りのサービスというお話がありましたが、利用者やそのご家族にも様々なニーズがあろうかと思います。それらを把握するために何か工夫されていること等はありますでしょうか。
我々の介護サービスにはサポートする方が多く関わっています。医療従事者や介護従事者をはじめ、ご家族やご近所の方々等幅広くいらっしゃいます。居住する高齢者だけにスポットを当てるのではなく、周りでサポートする方々にも色んな情報提供をしていきたいと考えています。
我が国の医療保険や介護保険の仕組みは非常に複雑であり、この先もどのように変化するか分かりません。そんな状況の中、例えばある日突然ご家族のどなたかが倒れられ介護が必要になったとしましょう。その際、ご家族はどのように行動したらよいか、どのような仕組みが活用できるのか、すぐにはお分かりにならない場合がほとんどだと思います。我々には事業を通じて様々な分野の方々が多く関わっていてくださっている独自のネットワークがありますので、ここから日常的に多くの情報を発信し、生活者の方にとって突然の場合にも冷静な対応をしていただけるような環境づくりをしていきたいですね。それは、ドラッグストア業界が変化してきた図式にも似ていると思います。医薬品や日用品だけを取り扱っていたドラッグストアが、それ以外にも食品を取扱うようになるなど、どんどん商品アイテムを増やしてきましたが、その結果生活者の中には、「ドラッグストアというのはほぼ何でも購入でき、ワンストップで買い物ができる場所」という意識が醸成されました。私どももこの図式と同様に、高齢者の皆さんやそのご家族にとって、「普段から様々な情報を供給してくれる存在」でありたいと考えています。若い方であれば病気になった際何とかご自身で対応できると思いますが、高齢者はそういうわけにはいきません。ですので、私どものところに来てもらえれば、介護と医療に関して何でも解決できる、言わば「リアル世界のポータルサイト」のようなイメージです。
Q.利用者の方々とコミュニケーションを取られる際、何か気を付けていらっしゃることはありますか。
リハビリ特化型デイサービス「ボナール」を立ち上げる際、できるだけ「介護」というキーワードは避けるようにしました。あくまでも介護予防のためのサービスですので、ご利用者様は基本的に元気な方々です。たとえ要支援認定は受けていても必ずしも介護が必要な方ではない場合もあります。そういう方が気軽にご利用いただける、サロンやカフェのような身近な存在であるよう、常に配慮をしております。
Q.介護業界に異業種からの参入も増えており施設サービスも急増するにつれ、利用者のニーズも多様化し、ハードよりもソフトのようにサービスに付加価値を求められる時代になると思いますが、新たなサービス等お考えでしょうか。
例えばデイサービスで折り紙や絵画を楽しんでいただく企画などをご提供しているのですが、こういうところに積極的に参加し、かつ社交的に取り組まれる方の多くは女性なのです。女性の皆さんはそのような企画に対し上手に折り合い楽しみを見出しやすい傾向にあります。
一方で、男性の中にはそのような中へ入っていきづらい方が多く、隅で新聞を読んでいたり、少人数で将棋や麻雀をされている光景をよく目にします。また、引きこもりなども男性の方に多く見られる現象です。ですので、このような引きこもりがちであったり、一人暮らしをされてコミュニケーションが不足している男性の高齢者を元気づけるサービスの実現なども今後検討していきたいと思います。
Q.新しいチャレンジを様々されていらっしゃいますが、どこかベンチマークされている企業や経営者はいらっしゃいますか。
ベンチマークしている会社は…特にはありません(笑)。と言うのにも事情があるのです。問題は我が国の制度にあります。日本の介護保険等の制度は他国と比べて被介護者にとって優遇され過ぎていると言いますか…私としては、この制度が我が国の将来の見通しを暗くしている部分があると思います。もちろん、未来永劫この先も今の制度が持続できるのであるならば何の問題もありません。しかし現実的にはそれは不可能です。政府も国民ひとりひとりも、早くそのことについてリアリティをもって認識しなければいけません。
「いつか法律が改正される」 「いつか誰かが何とかする」
・・・という風に他人事に近い認識の方が特に生活者の方々の中には多いと思うのですが、団塊世代が後期高齢者になる2025年にはどういう世の中になるのか、これは大いに不安なことです。
しかしそれに対して明確に答えを出している人は誰もいませんし、行動を起こしている企業もないと思います。このような理由により、私自身がベンチマークしている企業はないのです。
Q.「シニアマーケット」全体についてお聞きしたいのですが、「シニア」といっても業種・業界、ご提供されるサービスによって様々な定義をされていますが、御社の中で「シニア」とはどう定義づけられていますか。
我々の日常業務の中で定義づけするのであれば、3つの指標があると思います。
- 認知症を患っているのかどうか
- ご自身の力で何でもできるのかどうか、介助が必要かどうか
- 家に引きこもっていらっしゃるのかどうか
例えば、我々が運営しているサービス付き高齢者向け住宅に関してですが、ご利用者様が終末期である場合、お風呂は付いていなくともトイレがあれば小さい部屋でも問題ありません。
一方で、たとえ高齢でもお元気でまだまだアクティブな方もいらっしゃいます。そういう方はご自身でお風呂も入りたいでしょうし、ご自分の家から持ってきた家具なども入れて自分らしく暮らしたいと思います。そうすると広い部屋が必要です。
このような利用者の属性をわかりやすく分類してくれるのが前述した軸であり、私どもにとってのシニア層の定義ということになります。
Q.今後シニアマーケットはどのように変化していくとお考えでしょうか。
日本人の平均寿命は年々長くなっています。現在の我々は年を重ね自分の余命がどのくらいあるのか考えた際、これから先どれくらいのお金を持っていればいいのか予測できません。もし今後必要なお金がある程度予測できたとしたら、色んな活動をしてお金を使うこともできるのでしょうが、将来の金銭的な不安が払拭されないから高齢者は万が一に備えて貯金至上主義になり、結果としてお金が動かないという悪循環を引き起こしています。
私どもは、生活者の皆さんが高齢になった際に、生活に必要な自己負担額の目安をある程度詳らかにし、実際に介護や医療が必要になった際にその金額内でサービスを提供できるような環境や枠組みを作っていきたいですね。
それができればお金の心配も少なく安心して生活できますし、もしかしたらそれは一つの景気回復策にも繋がるのではないかと思うのです。
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日本の介護を幸せなものにする
株式会社インターネットインフォニティー 代表取締役社長 別宮圭一氏
株式会社インターネット・インフィニティーは「日本の介護を幸せなものにする」という企業理念のもと、ケアマネジャーに特化した介護関連情報提供事業である「ケアマネジメント・オンライン」の運営をはじめ、東京都・千葉県・埼玉県で在宅介護サービス事業等を行っています。今回のインタビューでは、サービス開始時のお話や介護業界・シニアマーケットの今後について広くお話をお聞きしました。
2013年7月 取材
Q.「介護」と「インターネット」の組み合わせで先進的に事業を行っておられますが、現在のサービスを始められたきっかけとサービスの概要をお聞かせください。
当社は2001年の5月に会社を設立したのですが、元々は介護の会社ではなくソフトの受託開発を行うSI事業を行っておりました。
会社設立直後、訪問介護事業会社のシステムを受託開発することがあり、その時はじめて介護業界を見たのですが、当時の介護業界全体のIT化は他業界と比べてかなり遅れており、従事者のITリテラシーが非常に低いことに驚愕しました。そのため当時の介護業界がビジネスチャンスのあるブルーオーシャンに見えました。
しかしながら単純にHP制作やシステム開発の受託であれば他社と差別化できませんし、将来的に競合の参入が増えるのも目に見えていました。そこで、我々にしかできない我々らしいビジネスモデルはないかと模索しました。
とはいえ我々はあくまでSI会社です。介護業界の知見がなく、なかなか新たなビジネスモデルを確立できずにいました。
そこでまずは自分たちで介護事業をはじめてみようということになり、私自身もヘルパーの資格を取得し、まずは一番設備投資の少ない訪問介護事業からスタートすることにしました。
いざ訪問介護事業をはじめると、幸いにもお客様からのお申込みが多く忙しくなりましたので、思い切ってSI事業からは撤退し純粋な介護事業会社に生まれ変わらせました。そして、新しい事業所の立ち上げや福祉用具のレンタル販売事業、デイサービスセンター、リハビリ専用デイサービス「レコードブック」等、様々なサービスを拡充しました。色々なサービスを展開しましたが常に考えていたのは、どうやって効率的に顧客を獲得するかということです。サービス利用者を増やす為にはケアマネジャーからの紹介が必須ですのですので、地域に点在するケアマネジャーとの効率的なコミュニケーション方法が当時一番の課題でした。
色々なサービスを展開すると介護事業者や介護従事者の立場はもちろんですが、ご利用されるお客様、ご家族の立場も分かるようになりましたので、いったん足を止め当初我々が模索していたインターネットを活用した介護業界でのビジネスモデルの模索に着手することにしました。
そうして生まれたのが、ケアマネジャーの日常業務に役立つような情報を提供するプラットフォームで会員を集めるWEBシステムの「ケアマネジメント・オンライン」です。
Q.「ケアマネジメント・オンライン」について更にお聞かせ願えますか。
当社の経営理念は「日本の介護を幸せなものにする」ですが、介護事業者の多くは「いかに良質の介護サービスを提供できるか」ということに重点を置いています。もちろん我々も常に品質の向上は追求していますが、サービス利用者だけではなく社会全体で見た時の「幸せな介護」も追及していく必要があります。
日本の介護サービスの財源は社会保障費であり、介護サービス利用費の1割はご利用者様にご負担いただきますが、残りの9割は国民の皆様による税金や保険料が充てられます。我々のような介護事業者が良質な介護サービス提供のために追求すればするほどそのためのコストが増大し、その分国民の税負担や保険料負担が増えてしまうという実態があります。
果たしてその姿が「幸せな介護」なのでしょうか。そうではありませんよね。社会全体にとって「幸せな介護」を行うには介護サービスの品質向上の追求だけではなく介護そのものの価値や仕組みの変革だと思います。いかにコストをかけず、これまで以上の品質で数多くの介護サービスを提供できるか。民間企業はこれを考える必要があります。
介護事業を通じて私たちが目指しているのはただ一つで、高齢者の自立を支援しQOLを向上させ健康寿命をいかに伸ばせるかということです。また社会保険費を抑制しなければいけませんので、介護度が軽度の方から重度の方までいらっしゃいますが、我々が提唱する「介護イノベーションを実現して効率化を目指す」というのは重度の方にはあまり当てはまりません。そういう方々に対しては行政を中心とした社会の仕組みとして確立されるべきだと考えています。一方、民間企業である我々は健康寿命を延ばし社会保障費の増大抑制に寄与できるような形を目指さなければいけません。
具体的には「ケアマネジメント・オンライン」において高齢者のQOLを向上すべくメーカーの商品・サービスの情報を発信しています。近年高齢者人口の増加に伴いこれまでの商品・サービスをリポジショニングし高齢者のマーケットに参入されているメーカーが多くなりましたが、高齢者はITリテラシーが低い上に新聞や雑誌を読まない方、テレビを見ない方が多いといったように、情報弱者が多く、良い商品・サービスがあるもののマーケットに普及しづらく、その結果としてQOLの向上につながっていないという悪循環が生まれています。
当社ではケアマネジャーのネットワークを一つの社会インフラと見立てて、そのつなぎ手を担いQOLの向上を目指しています。
Q.介護業界は非常に特殊なマーケットなため、ブルーオーシャンといえ新規参入のご決断も難しかったと思いますが、参入のきっかけになったこと等あればお聞かせください。
IT業界でシステムを開発している時の例ですが、事務職の女性がそれまで時間をかけ手書きで伝票を作成されたものが我々のシステム導入により業務の効率化が図れ、便利になったという喜びのお声をいただくことがありました。
今まで不便だったものが便利になる、業界問わずこの「振れ幅」が事業をしていく上でのモチベーションになります。特に介護業界では、その「振れ幅」が非常に大きく、今まで全く歩けなかった方がヘルパーの支援を受けて買い物ができるようになった、トイレに行けるようになった、ご飯を食べることができるようになった、というように我々の業界はまさに高齢者の命や生活そのものであるわけですから、この「振れ幅」はかつて経験したことのないくらい大きいものでした。
介護業界がビジネスチャンスのあるブルーオーシャンであるということの前に、私たちが提供する介護サービスや商品を使っていただいた後にカスタマーが変化する、この変化の度合いが大きく、世の中にこんな素晴らしい仕事があるのだということを感じた事がきっかけです。SI事業をしている時に訪問介護の事業会社と出会っていなかったら、今現在、介護事業をやっていないと思いますし、本当にいい業界に出会えたと思います。
Q.SI事業という機械が相手になる業界から、人が相手になる介護業界に参入されたわけですが、参入当時迷いはなかったのでしょうか。
我々の場合ケアマネジャーとインターネット上でつながっているものの、その後はリアル世界でのコミュニケーションになりますが、ITの世界からリアルな世界への抵抗感は全くありませんでした。ソフト開発していた際も人の手を介し開発しますし、もちろん人とのコミュニケーションもありました。どの業界でもWEBだけで完結するプロモーションやマーケティングはほとんどないと思います。
我々が介護とインターネット、シニア・シルバーマーケットでITテクノロジーやWEBを使って介護業界を変革するという話をしますと、「高齢者はインターネット使えないからビジネスとして成立しないのでは?」と言われることがよくあります。
この点について言及すれば、実はこれこそが私のこだわりでもあるのですが、インターネットやWEBはあくまでも道具でありツールに過ぎません。高齢者の方がインターネットを使えないという固定概念は間違っており、インターネットが使えないのではなくデバイスが使えないだけなのです。
例えば80歳のご高齢の方が電車に乗る時でも自動改札にICカードをかざせば入れますよね。しかし自動改札システムの後ろには膨大で複雑なシステムが動いているわけです。その80歳の方は自動改札のシステムコードを書けなくても、タッチするだけでそのシステムを使えているわけなんですよね。それと同じです。高齢者にキーボードを使わせようとするから使えないのであって、システムやデバイスを工夫するだけで高齢者の方でもインターネットのメリットを享受できるはずなのです。我々はそういうことを目指していかなければいけないと思っています。
Q.これまで介護事業をされてこられた中で、ご苦労されたことがあればお聞かせください。
過去から現在まで長年のテーマであるのが人的マネジメントです。介護施設の場合は同じ場所で時間を共有できるためスタッフのマネジメントを行いやすいのですが、訪問介護サービスは介護ヘルパーがご自宅へ訪問するため直行直帰が多くコミュニケーションが取りづらいという特徴があります。そのためマネジメントに関して非常に苦労しました。コミュニケーションが取れない分管理が大変でしたが、各人に共通するのは仕事に対する思いや志が非常に強いということです。介護施設ですと他のスタッフもいるため当事者意識が低いことも稀にあるのですが、訪問介護は1人で現場へ行きますから強い当事者意識がないと業務を遂行できません。
マネジメントには苦労する反面、各介護ヘルパーたちは強い責任感やプライド、ポリシーを持ってプロフェッショナルな仕事をしますので本当に尊敬しています。そういう気持ちを共有しながらコミュニケーションを密に取っていくことで、人的マネジメントも壁を超えることができたような気がします。
Q.事業が拡大していくとスタッフが増え、更にマネジメントが課題になったと思いますが、これまでどこかブレイクスルーしたなと感じられた時はありますか?
2006年くらいからM&Aをするようになり急成長した時期がありました。もちろんビジネスとしては急拡大するのですが、文化の違う会社の従業員が入り社員数も急増しますので、更にマネジメントが課題になった時期がありました。その時会社としての理念を体系化する必要があると気づき、「日本の介護を幸せなものにする」という経営理念や、「IIF4つの約束」と呼ばれる行動規範など、明文化して意思統一を図った時ブレイクスルーしたと思いますね。
その他、「ケアマネジメント・オンライン」の立ち上げ時は、マーケティングリサーチのビジネスモデルを考えていたためケアマネジャーの会員獲得が課題で会員獲得のために広告宣伝を行っていましたが、思うように集まらず予算がほぼなくなるという時期がありました。もちろん予算には限界がありますので更なる広告出稿を行うわけにもいかず、社員で色々な策を考えた結果、広告ではなく口コミで広めてもらおうという結論に至りました。ただし何か仕掛けがなければ口コミも広がりません。ケアマネジャーにとって口コミが広がる仕掛けとは何だろうか、色々模索した結果がケアマネジャーの業務支援というコンセプトで開発した業務支援ダウンロードツールです。ケアマネジャーがそのツールを活用し業務の効率化が図れれば隣の席の方に広めてもらえるだろうという想定でした。その仕掛けが功を奏し2006年・2007年には会員が急速に増え、この時ブレイクスルーしたなと思いますね。
その頃同時にビジネスモデルもマーケティングリサーチだけではなく広告メディアとしての販売も考え、単なるバナー広告やタイアップ広告だけではなくメーカーのマーケティング支援のようなビジネスモデルの開発も行っていました。苦労した時期ではありましたが、非常にやりがいがありました。
Q.現在全国のケアマネジャーのうち60%が「ケアマネジメント・オンライン」の会員だということですが、立ち上げられた当時と今とで大きく変化している点があれば教えてください。
ケアマネジャーの平均年齢が下っているという背景も伴ってか、ITリテラシーが向上したことが大きな変化だと思います。サービス開始当時はインターネット業界も発展途上でしたので「インターネットやWEB広告は信じない」という時代でした。ですのでケアマネジャーにとっていくら良い情報やツールが提供可能であったとしても、あくまでこちらから積極的にアプローチをしていかないと活用していただけない状況でした。現在はITリテラシーの向上によって、ケアマネジャー自身が積極的に情報を取りに来られるようになりました。そこが一番大きい変化です。
もう一つはケアマネジメントの質が向上したことです。昔と比べて今は情報量が圧倒的に増えたと共に、ケアマネジャーたち自身のITリテラシーも向上しました。ケアマネジャーという仕事も技術的に高度化が進んでます。ケアマネジャーが作るケアプランの質も向上していると思います。その結果、サービス利用者の生活も向上しますので、この部分については我々の活動が少なからず寄与しているのではないかと思います。
Q.ケアマネジャーとのコミュニケーションが重要だというお話しでしたが、人の生活・命に関わる業界なのでコミュニケーション上を取られる中で特に気をつけていらっしゃるような事があればお聞かせください。
我々は高齢者の生活向上に寄与するメーカーの商品・サービス情報をケアマネジャーに提供していますが、ケアマネジャーは高齢者の生活を支援するため重要な役割を担っていますので、中立公正な立場でなければなりません。よって我々が情報発信する際も、メーカー側に寄りすぎても偏った情報になりますし、介護事業者に寄った情報だけでは新しい情報を提供できませんので、中立公正な第3者の立場で判断する目を持ってケアマネジャーと接するということに一番気を使っています。
Q.日本は超高齢社会であるため、世界的に見ても日本が先駆的だと思いますが、海外展開についてはどのようにお考えでしょうか。
我々が現在提供している「ケアマネジメント・オンライン」に関しては、日本独自の介護保険制度における仕組みやケアマネジャーの立ち位置を考慮したビジネスモデルですので、海外で同じ展開をしても成り立たないビジネスモデルだと思います。既に中国等海外に介護施設等を展開する企業もありますが、メーカーとは違い介護業界はまだ内需が旺盛で、その内需を取り込むことが優先ですので海外展開は今のところ考えていません。
また、2025年問題とも言われていますが、団塊世代が後期高齢者になる2025年までには生産年齢人口も減りますので、現在の制度は必ず破綻してしまいます。ただ国が破綻するわけにはいきませんので、行政による規制緩和や民間企業によるイノベーションにより、この問題を必ず乗り越えると思います。その問題を乗り越えるプロセスや新たな仕組みを、インフラ輸出のような形で海外展開するといったビジネスは十分可能性としてあると思っています。2025年問題を乗り越えた日本は世界から見ても介護の先進国になっているでしょうから、世界中から注目されるでしょうね。そうなった時には海外展開も視野に入れて業界全体が動くと思います。
Q.現在介護事業をされていらっしゃいますが、QOLの向上を追求されるにあたり介護事業以外で何かイメージをお持ちのものがあればお聞かせください。
我々は高齢者のQOLを向上させる手段・方法として介護事業やITテクノロジーを使ったケアマネジャーの業務支援等を行っておりますが、介護事業に特にこだわっているつもりはなく、目指しているのは介護そのものの価値やあり方を変革させ、介護をイノベーションすることですので、現状はまだその一部しか達成しておりません。高齢者の方々がインターネットのメリットを享受してQOLが向上するような仕組や社会を作れるのではないかと思っていますが、将来的には介護を受けられるご本人と何らかの直接の接点を持ちQOLを向上させるようなサービスを開発していきたいですね。
Q.御社の中での「シニア」「シルバー」マーケットの定義・指標をお聞かせください。
我々のマーケティング手法がケアマネジャーのネットワークを使っているため当社独自の考え方にはなりますが、「シルバー」マーケットは65歳以上で要支援・要介護認定を受けておられる方と定義しています。「シニア」については何らかの形で親の介護に係る方々(現在親の介護をしていないが不安を抱えている方々も含む)になります。簡単に言うと我々がケアマネジャーを通じてケアプランを立てさせていただいている高齢者の方々のご家族を「シニア」マーケットと捉えていますので、近年よく言われる「アクティブシニア」は我々が定義している「シニア」には含まれません。やはりこのマーケットは性・年齢で分けるものではなく、年齢的にはいわゆる「シニア」と呼ばれるような方でも親の介護や子育て等の悩みがなく人生を謳歌されている方は「シニア」ではなく、アクティブな方であって年齢とは関係ありません。
Q.2025年問題というキーワードもありましたが、今後マーケットはどう変化すると想定していらっしゃいますか?
我々が定義する「シルバー」マーケットについては、今後健康寿命が伸びるだろうと予測しています。比較的元気でアクティブな「シルバー」層や特定高齢者と呼ばれる方々とお話すると、非常に健康に対する意識が強くヘルスケアに興味がある方が多いです。そして今介護の現場でどういう現象が起きているかというと、自分はまだ元気だという意識があり施設等へ見学に行かれても、「絶対にこんな所には行きたくない」とおっしゃる方が多いのです。
昔は今ほどサービスが多様化していなかったので当たり前でしたが、最近の高齢者の方々はお元気ですし幅広い情報をお持ちですから、当初の枠組みにはまらなくなっています。最近はレスパイトケア(一時的にケアを代替し、リフレッシュを図ってもらう家族支援サービス)ではなく、高齢者本人が施設等で過ごす際、本質的に楽しめないと対価を払う価値がないと考える傾向になりつつあります。それだけニーズが多様化していますので、ただ施設を作っただけでは顧客満足を得られないですし、健康寿命も延びていますので、今後は特徴のある介護サービスや介護の1つ手前のカーブスさんのような施設が増えると思います。これから新たなサービスが増えますます健康寿命が伸びることにより、いつまでも自分のやりたいことができて、食べたいものが食べられて、行きたいところに行ける高齢者が増える。そういう社会になるのではないかと思いますね。
Q.やはり高齢者を高齢者扱いしないコミュニケーションというのが非常に重要になるのでしょうか。
現在「レコードブック」というリハビリ専門デイサービス事業をしていますが、昔でいう高齢者向けの施設という形態ではなく「介護」というキーワードを一切使っておりません。定性的にはなりますが、我々のKPIとして「とにかく介護っぽくしない」というものがあります。そうすればするほど利用者の方々は喜んでくださいますし、マインドも向上していきます。その事業を通じて思うのですが、お年寄りの定義というのは第3者が決めることであり、本人たちは全くその意識がありませんので、レコードブックの活動を含めダイレクトなコミュニケーションで得られるメンタリティの蓄積は非常に興味深いですね。
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
日本発の市販用介護食「やさしい献立」
広報部 メディアコミュニケーションチーム チームリーダー 坂口氏
家庭用本部 商品部 加工食品ヘルスケアチーム 飯泉氏
キユーピー株式会社は “愛は食卓にある。”の想いのもとベビーフードから介護食まで幅広い商品を発売しています。中でも「やさしい献立」はかむ力や飲み込む力といった食べる機能が低下した方にも、おいしい食事を楽しんでいただきたいとの思いから日本で初めて市販用に発売された介護食です。今回のインタビューでは商品概要や開発プロセス、これからのシニアマーケットまで広くお話をお聞きしました。
2013年6月 取材
Q.「やさしい献立」の商品についてお聞かせください。
飯泉氏) キユーピーの介護食についての歴史は長く、その歴史からお話いたします。
1989年当時、当社営業からの声をきっかけに病院・施設向けのシルバー食「やわらか煮」という商品を開発いたしました。
しかし当時の「やわらか煮」は、単に普通の食事を柔らかくしただけといってもよい商品でして、柔らかさの度合いや味付け、量についての考察は全く手さぐりの状態でした。また販売していく中でも様々な課題があり売れ行きも思わしくなく、結果として撤退を余儀なくされました。
その後色々な方のお話を聞く中で、ご家族が突然脳梗塞等で介護が必要になった際、何を食べさせれば良いのか分からないというお声が非常に多いことに気づきました。一方でキユーピーでは当時からベビーフードを商品化しており、そのベビーフードを介護食として大量にご購入される方もいらっしゃるというデータも有しておりました。
そこで病院・施設だけではなく、在宅介護の方々のニーズにも呼応できるような商品を開発しようということになりました。
最初に発売した「やわらか煮」と同様に、この商品の開発にあたっても当初は手さぐりの状態で様々な課題がありましたが、著名な先生方や施設の栄養士の方、また介護施設に入居されていらっしゃる方などのご意見を聞き、1998年に日本初の市販用介護食を発売し、その翌年から「キユーピー やさしい献立」シリーズとして展開しています。
「やさしい献立」は、「やわらか煮」よりも容量を減らし、塩分を控えめにしつつもご高齢の方に満足していただけるようにしっかりした味付けにしました。
硬さについても大きな課題でしたが、お客様の噛む力、飲み込む力に応じて適切な商品を選んでいただけるように工夫しました。その後、弊社も加盟する日本介護食品協議会で「ユニバーサルデザインフード」の5つの区分が制定され、現在ではシリーズ合計で5区分、54品のラインアップを展開しています。
発売当初はパッケージに「介護食」という表記を入れていましたが、現在はこの表記を使わず、あくまで「やさしい献立」という商品名で訴求を行っております。その理由は、この商品があくまで「ユニバーサルデザインフード」、すなわち「みなさんの食べ物である」という定義にたっているからです。具体的にはご高齢の方だけではなく、歯の治療後の方や障害を持たれている方など色々な方に使っていただける商品であるという思いが込められております。
Q.一番購入が多い区分は5つのうちどれなのでしょうか?
飯泉氏)スーパーやドラッグストア等の一般店頭や通信販売等、業態によって売れ筋の商品は異なるようですが、ボリュームが一番大きいのは区分3(舌でつぶせるタイプ)になります。
Q.スーパーとドラッグストアで売れ筋が異なるのには何か理由があるのでしょうか?
飯泉氏)ドラッグストアでは大人用紙おむつや介護用品等と一緒に指名買いをされる方が多く、大量にまとめ買いしていただくケースが多いようです。もちろんスーパーにもそういった方もらっしゃるのですが、こちらではやはり普通の食事に近いものを必要とされる方が多いようです。
Q.チャネルについてお聞きしますが、現在注力されているチャネルについてお聞かせください。
飯泉氏) 現在ウエイトが高いのはドラッグストアですが、昨今の伸長率が高いのはスーパーですね。将来的にはコンビニチャネルでも展開できればという期待を持っております。
事実、現時点でも既に一部の地方ではコンビニエンスストアでもお取扱いいただいている事例もありますので、可能性はあると考えております。
我々としてはこのような事例をもっと増やし、生活者に最も身近な流通チャネルであるコンビニや、首都圏のミニスーパーでも抵抗なく購入できるようになればと思いますね。そのようなプロセスを経て、この商品をもっと日常的に使っていただきたいと願っています。
坂口氏) コンビニでこの商品カテゴリを拡大していくためには、棚効率を上げていくことが大切です。将来的には取扱いは増えていくとは思いますが、そのスピード感についてはまだまだ読めない部分で、商品カテゴリの認知拡大がポイントになると思います。
また、東日本大震災があってから流通企業様にもこのカテゴリのお取扱いを前向きに考えていただいけるようになったようです。有事の際にはお年寄りの食事を別に作るのはなかなか難しいことです。そんな背景もあり、「いざという時の備蓄食」として取り扱っていただく事例が増えてきております。
Q.多くのラインナップ(味)がありますが、ニーズの拾い出しの重心はどういうところに置かれているのでしょうか?
飯泉氏) 無尽蔵に増やしていくわけにはいきませんが、毎日使っていただく商品であることを考慮して開発を行っております。様々な食に関する統計データを参考にして、出現頻度の高いメニューをピックアップしています。
坂口氏) 人は毎日同じメニューを繰り返し食べ続けるわけではありません。食事は栄養面のみならず行為そのものが楽しむべきものであるという側面を持っております。従って継続してご利用いただくためにはそれなりのラインナップが必要です。
ただしラインナップを増やしすぎると生産効率が悪くなり原価が上がって商品価格に跳ね返ってしまいます。随時足し算引き算をしながら開発を進めているような状況です。
また「ご高齢の方が対象だから和風」などという先入観に捉われず、洋風メニューの採用も積極的に進めております。例えばチキンライスのような洋風メニューもありますが、これを採用したのは単に洋風のバリエーションを増やすというだけの理由ではありません。チキンライスという食べ物は洋風でありつつも、実は日本人にとってどこか昔懐かしいメニューだったりします。だから年配の皆様はチキンライスを食べるとなんとなく人生をフラッシュバックし、昔懐かしい時代のことを思い出し、心も元気になるのです。
食べることを通じて、生きる気力が湧き起こるきっかけになってくれたら・・・。メニュー選定の背景には私どものそんな思いも込められています。
飯泉氏) もうひとつ例を挙げさせてください。区分3の「肉じゃが」も人気商品のひとつなのですが、実はこれが商品化された頃、私は内心で「肉じゃがなんて家で簡単に作れる商品が果たして売れるのだろうか。」という疑問を持っていました。
しかし結果的にはベスト3に入っている商品です。結果として珍しいものや外食志向の献立ではなく、ご家庭でも作られているようなる普遍的なメニューに高い評価をいただくことが多いようです。
Q.「肉じゃが」がベスト3に入るということですが、ベスト3のその他の味を教えていただけますでしょうか。
飯泉氏) 1番売上が大きいのは圧倒的に区分3の「やわらかごはん」ですね。この商品は単にごはんを柔らかくしたものでも、お粥でもありません。通常お粥というのはごはんの粒と汁が分離しておりますので、ゆっくり飲み込む方はむせやすいという傾向にあります。この商品はモッチリまとまっており、水分の量が少なくお皿に出すと口の中でまとまり飲み込みやすいという商品です。
坂口氏) 「ごはん」は日本人の主食ですので、この「やわらかごはん」は通販でのケース買いが多いようです。
飯泉氏) その次に人気なのは区分2の「おじや親子丼風」ですので、やはり主食が人気のようです。
Q.商品の金額はどのくらいなのでしょうか?
飯泉氏) 発売当初は1つ300円でしたが2回の価格改定を経て、現在は180円、150円ラインの価格帯になっています。
坂口氏) 食事は毎日するものですので高い金額を払い続けるわけにはいきません。お買い求めいただきやすいような価格の実現というのは、ユニバーサルデザインフードを普及させていく上での大事なポイントになりますので我々も日々努力しております。
Q.商品を購入される方の年齢に傾向はあるのでしょうか?
飯泉氏) 非常に難しいところです。一般的に「シニア」というと65歳以上のイメージですが、実際に「やさしい献立」のような食事が必要な方は80歳以上というような漠然としたイメージがあると思います。しかし実際には80代でも使わない方も多くいらっしゃいますし、50代で使っていらっしゃる方もいらっしゃいます。年齢というよりも、入退院を経験されたかどうかという指標の方が有効かもしれませんね。またこの辺りの属性を分析しようにも買われる方と使われる方が異なるという実状があるので分析が難しいところです。
Q.マヨネーズのイメージが強いキユーピーさんですが、介護食マーケットに参入されるきっかけは何だったのでしょうか?
坂口氏) もともと日本人の体格向上を願って製造販売を開始したのがマヨネーズです。そこを起点に食を通じて健康的な生活を送っていただきたいというのがキユーピーの考え方です。新しいマーケットに参入する上でキユーピーとしてその会社の考え方に基づいたストーリーが描けるかどうかが市場参入時の重要な指標になります。キユーピーは主に調味料や加工食品などの商品を中心に製造・販売をしていますが、ここにも「マヨネーズやドレッシングを使ってもっと野菜を食べましょう」、「ジャムを使っておいしくパンを食べましょう」などの「食に対する思いやストーリー」があります。
ならば「やさしい献立」のストーリーは何か…。
「高齢になって食事が満足にできなくなってしまった方に対しても、キユーピーとして何かお手伝いできないだろうか」という当社の思いそのものが商品というカタチになっております。
キユーピーには”Food, for ages 0-100”という考え方があります。0歳から100歳までのあらゆる食シーンにおいて貢献できる企業であろうという意味ですが、「やさしい献立」も、この考えに沿った商品といえます。
Q.ベビーフードと介護食とで似ている点はあるのでしょうか?
坂口氏) 柔らかく食べやすくするという点で硬さ・柔らかさはベビーフードと似ていると思います。ただベビーフードはこれから成長していく赤ちゃんが味覚を覚える過程のものですし、食べる・噛む機能を鍛えるという位置づけにもあります。対して介護食は色んな食経験や人生経験をお持ちの方がお召し上がりになりますので味付けの点でもベビーフードとは大きく異なります。健康を考えて薄味にすればいいわけではなく、食べられる方の人生観とも結びつける必要があります。そのため味付けにはよいダシを惜しまず使うなどの努力や工夫をしています。栄養バランスを無理矢理考えるよりも、まずはおいしさを優先していることが当社の商品開発の特徴なのかもしれません。
Q.商品開発のプロセスと期間を教えてください。
飯泉氏) 「やさしい献立」の発売時の開発では病院の先生や施設の栄養士の方、入居されていらっしゃる方の声を取り入れながらでしたが、現在は一般のお客様からの声も多く取り入れています。お客様相談室へのご意見や励ましのお言葉や、通販部門に寄せられるアンケート等を参考に開発しています。一概には言えませんが10~20人で約1年半~2年くらいかけて開発しています。
Q.昨今「やさしい献立」のような商品を発売するメーカーも増えたような気がしますが…?
坂口氏) 昔から取り組んでいる企業も多くありますが、メディアの報道も含めて話題に上ることが増えたのはここ2年くらいでしょうか。
飯泉氏) 勿論メーカーとして競合他社にどう立ち向かうかということを考えなければいけないのですが、市場が非常に小さいため市場全体を活性化する必要がありますので、弊社としては是非他社の商品と弊社商品を一緒に並べていただきたいと考えています。
坂口氏) 介護食の市場は約1000億円と言われておりますが、そのうち流動食とトロミ調整食が多くを占めています。その中でレトルトタイプの食品は約20億程度だと言われていますので非常に小さいマーケットです。
また実際に介護に直面しない方にとっては、日常生活でほぼ必要性を感じない商品ですので、こういう商品カテゴリが存在すること自体ご存じないケースが非常に多いと思います。しかし今は介護というものに無関心な方であっても、ある日突然介護問題にさいなまれることは往々にしてあります。その際に介護食というものが存在していることを知っているかどうかは、介護者の方にとって非常に重要な問題です。
従って、我々としては競合商品を意識するよりも、まずは競合商品も含めたカテゴリ全体の認知度を高めていくことが必要だと考えています。
Q.商品カテゴリの認知を上げるためには行政のチカラも必要でしょうか?
坂口氏) 我々メーカーが頑張らねばならない部分もありますが、弊社も参画している日本介護食協議会としても商品カテゴリの認知を高める事を重要視しています。最近は農林水産省でも議論されていますので、そこへも我々メーカーとしての考え方は伝えていきたいと思いますし、メーカーや協議会、行政だけでなく現場の方の意見も聞いた上で、何が必要か施策を考えなければいけません。つまりはメーカー、協議会そして行政など、それぞれが頑張らなければいけないんだと思います。
Q.商品の認知についてキユーピーとしてどう生活者とコミュニケーションを取られているのでしょうか?
坂口氏) 介護する側、される側と対象を分けてコミュニケーションするという考え方もありますが、する側、される側にこだわらず多くの方に届くような方法で地道にコミュニケーションを取るのが重要だと考えています。現在は新聞広告をメインに展開しています。介護する方・される方が集まる特定の場所があるわけではありません。強いて言えば病院や施設がそれに当たりますが、そこで商品カテゴリや商品自体の認知、そして便利な使い方に至るまでを周知できるようになれば、市場そのものも拡大することにつながっていくと考えています。
Q.御社の中で、「シニア/高齢者」の定義であったり、マーケットを考える際の指標のようなものはあるのでしょうか?
坂口氏) 明確にはありません。先ほどもお話しましたが「やさしい献立」が必要になる方は高齢者の中でも少数派ですし、若い方でも必要な方はいらっしゃいますので年齢では区切れません。
あえてマーケットを階層化するならば、
- 「やさしい献立」のような食事を日常的にご利用いただいている方
- まだ「やさしい献立」のような食事は必要ではないが、最近噛む力が弱くなった方
- 通常よりも少し柔らかい食事を求められている方。
- 日常的に健康に気を使ってらっしゃる方
といった、ユニバーサルデザインフードに対するニーズ別の分類になろうかと思います。
Q.これから更に高齢化が進む見通しですが、マーケットの変化として何か具体的なイメージがあればお教えください。
坂口氏) 先程チャネルのお話の中にありましたが、コンビニのような買い場への対応はすごく重要になると思います。
遠くの総合GMSより近くのスーパー、更に近くのコンビニや通勤経路や駅周辺、宅配・通販など昨今は流通が変化・細分化されてきているため、それぞれの形態に対しどのように対応していくかを考えていく必要があります。
最終的にはお客様のお手元に対し、今以上に素早く、そして確実に届くシステムを作っていくこと、それが最重要課題だと思います。
キユーピー株式会社 ホームページ
シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。
病院・施設の食事療法を在宅で
株式会社ヘルシーネットワーク 代表取締役 黒田賢氏
株式会社ヘルシーネットワークでは、病院・福祉施設で利用されている食品を、在宅で食事療法を行われているお客様へ宅配便でお届けする通販サービスを行っております。栄養成分や商品形態などの特徴別の3種のカタログ(たんぱく質調整食品の「いきいき」、高齢者向け商品の「はつらつ」、エネルギー調整食品の「にこにこ」)とホームページからの受注体制で、現在の1ヶ月の通販利用者は約23,000名。今回のインタビューでは通販サービスの概要からシニアマーケットまで広くお話をお聞きしました。
2013年4月 取材
Q.通販サービスを始められたきっかけと、サービス開始当時と現在のサービスの変遷があればお聞かせください。
まず、弊社の通販サービスについてお話する為には、関連会社であるヘルシーフード株式会社のご説明をしなければなりません。ヘルシーフード株式会社は、病院・施設に向けた食品の開発と卸事業をしております。そんな中、食品をお届けしていた病院・施設様から、「在宅で食事療法をしている方にも、病院で食べていたものと同じような食事を自宅に届けてほしい」というお声をいただいた事が、通販サービスを始めたきっかけです。当時(1983年)は、今ほど物流・配送機能が充実していなかったので、担当者がお客様のご自宅まで直接商品をお届けするしかありませんでした。また、当時は流動食等を中心にお届けしていました。しかしお客様の数も増えると、我々自身で直接お届けするキャパシティを超えてしまったので、配送業務を物流会社へ委託することにいたしました。その後、1999年に通販事業を法人化し、現在の株式会社ヘルシーネットワークに至ります。お陰様で現在は日本全国に商品をお届しています。当時と現在を比べてみた時に、患者様が管理栄養士の先生から指導され、カタログを見て注文いただく、という大きな流れは実は30年前から変わっておりません。しかし当時は取り扱う商品数も少なくカタログも薄いものでした。それに比べ現在では、腎臓病や糖尿病、潰瘍性の胃腸炎の方等、様々な症状の患者様に対応しており、およそ3,000以上の商品を取り扱うまでに成長致しました。その結果、カタログ自体も相当厚みのあるものになりましたね。またアイテム数の増加に伴い、受注件数は勿論のこと、ご提供できるサービスレベルも拡大し、日々バージョンアップをしています。
Q.他社サービスとの差別化ポイントはどこにありますでしょうか?
関連会社のヘルシーフード株式会社が卸事業も行っているので、病院・施設と日常的な接点を持っている事が差別化ポイントだと思います。
病院・施設でよく使われている商品が何なのかを把握できることにより、医療・介護現場での利用頻度の高い商品を通販での取扱商品として選定することができるのです。介護食・治療食の通販事業をされている企業は他にも沢山ありますが、やはり弊社の強みは医療・介護現場との日々のネットワークがあるということだと思います。
更に顧客サービス面でのポイントとしては、医療機関の指導のもとで弊社商品をご案内いただいているという点です。「食事療法」というのは意外と難しいもので、実は患者様さんご自身で、「このくらいの食事で大丈夫だろう」と判断しにくいこともあり、正しくご利用いただけない場合もあります。何が患者様さんにとって良いものかが判断できるのは、やはり医師や管理栄養士など医療機関の方ですので、きちんと医療機関で指導してもらった上でご購入してもらう、という流れにしっかりと準ずるのが弊社サービスの基本です。
Q.事業の持つ社会的意義については意識されますか?
もちろん社会性や社会的意義については私なりの意識を持っております。ただしそれは、「高齢者向け」の「食」にまつわる事業だからという理由ではありません。世の中には様々な企業がありますが、全ての企業が一様に社会性や存在意義を有していると思います。例えばここにある携帯電話にせよ、私たちのカタログを作ってくださっている関係各社にせよ、全ての企業が日本の社会に寄与していると私は思っています。
その中で弊社が持つ社会的意義を掘り下げるとするならば、それは弊社が取扱う商品が患者様の「いのち」に関わっている点だと思います。患者様の「いのち」を守るため弊社ができること、なすべきことは、商品を安定して供給すること、介護生活への経済的負担を少なくするためリーズナブルにお届けすること、そして患者様の精神的負荷を減らすためのお手伝いをすること、と考えています。
私たち健常者には想像しにくいことなのですが、患者様というのはそれまで普通に生活をしていたのに、ある時突然医師から自分はこれまでとは違う食事を指導されるわけです。これは相当なショックなことだと思います。だからこそそういう方々にも、カタログの中の食事療法に関するコンテンツを通じて、何らかの前向きな気持ちを持っていただくお手伝いができれば、と考えております。この様な形で精神的なサポートを行うことも我々の使命の一つだと考えています。
Q.患者様への精神的サポートも使命として捉えられていらっしゃるということですが、お客様との接点で特に気を付けている、気を使ってらっしゃる点はあるのでしょうか?
WEBからのご注文もありますが、お客様と直接お話できるコールセンターは重要な接点の一つと考えています。コールセンターでは商品の情報はもとより病症についても知識を持っておく必要があります。そしてもっと大事な事は、お客様との話し方や対応方法です。お客様とのコミュニケーションは非常にデリケートな行為ですので、弊社としてはとても気を使っております。そのための社内研修等も定期的に行っております。ただ弊社の社員は高いモチベーションを持って業務に携わってくれていると言えるのかもしれませんね。社員一人一人が誇りを持って仕事をしており、その誇りがお客様への対応を自然と柔らかいものにしているのかもしれません。
もちろんコールセンターや受注現場では、お客様からの厳しいご意見を沢山いただきます。その点についてはしっかりと反省し、業務に反映していかなければならないと思いますが、それと同時にポジティブなお声も沢山いただいております。例えば「ヘルシーネットワークの商品を使った食事で、こんなに数値が改善されました、ありがとうございます」といったお声や、弊社食品を使われていた患者様が亡くなられた後にご家族から「御社の商品を食べている時は、本当に嬉しそうな顔をしていました」という御礼のお手紙をいただいたこともあります。こんな時がこの仕事をやっていて良かったと感謝する瞬間です。
そしてもう一つの重要なお客様との接点がカタログです。それぞれの病症に合わせて3種のカタログを発行しておりますが、ただ商品を一方的に紹介するようなものは目指しておりません。コラムや読み物などのコンテンツを充実させ、少しでもお客様がこれからの食生活に対する不安を解消し、弊社商品を安心してご利用いただけるよう努めています。
Q.商品の「購入者」=「利用者」ではないと思いますが、購入者の属性はどのようになっていますか?
確かに「購入者」=「利用者」とは言えないという事実はあると思います。また利用者の細かい属性まで把握できていないのが実情です。
一方で「購入者」の属性についてですが、以前コールセンターで調査を行った際に主婦層、それに類する女性が全体の80%以上を占めるという事が分かりました。また「やわらか食品」の購入者年齢がやわらかさのレベルによって違いがあるのか、という点に絞って調査を行ったこともありますが、結果はほぼ同様でした。
更に3種類のカタログそれぞれについても調べてみましたがとりわけ大きな違いは見出せませんでした。
これらのことから、私どもが至った結論は症状と購入者の属性はほぼリンクしないものであり、購入者を年齢などの属性をキーに分析することは特に大きな意味がないということです。
Q.昨今、シニアマーケットの拡大により、様々な企業が高齢者向けの食品の販売を開始し始めるニュースをよく見るようになりましたが、どう感じられていますか?
まず「高齢者食」といっても、私なりの分類として「健康食」、「介護食」、「(いわゆる)治療食」等々、様々なカテゴリがあります。しかし、今のところそれらのカテゴリに明確な定義があるわけではありません。確かに柔らかい食事、塩分を少なくした食事というような、幅広い意味で高齢者に向けた食品は増えていますし、マーケットとしても拡大していると思います。ただし、弊社が取り扱う商品カテゴリは、そのように広く高齢者全体をターゲットにした食品ではなく、あくまでも何らかの疾患・障害を持った方のための「(いわゆる)治療食」です。確かに「治療食」マーケットへ参入する企業も増えてはいますが、激増しているわけではありません。「治療食」は病院・施設で使われることが前提となります。しかし病院・施設で使っていただくためには長い時間をかけてブランドとしての信頼を勝ち得る必要があります。この点が新規参入しようとする企業にとってのハードルになるのではないでしょうか。
Q.スーパーやドラッグストアなどの流通チャネルで高齢者向けの食品売り場が増えたような気がしますが、今後の展望をどうお考えですか?
一時期、ドラッグストアが「介護食」の取り扱いを始めましたが、あまりうまくいかなかったように記憶しています。恐らくひとつのドラッグストアの商圏内に「介護食」を必要とする母集団はそれほど多くなかったからではないでしょうか。
流通店舗としても、母集団が少なければ味のバリエーションを揃えたり取扱アイテム数を増やすこともできず、利用者からしても選択肢が少なければ食のバリエーションが乏しくなってしまいます。「介護食」を街のドラッグストアで購入するという習慣を根付かせるためには、流通店舗側も一定以上の取り扱い商品ラインナップを維持する必要がありますが、そのためにはやはり一定以上の売上規模=顧客数が必要になります。
ただ、今後は高齢者の数が確実に増えていきますので、どこかのタイミングで「介護食」のバリエーションも増え、今以上に店頭スペースを占める日も近いかもしれません。
Q.今までのお話を振り返りますと、「治療食」というかなり特殊なマーケットを担ってらっしゃるのですが、ターゲット層や業界に関わらず、ベンチマークされている企業があれば教えてください。
私にとってはやはりアマゾンさんです。アマゾンさんのすごいところは色々ありますが、何よりもまず世の中のルールを変えてしまったということです。
ルールを変えるというのは本当にパワーがいることです。もちろん事業を成功に導くためにはアイディアや分析力なども必要です。しかしアイディアは多かれ少なかれ、どの企業にもあるものです。問題は「それをやりきれるか」どうかということです。
「やりきる」ためには、熱意と継続力、そして資金力が必要です。そしてアイディアを実現するためには細かいハードルも多く発生します。それを乗り越えたという意味でアマゾンさんの動向には常に注目しています。
また弊社内でカタログを制作する際に参考にさせていただいたのはアスクルさんです。何か新しいことにチャレンジしようとした際に、どこの業界でも様々な問題が起こるものです。先程のアマゾンさんの場合も同じですが、アスクルさんも現実的な障害を一つずつ乗り越えてこられた企業です。そういう意味では弊社のビジネスのあり方を考えるにあたっても随分参考にさせていただいております。
そしてもう一社あげるならば、それはヤマト運輸さんです。今でこそ全国の配送網が整備されていることが当たり前ですが、我々が事業を始めた頃はまだ宅配のネットワークが確立された時代ではありませんでした。そのネットワーク構築をヤマト運輸さんは成し遂げられたわけですが、それがなかったら今の日本における通販業は成立していなかったわけですし、弊社も現在のような事業展開はできていません。また、単に物流を担うのみならず、一人一人のドライバーの方たちがお客様に対して丁寧にきめ細かい配慮ができるような組織づくりをされている点にも敬服しています。ヤマト運輸さんには今後の新しい取り組みも含めて常に注目しています。
Q.「シニアマーケット」についてお聞きしたいのですが、現在、100兆円以上あるといわれる「シニアマーケット」をどう捉えていますか?
単に「シニアマーケット」と言っても定義があるようでないと感じています。例えば「シニア」という単語ひとつとった場合を考えてみます。よく「シニア=60歳以上」と定義されて話が進む場面に出くわしますが、弊社マーケットの場合、シニアというくくりを「年齢」という概念だけで区切ってしまうと少し無理が生じます。
では年齢以外にどのような指標を意識すべきか。
私は今回のインタビューについて整理するにあたり、シニアという市場について考察する場合、横軸に「身体的制約の高い/低い」という指標、そして縦軸には「活動範囲が広い/狭い」というような指標を置いたポートフォリオで考えてみました。
もちろんこれは弊社のビジネス特性を踏まえた独自の見方です。シニア層の中にもさまざまな生活実態や環境の違いが存在します。80歳でも元気に動けて人生を謳歌していらっしゃる方もいれば、60代でも病気が原因で制約のある生活を送っていらっしゃる方もいます。それらを踏まえると、この図の中では、弊社サービスはAに位置します。その対極にあるCの層は、高齢者ではあるけども団塊世代で、旅行などアクティブに活動される方が多く、これからのボリュームゾーンだと考えられます。ただ、この図の全体のマーケットサイズが拡大したとしても、プロットされる全体の%は変わらないと予測しておりますので、やはり弊社のサービスは非常にニッチなマーケットであり、大手企業の参入が難しいマーケットなのかもしれません。
Q.「ニッチなマーケット」という事ですが、今後マーケットを広げたり、新しいマーケットへの参入等お考えでしょうか?
先程の図で考えた場合、Dには実質的にマーケットが存在しません。そうすると現在Aのゾーンにいる弊社のマーケットを拡大するためには、身体的制約が少ない層への拡大(Bへの拡大)が考えられます。
ただしこの市場を攻略するためには一定以上のコマーシャル力が必要となります。そして現在の弊社にはその部分で勝負する力があるとは思えません。
また、市場を拡大するためには自社の強みを再度洗い直す必要がありますが、弊社の強みはやはり病院・施設と繋がりを持てていることです。そう考えると、現時点でBのゾーンを狙うことが得策とはいえないと思います。
ならば拡大をどこに求めるか。その答えのひとつとして私は「海外展開」に着目しております。具体的にはアジアにおける介護市場です。アジアには日本ほどではないにしても、着々と高齢化が進んでいる国や地域があります。そしてそれらの国や地域は、こと介護という視点では技術も意識もまだまだ成熟していません。
日本は世界から見ても言うまでもなく高齢社会ですが、同時に高齢者向け、介護市場向けのサービスも世界一充実しています。それはとりもなおさず日本企業が同市場において先駆的なポジションにいるということを意味しています。
ただし、日本の医療・介護に関する環境は、世界の潮流と比較して特殊な側面も持ち合せています。日本のどこが世界から見て特殊なのか、世界的なスタンダードはどこにあるのか、そして世界の医療・介護市場にアジャストしていくためには、何を切り捨てなければいけないか、これらについて冷静なジャッジが必要です。
今後はグローバル展開も視野に入れて世界のスタンダードは何なのかを模索していきたいのですが、そのためにも国内は勿論、海外の方や企業とも繋がりをもち、多くの知見を取りいれていきたと考えています。
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