第45回 株式会社コミュニケーションプランニング

歌舞伎鑑賞の観客向けに特化した
イヤホンガイドCM

株式会社 コミュニケーションプランニング 代表取締役 宇野陽平様

歌舞伎座イヤホンガイドの協賛放送を手がけるコミュニケーションプランニング。シニアの観客が多いことや銀座という立地に合致したCMを流すことで大きな効果を上げています。代表取締役の宇野陽平氏に、サービスの詳細などについてうかがいました。

2024年4月取材

Q. 貴社の業務内容について教えてください。

新聞、雑誌、インターネットの広告エージェントとして、また、歌舞伎・能など古典芸能のイベントプランニング、SPグッズ、記念品、販促用ノベルティーの提案を行っています。なかでも力を入れているのは、歌舞伎座イヤホンガイド協賛放送です。イヤホンガイドとは舞台の進行に合わせてあらすじ、配役、衣裳、道具、約束ごとなどをタイミングよく解説するもので、歌舞伎に詳しくない人や歌舞伎を初めてご覧になる人も楽しく鑑賞できると人気です。また、歌舞伎に詳しい人でも解説によってより作品への理解が深まるということで、鑑賞の際はかならず借りるという人も少なくありません。当社は歌舞伎座を中心とした歌舞伎公演する劇場で、歌舞伎を鑑賞されるお客様の半数以上が使用される歌舞伎鑑賞用イヤホンガイドCMの唯一の広告エージェントで、歌舞伎俳優などのナレーションによる耳から聴く広告を扱っています。

Q. どのような経緯でイヤホンガイドCMを扱われるようになったのでしょう。

当社は約40年前に設立、ギフト事業が軌道に乗りました。ギフトのラッピングが大変になったので東京都の外郭団体にお願いしたことがきっかけで、シニア向け事業に着目するようになりました。その一方で、もともと広告の仕事も好きなので、ギフト事業と並行して行っていました。また、現在に至るまで歌舞伎役者によるセミナーなどを通して歌舞伎を観客の立場から支え、その普及と振興を図っていくことを目指す「花道会」の管理者も務めています。そんなわけで歌舞伎とも長くご縁があった関係で、イヤホンガイドから相談を受けました。以前CMを流したことがあったそうなのですが、ラジオのCMをそのまま流しただけだったため、イヤホンガイドを使っていた観客の方たちが驚いてしまい、うまくいかなかったそうです。けれどもう一度チャレンジしたいという話をいただきましたので、それなら歌舞伎座に合った専用のCMを制作して流そうという話になり、2018年からスタートしました。

Q. 歌舞伎座イヤホンガイドCMの主旨やこれまでの実績をお聞かせください。

歌舞伎の観客は富裕層の中高年女性が多いので、クライアントも銀座界隈の高級店や老舗など、客層を意識しています。私が担当するのはクライアントの獲得と見積り、キャスティング、シナリオです。クライアントにひいきの歌舞伎役者がいるなどキャストのリクエストがあった場合は、「その役者なら歌舞伎座には●月と●月に出演しますよ」とご提案します。そうすれば自社のCMが流れる月は、うまい具合に役者本人が出演する月となります。これはこちらが情報を持っているからできるご提案といえるでしょう。そしてどんなCMを流したいのかクライアントの要望を聞いたうえで数本シナリオを考え、その中からクライアントに選んでいただきます。その後の制作はイヤホンガイドの担当です。CMは60秒または30秒の2パターンあり、幕が上がる前の静かな緊張感のあるときに流すのがもっとも効果的です。 実績としては、小澤酒造、和光、ウテナ化粧品、銀座天一、叙々苑、高級時計のMINASEなどのCMを制作しました。小澤酒造の創業と歌舞伎の演目にもある忠臣蔵の赤穂事件は同じ元禄15年、しかもCMを流す時期がちょうど中村雀右衛門さんが襲名時期だったので、雀右衛門さんのナレーションでCMにしたところ、非常に評判がよかったです。歌舞伎座で歌舞伎役者がナレーションすると、CMがCMとして聞こえるというよりは、イヤホンガイドの解説の一部かのように、とても自然に耳に入ってくるのです。

Q. 歌舞伎座イヤホンガイドCM導入までの経緯や苦労された点などを教えてください。また、クライアントからどのような反響、反応がありましたでしょうか。

歌舞伎に親しいクライアントはごく一部です。ご紹介すると最初はみなさん「いいですね」とおっしゃるものの、そこから契約に結びつけるのはなかなか難しいところがあります。また、窓口の担当者もどんどん若くなっていて歌舞伎を観たことがないという人も多いので、「歌舞伎は難しくて」と関心が薄く、歌舞伎座でCMを流すことの利点をわかっていただきにくい点には苦労しました。 ただ、広告効果が予想以上によかったといううれしい誤算が起こることもあります。
MINASE(協和精工株式会社)は国産高級時計ブランドです。MINASEの社長様が松本幸四郎丈の大ファンでしたので、MCは幸四郎丈にお願いしました。CMを放送中には、イヤホンガイドカウンターにはかなりの来場者の問い合わせがあり、広告効果が絶大で大変喜ばれ、現在は歌舞伎座1階ロビーにあるショーケースで展示していただいています。

Q. ほかにもシニアをターゲットとしている事業はありますか。

歌舞伎座地下の木挽町広場にある歌舞伎座直営店で配布する企業のチラシを制作しています。また、歌舞伎座1階ロビーのショーケース内の展示なども当社が担当しています。

Q. 現在の課題がありましたらお聞かせください。

歌舞伎座イヤホンガイドCMで歌舞伎役者さんにナレーションしてもらうと、その分コストがかかります。そこに二の足を踏んでしまうクライアントから「歌舞伎役者でなくてもいい」と言われた場合は、イヤホンガイド社内の女性のMCがナレーションします。そうすると一気にCM感が出て、観客の反応も薄くなりがちです。やはり歌舞伎好きな方が歌舞伎座で聴くCMだからこそ広告効果がぐっと高まるので、ここをいかに理解していただきクライアントの獲得に結びつけていくかが課題です。

Q. 貴社はシニアマーケットをどう捉えていらっしゃるでしょうか。貴社における「シニア」の定義を教えてください。

今、シニアとひとくくりに言ってもその内訳はとても幅広いですよね。歌舞伎座にいらっしゃる方も、まだまだお元気で働いている方から車椅子でいらっしゃる方までさまざまで、一言ではくくれないと常々感じています。ですから当社ではあえて定義づけをしていません。

Q. シニアマーケティングに対する今後のお取り組み予定や今後の展望についてお聞かせください。

歌舞伎座で仕事をしていると、シニア世代の来場者の中でも元気なアクティブシニアが多いことに気づきます。このように、シニア世代の中でも元気で、かつ歌舞伎鑑賞を楽しむ余裕のあるセカンドライフを楽しまれているアクティブシニアに訴求した事業を展開していければと考えています。テレビのCMは席を立たれてしまうこともあるでしょうが、

イヤホンガイドCMはイヤホンガイドを利用している方の耳に確実に届きます。

現在、イヤホンガイドCMは歌舞伎座のほか、名古屋の御園座や大阪松竹座で、京都南座でも実施しています。今後は歌舞伎公演が定期的に開催されている、博多座などでもイヤホンガイドCMを展開していくことを目指します。どの劇場でもCMの入らない月がないくらい普及させることを、自分自身のライフワークにしたいと思っています。

 

 

 

 

 

予防・治療・介護を通して
一人ひとりのQOL向上に貢献

森永乳業クリニコ株式会社 クリニカルマーケティング部
製品開発グループ マネージャー 坂本純子様
マーケティング企画グループ グループ長 吉村俊一郎様
マーケティング企画グループ アシスタントマネージャー 斉田朋子様

栄養補助食品や流動食などの開発・販売を行っている森永乳業クリニコ株式会社。医療や介護の現場でさまざまな障害により食べることが困難な方々も楽しくおいしく食事を摂り、食べる喜びを感じてもらうべく、日々製品の開発に臨んでいます。今回は製品開発グループの坂本様、そしてマーケティング企画グループの吉村様と斉田様に製品開発のご苦労やこだわり、強み、そして今後の展望などについてお話をうかがいました。

2024年5月取材

Q. 貴社の沿革と業務内容について教えてください

(斉田氏)
当社は森永乳業グループの中の病態栄養部門という位置づけで、通常の食事だけでは身体に必要な栄養を満たすことができない方のための食品として、流動食や栄養補助食品などの開発と販売を担っています。1978年に森永乳業の100%出資で設立され、国立がんセンターとの共同開発で流動食「MA-3」を製品化したところから始まりました。2011年には流動食「CZ-Hi」が特別用途食品 病者用食品 総合栄養食品 表示許可第1号を、2020年にはとろみ調整食品「つるりんこQuickly」が特別用途食品 えん下困難者用食品 とろみ調整用食品の第1号として消費者庁より表示許可を受けました。入院されている方や介護施設に入所されている方、ご自宅にお住まいになっている方などどなたでもご使用いただけるよう、医療・介護施設向けの販売や通信販売など幅広く展開しています。 2024年3月には、「株式会社クリニコ」から現社名へ変更し、入院・入所・在宅療養すべてのステージで今まで以上にお客様のQOL向上に貢献したいという想いをもって新たな一歩を進んでいます。

Q. 介護食品事業への取り組み全体についての理念や特色などお聞かせください

(斉田氏)
当社の経営理念が「予防・治療・介護を通して、一人ひとりのQuality of Lifeの向上に貢献する。」ですので、事業のすべてはそこに繋がっています。特に製品力や製品開発の部分には力を入れており、森永乳業の研究所や本社と連携して安全・安心な製品の開発・提供をしております。また、各分野のオピニオンリーダーの先生方のご支援をいただきながら、栄養情報の発信、啓発なども行っております。 そして、流動食や栄養補助食品、とろみ調整食品、プレ・プロバイオティクス食品など、幅広い製品展開をすることによって、多くの方々のお役に立てるように取り組んでいます。製品開発にあたっては、おいしさには大変こだわっていますし、容器や使い勝手といった細かな点にも配慮して進めています。実際に召し上がる利用者様だけなく、そのご家族や医療・介護従事者のスタッフの方も含めた皆様のQOL向上につなげたいという想いがあるからです。

Q. 「特別用途食品 えん下困難者用食品」表示許可を取得したビタミンサポートゼリー開発の経緯や特色などをお聞かせください。

(坂本氏)
嚥下が困難な方でも食べやすく、さらに味もおいしく、食を楽しんでいただけることを意識して開発しました。少量でも栄養が摂れるよう、1個(78g)の製品の中にビタミンC500mgや食物繊維5g、オリゴ糖2g、シールド乳酸菌100億個などを配合しています。試行錯誤しながら数十種類もの味を試した結果、みかん味、マスカット味、パイナップル味、はちみつレモン味の4種を選定しました。ありがたいことに「おいしい」との声をたくさんいただいています。 嚥下困難な方に食べやすいものとなると物性を重視してしまい、栄養素があまり入っていない製品も少なくありません。その点、ビタミンサポートゼリーは栄養もしっかり摂れるという点が、大きな強みになっていると思います。

(許可文言:「本品は、誤えんに配慮した、えん下困難者に適した、栄養補給ゼリーです。」)

また、ビタミンサポートゼリーの他にも、食欲が落ちてきた方の効率的なエネルギー補給に配慮したタイプや喫食量が低下した方でも食べきりやすい少量タイプなど、さまざまなカップタイプのゼリーを取り揃えているのも当社の特長です。

Q. 製品を開発する上での留意点はどんなところでしょう。

(斉田氏)
栄養補助食品や流動食のみを食事としている方も多くいらっしゃいますので、製品の安全性はもちろんのこと、安定供給の点は非常に注意を払っています。当社の製品が生命線である方がいらっしゃいますから責任は重大です。味や栄養素、容器の微細な変更であっても、さまざまな視点から慎重に進めています。お客様の病態もさまざまですので、オピニオンリーダーの先生から、あるいは学会などで情報収集したりお客様の声を現場からいただいたりすることで、ひとりでも多くのお客様に寄り添い、困りごとを解決できる製品の開発を心がけています。

(吉村氏) とりわけ流動食に関しては、それだけで生命を維持されている方々がたくさんいらっしゃいます。製造拠点は盛岡と神戸の2カ所におき、BCP対策にも取り組んでいます。

Q. 貴社ならではの強みはどんなところにあると思われますか。

(斉田氏)
製品の種類の豊富さ、フレーバーの種類の多さといった充実したラインアップは当社の大きな強みです。流動食ひとつとっても何種類もありますし、疾患に配慮した組成を組んだ流動食・栄養補助食品もとりそろえています。森永乳業の研究所と連携して、「おいしさ」にもこだわり開発していますし、味のバリエーションが豊富な製品が多く、お客様が好みの味を見つけたり、飽きずに毎日食事を楽しめたりすることを意識した製品開発は徹底しています。

また、以下のような工夫も当社の強みと言えると思います。

「飲みやすさ」にこだわり、ストロー付き製品には、口径が大きく吸い込みやすい設計のストローを採用しています。

「開けやすさ」にこだわり、小さな力で開封しやすいマジックトップ™(密封性と開けやすさを両立させたパッケージングシステム)やラージキャップを採用しています。

「見た目や香り、味」にこだわり、食事時間を楽しんでいただけるよう食品本来のおいしさをお届けできる工夫も凝らしています。

「食べる楽しみ」にこだわり、栄養補助食品を身近に感じてもらえるようなアレンジレシピ(Enjoy Smileレシピ®)もホームページ上でご提案しています。

Q. 貴社の製品について医療従事者や利用者からはどのような反響がありますか。

(坂本氏)
やはり当社が強くこだわって開発している味(おいしさ)の部分については、特に高い評価をいただいています。8種類の味を揃えている栄養補助飲料「エンジョイクリミール」の利用者様から「胃からロイヤルミルクティーの香りがしました」というお手紙をいただいたことがありました。ほかにも、栄養状態が悪くなっているがん患者さんにもおいしく召し上がっていただきたいという思いで開発したカップタイプ製品では、「重い症状のがん患者さんが食欲のない時でも召し上がっていただける」、「パンだけの朝食にこの製品を付けるだけで、たんぱく質など不足しがちな栄養素が摂れる」という喜びの声もいただきました。

栄養補助食品はあまりおいしくないというイメージを抱く方も少なくなく、医療介護従事者の方でもその傾向があるため、そのイメージを覆すつもりで開発しています。ですから味について高くご評価いただくことが多いのは、本当にうれしくありがたいです。

やはり食べ続けていただかないと意味がありませんから、そのためにも今後もおいしさは追求していきたいと考えています。

Q. 現在、とりわけ力を入れている事業についてお聞かせください。

(吉村氏)
ここ10年ほど取り組み続けている事業のひとつに「リハビリテーション栄養」があります。「サルコペニア」という概念は、10年ほど前は、日本国内ではあまり知られておらず、一部のトップランナーの医療従事者のみが提唱しているという状況でした。このサルコペニアに対する栄養サポートが欠かせないものになると感じ、当社も取り組みを開始しました。

サルコペニア・リハビリテーション栄養の概念普及を目的に全国でのフォーラムに共催したり、オピニオンリーダーの先生に講演していただいたりといった啓発活動をはじめ、現在も継続しています。同時にリハビリテーション前後でも飲みやすいゼリー飲料タイプの栄養補助食品を開発しました。この製品は、おいしさにこだわった上でリハビリテーションにおける栄養管理で必要な栄養素(BCAA・たんぱく質、ビタミンD)を配合しています。

低栄養な状態でリハビリを行うと筋肉が減少してしまい、かえって状態が悪くなってしまいます。リハビリで体を動かしたことによるエネルギーの消費量や体重増加を目指したエネルギー蓄積量も考えて、より多くのエネルギーを取ることが大切です。かつては「回復途上でのリハビリなんだから体重が減るのが当たり前でしょうがないこと」という認識でしたが、現在ではADLの維持・向上を目的に、運動と栄養の複合的介入の重要性が理解されていて、国内の診療ガイドライン(サルコペニア診療ガイドライン2017)にも記載されるところまで広がっています。それに伴い、栄養補助食品のニーズも高まっていると認識しています。令和6年度診療報酬改定では、リハビリ(運動)・栄養・口腔管理の三位一体の取組みに注目が集まっており、今後ますます強化される分野と感じます。

また、在宅療養関連の取り組みとしては、入院されていた患者様が退院されてからの在宅生活のポイントをリーフレットと動画でお伝えする「今日も笑顔で『いただきます』」というシリーズ企画を実施中です。リハビリテーション科の医師、在宅医療がご専門の医師、管理栄養士、歯科衛生士といった各分野のトップランナーにご協力いただき、在宅生活に役立つ情報を発信しています。このリーフレットや動画はご本人だけでなく、ご家族にも好評です。

(斉田氏)
歯科と食(栄養)に関する取り組みにも力を入れています。食べる入口である口を整えること、そのうえでしっかりと栄養を摂ることの重要性を、多くの方により早い段階から理解していただきたいと考えています。ちょうど、2024年4月に新しいオーラルフレイルの概念が発表されました。オーラルフレイルとは歯の喪失や食べること、話すことに代表されるさまざまな機能の軽微な衰えが重複し、口の機能低下の危険性が増加しているものの改善も可能な状態を言います。当社もこの概念普及に協力しています。当社のサービスとしては、「もぐもぐ日記」というお食事相談サポートシステムを開発しました。歯科医療機関(モニタリングツール)と患者様(スマホアプリ)を連携すると、アプリ内に登録した患者様の食事写真を共有・解析できるシステムです。患者様はスマホアプリで食事の写真を撮るだけで操作はとても簡単です。その食事写真をAIが解析、食事のバランスやもぐもぐスコアをアプリが自動で算出して食習慣を4つの動物タイプに判定する仕組みで、患者様がゲーム感覚で楽しめます。また、歯科医療機関側では患者様の食事写真がそのまま確認できるだけでなく、食習慣の傾向や各種スコアの経時変化も確認できるため、患者さまの食事相談に活用できます。歯科領域での食事相談の普及が、健康寿命延伸につながればと考えています。

いずれも、当社の企業理念に合致する取り組みとして、今後も力を入れていきたい事業です。

Q. 現段階で業務上の成果、課題などがありましたらお聞かせください。

(斉田氏)
原材料の高騰への対応は喫緊の課題です。その他、これまでの販売先は病院や介護施設が多いため、在宅療養という分野にどのように取り組んでいくか、どうすればお役に立てるのかという点はまだまだ検討の余地があると思います。

Q. 貴社はシニアマーケットをどう捉えていらっしゃるでしょうか。貴社における「シニア」の定義を教えてください。

(斉田氏) 「フレイル」という概念が普及していきていますが、当社では「フレイル」の予防領域から終末期までをシニアのターゲットと考えています。

Q. シニアマーケティングに対する今後のお取り組み予定や今後の展望についてお聞かせください

(斉田氏)
リハビリ(運動)・栄養・口腔という三位一体の取り組みは、国としても推進しているところです。当社がこれまで行ってきたリハビリテーション栄養の取り組みに、この概念を絡めながら事業を展開していければと思っています。また、先の課題でお伝えしたように在宅療養の領域も取り組みを強化していきたいですし、各種製品カテゴリーについてもナンバー1の信頼をいただけるよう、今後も開発を続けていきたいと考えています。

 

(坂本氏)
当社がこだわっている「おいしさ」についても製品開発だけでなく、より広く捉えています。「おいしい」と感じるのは、食事の味だけではなく、食事をするときの環境も大きく影響します。製品の味へのこだわりはもちろんですが、「おいしく感じていただく環境づくり」や「食の楽しみの提供」にも取り組んでいきたいと考えています。そのひとつとして、みんなで「いただきます」を言いながら笑顔を繋いでいこうという「おいしい笑顔プロジェクト」を進めています。

このプロジェクト以外にも、栄養補助食品やとろみ調整食品を多くの方々にもっと身近に感じていただけるような取り組みを進めており、私たちはこれを「ボーダーレス化」と言っています。たとえばコメダ珈琲店に開発協力した「TOROMI COFFEE(とろみコーヒー)」というコーヒーが発売され、SNSでも話題になっています。とろみのついたコーヒーは嚥下困難な方だけでなく、健康な方も含めて新食感コーヒーという感覚で飲まれています。食生活に栄養補助食品やとろみ調整食品を自然に浸透させていくことで、介護食に対するマイナスのイメージを変えていければと思っています。

 

(吉村氏)
炭酸飲料向けとろみ調整食品「つるりんこシュワシュワ」も、嚥下困難でも炭酸好きな方が、私たちが想像している以上に多かったことから生まれました。通常のとろみ調整食品では炭酸感を残してとろみをつけることが難しいのですが、炭酸に特化した「つるりんこシュワシュワ」を開発したことで、炭酸感を残したまま、飲料本来の味もそのままにおいしく飲んでいただけるようになりました。この「つるりんこシュワシュワ」もとろみ調整食品へのイメージを変えるきっかけづくりにしたいと考えています。

今後も当社は、いつまでも笑顔で「食の楽しみ」を感じていただけるようなサポートをすることで、ご本人だけでなくご家族や周りの皆さまのQuality of Lifeの向上に貢献していければと思っています。

 


 

 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

43回 
パナソニックホールディングス
株式会社
第42回 
エアデジタル株式会社
第41回
NTT東日本

介護施設向け介護業務支援サービス
「ライフレンズ」と連携可能な「排泄センサー」

パナソニックホールディングス株式会社 事業開発室 スマートエイジングプロジェクト
総括担当/プロジェクトリーダー 山岡勝様

パナソニックハウジングソリューションズ株式会社 水廻りシステム事業部 トワレ事業推進部
商品企画課 主務 南弘嗣様

ビジネスアワード2023 プロダクト賞を受賞したパナソニックホールディングス株式会社の『介護施設向け介護業務支援サービス「ライフレンズ」と連携可能な「排泄センサー」』。今回はプロジェクトを担当されたパナソニックホールディングス株式会社の山岡勝様と販売を担当されたパナソニックハウジングソリューションズ株式会社の南弘嗣様に、「排泄センサー」開発の経緯や今後の展望などについてお話をうかがいました。

2024年4月取材

Q.「ライフレンズ」と連携可能な「排泄センサー」を「ライフレンズ」のオプションとして提供開始してから2024年3月で1年経ちました。このシステムを開発することになった経緯を教えてください。

(山岡氏)
2020年から介護施設向け介護業務支援サービス「ライフレンズ」の提供を始めました。これはシート型センサーとカメラにより入居者のお部屋での状態や生活リズムがリアルタイムで把握でき、入居者の状況に応じたケア対処を可能にし、夜間巡視の軽減など見守り業務を効率化する介護業務支援サービスです。ただ、入居者に対するより質の高いケアを提供するには、排泄も大きな要素になるという話になりました。

そこで大学などとも連携しながら現場で排泄センサーの実機評価を行ったところ、期待値は非常に大きいものでした。利尿剤を服用している入居者もいますし、服薬効果の確認に対して定量的なデータがあれば、看護師などの負担軽減にもつながります。実際、排泄の状態を管理しなければいけない入居者に対し、排泄が終わるまでトイレの前で待っているのは入居者と看護師双方の負担になりますし、入居者が流してしまうこともよくあるそうです。入居者はもちろん、看護師の心理的、身体的負担を軽減する意味でも、排泄を管理するセンサーが世に出る意味があるというということで、事業として立ち上げました。

Q. この1年の導入事例や成果についてお聞かせください

(山岡氏)
介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホームでご利用いただきました。期待通り、排泄の記録や観察が効率化できているのは実感しています。今後は業務の効率化のところだけではなく、排泄物の性状情報から健康状態の把握にどうつなげていくかを導入事業者さんと作り上げていくフェーズになります。

Q. 「排泄センサー」を導入された施設などからはどのような反響がありましたか。

(山岡氏)
「見えていないときでも定量的に把握できる」という点が、一番反響がありました。入居者が夜間に頻回に離床する現象はもともと「ライフレンズ」によって把握できており、その多くがトイレ動作を含んでいることもわかっていました。それに加えて「排泄センサー」によって、どういう性状の排泄がされているもわかるようになり、特に人の目が行き届かない夜間の生活リズムを睡眠と排泄という両面から課題を導き出していくアセスメントのデータとして使っていただくところが非常に喜んでいただいています。

服薬効果の確認という観点からは、入居者から「便が出ない」と言われ、医師がより強い薬に変更していくのは珍しいことではありません。それが今回の排泄センターをつけてみると、実際はかなりの頻度で水状便を繰り返していることがわかりました。こういうデータがあると、下剤が入りすぎているということもいち早く把握できます。認知症の方も多くいらっしゃるところなので、正しい情報に基づいた服薬管理の参考情報になっていくだろうという手ごたえを感じていています。

Q.実際に導入してから想定外のことはあったでしょうか。課題と対策についてもお聞かせください。

(山岡氏)
「ライフレンズ」が個室用にチューンナップされて作られているので、「排泄センサー」もおのずと個室のトイレを対象としていました。それが共用トイレを利用される頻度が、私たちが想定していたよりも多かったです。そこにいかに対応していくかが最大の課題といえます。現在、共用トイレにおける「排泄センサー」にとって最適な「人の認証」がどういうもいのか、現場のみなさまと共に実証実験を始めたところです。

また、今回は「ライフレンズ」に組み合わせて「排泄センサー」を使う形ですが、「排泄だけ見たい」という希望も現場から多くありました。そこで「排泄センサー」だけで稼働するような「ライフレンズ」の検討も始めています。

ほか、何も出ていないという表示が出たときでも、少量の尿や便の排泄があることもあるのですが、少なすぎて検知できていないというケースがありました。介護の観点からも、まったく出ていないのか、少量でも出ているのかは大きな違いになってくるので、そこはより精度を上げていかなければならないと感じています。


(南氏)
入居者が施設内の違う部屋に移るケースも予想以上に多かったため、必然的に部屋から部屋の移設の頻度も想定よりも多くなりました。そのため、今以上に設置性を簡易的にできるような形にしていきたいと考えています。

Q.  貴社における「シニア」の定義を教えてください。

(山岡氏)
プロジェクトによってシニアの定義も年齢の設定も変わります。「ライフレンズ」においては介護施設に入居される方がシニアということになりますので、要介護2以上の方や、介護職員さんのサポートがないと生活が難しいというレベルの方となります。現場の介護職員さんの負担を軽減するというところが重要ですので、高齢者のデータを取りつつ、いかに介護職員さんに意味のあるソリューションになるかというところを日々考えています。

Q.  「排泄センサー」ならびにシニアターゲティング市場における今後の抱負をお願いいたします。

(南氏)
排泄センサーはB to B向けということで対象は施設ですが、パナソニックはB to Cも得意とする領域ですので、いずれは個人が購入し、ご家庭で「ライフレンズ」と「排泄センサー」を利用していただけるころまで持っていけたらと思っています。また、現在所属している部署では排泄センサーだけでなくトイレ事業を全体で見られるため、介護支援向けだけでなく、障害やハンデのある方へのサービスや製品の提供についても考えていきたいです。


(山岡氏)
当社は介護予防にも力を入れており、事業開発の連携パートナーであるポラリスさんというデイサービス事業所と自立支援介護プラットフォームを共同開発しました。たとえば寝たきりになってしまったシニアの方にも正しいリハビリテーションを通して、もう一度自分の足で歩けるようにするなどです。要介護4の寝たきりの方が半年後に自分の足で歩けるようになった事例もあり、「もう一度元気になってやりたいことをやる」というのは社会的にも素晴らしいことです。さらに今後は要介護高齢者だけでなく、介護予防期にある高齢者、独居の高齢者の孤立を解消するといったところも含めてサポートできればと思っています。

2040年に全世代人口減が始まると介護施設の需要が減り、従来よりも重症化した要介護者のケアを在宅で行わなければいけません。われわれとしては介護施設で培ったノウハウを生かし、在宅の介護の役に立つことが使命だと考えています。今後は在宅の高齢者に関する事業にも力を入れていきたいと思っています。

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第42回 
エアデジタル株式会社
41回
NTT東日本
40回 
トリニティ・テクノロジー
株式会社

楽しみながらフレイル予防する
運動習慣化施設

エアデジタル株式会社 
代表取締役 前田相伯様

ビジネスアワード2023 ビジネスモデル賞を受賞したエアデジタル株式会社の「楽しみながらフレイル予防する運動習慣化施設」。今回は代表取締役の前田相伯様に、現在の施設の状況や課題とその対策、今後のビジョンなどについてお話をうかがいました。

2024年4月取材

Q.「楽しみながらフレイル予防する運動習慣化施設」の新業態を開始されてから1年以上経過しました。まずは施設のご紹介をお願いします。

当社はもともとデジタルスポーツ空間の販売やレンタルをしており、その実機を展示・体験いただく場として埼玉県久喜市のショッピングモール、アリオ鷲宮に体験型デジタルスポーツフィールド「スポーツ60&スマート」を開設しました。そこを昨年、「健康は保ちたいがフィットネスクラブに通うほどでない」という中高年・高齢者がスポーツを通じて楽しく運動できるよう、デジタルと非デジタルが共存する空間としてリニューアルオープンしました。連携協定を締結した久喜市、株式会社安藤・間とも協力し、本気のスポーツにデジタルを掛け合わせたEスポーツフィールドで構成されるデジタルスポーツフィールドに、 本格筋力マシンフィールドを融合させた施設です。

デジタルスポーツフィールドはデジタルコンテンツで脳神経を活性化させ、体も動かしながら身体機能の向上を狙い、トレーナーやプレイヤー間の交流も楽しめるフィールドです。バランス感覚を強化するレジェンドティーバッティング、足腰を鍛えるレジェンドサッカー、胸部のトレーニングになるレジェンドアーチェリーなど、11種類のコンテンツを提供しています。筋力マシンフィールドはデジタルスポーツ空間での運動で不足する筋力や可動域拡張を解決するため、トレーナーのサポートのもとで行う筋力トレーニングフィールドで、いわゆるフィットネスクラブにあるマシンをイメージしていただくとわかりやすいと思います。

Q. この1年の成果についてお聞かせください。

月に300~600名ぐらいのご利用があり、平日はシニアの方、土日祝日はファミリーで利用されるケースが多く、来訪者の約半数がリピーターです。年齢層も幅広く、3歳でゲームしている子もいれば、90歳以上の方がいらっしゃることもあります。障害のある方のご利用もあり、車椅子の方などは利用できないマシンなどもありますが、料金を半額にした上で理学療法士やサポーターをつけて、楽しみながら安全に利用していただけるようにしています。

個人での来訪だけでなく、近隣のデイケアセンターから団体でいらっしゃることもあります。シニアの方にとって使い方のわからないマシンは怖くて利用できないでしょうし、一度使い方を教わっても忘れてしまうこともありますから、こちらも安全・安心に利用していただけるようサポート体制を整えています。

Q. 実際に新業態を開始してから、想定外のことがありましたら具体例をお聞かせください。

当初は40~70代の方の利用を想定していたので、これほどまでに幅広い年代の方にご利用いただけていることにはやはり驚きました。また、施設の中でもとりわけ人気の高いものについては、休日ですと順番を待って並ぶという状況も生じました。たとえばデジタルスポーツフィールドにあるレジェンドティーバッティングやレジェンドサッカーは、大人はもちろんお子さんにも大変な人気です。待ち時間が生じた場合はほかのフィールドで楽しんでいただくなどの誘導も行っています。また、シミュレーションゴルフについては当初扱っていませんでしたが、地元からのニーズが高く導入しました。

Q.「楽しみながらフレイル予防する運動習慣化施設」という新しい業態をスタートする際、苦労されたのはどんなことでしょう。

私はもともとゲームなどデジタルの世界が長かったので、デジタルとフィットネスやフレイル予防というヘルスケアをいかに結びつけるかにはやはり苦労しました。理学療法士やトレーナーなどの専門的な知見のあるスタッフからたくさんヒアリングしてこの形態にすることができました。

Q.  施設利用者の方からはどのような反響があったでしょう。

最初は「どの方にも楽しく利用していただきたい」という思いでいましたが、リニューアルオープンしてしばらくしてから「それは違うな」と思うようになりました。来訪される方がフィットネスでトレーニングしたい方、デジタルスポーツフィールドでサッカーや野球を満喫したい方、パソコンでゲームを楽しみたい方など用途が多種多様なので、目的がそれぞれ異なる以上ひとくくりにはできないと。ただ、リピーターの方が多いということは、やはりお客様ごとに満足していただける要素があったのだろうと感じます。

Q.  現段階の課題とその対策についてお聞かせください。

いわゆるフィットネスクラブを運営するぐらいの収益性まではいたってないのが課題です。リニューアル後も利用料金を上げる勇気がないということも一因で、立地の面からも値上げは難しいところです。解決のためには平日の利用者を増やすことが必須ですので、地域のデイケアセンターなどとの連携を試みるほか、施設の使い勝手などを再検討し、現在レイアウトから改めて作り直そうとしているところです。

Q. 貴社における「シニア」の定義を教えてください。

実はシニアを「●歳から」などと定義づけたことがありません。今回リニューアルした施設についても「40~70歳」というざっくりとしたターゲットは設定していましたが、ふたを開けてみればこれだけ幅広い年齢層にご利用いただいていることからも、あえて設定する必要はないと考えています。

Q.  シニアターゲティング市場における今後の抱負をお願いいたします。

まず、近隣のデイケアセンターさんと連携するようなビジネスはぜひやっていきたいと思っています。今よりもっとシニアターゲティングに特化させていくなら、公的な支援も受けた上で店舗もデイサービスの区画、デジタルスポーツフィールドの区画といった形にし、休日は全区画開放して従来通りご家族で楽しんでいただけるスペースとすることは、次の目標として見すえています。

また、うちの機器とモバイルを連携させることも最優先事項として進めていく予定です。そうすると運動量を計測するウェアラブルがあれば、うちのコンテンツのゲームの予約にも使えますし、モバイルと連携する機会も増えるので、そうなったらアプリがあるとより便利ということになりますから、順に段階を踏んでいければと思っています。センサーカメラをつけてお客様のプレーしている模様の写真か動画いずれかをQRコードで操作パネル上に出して、お客様がモバイルで取り込めるようにします。これはエンタメの分野になりますが、エンタメから入ればアプリをインストールしていただきやすいので、それからヘルスケアの提案につなげていきたいと考えています。

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シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

41回 
NTT東日本
40回 
トリニティ・テクノロジー
株式会社
39回 
東京トラベルパートナーズ
株式会社

産官学連携による

「シニア×ドローン×地域課題解決」

~ドローン操縦を通じた、

シニアが健康で活躍できる地域づくり』への

取り組みに向けた協定を締結~

 

NTT東日本 ビジネスイノベーション部 まちづくり推進グループ まちづくり推進担当 岩見晃希様

NTT東日本 ビジネスイノベーション部 まちづくり推進グループ まちづくり推進担当 林若菜様

埼玉県本庄市役所 市民生活部市民活動推進課 課長補佐 小林弘幸様

ビジネスアワード2023 シニアライフ賞を受賞したNTT東日本『産官学連携による「シニア×ドローン×地域課題解決」~ドローン操縦を通じた、シニアが健康で活躍できる地域づくり』への取り組みに向けた協定を締結。今回は共同実験を牽引されてきたNTT東日本の岩見晃希様と林若菜様、共同実験のフィールドとなった本庄市の小林弘幸様に、実験の成果やシニアの定義、そして今後の展望などについてお話をうかがいました。

2024年3月取材

左からNTT東日本林氏、岩見氏、本庄市小林氏

Q.ドローン操縦によるシニアの健康増進や社会参画促進への取り組みと、産官学連携を形成された経緯についてお聞かせください。

(岩見氏)
日本の65歳以上人口は3621万人と総人口の28.9%まで増加しており、高齢者の健康問題が社会課題とされています。ドローンの操縦技術の習得と実際の活用がシニアの健康維持・社会参画促進、さらに地域課題解決に有用性があるのではないかという仮説のもと、それらを検証するため、産官学連携にて共同実験を実施することとしました。


具体的な役割分担としては、シニアへのドローン施策の実施にあたり、シニアのフィジカルやメンタルに及ぼす影響の効果測定・考察を筑波大学、シニア向けドローン講習のカリキュラム作成、講習実施・運営を一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)、本庄市自治会連合会にターゲットシニアの募集や参加シニアからの問い合わせ対応や実証実験の運用支援を担当していただきました。弊社は、シニア向けドローン講習カリキュラム作成支援、情報取り纏めなど実証実験の全体管理およびシニアドローンパイロット育成とドローンの活用による地域活性化モデルの検討および社会実装検討の役割を担いました。

(林氏)
そもそもなぜシニアとドローンを紐づけたかといいますと、ドローンは弊社のアセットでもあり、橋梁点検業務などで広く活用しております。我々も実際にドローンを操作してみたところ、想像以上に指先の神経を使い、上手く飛ぶと気持ちが高揚し、次はどんな風に飛ばそうかと思考し、屋外にでて歩き回ることを体感しました。そこで「もしもシニアの方が私達と同様にドローンを扱ったらフレイル予防につながるのではないか」、「家に閉じこもりがちのシニアの方も、ドローンであれば楽しみながら屋外に出て地域の方々と交流するきっかけになるのではないか」とそんな考えから始まりました。最初は社内外で「シニアの健康維持や地域活性化になぜドローンなのか?」という声はあったのですが、この実証により現在もシニアの方々はドローン操縦を趣味とし、地域コミュニティが深まり生き甲斐や楽しみとなっていることからメンタル面では大きな影響力があったと感じております。

Q. 今回の共同実験に参加されたシニアの選出基準や対象者について教えてください。

(林氏)
参加条件は本庄市在住の65~75歳ということのみで、自ら応募してくださった方全員が、そのまま受講生となりました。実際の参加者の年齢は65歳から72歳、全員男性でした。実は全員が脱落することなく最後まで楽しく参加してくださったのも想定外で、半数くらいは途中でリタイアされるかもしれないという状況も想定していました。しかし、参加シニアの皆様のドローン操縦技術の向上意欲が非常に高く、シニアの皆様は大変お元気で楽しくドローンを操縦されておりました。「後期高齢者にドローン操縦は難しいのでは」とこちらの先入観で75歳までのシニアの方と定義したのですが、みなさまの生き生きとした様子を目の当たりにして、上限の年齢を80歳くらいにしても、きっと元気に参加してくださっただろうと思いました。

Q. 共同実験の具体的な取り組み内容をお聞かせください。

(岩見氏)
実際にシニアがドローン操縦をするにあたり知識・技術の習得が可能なのかという検証から、シニア自身の健康増進への影響、さらにはシニアドローンパイロットの活躍による地域課題解決や多世代が共生するまちづくりが可能かについて調査を行ってきました。講習会への参加者への事前説明会では、やはりみなさんが初対面ですからすぐさま打ち解ける、という感じではありませんでした。講習会では、シニア間で全員の方々とコミュニケーションを取ってもらいたいと思っていたので、カリキュラムを進める際のグループは毎回シャッフルをしていました。講師の先生方にも各グループ内でお互いに助け合えるようなカリキュラムにしていただくよう、グループ全員で操縦者を応援したり操縦者の補助役をしたりと、協力しあえる講習内容にいたしました。結果、参加されたシニアのみなさん全員が最後まで講習をやりとげ、ドローン操縦技術を身につけられました。
講習終了後も、実証に参加された13名で自発的に本庄市シニアドローンクラブを立ち上げ、今も頻繁にみなさんでドローン操縦の腕を高められております。講習後にそのような形で自発的にドローンとの関わりを続けられるとは思ってもみなかったので、これこそ今回の実験の最大の成果ではないかと感じますし、今も変わらないメンバーで活動されていることを大変うれしく思います。
また、趣味としてドローン操縦を楽しむだけでなく、地域の小学生にドローン操縦教室を開催したり、地域の防災活動にドローンを使って参加したり、地元の小学生の地域学習授業のため本庄市の現状をドローンにて空撮し、授業に用いたりと、活動の幅を広げていらっしゃいます。

Q.小学校でのドローン空撮動画を使った授業や、ドローン操縦教室について詳しくお聞かせください。

(岩見氏)
本庄市と弊社は 2023 年 9 月 15 日に、シニア活躍推や多世代共生による地域活性化の実現にむけて「ドローンを活用した小学校授業動画作成及び授業のトライアル実施に関する協定」を締結しました。本協定にもとづき、ドローンクラブのみなさまがドローンで撮影した地域の映像を、弊社の社内映像チームが授業用の映像へ編集し、2024 年 2 月 14 日の本庄市立共和小学校の地域学習授業で活用しました。
児童からは動画視聴中に「あれ学校だ!」「ここ見たことある!」など自身の生活に照らした感想が多くでました。また、ドローンクラブのみなさまには授業の一環でドローンの紹介やデモフライトを実施いただき、児童は初めて触れるドローンに興味津々でした。
本施策を通じて、われわれとしては、ドローン空撮映像は児童の授業理解を促進し、よりよい学習へと昇華させることができるものと感じました。先生方からも同様の意見を伺っています。ドローンクラブのみなさまには、児童がどうしたら喜んでくれるか創意工夫してくださり、多世代共生の取り組みのよい事例になったと思います。

(小林氏)
ドローンクラブの皆様には、授業の素材となる映像撮影のため、朝早くから現地で撮影していただきました。ほかにも、授業内容の深掘り、授業で使用する資料の収集にもご協力いただくなど、今回の事業実施に大きく貢献していただきました。シニアと小学生が触れ合う機会を作ることができ、大変有意義な取り組みだったと考えています。

地域学習授業の様子
(NTT東日本・本庄市・本庄市シニアドローンクラブ)
児童もドローンに興味津々
(NTT東日本・本庄市・本庄市シニアドローンクラブ)
地域学習授業でドローンによる空撮映像を使用
(NTT東日本・本庄市・本庄市シニアドローンクラブ)

Q.  シニアがドローン操縦を学び、地域貢献活動に参加することで期待されるのはどんなことでしょう。

(小林氏)
本庄市には市民提案型協働事業制度があり、ドローンクラブも「ドローンでこういう場所を空撮したい」とか、それをどんなことに使いたいかといったご提案をいただき、小学校でのドローン操縦教室のように本庄市の協働事業という形で進めたものもあります。今後も市としては会場の提供や関係機関との連絡調整、また広報などの分野で支援するなど、協働で事業を進めていければと考えています。こういった方々がどんどん社会に参加して活動していただきたいですし、地域で交流の機会が生まれるような取り組みができればと考えています。

(岩見氏)
シニアのみなさまがやりがいや生き甲斐をもって元気に生活できるように、さらには地元の子どもとの交流の場を広げたり、地元のためにドローン技術を活用して活動したりして、地域活性化を促進したいです。新たな雇用が生まれるなど、ビジネスとしても成り立ち、経済循環ができることが理想です。

屋内でのドローン操縦
本庄市シニアドローンクラブのみなさんと
本庄市小林氏、NTT東日本林氏・岩見氏

Q.  共同実験に参加されたシニアのみなさまからはどのような感想の声が届いたのでしょう。

(岩見氏)
参加者のみなさまからは以下のような感想をいただきました。抜粋してご紹介します。

・講習会は同年代の方々でとても楽しかった。その後、講習会参加者でクラブを設立し、マイドローンを所有するまでに至った。大変楽しい老後の趣味を見つけた。


・ドローンには興味を持っていたものの年齢的に無理かなと思っていたが、シニア対象の講習会があると知り、チャンスと思い参加。年齢が近い人の集まりなのであまり気張らずにできた。クラブの発足により機体の購入や登録申請なども相談でき、飛行の環境なども指導してくれる仲間がいるので楽しく活動している。ひとりではとてもできなかったと思う。


・普段は付き合いのない仲間ができ、参加して本当によかった。


・子どもの見守り活動に使えないかと考え参加した。講習も先生方がフランクに教えてくださり楽しかった。クラブもでき、色々な地域の才能豊かな人達と知り合えたことが、ドローン以上に自分へのプレゼントだと感じる。


・ドローン講習の最初の座学でドローンを取り巻く法令の洗礼を受け、重い気持ちのスタートだった。しかしドローンを用いた操縦実施訓練になると毎回楽しくて、講習終了後まもなく練習用のドローンを購入した。また、講習を一緒に受けた素晴らしい仲間とも意気投合しクラブを結成、充実した日々を送っている。もし、今の自分にドローンがなかったら寂しい日々を過ごしていたと思う。ドローン講習の企画を出してくれた NTT東日本 のみなさま、ドローン講習の機会を提供していただいた本庄市役所の方々、ドローン講習に共に参加し充実した時間を共有してくれる仲間たちに心から感謝している。


・写真が趣味なのでドローンでの撮影にも興味があった。座学で色々な法令の規程があると知った。老化防止も兼ねて今後も楽しく活動したい。


・ドローンが不法投棄や小学生の登下校時の見守りなどに役立てないかと考えた。引きこもりがちだったが、講習を経てドローンクラブができたおかげでみなさんと日々楽しく、忙しく過ごしている。これからも飛行練習や法令の習得に精進し、1 等無人航空機操縦士を目指したい。


・田畑への農薬散布に利用できないかと思い参加を決めたが、最初の座学でそれが簡単ではないことがわかりがっかりした。しかし実技は日を重ねるたびに楽しくなり、今では仲間と一緒にマイドローンを飛ばすことができるようになったので、講習に参加してよかった。


・昔から自由に飛べる空が好きだったので、ドローンにも興味があり講習に参加。ドローンを操縦できるようになり、さらにクラブに入って新たな生活リズムが生まれた。


・ドローンは空飛ぶオモチャと思っていたが講習を受けるとなかなか難しく、だからこそ面白くなった。


・講習の参加者が13名という人数はちょうどよかったと感じる。メンバーのシャッフルにより参加者全員と話せたことが、その後のクラブ設立につながったと思う。新しい趣味の友人ができてうれしい。今後は私的な趣味として楽しむのはもちろん、公共的なことにもドローンを介して協力していきたい。

Q. 御社はどのように「シニアの定義」を設定されているのでしょう。

(岩見氏)
われわれで定義としているのは、65歳以上の地域のみなさんです。定年退職などで会社を引退し、「地域のためになにか行動したいがなにをやろうか」、「老後の趣味を探している」という方々と地域活性化をつなげる、新たな雇用を生み出すといったまちづくり活動を行っています。

Q.  今後の抱負をお聞かせください。

(岩見氏)
シニア世代の活躍促進や多世代交流促進によって、やりがいや存在価値を感じるアクティブシニアの増加や地域愛あふれる若者輩出、持続可能な活気あふれるまちづくりに向けて引き続き取り組んでまいります。シニアの皆様向けのドローン講習プログラムの提供に加えて、NTT 東日本内の映像チーム V-TECHXがSNS の伴走支援や画像/動画編集の技術習得のサポートをすることで、地域の魅力を発信できる集団へと昇華することができると考えています。その他にも NTT ではドローンによる設備点検のスキルも有しており、シニアのみなさまが市内の設備点検ができるよう支援することも可能だと考えます。また、グループ会社の NTT e-Drone Technology では農業用のドローンを操縦できるようにするプログラムも提供していますので、シニアのみなさまが多様な分野で活躍できるように支援することも可能です。今回が実験だけで完結するのではなく、さらに次のステージに進むための最初の一歩となることを願っています。

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シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

40回 
トリニティ・テクノロジー
株式会社
39回 
東京トラベル
パートナーズ株式会社
第38回 
パナソニック株式会社

人にしかできないサービスを
テクノロジーの力で展開


トリニティ・テクノロジー株式会社
取締役COO兼CTO 大谷真史様

「スマート家族信託」など高齢者向けサービスを展開するリーディングカンパニーとして急成長中のトリニティ・テクノロジー。取締役COO兼CTOの大谷真史氏に、サービスの詳細や30年後の日本を見すえた取り組み、今後の展望などについてうかがいました。

2023年8月取材


Q.シニアマーケット市場への参入までの経緯と、提供されているサービスについて教えてください。

当社は2012年に司法書士法人トリニティ・グループを創業し、法律系士業として事業を行ってきました。次第に相続やライフエンディングといった領域の仕事を手がけるようになり、シニアマーケットにおける業務の比重が大きくなっていきました。2020年にトリニティ・テクノロジーを創業し、「人×テクノロジーの力でずっと安心の世界をつくる」をミッションに掲げ、スタートアップ企業として活動しています。

現在は「スマート家族信託」「おひさぽ」「スマホde相続」「TRINITY LABO.」という4つのサービスを展開しています。「スマート家族信託」は認知症による資産凍結を防ぐ家族信託を全国に正しく普及させる事業、「おひさぽ」はお一人の高齢者の方が安心して暮らせるよう、家族の代わりに寄り添うサービスです。「スマホde相続」は相続アドバイザーと経験豊富な専門家が相続手続きをサポートするサービスです。「TRINITY LABO.」は税理士・司法書士・保険のプロフェッショナルなどが自らの専門領域を超えてプロフェッショナルを目指すコミュニティで、4つの事業のうちこの「TRINITY LABO.」のみB to Bとなっています。残り3つはB to Cの事業で、いずれも高齢者の方々の課題を解決するものです。

Q. 「スマート家族信託」について、詳しい内容をお聞かせください。

「スマート家族信託」は家族信託を活用したサービスですので、家族信託が重要性を増している背景からお話します。

日本では、高齢者数が増加するとともに認知症患者数も増加しており、2020年には約630万人だった認知症患者は、2050年には1000万人に達すると言われています。2050年の日本は人口が1億人を切ると予想されているので、およそ10人に1人が認知症患者という状況になると予想されています。

認知症になると意思確認ができなくなり、判断能力を失ってしまうといった問題が生じます。そうすると、銀行で自分の預金を引き出すことが認められず、自宅を売却して介護施設に入ろうと思っても自宅を売ることができない、定期預金の解約ができないなど、いわゆる「資産凍結」に陥ってしまいます。

この資産凍結問題への対策として登場したのが家族信託です。家族信託を活用することで、高齢者が認知症になる前に、財産や資産の管理・処分権を信頼できる家族などに託すことで、認知症になった後でも財産の凍結を免れることができるのです。親御さまが認知症になってしまっても、お子さまの意思で財産を自由に動かせるといった仕組みです。

そこで、家族信託を誰でも簡単・便利に利用できるものにし、家族信託を日本全国に正しく普及させることを目指して「スマート家族信託」をはじめました。認知症になり介護や医療など様々なシーンでお金が必要になった際、いざ貯めてきた老後資金を使おうとしてお金を動かせないというのは大変な打撃です。それを事前に回避するための仕組みが家族信託なのです。サービス開始から2年ほどが経ち、現在では年間数千件のお問い合わせをいただくなど、順調にサービスの普及が進んでおります。

Q. 一度凍結されてしまった財産は、もう戻ってこないのでしょうか。

実はひとつ方法があります。成年後見制度といって、認知症などで判断能力が低下した人をサポートする制度です。本人に代わって契約手続きや財産管理のサポートを行なう「後見人」が家庭裁判所によって選任され、本人の代わりに契約手続きや財産管理などを行います。ただ、一度後見制度を利用すると財産が後見人の管理下に置かれることになります。「認知症のお母さんのためにエプロンを買いたい」と家族が言ったものの後見人に「なぜ必要なんですか」と言われ、認めてもらえなかったということがありました。本人の財産の保全を目的とするあまり使い勝手がよくないなど、課題が散見されており普及がなかなか進んでいません。

Q.「おひさぽ」についてもサービスの詳しい内容をお聞かせください。

「おひさぽ」はお一人様の高齢者を支援するサービスで、「スマート家族信託」を通じて得た気づきから生まれました。自身の財産を丸ごと託せるようなご家族がいらっしゃる方は、決して多くありません。

お子さまがいらっしゃらないケースや、お子さまがいたとしても遠方に暮らしていて親御さまの財産を管理することが難しかったり、疎遠になっていたりというケースがあります。そのような方をサポートするためのサービスが「おひさぽ」です。お子さまの代わりに親御さまに生涯寄り添っていくというのが、このサービスのコンセプトです。定期的な電話連絡や訪問、緊急時の対応、生活事務支援などさまざまなサポートを行うほか、介護施設や病院などで求められる身元保証人にもなります。さらにご本人がお亡くなりになった際には葬儀などの死後事務も行います。これらのサービスにより、高齢者の財産管理や相続、ライフエンディングに関する課題を解決します。

Q.  御社独自のシニアマーケティング戦略の特徴はどのようなものでしょう。

当社がスタートアップであるという背景があります。司法書士発のスタートアップというのは非常に稀な存在です。当社は法律系士業のバックグラウンドを持ち、専門性を活かした事業を行っています。また、アライアンスも重視しており、現在までに顧客紹介などのアライアンスを結んだ金融機関は10行を超え、今後も拡大予定です。

このような士業としてのバックグラウンドと金融機関を中心としたアライアンス活動が当社の強みであり、マーケティング戦略の一翼を担っています。

家族信託については2016年から司法書士法人として扱っているため、実績としては全国トップクラスであり「家族信託のトリニティ」というブランディングが少しずつ積み上がってきていると感じます。

Q.  シニアマーケットについてはどのように捉えていらっしゃいますか。

日本市場が縮小傾向にある中で、シニアマーケットは非常に大きな潜在力を秘めた市場だと考えています。また、この分野には世界的にも未解決の課題が多く存在します。日本は高齢化が急速に進んでおり、これに対処するための新たなアプローチが求められています。シニアマーケットが重要な分野であることは間違いありません。

Q. 他社へのOEM提供についてプランや予定はありますか。

他社へのOEM提供についてはいくつかのアプローチを取っていますが、現状はスマート家族信託のOEM提供・パートナーシップ戦略を重点的に行っており、顧客のニーズに合わせたサービス提供を行っております。

Q.  サービスの今後の展開についてお聞かせください。

「スマート家族信託」を中心に新たな展開を模索しています。認知症患者数の増加に伴い家族信託の需要が増大することが予測されるため、まずは家族信託市場の拡大に注力しています。現在、家族信託に対する認知率は、お子さま(受託者)世代でおおよそ約30%となっていますが、この数字を引き上げることが第一の目標です。家族信託のリーディングカンパニーとして、家族信託の重要性や資産凍結問題による影響を広く理解していただけるよう、認知度を高めていきます。

また、家族信託は信託法に基づく制度であり、受託者には帳簿レシートはすべて保存する必要があったりと雑務も生じるのですが、どうしても「財産を凍結されないようにする」「信託契約を締結する」という1点にフォーカスしてしまい、その後の財産の使い道や法的な準拠が抜け落ちてしまいがちです。結果として信託された財産を使いっぱなしにして報告していない状態になってしまう事例もあります。そこで、当社が「スマート家族信託」で提供しているシステムを活用していただければ、自動的に記帳されたり、レシートの画像から帳簿を作成したりと、記帳や情報管理の効率化を図ることができます。家族信託が正しく運用されしっかり市民権を獲得していくためにはここまでやらないと、マーケットリーダーを目指す企業としての責任は果たせないと思っています。家族信託を扱う企業でこのようなシステム提供を行っているのは現時点では当社だけですので、今後もさらに家族信託の正しい運用を支援し、認知度アップに努めていかなければという使命感が、社員のモチベーションにもつながっています。

Q.シニアマーケットの今後についてはどのようにお考えでしょうか。

現在、シニア向けの特定のプレーヤーが伸長しており、そのニーズが高まっています。これに伴いウェアやサービスも増加し、シニアマーケットはさらなる拡大を遂げると予測されます。競合他社の増加も予想されますので、当社は「スマート家族信託」のサービスを通じて業界のリーダーとしての責任を果たしていきたいと考えています。

 

Q.御社はどのように「シニアの定義」を設定されているのでしょう。

65歳以上」などと年齢でのくくりもあるとは思いますが、当社では年齢を単純な指標としては見ていません。実は社内ではシニアという言葉はほとんど使われていないのです。そもそもシニアマーケットという中でしか事業を展開していないので、あえて定義づけられてもいません。というのも、「スマート家族信託」の顧客の平均年齢は約50歳。つまり高齢者ご本人のみではなく、お子さんとご一緒にお問い合わせされる方が非常に多いのです。家族信託においては、単にシニアだけでなくそのご家族をサポートすることが大切なので、「当社におけるシニアとは●●である」と定義づける意義や必要性がもないとも言えるでしょう。

 

Q.御社が現在抱えている課題とその対策についてお聞かせください。

現在の課題は、市場の成長速度を追い越すことです。家族信託の市場自体も毎年成長していますが、私たちの成長は市場の成長を追い越さなければなりません。シニアマーケットにおいては、大々的な広告キャンペーンよりも信頼性のある情報発信が重要なのですが、ただ認知度を上げるだけでなく、必要な方に適切な情報を届ける方法を模索しているところです。

Q.今後予定している取り組み、さらに今後の展望をお聞かせください。

「スマート家族信託」を拡大して大きな事業にしていくことを目指しています。私たちのミッションである「人×テクノロジーの力で安心な世界を作っていく」を達成するため、高齢社会の課題を解決し、安心な社会を実現するために取り組んでいます。家族信託を通じて高齢者とその家族の不安や課題を解消し、社会全体の課題を少しずつ解決していくことで「そういえば過去にそんな社会問題があったね」という状態にしていきたいですし、それを受けての企業成長だと思っています。これからも高齢者の課題を解決しつつ社会全体の課題にも貢献していける企業として、ミッションの実現を目指します。

 

 

トリニティ・テクノロジー株式会社 ホームページ https://trinity-tech.co.jp/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

第39回 
東京トラベル
パートナーズ株式会社
第38回 
パナソニック株式会社
第37回 
AYAクリエイティブ

介護施設向け「伊勢神宮」
オンラインツアー

東京トラベルパートナーズ株式会社
代表取締役 栗原茂行様

ビジネスアワード2021 ビジネスモデル賞を受賞した東京トラベルパートナーズ株式会社「介護施設向け『伊勢神宮』オンラインツアー」。今回は代表の栗原茂行様に、オンラインツアー「旅介ちゃんねる」の成果や利用者からの声、シニアの定義、そして今後の展望などについてお話をうかがいました。

2022年11月取材


Q.「旅介ちゃんねる」の近況をお聞かせください。

2021年2月27日に伊勢神宮のオンラインツアーを実施してから、施設内にいながら旅行気分を味わえるレクリエーション「旅介ちゃんねる」というシステムで運営し、これまでに120本ほど配信しました。

当社の「旅介」ではリフト付福祉車両を使用した少人数制の旅行サービスを提供していたのですが、コロナ禍でそれができなくなり、旅行に行きたくても行けない方のために、参加型、生中継、高画質映像にこだわったオンラインツアー「旅介ちゃんねる」を始めました。現在はデイサービス、有料老人ホーム、特別養護老人ホーム、サービス付き高齢者住宅、介護老人保健施設、グループホームなど、約3000施設にサービスを提供しています。

どの番組も楽しくご覧いただいていますが、2022年1月に出雲大社で初詣をする番組はとりわけ好評でした。また、「旅介ちゃんねる」の発展型として、高校の吹奏楽部の演奏のライブ配信を行ったところ、予想以上の反響がありました。生徒の躍動感から元気をもらうだけでなく、ハイレベルな演奏が響いたようです。あまりに好評だったので先日第2弾も開催したところ、500施設、約1万人が視聴しました。さらにこの動画を見た介護施設のスタッフさんが、お子さんが通っている高校の和太鼓部を紹介してくださり、そちらも近々後公開予定です。もともと私の中で「中学・高校の吹奏楽部と全国の介護施設をマッチングさせ、定期的に介護施設に演奏に行けるような仕組みが作れたら」という思いがあったので、このような形で実現できたことはうれしいですし、「旅介ちゃんねる」のいいコンテンツだと感じています。

介護施設などでは、「旅気分が味わえる」「昔行った場所が映った」など、スタッフと入居者の会話のきっかけになることもあるという

Q.「旅介ちゃんねる」の特色に「参加型」があります。具体的にどのようなことをされているのでしょう。

番組内でクイズをしたりチャットを読んだり、体操、川柳投句コーナーなど、旅介リポーターと一緒に脳や体を使っていただけるようにしています。体操については最初の頃はやっていませんでしたが、施設からの要望があり取り入れました。

参加型の企画として開催した塗り絵大会では、芸術作品と呼べるような素晴らしい作品が続々と届き、そのクオリティの高さにわれわれも驚きました。優秀作品は番組で発表、施設に賞状と商品をお送りしています。さらに「旅介ちゃんねる」サイト内に美術館ページを設け、作品を公開しており、お礼のお手紙をいただくこともあります。普段の日常で行っている塗り絵という行為が、応募するとなると取り組み方が変わりますし、人から見られたり評価されたりすることで生きがいにもつながるようです。フルハイビジョンの滑らかな映像で楽しんでいただくだけでなく、番組や季節のテーマに合わせた塗り絵大会にも参加していただくといった取り組みは、高齢者の方のQOL向上に寄与できているのではと感じています。

「旅介ちゃんねる」の特色のひとつである参加型の一例。番組内でクイズを出すことで、入居者も盛り上がる

Q.「旅介ちゃんねる」を利用された方からはどのような声があるでしょう。

さまざまな施設からをたくさんの声をいただいています。一例として、「レクリエーションの幅が広がり利用者さんも楽しんでいる。当日は放送開始の1時間前からツアー目的地をYouTubeで予習して盛り上げている」、「ひとりで過ごすことの多かった方が『旅介ちゃんねる』の常連になった」、「オンラインツアー中に行われるクイズ、川柳、体操など、参加型の企画が楽しい」、「ご入居者様が過去の旅行の思い出などを話しくれるようになった」、「番組内で自分の名前が呼ばれたり、ホーム名を言っていただくと拍手や歓喜の声が上がる」、「『旅介ちゃんねる』を導入している施設というアピールポイントになる」、「スクリーンから65インチテレビに替えたところ高画質の本領が発揮され、大人気のレクリエーションになった」、「『旅介ちゃんねる』を見たくて利用日の振替をされる利用者様がいる」などです。

Q.これまでにとりわけ印象深い案件などありましたらお聞かせください。

ライブ配信なので、ハプニングやアクシデントのエピソードには事欠きません。ひやひやしながら事なきを得たこともたくさんあります。たとえば最近では2022年夏に配信したよさこい祭りで、突然カメラが故障して映像が配信できない状態になってしまいました。カメラマンは代わりのカメラを取りに走り、しかしライブ配信時間は刻々と迫り、「どうする!?」となったところでカメラが復活したんです。それが配信開始10秒前でした。けれどカメラマンはいませんから、急きょ私がカメラマンとして配信しました。生中継にトラブルはつきものだけに、このようにどう対処するか必死になっている案件が印象深いです。

完全な放送事故も2回ありました。ひとつめは、スマホで配信していた初期のことです。リハーサルでは問題なかったのに、本番では急に電波が途切れ途切れになり、60分のうち半分くらいが見えなくなってしまいました。ふたつめは、コロナ禍で保育園が休園中のスタッフが子ども同伴で出勤したとき、配信中にその子がパソコンの電源を切ってしまい、配信が終了してしまったことです。

また、1本のオンラインツアーを配信するためには、何カ月も前から企画し、現地と調整し、告知するなど、さまざまな準備が必要ですから、当日が土砂降りでも雪でも予定通り配信します。一面の芝桜と富士山の組み合わせが絶景の「富士芝桜まつり」では、当日は1m先も見えない濃霧でしたがそのまま配信しました。写真などで実際の光景は紹介しているものの、中継としては芝桜がまるで映っていない状態です。けれどそれもひとつの旅の形ですし、この天候も含めて生中継にこだわっています。それによって「今、この瞬間をみんなで見ることで、番組ともみんなともつながっている」という一体感が生まれることを大切にしたいのです。実際、リアルで旅行に行っても天気が悪いということは珍しくありません。その辺のリアリティも「旅介ちゃんねる」ならではと考えています。

Q.60分のオンラインツアーを配信するためには何倍もの時間をかけて準備し、見えない部分のご苦労もあるのではないでしょうか。

まずは配信先の施設さんの予定があるので、2カ月前くらいには日程を押さえ、1カ月前には番組内容を告知します。それに合わせて旅先を企画、準備していくので、やはり時間には常に追われている感じですね。旅先が決まっても肝心の場所の撮影許可がなかなか下りないこともありますし、限られた予算のなか、レポーターとカメラマンの二人で現地から配信する現場ならではの苦労もあります。視聴しているシニアのみなさんが楽しんでくださっている様子を職員さんから聞くことが、われわれの励みになっています。

Q.御社における「シニアの定義」をお聞かせください。

われわれの事業と合致するシニアの定義ということで言えば、いたって元気なアクティブシニアというよりは、ちょっと外に出るのが億劫になってきたとか、外出機会が減ったとか、あるいは何らかの介護の支援を受けている方ということになります。現在「旅介ちゃんねる」をお楽しみいただいているのも、介護施設や有料老人ホームといったところがメインです。もちろんリアル旅行も楽しめる75歳以上のアクティブシニアの方にも番組を見ていただけるのは大歓迎ですが、「シニアの定義」に特化するならば、当社は「何らかの支援が必要、かつその支援を受けている75歳以上の高齢者」ということになります。

Q.現在の課題やその対策についてお聞かせください。

従来はなかったコンテンツなのでお客様も比較検討できないということもあり、営業は積極的に行っているのですが、売り上げは想定していたよりも緩やかな上がり方というのが課題です。今以上たくさんの方に視聴していただくためには、高校の吹奏楽部のライブ演奏のように、旅以外のコンテンツを充実させていく必要性を感じています。コロナ禍でいくつもの旅行会社がオンラインツアーを行いましたが、継続することができませんでした。われわれはその環境において、一番いいオンラインツアーを作ってきたという自負があります。ですから、課題解決のためには「旅」の部分を基調としながらもさらなる展開が必要だと考えている次第です。塗り絵大会のように想像以上に好評だったイベントや、番組内でのクイズ大会などが好評なことが指針となるでしょう。

Q.今後の展望、目標をお聞かせください。

これまでの顧客は施設がメインでしたが、2023年には「旅介ちゃんねる」のテレビ用アプリができるので、自宅のテレビで気軽に参加していただくことができるようになります。パソコンを立ち上げてログインしてという手間が省ける分、サービスに参加できる方の大幅な増加が期待できます。そのため、これまでは介護施設を対象にした番組づくりをしてきましたが、今後はアクティブシニアが楽しめる参加型のコンテンツも充実させていきたいと思っています。 最近は「旅介ちゃんねる」からいろいろなものが派生しています。例えばシニア向けのスマホ教室では、「旅介ちゃんねる」を使ってチャットを打つ練習をしているそうです。オンラインツアーがこういったご縁をいくつも繋いでくれたので、今後は順次それらのリリースもしていく予定です。まずはテレビのアプリによって事業の広がりが実現できるよう、尽力したいと思います。

東京トラベルパートナーズ株式会社 ホームページ 

https://www.tokyotravelpartners.jp/


 

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第38回 
パナソニック株式会社
第37回 
AYAクリエイティブ
第36回
朝日新聞社

高齢化社会に対応した廃棄物処理システム

パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社 FLUX課
ランドリー・クリーナー事業部 ビジネスデザイン部
主務 岡林典雄様

和歌山県橋本市水道環境部 生活環境課
環境企画係長 植木慎哉様

 

 ビジネスアワード2021 ビジネスモデル賞を受賞したパナソニック株式会社「高齢化社会に対応した廃棄物処理システム」。今回はプロジェクトを牽引されてきたパナソニックの岡林典雄様と共同実証した橋本市の植木慎哉様に、プロジェクトの進捗具合や成果、シニアの定義、そして今後の展望などについてお話をうかがいました。

2022年8月取材

 


Q.パナソニックと橋本市の連携協定の締結から1年が経ちました。実証実験の進捗状況などをお聞かせください。

(岡林氏)
2021年7月にプレスリリースを発表してから、準備を経て今年1月から3月にかけて令和3年度の実証実験を実施しました。その結果を踏まえ、今年度は11月くらいから実証実験を始める予定となっています。

橋本市にはもともと、ごみをごみステーションまで出すことが困難な世帯に対して、定期的に自宅までごみの収集に行くという「ごみの福祉収集」という制度があります。そこで昨年度の実証実験は、そのごみの量を「見える化」するような仕組みを作り、合理的なタイミングで収集に行くシステムが役立つか、また見守りにも活用できるかという部分の検証を目的としました。画面とセンサー、通信機能を付けたスマートごみ箱を用意し、福祉収集を利用されている要介護認定者の世帯と要介護認定を受けておらず福祉収集を利用されていない世帯、計9世帯に設置しました。

当初はコロナも落ち着いている状態だったので順調に進められるのではと考えていたのですが、実証実験と第5波による感染者増加の時期が重なってしまい、ごみ箱は設置したものの、訪問して逐次意見を聞くということがほとんどできない状態でした。本来、実証実験は現場で話を聞いたり利用状況を直接見て確認したりしながら進めるものですが、それができなかったのは残念です。ただ、成果もありました。高齢者に対する福祉収集にフォーカスしすぎて、そこだけにどんどん特化していきかねないところを実証実験によって方向転換できたのです。

(植木氏)
実証実験によって「高齢者」と「福祉」を結びつけるのが必ずしも正解ではないということがわかったのは、一番の成果でした。今の時代、高齢でも元気な方はたくさんいらっしゃいますから、「高齢になると支援が受けられる」ではなく、「高齢になっても若い頃と同じような生活が違和感なくできている、実はそこに自治体の支援がある」という考え方をしていくべきなのではと気づかされました。

(岡林氏)
要介護支援者は訪問介護を受けている方が多いので、ごみ出しもヘルパーさんなどがサポートしてくれます。そのため、スマートごみ箱を設置するような支援は予想していたよりも必要とされているわけではなかったという気づきがありました。一方、要介護認定を受けておらず自立して生活できている方にとっては「見守られている」という安心感があると同時に、自宅までごみを取りに来てもらえることをかなり喜ばれていました。

要介護者よりも要介護者ではない高齢者のほうにニーズがあるのではという発見があったと同時に、まだ人の手を借りずに生活できている方からすると、支援の対象がごみということもあって「ちょっと嫌だな」と感じたり、あるいは「収集に来てくれるなんて悪いな」といった心理的な部分が作用したりすることもわかりました。規模の小さな実証実験でしたが、それでもこれだけさまざまな検証をすることができました。

Q.昨年度の実証実験から、高齢化社会に対応した廃棄物処理システム構築というテーマの到達点は示されたのでしょうか。

(植木氏)
市としては、今後ますます増加していく高齢者に対するゴミ出し支援に取り組んでいかなければいけない一方で、高齢者だけに特化して手厚くサービスを展開するというのも難しいものがあります。また、今年度から可燃ごみ収集日を週1回とし、市民のみなさまにもごみの減量化にご協力をお願いしているので、ごみ出し支援について積極的に事業を展開するとむしろごみが増えてしまうという矛盾も生じます。さらに市のマンパワーだけではカバーしきれないところはパナソニックさんのスマートごみ箱がヒントになるのではと、昨年から取り組ませていただいているわけです。ですからまだ事業としてこうしていく、という到達点を具体的に示せる段階にはありません。

(岡林氏)
「ゴールに向かってこの辺まで来ています」というより、ゴールそのものも模索しているところです。当社としては、本来はターゲットを決めてプロジェクトを進めていくのですが、自治体と一緒の場合は植木さんが言われたように、どうしても「高齢者への支援は必要だけれどほかの人にも必要、ごみ出し支援は大事だけれどそれ以外も大事」と、絞りきれない面があります。どこにポイントを置きつつ最終的に何を狙うかというのを詰めるため、今年度も実証実験を行います。

昨年度は要介護者への支援という色がかなり強めでしたが、今年度は要介護認定を受けている世帯だけでなく、65歳以上の高齢者のみの世帯まで対象を広げました。色々な世帯に一緒に減量や分別に取り組んでもらい、その結果、橋本市のごみ処理費用が減少すれば、その分を別のサービスに回せます。

昨年度作ったスマートごみ箱は、利用者から「使い勝手がよくない」といったご意見がありました。橋本市の小さいサイズの可燃ごみ袋ではごみ箱のサイズとフィットせず、大きいサイズのごみ袋だとごみが重くなりすぎて取り出しにくいということでした。今年度はその点を改良するとともに、昨年度は1つのごみ箱でしたが分別してもらうことを前提に、ごみ箱が3個連結した形にしました。また、家庭における生ごみの占める量はかなりあるので、小さな生ごみ処理機も組み込みました。事前に乾燥させて捨てる習慣をつけ、水分を減らすだけでもごみ処理コストの削減につながります。今年度は20世帯くらいには配布したいと考えています。

(植木氏)
今回の実証実験で「ごみの分別の細分化をしっかりしてもらえれば戸別収集できます」という、市民と市のWin-Winのような事業展開を考えられたら一番いいですね。

R3 試作概要

Q.今回のプロジェクトにおけるシニアはどう定義されているのでしょうか。

(岡林氏)
多くの自治体が抱えるごみ出し困難者の問題には、特に高齢者(≒シニア)が多いという実態があります。しかし本事業はSDGsで目指している「誰ひとり取り残さない持続可能でよりよい社会」に向けたサービス実装を目標のひとつと考えていますので、高齢者セグメントに特化したマーケティングやサービス開発だけでは不十分です。「高齢者に特化した」ではなく「高齢者を含む」事業ですので、シニアの定義は特に定めていません。

Q.現段階で課題などはありますでしょうか。

(岡林氏)
企業の側から見ると時間がかかり過ぎていることは否めません。とはいえは目先のことだけ解決すればそれでいいというわけではなく、深掘りをして一番役に立つものをつくらないといけないと感じています。社内の理解を得つつ、橋本市のニーズにわれわれの提供するものをフィットさせていきたいと考えています。

(植木氏)
行政としての課題は、事業展開するときは必ず予算が結びついてくるので、市民のみなさまにも協力してもらわないと限界が来るという点です。ごみ出しの支援でいうと、分別をさらに進める代わりに戸別収集という手厚いサービスをするというのは、パナソニックさんのような企業さんと協力して実際にものを用意し、市民のみなさまと実証実験を実施していかないと事業の展開は難しいというところが見えてきました。

Q.今後の抱負をお願いいたします。

(植木氏)
ごみ処理の施策は人間が生きていく中で永遠のテーマです。いつの時代でもごみは常に出るものですが、ライフスタイルが変わったり平均寿命が延びたり、またごみの内容物も時代とともに変化しています。それに対応し、市民のみなさまにとっても橋本市にとっても最善の施策を展開できるよう、実証実験などを通じてヒントを得ながら取り組んでいきたいと思っています。

実は今年度から可燃ごみの収集日を週1回にしたことについて、市民の方からは不満の声もいただいています。そんなときに、誰もが知っているパナソニックさんという大きな企業と一緒に取り組んでいる試みがあるということを記事に取り上げていただくことで、市民のみなさまからも「ただ市民に強制しているわけではなく前向きに取り組んでいるんだな」とわかっていただける機会になります。どうもありがとうございます。

(岡林氏)
もともとわれわれの事業部では生ごみ処理機をつくっていたので、その進化形はどんなものだろうと考え始めたのが、今回のプロジェクトに取り組む発端でした。その中で、世の中ではごみ処理のコストが問題になったり、ごみ処理をする人も施設も不足したりと、サスティナブルな状況ではないというのがわかってきました。同時に高齢化や人口の減少もあり、いかにSDGsの考え方に沿ってやっていく必要があるのかなど、われわれも学ぶところがありました。

家庭用生ごみ処理機

事業としては、パナソニックは今まで家庭内で掃除機や生ごみ処理機など、家事という視点でのお役立ちというところはできていました。今後はこれまでの「清潔・快適・便利」で機能を構成していたものから、よりエシカルに、より環境に配慮した機能を組み込んでいきたいと思っています。さらには家庭内でのお役立ちだけでなく、それを取り巻く地域、自治体さんや廃棄物処理業者さんなどとも繋いでいくようなシステムも提供できればと思っています。今回の取り組みはその第一歩です。

昨年発信したリリースがシニアライフ総研でビジネスアワード2021を受賞し、大変感謝しています。そのようなリアクションがあったことで、世の中の期待のようなものを感じることができました。今後も橋本市さんと協力して成果を上げられるように頑張っていきます。

R3 活動実績
R4 活動計画
新規事業として目指す姿

パナソニック株式会社 ホームページ 

https://www.panasonic.com/jp/about.html


 

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株式会社 明治

子育て専業主婦の労働力を活かした
「自分史ウェブサイト制作事業」

自分史ウェブサイト制作事業
AYAクリエイティブ 代表 松坂智美氏

ビジネスアワード2021 ビジネスモデル賞を受賞したAYAクリエイティブ「自分史ウェブサイト制作事業」。今回は代表の松坂智美様に事業スタートからの近況から制作スタイルや、これまでの取組の中で特に印象に残ったこと、シニアの定義、今後の展望など幅広くお話をお伺い致しました。

2022年10月取材 

祖父の自分史を持つ代表の松坂さん


Q.「自分史ウェブサイト制作事業」の近況をお聞かせください。

 

事業をスタートしてから、さまざまなメディアに取り上げていただきました。この1年半で新聞7紙をはじめ雑誌で紹介されたり、ラジオで話したりする機会に恵まれました。実際の自分史ウェブサイト制作については、立ち上げ当初はスタートダッシュでたてつづけにご注文をいただきましたが、現在は新たなお客様を見つけていくというところで、まだまだ道半ばといったところです。

 

 

自分史

 

 

Q.性別や年代も含め、申し込まれる方の特色や傾向はありますでしょうか。

 

これまで申し込まれた方は60~80代の方が多く、性別では男性が多いです。また、ご本人からの依頼だけでなく、お子さんが「父の自分史を作ってほしい」と申し込まれるケースも目立ちます。私の営業や発信が当事者よりもそのお子さんの年代に届きやすいという部分があるのかもしれませんが、お父様の記念日に合わせてお子さんからのプレゼントという形ですね。申し込まれるのはお子さんでも、実際のやりとりは自分史のご本人と進めます。結婚を機に家庭に入り専業主婦として何十年、という女性の方の自分史もぜひ手がけたいのですが、残念ながらまだその機会はありません。

これまでに何度も悔しい思いをしているのが、お子さんが申し込まれても親御さんが拒まれてとん挫してしまうパターンです。「自分のことを話すなんて照れくさい」「残すほどたいそうな話などない」という謙虚さや照れが前面に出てしまったり、「パソコンとかわからないから」とネットや機器に抵抗感があったり。お子様の熱意が実らず断念、ということは何度もありました。

 

 

 

Q.制作のスタイルをお聞かせください。

ご本人が書かれたものをそのまま使用する場合と、こちらでインタビューしてテキストにする場合があり、比率はちょうど半々といったところです。お客様がご用意されたテキストにこちらで手を加えるのは、誤字脱字のチェックや「てにをは」などの最小限にとどめ、ご本人の言葉を大事にするようにしています。この事業では、子どもに、孫に、その先の子孫に、自分の思いをどんな言葉で伝えるかが重要な部分だと思っていますので、「きれいに整えてほしい」というリクエストがある場合はプロのライターが対応しますが、自分たちから「文に手を加えるともっと読みやすくなりますよ」といったご提案はしません。一般的な自分史制作だとはじめからプロの手が入り、素晴らしい文章でストーリーに仕上げていくと思いますが、あえてご本人の言葉を大事にして作るという点は当社の特色ともいえます。

インタビューややりとりにネットが使えないという方の依頼もお受けしています。これまでに訪問してインタビューしたケースもありましたし、ご本人が使えなくてもご家族なり介助者につないでいただければ何とかなります。また、自分史をウェブ上だけでなく冊子にもしたいというリクエストにも応じています。ただし冊子のみのお申し込みはお受けせず、あくまでウェブサイトでの自分史を制作された方が対象となります。

 

 

 

Q.取材、制作、校正を担当するママはどのような基準で採用されていらっしゃいますか。

結婚を機に専業主婦になった女性に、在宅で働ける雇用を創り出したいという思いから生まれた事業なので、採用基準はとにかく低いです。経験不問で、最低限パソコンが使えること、くらいでしょうか。もちろん必要に応じてプロのライターやデザイナーにも頼みますが、基本的に未経験者大歓迎です。
ひとつの仕事が発生するとグループLINEで共有し、「取材担当」「文字起こし担当」「デザイン担当」「校正担当」など募集すると、スケジュールの都合がつく人がやりたい仕事に手を挙げて、早いもの順で担当を決めます。「専業主婦」「ママ」という言い方をしていますが、実際はほかにもパートの仕事をしていたり、結婚はしているけれど子どもはいなかったりと、背景はさまざまです。
プロの集団ではないので「ママさんと依頼主さんがアットホームな雰囲気の中でやりとりしながら手作り感満載の作品を作る」に共感し、一緒にやりたいと思ってくださる方が、これまでお客様になってくださってきました。一方で「デザインにもこだわり本格的なサイトにしてほしい」というご要望もありますので、その際はプロが引き受けています。
実際にママたちに働いてもらうと、彼女たちの能力の高さには驚かされました。傾聴力に長け、コミュニケーション能力も高く、シニアのみなさんと和気あいあいと制作することができています。

 

 

 

Q.これまでにとりわけ印象深い案件などありましたらお聞かせください。

現在も代表としてママ向けポータルサイト「ぐるっとママ」を展開されている山本欣子さんの自分史は、印象深く心に残っています。自分史の中にお姑さんとの確執が書かれていて、しかもそれが原因で家出までしたことがあった、という一節がありました。その後はお姑さんとの関係性は改善し仲良くなられたそうで、「自分史の制作にあたり過去を文字にして書いてみたことで、振り返りの素晴らしい機会になった」とおっしゃっていただきました。さらに、彼女の自分史ウェブサイトを見た友人たちから「女性経営者としてばりばり働き、何の悩みもなくすべてを成功に導いてきたというイメージがあったけれど、家庭では嫁としてそんな苦労があったとは。自分史で彼女の内面を知ることができてうれしい」と感想が寄せられました。それを聞いたとき、ご本人だけでなく第三者から評価されたことがとてもうれしく、これこそ自分史の意義、効果ではないかと感じました。

 

 

 

Q.現在の課題やその対策についてお聞かせください。

営業は一番の課題です。自ら作りたいという方がまだあまり多くないこと、先ほど申し上げたようにお子様が作りたいとおっしゃっても肝心の親御様のご協力が得られないことなど、営業面で苦戦しています。あとやはりコロナ禍というご時世ですので、シニアの方々にお会いする機会が生み出せないという点も厳しいですね。高齢者施設や高齢者の集まるサークルなどにお手伝いに行かせていただきたいというアプローチはかなりたくさんしたのですが、いずれも今の情勢では部外者は受け入れられないと。「人命第一なので」と言われてしまうと、それ以上何も言えなくなってしまいます。

そこで現在私が暮らしている徳島県神山町で、長年地域に貢献・活躍されてきた70~80代の方を取材、自分史ウェブサイトを制作させていただいています。それによって、地域のみなさんにより深くその方を知っていただくことができます。また、神山町は地域創生の先端地として、そして若い人の移住先としても注目を浴びているところなので、そんな神山町の発展を支えてきた方のバックグラウンドを知る機会を提供できればという思いもあります。多くの方々と接しお話しながら、よりブラッシュアップしていきたいと思っています。

 

 

 

Q.御社がどのように「シニアの定義」を設定されているのか教えてください。

私はアメリカで暮らしていた時期があるので、シニアという言葉は「上級の」「人生経験が豊かな」という意味でとらえており、それがそのまま当社のシニアの定義となっています。日本ではシニア=高齢者というイメージがありますが、単語の意味はそれだけではありませんよね。

 

 

徳島県神山町の神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックスにて

 

 

 

 

Q.今後の展望、目標をお聞かせください。

自分史ウェブサイト事業を始めたことで、個人の情報を半永続的に残すことに価値があると感じるようになりました。たとえばデータとして保存しても拡張子は時代とともに変わりますし、URLも無期限で見られるわけではありません。「1の保存方法がだめになったら2、2がだめになったら3」と技術的な対策を講じた個人アーカイブの分野へ進出したいというのが今後のビジョンです。最終的な到達点としては、その個人の思いのこもった膨大な個人データが100年先、200年先の後世に伝わっていく、そんな社会を目指しています。自分史ウェブサイトはそのための最初の一歩になりました。

目先の目標としては、できるだけ多くのビジネスコンテストなどに応募して、女性起業家として社会にメッセージをしていく機会をたくさん持つように努めていきたいですね。ちょうど先日、徳島ニュービジネス支援賞のファイナリストに選ばれました。最終審査結果は10月13日、徳島ビジネスチャレンジメッセ2022のオープニングセレモニーで発表されます。今後も自分のライフストーリーを残していく価値や、個人の情報を後世に伝えていくという選択をすることの必要性・必然性、意義を幅広く訴えていきたいと思っています。

AYAクリエイティブホームページ  

https://ayacreative.jimdofree.com/


 

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第35回 
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第34回 
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アクティブシニアに向けて新たな情報や
社会とのつながりの場を提供する、
朝日新聞社のコミュニティプロジェクト

総合プロデュース本部 コンテンツ事業部
Reライフ.net 編集長 菊池 功氏

新聞紙面から始まったアクティブシニアを応援する「Reライフプロジェクト」
そのプロジェクトが運営するコミュニティ「Reライフ読者会議」は、50代、60代の男女を中心に1万人以上が集い、紙面×ネット×リアルイベントを通して、アクティブに生きるシニアのための情報共有の場となっています。
今回はシニアマーケティングを考える上でも貴重なコミュニティを運営していらっしゃる朝日新聞社 Reライフ.net の編集長 菊池 功氏にお話を伺いました。

2021年6月取材

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2021年、大きな転換期を迎えたシニアとネットの関係性

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Q.まず、朝日新聞社が「Reライフプロジェクト」を通じてシニアマーケティングに取り組むことになったキッカケをお聞かせください。

朝日新聞に「Reライフ」という人気の紙面があります。
人生100年時代、定年・子育て後が長くなり、50代以降の数十年をいかに生きるかが問われるようになりました。
元気なシニアが増えるとともに、長寿化・高齢社会による不安も膨らんでいる。そんな方々の生き方を提言する紙面です。

そのファンの方々に向け、新聞だけでなく、ウェブやリアルイベントなどでも情報や体験を提供しようと「Reライフプロジェクト」を立ち上げました。
月間100万PVを超えるネットメディア「Reライフ.net」や、春秋年2回の大型イベント「Reライフフェスティバル」などを運営しています。

「Reライフフェスティバル」はリアルの時は1開催あたり約3,000人、コロナ禍でオンライン化してからは1開催期間中延べ11万人以上の方にご参加いただいています。

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そして、もうひとつ特徴的な活動が「読者会義」です。
オンラインで登録していただき、登録後はセミナーや座談会に参加したり、様々なプレゼント企画に応募できたりします。
参加者は50代~60代のアクティブシニアといわれる世代の人たちです。登録者数は1万人を超えました。
「人生後半」を健康で、より豊かに生きるために、同世代の生活者同士がつながり、語り合い、共感する場をつくる。
そして、そこに集う人たちの課題解決を専門家や企業が支援する。
そんなプラットフォームになることを目指して立ち上げたコミュニティです。

Q.当時、ネットの分野でシニアマーケットに取り組むということに対して懐疑的な意見などはありませんでしたか?

特にはありませんでした。
当時の当社にはすでに「朝日新聞デジタル」があり、10年ほど前からは徐々にデジタル独自のコンテンツも発信するようになっていました。
そうした取り組みの中で、当社は紙だけでなく、デジタルにも力を入れていく方針を決めました。

一つのテーマを深掘りしていくネットメディアも次々と立ち上げました。
そうした流れの中で「アクティブシニア」にターゲットを絞り、その層にふさわしい情報を提供する「Reライフ.net」がスタートしました。

Q.コミュニティへの参加経路はオンライン一択なようですが、オフラインはないのでしょうか?

読者会議への登録や各種イベントへの申し込みはすべてネット上で行っています。
当初は紙面でメンバー募集を告知していたため、電話での問い合わせもありましたが、想定していたよりもアクティブシニアのデジタルリテラシーが高く、スムーズに登録者が増えていきました。

登録はオンラインですが、コロナ禍以前は、リアルのイベントを開催していました。
そこで読者会議のメンバー同士や我々編集部ともふれあってきました。

イベントを通じて新たに会員になってくださった方もいます。
今現在は三密を避ける必要からリアルのイベントについては開催を見合わせておりますが、いずれコロナ禍が収束すれば、以前のような活動を再開する予定です。

Q.コロナ禍で世界のネット環境やネット活用が一気に進化したとも言われますが、「Reライフ」の運営においても感じることはありましたか?

読者会議メンバーへのアンケート調査でも、コロナ禍前はオンラインイベントに参加していなかった方々においても、コロナ禍の中で様々な集まりや仕事上の会議がオンライン化されたことにより、必要に迫られてオンラインイベントに参加する人が増えていることがわかっています。

当社の調査によれば、(そのようなオンラインでのコミュニケーションについて)7割近い人たちが経験していました。
徐々に操作に慣れてきて、今ではオンラインでの美術展や旅行などを楽しむ人も増えています。
今後、オンラインイベントは様々な発展を遂げるでしょう。

また、私たちの活動においても、ファッションや医療関係などオンラインイベントの数を増やしており、リアルイベント、オンラインイベントは読者会議活動の両輪となると思っています。

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その一方で、課題も見えてきています。
高齢の方の場合、家庭内のネット環境が整備されていないケースが見受けられます。
オンラインイベントへの参加は、スマートフォンよりパソコンの方が画面も大きくて便利です。
すべての家庭でwi-fiが整備されるなどのネット環境の充実化が実現すれば、私たちの活動もより幅が広がるのではないでしょうか。

Q.ネットの比重が大きくなる中で、読者とのコミュニケーションが変わりましたか?

新聞は購読者の減少という課題に直面しています。
仮に購読していても、新聞の記事量は新書一冊分といわれるほど多く、すべての記事が読まれるわけではありませんし、また、日々の記事が読まれたのかどうかを確かめるすべもありません。
そのため、「大事な話は5回書け!」と先輩から言われたほどです。

ネットの場合、メルマガで直接情報を送ると、それをもとにどれくらいの読者がWebに流入したのかをある程度知ることができます。
Web上の記事も、どれぐらい読まれたのかを計測することができます。そういう意味では、Webでは読者の反応がリアルにわかり、直接話すことはなくても関心があるテーマなどを推し量ることができます。

私たちは様々なデータを読み解くことで、常に読者とコミュニケーションをとっているといえるでしょう。
またコミュニティ活動では、オンラインであっても「Face to Face」でつながることを大切にして、ZOOMミーティングなどを活用しています。
読者会議コミュニティの強みはオンラインであっても「顔や人となりがわかる」ことです。

会員のモチベーションの高さ、その理由と活用方法とは

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Q.「生活のヒント」や「How toモノ」など、ネタ作り・コンテンツ作りはどのようにされているのですか?

編集に携わるスタッフが案を出し、相談しながら編集作業をしています。
編集担当には50~60代のメンバーも多く、自分の関心と読者の興味は重なり合っています。

わたしたちが果たすべき役割は、大きく二つあると思います。

まず一つ目は、読者が自分の立ち位置を知ることができるデータを提供することです。
現状を認識して、どんな行動をとったらいいのか考えるヒントにしてもらいたいと考えています。自らを相対化するための情報は、「PDCAサイクル」に必要です。

二つ目は、「Well-being」=「幸せで豊かな人生を送るために必要な情報を提供すること」です。
「ライフシフト」(リンダ・グラッドン/アンドリュー・スコット著)にも記述がありますが、老後を幸せに生きるためには財産や家族だけでなく、「健康」「仲間」「スキル」「知識」などが必要です。
読者が健康や知識といった無形資産の必要性に気づき、新しいステージに立つことができる情報の提供です。

このような観点での情報提供を心がけています。

Q.「Reライフ読者会議」の会員組織の特徴をお聞かせください。

まず、「積極性」という特性でしょうか。
例えばアンケートをすると、通常だと未記入が多い自由記述回答に詳細に答えてくださる方が多い。そこには気づきがあります。

またリアルイベントでも会員の積極性は垣間見えます。
例えば、「老後2000万円問題」というテーマのセミナーを実施した際、お隣同士で話し合っていただく時間を設けました。
皆さん初めて会った方たちばかりのはずなのですが、大変盛り上がりました。

他には、「遺品整理」「断捨離」といったお片付けに関する議題でも皆さん議論が伯仲していました。
まさに皆さん、「自分の言葉がある読者さん」ですね。

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Q.なぜ「Reライフ読者会議」の会員にはそのような積極性があるとお考えですか?

「Reライフ読者会議」メンバーの皆さんには、「社会に貢献したい」とか「社会を良くする為に自分の意見を言いたい」というモチベーションがあるのだと思います。

また、参加者は「言語化するチカラが高い」という印象があります。
当然、朝日新聞の読者の方々が多いこともあり、日ごろから社会の課題に関心があるためではないでしょうか。

さきほどお話したアンケートの自由記述回答にも表れています。
企業の商品モニター座談会を開いたときも、自分の思い、意見をしっかり語ってくれます。発言内容のレジュメを作ってもって来てくれる方もいます。
自分が何を言うべきか、どういう主張をすべきなのかということを、しっかりと考察された上で参加してくれています。

更に言えば、名前を出すこと、顔を出すこともOKという方が多いのも特徴です。アウトプットする情報の中に、実在する人物として登場していただけるので、リアリティがあります。

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Q.では、企業が「読者会議」を活用してシニア向けのサンプリングや商品モニターを実施する場合のメリットやアピールポイントをお聞かせください。

シニアのモニターという母集団は世の中には少ないと思います。
その中で「Reライフ」には1万人を超える読者会議メンバーがいて、率直かつ的確な意見を発してくれます。
先日のモニター会でも、使用した感想はもとより、改善点まで指摘してくれます。

厳しい意見も忌憚なく述べてくれるので、企業様が想定していなかった気付きを得るきっかけになると思います。

Q.商品モニターの事例やエピソードはありますか?

大手メーカーへOEM供給をしているレンジフード専門メーカーさんから、自社製品の利用状況を調べてほしいという依頼がありました。
このメーカーさんの利用者さんが見つかるかどうか不安でしたが、多くのメンバーさんがわざわざ製品型番を調べてくださり、想定人数以上のモニターにインタビューすることができました。
製品番号を調べることもいとわず、積極的に対応してくれる人たちが多いということです。

シニア女性向けの靴の商品開発に協力させていただいたときは、メーカーさんが想定していなかった「50になっても60になってもおしゃれなヒールの靴を履きたい」、「シニア向けのおしゃれなヒールがない」という声が多く寄せられ、当初の想定とは異なるコンセプトで開発に乗り出すケースもありました。

また、ファッションイベントを開いた際には、シニアモデルとして役割を担ってくださる女性もいましたし、書籍の良さをアピールするイベント「ビブリオバトル」では、ビブリオバトルの参加方法、プレゼン方法を勉強して、参加してくれました。

意欲の高い方が多く、無作為で集めたモニター集団とは質的に一線を画すと自負しています。

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Q.モニター活動を積み重ねて、シニアマーケットについて感じられることはありますか?

一般的なマーケティング以上に、シニアマーケティングの方が多様化や細分化への対応がより重要であると感じています。
なぜならば、シニアの皆さんはそれぞれ違う道のりを歩んできた方々で、価値観が違います。

シニアマーケティングでは「個」を意識することが極めて重要だと思っています。
以前、「50代から輝く100人のキレイ」という企画がありました。
スタイリストの石田純子さんにご協力をいただいたのですが、ファッションのポイントだけを解説する記事ではなく、「あなたにとってお洒落とは何か?」、「日常どんな風に暮らしているのか?」というインタビューも交えた100人のページをつくりました。
これは大変な人気企画となり、「個」にフォーカスを当てる重要性を再認識しました。

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Q.最後に、今後の展開や目指すところなどをお聞かせください。

シニアの方々の多くは人生に対し何らかの不安を抱えています。
その不安の内容は、人によって違います。それぞれの問題を解決し、よりよい人生を送るためのヒントや心構えを「Reライフ」で提供したいと思っています。

今回は“オールドメディア”から出発して今やネットでのシニアコミュニティという特化した形でその存在感を示している「Reライフ.net」の菊池功編集長に貴重なお話を伺いました。
様々な流れがネット化の方向に進んでいる中で、「Reライフプロジェクト」は、そのコンテンツは勿論、拘りを持ったリテラシー能力の高い人々が参加しているコミュニティとしてシニアマーケティングにおいて非常にポテンシャルの高いものと感じました。

朝日新聞社 「Reライフプロジェクト」

https://www.asahi.com/relife/


 

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第35回 
株式会社明治
第34回 
シャープ株式会社
第33回 
株式会社ホビージャパン

「明治メイバランス」シリーズ初の宅配専用商品
One to One のサービスが強みの
宅配事業で拡大を目指す

食品開発本部 中島綾子氏
マーケティング本部 小池康文氏、安元敬亮氏

 

株式会社 明治の、長い歴史を持った「明治メイバランス」シリーズ。その種類は現在80種以上にのぼります。
今回はその「明治メイバランス」について、この春から新しくはじまる取り組み・展開も含めたお話しを伺いました。

2021年3月取材

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左から小池氏、中島氏、安元氏

Q.明治といえばお菓子というイメージで子どもの頃から身近なブランドですが、それとは少し異なる医療系のジャンルに着手されたのはどういった背景があったのでしょうか?また、このジャンルに積極的に関与して行こうとされたきっかけは何でしたか?

(中島氏)
1980年代に発売された「YH 80」という商品(YHはヨーグルトYogurt・ハニーHoneyの略)が弊社の流動食の始まりでした。「明治メイバランス」が生まれたのは1995年ですが、流動食に関しては「明治メイバランス」が発売する前から少しずつスタートさせていました。
「明治メイバランス」は、もともと病院や介護施設で使われている口から食べることができない方の栄養補給のための商品です。今ではアイスやゼリーといったものまでラインナップが広がり、80以上の「明治メイバランス」シリーズ商品があります。近年はできるだけ口から食べることを推奨する動きが高まってきており、「明治メイバランス」も飲むタイプだけでなく、ゼリーやアイスなど、お客様のニーズに合わせて様々な形態の商品を展開しています。

(安元氏)
元々の始まりは先ほどお話に出てきましたヨーグルトと蜂蜜を使用した「YH 80」という商品で、ヨーグルトという素材を応用していこうというのがきっかけです。
「明治メイバランス」の話をする際に切っても切り離せない話なのですが、ある男の子が全身大火傷を負ってしまい、病院へ運び込まれ、医師がお腹に優しくて栄養豊富なヨーグルトでなんとかこの男の子を救えないかと当社に問い合わせをしたことが歴史のはじまりとされています。栄養豊富なヨーグルトとカロリーが高い蜂蜜を投与することで男の子は一命を取り留めました。その後その栄養補給の手法が広まり、医師から商品化して欲しいという声をいただいて商品化に至りました。
チーム医療の考えが進み、医師や医療・介護従事者が一丸となって医療を行っている医療機関、介護施設が多いですが、今でも医師の先生方だけでなく、医療・介護従事者の方々のお力を借りて商品を開発したり、お客様に伝える活動をしたりしています。

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明治メイバランスシリーズ

 

 

Q. ドラックストアの栄養補助食売り場で多く「明治メイバランス」を見かけますが、B to C に向けて展開された際の工夫点、売り方で何か気をつけてらっしゃる点や、意識されている点は何でしょうか?

(安元氏)
高齢化が進み、高齢になっても住み慣れた地域と自宅で過ごしながら療養をされたいと希望する方のボリュームが増えたことや病床抑制による医療費の削減を背景に在宅医療・介護の流れが進む中で、手軽に店頭で流動食を買えるということが価値になるのではないかと考え、明治メイバランスの市販化を進めました。
この商品は、お客さまに商品の良さを理解していただく必要がある商品なので、販売スタッフの方への勉強会を開催するなど、(展開する)ドラッグストアさんと手を組みながらしっかりと丁寧に販売をしていきました。元々は介護食というカテゴリーの中でお食事がとりづらい方のニーズを想定して販売しておりましたが、ご購入いただくお客さまが増えていくにつれ、「介護食という狭い世界だけにとどまらない価値があるのではないか」と考え、栄養補助の観点からの提案を行っていったところ、流通様からもご賛同頂き、栄養補助食売り場にも置いていただけるようになりました。

Q. 購入者としては介護をする方と介護をされる方、どちらを想定してこのような商品展開にされたのでしょうか?

(安元氏)
両方を想定しています。実際に飲用する方に対しては、おいしく飽きずに飲んでいただきたいという思いから、味の改良を重ねています。一方で、医療機関で使用されているという安心感や、「明治メイバランスMiniカップ」については独自設計の「小型カップ」と蛇腹のストローで、介護するご家族が使いやすいような商品になるように考えています。
ですので、どちらか一方を想定した商品展開ではなく、介護者・被介護者どちらも重視し展開しています。

 

Q. 「明治メイバランス」のスタート時、1980年代の介護は小さな市場だったと思いますが、当時から社内でマーケット・事業として評価に値するものという位置づけをされていたのでしょうか?

(安元氏)
弊社にはヨーグルトや菓子をはじめ様々な商品があり、市場トップシェアのメガブランド商品も多々あります。 「明治メイバランスMiniカップ」もトップシェアではあるものの、市販における売上がまだ小さいのも事実です。しかし、社内で非常に重要なブランドとして位置づけられている実感があります。この商品は、栄養で社会に貢献できる商品として、研究・開発から販売まで、力を入れて取り組んでいます。

Q. 「メイバランス」というネーミングには何かストーリーがあるのでしょうか?

(中島氏)
「メイバランス」は、明治(“メイ”ジ)の“バランス”の良い栄養食品という意味合いで名付けられています。
始まりは1つの商品でしたが、医療従事者や患者さま、そのご家族のニーズにお応えできるよう、今では80種類以上のラインナップを揃えており、医療現場でいちばん使われている栄養食ブランド※に成長しました。
「明治メイバランスを使っていれば安心」と思っていただけるようにこれからもお客様のお声にこたえていきたいと思っています。
当商品群は、用途やニーズに応じた栄養設計、ラインナップ、味、物性、使いやすさや識別性・安全性を重視した容器などに配慮をして開発をしています。
※ (株)シード・プランニング「2019年版 高齢者/病者用食品市場総合分析調査」における病院・介護施設での経口栄養流動食(容量125ml以下のリキッドタイプ)シェア(2016年4月~2019年3月)

Q. この2021年春、新商品が出ると聞きましたが、開発の背景をお伺いできますでしょうか?

(中島氏)
この春から「明治メイバランス」の宅配専用商品を販売します。
「明治メイバランスMiniカップ」の販売開始後、お客様からは「1本で栄養素がいっぱい摂れるのは嬉しいです。」という声をいただいた一方で、「1本で200kcalは多すぎる」、「味が濃いので飲みづらい」と言うご意見もありました。しかし「宅配で定期的に届けてくれるのは、体のメンテナンスが習慣化できて良いと思います」という声が後押しとなり、宅配に1番マッチする「明治メイバランス」は何かを考え、明治の強みである「ヨーグルト」にたどり着きました。
皆さまの期待に答えられる味に仕立てるということ、これだけの栄養素をわずか100mlの商品に入れるということには苦労が多くありました。「明治メイバランスで培った栄養設計技術」、「ヨーグルトの健康価値とおいしさ」、「定期宅配による習慣化」・・これらを合わせたのがこの商品です。

(小池氏)
商品設計にあたり、1回で飲みきりやすく、ひんやりした口当たりが好評の小型タイプのビン入りの商品にしたいと社内で提案しました。しかし、ビンに本商品を充填すると、光が当たることで様々な栄養素がダメージをうけてしまうという問題に直面しました。その課題を開発チームがクリアしてくれたことで、発売に至ることができました。

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明治メイバランスのむヨーグルト(宅配専用) (2021年4月5日発売)

Q. 昔からある牛乳配達などの宅配サービスが減少した中、今もう一度力を入れられるにあたって新しくネットワークを構築されたのでしょうか?

(小池氏)
1970年代からスーパーやコンビニが台頭していくことで急激にお客様軒数が減り、宅配事業存続の危機でした。しかし、宅配専用商品の開発や保冷可能な受箱の導入、さらには配達員の営業活動時間のシフトチェンジなどに取り組んだ結果、V字回復をしてきました。現在では全国250万軒のお客さまにお届けしています。最近の例で申しますと、小型ビンタイプの「明治プロビオヨーグルトR-1ドリンクタイプ(以下、「R-1」)」において市販品とは差別化した中身で発売することで、スーパーで「R-1」を購入している方々が「宅配を届けてくれるほうが続けやすい」と、宅配に切り替えてくださる例が非常に増えているようです。

もちろんネットワークの構築・維持に関しては、全国3,000店の明治特約店さんと共同してそのインフラの構築を進めています。明治の特約店さんは我々の大切なパートナーであり、全国の高頻度定期チルド配達網は、当社の強みだと考えています。更なる価値創造に向けて、去年からワタミの宅食さんとも取り組みを開始しました。ワタミさんのお弁当を届ける時に「R-1」などの宅配商品も一緒に届けていただき、反対に明治の宅配商品を届ける時にワタミさんのお弁当もお届けするなど、お互いの顧客網を使いながら相互に送客し合うことで、お客様の健康的な生活をサポートすることを目指しています。
さらにこのコロナ禍でお客さまの健康意識が高まっていて、解約をするお客さまが減っています。新規営業時においても、在宅勤務や活動自粛による在宅率の向上でお客様との接点が増え、新規軒数も増加しています。2020年度は宅配事業の売上が非常に好調です。新商品「明治メイバランスのむヨーグルト(宅配専用)」の発売によって、2021年度も更に飛躍できると考えています。

(安元氏)
元々(商品と宅配に)親和性があるなと思いながら、商品的なブレイクができなかったというところを今回(の宅配専用「明治メイバランス」で)できたというのは非常に大きいと思います。

Q. これからの「明治メイバランス」宅配サービスに対する意気込みや思いをお聞かせください。

(中島氏)

「明治メイバランス」シリーズをヨーグルトに展開できることについて、チャレンジングな取り組みですが期待感も強く感じています。

「明治メイバランスMiniカップ」の市販展開をスタートした頃は医療従事者・介護従事者からの紹介でこの商品を購入していただく方がほとんどでしたが、近年では、お客さまご自身が店頭でご覧になって買っていただくというお客さまが増えています。しかし店頭ではすべてのお客様に直接、「明治メイバランス」がどのような商品なのかをお伝えすることはできません。その点宅配では、お客さま一人ひとりとお話して大切な情報をお届けできるため、この商品と相性の良いチャネルだと思っています。お客さまに気に入っていただき、「毎日飲みたい!」と感じていただけるよう、チャレンジしていきたいと思います。

Q. 宅配サービスのエリアや想定されるターゲットやペルソナはどうお考えでしょうか?

(小池氏)

エリアは全国です。ターゲットとしては、アクティブシニアとギャップシニアをメインターゲットとして想定していますが、私たちの中では年齢というよりその方の状態が重要と考えています。状態・気持ちで商品を選んでいただくことが必要なのかと思います。あまりシニア感を出さず、介護ということでなく、あくまで食事のバランスを整えるという面でアプローチしていく予定です。30、40代の朝食を抜いてしまったという方にも、栄養バランスを整えようという訴求の中で、シニア以外の層の獲得もできるのではないかと期待しています。
発売前にお客様見本を配布し、営業活動を進めていますが、非常に好評です。基本、特約店さんの営業活動と、Webでの「4本無料お試しキャンペーン」、 新聞広告等でのプロモーションを展開していく予定です。

Q. 今回ネットでのサービスの申し込みというところも重要視されているのでしょうか?また、デジタルマーケティングにおけるシニアの方々の反応をどう捉えられていらっしゃいますか?

(小池氏)

昔より随分シニアの方々のITリテラシーは上がっているかと思いますが、やっぱり新聞の方がリーチ率は高いと考えています。Webは30~40代、新聞は60~70代。「新聞に広告を出して、事務局を設置して電話受付対応する」よりは「Web広告を出し、レスポンス自動受付で、メール配信」の方が、コスト効率がいい…その辺のバランスを取りながら対応していこうと思います。
あとは、離れて暮らす親御さんへのプレゼント需要を狙っています。私も親が遠くで一人暮らしをしているので、宅配でお届け、支払いはこちらで、とこっそりプレゼントするつもりです。

Q. 宅配ビジネスというものの可能性や課題でベンチマークされたものはありましたか?

(小池氏)

宅配で言うと、ECサイトでの時間指定配達や、生協さんのような豊富なラインナップ対応もできないと思っています。我々の強みは週に2、3回という頻度でお客さんの家に行ってone to oneのコミュニケーションを取ることなので、そのコミュニケーションを商品と合わせて提案することで、地域包括ケアシステムの一翼を担う、予防活動に貢献していきたいと思います。「宅配で週に2、3回来てくれるから、見守りも兼ねているよね」、「コミュニケーションが社会との繋りとなって孤独にならないよね」といった、コミュニケーションとセットした新しい宅配モデルの構築を目指しています。闇雲に商品ラインナップを増やしていこう、「明治メイバランス」のシェアを増やしていこう、と言うことではなく、限られた商品の中でそこにプラスの価値を付与して戦っていきます。「離れて住む子どもよりも近くに住む牛乳屋さん」のような健康習慣のインフラにしていきたいです。
この商品の必要性をお客さま一人ひとりにしっかりと理解してもらうことが大切です。置けば売れる商品というわけではなく、しっかりと理解してもらいながらこの商品を取っていただくというのが、習慣化につながり、お客様の健康習慣に貢献できると思います。

 Q. 一定の説明と利用者側の理解・咀嚼があって、初めてコミュニケーションが成立して維持・発展していく商品ということでしょうか?

(中島氏)

そうですね。今回の取り組みが、お客様のヘルスリテラシーを高めるための一助になればと思っています。
3食しっかり食べているつもりでも、実は栄養素が十分に摂れていないことが多くあります。年齢を重ねるほど、食べる量が減るためその傾向は強まります。栄養素の不足が長く続くとフレイルなどへのリスクが高まるので、そうならないよう、予防的な取り組みを広めていきたいですね。

株式会社明治 

https://www.meiji.co.jp/

明治の宅配 

https://www.meiji.co.jp/takuhaimeiji/commodity/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

第34回 
シャープ株式会社
第33回 
株式会社ホビージャパン
第32回 
INHOP株式会社

実証実験に基づいたシームレスな
介護施設支援ソリューション
「頭の健康管理サービス」「頭の健康@HOME」

シャープマーケティングジャパン株式会社 ビジネスソリューション社
システム機器営業推進部 佐田 いち子氏

シャープ株式会社 ビジネスソリューション事業本部
システムソリューション事業部 商品企画部 井上 貴英氏

 

「頭の健康管理サービス」「頭の健康@HOME」はシャープ株式会社が開発・運営を行う介護施設支援ソリューションです。最終エンドユーザーの利用者(=高齢者)を見据えた法人向けの生活機能・認知機能訓練に特化したシームレスな運用ができることが特徴です。
今回は、システム機器営業推進部の佐田いち子氏、システムソリューション事業部商品企画部の井上貴英氏にお話しをお伺いいたしました。
※今回はシャープ株式会社のオンライン会議サービス「TeleOffice」を使用して取材いたしました。

2021年2月取材

シャープ 人物写真

              井上貴英氏            佐田いち子氏


Q.はじめに、シニアの定義をどうお考えですか。

弊社といたしましては、特段シニアというものを定義しようとはしておりません。ここからは個人的な感想になりますが、“高齢者”という響きはなんとなくネガティブな印象があります。それをふんわりと置き換えると“シニア”とか、年齢層を引き下げて“人生史上最高の時”のような“グランドジェネレーション”といったそういう言い方もあるのだろうなと思いますが、その言葉自体にはあまり拘ってはおりません。

Q.「頭の健康管理サービス」について教えてください。

顧客ターゲットは、通所施設――デイサービスやデイケア、入所施設――介護老人保護施設あるいはサービス付き高齢者向け住宅、などです。
サービスの概要につきましては、介護施設の業務効率をアップし、人手不足の解消を支援する新しいソリューションということで、利用者(=高齢者)が楽しみながら認知機能を訓練することができるサービスになっています。特に私どもは生活機能、中でも認知機能は日常生活で欠かせない脳の働きということで、これに着目し強化することを考えております。

システムの構成といたしましては、40型タッチディスプレイあるいはタブレットを高齢者ご自身がお使いになります。画面にタッチをして訓練用ゲームをすると、その結果がクラウドサーバーに保存されます。施設スタッフは操作の支援や、結果を見たりすることができるシステム――アセスメント→計画作成→訓練実施→結果・評価といったケアプランの業務フローをシームレスに支援できるシステムとなっております。

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Q.「頭の健康管理サービス」の開発~販売までの背景・経緯をお聞かせください。

2012年頃、「タブレットを活用して健康管理をしたい」というお話を奈良県王寺町の高齢者団体「未病クラブ」というところからいただき開発をスタート致しました。
そこから、奈良県や神奈川県の公募事業で実際に健康管理・介護予防ソリューションという取り組みを本格的にスタートしております。また、その後経済産業省公募事業として三重県亀山市と亀山市シルバー人材センターと協業して、ビジネスの実証実験を2015年から開始しております。さらに、「頭の健康管理サービス」の介護トライアルということで近畿経済産業局の実証プロジェクトを経て、2019年8月に「頭の健康管理サービス」の販売を開始させていただきました。

私どもビジネスソリューション事業本部は事業の柱の一つとしてBtoB向けのディスプレイを扱っております。そのディスプレイを活用いただくため、ディスプレイに表示するコンテンツを配信するソフトウェアの開発も行っております。
さらに、傘下の販売会社がシステムインテグレーションやサポートができる体制も整えております。
「頭の健康管理サービス」はこうした当社のもつBtoBビジネスのリソースと、これまでの実証実験やトライアルから得たノウハウ、それから各大学との連携による知見、そのようなものを組み合わせることで、今後増加する高齢者の受け皿となる介護施設の課題解決に貢献できると考えて商品化しております。

2017年から実施している介護フィールド実証で、介護施設の方々にご意見を伺ったところ、まず1番目には2018年の介護保険法改正に伴う収入減の対策をしたいという声、2番目には介護施設間の競争が激しいので認知機能対策訓練としての差別化を図りたいという声、3番目には多忙な機能訓練指導員の仕事を少しでも軽減して楽にしたいという声、4番目には厚生労働省より生活改善を重視する方向が示されており、今後の介護報酬の改定を見越して生活機能訓練を充実させたい、という4つの声が聞かれました。
このようなニーズにお応えできるというのが「頭の健康管理サービス」であるということで、我々は商品化に取り組んで参りました。

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Q.BtoBへ特化している理由をお聞かせください。

シニアマーケットを考えたときに、もちろんBtoCということも考えられ、弊社でも、火を使わない調理家電など、様々なシニアにフィットする商品をご提供しています。しかしながら、「頭の健康管理サービス」や「頭の健康@HOME」にはICT機器の操作が伴い、これをサポートすることが必要になってきます。
私どもは、高齢者への操作サポートが、高齢者とのコミュニケーションの機会になりうるのではないかと考えております。

自治体全体で支えあい、シルバー人材などがキーとなって支援できる地域包括ケアに貢献するモデルを作れるのではないか。それが自治体の要望でもあるし、動ける方がサポートする、そういった高・高支援モデルが望ましいと考えています。
その考えに至った背景は、2012年から始めている高齢者団体「未病クラブ」での実証実験にあります。アクティブシニア同士でもいろいろなレベル差があり、ICT機器に関しても非常に良くご理解されている方、ちょっと良く分からないという方、と様々です。良くお分かりの方は「こういう風にするんだよ」と不案内な方に教えてあげるのですが、その姿がとっても微笑ましくて、また私どものような年代の者が教えるよりもはるかに自然に受け入れてもらえる。
こういう姿があり得るのだなということを目の当たりにしました。

その後、県や国の公募事業でも、自治体の中で、シルバー人材の方にサポートしていただくと、教える側も根気よく教えていただけるし、聞く側も聞きやすいというモデルが成り立つことが分かりましたので、そこをターゲットにしようと考えています。
また、介護施設支援ソリューションでは、トレーニングの実施に際し使い方を教え、教わるシーンが、施設の機能訓練指導員やセラピストと、高齢者とのコミュニケーションツールとしても役立っているとお聞きしており、正に、理想通りに活用いただいております。

弊社以外の企業でも、介護施設スタッフの労力削減や業務効率アップという観点からの開発は進めておられると思いますが、“高齢者が使う”というところに拘り、10年以上費やして、全ての日常生活の根幹である認知機能という点にフォーカスした取り組みというのは、他社には無いだろうと考えています。
自治体向けモデルにせよ、介護施設向けにせよ、主役は一人ひとりの高齢者なのです。ただ前述の経緯・想いから、そこにサービスを届ける方法、ルートをBtoBとしている、と考えていただければと思います。

Q.導入にあたってのメリットを教えてください。

導入いただいた場合のメリットは、利用者(=高齢者)にとっては、楽しく訓練用ゲームをしながら認知機能を刺激できるということ。これによって顧客満足度が向上し、他の施設との差別化ができます。
施設様にとっては、機能訓練の効率化ができるという点が大きなメリットとなっています。

機能訓練について、施設様ではケアプラン計画書の原案を作成し、アセスメントを行って計画を完成させます。そこから訓練を実施し、計画書に評価を記載して、最終的にはその結果をご本人やご家族に説明して同意をいただく、というフローが一般的です。
「頭の健康管理サービス」の場合は、アセスメントの部分について、厚労省の作成した「興味・関心チェックシート」を、さらに深く掘り下げた質問に回答していただきます。その結果を基に、強化すべき認知機能を自動的に割り出し、個々人にあった訓練用ゲームが自動提示される流れとなっています。個人を識別するICカードをカードリーダーにかざしていただくとその日やるべきゲームが提示され、実施していくとまた次のゲームが提示されるような仕組みになっています。

Q.サービスの特徴はいかがでしょうか。

特徴として1つ目のポイントは、現場ニーズにお応えできる独創的な機能訓練です。介護施設でのフィールド実証や、ヒアリング観察に加え、脳医学あるいは機能訓練関係の大学との連携によって、アセスメントから計画作成・評価までできる独創的なシステムを生み出すことができました。
2つ目のポイントは、実証の中から生まれた、高齢者にも使いやすいUIです。介護現場での観察結果を基に、高齢者でも直感的に操作しやすく仕上げております。
3つ目のポイントは、サービス内のゲームの一部を東北大学の川島隆太教授に直接学術指導を受け開発していることです。東北大学では効果のエビデンスを取得し、論文発表もして下さっています。
4つ目のポイントは、直感的に変化が分かる結果の“見える化”です。機能訓練の結果が自動保存されるのはもちろんのこと、チャートや折れ線グラフなど、様々な形式でのアウトプットができます。

Q.ハードウェアからすべてご提供する理由について教えてください。

介護業界はまだまだICT化が進んでいないのが現状なので、すべてキッティング(機器の設定・調整作業)してご提供し、何かお困り事があったらサポートできるように考えております。お手持ちの機材で利用できると、コスト面からみると施設様にとっては良いかもしれませんが、トラブルが起きた時、解決に時間がかかる可能性が高くなります。
そういうことから、現在は決められたハードウェアをフルキッティングしてご提供しております。この先、どんどんICTが浸透すれば、また別の様態もあるかとは思います。

もう一つ別の理由があります。科学の世界では認知機能を維持・向上させるためには脳の処理能力を上げることが有効とされています。そのためには訓練ゲームの実施速度を向上させていく必要がありますが、お使いいただく機材が異なる場合、その実施速度の差が脳の処理能力によるものなのか、機材の反応によるものなのか判断がつかないとデータ自体の意味が無くなってしまいます。ですので、現時点では、弊社の機材で統一してお使い頂いています。

Q.「頭の健康管理サービス」を実施するにあたって必要なシステムを教えてください。

ハードウェアの構成としては、40V型タッチディスプレイ・コントローラーボード(パソコン)・フロアスタンド・ICカード・ICカードリーダーになります。このICカードは個人管理をするために必要となっています。カード1枚で個人を特定することができます。ディスプレイ・コントローラーボード・フロアスタンドの代わりにタブレットもお使いいただけます。
そこに「施設基本」・「機能訓練」・「個人管理」の各ライセンスが必要になります。
「施設基本ライセンス」というのは施設に1ライセンス必要なもので、この中にはゲーム系のものが全て入っています。「機能訓練ライセンス」は、機能訓練に活用するために、スタッフがお使いいただくものになります。「個人管理ライセンス」は、個人のデータ管理をするためのものになります。
以上のようなハードウェアとソフトウェアで成りたっております。
この他、「健康管理ライセンス」というものがあり、こちらはこの後の「頭の健康@HOME」にも繋がっていきますが、タブレットでお使いいただくときに健康管理もできるというようなものになっています。

構造

Q.導入事例を教えてください。

導入施設様Aでは、導入前は認知機能を維持強化したいという取り組みを考えておられました。その中で訓練計画とか結果・履歴を簡単に管理できたら良いなというような課題感を持って探されていたところ、「頭の健康管理サービス」にたどり着かれたということでした。
実際に導入されてみると、利用者が楽しみながら取り組める効果的なトレーニングであると感じておられること、介護スタッフの業務が軽減されたということ、一人一人のアセスメントによってそれぞれに合った訓練用ゲームが提示される為、時間的にスタッフが高齢者に寄り添う余裕ができたというお声を頂いております。

もう一事例として挙げたいのは、導入施設様Bのケースになります。
オープン前から施設の内覧会でケアマネージャー様にご意見を伺ったところ、「これまでにないサービスだ」と、非常にポジティブな感想をいただきました。ケアプランの立案や実績の記録などが簡単にできるということで導入をお決めになりましたが、導入当初は「いろいろな認知機能の方がいる中で本当に利用できるのかな?」というような疑問を持ったスタッフもいらっしゃったそうです。結果といたしましては、すんなりとすべての方が利用できたということで、ご家族やスタッフの方も驚き喜んでいらっしゃったとお聞きしています。

Q.「頭の健康@HOME」についてお聞かせください。

「頭の健康@HOME」の顧客ターゲットは見守る側、事業を進める側として自治体やシルバー人材センター。
お使いいただく側としては在宅のシニアと考えております。
現時点では、介護施設向け「頭の健康管理サービス」の付帯サービスという位置付けになっております。ご自宅ではそれぞれの高齢者がご自身のタブレットやスマートフォンを利用して健康記録、あるいは頭の健康ゲームを実施したデータをサーバーで管理し、介護施設のスタッフから電話などでお声掛けをするようなご利用方法になります。高齢者のご家族とも連携した健康見守りもできますし、アクティブシニアに対しては健康管理や介護予防による健康寿命の延伸を図り、要介護認定者には適切な健康管理による重症化防止を目指しています。

③

現在約3,500万人の高齢者がおられますけれども、その多くはアクティブシニアと呼ばれる方々、そして要介護・要支援認定者が全体の18.3%にあたる645万人(2018年度分、2020年7月厚生労働省発表)、アクティブシニアと要介護・要支援認定者の間におられるのが介護リスクの高い「フレイル群」と呼ばれるメザニンシニアになります。
自治体やシルバー人材センター、高齢者団体、NPOなどが、介護予防事業などを行うことで健康寿命の延伸と社会保障費の削減を目指しています。また、医療・介護事業者は、重症化防止の取り組みを行っています。この両方で、「頭の健康@HOME」の在宅利用というのは成立します。
特に感染リスクへの懸念から、一時的に施設に通うことができない高齢者に対し、「頭の健康@HOME」はご自宅での生活機能・認知機能訓練の一助になると思っております。

①

Q.サービス開発について苦労されたことや、やりがいをお聞かせください。

企業が実証フィールドを求めて、いきなり自治体や介護施設にアプローチするのは非常に難しいですね。
ですので、やはりそこは公的プロセス、官公庁の公的な事業に参画しました。公募に応募して正式に採択をされ、世の中にこれは必要な事業だと官公庁からも認められた上で推進しています。
いわば、正攻法の取り組みです。そうした上で、マッチングをしていただくなど、実証フィールドを与えていただいて開発を進めています。

私どもの特徴の1つとしましては、研究開発を行う技術者が現場に入り込んで、直接しっかりとお声を聴くということをしています。お忙しい中でお時間をいただくわけですから、まずお聴きする際に「何かお困りことはありませんか?」と漠然とお尋ねするのではなく、こういう課題感を持っていらっしゃるのではないかという仮説を立てた上で、ヒアリングしていくアプローチをしましたし、また「こんなことで困っている」とお聴きできたなら、それをできるだけ商品に反映して次の機会にお持ちする、ということの繰り返しになります。いわゆるアジャイル開発(作りながらブラシュアップしていく)というような手法になりますけれども、そういった地道な積み重ねで商品を仕上げているということになります。

2017年頃から介護施設様向けのフィールド実証を進めていますが、その時は少し早過ぎたかもしれません。ですが、最近は厚労省がデジタル化・科学的根拠に基づいた介護という指針を提示するようになってきました。そうなると、私どものシステムがお役に立てるだろうと考えています。
ヒアリングや観察に関しては、実際に介護現場で働いておられるプロフェッショナルの方々に、ご利用者様(=高齢者)もそこにおられる中でお時間を割いていただく、またご利用者様(=高齢者)には観察もさせていただく。失礼な話ですよね。まったくの他人がその場に訪れてじっと見るわけですから。
そういう事をなるべく違和感を覚えないように、控えめに短時間で済むようにと苦労しながら進めています。

その結果、やりがいというところでは、実証フィールドとして協力してくださった介護施設様から、本格的なサービスの導入をいただいたり、サービス利用者様の笑顔を拝見できたり、契約を更新してくださったり、「とても手放せないものになっている」というお声を聞くといった事でしょうね。

Q.利用するにはどのような流れになるでしょうか。

「頭の健康管理@HOME」は昨年の6月24日に提供を開始したものですが、個人向けサービスは昨年9月末にて終了しております。
法人向けにつきましは、まずIDを取得して頂きますと高齢者、またはご家族に招待メールが届き、メールに従って高齢者が参加すると毎日ご自身のタブレットやスマホに“お題メール”が届きます。“お題メール”にあるワンタイムURL(その日しか利用できません。)から健康情報の入力や、頭の健康ゲームをする画面が表示される、といった仕組みになっています。

Q.収集データについてはどのような活用を考えていますか。

個人情報にあたりますので、データについては高齢者様自身にも施設様にも同意をいただいた上で収集させていただき、現在はシステムのバージョンアップということに活用することしか考えておりませんが、たくさんデータが集まればもちろんその“ビッグデータ”から引き出せる新たなサービスなどはあると考えています。
収集するデータについては、訓練用ゲームの結果だけでなく、全ての操作ログも収集できますので、そこから何か抽出できるのではないかと考えています。

Q.介護施設の方へ認知していただくためには、今後どのような仕組みが必要になると思われますか。

現在介護医療現場には弊社の複合機あるいはプラズマクラスターイオン発生機、こういったものを多数導入頂いています。また、感染拡大防止対策を支援するという観点から、顔認証+自動検温システムやフェイスシールドといったニューノーマル商品、遠隔対応ソリューション等の新規ソリューションも進めております。今後は「頭の健康管理サービス」はもちろんのこと、こうした個々の介護事業向け商材を群として、シャープがワンストップで提供できるようにしていきたいと考えております。

Q.今後の見通しや注力していきたいポイントを教えてください。

今でもかなり意識していますが、やはり、科学的根拠に基づいた介護に寄与する方向に向かって、施設の方々がご苦労なさらずにそれを実現することに注力していきたいと思っています。
せっかくご協力いただいた施設様や、導入してこれをお使い頂いている方々がこれを使ったがために労力がかかっている、というのであればそれは問題です。意識しなくても科学的な根拠、エビデンスが取れていくようにしていきたい。そのために、なるべくICTを利用する際の障壁を取り払っていけるような取り組みができたら、と考えています。

介護の世界というのは、労務的にもコスト的にもなかなか課題が多いとお聞きしています。その中で、介護スタッフは一生懸命頑張っておられます。そこで何が起こるかというと、スタッフ一人ひとりにノウハウが溜まっていくのですね。
そしてスタッフが辞めると、ノウハウも一緒に失われてしまう。ですので、“介護の平準化”というのが必要だと思っており、そこをサポートできるのが「頭の健康管理サービス」であると考えています。誰がやっても一定の質で、ご苦労なさらずに機能訓練ができる。そして、介護スタッフには、もっと利用者との触れ合いに時間を割いて欲しいと思っています。
高齢者と関わる時にこのサービスがあれば、もっと人と人とが寄り添う、いわゆる人間にしかできないことがやれるのではないかなと思っているので、そういう方向に持って行きたいですね。

シャープ株式会社 

https://corporate.jp.sharp/

頭の健康管理サービス

https://jp.sharp/business/solution/atama-kenko/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

第33回 
株式会社ホビージャパン
第32回 
INHOP株式会社
第31回 
株式会社ベルーナ

1969年創業ホビージャパンの新たなチャレンジ
シニア向け「大人のぬり絵集」

経営管理部 広報宣伝課 課長 岡本恭範 氏
刀剣画報編集部 編集長 笹岡政宏 氏
刀剣画報編集部 井原凛大 氏

1969年にミニカーの輸入・販売からスタートした株式会社ホビージャパン。趣味・嗜好性が高いいわゆるマニアックな書籍を多く出版されていますが、シニア向け「大人のぬり絵集」にスポットを当て、出版の経緯、ご苦労された話、ターゲットへリーチさせるための工夫から今後のアプローチまで、幅広くお話をお伺いしました。

2020年12月取材

ホビージャパン16

Q. 「大人のぬり絵集」というスタート時からシニア層を狙おうとしたキッカケは何かあったのでしょうか?

当社では従来から「刀剣画報」という刀剣に関する雑誌、そしてその前には「歴史探訪」という歴史の雑誌をリリースしていました。歴史の雑誌はメインの読者はご想像の通りシニア層で、特に50歳前後がコアとなります。
このように、弊社の出版物は70代以上も含めそもそもシニア層の読者層が多いという実情があり、この層へ改めてアクションしたという、いわば自然な流れの中でのことだったと思います。

とはいえ当時、社内的には「歴史」をテーマにやっていこうという事自体割と新しいチャレンジでした。
本来は模型関係の商材や出版物が主であったのですが、この辺りのターゲット層も徐々に高齢化し、50歳前後の方々が中心になっていました。つまり、シニアの入口くらいといったところでしょうか。
そんな背景もあってもう一歩先、つまり更に年齢が高い層にもリーチするようなチャレンジを考えていました。

ホビージャパン1

 Q. もう1つ上の層を狙っていくためにどのようなことを考えましたか?

まずは既存の顧客層の特性から考えました。そもそもホビージャパン社が取り扱う商材には、年齢を超えて共有できるオタク的な要素(興味を持つ分野)が含まれることが多くあります。

例えばガンダムであれば「ミリタリー」や「戦争」というキーワードがあがってきますし、一方で「歴史」とか「史実」といった要素を好む層でもあります。
そんな繋がりから「歴史」関連の出版物へと繋がっていったと思います。

ですので見方を変えれば、シニアを狙うというより「趣味を持ちながら歳を取っていく方々」がどうやって暮らして行くかという事に寄り添うという考えが先に立っていたのだと思います。

Q. 実際のところ「大人のぬり絵集」に目を向ける方は、どの世代でしょうか?

これまでお話した層(50~60代)よりは、もう少し上ですね。最初は、葛飾北斎とか趣味性・歴史性の強い絵からスタートしました。ぬり絵としてはちょっと難易度が高いといえます。

ここからもっと簡単に楽しめるもの、緻密なものよりも描く喜びが感じられるものという方向にシフトしていきました。
その結果ターゲットが拡がり、70代以上の方々にもご興味を持っていただけるようになりました。

結果的に、「大人のぬり絵」が当社内で一番高年齢向けのコンテンツになったという次第です。

ホビージャパン7

Q.趣味・嗜好性が強いユーザー層からシニアにまでターゲットを拡げていく試みについては社内では何か議論はありましたか?

社内には従来から「面白そうなものはやってみよう」という意識が根付いていました。新しいことには寛容な社風、興味のあるものに取り組む社風ですね。ですので、新しいチャレンジには、それがシニアターゲットであったとしても肯定的ではありました。

確かに弊社は趣味・嗜好性が高い、いわゆるマニアックな商品が多いのは事実ですが、別にマニアックじゃなくても良いんです。マニアックであることがマストではありません。ニーズがあるものには素直にチャレンジしますし、更に言うならば「ホビージャパン」という社名の通り「好きなコトをやろう」というマインドです。

Q.創業されて半世紀以上(1969年創業)の歴史をお持ちですが、本当に自由な社風なのですね。

確かに歴史は長いですね。しかし、「ホビージャパン」という“入れ物”は変わらないのですが、時代に合わせてその“中身”、つまりリリースする商品は柔軟に変わってきています。

最初はミニカーの輸入・販売から始まった会社なのですが、その後会報誌をリリースし、それが月刊の模型誌になりました。模型誌についても、当初から「ガンダム」を扱っていた訳ではなく、ミニカーや車両模型がコンテンツの中心でした。
1980年代になってミリタリー系の模型になりキャラクター模型やフィギュアを扱うように変化を経てきております。

ホビージャパン3


Q. 「大人のぬり絵」という新しい取り組みでご苦労された点は?

やった事がないので当初は手探り状態でした。リリースしては読者の反応を見るの繰り返し、つまりはトライ&エラーですね。

反応を見るのも苦労しました。若い世代をターゲットにした商材であればネット、特にSNSなどで反応を見る事ができるのですが、基本的にシニアマーケットについては(ターゲットがオフラインであるため)その手段が有効ではりません。
ですので、そこはマーケターの勘に頼らざるを得ません。つまりは”主観的な推察”とでもいうのでしょうか。

シニアの方については、その行動を可視化するのが難しいといえます。あまり家から出ず、我々にとってはその行動がブラインドの状態であることが多いわけです。ですので観察すること自体が困難です。

例えば、本屋に行って店頭をウォッチしたりもするのですが、そこではどんな方が購入してくれているのかから始まります。そして仮に若い方が商品を購入してくださった場合、それはプレゼント需要なのか?移動手段がないシニアに頼まれて代理で買いに来たのか?などを想像します。更には、商品についてどこで情報を得たのか?という点も、勘を働かせる必要があります。この勘を養うためには、結局は経験が重要になると思います。当社で言えば、「何が受けるか?」を考えながら長年に渡り出版物や商品をリリースしてきました。この経験の中で自ずと勘が養われてきたのだと思います。

違いがあるとすれば、これまでは担当者自身が「やりたい」、「作りたい」と考えていたことを実現する「等身大マーケティング」を行っていたのに対し、これからはターゲット(シニア層)の生活様式や行動形態を類推してモノ作りをする「論理マーケティング」へとシフトしていく、それだけのことです。

SNSなどを分析して世にどんな需要があるかを分析することも結構ですが、自分とは違う誰かの需要に気づくためには、自身の勘を最大限に働かせて見えない何かを「狙い撃ちする」ような感覚も必要だと思います。

Q. 商品の存在をターゲットにリーチさせるための工夫などはありますか?

そこが一番の悩みどころですね。シニアの皆さんは、年を追うごとに(我々が生活する)世間からの距離が徐々に遠くなる傾向にあります。ネットはもちろん、従来メディアも必ずしも有効であるとは限りません。
そうなるとやはり工夫すべきは、インストアでのポジションということでしょうか。
書店の棚に並んでいる時の存在感を感じてもらえる、選択肢の中に入れてもらえるようにどうするか…という事になろうかと思います。

ホビージャパン5
 

Q. 今後のラインナップやアプローチで、こんな事を考えているというものがおありでしょうか?

現在の売れ筋ある「花」シリーズについては引き続き力を入れていきたいと考えています。

ホビージャパン4

また現行の「大人のぬり絵」シリーズ全体についてもこれまでかなり精査を繰り返してきて、ある意味完成に近づいてきているので、更に一歩進んだ形にもチャレンジしてみたいと思います。

例えば「ぬり絵+パズル」で「脳トレ」のようなものを作るとか、ぬり絵をベースにそこにもうひとつの要素を付け足して発展させていきたいですね。

株式会社ホビージャパン 

http://hobbyjapan.co.jp/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

第32回 
INHOP株式会社
第31回 
株式会社ベルーナ
第30回 
株式会社C&P

「ホップで希望を創り出す」
熟成ホップで人々をもっと健康に!
注目のキリンホールディングス株式会社の
社内ベンチャー

CEO 金子裕司 氏

ビールが好きな方なら誰しも「ホップ」というものをご存知ではないだろうか。実はホップというものは10世紀以上前からヨーロッパで薬用ハーブとして利用されており、現代ではその力から健康素材としての活用もされている。

今回はキリンホールディングス株式会社(以下キリン)の社内ベンチャーとして、「熟成ホップ」を活用した健康サポート製品を開発・販売しているINHOP株式会社(以下INHOP)のCEO,金子裕司氏に「いつまでもブレない自分で人生を送りたい」と願うシニアの方々向けの「ブレメンテ」という商品についてお話しを伺った。

2021年 1月取材

金子さん

Q 熟成ホップは認知機能改善効果があるという観点から商品の開発を行ったとキリンの記事で拝見しましたが(※)、どのように発見されたのか、開発に至る背景等お聞かせください。

ビールに不可欠なホップですが、ビールに使われ始める前より、健康機能がある植物であることが歴史的に知られています。ホップは伝統的なハーブでもあるのです。しかし、ホップの苦味は食品としてはビール以外の転用が難しく、様々な食品に展開できるように、どうにか健康機能を維持したまま苦味のみを抑えられないか、と研究を重ねて出来上がったのが「熟成ホップ」です。熟成(酸化)したホップは苦味が穏やかになる、という醸造学の知見を応用して開発しました。

(※)参考URL https://www.kirin.co.jp/company/rd/result/closeup/09.html

塾生ホップエキス

熟成ホップエキス

Q シニアマーケットに対する考え方、参入される際にターゲティングや売り出し方など考慮されたポイントがあればお聞かせください。

まずは弊社の企業理念の話からになりますが、弊社は「ホップで希望を創りだす」という理念を掲げています。古くから生活を支えてきたハーブであるホップに、現代サイエンスを掛け合わせることで新しい可能性を創り出せるのではないか。そして未来に向かう子供たちの「希望」や、日本を担うビジネスパーソンの「希望」や、「人生100年時代を楽しく生きたい」という大人の「希望」に繋げていきたいと考えています。

その中で「人生100年時代」に対して、年齢を重ねても自分らしさを失いたくない、いつまでも生き生きと仕事をしたい、等のニーズが顕在化してきています。そこに対して、我々もお役に立てるのではないかと考え、「熟成ホップ」をシニア向けに展開していこうと決めました。マーケットが広がっているからという面もあるのですが、マーケットがあるというよりはお客様のお悩みに対する私たちの回答を提示していきたいという形での展開です。

弊社からリリースした最初の商品は、受験生をサポートするために開発した「受験力」という製品で、その次の製品が「いつまでもブレない自分で人生を送りたい」と願うシニアの方々向け「ブレメンテ」になります。

Q 現在シニアマーケティングの実施に向けて声を聴くということをしていると思いますが、いまどのようなリアクションが集まっていますか?

まだ集まっているお声は少ないですが、「飲み始めてしばらくしたら、毎日が軽やかになった気がする。」、「長時間の打ち合わせが続いた日など、家に帰ってからブレメンテを飲んで、次の日に影響を残さないようにしています。おかげでスッキリした毎日を送れています。」等の声をいただいています。

おじちゃんとブレメンテ

ブレメンテ 飲用シーンイメージ

Q ブレメンテを販売するにあたっての工夫点はありますか?

お客様の反応を見ながらコミュニケーションや商品をブラッシュアップしていこうと考えました。それを実現するために「ブレメンテ」の場合は自社サイトではなく、「makuake」というクラウドファンディングでの販売から開始しました。商品に対してどのような人から興味を持たれるのか、どのような声が集まるのかを検証し、その後自社サイトでの販売を開始しました。

makuake

クラウドファンディング「makuake」の商品ページ

Q クラウドファンディングを利用されたという事は非常に興味深いのですが、どんな目的で資金調達をされたのでしょうか?

資金調達の目的ではありません。クラウドファンディングでよくある「商品製造前に販売し資金を集める」ではなく、商品を製造した上の販売です。新商品に対する感度が高い方が集まるクラウドファンドというプラットフォームを利用することで、この商品にどのような人が興味を持つのか、どのような声が集まるのかを検証するのと同時に、商品認知を図ることが目的でした。

実際に利用してみて、コミュニケーションについては改善の余地があることがわかったので、自社サイトでの販売では改良しています。

Q コロナ禍でこれまでの取り組みが活きた事例はございますか?

設立が2019年で、商品の販売開始が2020年7月なので、コロナの影響を比較評価できる状況にはありません。正にコロナ禍での販売開始であるため、活きた事例があるというよりはゼロベースで試行錯誤しながらの活動でした。

Q それでは、コロナ禍で売り出すにあたってなにか変更したことなどはありましたか?

元々実店舗での販売と自社サイトを組み合わせた販売を計画していましたが、自社サイト主体の販売戦略に切り替えました。

ブレメンテ

ブレメンテ 商品イメージ

Q ネットでのコミュニケーション、ネットを通じたシニアマーケットとの親和性はどうお感じでしょうか?

まだ実績がないので大きなことは言えないですが、自分たちがアプローチしたいターゲット次第では、ネット主体で取り組むことに問題はないと考えています。シニアの方のネット利用率、スマホ保有率も年々増加していますし、実際にクラウドファンディングや自社サイトを介してシニアの方も繋がっています。私たちは、アクティブシニアは勿論、50代ビジネスマンなどネットとの繋がりの多い方々へのリーチを積極的に進めていき、お客様の声に寄り添ったビジネスを展開していければと思っています。

Q 今後のシニアに対するお取り組み予定は何かありますか?

まずはブレメンテの販売を通じて、お客様に寄り添いながら、製品をブラッシュアップすることを考えております。規模が小さくてもお悩みを持ったお客様方へ深くアプローチをしていきたいです。

また、「ブレメンテ」のような商品単体ではなく、運動や睡眠など他の生活習慣とも連動した無理なく継続いただける仕組みについても考えていこうと思っております。

INHOP株式会社 

https://inhop.co.jp/

自社通販サイト 

https://inhop.co.jp/products/


 

 

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第31回 
株式会社ベルーナ
第30回 
株式会社C&P
第29回 
国際メディカルタイチ協会

多様な商品ときめ細やかなラインナップで
顧客のニーズに呼応
我が国のシニアマーケティングの先駆者でもある
通販事業のリーディングカンパニー

企画本部 第1企画室 室長 田村大介 氏
マーケティング本部 マーケティング室 室長代理 高橋頼将 氏

創業地である埼玉県上尾市に本社を置く株式会社ベルーナ(以下「ベルーナ」)は、主婦層をメインターゲットとして衣料品や生活雑貨、家具類から健康食品も含め幅広いジャンルで通信販売事業を展開するリーディングカンパニーですが、視点を変えれば国内でいち早くシニアマーケティングに着手し成功を収めた企業でもあります。
今回はこのベルーナの本社を訪問し、起業時から続く総合通販事業の様々な取り組みについて、企画本部・第1企画室・室長の田村大介氏とマーケティング本部・マーケティング室・室長代理の高橋頼将氏にお話をお伺いしました。

2019年10月取材

TOP

Q. まずは現在の会員様のデモグラフィからお伺いできますでしょうか。

まず当社の商品をご利用いただいているお客様の属性についてご紹介したいと思います。

弊社のお客様は8割が女性で占められており、その中でも60代の方々がボリュームゾーンです。
(会員登録をしてくださっている)お客様は、日本の60代女性の約27%に及ぶことがわかっています。
更に昨今は70代の会員様が増加傾向にあり、60代と拮抗してきています。
それに対して20代から40代の世代はまだまだ少ないので、このゾーンを伸長させていくことも課題の一つですね。

会員構成比(男女別)
会員構成比(男女別)
会員構成比(人口ピラミッドとの比較・女性のみ・単位:1,000人) ※総務省統計局データを元にベルーナにて作成
会員構成比(人口ピラミッドとの比較・女性のみ・単位:1,000人)
※総務省統計局データを元にベルーナにて作成
 

Q. 地域別の特徴はありますでしょうか?

統計局から発行されている人口データと比較して、弊社会員の地域分布の構成比には、それほど大きな違いはないと思います。
しかし、あえて特徴を挙げるとするならば、北海道・東北地方では会員の比率が高いと言えますね。
これらの地域には、お住まいの方の生活圏にあまりお店が多くなく、いわゆる「買い物難民」の方も多く存在していると言えるでしょう。その結果、通信販売をご利用いただいているのではないかと分析しています。

会員構成比(地域別)
会員構成比(地域別)
 

Q. ベルーナさんには多様なカタログがありますが、それぞれの媒体のブランド展開についてお聞かせください。

まず、ファッションブランドについてご説明申し上げますが、ミセス系カタログである「BELLUNA(ベルーナ)」をはじめ、「ルフラン」、「Ranan(ラナン)」、「GeeRA(ジーラ)」といった年代別のカタログをご用意しています。また「BELLUNA」と「Ranan」は店舗も展開しています。

年代別にブランドを整理すると、20~40代の「GeeRA」、30~50代の「Ranan」、40〜60代の「BELLUNA」、50〜70代の「ルフラン」をそれぞれ割り当てています。
しかし、これはあくまで現状のブランドラインナップに過ぎず、ことファッションに関しては、ブランドを年齢に固定するような一筋縄の施策ではニーズに適合しきれません。
ブランドもお客様とともに年齢を重ねていきますので、ブランドそのものがお客様のニーズに合わせて変わっていく必要もあります。「新陳代謝に対応したブランディング」とも表現できますね。

年代別にターゲティングされているベルーナ内の各種ブランド(ベルーナオフィシャルサイトより)
年代別にターゲティングされているベルーナ内の各種ブランド(ベルーナオフィシャルサイトより)

さらに、各世代において(そのブランドでは呼応しきれない)新しいニーズが発生することもあります。
その場合は、ニーズにフィットした新ブランドを臨機応変に立ち上げ、育成していくような展開も必要でしょう。例えば、弊社が今年6月にローンチした若年層向けのオンラインモール「RyuRyumall」は、若年層のオンライン購入需要の高まりを背景にスタートした新事業です。

若年層向けブランド「RyuRyumall」のトップページ
若年層向けブランド「RyuRyumall」のトップページ

Q. 時代的にECが主流になる中、シニアマーケットにおけるカタログ通販の強みとは何ですか?

インターネット購入の特徴として顧客単価が低いことが挙げられます。ネット販売では競合も多く、品質や価格を比較してより安いものを購入されたり、あらかじめ決まっている欲しい商品だけ購入されたりするケースも多いため、単価が伸びにくい傾向があります。いわゆる「比較購買」「目的買い」ですね。

対してカタログは、家の中でお客様がパラパラとページをめくってじっくり見るという、「1対1の時間」をプロデュースできます。付箋を付けて商品を見比べたり、色んな商品の購入を悩んだりするというような有機的な時間をご提供できることがカタログ販売の強みであり、ネット販売との差別化ポイントかと思います。

Q. 昨今は御社でもインターネット通販の占める割合が大きくなっていると思いますが、そのことによる変化はありますか?

インターネット時代以前の通販は、お客様の獲得手段として新聞の折り込みチラシが主流でした。
新聞の購読者も若く、40代をターゲットの中心と捉えていた時代です。
あれから20年が経ち、今では折り込みチラシを中心にご利用いただいているお客様は60代にシフトしています。このことがまさに「お客様とともにブランドが年齢を重ねてきた」という感覚にあたります。

一方、現在40代のお客様は、嗜好も接触媒体も以前とは大きく変化しました。
ご提供するブランドや商品はもちろん、活用するメディアも世代別に考慮する必要が出てきましたね。

Q. 折り込みチラシの話が上がりましたが、昨今の広告媒体選定についてもう少し具体的に教えてください。

ここ数年で新規獲得数に最も繋がっているのはインターネット広告で、その次が折り込みチラシです。
広告活動全体の中でもこの2つの媒体が占める割合が最も大きいのですが、その他としては新聞への広告掲載も行っていますし、スーパーやドラッグストアに設置してあるフリーペーパーへも出稿しています。
またテレビCMも行っていますが、こちらはイメージCMの他、インフォマーシャルなども利用しています。
いずれにせよ、生活者にダイレクトにリーチ可能なメディアを中心にプランニングしているのが特徴的だと思います。

Q. インターネット広告とシニアマーケティングの親和性について、どのような所感をお持ちですか?

現時点では、インターネット広告はあくまで若年層をターゲットにしているのが実情です。
65歳以上の層におけるネット販売購入利用は1割前後で、総合通販事業全体でもインターネットは2割程度です。ただし、若年層向けの「GeeRA」を切り離して考えると約半数のお客様にインターネットからご注文いただいています。また「RyuRyumall」を切り離してから、ベルーナの自社ECサイトでも少しずつですが変化の波は感じています。自社ECサイトの利用者は40~50代が中心で、一般的なイメージよりは高い年齢層と言えるでしょう。その利用者数は伸長傾向にあり、お客様に併せてユーザビリティを高めていくことで、今後さらに伸びていくと予想しています。

Q. シニア層においては多くの既存顧客をお持ちですが、新規のお客様はいらっしゃいますか?

シニア層の会員数増加に伴い、継続メディアからの新規顧客率は年々減速していますが、それでも新聞広告や折り込みチラシを実施すると、一定数の新規のお客様がいらっしゃいます。
また、すでにベルーナのご利用経験があり、しばらくの間購入されていなかったという、いわゆる「休眠顧客」の方々が再び購入してくださるケースもあります。

ご利用いただくきっかけは「たまたま」というお客様が意外と多いです。
例えば、これまではご自身で近隣のお店に買いに出かけていた方が、「足が悪くなった」などの事情で通販を利用することになり、ベルーナというブランドの認知に加えて、偶然良い商品があったから利用したというケース。

お客様の状況やニーズはタイミングにより変化しますので、常に様々なニーズを想定して準備し、必要なときに思い出される存在でありたいですね。

Q. さきほど「買い物難民」という話題がありましたが、居住地域によらずお店に行くことが難しくなって通販を利用しているという顧客層は多くいらっしゃいますか?

全体に対する比率は不明ですが、一定数はいらっしゃいます。
ただ、完全に動けなくなった方よりも「以前と比べて出かけることが減ってきた」という方々が中心ですね。
弊社の商品は、シニア向けであっても「オシャレを楽しみたい」というニーズに応えられるよう、ファッション性やトレンド感のあるラインナップを意識しています。ただし、最先端で奇抜なものではなく、ターゲットに合わせた程よい加減が重要ではないかと思います。

カタログの実物を使ってわかりやすく説明くださる田村氏と高橋氏
カタログの実物を使ってわかりやすく説明くださる田村氏と高橋氏

Q. 御社ではシニアマーケティングを行うにあたって、シニアの属性をどのように分類していらっしゃいますか?

弊社では、シニア内をさらにカテゴライズするという考え方は採用しておりません。社内のミーティングなどで「アクティブシニア」という言葉を使うことはありますが、本来、通販事業は、どなたにでも商品をお届けできることが特徴ですので、あえてアクティブシニアに特化する必要はありません。そのため商品企画も多岐に渡っており、あらゆる会員の皆様にご利用いただけることを目指しています。

もちろんカタログごとの顧客のペルソナは設定していますが、顧客の身体的な自由度や快活度などを指標にした「アクティブシニア向け」、「非アクティブシニア向け」という分類はしていません。
まずは徹底的に情報収集を行って商品を企画・開発し、売れればニーズがあったと判断してペルソナに反映していくイメージです。商品や結果を見ながらブランドやセグメント属性を固めていく感覚ですね。

Q.売れ行きを見守る中で意外な売れ筋や印象的な反応はありましたか?

最近で言えば、「アンパンマンのぬいぐるみ」を非常に多くご購入いただけたことですかね(笑)。
当初、社内ではこの商品がそれほど売れるとは予想していませんでしたが、実際は「お孫さんへのプレゼント」という需要で予想外に売れました。
やはりシニアのお客様の財布が緩むのはお孫さんの存在であると再確認した出来事でしたね。

また、前述したとおり、お客様の男女比は2:8で女性が多いのですが、実は男性向けの商品も結構売れています。それも日常ユースの商品が中心です。
これは女性(奥さん)が男性(旦那さん)のために購入する、代理購買にあたります。

Q. シニアの顧客へ商品を提供するにあたって心がけていることがあれば教えてください。

シニア層は商品を見る目が肥えていますので、ファッションと言ってもえど単純に「可愛い」「オシャレ」というだけの商品は選んでいただけません。例えばミセスファッションでは、ゆったりとしたアームホールや、胸元が開き過ぎないネックラインなど、シニアならではというお悩みを上手にカバーしてくれるデザインが好まれます。気を遣わず楽に着られて、疲れないアイテムは一層選ばれやすいですね。

また、肌への刺激が少ない天然素材をはじめ、ピーリング対策生地や汗ジミカット機能など、素材の扱いやすさや機能を重視される方も多いです。さらに、サイズについては5Lまで揃えることを基本として、多いものでは10Lくらいまで扱うなど、巨大な物流倉庫を持つ通販だからこそ、店舗ではフォローしきれないような豊富なラインナップを実現できます。

バリエーションの豊富さに圧倒的な強みを持つベルーナの通販事業
バリエーションの豊富さに圧倒的な強みを持つベルーナの通販事業

Q. 今後目指していく事業展開についてお考えをお聞かせください。

大きくは3つあります。
まず1つ目は、まだまだ開拓・拡大の余地のある60~70代向けのラインナップ強化と新規獲得に改めて取り組んでいきたいと考えています。そのためのメディアプランニングとして、テレビやラジオなどを積極的に活用し、できる限り多くのお客様と接触できるよう手段を拡げる準備をしています。
昨今はとかくデジタルマーケティングに着目されがちで、40代以下はスマートフォンの使用によりテレビを見る機会が減っていますが、実は60代以上ではテレビの視聴量は減っていないのです。
事実、ベルーナグループでは食品、化粧品、健康食品などを(テレビの)インフォマーシャルという形でプロモーションしており、お客様からの反応も良いと感じています。

インフォマーシャル01_おせち
インフォマーシャル02_ワイン
インフォマーシャル03_日本酒
インフォマーシャルのイメージ

2つ目は、「ベルーナらしさ」の復活です。
これまで、シニア層をターゲットとした市場において、情報が少ないながらも様々な分析を行い、商品展開にフィードバックして参りました。
そうしてデータに基づく開発を続けてきた結果、次第に弊社の商品ラインナップが一般市場と変わらなくなってきてしまった面があり、弊社ならではの価値提供について再考しています。データを活用しながらも、よりリアルなニーズに呼応できるような商品企画が必要ですね。

例えば、弊社のビジネスの元となった「頒布会型ビジネスモデル」の復活が挙げられます。
頒布会というのは、会員の皆さんが毎月一定額をお支払いいただくことで月々商品をお届けするというシステムです。現在の「サブスク」に近いですね。
お客様の中に「コレクションを好む」という趣向があることから生まれた仕組みですが、ただ購入するだけでなく「集める楽しさ」「選ぶ楽しさ」という付加価値を提供できるビジネスモデルです。

3点目は、通信販売であることの優位性に着目したオリジナル商品展開です。
例えば、加齢による軽い尿漏れに悩む男性は、これを解決してくれる商品を取り扱う店舗が少なかったり、商品があっても恥ずかしさから店舗で購入できなかったりする場合があります。しかし、店員さんとの対面を必要としない通信販売であれば、購入しやすいかもしれません。これからも時流に合わせて新しい挑戦をし続け、「ベルーナだけ」「今だけ」しか買えないような価値ある商品を提供できるよう努めてまいります。

Q. 最後に、今後のシニアマーケットの展望について、どのように考えておられますか。

高齢化真っ只中にある我が国においては、加齢を原因とする悩みを解消する商品の需要は高まっていきます。

お悩みを年齢や現象によってきめ細かく捉え、応えられるような品揃えを多数ご用意して、それをお求めやすい価格でご提供する。それこそが弊社の使命であり、またビジネスチャンスであるとも考えています。今後も、客思考・客密着の商品開発でお客様の生活と幸せの向上に貢献できるよう取り組んでまいります。

笑いも交え丁寧にインタビューに応じてくださった田村氏と高橋氏
笑いも交え丁寧にインタビューに応じてくださった田村氏と高橋氏

株式会社ベルーナ

https://www.belluna.co.jp/

ベルーナ 通販サイト 

https://belluna.jp/

RyuRyumall 通販サイト 

https://ryuryumall.jp/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

第30回 
株式会社C&P
第29回 
国際メディカルタイチ協会
第28回 
株式会社ファンケル

シニア世代の「休眠美容師」を
積極的に採用し実績を伸ばす
メンテナンス専門の美容室「チョキペタ」

株式会社C&P 代表取締役社長 置塩 圭太氏

カット&カラー専門店「ChokiPeta(チョキペタ)」は関東と関西で56店舗(2019年7月現在)を展開する美容室です。主にメンテナンスカット(大きくヘアデザインを変えるのではなく、今のヘアスタイルをキレイに維持するために伸びた部分だけ1~2cm程カットすること)や白髪染めの需要に特化しているのがこのチョキペタですが、顧客層のみならず従業員である美容師にもシニア世代が多いことが特徴的です。

今回は、チョキペタを展開する株式会社C&Pの代表取締役社長・置塩圭太氏に事業の概要からシニア世代とのかかわりについてまで、お話をお伺いしました。

2019年9月取材

Top

Q. チョキペタという美容室の始まりと、この業態を始めるに至った経緯などを教えてください。

2011年7月、系列会社(株式会社C&Pも所属するアルテグループのグループ企業)である株式会社スタイルデザイナーの一事業として始めました。
当時は、いわゆる1,000円カットなどのカット専門店やカラー専門店が出店し始めていた頃でした。しかし、カットとカラー両方をやっている専門店というものはまだ存在しない時代でもありました。

ですから「ほんの少し髪を切り、そのついでに根元だけ少し染めたい」という人は、フルメニューのあるデザインサロンへ行かねばならない。仮にリーズナブルな価格で済まそうと思ったら「カット専門店」と「カラー専門店」の二つに行かなければなりませんでした。

そこで、白髪染めのカラーリングに中心を置きつつ、メンテナンスカットも同一店舗でできるような「ワンストップサービス」を提供しようと思い立ったのが、事業を開始したきっかけとなります。

ダイエー成増店
シンプルで落ち着きがあるデザインが特徴のチョキペタ店内(写真は東京・ダイエー成増店)

Q. 二つのサービスを一つにして提供しようという着想が始まりということですね。この二つを組み合わせようという着想は、どのようにして生まれたのでしょうか。

それは実はたまたまのことなのです。当時、創業者の吉原(アルテグループの創業者であり、現・株式会社アルテサロンホールディングスの取締役会長の吉原直樹氏)が、自社のFC加盟店の隣にカラー専門店が出店しているのを見つけました。その加盟店はフルメニューを提供しているサロンでしたが、隣のカラーだけのお店も十分繁盛しており、言わば共存関係にありました。

つまり、「隣にカラーもカットもできるサロンがあってもカラー専門店のビジネスが成り立つのならば、メンテナンスカットとカラーだけを組み合わせたリーズナブルなサロンも成立するのではないか?」と発想したのです。

Q. ブランド名の「チョキペタ」が大変ユニークでキャッチーなのですが、カットの「チョキ」と白髪染めの「ペタ」が由来でしょうか。

これも創業者の吉原のアイデアですね。「チョキチョキしてペタペタする」、そんな単純なイメージ想起に由来しています。チョキペタが株式会社C&Pとして事業を独立したのは2019年1月ですが、ビジネスモデル自体はスタイルデザイナーの一事業部として店舗を出した8年前に開始しており、当時からこの店名で展開しております。

Q. 白髪染めを中心においた事業展開というお言葉がありました。顧客としてのターゲットはシニア世代でしょうか。

そうですね。創業当時から、白髪染めにフォーカスしており、ヘアデザインを変えず維持したい、という方をターゲットと考えています。かつ、あくまでもリーズナブルな価格で、短時間でサービスを提供することに特化しています。このサービス形態がシニア世代の方のニーズにマッチしていると思います。

白髪が出て、それを染めている世代の方々の多くは、ご自分の髪形がある程度決まっている人が多いですよね。ご自身が持つ理想のイメージやスタイルは変わらない。芸能人で言えば、和田アキ子さんなどを想像していただければわかりやすいかと思います。だから、「ヘアカタログを見ながらデザインを頻繁に変える」ようなお客様はあまりいらっしゃいません。毎月毛先を揃えたり少しだけ根元染めをしたりするなど、いつもきれいな状態にして若々しく保ちたいというご注文が大半を占めます。

他の理美容室とは一線を画すメンテナンスサロン・チョキペタの6つの特徴
他の理美容室とは一線を画すメンテナンスサロン・チョキペタの6つの特徴

Q. そんなシニアの顧客層に対応するための独自の店舗運営をしているとお聞きしていますが、お聞かせ願えますか。

まずは、従業員の年齢層が高いということですね。現在、美容師の平均年齢は28~29歳くらいなのですが、シニア世代のお客様というのはこういう若い美容師が中心の美容室には入りづらく感じることがあるのです。いわゆるジェネレーションギャップというものです。

ですので、シニア世代の皆様に気軽にお越しいただき心地よく過ごしていただける美容室を展開するためには、働く美容師も同世代であることが理想です。
そういった経緯から、チョキペタでは「休眠美容師」を中心とした比較的年齢の高い美容師を採用しています。従業員の年齢層としては40代が最も多く、最高齢者についてはつい先日記録を更新したのですが69歳男性という方にも働いてもらっています。

そういう意味でいうと「シニアの美容師が働きやすい職場環境を作る」というのも、私たちの重要な使命です。

Q. 「休眠美容師」という言葉を初めて聞きました。どのような背景で休眠美容師を採用しておられるのでしょうか。

まず大前提として新卒の美容師が採用しづらいという求人環境があります。大きなチェーンのサロンは求人を専門におこなう部隊が新卒美容師の採用に動くことができますが、小さな美容室ではそうはいきません。

一方で、美容師という仕事は国家資格が必要です。その国家資格を保有した貴重な働き手が、結婚や出産、その他の事情を経て現在では仕事をしていない方が80万人ほどいます。このような方々を「休眠美容師」と呼んでいます。

もちろん、しばらく現場を離れていた休眠美容師が職場に復帰するのは簡単なことではありません。技術もトレンドも現役だった頃とは大きく変わっています。しかし、メンテナンスカットと白髪染めという限定したサービスであれば対応が可能です。
そんな美容師の負担を軽減するため、タッチパネル式の受付機と券売機、そしてオートシャンプーなども取り入れ、業務をスリム化・自動化という工夫をしています。

チョキペタの「店内ロボット化の推進」を象徴する存在であるオートシャンプーと券売機
チョキペタの「店内ロボット化の推進」を象徴する存在であるオートシャンプーと券売機

ここ数年で、やっとこの業界内でも産休の取得やパート・アルバイトの採用、そして短時間勤務というのが少しずつ受け入れられるようになってきましたが、10年ほど前まではフルタイムで働くことが当然のことという状況でした。

その中で当社は、創業当初から週に数回程度の出勤を希望する人や、パートで働きたい、扶養内で働きたいという要望を持つ人を積極的に採用してきました。これは画期的なことだったと思います。

今後も当社は、こういった休眠美容師も積極的に採用し働いてもらうと共に、その中の一部の方を正社員として迎え入れるなど、美容師としてのキャリアの選択肢を提供していきます。そして、美容師の皆さんそれぞれに自身の仕事に誇りをもちつつ、そして永く仕事を続けてもらいたいと考えています。

Q. 休眠美容師を職場に迎えるのは簡単なことではないのでしょうか?

トータルサービスを提供するようなサロンが休眠美容師を雇うのは難しいと思います。美容の世界においては、技術やトレンドは常に進化し変化しています。
例えばヘアデザインには流行がありますし、カラーも複雑になってきています。また縮毛矯正(ストレートパーマ)や特殊なパーマなど技術面も常に変化しています。そのために、現場から長い間離れていた休眠美容師にとっては、復帰したくても二の足を踏んでしまうのが現実です。

ところが、白髪染めの技法はほとんど変わっていないのです。チョキペタならメニューはスリム化してカットもメンテナンスだけ、カラーも白髪染めだけというのがサービスの中心です。持っている技術をそのまま生かしつつ活躍していただくことができます。

写真は約40年のブランクを経て現場復帰したチョキペタ白根店の浦田なお美さん (チョキペタが実施するカット講習にて)
写真は約40年のブランクを経て現場復帰したチョキペタ白根店の浦田なお美さん
(チョキペタが実施するカット講習にて)

Q. 顧客としても求人の対象としてもシニア世代という業態を通じて得た「気づき」があればお聞かせください。

まず、シニアの従業員、すなわち休眠美容師の採用について言えば、オペレーションや教育の面がしっかりしていないと成立しないということです。事業の展開と並行して、内部のシステム構築や改善にも常に着手しています。

次に、シニアのお客様層について感じていることは、そのリピーターの多さです。髪は1カ月で1センチほど伸びます。ですので、フルサービスのサロンの価格で定期的にカラーをメンテナンスすればその経済的負担は決して小さくはありません。結果として白髪染めは2~3カ月に一度の割合になってしまいます。

その点、チョキペタであればリーズナブルな価格で白髪染めを提供していますので、1カ月に一度通っていただけます。年間のコストで比較してみると、チョキペタで毎月ちょっとずつメンテナンスすることと、フルサービスのサロンで数カ月おきに染めることとでは大差はありません。そのようなメリットにお気づきのお客様が、繰り返しでご利用くださっていると思います。

Q. チョキペタの店舗展開は、立地面においても特徴的ですね。

はい。チョキペタは通常の美容室のような予約の必要がなく、行きたいときに普段着で気軽に立ち寄り、白髪染めやメンテナンスカットをしていただけることが特徴のひとつです。ですので、スーパーマーケットやショッピングセンターの中など、「お買い物のついでに髪をメンテナンス」という導線が見込める場所に意識的に出店しています。

更に、ショッピングセンターやモール内の店舗は、生鮮食品を並べている場所の近くなどに積極的に出店しています。「気取らない身近な美容室」であり続けたいというのがチョキペタの願いです。

ショッピングセンターの中でも、意識的に買い物導線上に店舗を構えるチョキペタ(写真は埼玉・ヤオコー南桜井店)
ショッピングセンターの中でも、意識的に買い物導線上に店舗を構えるチョキペタ (写真は埼玉・ヤオコー南桜井店)

店舗によっては行列ができていることもありますが、順番待ちのための券が発券される機械が導入されています。自分の順番を確認して先に買い物を済ませ、いい頃合いに店舗に戻ってカットすることができます。また、ご近所にお住まいならば順番を確認した上で、一旦自宅に戻ってから再度ご来店いただく方もいらっしゃいます。

Q. では、現在の事業活動の中で課題と考えていることはありますか?

店舗数を増やすことも大事ですし、同時に重要視しているのは中身の充実です。新規出店を行うためには、店舗の運営を担う管理職の人材が必要になりますが、その候補は豊富にいるわけではありません。従って新規出店に当たっては、現場スタッフの中から新規店舗の中心的存在となって運営を行えるような人材を見出し、そして育成することが課題になります。

そのためには教育が重要です。教育に力を入れて人材育成を促進した上で店舗数を増やしていく、その両輪の足並みがそろっている必要があります。

Q. 課題と考えておられる人材育成は、どのように取り組んでおられますか。

新規採用の美容師の方への教育研修のあり方については様々な工夫をしています。休眠美容師は現場から離れていた期間が長く、高齢の方もいらっしゃいます。ですので、現場での勘を取り戻す、もしくは各種機器の操作方法を理解するまでの時間には差異があります。

例えば、機器類の使用法などをマスターするための導入研修は、以前は一人に対して3時間かかっていました。そこでテキストや口頭で伝えるのみでなく、写真や動画を活用したオンデマンド教材を社員向けに提供するようにしました。これなら繰り返し見ることで復習も、反復学習も可能です。これらの動画は、解説やテロップを入れたりして社員が作成しています。

また、各店舗で優れた技術などがあれば、その動画を作成して横展開するという取り組みも行っています。このように技術教育コンテンツは本部のみで作成するだけでなく、現場からも積極的に提出してもらっています。このことによって現場スタッフのモチベーションが高まりますし、自分の職場やチョキペタをよくしたいというマインド醸成にも繋がっているようです。

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チョキペタでは教育研修の一環として動画を活用したオンデマンド教材の開発にチカラを入れている (写真は「オートシャンプー使用マニュアル」(左)と「トラブル対応マニュアル」(右)の動画の一部)

さらに、店長やエリアマネージャーのような管理職も外部から採用するのではなく、現場スタッフからキャリアアップする方式で登用するようにしています。ちゃんと現場経験のあるスタッフが管理職になって、今度はスタッフとともに現場を良くしていこうとする気運づくりを大切にしたいからです。結果として60歳を過ぎた方が3店舗の管理を担当する事例もあります。

本部の人間が常に現場に出て店舗をケアしていては、いつまで経っても自主性のある店舗運営に繋がりません。現場で起こる問題は、あくまで現場にいる管理職が解決できるような組織作りができるようにすべきですし、そういう組織でないと人材も伸びないと考えています。

一方で本部スタッフはエリアマネージャークラスとミーティングを通じて管理者人材の育成を行うと共に、店舗管理者を集めたミーティングも積極的に実施して積極的な意思疎通も図っています。

Q. 求人はどのように行ってますか?

主に求人サイトや求人誌を利用しています。しかしながら、以前は休眠美容師層にチョキペタが認知されていない状況でした。

そこで知名度を上げるために、昨年(2018年)、テレビCMを打ったことがあります。CM素材は求人の要素も含まれていますが、あくまでお客様向けの内容です。またチョキペタのPRとしてテレビ番組にも出演しています。その際、若手営業社員のほかに60歳代の従業員が出演し、シニア世代の方が実際に働いている姿を視覚的に訴求しました。これらの施策の効果もあってか求人への応募数はこの半年で倍増しています。

Q. 職場環境づくりにおいても様々の工夫をなさっているとお聞きしました。

従業員の多くは元休眠美容師であって、小さいお子さんや高齢の親御さんがご自宅におられるような環境です。そのため、シフト調整を細やかに行い、週1回の方もおられますし、極端な例では月1回もいます。それでもチョキペタで働きたいと思ってくださるのですから会社としてはこの思いを大切にしたい。
ですから各スタッフの将来的に希望する勤務形態なども相談しつつ、それぞれの従業員の生活パターンに合わせてシフトを組むように心がけています。

また、チョキペタは「ホワイトカラー宣言」をしました。これは美容室の業界では先駆的と思います。従業員には有給休暇を積極的に取得してもらっています。働く人のキモチを第一に考えて、美容業界を変えていきたいと考えています。

Q. 今後、FC展開などは検討されていませんか?

フランチャイズ経営は今のところは考えていません。理由としては、私どもは企業としてまだFC展開の域には達していないと考えているからです。
前述いたしましたが、まずは足元の直営店の経営と技術教育をしっかり固めたいと考えております。現在、若年層の人口が減少していく流れの中で、美容業界全体は完全なるオーバーストア状態(店舗が過剰な状態)にあります。

理美容市場の市場規模はここ数年微減傾向にある(矢野経済研究所調査データより)
理美容市場の市場規模はここ数年微減傾向にある(矢野経済研究所調査データより)

一方で「シニアに特化した美容」という業態の存在について世の中の多くの人が気づいていない気がします。少子高齢社会を迎えた我が国において、私たちは重要な役割を担っているはずです。従ってこの業態がもっと広がっていくべきですし、実際に伸長していくことでしょう。

理美容市場が伸び悩む一方で、創業以降確実に業績を伸ばすチョキペタ (2019年分については計画値)
理美容市場が伸び悩む一方で、創業以降確実に業績を伸ばすチョキペタ
(2019年分については計画値)

そのためにも、当社はフロントランナーとして開拓者の役割を担い更に直営店舗を増やして、世の中から認知を得ていくことが使命だと思います。そして、その後、私たちに追随する人たちもどんどん出てきて欲しいと思います。

Q. 最後に、今後の活動についてお考えをお聞かせください。

美容業界内においては、まだ注目を集めるところまで至っていないこの業態ではありますが、前述したようにショッピングセンターやモールからはチョキペタの取り組みに親和性を感じて頂いていますし、集客力の相乗効果なども期待されています。今後は更に他業種との協業も検討して、更なる新しい取り組みへ挑戦していきます。

また、高齢者の方はとかく外出する機会が減り家に籠りがちです。月に一回、リーズナブルな価格できれいにしてもらえる美容室に通うことでシニア世代の外出を促せば、同世代の方や店の人と交流を持つこともできるようになります。チョキペタにシニア世代が集まってきていただくことで、シニア世代の健康維持にも寄与できるのではないか。そうすれば、チョキペタ流の社会貢献になると考えています。

「人生をいつまでも美しくありたいと考えている人たちには、ぜひチョキペタにお越しいただきたい」そんな思いで、今後も事業に取り組んで参ります。


カット&カラー チョキペタ ChokiPeta ホームページ

https://www.chokipeta.com/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

第29回 
国際メディカルタイチ協会
第28回 
株式会社ファンケル
第27回 
アサヒシューズ株式会社

人生100年時代へ新しい提案。
太極拳をベースにプログラムされた
予防医療メソッド「メディカルタイチ」

一般社団法人 国際メディカルタイチ協会 理事
株式会社アスリートフードマイスター 取締役
フードディスカバリー株式会社 スポーツ&ヘルスケア事業部 事業部長
安藤 由美子 氏

野菜の知識を深めそのおいしさや楽しさを広める「野菜ソムリエ」や、アスリートが能力を最大限に発揮するために食事の面からサポートする「アスリートフードマイスター」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないだろうか。

食と健康の良い関係を世の中に広めることを目的として、これらの資格制度を確立してきたフードディスカバリー株式会社が、新しい“食と健康の良い関係”を始めた。
それが「メディカルタイチ」である。「メディカル」は医療、そして「タイチ」とは英語で太極拳のこと。

今回は、中国から伝わる「太極拳」と「食」と「健康」の新しい関係を系統的な人材育成カリキュラムとして提供している、国際メディカルタイチ協会についてお話を伺った。

2019年4月取材

国際メディカルタイチ協会 安藤由美子氏

Q. まず、メディカルタイチとは何か、そしてどのような背景から設立されてきたのか、経緯をお聞かせください。

私どもの活動は、2001年に「野菜ソムリエ」という資格を立ち上げ、その講習会などを体系化したところがルーツになります。そしてその後も一貫して食の素晴らしさを広く世の中に広めるための仕組み作りをしてきました。

野菜ソムリエプロ 土師さん

メディカルタイチ協会の礎になったのが「野菜ソムリエ」資格の体系化
(写真は野菜ソムリエプロの土師さん)

 

次に生まれたのが、「アスリードフードマイスター」という資格制度です。
アスリートがその能力を最大限に発揮するために、食事の面からベストなサポートを提供するための食の知識を備えるための資格です。
現役トップアスリートだけでなく、アマチュアアスリートや一般生活者の方々にもご受講頂き、健康的なライフスタイルの一環として生活の中で実践して頂いています。

アスリートフードマイスター取得者の皆さん

年々認知が高まり資格取得者が増えているアスリートフードマイスター
(写真はアスリートフードマイスター資格取得者の皆さん)

 

これら一連の活動の中で、私たちが常に念頭に置いているのは、健康にとって重要な三つの要素、「食」、「運動」、「睡眠」の三つになります。
健康であるため、あり続けるためにこの三要素こそが不可欠である、私たちはそう考えています。

ところが、最近では30代の会社員の多くが就業時間中、つまり8時間近くも、座ったままであると言われています。体を動かさない状態が長く続くとどうなるか。
体というのは、使われない部位があれば、それを不要だと判断し、どんどん筋肉がやせ細り、毛細血管が減少してしまいます。
このような健康課題は、日本の現代社会に大きく広がっています。

日本のオフィスワーカーは疲れている

デスクワークが中心であることに起因した健康問題は増加傾向にある

 

課題の解決策のひとつとして挙げられるのは、毎日少しでも体を動かすことであり、運動することから遠ざかっている人たちを減らすことです。

Q. そのための太極拳(Taichi)であり、メディカルタイチということですね?

そうなんです。ところで、太極拳にはどのようなイメージをお持ちですか?広く知られているイメージとしては、「広場で大勢の人が集まって、静かな動きを皆で合わせて行うもの」
であるとか、そのビジュアルからの印象も手伝って、「シニア世代を中心としたもので、60歳になったら始めるもの」などというものではないでしょうか。

意外と知られていませんが、まず太極拳というのは1959年に蒋介石総統文化使節として派遣された樹金老師により「武術」として中国から伝えられ、徐々に日本国内に拡がっていきました。
現在では市民レベルまでしっかりと定着したのですが、意外と知られていないのが太極拳が「競技スポーツの一種」であるということです。
国内では国体の一競技として採用されており、毎年全国大会も催されています。大会には若い世代も参加しており、その中には世界的に活躍されている選手もいます。
つまり、太極拳は「スポーツ」であり、「競技」としても成熟している種目なのです。

競技として既に成熟した位置づけを確立している太極拳

競技として既に成熟した位置づけを確立している太極拳
(写真は現役日本代表選手(2017年世界武術太極拳選手権銅メダリスト)で
メディカルタイチ認定インストラクターの齋藤志保選手)

 

この太極拳の中から、医学的根拠にもとづき健康の維持・増進に良いと考えられる動きを取りだし、取り組みやすくアレンジしたものが「メディカルタイチ」です。
その「メディカルタイチ」の普及のために2016年に国際メディカルタイチ協会が設立されました。
タイチという名称は、太極拳が英語で「Taichi = タイチ」であることに由来します。

太極拳を取り組みやすくアレンジした「メディカルタイチ」

太極拳を取り組みやすくアレンジした「メディカルタイチ」

 

2017年には、メディカルタイチを学び、普段の生活の中で普及していただく普及員と指導者を育成する資格制度を創設しました。

Q. メディカルタイチの資格制度について、今の活動の様子も併せてご紹介してください。

メディカルタイチを始めるためには、まずメディカルタイチというものが身近な運動として認知してもらうため、「太極拳(Taichi)と健康の関係」や、「効果が期待できる動き方」、そしてそれに関連した「食生活」などを学び、そして何よりメディカルタイチを生活に活かしていただけることが大切だと思っています。

国際メディカルタイチ協会では、東京、神奈川、千葉、大阪にスタジオを設置しており、講習会を開催しています。
講習会では、野菜ソムリエやアスリートフードマイスターで培ったノウハウを活用し、太極拳の動作一つ一つが健康にどのような効果をもたらすかを系統的に学んでいただくためのカリキュラムを用意しております。
内容は、太極拳が有する医学的効果に着目し、各医療系団体の先生方にご指導のもと作成しています。

受講された方には資格が授与されるのですが、その資格体系としては、メディカルタイチ3級、2級、そして講師としての資格も含むインストラクター2級と、インストラクター1級のコースを設置しております。
コースの最後には修了試験があり、これに合格した方へ資格を授与する形になります。

メディカルタイチ資格体系図

メディカルタイチの資格体系

資格制度を作ってから今までに500人ほど、全体の受講者の約9割が資格を取得されました。
その一方で、資格を取得することだけを目的とするのではなく、「純粋にメディカルタイチという運動を楽しみたい・学びたい」という目的で講座を受講する方もおられるようです。

Q. シニアにとって、メディカルタイチの有用性はどこにありますか?

シニアの健康維持において、メディカルタイチがとてもマッチしていることです。

健康の維持・増進のためには食、運動、睡眠という三つの要素を日々の生活の中にバランス良く取り入れることが重要であることは冒頭にご説明した通りですが、シニアにとっては急に激しい運動を始めることはかえって体を壊してしまう要因にもなりかねませんし、そもそもけがや病気のために激しく体を動かすことができない方々もいらっしゃいます。

そういう方々にとっての運動の入り口として、メディカルタイチを始めてもらいたいと思っています。

例えば、老人ホームや介護施設などの入居者の皆さんにもぜひメディカルタイチを活用していただき、一人より二人、三人、そして大勢の人が集まって一緒に体を動かしていただければ幸せホルモンも分泌され、より健康的な体作りができます。

太極拳を取り組みやすくアレンジした「メディカルタイチ」

シニアの健康維持のためには、楽しく大勢で運動することが効果的

 

 

 介護施設向けの動きの参考動画
(株)locus「ふくくる」介護施設向け動画配信サービスダイジェストより

Q. では、メディカルタイチを進めて行くにあたって、苦労されていることや、課題と考えていることはありますか?

それはやはり(「メディカルタイチ」という言葉に対する)知名度です。

太極拳と東洋食薬を組み合わせて健康的な生活をサポートするための生活スタイルの一つ、それがメディカルタイチなのですが、まだまだ認知されていません。
その原因は、協会と資格制度の歴史が浅いことに加え、「タイチ(Taichi)」と聞いて太極拳のことだと直感的にわかりにくいことにあると思います。ここは、私たちが資格取得者の方々と更に普及活動を進める努力が必要なところです。

メディカルタイチ資格認定者の皆さん

 メディカルタイチの資格認定者数は徐々に増えている
(写真上段中央は、2015年世界武術太極拳大会銀メダリストで、
メディカルタイチ認定インストラクター2015年の市来崎大祐氏)

 

Q. 最後に、今後の活動についてお考えをお聞かせください。

これまでご紹介してきたように、日常生活において運動が足りていない人や、激しく体を動かすことが難しい人が、気軽に健康的に体を動かすことのできる一つの選択として、メディカルタイチを広めていきたいと考えています。

メディカルタイチを普及させる形として、ヨガの事例が一つのヒントになると考えています。
インドが発祥で宗教的なイメージを伴ったヨガは、かつては取っつきにくい印象が持たれていた時期もありました。
しかし近年になり、健康的でスタイリッシュな新しい形のヨガが米国から日本に入り、これが若い女性に支持されました。
今では各地にヨガスタジオがあり、ホットヨガやピラティスといった様々な発展形を伴いながら支持を広げているのは周知の通りです。

若い女性を中心に人気の高いヨガ

メディカルタイチの認知度向上のためベンチマークすべきは「ヨガ」

一方で、タイチ、すなわち太極拳は、元々は武術であったこともありポージングが男性的です。
そのため、ヨガに比べると男性にとても馴染みやすいのではないかと考えています。シニア世代に関わらず、その1段階前のロコモ世代を含め、現代日本の健康課題である男性社会人の運動不足を解消する方法として、医学的な効果を考慮して考えられたメディカルタイチは非常にマッチすると思います。

武術にルーツを持つことに起因して、男性的なポージングが多いタイチ

武術にルーツを持つことに起因して、男性的なポージングが多いタイチ
(写真はラグビートップリーグ日野レッドドルフィンズ 村田選手)

 

また、無理なく体を動かすことができることが特徴のメディカルタイチは、シニア世代や難病やけがなどで激しい体操やトレーニングをすることが難しい方々にとっても、日々の生活習慣として少しの運動を取り入れるきっかけになり得る存在だと思います。

ですので、もっと多くのシニア世代の皆さんにも、私たち国際メディカルタイチ協会の開催する講習会に来ていただき、食と運動をバランス良く組み合わせたメディカルタイチを学んでいただければと願っています。

一般社団法人 国際メディカルタイチ協会

太極拳エクササイズ専門スタジオ “Taichi Studio”


 

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第28回 
株式会社ファンケル
第27回 
アサヒシューズ株式会社
第26回 
セコム株式会社

無添加×飽くなき開発力で
支持を受けるマチュア世代向け化粧品
ビューティーブーケ

マーケティング本部化粧品事業部
商品企画第一グループ課長     土井 幸永子氏

創業以来「無添加」というに強いこだわりを持ち続け「化粧品」、「サプリメント」そして「発芽玄米」などのそれぞれの業態分野で長く市場を牽引している株式会社ファンケル。

今回はその中でも、マチュア世代(※)向け化粧品「ビューティブーケ」にスポットを当てお話をお伺いしました。(※成熟した世代の意)

                                      2018年11月取材

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 Q. ビューティーブーケの企画から開発までの経緯についてお聞かせください。

「ビューティブーケ」は2016年10月に発売したマチュア世代向けの化粧品です。

ファンケルの商品は概ねオールターゲットで開発していますが、加齢に伴った体の衰えや変化を原因にして引き起こされる使い辛さにまで配慮して作られたのがこのビューティブーケです。

容器の開封のしやすさや使用順序がわからなくなってしまう点などを意識して開発しました。

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Q. 商品開発への拘り、そして強みはどこにありますか?

まず、ファンケルのいわば代名詞ともいえる「無添加」。ここには強い拘りを持っています。その一つの研究成果として、防腐剤であるパラベンは老化を加速させるという結果を出しています。また原料の開発にも力を入れています。ビューティーブーケは、当社で積極的に行っている発酵の研究技術を活かし、当社の発芽玄米商品である発芽米を発酵させて、マチュア世代に効果的な成分を抽出するに至りました。

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Q. この商品のターゲット層について、御社では「マチュア世代」という表現を使っていますが、その意図とペルソナについてお聞かせください。

シニアという言葉には70歳以上の方、そして仕事を含めて引退して「美容」よりも「健康」を意識した生き方にシフトしているイメージがありました。

ビューティブーケは、「美容」と「健康」の両方に意識が高い60歳以上の女性をターゲットとして設定したかった。そこで、この層を「マチュア世代」というワードで定義することにしました。

ターゲットを決定した後、この層についての定量的な調査を行いました。

また、実際にマチュア世代の方と行動を共にして定性的な調査を行いました。

マチュア世代の方と触れ合ってみると、例えばフラダンスやハイキングなどアクティブな趣味をお持ちの方が多いことに気づかされました。

また当然のごとく多くの経験値や知見も有しており、化粧品選びに関しても「本当にいいもの」をお求めになるという傾向が見えてきました。

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Q. シニアマーケティングを進める中で、他社の活動を参考にした部分はありますか?

他社さんのシニア向けの商品については、実際にいくつかを購入してみましたし、それ以外にもシニア向け通販サイトが実践するご案内の手法、そしてシニアの方の目の動きなどを考慮したUI(ユーザインタフェース)なども参考にしました。

特に、家電用品の説明書から得るものは多くありました。マチュア世代に当社の商品を使っていただくに当たり、いかに説明書を間違えなく使えるご案内にするか、受け入れ易い表現にするかという点で参考にした部分が多くありました。

Q. 昨年(2018年)10月10日に、新商品「薬用 美白エイジングケアクリーム」が発売されましたが、こちらの開発経緯などをお聞かせください。

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こちらは「金のいぶき」という発芽米を発酵させ、原材料として使っております。従来配合している発芽米発酵液よりさらに効果が高く、エイジングケア、美白効果、シミ予防に更なる効果を発揮します。

また使いやすさの点でも新しい配慮を行いました。

「薬用 美白エイジングケアクリーム」の開発に当たっては、従来の「ビューティブーケ」のユーザに集まって頂きヒアリング調査を行いました。

そこで、「一般的なスパチュラ(クリームをすくい取るためのヘラ)は小さい」というご意見を得ることができました。スパチュラは透明なものが多く、下に落としてしまった際に、どこに落としたからがわかり辛いというご指摘でした。

そこで、スパチュラ(掲載写真右下)を大きくしてつまみやすくし、他の色と識別しやすい色にしました。更に、内蓋のつまみを大きくして、従来のジャータイプの容器よりももっと開け易い容器にしました。

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Q. 「薬用 美白エイジングケアクリーム」の売れ行きはいかがですか?

ありがたいことに、本当に多くの反響をいただいており、現在は販売数に対し生産が追い付かないほどです。

Q. 最後に今後マチュア世代(シニア世代)に対し、どのようなアプローチをお考えですか?

これから更に高齢化が進んでいくことは自明ですので、当社としても更なる注力を行っていきます。

今後は「マチュア世代向けのライフスタイルブランド」として位置づけ、広く美に対するお手伝いの提案をしていきたいと考えています。

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ビューティーブーケ公式サイト 

https://www.fancl.co.jp/beauty/beautybouquet/index.html

株式会社ファンケル

https://www.fancl.jp/index.html


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

第27回 
アサヒシューズ株式会社
第26回 
セコム株式会社
第25回 
イオンリテール株式会社

日本製への拘りと独自の販路開拓によって
育成されたブランド「快歩主義」

執行役員 / 営業・商品本部戦略ブランド販売部
快歩主義グループ ブランドマネージャー
穴井 政春氏

創業以来120年以上に渡って、高品質の靴を作り続けてきたアサヒシューズ株式会社。確かな技術と信頼の背景には、国内工場製造への深い拘りがありました。

そして、今シニア市場で話題の商品「快歩主義」は、健康・快適シューズ市場においてNo.1のブランド(※)に成長しています。(※2012年シューズポスト紙調べ)

今回は、この「快歩主義」ブランドの育成と販路拡大を含め、アサヒシューズのシニアマーケティングへの取り組みについて深くお話をお伺いします。

2018年5月取材


はじめに

【シニアライフ総研(以下、SLS)】今回はシニア用の靴市場において、自社ブランドである「快歩主義」が大きな支持を得ているアサヒシューズさんにお話をお聞きします。
お話くださるのが同社営業セクションを経て現在はブランドマネージャーを努めていらっしゃる穴井さんです。

【穴井】まずは、弊社に興味を持っていただいて光栄に思います。

【SLS】本日は、本社のある福岡県久留米市からわざわざお越しいただき(※)、本当にありがとうございます。(※編集部注 : インタビューは、東京・有楽町にあるアサヒシューズ様ショールームにて実施)

【穴井】弊社は新幹線とJR在来線の久留米駅近くの、電車からもよく見える川沿いに本社と自社工場があります。

主たるシューズメーカーにおいては、国内で自社工場を有する会社は少なくなっていて、国内工場があったとしてもアッパーと呼ばれる靴の上部の縫製は海外で行い、靴底との接着だけ国内で行う工場が多く、弊社のようにアッパーの縫製も自社や久留米市近隣の協力工場で行っている会社は珍しいと思います。

靴には様々な種類がありますが、弊社は高齢者向けのブランドとして「快歩主義」というブランドを企業の主要ブランドと位置付けています。お陰様で、65歳以上の市場においては、ナイキやプーマをご存じない方でも「アサヒシューズ」や「快歩主義」の認知が徐々に高まっていることを実感しています。

私からは営業という立場から、高齢者マーケットへの取り組みについて「熱く」お話したいと思います(笑)。

【SLS】ぜひ「熱く」よろしくお願いいたします(笑)。

「快歩主義」の商品特性

【SLS】まず、「快歩主義」の商品特性についてお聞かせください。

快歩主義 定番商品

【穴井】「快歩主義」定番商品のメーカー希望小売価格は5,900円です。他社さんからはこれに競合する商品が3,900円程度で売られているようです。そう考えると決して安くはないのですが、弊社は「快歩主義」発売以来この価格を維持しております。なぜなら商品の品質に絶対的な自信を持っているからです。

商品の差別化ポイントはゴム底にあります。ゴムというのは本来重いものなのですが、「快歩主義」に使用されているゴムは圧倒的に軽いのです。

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 (※快歩主義の最軽量商品の重量は約130g)

実は、ゴム底製造の歴史こそが、弊社の歴史と言っても過言ではありません。弊社は足袋の生産から始まり、その後、地下足袋へと移行してきました。久留米は近隣に三池炭鉱、田川炭鉱など炭鉱が多く、炭鉱夫のために地下足袋を作って最初に特許登録したのが弊社です。これがゴム加工を始めたきっかけとなるのですが、ここから長年に渡りゴム加工技術の研鑽を積み重ねてきました。

靴のデザイン部分は流行やライフスタイルに合わせて変動しますが、ゴム底加工の技術だけはそれぞれの会社に脈々と受け継がれてきたノウハウがあり、簡単には真似できないはずです。靴底(裏側)を見ていただければすぐにわかっていただけます。「快歩主義」は靴底の全面にゴムを使用しており、これが履き心地の良さを生んでいます。

他社さんの製品は、そのほとんどが軽量化のために発泡させた合成樹脂を使用し、滑り止めとして部分的にゴムを使っている商品が多いはずです。

【SLS】更には、各方面の専門家の助力があったとお伺いしておりますが…。

【穴井】「快歩主義」には基本設計として「正常歩行機能(フットオンコントローラーシステム)」が採用されています。加齢により骨格構造や歩行が変化してくことに対応する機能で、特許登録もしております。

快歩主義が足に優しい5つのポイント

この技術は、1999年に松波総合病院リハビリテーション科(当時)の酒向先生(理学療法士)との出会いから始まります。更には整形外科医の先生方の協力も得ながら研究開発を行って誕生しました。軽量化を実現するため靴底にはエクスパンセル(ガスを入れたプラスチック球状発泡剤)を採用し、ゴムへの配合率や焙造条件(温度や時間など)を独自に研究し、量産を実現しました。

また、デザイン面については、面ファスナー部分を素材メーカーと共同で開発し、医療機関で検証を行いました。消費者は厳しい視点を持っています。健康に関わる付加価値を持った商品というのは、メーカーの独りよがりでは売れません。やはり、専門家の知識や助言という裏付けが絶対的に必要です。

シニアマーケットへの事始め ~ 会社更生法適用時代を経て

【SLS】御社は早い時点(1999年頃)にすでに高齢者マーケットに着手していますが、当時の背景をお聞かせください。

【穴井】高齢化が加速する日本では、要介護の基準、サービス運営基準など、公的介護保険の詳細について定めた法律である介護保険法が1997年に制定され、2000年より施行された時代背景があります。当時の商品開発テーマとして、「21世紀の高齢化社会へ対応する商品開発構想」を掲げ、シニア向け商品の開発に着手しました。

またこの頃の靴市場は、すでに韓国製、中国製など海外生産製品が席巻しており、価格競争が激化していました。これは国内の自社工場で生産を行っている弊社にとって苦しい状況でした。

そこで方針を転換し、自社工場だからこそ作れる他社には真似のできない付加価値を持った商品を開発する必要がありました。そしてそのような商品は高齢者マーケットにこそ需要があると考えました。

【SLS】では、国産に拘ることが高齢者マーケットへたどり着くきっかけだったということですか?

【穴井】そうです。更に掘り下げると、弊社が1998年に会社更生法の手続きを申請したという実情が背景にあります。つまり倒産です。当時、弊社の主たる取引先は、商店街の靴屋さんでした。大型ショッピングセンターはまだ少なく、商店街に元気があった時代です。売上自体はあったのですが、その実態は苛烈な安売り競争に苛まれ、利益は非常に少なかった。売れれば売れるほど、その翌年に小売店から仕入原価を下げるよう要請が来ました。「あと1%引いてくれ」と。厳しい要請ですが、しかし取引先を切るわけにはいかないから泣く泣く値引きする。結果として、売っても売っても経営が苦しいという負の連鎖が続き、過剰在庫もあり最終的に倒産に追い込まれました。当時の反省も踏まえ、現在は商品の価格を下げないという原則を守っています。

【SLS】会社の再生を通じて、価格競争に苛まれないための経営戦略に移行されたのですね。

【穴井】そうです。これがきっかけで大量生産による競争路線から、オンリーワンの機能を持った自社ブランド路線へとシフトしていきます。その一環がシニア向けの商品開発だったのです。

自社工場を武器にするための経営戦略

【SLS】会社再建当時に「これからはシニアを攻める」と聞かされた時は、現場にいらっしゃった穴井さんはどうお感じになりましたか?


【穴井】正直言ってシニアをターゲットにすることに対し、それほど何かを感じるということはありませんでした。ただやるだけだと。それよりも、工場をフル稼働させたいという思いがありました。

【SLS】ここまでのお話からも、久留米の自社工場について強い思い入れを感じていました。

【穴井】それには理由があります。実は前述した会社更生法が適用された頃に、工場存続の危機があったのです。会社は経営再建を目指してスポンサーを探します。当時、ありがたいことに、弊社の再建のために手を挙げてくださったいくつかのスポンサー候補がありましたが、そのほとんどが「自社工場を手放し、全国にある販売網の活用に重点を置く」ことを再建の条件として提示されました。

しかし、当時の弊社経営陣は自社工場の存続に強く拘りました。その背景には「従業員の雇用を守りたい」という思いがあったからだと思います。幸いなことに、この考えを強力に進めてくれる管財人が就任され、そこから再建が図られることになりました。

このような経緯の後に残すことができた工場であり従業員ですので、これを何とか自分たちのチカラで最大限に稼働させたいと思いました。かと言って、無闇にモノを作ればいいというわけではありません。例えば人気を理由にブーツなどの季節需要のある商品などに寄ってしまうと、闇雲にアイテムが増え工場の負担は瞬間的に大きくなるだけでなく、年間の稼働率に偏りが出てしまいます。工場を健全に維持し続けるためには、年間を通じて平均的な需要が見込める定番商品、つまり安定した「自社ブランド」商品を作ることが最重要課題でした。

【SLS】「自社ブランド」路線にシフトした後、工場の稼働率はどのように推移しましたか?

【穴井】その後「快歩主義」を始めとした様々なブランドが着々と成長し、今では、アサヒシューズの商製品全体における7割が自社工場による生産となっています。

【SLS】国内工場比率が70%というのは、靴メーカーとして比類のない数字なのでは?

【穴井】そうですね。珍しいと思います。

独自のプロモーション施策

【SLS】そんな自社工場で生産される「快歩主義」についてですが、高齢者の皆さんには「日本製」というキーワードは響きますか?

【穴井】響いていると思います。実際に「さすが日本製だけあって、モノが違う」というお声も多数頂いています。

【SLS】靴市場におけるシニアマーケットの特性を教えてください。

【穴井】まず大前提として、「快歩主義」の売上のうち多くを占めるのがリピーター需要ということです。靴というのはそもそもリピート需要が大きい商品なのですが、「快歩主義」は一度お試しくださったお客様が繰り返し購入してくださることがとりわけ多い商品です。

【SLS】新規ユーザーの獲得については、どのように取り組んでいらっしゃいますか?

【穴井】これまでは新聞広告を中心に全国紙の15段広告や、時には5段広告も出稿してきました。しかしながら、期待するほどのレスポンスには至りませんでした。
特に地方についてはブロック紙や県紙などの地方紙が強く、全国紙ではなかなかリーチしないという印象を持ちました。そこで考え方を変えて、2018年からテレビ通販によるダイレクトマーケティングを実施しています。

アサヒシューズ快歩主義 通販番組

(穴井氏も出演する通販番組)

【SLS】ここまでの反響はどうですか?

【穴井】反応は良いと感じております。衛星放送を中心に29分の尺で放送していますが、毎日予測値以上の反応があります。卸先の靴屋さんからは「メーカー直販すること」に対しお叱りをいただくことがあります。しかし私どもの真意は靴屋さんと競合することではありません。この番組の主目的は、ブランドの持つストーリーや価値を伝達しながら快歩主義を知らない方にブランドの存在を知って頂く事です。通販はあくまで副次的な要素と考えています。番組を通じてアサヒシューズの「快歩主義」をシニアの皆さんに知っていただき、その上で店舗に足を運んで頂きたいのです。

事実、靴は履いてみないと自分に合うかどうかわからない商品です。ご近所の靴屋さんで弊社商品と出会った際に、「テレビで見た商品だ」ということでお試し頂くきっかけになればと期待しております。

このことは営業マンがそれぞれの靴屋さんに足を運んでご説明しております。

【SLS】販売よりも流通対策としての意味合いが強いのですね。

【穴井】そうですね。快歩主義は一度お履き頂ければ必ずといっていいほどリピーターになって下さる方が多い商品です。一度お試し頂ける方を増やしたいという意味合いが強いですね。また番組内では靴をご購入いただいた方へのノベルティとして「オリジナルの今治ハンカチタオル」をプレゼントしていますが、実はこのノベルティは店頭でもちゃんとご用意しております。

弊社としては何より小売店さんを大切にしたいという思いがありますので、店舗へ足を運んでくださったお客様が「プレゼントはテレビ通販だけなの?」という疑問や不満を持たれるのは本意ではありません。ですので「快歩主義」を取り扱うすべての小売店さんに同じノベルティを提供させていただいております。

多様なニーズへの対応がシニア攻略の鍵

【SLS】こうしたシニアマーケットへの取り組みが結実していると実感したのはいつ頃からですか?

【穴井】シニアマーケットにはまだまだ新しいニーズが存在するのだと気づいた辺りからです。

例えば同じ80歳の婦人を比較しても、20年前の80歳と今の80歳とでは全然違いますよね。
私自身もあと1年で60歳です。自分が子どもの頃の印象では60歳と言ったらお爺ちゃんでしたが、実は私は今もハーレーを乗り回しています。

【SLS】ハーレーとは、すごい(笑)

【穴井】これが今60歳の実態です。もちろん一例ですが(笑)。

快歩主義で言うと、10年前はベージュ、黒、ワイン色などの定番商品しかありませんでした。

しかし、今のシニアは多様なニーズを持っています。それに呼応するため、今は定番以外にもたくさんのデザインをご用意しています。いわゆる「年寄り扱い」をしてはいけません。こちらのショールームにはラインナップの一部を置いていますが、全体を見渡して頂くと、結構派手だと思いませんか(笑)

【SLS】そう思います。

【穴井】ちょっと派手なくらいが気持ちを高揚させてくれるし、その気持ちが歩いたり動いたりする原動力になります。

【SLS】リハビリ用の商品もデザイン性が高いですね。

【穴井】よくあるリハビリ対応の靴はデザイン性を考慮しない「上履き」的なものが多いのですが、私たちはリハビリ対応の靴であったとしてもデザインには拘っています。

とある介護施設で聞いた話をご紹介します。その施設の入所者さんたちが履く靴は全員が同じモノで間違いやすかった。そこに気づいた入所者の娘さんが、靴に名前を書く代わりにその方がお気に入りの着物の切れ端をミシンで靴に縫い付けたところ、とても喜んでくれた上に間違いも減ったそうです。私どもはそのアイデアを即座にいただきまして、着物風の生地をワンポイントであしらった商品も作りました。商品開発をしていても楽しいです。多少突飛なアイデアだったとしても、恐れずどんどんチャレンジしています。できれば他社にはない独自性のある商品をたくさん作りたいと思っています。

実際、社内会議で不評であったデザインでも、思い切って発売してみると、これが意外とよく売れることがあるのです。正直言って何がウケるかなどやってみないとわかりません。もちろん定番商品自体は大事な存在です。そちらのラインナップはしっかりと維持しつつも、一方で色やカタチを少しずつ変えたアレンジ商品をラインナップとして増やしていく。そうすると2足目、3足目のプラス需要として売れていきます。だからこそ攻めていく姿勢は大事です。この戦術は、コンバースさんの「オールスター」シリーズからヒントを得ています。柱となる定番商品を持ちつつ、一方では常に攻めの商品ラインナップ開発を行っていく。これがシニアマーケティング攻略のポイントのひとつだと思います。

まだある、自社工場生産のメリット

【SLS】しかし、実際はこんなにたくさんのデザイン商品を作るのは大変なのではないですか?

快歩主義のバリエーション

(ハローキティともコラボレーションするなど、バリエーション豊富な快歩主義)

【穴井】こうした試みができるのも、自社工場があるからです。

仮に海外生産をしていたらこうはいきません。海外生産を行うためには、ロットと期間に制約が生まれます。靴の世界でいえば、最低でも5,000足発注しなければ海外生産のコスト面のメリットは生まれず、しかも発売の半年前に発注するという条件が付きます。商品の売れ行きが見えない段階で、大量の発注を余儀なくされるわけで一種の賭けです。リスクも大きい。仮に賭けに勝ちヒット商品を生んだとしても、そこからがまた大変です。更なるヒットを生むために新型のモデルを大量に生産し販売する。そうすると当然前のモデルの中に売れ残りが発生し、それが安売りの対象になります。最新でなくても安い方がいいという需要は必ず一定数はあります。そうすると売りたいはずの最新モデルが売れなくなり、ひいてはブランドの瓦解に繋がっていきます。

業種を超えた流通対策

【SLS】それでは、いよいよ販売と流通に関する手法について教えてください。

【穴井】まず、漫画を書いています(笑)

異業種向けの新規開拓用営業ツール(マンガ)


正確には、漫画そのものは別の社員に依頼しているのですが、設定やストーリーはすべて私が自分で考えています。

【SLS】面白いのが、街のカメラ屋さんに快歩主義の取扱いをオススメするというストーリーになっていることです。

【穴井】これ、実は異業種向けの新規開拓用営業ツールです。今、私どもが積極的に取り組んでいるのが、異業種の小売店さんを開拓することです。靴屋さんではない全くの異業種の小売店さんに「快歩主義」を置いていただくことにチカラを入れております。

【SLS】いろいろお聞きしたいのですが、まずは最初の質問です。なぜ漫画に行き着いたのですか?

【穴井】商店街で営業を行っていると、お話を聞いてくださる店主さんやオーナーさんも、皆さんシニア層の方です。そういう方々に、杓子定規にとりまとめられた文字ばかりの企画書をお持ちしても興味をもってもらえません。しかも、異業種の皆さんです。そんな方にいきなり靴の取扱のお話をしても「えっ?!」と思われてしまいます。だから、ひと目でわかりやすく、内容も入っていきやすい漫画に着目したのです。

【SLS】次に、異業種開拓へチャレンジした理由をお聞かせください。

【穴井】理由は単純です。靴屋さんだけをターゲットにしていても販路拡大には限界があるからです。
今は、いくら探しても新規の靴屋さんなどありません。言い換えればほとんどの街の靴屋さんが既に弊社のお取引先です。

そして、その靴屋さんが今、減少傾向にあります、というのは靴屋さんというのは大変な商売です。1つの商品を売るためにおよそ5~8種類のサイズを用意しておかなければなりません。在庫というのは靴屋さんにとってそれは大きな負担です。そういう理由もあって、街の靴屋さんは事業継承されず廃業されるケースも多く、同時に弊社の取引先も減っていきます。だからと言って何もしないわけにいかない。年々減っていく得意先を悲しんでいても何も生まれません。だからこそ異業種開拓です。開拓先は主に商店街の店舗です。全国的に商店街は衰退傾向ですが、実はシニアの方にとって商店街は未だ大事な存在です。シニアの行動範囲は限られています。郊外のショッピングセンターまでなかなか足を伸ばせません。

【SLS】俗に言う「買い物難民」問題ですね。

【穴井】そうです。だから私たちはもう靴屋さんに限定せず、「レジのあるところならばどこへでも提案する」という方針で開拓を進めています。洋服屋さんは元より、電気屋さん、クリーニング屋さんなど、商店街にあるいろんな業態に靴の取扱いをオススメしています。更には、道の駅、ガソリンスタンド、ネイルサロン、家具屋、ランジェリーショップなどにも置いてもらっています。この漫画のモデルになっているカメラ屋さんは(広島県の)呉駅前にあるんですが、今では、店舗の半分が靴の展示スペースで占められています。

【SLS】いわば、靴を通じた、シニアの方と商店街のマッチングですね。

【穴井】これはコカ・コーラさんの「喉が乾いたらコカ・コーラ」という戦略からヒントをいただきました。いわば、「シニアがいるところには快歩主義」です。「快歩主義」を置いてくださる店舗さんには、展示用・装飾用の什器と店頭用のノボリなどを一式でご提供しています。少しの空きスペースにこれらを置いて頂いて、シニアの皆さんとの接触ポイントを作っています。もし、購入意思のあるお客様がいらっしゃれば、店舗内で靴(のサイズ)合わせをしていただきます。「快歩主義」のデザインは多数ありますが、ベースは同じなので(22.5~25.0までの)5サイズ分だけ店舗内に置いておいていただければ靴屋としての商売が成立します。あとは設置したカタログからデザインを選んで頂きます。そうすれば翌日には弊社から商品をお届けすることができます。

【SLS】専門家がいなくても、試し履きが何よりの商品説明になるから、商売になるのですね。

【穴井】今は、こういう異業種店舗向けの販路開拓を行う専門チームが社内にあります。当初は西日本が中心でしたが今は首都圏においても開拓を進めています。首都圏内においても困っている商店街や買い物難民エリアはたくさんあります。

異業種店舗で靴が売れる、その理由

【SLS】各店舗オーナーさんからはどんなお声が挙がっていますか?

【穴井】手前味噌ですが、よく売れると喜んでもらっています。人が離れたと言っても、実は店舗さんはちゃんとお客さんをお持ちです。中には名簿や台帳を作ってお客さんをしっかり管理していらっしゃる店舗さんもあります。

そして、売れるのにはもうひとつ理由があります。店舗オーナーさんご自身もシニア層の方が多いので、商品を実際に試してくれます。従ってお客様への説明にもリアリティがあるのだと思います。売る側が納得しているから、買う側にも響きます。

【SLS】アイデアだけでなく、それを行動に移しカタチにしたことにも感心します。

【穴井】それは私たちが「営業」だからだと思います。常に外にキモチが向いているからです。もちろん、社内を見渡せばこのような取り組みに反対意見もありました。それは当然のことです。営業が動くだけと言っても現実には人件費も交通費も使います。経費はかかっています。しかも1日に10件、20件回って成果がゼロということもあります。そうそう結果が出るわけではありません。そもそも、全くの異業種に対して「靴を売りませんか」と言っているのですから、結果が出なくて当たり前なのです。

しかし、動かなければ何も始まりません。それに仮に一店舗採用していただけると、そこから横の繋がりによって別のお店でも検討していただけることもあります。

【SLS】一通りのお話をお聞きすると、前述された「テレビ通販も流通対策の一環」というお話がよくわかります。

今後の展開と企業としての社会的使命

【SLS】思い描いていらっしゃる今後の展開等がございましたらお聞かせ下さい。

【穴井】これからも何ら変わりません。更なる新規提案と更なる販路開拓、この2点に尽きます。
例えばサンダル型のニーズがあるというのならばすぐにでも開発したいですし、とあるエリアには販売店がないとなれば開拓に行きたいと思います。終わりはありません。

【SLS】今後、シニアマーケットを追求していくにあたって、靴業界に限らずベンチマークしていらっしゃる企業さんはありますか?

【穴井】前述しましたが、やはりコカ・コーラさんですかね。街を見渡せば、どこかに赤い自販機があるというコカ・コーラさんの取り組みは、常に意識しております。シニアがいらっしゃるところならば全国どこでも快歩主義が売られている状況を作りたい。同じ視点で、セブンイレブンさんの出店戦略も参考になります。

販路拡大について補足ですが、実は今取り組んでいる新しい施策があります。それは、徳島の山奥を走る移動スーパーでして、そこで「快歩主義」を取り扱ってもらっているのです。

【SLS】山村部を1週間に数回走る、小型トラックの商店ですよね。

【穴井】移動スーパー内のほとんどの商品が数百円ですが、そこに弊社の5,900円の商品を置いていただいております。当然最も高い商品となります。他の店舗さんと同様、複数のサイズのサンプル靴を置いて、もし購入していただければ、次回の移動販売の際に商品をお持ちするというカタチになります。
当然、オーナーさんにこのご提案をするにあたっては苦労もありました。しかし最終的にはニーズがあるとご判断頂き、採用していただけました。

【SLS】届けるといえば、海外からの需要についてはどのような取り組みをしていますか?

【穴井】例えば、東南アジアや韓国、台湾では販売が始まっています。更に中国についてはこれから本腰を入れて取り組んで行かねばなりませんが、今は慎重に事を進めています。それは商標の問題です。韓国や台湾については問題なく「快歩主義」の商標も確保したのですが、中国はこれが簡単ではありません。実際問題として、中国で「快歩主義」を想起させる類似の商標を他人が既に登録しているなどの難しい問題などがありました。しかし、この問題もようやく解決して中国での展開が始まりました。

【SLS】これが前に進めば、営業さんとしては中国向けの販路開拓という大きな仕事が待っていますね。

【穴井】そうなれば人員もまた増えるでしょうし、着実に成し遂げて、後進へよい財産を残していきたいと思います。

【SLS】改めて販路開拓に対する営業さんの情熱には、アタマが下がります。


【穴井】その原動力にはやはりお年寄りへの愛情があるのだと思います。トイレ、風呂、そして靴は毎日使うものです。良いものを使えば、健康寿命が伸びると考えています。

「快歩主義」は他の靴と比べるとちょっと高いかもしれませんが、「本物」だと自負しております。
シニアの皆様には大事なことにはちゃんとお金を使って欲しい。そして健康寿命を伸ばして欲しい。
だからこそ、山村にいらっしゃるたった一人のお年寄りへも、本物をお届けしたいのです。我が国が高齢化社会と言われて久しいですが、高齢者の皆さんにとって「自分の足で歩く」ということが本当に大事なことだと実感しています。

私自身は現在59歳で子どももいますが、将来自分の子供に負担をかけたくはないという思いが強くあります。これは全ての親が共通して持つ心情だと思います。歩くことが困難になり寝たきりになったりすると、これに伴い身体の全ての機能が低下するリスクが上がります。「歩くこと」は健康の源ともいえます。この、日常の「歩く」という行為をサポートすることが弊社の使命だと考えております。

例えば、一度健康を損ねてしまった方にとってはリハビリテーションはとても大事で、そのための商品を開発しているメーカーさんも多数あります。これは大いに社会的意義のある仕事です。同様に、弊社はリハビリの手前、つまり「健康を維持し元気に生活し続ける」ための商品を開発し提供する位置づけであり、弊社なりの社会貢献でもあると考えています。

労苦を共にした仲間とともに夢を実現する

【SLS】お話を通じて、種まきしたブランドが芽を出し花が咲きつつある、そんな時期かと感じました。

【穴井】 「快歩主義」は現在年間で60万足ほど売れていますが、目標は100万足を掲げています。

【SLS】100万足とは大きな目標ですね。でも現実味もあると思います。

【穴井】この目標を達成するために、今弊社内ではキャンペーンを実施中です。キャンペーンのコンセプトは「ひとりの夢はただの夢、みんなで見る夢は実現できる」です。100万足という目標は簡単なことではないが、みんなでこの「夢」を実現しようと。そして、このキャンペーンの責任者は何を隠そう私です。そのプレッシャーたるや大きいですが、奮闘しております。

【SLS】100万足は「目標」でもあり、「夢」でもあるのですね。

【穴井】これまでも、本社、全国の営業部、そして工場にいるすべての従業員が一緒の方向へ進み、同じ夢を見てきました。なぜなら、弊社には苦しかった時代があるからです。あの頃の分を取り返すためにたくさん売りたいという気持ちがあります。快歩主義をたくさん作って売ることにより、従業員、その家族、そして販売店さんに至るまで、皆で幸せを分かち合いたいのです。ありがたいことに今はそのチャンスがあります。そのキモチの表れが胸につけているバッジです。

【SLS】社員間にある種の「絆」があるのですね。

【穴井】あると思います。会社に残った従業員たちの中に強い気持ちがあったからこそここまで来られたのだとも言えます。

【SLS】全体を通じてチャレンジすることに躊躇がない、そんな御社の姿勢がよくわかるお話でした。

【穴井】会長、社長を筆頭に経営陣も従業員も全てこのマインドです。一か八かでもいい、今までもやってきたのだから迷うことはない。現在、弊社は無借金会社です。いや、元々借金ができなかったという背景もありますが(笑)。従って、最大の株主は社員の持株会です。「だから誰にも遠慮や配慮もいらない。みんなで儲けて、みんなで分配すればいい。それだけだ。」と社長が日々言っています。これは、「残ってくれた社員に対する恩返し」という意味も含んでくれているのだと思います。

【SLS】最後まで熱く、かつ気づきも多いお話で感銘を受けました。

【穴井】熱さだけは負けません(笑)。ビジネスは最終的には人間対人間ですから。ぜひ一度、久留米の工場にもお越し下さい。工場では靴を作る体験などもできますし、まだまだご紹介したいことがたくさんあります。美味しいものもたくさんありますよ(笑)。

【SLS】ぜひお伺いしたいです!!本日は貴重なお時間を頂戴し、本当にありがとうございました。

アサヒシューズ株式会社 

https://www.asahi-shoes.co.jp/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

第26回 
セコム株式会社
第25回 
イオンリテール株式会社
第24回 
株式会社エクシオジャパン

警備業界最大手が超高齢化社会に取り組む
セコム・マイホームコンシェルジュ

SMARTプロジェクト プロジェクトリーダー 勝亦真一氏
SMARTプロジェクト セコム暮らしのパートナー久我山 主任 奥村政彦氏
コーポレート広報部 部長 井踏博明氏
コーポレート広報部 中川翔平氏

警備業界の最大手のセコム株式会社。超高齢社会に対し、様々な取り組みを行っています。
今回のインタビューでは、セコムグループの中で、医療や介護、セキュリティなどのサービス体制が充実している東京都久我山地域で生まれた「セコム・マイホームコンシェルジュ」についてお話をお伺いしました。

2018年2月取材


Q.「セコム・マイホームコンシェルジュ」の提供を開始した経緯を教えてください

 弊社は警備会社として知られていますが、セキュリティだけでなくメディカルや防災など幅広く事業を展開しております。

各事業の力を活用して、超高齢社会における社会課題に対して出来ることを探るために2014年にSMARTプロジェクトを立ち上げ、まずご高齢者の困りごとを調査することにしました。

弊社でも、これまでの経験から、ある程度の知見は持っており、行政やリサーチ会社による、超高齢社会の課題調査を参考にしていましたが、実態の正確な把握が必要だと判断し、自分たちで実際に調査することにしました。

そうして、超高齢社会の課題を発掘するために、高齢者のお困りごとに対応する相談窓口「セコム暮らしのパートナー久我山」を開設いたしました。

「セコム暮らしのパートナー久我山」では、「なんでもお声掛けください」と実際に困りごとを受け付けて、ご自宅に出向き、状況確認・解決までの対応を行い、10か月で550件の困りごとのお手伝いをすることができました。

実際に困りごとを集計してみると、我々の想定と異なり、セキュリティやメディカルに関するものは、それほど多くはなく、日常のあらゆる場面で問題が発生していることがわかりました。

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日常の困りごとへの対応の中で、超高齢社会の課題の源が見えてきました。

心身の衰えによって、高齢者自身で出来ないことが増える中、時代の急激な流れで世の中が複雑になり、やるべきことが増えてもどうすればいいのかわからない、誰に聞けばいいのかもわからない。

ちょっとしたことの積み重ねで暮らしの不自由さを感じ、不安を抱える方が非常に多くいらっしゃいました。

そんな日常的な不安を抱えている方々に、これからの見通しを尋ねてみると、施設への入居を検討しているけれど、本当は自宅での生活を望んでいるとの回答が得られました。簡単なお手伝いをしてくれたり、ちょっとした相談に乗ってくれたりする人さえいれば、まだまだ自宅で過ごせるような方々が大勢いらっしゃいます。

そのような経緯があり、自宅生活のお手伝いができるサービスをやってみようと、「セコム暮らしのパートナー久我山」で得た知見を活かした「セコム・マイホームコンシェルジュ」が生まれました。

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Q.「セコム・マイホームコンシェルジュ」のサービス内容を教えてください

「セコム・マイホームコンシェルジュ」は、暮らしのお困りごとに対応する拠点「セコム暮らしのパートナー久我山」を中心とした地域限定のサービスです。

いつまでも住み慣れた自宅で暮らしたいと思われる高齢者の方々を対象に「いつでも」「あらゆること」に「セコム暮らしのパートナー久我山」がワンストップで対応します。

24時間365日、日常生活上の相談受付、解決方法の提案・情報提供を行います。携帯電話の使い方のレクチャーや電球交換といった軽作業を行うだけでなく、医療、介護、リフォームといった専門職への取り次ぎ・手配も対応しております。また、「セコム・ホームセキュリティ」をベースにした見守り、駆け付けサービスはもちろん、その方にあった形でのお役立ち情報の配信、定期的な暮らしの状況確認、遠方にお住まいのご家族への対応レポート配信なども行っております。

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Q.取り組みの中で苦労されたことを教えてください

 サービスの内容をなかなか理解してもらえないことです。

「セコム暮らしのパートナー久我山」を設立して間もない頃、1,000件程のサービスを案内させていただきましたが、まったく電話が鳴りませんでした。

我々としても想定内の状況であったため、すぐに訪問によるサービスの説明に励みました。

サービスの内容を理解してもらえなかったり、「本当になんでもやってくれるのか?」と、いわゆる「便利屋」のサービスとの違いを説明することに苦労しました。

「セコム・マイホームコンシェルジュ」は、富裕層向けのサービスだと思われてしまうことがあります。しかし、我々の考えでは、事業継続の為に相応の対価をいただく事、また対価に見合ったサービスの提供が重要だと考えています。

地域包括支援センターや介護保険をベースにした事業所では、「パソコンを教えて欲しい」、「重い荷物を運んで欲しい」といった、介護保険では対応できないことを頼まれることが多々あると聞きます。
そういった部分を我々が対応することで、役割分担も可能だと考えています。一方で、自治体側は、特定の民間企業のサービスを推しづらい立場でもあり、そこに難しさも存在します。

Q.サービス提供を通じて、シニアに対する認識の変化はございましたか

サービス提供開始前は、70代前後で要支援や要介護認定前の方がサービスの対象の中心になると想定していました。

しかし実際には、サービスご利用者の平均年齢が約82歳で、そのうち半数程度の方が介護保険を利用していらっしゃいます。

ケアプランのスケジュール外で急に必要になった時や病院への付き添い、介護保険でカバーしきれない部分といったことに我々の価値を考えていただけているのだと認識しました。

また、「セコム・マイホームコンシェルジュ」を提供するために、前提としている「セコム・ホームセキュリティ」については、防犯はもちろんですが、高齢者にとっては見守りのニーズにも応えていると感じます。

Q.シニア層の特徴として気づいたことはありますか

 ご自身の困っている状況を自分からはなかなか発信しないことが大きな特徴だと思います。
もちろん活発に発信する方もいらっしゃいますが、自分からお願いしたり、何かを聞いたりすることを嫌う方も多くいらっしゃいます。

何かを頼んでも断られたり、たらい回しにされたりすると大きなストレスを感じるものですが、そうなると人に聞かない、誰にも頼らない、我慢しようと考えてしまいます。

その事に起因して、人間関係の希薄化も進み、情報を得る機会が減ってしまいます。

そのため、認知症予防体操や相談会といった高齢者向けの様々な地域の取組みや民間サービスの情報が、本当に必要な方に届かなくなるといった問題も生まれています。

そういった方々に対して、我々も微力ながらセミナーを開催したり、訪問先でイベントを薦めたりと情報提供をしております。

Q.社員教育に関して何か特別な取り組みを行っていますか

 セコムグループの医療介護スタッフに研修をしてもらったり、外部セミナーに出来る限り参加することで、高齢者の生活に関わる基本的な知識や技術を身に付けています。

また、「セコム・マイホームコンシェルジュ」の会員様のケアプランに関わるサービス担当者会議に参加することもあります。会議で得た専門知識をスタッフで共有するだけでなく、ケアマネージャーさんの把握できていないところを我々が情報提供することでお互いを補うこともあります。

加えて、一般的な生活者の目線は失うことのないように気をつけています。

サービスの特性上、幅広く対応する必要性がある我々が専門家になってしまうと、客観的、かつ俯瞰的な見方を出来なくなってしまう可能性があるからです。

我々の役割はあくまで専門家とお客様をおつなぎすること、つまりハブの役割を果たすことだと考えています。

Q.現状の課題を教えてください

エリア展開が課題の一つです。

ありがたいことにエリア展開のご要望をいただいていますが、事業性や人材の確保などの課題があるので検討中です。

Q.今後のお取り組み予定を教えてください

自治体や他企業とのより密な連携を取る必要があると思っています。

地域包括支援センターでは、要介護認定を受けた方を中心にサービスを行いますが、我々はその前の段階で関わりをもつことが必要だと考えています。地域の一つのチャネルとして、高齢者に対して有益な情報を提供したり、他企業のサービスをコーディネートすることで、健康的な生活につなげることが出来れば、介護保険のお世話になることが先延ばしとなり、社会保障費の抑制にもつながります。

また、ICTやAIを活用したサービスの本格的な運用を考えています。

現在は、トライアル的に他企業のサービスとも連携しながら、コミュニケーションロボットやスマートスピーカー等のコミュニケーションツールを使った取り組みをしており、「今日は暑いから外出は控えましょうね」「薬をちゃんと飲みましょうね」とお客様の生活維持に必要なお声掛けをさせていただいています。

現在「セコム暮らしのパートナー久我山」には9名の従業員がいますが、多くのご利用者に均質に声をかけることは、困難な状況になりつつあります。

そこでICTを使って、均一に、信頼性の高いコミュニケーションの提供が出来ないかを検討しており、会話を中心とした、有効で、タイムリーなコミュニケーションが実現できれば様々な課題の解決に役立つのではと考えています。

会話することが、高齢者にとっては外部の刺激として認知症予防になりますし、口の運動として嚥下機能低下予防にもなると考えられます。

また詐欺の電話がかかってきたときも、「その電話は詐欺かもしれないから気を付けてね」とAIを活用して呼びかけすることもできます。

このような高度なコミュニケーションを同時に、多数のお客様に行うことができる可能性があります。

また、会話だけでなく情報提供にも役立てることが出来ます。

近隣との関係が希薄になる中で、人同士の直接のコミュニケーションが少なくなってきている最近の流れからも、ICTを活用した声掛けであれば、抵抗感なく受け入れていただけるかもしれません。

ICTによってコミュニケーションの質を高めることができると考えられますし、その人に適した情報提供を、コストをかけずに行うことも可能になると考えられます。

現在、ICT活用はトライアルの段階です。

活用実績を1件でも増やし、知見を積み重ねていけば、自治体の協力が得られるようになり、効率性と体制確保のバランスを取ることで、事業性の問題も解決できるかもしれません。

将来的にはエリアを展開し、多くの方のお役に立ちたいという想いがあります。

セコム株式会社 公式ホームページ

https://www.secom.co.jp/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

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