第4回 株式会社ファインケア
介護と医療を通じて
「暮らし」をプロデュースする
株式会社ファインケア 代表取締役社長 永田嘉弘氏
株式会社ファインケアは、ココカラファイングループの「人々のココロとカラダの健康を追求し、地域社会に貢献する」という理念のもと介護事業を専門として関東中心に在宅サービスや施設サービスを展開しています。今回のインタビューではココカラファイングループ内での連携をはじめ将来的な構想やシニアマーケットまで広くお話をお聞きしました。
2013年7月 取材
Q.ココカラファイングループの主軸はドラッグストア事業・調剤事業だと思いますが、グループ内で介護事業をはじめられたきっかけ・経緯をお聞かせください。
約10年前、当時㈱セイジョーの代表取締役社長であった塚本(現㈱ココカラファイン代表取締役社長)が打ち出した理念が、「問題を解決できる企業になりたい」というものでした。そしてこの理念を具体化するための柱として、現在の「ドラッグストア事業」、「調剤事業」以外に、「介護事業」、「フィットネス事業」、そして「通販事業」の3事業を創出することになりました。その当時、私自身は「新規事業」の開発の担当で、介護事業とフィットネス事業、通販事業「OEC」の立ち上げに携わっておりました。ただ介護事業に関しては新たに立ち上げると言ってもそう簡単なものではないため、2006年に当時ドラッグストア業界で一番介護に対して先進的であったシブヤ薬局をM&Aで取得、これをセイジョー内に部門化して介護事業を推進して参りました。そしてココカラファイングループとして今後の日本社会において大きな問題になる介護に本格的に取り組んでいこうということで、昨年ファインケアを設立するに至りました。
また、やはりこれも新規事業であった通販事業については、ココカラファイングループが掲げる「おもてなし」というキーワードとEC(electronic commerce)を組み合わせ「OEC」と銘打ち、新会社を新たに立ち上げました。
フィットネス事業については2008年に政府が打ち出した保険制度である特定健診に則り進めていこうとしていたのですが、国の政策の行き詰まりと同時に我々も断念しました。ただしこの取り組みは現在、介護事業の中にある理学療法士による機能訓練という活動に形を変えて推進しております。
Q.フィットネス事業を始められた当初は高齢者向けだったのでしょうか?
単純に高齢者をターゲットにするというよりも「介護予防」を狙う事業です。
当時はちょうど「生活習慣病」や「メタボリックシンドローム」といったキーワードが一般化してきた頃でしたので、あくまでもこれらを予防するための措置として事業をスタートしました。当社にはドラッグストア事業を通じて登録販売者の資格を取得した者が多数おります。彼らが管理栄養士や健康運動指導士という準国家資格を取得すれば、「薬」と「食事」とそして「運動」の3つをご提案できるようになります。
この3つの知見と資格を取り揃えている人材は非常に貴重な存在であり、場合によっては医師や薬剤師よりも生活習慣病予防に対してトータルなアドバイスが可能です。このような人材育成を積極的に推進していくことを構想しておりましたが、現実的には難しい問題も多く、残念ながら単独事業としては撤退するに至りました。
ただし、その際のノウハウを我々ファインケアの中で理学療法士(PT)や作業療法士(OT)の国家資格を持つ専門家によって、2013年4月に立ち上げたリハビリ特化型デイサービス「ボナール」で活かしていく方向で考えております。
Q.ファインケアでは数多くの施設サービスを運営されていますが、ドラッグストア事業・調剤事業と何か連携は取られているのでしょうか。
私どもファインケアが常に考えていることは、
「高齢者が住み慣れた地域で、できれば自分の家で暮らし続けていけるようにするために、我々は何をすべきか」
ということです。つまり、高齢者の方々が単に私どもの施設に入居していただくカタチに捉われるのではなく、在宅の方にも優良なサービスを提供したり、あるいは高齢者向けの集合住宅を提供するなど、「住む」、「暮らす」という感覚にこだわったサービスを実現したいのです。体の弱い高齢者はなかなか外出できませんので買い物にも行けません。そしておのずと介護や医療が必要になってきます。このような方々に対し、必要なときに必要な介護や医療のサービスを提供する、そんなネットワークを構築して行こうというのがファインケアの構想です。住環境だけを提供するのではなく、各種サービスを含めた多方面から高齢者の皆さんをサポートするということです。そのためには様々な知見や人材が必要になりますが、私どもココカラファイングループには多くの薬剤師や管理栄養士等の専門家は元より、ネット通販機能もあり、そしてファインケアには高齢者の生活を支援する介護の専門家も擁しております。このようにグループ内に存在する多くの資源を連携させることにより、高齢者の生活支援や食事の栄養管理、介護・医療など在宅や施設で安心して暮らすためにトータルな支援をしていきたいと思っています。
その一方で、実は私どものグループ内には医療と食事の分野が不足しています。この部分については外部との連携も積極的に行い機能を補完、そして充実化していこうと考えております。例えば医療の分野では規模の大小関わらず、特に地元の医療機関と連携を進めております。この点については現在、厚生労働省でも地域包括ケアシステムの実現を指針として掲げていることも手伝って、医療機関様とのお話が比較的進めやすい状況にあります。
また、食事の分野をはじめ不足している部分についても、やはり外部との連携をとりつつ、グループ内も一丸となって新たなネットワークづくりに尽力していきたいと考えています。
Q.つまり、「街」のインフラを作っていく感覚に近いのでしょうか。
そうですね。まさに「街づくり」ですね。将来的には高齢者が安心して暮らせることに主眼を置いた「街」を作りたいと考えております。
現在当社は、約100名の方にご利用いただけるサービス付き高齢者向け住宅をご提供しておりますが、今後住宅のみならず、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、調剤薬局等の店舗までを誘致しようとすると、1,000名単位の利用者を集めなければなりません。
また、サービス付き高齢者向け住宅というと、どちらかといえば富裕層向けのサービスというイメージがつきまといがちですが、私どもは富裕層向けのサービスを構築して行くつもりはありません。むしろ家賃を極力安価にしてそこに多くの高齢者が集まってくださることにより、経済が循環し潤うような仕組みづくりが理想だと考えています。その理想形はいかなるものなのか、それは実現の可能性があるのか、そして実現できるのはいつになるのか、現時点ではまだ見えていないことも多いのですが、明らかに言えることは、今、このような仕組みが生活者は元より行政からも待望されているということです。ニーズがあるのは間違いありませんので、何とか私どもの手で実現していきたいです。
Q.医療機関との連携のお話がありましたが、その他課題として何かあればお聞かせください。
課題はやはり人材の確保ということになります。介護事業では、国家資格を保有する介護や医療の専門家が必ず何人必要という人員基準があります。ドラッグストア事業であれば、若い管理者クラスの育成が比較的短期間でできる仕組みがあります。例えば、新卒で採用し、店舗へ配属後教育するとおよそ2年程度で店長になれます。しかし、残念ながら、当社の介護事業においては現時点でこのような仕組みが存在しません。資格保有者や経験者を採用するのが、人材確保の基本的な動きになっております。
また、人材確保と共に人材育成も課題となっています。特に管理者の育成が難しく、これも今後必要とされる仕組みです。特に若い方でも我々の会社に入社していただく為には、人材育成と給与体系の仕組みづくりは今以上に重要となっていくでしょう。
Q.介護サービスの質の向上のために普段から心がけていらっしゃることはありますでしょうか。
ドラッグストア事業ですと、各店員一人一人が日々お客様と接する中で気を付けるべきポイント等を学ぶものですが、介護・医療業界は多職種連携です。1人のご利用者様のお世話をする際にも、医者や看護師、ヘルパー、ケアマネージャー等、各専門家数名のチームで対応しています。特に当社の場合、医療部門は社内に人材がいないため病院と連携する必要がありますし、外部の会社や行政との連携が必要になることもあり得ます。従って各スタッフには、多職種との連携が取れる素質を植え付けていかなければなりません。この連携がしっかり取れないと利用者にとっても不幸ですし、サービス提供の観点からも大変効率が悪くなります。ひいては経営の観点からしても利益を創出しづらくなりますので、普段からスムーズな連携を心がけています。
Q.サービスの質についてはスタッフ個人の素質に依存する部分が大きいと思いますが、会社としてルールやスキームなど確立されているのでしょうか。
これに関しては相反する2つの見方ができます。
我々の業界は100人の利用者がいれば100通りの対応方法があり、マニュアルや仕組みを作ること自体難しいという現実があります。無理にマニュアル化してもそれはナンセンスと言われることもあります。
しかしその一方で、会社という組織である以上はあらゆるノウハウや技術が個人の中だけに蓄積していってしまうことを是とするわけにはいきません。やはり組織としてノウハウや技術を保有し、これが人材育成シーンにおいてスタッフに供給されていくようなガイドラインは必要だと考えております。もちろん人員が育っていくカタチも千差万別ですので、その育成プロセスを詳細に至るまで全て仕組みとして確立することはできません。しかし、一定のガイドラインは構築し、社内の財産にしていきたいとは考えています。
Q.100人の利用者に100通りのサービスというお話がありましたが、利用者やそのご家族にも様々なニーズがあろうかと思います。それらを把握するために何か工夫されていること等はありますでしょうか。
我々の介護サービスにはサポートする方が多く関わっています。医療従事者や介護従事者をはじめ、ご家族やご近所の方々等幅広くいらっしゃいます。居住する高齢者だけにスポットを当てるのではなく、周りでサポートする方々にも色んな情報提供をしていきたいと考えています。
我が国の医療保険や介護保険の仕組みは非常に複雑であり、この先もどのように変化するか分かりません。そんな状況の中、例えばある日突然ご家族のどなたかが倒れられ介護が必要になったとしましょう。その際、ご家族はどのように行動したらよいか、どのような仕組みが活用できるのか、すぐにはお分かりにならない場合がほとんどだと思います。我々には事業を通じて様々な分野の方々が多く関わっていてくださっている独自のネットワークがありますので、ここから日常的に多くの情報を発信し、生活者の方にとって突然の場合にも冷静な対応をしていただけるような環境づくりをしていきたいですね。それは、ドラッグストア業界が変化してきた図式にも似ていると思います。医薬品や日用品だけを取り扱っていたドラッグストアが、それ以外にも食品を取扱うようになるなど、どんどん商品アイテムを増やしてきましたが、その結果生活者の中には、「ドラッグストアというのはほぼ何でも購入でき、ワンストップで買い物ができる場所」という意識が醸成されました。私どももこの図式と同様に、高齢者の皆さんやそのご家族にとって、「普段から様々な情報を供給してくれる存在」でありたいと考えています。若い方であれば病気になった際何とかご自身で対応できると思いますが、高齢者はそういうわけにはいきません。ですので、私どものところに来てもらえれば、介護と医療に関して何でも解決できる、言わば「リアル世界のポータルサイト」のようなイメージです。
Q.利用者の方々とコミュニケーションを取られる際、何か気を付けていらっしゃることはありますか。
リハビリ特化型デイサービス「ボナール」を立ち上げる際、できるだけ「介護」というキーワードは避けるようにしました。あくまでも介護予防のためのサービスですので、ご利用者様は基本的に元気な方々です。たとえ要支援認定は受けていても必ずしも介護が必要な方ではない場合もあります。そういう方が気軽にご利用いただける、サロンやカフェのような身近な存在であるよう、常に配慮をしております。
Q.介護業界に異業種からの参入も増えており施設サービスも急増するにつれ、利用者のニーズも多様化し、ハードよりもソフトのようにサービスに付加価値を求められる時代になると思いますが、新たなサービス等お考えでしょうか。
例えばデイサービスで折り紙や絵画を楽しんでいただく企画などをご提供しているのですが、こういうところに積極的に参加し、かつ社交的に取り組まれる方の多くは女性なのです。女性の皆さんはそのような企画に対し上手に折り合い楽しみを見出しやすい傾向にあります。
一方で、男性の中にはそのような中へ入っていきづらい方が多く、隅で新聞を読んでいたり、少人数で将棋や麻雀をされている光景をよく目にします。また、引きこもりなども男性の方に多く見られる現象です。ですので、このような引きこもりがちであったり、一人暮らしをされてコミュニケーションが不足している男性の高齢者を元気づけるサービスの実現なども今後検討していきたいと思います。
Q.新しいチャレンジを様々されていらっしゃいますが、どこかベンチマークされている企業や経営者はいらっしゃいますか。
ベンチマークしている会社は…特にはありません(笑)。と言うのにも事情があるのです。問題は我が国の制度にあります。日本の介護保険等の制度は他国と比べて被介護者にとって優遇され過ぎていると言いますか…私としては、この制度が我が国の将来の見通しを暗くしている部分があると思います。もちろん、未来永劫この先も今の制度が持続できるのであるならば何の問題もありません。しかし現実的にはそれは不可能です。政府も国民ひとりひとりも、早くそのことについてリアリティをもって認識しなければいけません。
「いつか法律が改正される」 「いつか誰かが何とかする」
・・・という風に他人事に近い認識の方が特に生活者の方々の中には多いと思うのですが、団塊世代が後期高齢者になる2025年にはどういう世の中になるのか、これは大いに不安なことです。
しかしそれに対して明確に答えを出している人は誰もいませんし、行動を起こしている企業もないと思います。このような理由により、私自身がベンチマークしている企業はないのです。
Q.「シニアマーケット」全体についてお聞きしたいのですが、「シニア」といっても業種・業界、ご提供されるサービスによって様々な定義をされていますが、御社の中で「シニア」とはどう定義づけられていますか。
我々の日常業務の中で定義づけするのであれば、3つの指標があると思います。
- 認知症を患っているのかどうか
- ご自身の力で何でもできるのかどうか、介助が必要かどうか
- 家に引きこもっていらっしゃるのかどうか
例えば、我々が運営しているサービス付き高齢者向け住宅に関してですが、ご利用者様が終末期である場合、お風呂は付いていなくともトイレがあれば小さい部屋でも問題ありません。
一方で、たとえ高齢でもお元気でまだまだアクティブな方もいらっしゃいます。そういう方はご自身でお風呂も入りたいでしょうし、ご自分の家から持ってきた家具なども入れて自分らしく暮らしたいと思います。そうすると広い部屋が必要です。
このような利用者の属性をわかりやすく分類してくれるのが前述した軸であり、私どもにとってのシニア層の定義ということになります。
Q.今後シニアマーケットはどのように変化していくとお考えでしょうか。
日本人の平均寿命は年々長くなっています。現在の我々は年を重ね自分の余命がどのくらいあるのか考えた際、これから先どれくらいのお金を持っていればいいのか予測できません。もし今後必要なお金がある程度予測できたとしたら、色んな活動をしてお金を使うこともできるのでしょうが、将来の金銭的な不安が払拭されないから高齢者は万が一に備えて貯金至上主義になり、結果としてお金が動かないという悪循環を引き起こしています。
私どもは、生活者の皆さんが高齢になった際に、生活に必要な自己負担額の目安をある程度詳らかにし、実際に介護や医療が必要になった際にその金額内でサービスを提供できるような環境や枠組みを作っていきたいですね。
それができればお金の心配も少なく安心して生活できますし、もしかしたらそれは一つの景気回復策にも繋がるのではないかと思うのです。
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