第13回 株式会社大塚製薬工場
シニアへの認知・理解促進は、 第三者を介在させた 間接的コミュニケーション
株式会社大塚製薬工場 OS-1事業部 マーケティング部 坂下 悠一氏
世界の人々の健康に貢献することを目標として事業展開する大塚グループの中で、日本市場の約50%シェアを誇る輸液メーカー、大塚製薬工場。そして、医療現場で蓄積したノウハウから、一般生活者向けに開発された“経口補水液”『オーエスワン』。今回のインタビューでは、『オーエスワン』の開発のきっかけから、リーディングカンパニーとしてのマーケティングゴール、現在の課題、そして今後拡大するシニアマーケットをどう捉えているのかなど、幅広くお話をお伺いしました。2015年3月 取材

Q.まず『オーエスワン』の商品についてお聞かせいただけますか?

Q.一般的に言われる水分補給飲料とは成分が違うんですね。
はい。ではまず、“経口補水液”について、ご説明します。 風邪をひいたとき等に病院で点滴処置をされることがあると思います。これを “輸液療法“と言います。“輸液療法”は血管に直接水分や電解質、栄養などを補給する方法です。 それに対して、軽度から中等度の脱水状態に対して、必要な水分・電解質を口から取り入れる(経口的に補給する)”経口補水療法(Oral Rehydration Therapy;ORT)“という方法があります。脱水状態への対処において経口補水療法(ORT)は点滴と同等の効果があることが知られています。 この経口補水療法に用いられるのが『経口補水液』で、WHOや米国小児科学会等でその組成が決められています。『オーエスワン』は米国小児科学会の基準に準じた組成となっております。 冒頭に、“病者用食品”とお話しましたが、開発過程で臨床試験を行い、エビデンスを持っております。 そのため、“特定の疾病のための食事療法上の期待できる効果の根拠が、医学的・栄養学的に明らかにされている食品“という意味で、消費者庁から“個別評価型病者用食品”の表示許可を得ています。
Q.開発に至る背景をお聞かせいただけますか?
経口補水療法は実は古くから発展途上国で用いられている方法で、世界的に注目されたのも1970年代でした。南アジアでコレラが流行した際に用いられ、コレラによる死亡率が劇的に改善しました。 しかし、先進国では比較的医療へのアクセスが容易なこと、また衛生環境が整っていること、さらに日本では輸液(点滴)を希望する患者が多いことから、経口補水療法は一般に用いられていませんでした。 一方で、冬場に流行する感染性胃腸炎は、乳幼児で流行し、コレラのような激しさはないものの下痢や嘔吐を伴うことから、脱水状態に陥りやすい疾患です。 治療には大人と同様に輸液が用いられますが、小さな子供に輸液を行うことは、技術的な困難に加えて、針を刺すことを当然子供は嫌がります。 そこで、輸液によらずに脱水状態の進行を回避できる方法がないかと考え、経口補水療法に用いられる経口補水液の本邦での開発に着手し、製品化に至りました。 輸液に比べて経口補水液による脱水状態への対処は、針を刺さないため痛みを伴わず、口から飲むだけの簡便なもので、方法を理解すれば自分で(小さい子供の場合はその親が)対応することが出来ます。Q.『オーエスワン』の購入者に特徴があればお聞かせください。
小さいお子さんをお持ちのママや、ご高齢の購入者が多い傾向にありますね。 乳幼児は新陳代謝が活発なことに加えて、体の水分量を調整する機能が未発達ですし、免疫力(抵抗力)が低いため感染症にかかりやすいという特徴があります。特に冬場の感冒・感染性胃腸炎などに罹患すると脱水状態に陥りやすい傾向にあります。 高齢者は、加齢と共に筋肉量が低下するため、体に保持できる水分量が少なくなります。 それに加えて喉の渇きを感じにくくなったり、更には食事の量が減るなど、様々な機能低下による水分摂取量の減少によって脱水症になるリスクが高くなります。ですので、最近では一度医師に奨められて体感された方が常備用ということで、オーエスワンをケースで購入して下さる方も増えてきました。Q.マーケティングゴールはどこに設定されていらっしゃるのでしょうか。
脱水症のリスクをきちんと理解していただいた上で、『オーエスワン』を知っていただき、家に“常備”してもらうということです。 あくまで、経口補水療法についての理解が前提ですが、脱水状態が進行する前に対処をすることが可能になれば、脱水状態に苦しむ人を少なくすることができると考えています。 そのためのコミュニケーションとして、タレントの所ジョージさんを起用して「STOP脱水、ストックOS-1」というキャッチコピーで広告・宣伝活動を行っています。
Q.経口補水液のリーディングカンパニーである御社ですが、何か課題があればお聞かせください。
我々は、先ず脱水状態に陥るリスクの高い方々に製品と情報をお届けすることを第一に、特に小さいお子さんをお持ちのママと高齢者とのコミュニケーションに取り組みました。 2010年に猛暑日が続き、熱中症の注意喚起がメディアを通じてされるようになりましたので、皆さん水分と塩分も摂らなければいけない、という事はご存じなのですが、具体的にどうすれば良いのか認知されていないのが現状です。 本来であれば、我々も広くコミュニケーションをしていかなければならないのですが、“病者用食品“という特殊なカテゴリですので、「健康増進法」や「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保用に関する法律」等に従う必要があります。そのため一般消費者の方にわかりやすい表現が難しいというジレンマを持っています。 これら制約の中で、最適なコミュニケーション方法を見出す事が一番の課題ですので、常に模索していますね。Q.現在高齢者に対してはどのようなコミュニケーションを取られているのでしょうか。
現在は、医療従事者を介在した、間接的なコミュニケーションをメインとしています。 『オーエスワン』は 飲料ですが、日頃から常用的に飲むことを目的としたものではなく、主に調剤薬局とドラッグストアを流通販路としています。これは医師や薬剤師からきちんと説明を受けた上で購入していただく、という当局との指示を主旨としているためです。 従って、商品サンプリングに代表されるような、消費者との直接的なコミュニケーション手法は採用しておりません。Q.具体的なコミュニケーションとしてはどのようなことが挙げられますか?
〝病者用食品“という位置づけにもある通り、基本的に脱水状態にある方に対して医師の指示のもと、飲用いただく製品であるため、医師および医療関係者にご紹介し、オーエスワンを必要とする方に勧めていただいております。 最近の取り組みですと、高齢者の熱中症対策として何かできないか、約2年前から社会福祉協議会等、地域の高齢者の見守りをされている方などへの情報提供の方法も模索しています。 その他、脱水症に対する注意喚起の啓発活動も行っております。 その成果もあり、高齢者にも経口補水液に関しての認知は進んでいるようです。しかし、残念ながら十分な理解までは至っていないようですね。 これまでは経口補水療法(ORT)の啓発活動をすることによって、必然的に『オーエスワン』の購入が増えると考えておりましたが、類似商品も増えましたし、近年は企業の宣伝を鵜呑みにされない傾向にありますので、コミュニケーションにも工夫をしていかなければいけませんね。Q.現在シニアマーケットは拡大傾向ですが、これについてはどうお考えでしょうか。

Q.最後に、今後の課題をお聞かせいただけますでしょうか。
ひとつは、脱水症の“予防”ですね。 『オーエスワン』の開発過程で、輸液(点滴)との補水効果の同等性のエビデンスは持っていますが、“予防”についてのエビデンスはまだ持っていません。 本来であれば、脱水症になってからではなく、脱水症になる前に対処するのが最も良い方法だと思います。 将来的に、予防適用や表示許可等のエビデンスを持って啓発できれば、需要も高くなると想定されますし、飲んでいただくシーンも広がると思います。 我々としては、高齢者をはじめとして、乳幼児、暑熱環境にある方などが少しでも脱水状態が進行するリスクを回避できる環境づくりを目指していきたいですね。 『オーエスワン』オフィシャルサイト http://www.os-1.jp/index.html<<<第12回 からだづくり三鷹 第14回 株式会社円谷プロダクション>>> <関連記事>