第20回 セントラルスポーツ株式会社

0歳から一生涯の健康づくりに貢献する

執行役員 介護予防事業部長 相川正男氏
介護予防事業部シニアマネージャー 大東俊彦氏
経営企画室マネージャー 平山智志氏

 

スポーツ健康産業のパイオニアである「セントラルスポーツ株式会社」。1969年に「世界に通用する選手を育てる」という目標を掲げて開校された水泳教室と体操教室に端を発する「スクール事業」からその歴史はスタートしました。その後も「フィットネス事業」、「レジャー関連事業」と様々な事業を展開してきましたが、今回はスポーツクラブのパイオニアだからできる「介護予防サポート事業」に関してお話しをお聞きしました。

2016年10月取材

シニア マーケット


Q.介護予防サポート事業を始めた経緯と内容について教えて下さい

当社として「介護予防事業部」を立ち上げる以前より、民間の老人ホームから「インストラクターを派遣してくれないか」というお声はいただいており、できる限り対応していました。その後、2005 年に(地独)東京都健康長寿医療センターから「介護予防運動指導員」の育成事業に協力してもらえないかと、当社にお声がかかったことがきっかけとなり、この事業を開始する事になりました。

当時、当社のフィットネスクラブの会員様で高齢の方の割合がどんどん増えてきたことで、「高齢者の運動指導に対する知識をもっと深めたい」というスタッフが多くいたこと、また、デイサービスや高齢者施設で働いている介護福祉士やヘルパーの方々で「科学的根拠に基づく適切な運動指導のノウハウを学びたい」という方も多くいたことから、まずはこのような人達に資格を取ってもらおうと考え、「介護予防運動指導員養成講座」を開催し、介護予防スタッフのための教育や人材育成に力を入れていきました。

現在、介護予防運動指導員は全国に約3 万人になりますが、その内当社主催の養成講座卒業生は約6千人います。また、毎年全体で約2 千人が資格を取得されていますが、その内約700~800 人が当社で養成した資格取得者となります。ただ、当社では資格取得だけが目的ではなく、実際に現場で働いてもらうことを意識していますので、資格を取得したら当社にお仕事登録をしてもらい、定期的に研修を行った上で、介護予防運動指導員として活躍して頂いています。

実際に、地方自治体で実施される介護予防事業には、現地に近い登録スタッフが教室の運営を担当したり、最寄りに当社のクラブがあればそのクラブに所属する有資格者を出張させています。また、老人ホームなどで実施しているプログラムでは、食堂などに椅子を並べて、車いすの方や認知症の方も含めてみんなで運動などのアクティビティをしています。普段はほとんど反応のない認知症の方が、体をピクっと動かすこともあり、施設の方やご家族の方に大変喜ばれています。

今では、その施設も200 以上になりますが、今後は老人ホームだけでなく、デイサービスやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などにも広げていきたいと考えています。

シニア マーケット

Q.「シニア」をどのように定義されていますか

当社はフィットネスクラブに所属する会員様の年齢構成を10 歳刻みで管理しているということもあり、便宜上「60 歳以上」を「シニア」と設定しています。ただ、実際のところは年齢だけで一律に「シニア」と定義してしまうのは適切ではないと思います。高齢者の中でも体力がある方や無い方、また虚弱な方など体力面でも個人差がありますし、運動するにあたっての目的も様々です。あくまでもその方々の「ニーズ」にあったプログラムをご提供することを大切にしています。

近年、フィットネスクラブの会員様の年齢構成を見ると、最近では50 歳以上、60 歳以上の方の割合が増えてきています。こうした状況下、「60歳以上」と一律にくくるのではなく、アクティブな方には若い方と同じようなプログラムを、体力に自信がない方には、無理のないソフトなプログラムをご用意するなど、ひとりひとりのニーズにお応えできるサービスをご提供しなければならないと考えています。

シニア マーケット

高齢者の体力をピラミッドで分けますと、スポーツクラブに通う程元気で健康意識が高い「体力エリート高齢者」が一番上にくるのですが、全体的な割合ではごく一部で、その下の、元気ではあるけれど体力低下が懸念される「一次予防」の方の割合がかなり多いのが現状です。またその下には、介護予備軍となる「二次予防」に該当する虚弱な高齢者、更に支援や介護が必要な「介護認定者」と区分されますが、介護予防事業部としては、地域支援事業などを通じて介護予備軍を元気にしていくこと、ボトムアップしていくことが重要だと考え取り組んでいます。

Q.シニアマーケットをどのように捉えていますか。また、シニアに対する貴社としての今後のお取り組み予定があれば教えて下さい

高齢者全体の約80%は元気な方々なのですが、その内の3~5%程度しかスポーツクラブなどの運動施設に通っていないのが現状です。その為、潜在的には高齢者のマーケットはまだまだ拡大の余地があると考えています。最近は、ヨガスタジオや小規模ジムなど、比較的小規模な専門型クラブが増えていますが、当社はフィットネスクラブとしての役割だけではなく、高齢者の方々の社交場の一つとして、総合型クラブならではの特徴を強みとしていきたいと考えています。つまり、ただ運動の場を提供するのではなく、メンバー間で仲間づくりをしてもらい「クラブライフ」を楽しんでもらいたいのです。

例えば、スポーツ以外でも英会話教室、パソコン教室など楽しいアクティビティを通じて高齢者の方に集まってもらえる場を積極的に提供しているクラブもあります。運動による「身体の健康」はもちろんのこと、「心の健康」にも貢献できる場を創造していきたいと考えています。

シニア マーケット

また、当社は旅行業の資格ももっているのですが、同じクラブに通う仲間と行く日帰りのウォーキングツアーなどは大変人気があります。気軽に参加できて、楽しみながらしっかり体も動かせるので、高齢者の方でも楽しんで頂けるツアーの一つです。

また、毎年12月に開催される「ホノルルマラソンツアー」は27 年間も継続している恒例行事となっており、毎年約800 人の参加があるビックイベントです。フルマラソンというとハードルが高そうなイメージがありますが、実はシニアの方の参加も非常に多いのが特徴です。「一生に一度はフルマラソンを走ってみたい」という想いを持っている方は少なくありません。私たちは、そうした方々の想いを後押しし、感動のゴールへと導くトレーニングをサポートしていきます。ここでもやはり、参加者の皆さんが同じ目標を共有する「仲間」と出会い、一緒にゴールを目指していくことで、時にはつらいトレーニングも乗り越えられるのです。

フルマラソン完走という大きな目標を達成し、仲間と感動を共有しているシニアの方々の姿は、私たちが目指す「0歳から一生涯の健康づくりに貢献する」という企業理念を具現化したものだと思います。

シニア マーケット

その他、水泳は当社の得意分野ですが、「マスターズ水泳大会」を全国各地で開催しており、こちらも1000人以上の方が参加するビックイベントで毎回盛り上がっています。運動は、そのもの自体、スキルの向上や体力アップなどの達成感がありますが、それに加えて仲間が増えたり、仲間と楽しんだり、モチベーションを維持する為にも定期的なイベント開催はとても大事だと考えています。

シニア マーケット

Q.地域に根ざした介護予防事業の今後の展開について

体力測定など気軽に参加できるイベントを通じて、まずは運動や健康に興味をもってもらうことが重要だと考えています。また、効果測定をして数値化する、つまり「見える化」することが大切だと思っています。トレーニングは基本的には単調で面白味にかけるものととらえられがちです。その為、様々なデータを元に参加者をサポートし、参加者にあったプログラムをスクリーニングして提供し、運動を継続してもらうことが重要です。

当社はさいたま新都心にデイサービスも運営していますが、ご利用者の多くの方はインターネットなど最近のものにも興味があり意欲も高い方が多いです。例えば、スマホやタブレットを使っての認知機能向上プログラムも大変好評です。さらに、地域に密着した様々なイベントを企画、開催し、高齢者に興味を持ってもらい、より多くの方に健康に対する興味をもってもらえるように努力していきたいと考えています。

また、できれば介護予防事業の参加者が、その後当社クラブにも足を運んでもらえれば、同じような高齢者の方がたくさんいますから、「自分にも出来るかな」という気持ちになってもらい、運動を継続してもらえたら嬉しいです。

シニア マーケット

Q.プログラム開発で苦労したことや、他社サービスとの違いなどがあれば教えて下さい

当社は1982年に民間で初めてスポーツ科学の研究所をつくり、科学的トレーニングをはじめ、長期にわたってデータ取りや測定などを行ってきました。自社で開発した運動プログラムの効果測定も研究所で検証をおこなっており、安全で効率的で楽しく実施できるプログラムを提供するように努力しています。

また、会員やインストラクターとのコミュニケーションの取りやすさも当社の特徴です。フィットネスクラブに入会する際は、ほとんどの方が個人でお申込みされますが、その後グループエクササイズなどに参加し、会員やインストラクターとのコミュニケーションを深めていく方が多いので、クラブ側が会員のコミュニケーションを取りやすくする事も大切です。参加率の高い会員は、継続してご利用頂ける可能性も高く、会員からの紹介入会も増える事につながりますので、当社ではどこよりもコミュニテイーづくりを大事にしています。

シニア マーケット
 

Q.高齢者施設指定管理受託事業について教えて下さい

港区の高齢者施設を複数管理しています。介護予防としては23 区内で初めての施設である港区立介護予防総合センター「ラクっちゃ」では、様々な企業と組んで高齢者向けのプログラムを行っています。

例えば、このセンターには調理施設があり、独居の男性高齢者を主な対象者とした料理教室なども大変好評です。この料理教室では、ただ調理を行うだけではなく、材料の準備なども必要がありますので、段取りを考える事により、認知症予防にもつながります。

また、スポーツクラブで行っているプログラムを高齢者向けにアレンジして提供したり、新しいプログラムを開発するために、多業種との共同研究も行っています。実際に効果が出たプログラムは、他の地域にも広げていく予定です。

セントラルスポーツ株式会社ホームページ 
http://www.central.co.jp/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

第19回 
株式会社nessa Japan
第18回 
TOTO株式会社
第17回 
トヨタ自動車株式会社

IoTを活用したシニアの
ライフスタイル向上のための
新たな補聴器サービス

株式会社nessaJapan (ネッサ ジャパン)

 

シンガポールに本社を置くnessaの⽇本法⼈として本年5⽉にスタートした株式会社 nessa Japan。最新のテクノロジーによって、新しい「きこえの体験」を提供するサービスを2016年8⽉より⽇本国内にて初めてスタート。2016年7月15日開催のプレスカンファレンスで発表されたサービス概要についてご紹介いたします。

2016年7月 取材

シニア向け商品

nessa Japanについて

 

nessaは2015年10月にシンガポールで設立した補聴器のグローバルカンパニーです。単なる補聴器販売会社としてではなく、ネットワーク端末を介したコンシェルジュサービスと、「きこえ」のライフスタイルを豊かにする付加価値をパッケージ化して提供しています。

現在、シンガポールをビジネス拠点として、2016年5月から日本法人としてスタートすることになりました。

また、今後はマレーシアでも展開する予定です。

日本総人口の約11%、約1,400万人が聴覚困難であると言われています。しかしながら、補聴器を使用しているのはそのうちの約13%にとどまっており、多くの高齢者の方々が不自由な生活を強いられています。この現状こそが、我々が日本マーケットに進出する大きな理由です。

高齢者の生活を良くすることの一つ、「きこえ」に対するサポートをすることが、我々の使命であると考え、IoTの技術を用いて、遠隔操作を基盤にしたオンラインサポートをコアコンピタンスとして、今後1年間で約12億を投資し、12月までにシェア1%を目指して参ります。

シニア向け商品

 

日本における難聴者と補聴器難の現状

 高齢者の方々は、耳が聞えないことで社会とのつながりが希薄になるという現状があります。

日本で300人の方に「聴力が衰えることで起こったことを教えてください。」と聞いたところ、51%の人が「声が聞こえにくいことで、人と話しづらく感じた」と答えています。また、28%の方が「職場での会話が聞き取れず、話についていけなくなった」、「テレビやラジオなどの音量を注意された」と答えています。このことから、聴力低下により、様々な不安を抱えている人が多くいることが分かります。

また、アメリカの老人病学会によると、コミュニケーションができる人とできない人とでは、社会的な関わりに大きな差があり、コミュニケーションが少ないと不安定になり、社会的な関わりが少なくなるそうです。更に、補聴器を使用して聴覚が回復すると、認知低下を防げるとも言われています。

 

 

シニア向け商品 アンケート

 

  補聴器に対するイメージを聞いたところ、43.3%が高額である、24.7%がボリューム調整やメンテナンスが面倒、23.3%が補聴器を使用することで、本当に聞えるようになるのか不安だと答えており、補聴器の使用に際して大きな壁があることが分かります。

 

シニア向け商品 アンケート
 
 これらのことから、我々は、高齢者と補聴器の間にある壁を取り除き、ローコスト化を実現し、難聴がある高齢者に、より快適な生活をしていただきたいと考えています。

nessaのIoT技術を活用したサービスの特長

 

単なる補聴器販売会社ではないということをお話しましたが、我々のサービスの特徴は大きく3つあります。

1つめは、高性能な補聴器を提供しているということです。我々が提供している補聴器は、Apple社と共同開発しており、ワイヤレス通信が可能なスマート補聴器として、iPhoneやiPad等のiOSや、テレビ等の機器との連動が可能です。また、デンマーク製で、世界各国での販売・利用実績があります。世界トップクラスの小サイズで、デザイン性も高く、着け心地も非常に良く設計されています。

2つめの特徴として、無制限でオンラインサポートをご提供しています。コールセンターにきこえの専門スタッフを配備していますので、高齢者に対しても親切なオンラインサポートを無制限でご利用いただけます。更に、遠隔操作によってお客様は、家にいながらにして補聴器の調整設定を受けることが可能です。

我々のサービスにお申込みいただくと、世界初の「ホームリモートボックス」をご自宅にお届けいたします。このボックスの中には、4G/LTEのSIMカードが内蔵されていますので、補聴器とネットワーク接続することで遠隔操作を行うことが可能です。この遠隔操作によってフィッティングから、随時調整を行います。つまり、このボックスがご自宅と我々のコールセンターをつなぐ基地になるということです。

 

シニア向け商品 リモートボックス

 

もう1つはライフスタイルの付加価値のご提供です。我々は店舗販売ではなく、無店舗販売を基本としているため、エコシステムという考え方のもと、そこでうまれる利潤はできる限りお客様にフィードバックさせていただきたいと考えています。具体的には、補聴器と共にパッケージされた3つのコースからお客様にお選びいただけます。

 

 

1. iPadコンシェルジュ

iPadmini4を補聴器と一緒にお届けします。お届けするボックスにはwifiが内蔵されていますので、iPadminiからLINEやskypeの他、インターネットを活用したい高齢者の方々に対してのテクニカルなサポートも行います。

 

シニア向け商品 iPadコンシェルジュ

 

2. ライフスタイルコンシェルジュ

耳が聞えるようになった方がより外での生活を楽しんでいただけるよう、ヨガや陶芸体験、ハイキング等、ソウ・エクスペリエンス株式会社と提携した体験型のギフトチケットをお届けします。

 

シニア向け商品 

 

 

3. TVコンシェルジュ

32型テレビとTVストリーマーを合わせてお届けさせていただきます。このストリーマーは、テレビを見る時に使用できるものです。ワイヤレスでテレビから音を直接取り込み、7mの距離までクリアなステレオサウンドでテレビを楽しむことができます。

 

シニア向け商品 TVコンシェルジュ

 

これらのサービスは、まずコールセンターにお申込みのご連絡いただき、聴覚測定を行った上で、「ホームリモートボックス」をお届けするという流れになっていますので、ご自宅にいながらにして全て完結させることができます。
サービスの販売開始は8月上旬を予定しています。

 

 

これまでになかった価格設定~月額の会費制

 

 前述のとおり、補聴器のイメージの1位として「本体代が高い」という大きな壁がありますので、ローコスト化を目指しています。

具体的にお話すると、片耳・両耳のコースがあり、片耳では月額4,600円、両耳では月額7,900円で3年間提供いたします。3年後は新しい補聴器をご契約いただくか、月額料金を下げてまた契約していただくことになります。

また、1か月間の無料お試し期間を設けていますので、まずは製品を試していただき、ご納得いただいた上で本契約という流れになります。

はじめに初期の補償金として2万円頂戴しますが(本契約いただいた場合は販売価格に含まれます)、仮に無料期間中ご納得いただけなかった場合は、全額返金させていただきますので、どなたでも気軽にお試しいただけるかと思います。

 

 

「ヒアリング・エッグ」を活用した新しい販売方法

 

 基本的にはオンラインにて販売を予定していますが、高齢者がインターネット上の広告やリスティング広告からサイトへアクセスして購入するのは、慣れていないと思いますので、商業施設をはじめとした様々な場所に、我々が新たに開発した、世界初のリモート聴覚測定カプセルチェア「ヒアリング・エッグ」を設置するキャラバンを予定しています。

日本においては、耳が聞こえにくく感じた際、まず耳鼻咽喉科で医師の診断を仰ぐ必要がありますが、特に介護施設などにおいては簡単に耳鼻咽喉科に行くことができない人も多くいらっしゃいますので、高齢者が多くいらっしゃるデイケアセンターへの設置導入も検討しています。

この「ヒアリング・エッグ」を活用し、より多くの方に気軽に聴覚検査をしていただき、ご自身の「きこえ」に対する気づきを創出、解決できればと考えています。

 

 

シニア向け商品 エッグ披露

 

 

 

 この「ヒアリング・エッグ」の中に入っていただくと防音の状態になります。中の方には ヘッドフォンをしていただき、装置の外からiPadを通じて検査音を発信します。聞える音に対してiPadで操作していただくと同時に、ビデオ通話を通じて、専門スタッフから聴力測定の結果や説明を聞くことができます。
この「ヒアリング・エッグ」を使って、まずはご自身の「きこえ」の現状を知っていただき、補聴器を身近な存在として捉えていただきたいと思います。そして、最終的には我々の補聴器を使用することで「周りの音が聞こえるとこんなにも楽しい!」と多くの方に実感してもらい、高齢者のコミュニケーション活発化の一助になれれば嬉しいです。


 

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第18回 
TOTO株式会社
第17回 
トヨタ自動車株式会社
第16回 
大和ハウス工業株式会社

ユニバーサルデザインと
シニアマーケットのニーズ

プレゼンテーション推進部 安達氏 販売統括本部 市川氏 広報部 浅妻氏

 

ユニットバスやウォシュレットを先進的に日本に導入してきたTOTO。 バリアフリーやユニバーサルデザインについての意識が高く、様々な製品に垣間見えます。 100年近く続くTOTOの歴史の中で、どのようにしてユニバーサルデザインへ取り組むようになったかなど様々なお話をお聞きしました。

2016年4月 取材

シニア ビジネス シニアマーケット

Q.ユニバーサルデザインに取り組み始めたきっかけは何ですか。

TOTOは約100年前からトイレの便器を製造しております。その長い歴史の中で様々な使用者のニーズを研究し開発に活かしてきました。

携帯電話や文具のように、ひとりひとりが個人で使用するものではなく、子供からお年寄りまでが同じトイレやお風呂を使用するケースがほとんどです。だからこそ一人でも多くの人が使いやすさを感じ、快適に使用できるユニバーサルデザインの開発に取り組んでいます。

まず初めにきっかけのひとつとなったのは、1964年東京オリンピック・パラリンピック開催の時でした。

特にパラリンピックが開催されることで、世界各国から身体に様々なハンデを抱えている方が集まり、バリアフリートイレの問い合わせが増えました。

当時はユニバーサルデザインという言葉は無く、バリアフリーへの取り組みではありますが後にユニバーサルデザインとなる初めの一歩でした。

Q2.どのようにしてバリアフリーへの取り組みからユニバーサルデザインという考えに変化していったのですか。

パラリンピックをきっかけにバリアフリーへの取り組みが加速化し、使いやすい空間の設計図などを掲載したバリアフリーブックを1978年に発刊しました。このころ、日本の高齢化は進んでいたものの、ベビーブームということもあって高齢化はあまり深刻な問題として取り上げられることはほとんどありませんでした。

当時の日本は、新しい事業や商品の開発にも力を入れる企業が多くありました。TOTOも例外でなく、新しい製品の開発に取り組んでおりました。

その時にアメリカから輸入したのがウォッシュエアシートという、現在のウォシュレットです。

主に病院向けに医療用や福祉施設用に導入されていました。その後、TVCMによるプロモーションなどの効果もあり、1990年代ウォシュレットが世間に広まっていきました。

1990年代になり、出生率が低下し少子高齢化がささやかれるようになってきました。高齢者の割合が増え、医療費が増えていくことが懸念され、行政の対策として2000年から介護保険が始まることが決定しました。

シニア ビジネス シニアマーケット

それに伴いTOTOでは高齢者向け製品の開発を促進するシルバー研究室を発足し、2000年までの間に様々な製品や仕組みの開発を促進しました。

そこではいま高齢者の市場でどのような製品が求められ、必要とされているのかを調査し、TOTOの製品開発に活かしていました。例えばバスルームの出入り口部分に段差をなくしたのはそのころです。

当時はバスルームの出入り口に段差があることが通常でしたが、段差のない床にすることで、高齢者やお子様がつまずいて転倒することを防いだり、車いすのままでも安全に入室できるようになりました。
発売当初、段差のないフラットな床では、バスルームの外が水浸しになってしまう懸念があり、洗い場全体にグレーチングを設計していました。

しかしそれは掃除をする、介護をする立場の方に負担になってしまいます。今ではグレーチングがなくても排水出来る商品にしました。このように当時から現在に掛けて研究を重ね進化を遂げています。

先ほどのお話にもありましたが1990年代には、2000年から住宅のリフォームにも適用される介護保険が始まるとのことで、介護向け製品の開発に力を入れておりました。

どのようなニーズがあるか、どうすれば使いやすい製品になるのかを検証するため、シニアの生活実態を研究するシルバー研究室を発足しました。

そこでは実際にシニアの方の生活動作を観察し、その後、レブリス推進部(シルバーの英字「SILVER」を逆から読んで「REVLIS<レブリス>と名付けました」の一部としてシニア市場でどのような製品が求められているのか、また今後必要とされるのはどのような製品なのかを研究し企画・開発を行っていきました。

2000年代に入るとさらに少子高齢化が進み、「高齢者にやさしい生活は、みんなが楽しい生活だ」として楽&楽計画事業がスタートしました。

高齢者にもハンデがある人にも一人でも多くの人が使いやすいものをつくる、高齢者やハンデのある方向けで無く、だれにでも平等に使いやすいというユニバーサルデザインへの取り組みに変わっていきました。

その取り組みを経て2004年TOTOは会社全体でユニバーサルデザインへの取り組みを行っていくようになりました。

それに伴い90年代にシニアの生活実態などを研究していたシルバー研究室が進化し2006年に「R&Dセンター」が設立されました。

シニア ビジネス シニアマーケット

Q.TOTOの考えるシニアマーケットとユニバーサルデザインの関係とはどのようなものでしょうか。

2007年、日本は65歳以上の割合が人口の21%を超え、超少子高齢社会となった日本は2011年から2020年にかけて60万の高齢者向け住宅を建設する計画をスタートしました。その計画のころにつくられたのが、病院・高齢者施設の主にトイレや浴室の施工のプランを集約した「病院・高齢者施設水まわりブック」です。

例えば浴室であれば浴槽と壁の間に介助用のスペースを確保する設計にするプランなど、利用者だけでなくそこで働くひとにも快適な水まわりの提供を現在もし続けています。

今後の高齢者向けの展開としては、住生活基本法に基づき、65歳以上のシニアが居住する住宅のバリアフリー化率を2011年から2020年までの期間で75%まで引き上げる計画があります。

国民の住生活の安定を確保および向上の促進に関する期間計画で、この計画は5年ごとに見直されることになっており、2015年には5年先送りの計画となりました。

この計画でいうバリアフリーの基準は2か所以上の手すり配置と屋内段差解消となっているため、手すりの設置や段差解消の整備に補助金などの支援が始まると考えられます。

しかし、かつての日本と比べ、今の社会でシニアといえど60代や70代でも生活に苦悩するほど健康に支障がなく、シニア向けのツールを好まない割合が増えています。

その一方で65歳以上の人口の割合は年々増えており、加齢による生活の変化に対応するツールの需要はどんどんと増えています。

現在はニーズが無くても、将来のために設置してもデザイン性を損なわない、デザイン性を重視した手すりなども多く展開しています。

シニア ビジネス シニアマーケット
image (3)

このような現代におけるシニアとのコミュニケーションでTOTOが心がけているのは、未来のために備えた、身体が不自由な方だけではなく、誰にでも使いやすい生活を提供していくことです。

現代のシニアの特徴を捉えた、シニアだけに向けたデザインではなく、誰にでも受け入れられるユニバーサルデザインという考え方はTOTOがこれからもめざしていく未来の形です。

シニア ビジネス シニアマーケット

TOTO株式会社ホームページ

http://www.toto.co.jp/index.htm


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

第17回 
トヨタ自動車株式会社
第16回 
大和ハウス工業株式会社
第15回 
株式会社京王百貨店

福祉車両ウェルキャブの
「普通のクルマ化」を目指した開発

製品企画本部 吉田氏 国内商品部 大野氏 広報部 堀野氏

 

世界トップクラスの自動車メーカー、トヨタ自動車(株)は福祉車両をWelcab(ウェルキャブ)と呼んでいます。Welfare(福祉)、Well(健康)、Welcome(温かく迎える)+Cabin(客室)  「すべての方に移動する自由を」のコンセプトを基に、お身体の不自由な方や高齢の方はもちろん、介護する方にとっても快適で安全なクルマをご提供できるよう、様々なウェルキャブを開発しているトヨタ自動車。今回は国際福祉機器展にて、2015年12月21日より発売予定の新開発「助手席回転チルトシート車」を中心にトヨタ自動車のウェルキャブ開発への思いをお聞きしました。

2016年3月 取材

シニア ビジネス シニアマーケット

Q.ウェルキャブ新車両「助手席回転チルトシート車」とはどのような車両ですか?

ウェルキャブには大きく分けて3つの種類があります。
車いすのまま乗り込むことができる「車いす仕様車」、お身体の不自由な方ご自身の運転をサポートする運転補助装置「フレンドマチック取付専用車」、座席への乗り降りをサポートする機能を装備した車両の3つです。

「助手席回転チルトシート車」は文字通り助手席が回転し、チルト(傾けること)により乗り降りをサポートする車両です。シートを手動で車両の外側へ回転させ、さらにチルトすることで従来のシートよりも立ち上がる際の体重移動が楽になり、足腰への負担を軽減できます。
そして介助する方が最も力を使うであろう引き起こす動作がほとんど必要なくなります。介助される方だけでなく介助する方にも優しい車両なのです。

シニア ビジネス シニアマーケット

Q.助手席回転チルトシート開発にはどのような背景があるのでしょうか?

本年12月21日より発売予定の新しいウェルキャブ「助手席回転チルトシート車」の開発は、いま日本が抱えている超高齢社会の問題へトヨタ自動車としてどのように取り組んでいくべきか考えるところから始まりました。

後期高齢者(75歳以上)の人口は、2010年に1,407万人、2025年には2,179万人と15年間で人口は1.5倍になると言われています。介護を必要とする人口が増えるのに対し、支える側の若者は減少し、2010年には1人の後期高齢者を5.4人で支えていたのが、2025年には3人で支えることになり、負担は約2倍になります。

医療費や介護費の拡大も予測され、このままでは破たんが危惧されるため国は政策の見直しの1つとして、在宅介護を中心とした制度改革を進めようとしています。

その結果、在宅介護サービスの利用者は2011年の300万人から2025年には約500万人に増え、実に総人口の4%にもなると予想されます。

こうした状況から、高齢者の在宅介護が増えることで「閉じこもり」の増加が心配されます。在宅高齢者は身体的機能の低下や活動意欲の低下、家族環境の変化などから家に閉じこもりがちになります。日常生活が非活動的になることで廃用症候群を発症、やがて寝たきりになり要介護者に進行しがちです。

高齢者本人の幸せのためにも、家族の介護負担を減らすためにも「閉じこもり」のない生活が重要です。自動車会社として、より高齢者が外出しやすい車両を提供することで高齢者の閉じこもりを少しでも減らし、いつでも気軽に出かけて欲しいという思いから、「助手席回転チルトシート車」を開発しました。

シニア ビジネス シニアマーケット
シニア ビジネス シニアマーケット

Q.助手席回転チルトシート車はどのような点で「介護負担の少ないクルマ」なのですか?

まず1つ目に、普通の駐車場スペースで使用できることです。既存の助手席への乗り降りをサポートする車両「助手席リフトアップシート車」は、例えば杖を使う高齢者が立ち上がるとき、頭が車両側面から110cmまで張り出します。

そのため車いすマークの駐車場以外では十分な幅を確保することができず、使用することができませんでした。

それに対して新開発の「助手席回転チルトシート車」は乗り降りの際に必要なスペースが、車体から最低45cmと大幅に小さくなったため、一般車両と同じ駐車スペースで使用できるようになりました。福祉車両を使用しているという感覚が薄れるのと同時に“よりたくさんの場所で人目も気にせずに使用できる”ということに繋がったのです。

そして2つ目に、雨の日にも使用しやすいことです。

上記でも述べたように車体から最低45cmのスペースのみで乗り降りできるということは、車体から出てくるシートの面積が小さくて済みます。

乗り降りをサポートする際に介助される方に傘をさしてあげると、シートも雨からカバーすることができます。そうすると人もシートも濡れずに済むのです。

シートを車内へ戻す時間も、既存の「助手席リフトアップシート車」では40秒かかったところを、新設の「助手席回転チルトシート車」では片手の操作で3秒と大幅に改善され、雨の日にも使いやすい車両が実現しました。

この2つの点により「介護負担の少ないクルマ」となりました。

シニア ビジネス シニアマーケット

Q.2014年から取り組まれている「普通のクルマ化」について教えてください

重ね重ねになりますが、高齢者の人口の割合が増え、在宅介護が進んでいるということは、福祉車両を必要とする方が増えるとも言えます。

ですが実際に介護をする年数が5年ほどというデータもある中で、介護が必要になった親のために福祉車両を購入しても、介護のために5年使用したのち、残った家族で使用するには使いづらい、短い期間だけのための購入はもったいないなどの理由で購入をあきらめる方もいます。

ですが、“親孝行をしたいその気持ちを諦めてほしくない”と私たちは考えました。

健常者のみで使用する際にも使いやすい、福祉車両と一般車両の隔たりを如何に無くした、介護される方にも介護する方にも優しいクルマの実現を試みました。

まだまだ世の中では福祉車両は特別なもの、大袈裟なものだと思われがちです。

歳を重ねてきて足腰が少し弱ったくらいで福祉車両なんて…、という声も聞いております。

そんな方にウェルキャブを福祉車両ではなく、標準車の1グレードとしての捉え方をしてもらえるようになれば、使用することがもっと身近になると思います。

私たちは“使いやすいクルマとは何か”を研究し改善することが、福祉車両の普及につながると考えています。人にとって使いやすいとは、機能性や用途だけでなく気軽さも重要なことです。

高齢者の人口の割合が増え、福祉車両の需要が増えれば、福祉車両をもっと気軽に導入できる環境が必要です。 今後もさらに「普通のクルマ化」を進めて、ウェルキャブをもっと気軽に取り入れるマーケットづくりが重要になってくると思います。

Q.福祉車両の購入を考える際に重要なことのひとつに「価格」があると思いますが、コストへの工夫はされていますか

シニア ビジネス シニアマーケット

 まず新設の「助手席回転チルトシート車」は手動で動かすという点で、リモコンで自動作動する「助手席リフトアップシート車」よりもコストが低いです。

さらに今取り組んでいるのが、ベース車を製作する段階から要件を織込むことです。

例えば後方の屋根を下げることにより、デザイン性はスポーツカーのようでカッコよくなりますが、下げてしまうと車いすで乗り入れることができなくなってしまいます。

そこで、初めからデザインに制約をかけ、ベース車の製造ラインを一般車両と同じにすることで、コスト削減ができます。

その他にも、車いすスロープ車には乗り入れをしやすくするために車体後方の高さを下げる「エアサス」という機能があります。この機能を後付しやすい構造を、一般車両としてのベース車両に取り込むよう、開発を同時に進めています。

しかし、福祉車両独自の機構に関しましては、数量が増えないことにはこれ以上コストを削減することは難しくなってきています。その点で、より多くの方へウェルキャブを普及させることが課題になります。

Q.今後、シニアに向けてどのような展開をお考えですか?

車両の開発はもちろんですが、新しい動きとしましては既存車両に取り付けることができるフレンドリー用品に力を入れております。

主に一般車両に取り付けることで、乗り降りのサポートをしたり、走行中の車内でも安心して乗車いただけるようなアイテムを取り揃えております。

既存車両へ取り付けするタイプですので費用も抑えられますし、福祉車両の購入までは至らないという方にぜひ体験してみて欲しいです。高齢者の方はカーブや段差を走行する際、体重を支えきれず少しの揺れでも不安に感じる方もいます。そういった不安を解消できるのが新型シエンタから投入した「フレンドリー用品」です。

例えば「アシストグリップ」は助手席の後方に取り付けたグリップを、セカンドシートへ座った高齢者が掴み、姿勢を維持することができます。そうすることで安全で安心な乗り心地を体感していただけます。

さらに手すりの替わりにもなるので、車両への乗り降りもサポートすることができます。その他にも楽にシートベルトを装着できるアイテムや、車体の揺れから上体を抑えるためにシートにパットを取り付けるなど、現在9種類のアイテムをご用意しております。

福祉車両など新技術の開発はもちろんですが、それだけではなく、どうすればすべてのひとが「移動する自由」をもっと身近に感じ、楽しく出かけられるクルマになるかを考えることで、介護される方はもちろん、介護する方にも快適で安心なクルマをこれからも提供し、暮らしをサポートしつづけていきます。

トヨタ自動車株式会社ホームページ 
http://toyota.jp/

トヨタウェルキャブ(福祉車両)ホームページ 
https://toyota.jp/welcab/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

第16回 
大和ハウス工業株式会社
第15回 
株式会社京王百貨店
第14回 
株式会社円谷プロダクション

セラピー効果に期待度が高まる
メンタルコミットロボット「パロ」

ヒューマン・ケア事業推進部 ロボット事業推進室主任 大場奈緒子氏

 

今や、産業界のみならず生活に身近で様々な利便性を提供してくれるロボット。 その中で今回は、人を元気づけ、安らぎを与えるメンタルコミットロボット※1「パロ※2」をはじめとしたロボット事業を展開している大和ハウス工業株式会社に取材を行い、シニアマーケットの中で「パロ」がどのような役割を担っているのか、また今後のシニアマーケットへの展開についてお聞きしました。

※1「Mental Commit Robot」、「メンタルコミットロボット」は国立研究開発法人産業総合技術研究所の登録商標です。※2「PARO」、「パロ」は株式会社知能システムの登録商標です。

2015年11月 取材

シニア ビジネス 高齢者ビジネス

Q. メンタルコミットロボット「パロ」について教えて頂けますか?

「パロ」は、タテゴトアザラシの赤ちゃんをモデルに作られ、2002年2月26日にギネスブックに認定された「世界で最もセラピー効果のあるロボット」です。国立研究開発法人産業総合技術研究所の柴田崇徳上級主任研究員によって開発され、現在は、どのようにしてセラピーに取り入れていくかを二人三脚で考えています。

ちなみに、初めて販売を開始した時の「パロ」は第8世代ですが、現在のモデルは第9世代です。色のラインナップはホワイト・ゴールド・チャコールグレー・ももいろの4色です。
「パロ」には、アニマルセラピーと同等の効果が認められており、人を元気づける・動機づける「心理的効果」、ストレスを軽減させる「生理的効果」、コミュニケーションを活性化させる「社会的効果」の3つのメリットが期待されます。

コストの問題や、排せつ・食事、アレルギー等の問題で実際の動物を飼うことが難しい方に対して、24時間いつでも利用者に寄り添うロボットとして活用されています。主に認知症の周辺症状(BPSD)の抑制、緩和が期待され、特別養護老人ホームやデイサービスなどの高齢者向け福祉施設だけでなく、小児病棟などでも採用されています。

世界的にも、アメリカでは医療機器として認定されている他、デンマークでは、自治体が運営するケアホーム等の約70%にて導入されています。

また、オーストラリアにおいても、大規模な検証実験が行われています。私たちは「パロ」とともに国内の施設を巡りながら有効的な利用方法をご案内するとともに、現場のご要望などをメーカーへフィードバックする役割も担っています。

シニア ビジネス 高齢者ビジネス

Q.ターゲットに対してはどのようなアプローチをしてらっしゃいますか?

当社は、平成元年に医療・介護施設に関わる問題を専門的に調査・分析する研究機関「シルバーエイジ研究所」を設立しており、高齢者向け施設の建設棟数は国内でトップクラスの実績があります。

そのため、ロボットだけでなく医療・介護施設の建設や、有料老人ホームなどの施設へのご案内等、大和ハウスグループ全体で総合的なサポートを提供できる体制をとっており、お客さまに対して「お困りのことは何ですか」といえるようにしています。

このように施設のスタッフの皆様や、施設をご利用頂いているお客さまの幅広いご要望にお応えしていくことで、これから先も末永くお付き合いさせて頂きたいと考えております。

Q.パロにこめられたこだわりなどを教えてください。

「パロ」は、性別や性格などの細かい設定はあえてしておりません。それぞれご利用いただくお客さまが、「パロ」をどう捉えるのか、という点にお任せしております。

例えば、犬を飼っていた方が、「パロ」にその犬の名前を付けることで心穏やかに過ごしていただけるのであれば、それで十分であり、その方の気持ちに寄り添うことが大切なのです。この仕事に携わらせて頂いてから、逆に勉強させて頂いています。

さみしい気持ちを抱えていたり、何か役に立ちたいという気持ちがあったり、思ったことが上手く出せなかったりする方でも、「パロ」を介して思いを引き出してあげることができるかもしれませんし、パロをお世話することで守ってあげたい存在ができるという点は大きいと思います。

Q.本日は、パロの実物を見せて頂いているのですが、とても可愛らしいですね。

音を感知するセンサーを全面に備えており、音に反応して顔を向けるようになっています。
また、なるべく本物の動物に近づけるため、スイッチが見えないところに隠されていたり、縫い目が分からない形になっていたりと、様々な工夫が凝らされています。

さらに、少ないアクチュエイターで自然な動きができるように追求してつくられています。いい言葉には喜び、悪い言葉には悲しそうな反応を示します。叩かれた感覚もわかるのです。日々の触れ合いの中で元気に育っていったり、おとなしくなったり、まるで感情があるかのように学習していきます。

また、「パロ」は自分で温度管理をしており、温度が上がりすぎると自ら休憩し、動物のような自然な温かさを保ちます。実際に抱いていただくとわかると思うのですが、新生児の赤ちゃんと同じくらいの大きさと重さになっており、体重は約2.5kgです。これはお子様が生まれたときに抱っこした感覚を踏襲しています。

パートナーとして長くご使用いただくために、一体ずつ手作りで仕上げられており、それぞれわずかながら表情に違いがあります。
制菌加工、防汚加工、抜け毛加工が施された人口羽毛が使われています。電磁シールドを施してあるので、ペースメーカーをお使いの方でも安心してご使用いただけるようになっております。

Q. パロが施設にいたら本当に人気者になりそうですね。パロに対して実際はどのような反響があるのでしょうか?

非常にご好評をいただいています。心穏やかに触れ合ってもらうことができるロボットですので、コミュニケーションを活性化させるツールの一つとして使って頂きたいと思っております。施設でのアクティビティとしてはもちろん、個室に連れて行って可愛がる方もいらっしゃいます。

シニア ビジネス 高齢者ビジネス

また、非常に嬉しい報告をお手紙でも頂いています。認知症を患うことによる不安な気持ちを解消してくれた、本人も家族も「パロ」によって元気になったというお話を聞くと、私たちとしても大変喜ばしく思います。

Q.シニアマーケットをどのように見ていますか。

超高齢化社会で、働く人が少なくなっていく中、マーケットとしては非常に大きいと感じています。
中でも、高齢者世代にはロングライフ時代の老後の暮らしに対する不安とどう向き合うか、あるいは快適な老後生活を実現するためのQOL(生活の質)の向上が強く問われているところがありますが、一番大切なことは「元気で長生き」というところだと思います。

こうした、「元気で長生き」をサポートする製品については、現場で利用する方の声が開発側者に届きにくく、現場と開発側にミスマッチがあると言われています。

そこで、利用者の声を届けるためには、販売代理店である私たちが、こういった生活支援ロボットの特性を理解し、利用者側に伝え、あわせて、現場ではどのような活用がされているのか、どのような改善点があるのかを開発者に伝えるという役割は非常に重要だと感じています。

もちろん「パロ」が全ての方に合うわけではないと思います。これからコミュニケーションを自ら活発にとる、介護予防ができる、脳の活性化を進めるなどといった特徴的なロボットが世に出てくることで、選択の幅が広がり、一家に一台ロボットがある状態も夢ではないと考えております。

また、サービスロボット業界全体の活性化にもつながると考えています。弊社も様々な用途のロボットを展開することで、在宅にて、「元気で長生き」していただけるよう励んで参ります。

Q.課題などありましたらお聞かせください。

介護負担の軽減のためにも「パロ」やその他のロボットを使って頂けたら、と思っております。常に徘徊する方や目を離したすきに移動してしまう方に対しては、つきっきりになる必要があるため、介護する側にもストレスや腰痛などの負担がかかってしまいます。

高齢化社会の中で、人でなければできないところ以外をロボットにサポートしてもらうことができれば、効率的で良い働き方に変わっていくのでは、と感じます。

「パロ」は、日本ではまだまだペットの代わりという面が強いので、セラピーとしての使用方法を普及させていきたいと思います。まずは、多くの人に知って頂くことが必要だと感じています。

シニア ビジネス 高齢者ビジネス

Q.様々なロボット展開をされているということですが、そのほかにはどのようなロボットがあるのでしょうか。

尿を自動で吸引しおむつ交換の手間や負担を軽減する「ヒューマニー※3」、体重を免荷しながら安全な歩行訓練をサポートする「POPO(ポポ) ※4」、脚力が低下した方や下肢の不自由な方の自律動作をサポートするロボットスーツ「HAL(ハル) ※5」、難聴の方をサポートする耳につけない会話支援機器「COMUOON(コミューン) ※6」、悪路でもスムーズな車椅子の移動をサポートする「JINRIKI(ジンリキ) ※7」など、人・暮らし・社会をアシストするための事業展開を行っております。

実際に触れてみなければ分からないこともあるかと思います。大和ハウス東京ビル1階にございます、当社の高齢社会への取り組みを紹介する施設「D’s TETOTE(ディーズ テトテ)」では、コンセプトムービーや実際の商品を紹介しておりますので、当社にお越しの際はぜひお立ち寄りください。

※3「HUMANY(ヒューマニー)」、「Humany」はユニ・チャーム株式会社の登録商標です。
※4「POPO(ポポ)」は株式会社モリトーの登録商標です。
※5「ロボットスーツHAL(ハル)」「CYBERDYNE」、「ROBOTSUIT」はCYBERDYNE株式会社の登録商標です。
※6「COMUOON(コミューン)」はユニバーサル・サウンドデザイン株式会社の登録商標です。
※7「JINRIKI(ジンリキ)」は中村正善氏の登録商標です。

大和ハウス工業株式会社 ホームページ
http://www.daiwahouse.co.jp/index.html


 

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第15回 
株式会社京王百貨店
第14回 
株式会社円谷プロダクション
第13回 
株式会社大塚製薬工場

シニアマーケット創出には
「リピーターの育成」が重要

株式会社京王百貨店
経営企画室 部長(経営企画・広報担当) 新藤 佐知子氏
営業政策部 営業政策担当 統括マネージャー 常井 克清氏

 

「シニアマーケティング」という単語すらない20年前からシニア層をターゲティングしてきた株式会社京王百貨店。同社はお客様の声を第一と捉え、売場の販売員と連携しながら長きにわたりマーケティング活動を推進しています。今回のインタビューでは、取り組みのきっかけから、シニア予備軍の取り組み施策、また2014年11月にオープンした「くらしサプリ」、そして今後の取り組みに至るまで、幅広くお話をお聞きしました。

2015年3月 取材

keio

Q. 現在シニアマーケティングにお取り組みされていらっしゃいますが、まずお取り組みのきっかけを教えてください。

まずは、取り組みを始めたのは20年前に遡りますが、当時はまだ「シニア」というよりも50代の「ミセス」という据え方でした。この「中高年」のお客様を大事にしようという考え方が、当社のシニアマーケティングの第一歩だったといえます。

そして、このような考えに至ったのは、百貨店の売上が1991年をピークに下落傾向に入った頃のことです。

また、同タイミングで新宿の南口に髙島屋さんが出店されることになり、大型百貨店がひしめく新宿駅エリアに髙島屋さんができたら、本当にお客様がいなくなってしまうのではないか・・・と、創業以来最大の危機と受け止め対策を講じることになりました。

そこで、京王百貨店としての強みを新たに見直したときに出た案の一つが、「中高年」や「ミセス」だったわけです。

新宿店のように駅に隣接する店舗は、比較的年齢層の高いお客様が多い傾向にあります。

更に当時は創業30周年を迎えるタイミングでした。

つまり京王百貨店が創業した当時に、20~30代で、長きに渡り当社を支え続けてくださっていたお客様が、50~60代にさしかかる頃です。

50~60代という年代は、ご自分の時間ができ、お金が持てるようになり、また若い頃、独身の頃のように買い物に戻ってきてくださる年代でもあります。

そこで、創業当時からご愛顧くださったお客様を改めて大切にしていくという意味も込めて、このような取り組みを始めました。

Q.具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか。

ひとつ目にはミセスの皆様へのわかりやすいアプローチです。

京王百貨店には婦人服フロアが3つあるのですが、そのうちの1つを戦略フロアと位置付け、ミセスのお客様にターゲットを絞った商品展開を開始しました。それが1995年の秋頃の試みになります。

ミセスの皆様が洋服の購買する動機として最も大きいのが「旅行」です。しかし、当時はまだバブル直後でしたので、他の百貨店も含めて洋服はまだまだ価格が高い時代でした。

そこでミセスの皆様向けに、1万円前後の価格帯で、かつ旅行や日常のちょっとしたお出かけに相応しい洋服ラインナップの充実化を図りました。ポイントとしては、「旅行にも使えるけど、あくまで日常性を大事にする」ということです。

ふたつ目の取り組みが、1階に設置したウォーキングシューズの専用コーナーです。今でこそこのような売り場はよく見られるようになりましたが、当時の百貨店の婦人靴売り場というのは、パンプスなどのヒールがある靴が圧倒的に中心で、ウォーキングシューズは売場の片隅に置いてある程度でした。

新宿店は駅に隣接している店舗ですし、ミセスは特に足に悩みのあるお客様が多いだろうと想定し、そのお客様をリピーターにつなげるための独自性のある売り場をつくれるのではないかということで、ウォーキングシューズの専用コーナーを作りました。

新設した売り場では、単に商品を並べるのではなく、お客様に積極的に商品提案できるような環境も整備しました。
シューフィッターの資格を持つ社員を配置し、お客様の足に合う一足を、ブランドの枠を超えてご提案できるような体制を整えました。この試みが非常に好評で、今に至っております。

Q.お取り組みをされるにあたり、当時ご苦労されたことはありますか?

繰り返しになりますが、当時はシニアマーケットという言葉自体ありませんでした。ですので、シニアというターゲットの中に大きなマーケットが存在するのかどうか、そして仮にそのようなマーケットが存在したとしてそのマーケットは百貨店が狙うべきものなのかどうか、手探りのまま進めておりました。

その当時の当社の決断は業界内でも異端児扱いされました。取引先様からも当社の先行きを疑問視するお声をいただいた記憶もございます(苦笑)。

Q.シニアマーケットという言葉自体がなかった当時から現在に至るまで、マーケットを分析にはどのような手法を用いられましたか?

当初からシニアマーケットの創出のために重要なのは「リピーターの育成である」と考えておりました。そのための施策としてカード会員の獲得キャンペーンをはじめました。売上の約7割がカード会員の情報になると、カード会員情報が店全体の傾向を示してくれると言われています。ですので、まずはとにかく7割のお客様にカードを保有していただくべく、積極的にカード会員様を増やしていきました。

その結果、1994年は約20万人程度だった会員が、1999年に50万人を突破しました。現在は100万人を超えています。カードデータというのは、いつ、どこで、何を買ったのかが明白にわかります。ひいてはそこからお客様の顔が見えてきます。流通業にとってカードから得られる購入履歴というのはナニモノにも変えがたい非常に有益な情報です。

しかし購入履歴をベースにしているカード情報だけでは、どうしてもわからない情報があります。それは「買わなかった」という情報です。

マーチャンダイジングを行うに当たって、「お客様が何を購入しなかったのか」、「なぜ買わなかったのか」という情報は、「買っていただいた」という情報に勝るとも劣らず重要なソースとなります。この情報を得るためには、お客様と会話をしている販売員から情報を吸い上げるしかありません。

この点を踏まえ、カードからの購買データ、いわゆる定量データと、販売員メモとして収集するお客様の声、いわゆる定性データをうまく組み合わせて、マーチャンダイジング、顧客対策、そして売場づくりにフィードバックしていったのです。やがてこの活動が奏功し、お客様がまたご来店され、またその声に応える・・・という好循環のスキームが始まりました。

このスキームにより、少しずつお客様のご支持を得るカテゴリーを増やしていくことができました。今のような売り場が構築できた背景には、このようなマーケティング分析があります。

Q.当時の百貨店の戦略はエリアマーケティングが主流だったと思うのですが、その点はいかがでしたか?

はい、ご存知のとおり、京王百貨店はご存知のとおり京王電鉄を核とした京王グループの百貨店です。ですので、必然的に京王沿線を中心とした小田急線・中央線沿線などを含んだ、いわば新宿以西が、主要な商圏になっておりました。

しかし、生き残りの策としては取り組んだ中高年戦略は、他の百貨店にない特徴です。
立地だけではなくニーズによって店を選ぶという時代に少しずつ変わっていく中で、当社の試みは結果的に新宿に乗り入れている都営新宿線や埼京線等、広域エリアのお客様にも振り向いていただくことに繋がりました。

結果として、シニアというターゲット設定を行ったことが、京王百貨店の商圏を「新宿以西という線から、新宿を中心とした面へ拡げてくれた」と言ってもいいかもしれません。

Q.京王百貨店の突出したシニアマーケティングは、その後どのような反響を生みましたか?

当社の戦略が少しずつ認知され、また、団塊世代の定年退職に伴いシニアマーケットが俄然話題性を集めたのが2007年頃でしたが、ちょうどその頃から、私どもも自身の持っている強みを、もっと外に切り出していけないかという検討を始めておりました。

そしてちょうどその頃、三井不動産のららぽーとさんから、出店のオファーをいただきました。当時、ショッピングモールは増加傾向にあり、全国各地に大型のショッピングモールが林立し始めていましたが、そのテナントはほとんどが若年層をターゲットにしている出店傾向でした。

そんな中「3世代集客」という課題に取り組まれていたららぽーとさんでは、3世代の皆様に幅広くお買い物をしていただけるようなモール作り、すなわち特に祖父母世代の皆様にも支持していただけるようなテナント展開を実現するため、当社のノウハウにご期待くださったのです。

その後2009年にららぽーと新三郷内に京王百貨店初のサテライト店を出店。洋服を始め和・洋菓子、そしてギフト商品などを取り揃えたショップですが、京王百貨店のシニア戦略が、沿線外へ進出を果たした第一歩となりました。

前述したとおり、元々鉄道系の会社ですので、京王線沿線以外に出店するイメージはなかったと思いますし、私ども自身にもそのような発想はありませんでした。

しかし、中高年に強いという特徴を作れたからこそ、このようなお声掛けいただけたのだと思います。
ららぽーと新三郷への出店により、都心部とは違った百貨店に対する需要があることが分かりましたので、2012年にはセレオ八王子にも出店し、2015年の4月にはららぽーと富士見にも出店することになりました。ここから得られる新しいノウハウをもとに、今後は更に新しい市場への進出に取り組んで行きたいと考えています。

Q.出店のみならず、商品開発にもチカラを入れてらっしゃるとお聞きしておりますが?

はい、2014年からアパレル事業への取り組みをはじめております。長年の取り組みにより、ミセスファッションのノウハウも蓄積されてきましたので、同じ京王グループの関連会社である株式会社エリートを通じて、「ミ・デゥー」という婦人服ブランドの製造・小売り・卸売を手掛けています。

当初は新宿店と聖蹟桜ヶ丘店の2店舗でスタートしましたが、今後はメーカーとして他の百貨店への出店や専門店への卸売り事業を進めていきたいと考えています。

また、2年目となるこの春夏商品からは、価格を抑えたセカンドラインを立ち上げました。
聖蹟桜ヶ丘店やサテライト店のような郊外型の店舗では、より買いやすい価格帯が求められるからです。現在はサテライト3店舗でも展開をしています。

これらのブランドをうまくミックスさせながら、地方や郊外にも出ていきたいと考えており、2015年秋からは他の百貨店にも出店する予定です。

Q.マーケティング活動をされる中で、何かキーワードになるものはありますか?

皆様もお気づきの通りだと思いますが、やはりシニアの皆様の関心事というのは、まずは「健康」、そしてその先にある「美」といったキーワードだと思います。ただ、今では想像し易いこれらキーワードですが、私どもがそこに需要があるということが分かり始めたのは2001年頃だったと思います。言い換えれば、特にその頃からシニアの皆様の「健康と美」への投資が目立ってきたと言えるのではないでしょうか。

また、20年もシニアマーケットと向き合っていますと、その間にもお客様の世代交代、そしてライフスタイルや嗜好の変化を感じる場面は多々あります。顕著なのは、当初私たちがターゲットにしていた戦前生まれのシニア方と、団塊世代の違いです。戦前生まれの方は日本式のスタイルで育ち、よく歩かれ、そして畳の上で暮らす生活を主としていました。しかし戦後世代は椅子中心の生活を送ってらっしゃる上、戦前世代の皆様とは食事環境や栄養摂取状況も違います。

ライフスタイルの違いについてはよく言われますが、このような生活環境の違いから戦前世代と団塊世代では、例えば足の形などにも違いが見出せます。同じシニアといっても、20年の間に心身ともに変化が起こっているのです。

ならば、同じウォーキングシューズでも戦前生まれの方たちとは形状も異なりますので、世代に合わせた商品を提案していかなければいけません。ひとつの売り場内でも、このようなマイナーチェンジを繰り返していく必要があります

Q.戦前生まれから団塊世代、そしてその先の世代はどのように捉えられているのでしょうか。

これから先の世代として特徴的なのは、バブル世代やハナコ世代とも呼ばれるグループに象徴されるような40代後半から50代のお客様ですね。この15年間の顧客動向を見ると50代後半から70代前半にかけて大きなお買上げのヤマができる傾向にあります。次世代シニアであるハナコ世代へもっと種をまき、購買を増やしていく必要があります。常に現在の中心顧客を大切にしながらも次の新しいシニア層との接点を拡大し、そのニーズを探り、挑戦していかなくてはなりません。

幸い私たちが店を構える西新宿はオフィス街であり、ここには次世代シニア層である40・50代の女性が数多く勤務していらっしゃいます。この方たちへのアプローチを数年前から強化しています。この世代は年を重ねてもシニアと呼ばれたくないと思っているものの、年齢による体型変化に対応した、おしゃれで着心地の良い婦人服を求めています。そこで、2014年に「プレミアムキャリアスタイル」というキーワードで婦人服売場を改装し、管理職もいらっしゃるであろうこの層のオフィスファッションを拡充しました。3フロアある婦人服売場の中でも、このゾーンは好調で確実に顧客を増やしています。

目の前にいらっしゃる顧客のニーズを吸い上げ、売場展開に反映させていく、というのは当社の得意な手法ですので、これまで私たちが培ってきた強みをうまく生かしていきたいと思います。

Q.シニアターゲットに訴求する際気を付けていらっしゃること等あればお聞かせください。

なんといってもシニアは百貨店に対して大きな信頼を寄せてくださっていますので、その信頼に応えることが第一です。それとともに百貨店にいらっしゃる方は、店頭での人と人とのつながり、会話を求めていらっしゃる方が多いので、売場での接客対応が重要です。

また信頼、ということでは、たとえばテレビでご覧になるアナウンサーの方がお召しになっているファッションなどにも好感を持っていらっしゃいますし、お友達の口コミを含めて信頼できる相手からの情報を優先する傾向は強いと思います。

その他、シニア世代への訴求はWEBメディアが有効でないというお話もよく耳にしますが、以前に比べてWEBでのお買物は増えています。シニアとWEBの関係も変化していると思いますし、これからのターゲットに対してWEBは一つの情報の動線に十分なりうるであろうと捉えています。

Q.昨今の新たなお取り組み、「くらしサプリ」についてお聞かせください。

ミセスへの取り組みをはじめた約20年前の中高年の環境や関心、ニーズはある程度ステレオタイプでした。しかしながらこの10年ほどで急速に幅が広がっていると実感します。嗜好や消費動向も変化していますし、また非常に多様化していると言えます。

これまでのモノ軸ではある程度お客様のニーズに応えた商品展開や売場づくりができていると思うのですが、それだけではニーズの多様化に応えられなくなってきました。

そこで、モノ軸だけでなく、もう一歩踏み込んだコトを充実させようと取り組みをはじめ、2014年11月に8階フロアにある「くらしサプリ」をスタートさせました。

現在、「いきいきと生きる」「わくわくを楽しむ」「あんしんを増やす」「かいてきに暮らす」という4つの分野で写真のようなサービスを展開しております。

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近年は、シニア向けのサービスもかなり増えてきていますが、そのニーズが多様化している分、利用者の目線に合致していないものも多数あります。

例えば、人間ドッグやMRI等は、医療機関に申し込めばどなたでも受診可能ですが、ご夫婦で一緒に受診しようと思ってもこれらのサービスは実は受診可能日が男性と女性分かれていることが多いのです。「夫婦一緒に人間ドッグに行きたい」というお客様のお声を受けて、医療機関様に働きかけています。

また、「くらしサプリ」は一次的なニーズに呼応するだけでなく、「潜在的な部分まで含めてニーズに対応してくれる場所」、「問題を解決できる場所」、そして「楽しいことがある場所」であることを目指しています。そのためカウンターサービスだけではなく、定期的にイベントも開催しています。買い物に来られたついでに同じ建物内で教室等に参加できるという気軽さもあり、非常に好評です。もちろん、リピーターのお客様も多くいらっしゃいますので、毎回違うコンテンツで楽しんでいただけるよう、季節に合わせて変化させたりするような工夫も施しています。

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Q.コトを商品にするとなると、目に見えないものを商品化するわけですが、どのようなプロセスで商品開発をされるのでしょうか。

モノ軸と同様に、お客様が望まれることを対面で拾い上げ、それに応えられるようなサービスに開発しています。特にお客様のニーズを拾うということは、京王百貨店としてこれまで売場で実践してきたことを十分に活かせる部分です。

売場ではありませんが、8階にはカウンターを設けておりますし、イベント開催時にお客様のお声・ニーズをできる限り拾うようにしています。

カウンターではコンシェルジュのように色々なサービスの中からお客様のニーズにあう商品をご提案しているわけですが、当然お応えできない場合もあります。もっとこんなサービスがあればニーズに応えられるのに、といった現場の声も重要になってきます。

またお客様のお声がモノにつながることもあります。お客様自身何となくこんなコトがしたい、とおっしゃっていても、お話を聞いていくとニーズを満たすのが実はモノであったりします。本来「くらしサプリ」はコトのサービスですが、モノの商品開発にもつなげていける可能性も秘めています。

それができるのも、京王百貨店が全国展開していないからというのもあると思います。全国何十店舗も展開していれば、ニーズの最大公約数を反映せざるを得ないのですが、2店舗という小規模でありながらも、新宿という立地である程度のターゲット母数がありますので、それに応えるだけでもかなりのマーケットはありますね。

Q.人気のサービスやイベントはどのようなものでしょうか。

イベントですと、スマートフォンやタブレット教室、絵画教室等が人気です。

「健康」というキーワードも非常に人気ですが、それと同じくらい「楽しむ」ことに対しての関心が大きいように思います。特に絵画教室はお申込み多数で早くから定員に達することが多いですね。「楽しむ」ということや「趣味」に関しては、これから元気なシニアが増える中で非常に有用なコンテンツかと思います。

Q.戦前生まれの方から団塊世代、ハナコと3つのフェーズがあるとお聞きしたのですが、大きくなっていくシニアマーケットをどのように区分し整理していらっしゃるのでしょうか?

これまで年代を軸にターゲットを考えてきましたが、近年定年後も仕事をされる方もいらっしゃれば、年金をもらっている方、単身の方等さまざまですし、生活スタイルも多様化しています。昔は比較的画一的なマーケットだったものが、最近は年齢軸だけでは区切れないほど細分化されていますので非常に難しいですね。これからもお客様のお声を分析し、新たな軸を見つけていきます。

Q.最後に、「くらしサプリ」も含め、今後の取り組みについてお聞かせいただけますでしょうか。

これから、もっともっと元気なシニアが増えることが想定されますので、趣味の分野は増やしていきたいと考えています。

これと、同時にやはりニーズが大きい介護関連への取り組みも重要と考えています。
趣味と介護は真逆の要素ではありますが、ニーズが顕在化しているにも関わらずそれに応える商品・サービスが不足していますので、我々としても何とかお客様の声にお応えできるようにしたいです。

シニアという言葉はどうしてもネガティブな印象がつきまとってしまう側面があります。

しかしそんなイメージを払拭して余りあるほど、明るく楽しく暮らしていただけるような、ポジティブな施策をどんどん打って行きたいと考えています。

特に介護となると、大変、辛い、というイメージが強くなってしますが、極端なことを言えば「介護でさえ明るく前向きに」なるようなサービスをご提供することが私どもの使命です。

そしてもう一点、今後の強化ポイントはWEBとの連動です。

イベント等の告知ももちろんですが、イベントへのエントリーや、WEB上のコンテンツ自体がサービスの一環になるように提供していきたいですね。

今のシニアの皆様も既にWEBには積極的に触れ合っていらっしゃいますが、これから5~10年後のシニアにおいてはその傾向は更に顕著です。

例えばWEBでのお買い物など何の抵抗もなく、当たり前にこなされる世代です。
現在でも一部eコマースには取り組んでおりますが、この点を更に強化し今後更にお客様と接点を拡大していきたいですね。
そうすれば、「お客様の声を現場に反映する」という従来からの京王百貨店らしさを、WEBによっても築いていくことができるはずです。
最後に、私ども京王百貨店には幸いにしてご支持をいただいている「お客様」と、コミュニケーションの場としての「スペース」があります。
これらの経営資源を活用して、これからも新しいマーケティング活動にチャレンジしていきたいと考えております。
ですので、同じくシニアマーケティングにチャレンジしようとしているメーカー様やサービス業様とは積極的に協力し、新たな商品やサービスの開発をさせていただければと願っております。ぜひ、お声掛けをお待ちしております。

株式会社京王百貨店 ホームページ
http://www.keionet.com/defaultMall/top/CSfTop.jsp

くらしサプリ ホームページ
http://info.keionet.com/shinjuku/event/kurashisapli.html


 

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第14回 
株式会社円谷プロダクション
第13回 
株式会社大塚製薬工場
第12回 
からだづくり三鷹

三世代マーケティングは、歴代
「ウルトラマン」の共演と、世代を超えて
共有したいメッセージが重要」

株式会社円谷プロダクション 代表取締役社長 大岡 新一 氏

 

ウルトラマンシリーズのテレビ放送開始から、来年で50周年を迎える円谷プロダクション。今回のインタビューでは、ウルトラマンが支持される理由、作品に込められているメッセージから、シニアの定義、そして三世代マーケティングに成功したキャラクターといわれる要因など、幅広くお話をお聞きしました。

2015年7月 取材

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「ウルトラマン」 Blu-ray BOX 好評発売中

Q.ウルトラマンは長年のヒットシリーズですが、ヒットの要因は何だと思われますか?

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ウルトラマンシリーズは1966年に『ウルトラマン』がテレビ初放映されてから、いよいよ来年の2016年には50周年、また『ウルトラマンティガ』が放映されてから20周年と、節目の年を迎えます。

これだけの長きにわたってウルトラマンシリーズを続けてこられたのは、やはり創業者の円谷英二をはじめとした制作スタッフの誰も見たことがない作品を作り上げようという情熱と、それを支持してくれたファンのおかげでしょうね。

多くの方に支持される作品というのは、計算だけでは絶対につくれないと思うんです。一番重要なのは情熱じゃないでしょうか。

円谷英二と一緒に仕事をして、会話したことのある人間は、円谷プロダクションの中でほぼ私だけだと思いますが、円谷英二は「映画ではなく、テレビで新しいことをやりたい」、「子供たちに喜んでもらえるものを作りたい」、「いいものを作りたい」という熱い想いを持つ、いわゆる“職人”でした。

その熱意で、30分のテレビ番組とはいえ、撮影中にピアノ線が少しでも映り込んだ時や、編集されたものが面白くなければ、すぐやり直しをするようにスタッフに命じていましたね。あまり大きな声では言えませんが、相当な赤字だったはずです。(苦笑)

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また、円谷英二だけではなく、シリーズ構成を担当した脚本家の金城哲夫や、ヒーローや怪獣のデザインを担当した成田亨をはじめとした他スタッフも同じ想いを持っていました。

作品にはクレジットが残りますし、人気を得たシリーズならば再放送という形で5~10年先でも見てもらえる可能性があります。そのため、スタッフもいい加減な作品にはできないので余計に力が入るという別の作用もあったのかもしれません。

今現在でも我々はその情熱を受け継いで作品をつくっていますが、限られた制作費の中で、知恵を出しながら、視聴者が期待に応える作品をつくらなければいけませんので、いい意味でプレッシャーを感じています。“ものづくり”は本当に苦しいですよ。

また、円谷英二だけではなく、シリーズ構成を担当した脚本家の金城哲夫や、ヒーローや怪獣のデザインを担当した成田亨をはじめとした他スタッフも同じ想いを持っていました。
作品にはクレジットが残りますし、人気を得たシリーズならば再放送という形で5~10年先でも見てもらえる可能性があります。そのため、スタッフもいい加減な作品にはできないので余計に力が入るという別の作用もあったのかもしれません。

今現在でも我々はその情熱を受け継いで作品をつくっていますが、限られた制作費の中で、知恵を出しながら、視聴者が期待に応える作品をつくらなければいけませんので、いい意味でプレッシャーを感じています。“ものづくり”は本当に苦しいですよ。

もう一つの要因を挙げるとしたら、メディアの変遷です。

1966年当時のカラーテレビの普及率は1~2%程度でしたので、当時の視聴者の多くは、モノクロで見ていたんです。ウルトラマン特有の赤と銀のカラーリングや、カラータイマーの点滅、隊員のたちの服装の色も、何色なのか分からない。

それが、カラーテレビが普及するようになると、モノクロの世界観とは全く違う作品に見えますので、更に深く記憶に残ったのかもしれません。

更に、当時は特撮作品がほとんどありませんでしたし、ヒーローものも今ほど多くありませんでした。そのため、怪獣ものなどの特撮作品はお金を払って映画館で見るしかなかったのですが、ウルトラマンはテレビで無料で見られるということもあり、一気に支持を得ました。当時の最高視聴率は42.8%。今振り返ってみても、すごい数字ですよね。「映画ではなく、テレビで新しいことをやりたい」というスタッフの情熱が視聴者にも伝わったのではないでしょうか。

もう一つの要因を挙げるとしたら、メディアの変遷です。

1966年当時のカラーテレビの普及率は1~2%程度でしたので、当時の視聴者の多くは、モノクロで見ていたんです。ウルトラマン特有の赤と銀のカラーリングや、カラータイマーの点滅、隊員のたちの服装の色も、何色なのか分からない。

それが、カラーテレビが普及するようになると、モノクロの世界観とは全く違う作品に見えますので、更に深く記憶に残ったのかもしれません。

Q.ウルトラマンシリーズを通じた三世代マーケティングについてお聞かせください。

ウルトラマンダイナ-blu-ray-box-2015年9月25日発売
ウルトラマンダイナ-blu-ray-box-2015年9月25日発売

ウルトラマンシリーズの放送開始当時に子供だった世代は、現在55歳~65歳になります。放送開始から来年で50年になり、その間にシリーズを作り続けてきましたので、その子供も孫もウルトラマンシリーズを見ているんですね。

過去の作品を三世代で見るというのはなかなか難しいかもしれませんが、最新の作品の中で、ウルトラマンが戦ってピンチになると、歴代のウルトラマンが助けにくる設定にしています。つまり、今の子どもが見ている最新のウルトラマンシリーズの中で、親や祖父の世代に登場したウルトラマンが共演するということです。三世代で同じヒーローを共有できますので、「このウルトラマンは昔こうだったんだよ」、「この当時こんな怪獣と戦っていたんだよ」と世代間の会話が生まれます。世代が違っても、共通項の話題が持てる。これが我々の三世代マーケティングの特徴ですね。

1966年当時は放送時間帯も含めて、子供のためだけの作品ではなく、大人を含めたファミリー向けの内容でした。平成以降は玩具メーカーのバンダイさんと一緒につくってきた経緯もありますので、どうしても子供向けコンテンツとして思われがちです。しかし、我々は昔から変わらず、子供だけではなく大人に対しても大人だからこそ本質的に分かるメッセ―ジを込めて制作しています。

そのメッセージの根底にあるのは、「愛」、「正義」、「あきらめない気持ち」といった普遍的なものですが、各時代の背景や価値観を踏まえています。

どの作品でも、ヒーローであるウルトラマンが、地球の平和のため怪獣と戦う、というストーリーですが、登場する怪獣の特徴やバックグラウンドの設定で我々のメッセージを込めて表現することが多いですね。

怪獣あってのウルトラマンですし、数多くの怪獣がいることでファンに楽しみを与えていますので、一番のヒーローはウルトラマンですが、主役は怪獣といっても過言ではありません。

Q.込められたメッセージの具体例があれば教えてください。

2011年3月11日の東日本大震災が起きる前、新しい映画の脚本開発をしており、ほぼ方向性が決まったところでした。しかし、その後震災が起き、あれだけの甚大な被害がありましたので、怪獣がビルを次々に壊すというという描写を全て変更することにしました。そして完成させた作品が、2012年3月公開の「ウルトラマンサーガ」です。

今の世の中、どうしても目先のことばかりになってしまいがちですし、震災のことも時が経てば風化してしまいます。

しかし、あの時日本全国で共有した「復興」、「助け合おう」、「みんなでがんばろう」といったことは、これから先の世代とも共有していかなければなりませんよね。「ウルトラマンサーガ」にはそんなメッセージを込めました。

直接的なメッセージではないですが、震災を経験した世代が、将来の子供、孫と一緒に見てメッセージを共有できるよう、映画の最後にウルトラマンが宇宙に帰るシーンで、夜の暗い東北地方に明かりが少しずつ点いていく演出にしました。

我々としては、こういったメッセージを込めたウルトラマンシリーズが各世代間をつなげる、接着剤になってくれると信じています。

Q.「シニア」とはどう定義づけされていますか?

帰ってきたウルトラマン-blu-ray-box-2015年11月26日発売
帰ってきたウルトラマン-blu-ray-box-2015年11月26日発売

よく60歳以上、65歳以上をシニアとされることが多いようですが、60代後半でも現役の方もいらっしゃいますし、色んな立場の方がいらっしゃいますので、年齢で定義づけないほうがいいですね。

我々はコンテンツ軸で定義づけており、「ウルトラマン」放送開始当時の視聴率約40%を支えてきた世代の方を「シニア」としています。

また、ウルトラマンというヒーローの特性上、どうしても我々にとっての「シニア」=男性になってしまいます。ウルトラマンの認知度自体は90%以上ありますが、一般的に女性はヒーローに興味ないですよね(笑)。ウルトラマンという名前は知っているが詳しい内容までは分からないという女性がほとんどだと思います。 ただ、女性が安心してお子さんやお孫さんに見せることができるコンテンツ、キャラクターだと思いますので、女性の好感度も高いのではないでしょうか。

「シニア」世代は長年のファンですから大切にしていきたいですし、これから更に密なるコミュニケーションをとっていきたいと考えています。

ウルトラマンというキャラクターを通じて若い頃を思い出し、元気をもらうなどして活力にしていただきたいですね。それが今までウルトラマンを育ててくれたファンへの恩返しですし、社会の一員として我々がやらなければいけないことだと思っています。

Q.「シニア」とはどんな特徴を持っていると思われますか?

私も68歳(取材当時)のいわゆるシニア(認めたくはありませんが・・・)ですが、70年安保時代を経験した世代ですので、それぞれが異なる価値観・生きる指針を持っています。何か押し付けられると、“そうじゃない!おれたちはこういうやり方をしてきたんだ!”という、プライドのようなものですね。

そのため、「シニア」という大きい括りの中で、何か一方的に押し付けても、あまり響かないと思います。価値観が多種多様だからこそ、それぞれのバックグラウンドに応じたやり方が必要です。
しかし、唯一大きい括りの「シニア」の中で入り込めるキーワードがあるとすれば、それは「孫」です。

私自身も3人の孫がおりますが、孫には絶対嫌われたくないんですよ(苦笑)。ここだけの話、子供より可愛いです。親ではないので、教育についての責任もないですし、とにかく財布の紐が緩みます。同窓会での話題も、「病気」か「孫」の話がほとんどですし、皆「孫」の話になると顔つきが変わりますよ。

Q.ウルトラマンは三世代を共有できる数少ないキャラクターと思いますが、何かベンチマークされている企業やキャラクターはありますか?

他キャラクターや企業の展開を模倣するのではなく、円谷プロダクションならではの展開をしていきたいと思いますので、特にベンチマークしているところはありません。できれば、我々が「三世代マーケティング」におけるモデルケースになるように結果を残さなければいけませんし、それが責務だと考えています。

前例がないため、新しい取り組みとなると知恵を絞らなければいけませんね。

例えばですけど、日本国内だけでなく、ウルトラマンの認知度の高いアジアでの企画展開等、マーケットを広げていきたいと思っています。それには、さまざまな視点や戦略が必要ですし、海外の方と情報共有・交換することにより、我々の想像を超えた成果が生まれるかもしれませんね。

 

ウルトラマンx-毎週火曜日夕方6時より-テレビ東京系列-ウルトラマン列伝-内にて好評放送中 ©円谷プロ
ウルトラマンx-毎週火曜日夕方6時より-テレビ東京系列-ウルトラマン列伝-内にて好評放送中 ©円谷プロ

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円谷ステーション – ウルトラマン、円谷プロ公式サイト
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第13回 
株式会社大塚製薬工場
第12回 
からだづくり三鷹
第11回 
株式会社バスクリン

シニアへの認知・理解促進は、
第三者を介在させた
間接的コミュニケーション

株式会社大塚製薬工場 OS-1事業部 マーケティング部 坂下 悠一氏

 

世界の人々の健康に貢献することを目標として事業展開する大塚グループの中で、日本市場の約50%シェアを誇る輸液メーカー、大塚製薬工場。そして、医療現場で蓄積したノウハウから、一般生活者向けに開発された“経口補水液”『オーエスワン』。今回のインタビューでは、『オーエスワン』の開発のきっかけから、リーディングカンパニーとしてのマーケティングゴール、現在の課題、そして今後拡大するシニアマーケットをどう捉えているのかなど、幅広くお話をお聞きしました。

2015年3月 取材

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Q.まず『オーエスワン』の商品についてお聞かせいただけますか?

大塚製薬02

『オーエスワン』は、いわゆる“経口補水液”といって、軽度から中等度の脱水状態の際に失われる、水と塩分を補給・維持するのに適した“病者用食品”です。

私たちの身体の中にある体液というのは、単なる水だけではありません。
ナトリウム(塩分)やカリウム等、健康な身体を維持するために必要な成分が含まれております。汗や尿・便によって日常的に排出され、それを食べ物や飲み物から吸収する、というサイクルでバランスを保っています。

しかし、真夏に暑熱環境で作業をする時や風邪をひき発熱がある時など、大量に汗をかいたり、嘔吐・下痢などによって体液の排出が続くと、必要な水分や塩分が不足してしまいます。こうした体液の不足によって起こるのが脱水症です。

脱水症が起こると、とにかく水を摂ることを意識する方が多いのですが、単なる水だけではなく、体液と同じように塩分を含んだものが必要になります。
この必要な成分をバランスよく配合し、脱水状態に適した飲料が『オーエスワン』なのです。

Q.一般的に言われる水分補給飲料とは成分が違うんですね。

はい。ではまず、“経口補水液”について、ご説明します。

風邪をひいたとき等に病院で点滴処置をされることがあると思います。これを “輸液療法“と言います。“輸液療法”は血管に直接水分や電解質、栄養などを補給する方法です。

それに対して、軽度から中等度の脱水状態に対して、必要な水分・電解質を口から取り入れる(経口的に補給する)”経口補水療法(Oral Rehydration Therapy;ORT)“という方法があります。脱水状態への対処において経口補水療法(ORT)は点滴と同等の効果があることが知られています。

この経口補水療法に用いられるのが『経口補水液』で、WHOや米国小児科学会等でその組成が決められています。『オーエスワン』は米国小児科学会の基準に準じた組成となっております。

冒頭に、“病者用食品”とお話しましたが、開発過程で臨床試験を行い、エビデンスを持っております。
そのため、“特定の疾病のための食事療法上の期待できる効果の根拠が、医学的・栄養学的に明らかにされている食品“という意味で、消費者庁から“個別評価型病者用食品”の表示許可を得ています。

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Q.開発に至る背景をお聞かせいただけますか?

経口補水療法は実は古くから発展途上国で用いられている方法で、世界的に注目されたのも1970年代でした。南アジアでコレラが流行した際に用いられ、コレラによる死亡率が劇的に改善しました。
しかし、先進国では比較的医療へのアクセスが容易なこと、また衛生環境が整っていること、さらに日本では輸液(点滴)を希望する患者が多いことから、経口補水療法は一般に用いられていませんでした。

一方で、冬場に流行する感染性胃腸炎は、乳幼児で流行し、コレラのような激しさはないものの下痢や嘔吐を伴うことから、脱水状態に陥りやすい疾患です。

治療には大人と同様に輸液が用いられますが、小さな子供に輸液を行うことは、技術的な困難に加えて、針を刺すことを当然子供は嫌がります。

そこで、輸液によらずに脱水状態の進行を回避できる方法がないかと考え、経口補水療法に用いられる経口補水液の本邦での開発に着手し、製品化に至りました。

輸液に比べて経口補水液による脱水状態への対処は、針を刺さないため痛みを伴わず、口から飲むだけの簡便なもので、方法を理解すれば自分で(小さい子供の場合はその親が)対応することが出来ます。

Q.『オーエスワン』の購入者に特徴があればお聞かせください。

小さいお子さんをお持ちのママや、ご高齢の購入者が多い傾向にありますね。

乳幼児は新陳代謝が活発なことに加えて、体の水分量を調整する機能が未発達ですし、免疫力(抵抗力)が低いため感染症にかかりやすいという特徴があります。特に冬場の感冒・感染性胃腸炎などに罹患すると脱水状態に陥りやすい傾向にあります。

高齢者は、加齢と共に筋肉量が低下するため、体に保持できる水分量が少なくなります。

それに加えて喉の渇きを感じにくくなったり、更には食事の量が減るなど、様々な機能低下による水分摂取量の減少によって脱水症になるリスクが高くなります。ですので、最近では一度医師に奨められて体感された方が常備用ということで、オーエスワンをケースで購入して下さる方も増えてきました。

Q.マーケティングゴールはどこに設定されていらっしゃるのでしょうか。

脱水症のリスクをきちんと理解していただいた上で、『オーエスワン』を知っていただき、家に“常備”してもらうということです。

あくまで、経口補水療法についての理解が前提ですが、脱水状態が進行する前に対処をすることが可能になれば、脱水状態に苦しむ人を少なくすることができると考えています。

そのためのコミュニケーションとして、タレントの所ジョージさんを起用して「STOP脱水、ストックOS-1」というキャッチコピーで広告・宣伝活動を行っています。

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Q.経口補水液のリーディングカンパニーである御社ですが、何か課題があればお聞かせください。

我々は、先ず脱水状態に陥るリスクの高い方々に製品と情報をお届けすることを第一に、特に小さいお子さんをお持ちのママと高齢者とのコミュニケーションに取り組みました。

2010年に猛暑日が続き、熱中症の注意喚起がメディアを通じてされるようになりましたので、皆さん水分と塩分も摂らなければいけない、という事はご存じなのですが、具体的にどうすれば良いのか認知されていないのが現状です。

本来であれば、我々も広くコミュニケーションをしていかなければならないのですが、“病者用食品“という特殊なカテゴリですので、「健康増進法」や「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保用に関する法律」等に従う必要があります。そのため一般消費者の方にわかりやすい表現が難しいというジレンマを持っています。

これら制約の中で、最適なコミュニケーション方法を見出す事が一番の課題ですので、常に模索していますね。

Q.現在シニアに対してはどのようなコミュニケーションを取られているのでしょうか。

現在は、医療従事者を介在した、間接的なコミュニケーションをメインとしています。

『オーエスワン』は 飲料ですが、日頃から常用的に飲むことを目的としたものではなく、主に調剤薬局とドラッグストアを流通販路としています。これは医師や薬剤師からきちんと説明を受けた上で購入していただく、という当局との指示を主旨としているためです。

従って、商品サンプリングに代表されるような、消費者との直接的なコミュニケーション手法は採用しておりません。

Q.具体的なコミュニケーションとしてはどのようなことが挙げられますか?

〝病者用食品“という位置づけにもある通り、基本的に脱水状態にある方に対して医師の指示のもと、飲用いただく製品であるため、医師および医療関係者にご紹介し、オーエスワンを必要とする方に勧めていただいております。

最近の取り組みですと、高齢者の熱中症対策として何かできないか、約2年前から社会福祉協議会等、地域の高齢者の見守りをされている方などへの情報提供の方法も模索しています。
その他、脱水症に対する注意喚起の啓発活動も行っております。

その成果もあり、高齢者にも経口補水液に関しての認知は進んでいるようです。しかし、残念ながら十分な理解までは至っていないようですね。

これまでは経口補水療法(ORT)の啓発活動をすることによって、必然的に『オーエスワン』の購入が増えると考えておりましたが、類似商品も増えましたし、近年は企業の宣伝を鵜呑みにされない傾向にありますので、コミュニケーションにも工夫をしていかなければいけませんね。

Q.現在シニアマーケットは拡大傾向ですが、これについてはどうお考えでしょうか。

坂下氏

脱水症リスクが高い高齢者が増えるということは、今後力を注がなければならないと考えています。
しかしながら、高齢者にだけ注力するではありません。
『オーエスワン』は高齢者だけが使う商品でもありませんので、それぞれの需要期に対してきちんとアプローチをしていく必要があります。
今のところはシニアマーケットが拡大してもしなくしなくても、必要な方に、必要な時に飲んでもらう、ということですね。
とは言え、乳幼児の頃から『オーエスワン』を飲んでいただき、時間をかけながら各自の日常にブランド・商品を認知いただく、年を重ねても「脱水症状の時には『オーエスワン』!」と思い出していただける、といったような長期的な取り組みも重要だと思います。もしかしたら、これもある意味シニアマーケティングの一環かもしれませんね。かなり長期的に見た場合ですが・・・(笑)。

Q.最後に、今後の課題をお聞かせいただけますでしょうか。

ひとつは、脱水症の“予防”ですね。
『オーエスワン』の開発過程で、輸液(点滴)との補水効果の同等性のエビデンスは持っていますが、“予防”についてのエビデンスはまだ持っていません。
本来であれば、脱水症になってからではなく、脱水症になる前に対処するのが最も良い方法だと思います。
将来的に、予防適用や表示許可等のエビデンスを持って啓発できれば、需要も高くなると想定されますし、飲んでいただくシーンも広がると思います。
我々としては、高齢者をはじめとして、乳幼児、暑熱環境にある方などが少しでも脱水状態が進行するリスクを回避できる環境づくりを目指していきたいですね。

株式会社大塚製薬工場ホームページ
https://www.otsukakj.jp/

『オーエスワン』オフィシャルサイト
http://www.os-1.jp/index.html


 

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将来への不安から今の状態を
「維持」するために運動するシニア

からだづくり三鷹フィットネスクラブ 所長 寺本由美子氏

 

『会員様ひとりひとりのニーズに合わせたトレーニング指導』を心がける、からだづくり三鷹フィットネスクラブ。それぞれの目的を達成できるよう、健康状態に合わせたプログラムを提供し、定期的な個別カウンセリングを行う等、一人一人に密着しているため、ご高齢の方にも評価を頂いています。今回のインタビューでは、施設の概要や特徴をはじめとして、健康運動指導士、西東京糖尿病療養指導士、介護福祉士の資格を持つ寺本所長が、日々のトレーニングを通じて感じるシニア層の特徴について、幅広くお話をお聞きしました。

2015年6月 取材

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Q.様々な資格をお持ちですが、まず寺本所長のプロフィールについて教えてください

寺本由美子氏02

大学を卒業してから健康運動指導士の資格を取得し、一般のフィットネスでインストラクターをしていました。運動指導自体は約30年弱やっていますが、ここに来る前は、介護施設の運営会社の職員でした。

そこでは介護業務もしておりましたので、介護福祉士の資格を取得し、デイサービスやグループホーム、介護付有料老人ホームの入居者への運動指導、市から委託される介護予防運動教室での指導もしておりました。

西東京糖尿病療養指導士は、高齢者の糖尿病が非常に多く、糖尿病セミナーのお手伝いをさせていただく機会があって、高齢者と関わるのであれば、勉強したほうがいいだろうと思い、昨年取りました。
介護予防の仕事に携わり、参加者を見ていると、色々な変化があって、とても面白いんです。これまでの経験を活かして、高齢者の運動指導のスペシャリストになりたいですね。

Q.からだづくり三鷹フィットネスクラブの会員はどのような方が多いのでしょうか。

若い方もいらっしゃいますが、大手フィットネスに比べて全体の年齢層は高いです。一番多い世代は40代・50代ですが、60代以上が全体の1/3を占めており、平均年齢が現在52.8歳です。40代・50代は主婦層が多いのですが、60代以上は男性のほうが若干多いですね。

現在は元気な会員ばかりですが、以前は介助が必要で、付き添いの方とトレーニングに来られる方もいらっしゃいました。

また、中には糖尿病の方もいらっしゃいます。ただ、ここに来られる方は通院されていて、医師の指導に基づいた自己管理をきちんとされている方が多いですね。西東京糖尿病療養指導士、介護福祉士の資格を持っておりますので、症状や数値等をお聞きしながら、状態に合った指導にしています。

Q.「健康クラブiみたか」について詳しくお聞かせいただけますか。

「健康クラブiみたか」は、経済産業省からの助成金をもとに、株式会社まちづくり三鷹を中心に薬・食・運動がトータルに連携して、生活習慣の改善や介護予防を目的につくられた会員制健康クラブです。

内科クリニック、調剤薬局とフィットネスが連携して、皆さんの健康づくりをトータルでサポートできるように、平成22年に三鷹産業プラザ5階に開設されました。

内科クリニックでの定期健康診断結果に基づいた栄養相談、調剤薬局での服薬相談、フィットネスでの運動プログラムを作成するといった、一貫した会員の健康維持を目指していましたが、残念ながら平成26年3月をもってサービスを終了いたしました。

Q.どういう目的で通われていらっしゃるのでしょうか。

会員によって違いますが、多いのは健康診断の血液検査の結果で、病気までではなくとも、数値が悪く、食事や運動に気を付けるよう言われた方が多いですね。

40代・50代の主婦の方は「痩せたい」という方が多いですね。どうしても50代になると、特に女性はホルモンバランスが変化して痩せにくくなってしまうんです。

対して、60代以上の方は、「筋力を向上させたい」、「痩せたい」というよりも、皆さん将来に不安を抱えていらっしゃるようで、「寝たきりになりたくない」「介護を受けたくない」という理由から、「今の状態を維持したい」という方が多いです。70代・80代はほとんどそういう方ですね。

若い世代は、体脂肪率を何%にしたい、体重を何キロ落としたいなど、明確な数字で言われる方が多いですが、高齢者は感覚的な動機が多い気がします。

Q.60代以上の方のトレーニングはどのようにされているのですか。

日頃のお悩みは、階段を上がるのが大変になってきた、椅子からなかなか立ち上がれなくなってきた、歩くとフラフラする、と皆さん異なります。ただ、足を鍛えたいからといって足を動かせばいいというわけではありません。足を動かすためには、まず関節や筋肉の動きが滑らかにする必要があります。そのためには、まず身体をほぐす、ということから始めます。万遍なく全身を動かさなければいけませんので、どんな方でも最初に行うメニューはある程度決まっています。

はじめは、言った通りのトレーニングを一緒にするのですが、ある程度一人でできるようになると、独り立ちしていただきます。そうすると、皆さんそれぞれの自己流になります。やはり運動の効果を上げるためにはフォームや動きが重要になりますので、随時スタッフがチェックし、注意するようにしています。

更に慣れてくると、「このメニューはやりにくい」、「ここが痛い」など、だんだん自分の意見が出てきますので、進捗に合わせたメニューになるよう、15回のトレーニングごとにプログラムの見直しをしています。

とはいっても、高齢者の場合、無理をしないようにしなければいけません。高齢になればなるほど、身体が思うように動かなるため、腕を伸ばせなかったり、膝を曲げられなかったり等、できない事が増えてきます。そのため、極力身体に負荷をかけず、できるメニュー/できないメニューを見極めながら、その人に合ったメニューにアレンジしています。

中には「物足りない!」、「もっとやりたい!」とおっしゃる方もいらっしゃいます。ただ、無理な運動をしてしまうと、次の日まで疲れが残りますし、筋肉痛にもなってしまいますので、まずは物足りないくらいが丁度良いです、とお話しています。高齢者ほど頑張り過ぎる方が多いですね・・・苦笑

Q.普段トレーニングをされていて、シニア層の特徴としてお気づきの点があればお聞かせください。

高齢者といっても、戦前生まれと戦後生まれは全く違うように感じます。

60代・70代の方は、「ここが痛い」という訴えが多いですが、80代の方は大抵「できます」、「大丈夫です」とおっしゃいますし、我慢して頑張り過ぎる傾向にあります。実は足腰が痛い、血圧が高いため毎日服薬している、心臓が弱かったりする方でも、それを見せないのが80代です。

会員の最高齢で87歳の男性がいらっしゃるのですが、毎回マシーンで30分歩いて、筋トレもされます。更に、ご自宅でも毎朝30分の運動もされているそうです。非常に健康意識が高く、とにかく元気ですね。心臓が悪いそうですが、全くそうは見えないんですよね。

色々お話を伺っていると、80代の方は、戦時中の苦しい生活を経験されています。生活が苦しいと、生きていくために働かなければいけませんし、そのためには動かなければいけませんので、かなり身体を使っていたと思います。筋肉の貯金みたいな感じでしょうか。身体の地盤ができているような気がします。

それに対して、60代・70代の方は、苦労されていないとは言い切れませんが、戦争を体験されている80代と比べるとやはり違いますね。

今の若い世代は、ファーストフードやジャンクフード等、食べ物ひとつとっても昔とは全く違います。小さい子供の遊ぶ場所にしても、昔は外で走り回ることが多かったですし、公園で何をしてもいいという時代でしたが、最近はボール遊びができない公園があったり、身体を動かす場所が少ないですよね。遊び方の選択肢も増えて、家の中でゲームをする子供もいます。

子供の体力低下が問題になっていますが、恐らく今の子供世代が大人になった時、病気や怪我をしやすく、回復する力も弱いと思います。

やはり世代や、育つ生活環境によって全く違うと思いますね。1週間に何百人と接していると、結構感じるものですよ。

Q.他のフィットネスクラブとの違いはどのようなところでしょうか。

一番の違いは、パーソナルトレーニングとはいかないまでも、個人に密着しているところでしょうか。
若い世代ですと、自分のペースで「黙々とトレーニングをしたい」という方が多いのですが、年齢層が高くなると、「これでいいんだろうか」、「ちゃんとやれているのだろうか」と不安をお持ちの方が多いです。

ここでは、お一人でメニューをこなせるまで指導しますし、お一人でやられていても、スタッフが随時チェックしています。施設面積は決して広くはありませんが、スタッフの目が行き届いています。会員の年齢層が高いのはそのためではないでしょうか。

もうひとつは、会員同士の会話が活発なことです。特に高齢の方がそうおっしゃいますね。

一人暮らしの高齢の方ですと、家に帰っても会話する相手がいないので、だんだんと言葉も出づらくなくなってしまいますが、色んな人と会話すると、脳の体操になります。運動は脳の活性化に効果があり、認知症の予防になると言われていますので、ここに来れば身体だけではなく会話でも脳を活性化できるということですね。もちろん、大手のフィットネスクラブでも会話はあると思いますが、ここは狭い分、会話をする時間が多いと思います。

実際にここでお知り合いになられたコミュニティーもあります。午前中は女性の方たちが本当に賑やかですよ(苦笑)。女性のコミュニケーションの凄さは目を見張るものがあります。とにかくパワーがありますし、年齢は関係ないようなので、女性特有なのかもしれません。

時には女性コミュニティーと同じ時間帯に来られる70代・80代の男性も混じっていらっしゃることもあります。リードする方は年齢層の高い女性が多いですが、積極的に男性にも声をかけられていますね。
皆さんはじめは運動するために来られているのですが、だんだんとコミュニティーも楽しくなり、それを楽しみにされている方もいらっしゃると思います。

カウンターの前にマシーンがありますので、カウンターにいるスタッフに声をかけていただいたりすることもあり、施設の構造自体もそうですが、私たち自身も目が届きやすく会話が生まれやすい環境づくりを心掛けています。

からだづくり三鷹

あと、地域密着型ということでしょうか。ここから歩いて数分のところにお住まいの方が多く、近隣住民の方がほとんどです。中にはトレーニングウエアを着てこられて、ご自宅でシャワーを浴びるという方もいらっしゃいます。

Q.総務省主導のプロジェクトに携わっていらっしゃるとお聞きしたのですが、具体的にはどのようなことをされていらっしゃるのでしょうか。

ICT健康モデル事業の実証プロジェクトですね。ICTシステムや健診データ等を活用した健康モデル(予防)の確立・普及に向けて、地方自治体が主体となった実証実験です。超高齢社会の医療費や労働人口の減少等の問題解決のために、高齢者の健康を維持して病気を予防するための取り組みです。

実際には、運動前後の体力測定データや、普段からお持ちの活動量計のデータ、健康データ等、ネットワークを通じて共有して分析するそうです。

現在このプロジェクトで受け入れている方は、65歳以上の21名です。アクティブシニアがプロジェクトの対象ですので、基本的には皆さん元気で活動的な方が多いです。お話を聞くと、別のスポーツクラブに通っていらっしゃったり、毎日歩いていらっしゃったり、自分で健康維持の方法を見つけて、取り組まれている方が多いです。

特に皆さんプロジェクトの趣旨を理解していらっしゃいますので、お休みされることなく来られます。出席率はほぼ100%ですね。

Q.最後に、寺本さんにとっての“シニア”とは何かお聞かせください。

私にとっては目標ですね。自分がその年代になったときに、こうなっていたいなと思います。
本当に皆さんお元気で、逆に我々スタッフが元気をもらっているくらいです。

介護予防事業でも、アクティブシニアに近い方たちを対象とした体操教室をやっているのですが、そのパワーに圧倒されます。教室の場合は回数が予め決まっていますので、調子が悪くて、運動する元気がなくても、見ているだけでもいいので来てください、というお話をします。一度休んでしまうと休み癖がついてしまいますからね。そうすると皆さんいらっしゃるんですが、見ているうちに、何となくやりたくなって、できることだけやってみると、スッキリして元気になって帰られることがよくあります。若い方よりも元気ですよね・・・

これからもフィットネスを通じて、シニアの皆さんが元気になるお手伝いをして、元気を共有していきたいですね。

からだづくり三鷹フィットネスクラブWEBサイト
http://karadadukuri.jp/


 

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第11回 
株式会社バスクリン
第10回 
フランスベッド株式会社
第9回 
富士通株式会社

「進化する努力」と「変わらない勇気」、
シニアマーケティングには両方が必要

株式会社バスクリン
販売管理部 販売促進課 マネージャー広報責任者 石川泰弘 氏
製品開発部 ヘルスケア企画課 リーダー 梨本里美 氏

 

「健康は、進化する。」というコーポレート・スローガンのもと、社名である入浴剤「バスクリン」と近年では「きき湯」を主力商品として事業展開する株式会社バスクリン。同社は、「入浴を健康として捉える意識を有した人々」をシニア・マーケティングのターゲット捉え、日々のマーケティング活動を推進しています。今回のインタビューでは、入浴剤市場の概要から、入浴への啓蒙活動、商品パッケージの工夫、そして今後の取り組みに至るまで、幅広くお話をお聞きしました。

2014年10月 取材

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Q.まずは、入浴剤市場の概況からをお聞かせください

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石川氏) 現在、入浴剤の市場シェアは、花王さんと弊社で54~55%を占めております。 入浴剤の市場は比較的安定しているといえます。 2013年度は、前年比103%で推移しており、その市場規模は520億弱であり、年推移で500億円前後を上下している状況です(※バスクリン調べ)。 ここ数年は、炭酸ガスの入浴剤市場が伸長傾向にあり、弊社においては平成15年に発売した「きき湯」がご好評をいただいていると共に、同じく弊社の主力商品である「バスクリン」と肩を並べるロングセラー商品になってまいりました。

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発売から11年、バスクリン社の主力商品に成長した「きき湯」シリーズ
 

Q.「きき湯」がマーケットでうけた、何かきっかけのようなものはありましたか?

石川氏) あります。 私どもがきっかけの一つとして考えているのが、2009年に放映されたビートたけしさんの「みんなの家庭の医学」というテレビ番組です。 その日は「炭酸ガスの温泉は動脈硬化にいい」という内容だったのですが、それをきっかけに炭酸ガスの入浴剤ブームに火がつき、弊社商品の「きき湯」もそのブームに乗ることができました。 それ以前から売り上げは伸びていたのですが、番組をきっかけに、40~50代の方、それより上の世代の方に売れ始めたと共に、そこへ同時期に盛り上がっていた美容ブームが後押しをして一気に市場へ浸透いたしました。 そんな経緯の後、いまではブームの段階を脱して、市場にしっかり定着してくれた感触をもっております。

Q.シニアの方が効果・効能別に合わせて入浴剤を使い分けているというデータ等による裏付けはあるのでしょうか?

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梨本氏) データの上からは、マーケット全体で入浴剤を使用されている年代は40~50代がボリュームゾーンとなっております。

一方で、バスクリンは50~60代のお客様に支持をいただいているという調査結果が出ております。 これは、バスクリンが長い歴史を有している商品であるゆえ、子供の頃に入って良かったというブランドの原体験が理由だと考えております。 バスクリンを入浴剤利用の入り口にして、その実感がループした後、当社の「きき湯」やあるいは他社商品へと選択肢が広がっていくように思います。

石川氏) 若い方は美容やリラックスへの意識が高いですが、シニアの方は健康への意識が高く、これが入浴剤利用の理由となっているようです。 とりわけ50代以上の人達は「健康寿命を延ばす」という意識が高いこともわかっております。 具体的には、50代以上の人はお風呂でストレッチする人達が増えているなど、バスルームを活用していかに健康でスマートな身体作りをするかということに意識が向いています。

Q. シニアに特化した、入浴についての啓蒙活動などのお取り組みはありますか?

石川氏) 例えば、老人ホーム等で行われる銀行様が主催なさるセミナーに講師としてご招待いただくことなどが多いため、そこで入浴剤の使い方や効能、また温泉についてなどの講演をさせていただくなど、シニアの方の前で入浴のお話をさせていただく場面は数多くございます。 当然のごとくシニアの方は、「健康」をテーマにしたお話にとても興味をもっていらっしゃるので、聴講いただいたシニアの皆様からもご好評をいただいています。 ひいては主催者様からも喜んでいただいております。 事実、主催者様からは、その後の「相続」に関するお話にも円滑に発展できるとお聞きしておりますので、私どもの公演が主催者様のビジネスにも多少は寄与しているのではないでしょうか(笑)。

Q. シニアの方から支持される商品を開発するための工夫などがあれば教えてください。

梨本氏) 特に「シニアターゲットに向けて特別に商品を作る」というようなことはいたしません。 それより、「商品を選択していいただく楽しさ」や「新しい商品との出会いから得られる新鮮さ」を表現することが重要だと考えております。

例えば、メインターゲットが40~50代である「バスクリン・クール」という商品について言えば、数ある商品ラインナップから、お客様の気分やニーズに合わせて商品を選んでいただく楽しさが提供できるような商品であるよう様々な工夫をしてますね。

バスクリンクールのラインナップ

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石川氏) あえて年齢を意識してモノ作りをしないことには理由があります。

例えば「今の50代は昔の50代より若い」ということです。若い感性や先駆的な感覚をもつた今の50代は、商品選択をすることにおいてもいつもと同じものを選ぶのではなく、違うものにチャレンジしようとする積極的な行動が見受けられます。

従って、シニア向けに「シニアの皆様に特化した商品です」という提案するのではなく、年代に関わらず、広く市場ニーズに対応した商品をリリースするようにしています。 そのことこそが、結果としてシニアの皆様から支持をいただく手法なのだと考えております。  

Q. 商品パッケージにおいてどんな工夫を施していらっしゃいますか?

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梨本氏) 石川が前述した通り、いかにも「シニアの皆様を意識しました」風なデザインは好まれません。もちろん、商品購買層としては50~60代がボリュームゾーンとなりますので、手に取った際の使いやすさなど、商品開発上のシニアの皆様への配慮は必要です。

しかし、ここにばかり意識を置きすぎると地味でつまらない商品になってしまいます。これはシニアの方をターゲットにする場合に限った話ではありません。

入浴剤の商品特徴を確実に伝えるためには、何より「パッケージ上における情報の視認性」が最重要課題だと考えております。

バスクリン・クールでいえば、「ミント」と「シークワサ」という商品はその独特の「サッパリ感」を伝えたい商品です。しかし「ミント」で言えば「水辺の若葉の香り」を伝えたくても、当たり前のことですがパッケージからだけでは具体的な匂いを伝達することはできません。
したがって、「ミント」を想起していただく情景を伝えるに留まるのですが、結果として伝えたいことが伝わるその強弱が商品によって異なります。この伝達力・表現力こそがパッケージ開発のポイントとなり、日々様々な工夫や苦労を積み重ねております。
その一方で、シニアの方からは、「バスクリンはわかりやすいよね」という言葉をよくいただきます。
こういうお言葉をお聞きするのが私たちの苦労が報われる瞬間であり、とても嬉しく思うのですが、その「わかりやすさ」の最大の要因は「色」だと思います。「色」がお客様に与える情報はとても大きいのです。
したがって、バスクリンの商品はこれまで中身の変遷や進化は繰り返しておりますが、パッケージにおける「色」の使い方はほとんど変わっていません。
 
株式会社バスクリンの歩み

Q.  「新しい取り組みを推進する」ことと、「ブランドを守っていく」という行為は、一見、相反する使命のように思いますが、その点で苦労はありますか?

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石川氏)正直なところ、ブランドイメージや商品体系などを変えたくても、なかなか変えられないというのが現状です。

特に香りの話でいえば、梨本が申し上げたように、言葉やビジュアルで伝えるのが難しい要素です。当社の商品は歴史が長いので、お客様は長年愛用された商品名と香りが頭の中でしっかり紐づけされています。しかし、それをある日突然変えてしまうと、お客様が戸惑ってしまい、ひいては「違うでしょ」というご指摘をいただくことになってしまいます。

例えば、バスクリンには「ジャスミン」という商品があります。人気商品で長年多くのお客様から支持をいただいているのですが、これはあくまで「バスクリンのジャスミン」といえます。これをあえて本物のジャスミンの香りに近づけてしまうと、多くの苦情が来てしまいます。

このように、変えたい商品があっても、長年積み重ねてきた「バスクリンらしさ」というものが確立しているため、無暗に商品の仕様を変えられない、という事例もいくつかあります。

実は、バスクリンのイメージ調査をしてみたときに最も評価していていただいているポイントが「安心・安全」であることもわかっています。

つまり、長い期間お使いいただいている安心感や、それでいて何の問題も起こしていない安全性というのを当社ブランドに対し感じ続けていただいているわけです。
そう考えると、「変わらずにいる」ことこそが私たちに課せられた大事な使命なのかもしれません。

 
 

Q. シニアの方にとって大変興味がある、「入浴と寿命についての関係」についてお聞かせ願えますか

お風呂掃除にはシニアの健康寿命を延ばす効果が
お風呂掃除にはシニアの健康寿命を延ばす効果が

 

石川氏) はい、まずシニアの方は健康への思いは人一倍強いので、このテーマはセミナーでもとても興味をもっていただけます。

このテーマで講演すると若い人達は普通に聴講されていますが、シニアの方は積極的にメモをとられたり、「こういうときはどうしたらいいのか」とご質問をくださったりします。

私がセミナーでお話することの中から一つあげさせていただくとすると、入浴行為そのものも大事ですが、「お風呂掃除」を積極的にすることがシニアの健康寿命を延ばすということです。

お風呂掃除は膝を曲げたり手を伸ばしたり、実はシニアの皆様にとって健康を維持し体力を養う、とてもいい運動要素になります。

昨今では、ノーリツさんの自動洗浄浴槽という商品をシニア向けに開発しましたが、実際の購入者は30代の方々が多いと聞いております。すなわち、忙しくてお風呂洗う時間がとれない方々です。
一方で、シニアの皆さんは時間的な猶予はあるので、ウォーキングやエクササイズと同様に「お風呂掃除」も健康維持の一環として取り組んでいただければと思います。

Q. シニアの方の入浴剤の選び方にはどのような特徴がありますか?

梨本氏) そもそも入浴剤は、「どの香りにするか」、「どの効能を選ぶか」などを、家族みんなの総意によって選ぶ傾向がある商品です。しかしシニアの皆様の多くは、お子さんも独立しセカンドライフを満喫されていらっしゃいます。そうすると入浴剤についても「本当はこれを使いたかった」という自分主体のモノ選びをするシーンが中心になります。

そうすると、これまでバスクリンを使っていた方々が、改めて他の商品にも注目が至り、例えば当社の「きき湯」に流れていくなど様々な選択肢へ広がりが発生することが考えられます。

その際の商品選定のポイントとしては、やはり健康維持です。病院にかからず健康な生活を送るための、予防医学的な意識が商品選定に大きく影響してくると思います。

 

Q. 改めて、シニアマーケットをどう定義づけられていらっしゃいますか?

梨本氏) 実は、シニアマーケットについて、社内で明確な決まりがあるわけではありません。年齢軸でいうなら50~60代以上と考えることができますが、ただ年齢軸で区切るのは乱暴な話だと考えてます。
あえて言うならば、入浴剤という市場においてシニアマーケットを定義するための最初の指標は、やはり家族構成なのではないかと考えております。
よりシャープな分け方をするならば、お子さんが巣立ったご家庭であるのかどうか、その年齢はどれ位なのか、という区切り方です。
その次に来るのは、入浴という行為の意義です。お風呂に入るという行為を、単純に体の汚れが落とすための行為とみなしているか、あるいは前述した美容や健康などのニーズを叶えるための時間として捉えているかという区分です。
とかくシニア層においては、入浴を単なる洗浄行為とみなしてなく、付加価値のある行動と考えています。
更にもうひとつの指標が、入浴に対するニーズやモチベーションです。具体的には、「健康」を重要視して生活しているのか、もしくはこれは若い層や女性などが中心になってくると思いますが、「美容」という要因に寄っているのかで、マーケティング的なアプローチが異なってきます。

これら3つの要素を掛け合わせ、つまり、「家族構成を前提とした年齢軸」×「入浴の意義」×「入浴に対するニーズ」という3つの軸の掛け合わせで、マーケットを区分することができ、その中の1象限がシニアマーケットと捉えられるのではないかと考えております。

 

Q. 海外展開へ向けたお取り組みは何かされていらっしゃるのでしょうか?

近年は日本の温泉を旅行目的のひとつにしている外国人旅行者が増えている-写真は岐阜県高山市-奥飛騨温泉郷の-新穂高の湯
近年は日本の温泉を旅行目的のひとつにしている外国人旅行者が増えている-写真は岐阜県高山市-奥飛騨温泉郷の-新穂高の湯

石川氏)  海外には日本のような入浴文化はないので、日本と同じような展開では商品は波及いたしません。

一方で、日本に来た外国人は、必ずと言っていいほど温泉に入りその良さを体感していきます。

ですので、まずはひとりでも多くの外国人に入浴の体験をしていただくような施策を考えることが最初のステップだと思います。これができれば、あとは各国が自主的にインフラ整備をやっていただけると思いますし、入浴文化は拡がると思います。

そのためのきっかけとして2020年の東京オリンピックはとても重要なタイミングだと考えています。

もし仮に、「日本人選手が活躍するその裏にはお風呂の存在があった」いうことを伝えられれば、各国への入浴文化の波及、そして弊社商品の海外展開にも大きく寄与すると思うのです。

 

Q. 最後に、今後のお取り組みについてお聞かせください

梨本氏) モノ作りの観点からいうと、今のブランド資産を活かしながら、更に入浴剤というものの用途も拡大しつつ、同時に使いやすさも追求していくべきだと考えています。買いやすく、持ち運びしやすく、また使うときの出し入れしやすさ、そして捨てやすさに至るまで一気通貫で気配りのある商品を展開していきたいです。


もちろん、これまでにも長年に渡って取り組んできたテーマですが、まだまだ課題はたくさんありますし、終わりのない仕事だと考えております。

株式会社バスクリン ホームページ
https://www.bathclin.co.jp/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

第10回 
フランスベッド株式会社
第9回 
富士通株式会社
第8回 
株式会社文化放送

フランスベッドが提供する”人にやさしい
モノづくり”ブランド「リハテック」

フランスベッド株式会社 インテリア営業企画部 佐藤則行 氏
フランスベッドホールディングス株式会社 広報部 梅本綾乃 氏

フランスベッド株式会社様は、言わずと知れた日本を代表するインテリアメーカーですが、電動アシスト機能付三輪車や介護用ベッドなど、介護・福祉用品メーカーとしても30有余年の歴史を有し、業界を牽引する存在です。インテリアメーカーとしての技術・ノウハウを介護・福祉用品の開発にも生かした「リハテック」シリーズの商品はシニア層から強い支持を得ており、直営の「リハテックショップ」も運営されています。今回のインタビューでは、アクティブシニアをターゲットとした「リハテック」ブランドのモノづくりを通じて、そこにあるマーケティング手法や商品開発に至るまでのプロセスなど、様々なお話をお聞きしました。

2014年12月 取材

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Q.早速ですが、御社の「リハテック」ブランドの沿革からお聞かせいただけますか。

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佐藤氏) フランスベッドという会社は、皆様にはインテリア事業において馴染みかと思いますが、実は介護・福祉用具の販売・レンタルを30年前から行っていたという経緯があります。

ご承知の通り日本では高齢化が進行しています。そこで、私どもが30年間培ってきた福祉分野のノウハウ、そして特にお客様と直接触れ合ってきた実績値を何かに活かそうと考えた結果、介護が必要になる少し手前の比較的アクティブなシニア層へ商品を提供しようということになりました。そこで作られたブランドが「リハテック」なんです。

梅本氏) 私どもは創業65周年の会社ですが、その65年というのは、主にご家庭で使っていただくようなベッドなどインテリア用品を造ってきた歴史といえます。

しかしながら実はその間に、2社程の別会社も擁立しており、その一つが先ほど佐藤が申し上げた介護・福祉用具の販売・レンタルを提供してきた「フランスベッドメディカルサービス」という会社なのです。メディカルサービスは1987年の設立以来、在宅介護ベッドや福祉用具の販売・レンタルを手掛けてきた会社です。

その後、2009年にフランスベッドと合併し、両社の血が混ざりあうことによって、幅広い商品開発につながっています。

合併するまでの両社は兄弟会社ではあったものの、インテリアと介護福祉という畑違いな業界にいましたので、なかなか融合する機会がありませんでした。合併により両社の強みを共有しシナジーを生むべく創立したのが「リハテック」ブランドになります。

 

Q.最初の商品がリリースされたのはいつ頃だったのですか?

梅本氏) 実際の商品がリリースされたのは今から3年前のことになります。

我々は元来ベッドを作るメーカーですので、“寝る”ことについては多数のノウハウがあります。リハテックでも“寝る”ことに関する商品からスタートしそうなものなのですが、実は「リハテック」ブランドの最初の商品はベッドとは全く違うものからスタートしました。それは、自社開発の「電動アシスト三輪自転車」なんです。

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この商品をリリースした背景としては、当時、「買い物難民」という言葉が世間の話題になりつつあったことが挙げられます。「買い物難民」は、つまり高齢化により足腰や身体が不自由になった高齢者が、なかなか買い物に出かけることができず、生活に支障が出てしまう問題です。例えば東京だけ見ているとこの問題は看過されがちですが、地方に行けば今も大変切実な問題です。

まずシニアの方は車の運転ができない。そして地方では鉄道は充実してない場所も多いですし、生活の足であるはずのバスも本数が少なく待ち時間が長い。もちろん、重い荷物を持って長い道のりを歩けないですし、もし家族がいたとしても、その家族の都合など顔色を伺いながらの買い物というのもなかなか苦痛なことです。

そういう負の事情を一つでも軽減しようという想いから開発したのが「電動アシスト三輪自転車」なんです。

 
佐藤氏) ある調査によると、68歳前後が「自転車寿命」と言われています。これは、ご自身の判断や、家族に止められるなどの理由で“自転車に乗ることを諦めるようになる”年齢のことです。
ご本人は、本当は乗りたいんだと思います。でも周りから危ないと言われたり、自分でも運動能力の衰えを感じたりと、自信がなくなってくるんです。結果として家の中に閉じこもる時間が長くなってしまうのですが、そうすると更に足腰が弱くなり、買い物も行きにくくなる。まさに負の循環に陥ってしまいます。
高齢者の日常生活や、外出をサポートする。「リハテック」ブランドはそんな想いから立ち上げたブランドです。

Q.商品の開発をするにあたって秘話などがあればお聞かせください。

梅本氏) 商品開発にあたっては、何より「世の中の人が求めているモノを考え、それをカタチにする」というプロセスを基本として進んでいきます。

例えば前述した「電動アシスト三輪自転車」も、弊社の社員が実際に地方を回り、その実情を見て「大変な現実があるな」という想いから発案があり、そして開発に至りました。

ただ、本格的な福祉用具というわけではなくて、あくまでアクティブなシニア、つまり「まだまだ動きたいという思いがある層」に向けて開発した商品なので、全体的にコンパクトなデザインを心がけ、アクディブシニアにとって扱いやすい形状を心がけています。

また、乗り降りの際にまたぎやすいようにフレームの高さも低くし、小さな回転で漕げるようペダルを配置しています。イメージとしては、だいたい140センチくらいの小柄な方でも乗りやすいような設計と言ってもいいかもしれません。車体自体も28Kgと軽いうえ、電動アシストがついているのでこぎやすく動きやすいですよ。

佐藤氏) 更にこの商品の特長を補足すると、カーブを曲がるときに必要な調整バーに工夫があることです。

自転車ですので左右に曲がる際には必ず車体が傾きますし、傾かないと曲がれないのですが、三輪の場合この傾きが自然に発生するように車体の軸に傾き調整バーを装着する必要があります。
実は当社の三輪自転車の傾き調整バーは、ベッドに使っているものと同じ部品で造られているんです。
といいますのも、元々弊社ではスクーターのサドルを造っていた時代があるんです。
そしてそのサドル部分にはスプリングが入っていまして、そのスプリング製造技術を転用して始まったのがベッドの生産なんです。

今はもうスクーターのサドルは製造していませんが、順番から言うとベッド生産の方が後から始まったことになります。

そういう意味では当社は、今も昔も、「持っている技術を転用して、他のフィールドで活かすことが得意な会社」と言えるかもしれませんね。

 

Q.ターゲットにしている人たちは?

梅本氏) やはり、アクティブなシニアということになりますね。

理由はシンプルです。我が国の人口比率のボリュームゾーンがシニア層、そして特にアクティブシニア世代にあるからということになります。世代でいえば、60代後半~80歳の方々を想定しています。

ちなみに、「リハテック」の利用者は介護保険の対象ではない方が中心です。最近の傾向として感じるのは、高齢者であっても介護保険を利用せずに介護用用具を購入する人が多いということです。ですので、皆さん気持ちはまだまだお若いですし、最近は70代の人でもとてもお元気です。考えてみれば、つい最近まで第一線でバリバリにお仕事をこなしていらっしゃった方も多いわけですから、当然といえば当然ですよね。

そういう皆さんをターゲットにしているので、デザインにはとても気を使っています。いわゆる「年寄り臭い」デザインには絶対にしません。

弊社の強みは機能性もデザイン性も兼ね備えた商品をプロデュースできることと自負しています。長年インテリアの世界で研鑽を重ねてまいりましたので、この点についてはノウハウがあります。

佐藤氏) 介護保険のお話で言うと、シニア層の厚みがどんどん増している状況ですので、将来的に介護保険を継続することができないのではないか、国の財政では賄えないのではないかという懸念があります。

事実、今既にそれに対応する動きは始まっており、重度化しないと介護保険そのものが使えない制度に変わりつつあります。

例えば、2015年4月からは要支援1、2の人はデイサービスやヘルパーが、段階的に介護保険ではなく、地域の財源で実施する方向に変わっていく見通しです。

今まで介護保険が利用できていたのに、利用できなくなってしまうのは悲しいことですが、リハテックのような商品があることによって、そういった方々の日常生活に、役立ったような事例がひとつでも増えてくれたら嬉しいですし、実際そう言っていただけるような商品を幅広くプロデュースしているつもりです。

Q.デザイン性のお話が出ましたが、特にデザイン性を意識した商品事例などはありますか?

三輪自転車の軽快さと-電動車いすの機能をひとつにした新しい電動車いす
三輪自転車の軽快さと-電動車いすの機能をひとつにした新しい電動車いす

佐藤氏) 例えばシルバーカーですね。細かいことになるのですが、実は他メーカーでフレームまで着色しているものは少ないです。メッキむき出しのものが多いですが、弊社商品はフレーム部分まで赤や青などで塗装を施し、細かい点までこだわってモノづくりをしています。

梅本氏) 機能性の面では、シルバーむき出しの方が清潔だと考えることができるかもしれませんし、もしかすると手入れもしやすいかもしれません。

しかし、最近のシニアの方々は、本当にお若いのです。現実に「本当はタータンチェックのデザインのモノが欲しいんだ」という声も挙がっております。

まだ開発には至っていないのですが、検討の余地はありそうですね。需要があるのですから(笑)。

 

佐藤氏) 今のデザインもご好評をいただいているのですが、これ、実は元々フランスベッドの掛け布団カバーなどのデザインを利用して作っているんですよ。ファッション性を大切にしている背景には、フランスベッドでの商品開発の実績があるんです。

梅本氏) あと、シニアの皆さんにとってのデザイン性という意味で非常に重要なことは、「選べる」ということです。「シニアにはこれが受けるだろう」という一点を作るのではなく、多様な指向に対応できるよう選択肢をたくさん用意して差し上げることが、シニアの皆さんの満足に繋がるという傾向を感じています。

これまでの介護用具やシルバー向け商品と言えば「皆さん方の世代にはこれですよね」というような商品展開が多かったと思いますし、そういう商品を迷いなく買ってくださる方が多かったのが事実です。
しかし昨今はたくさんの中から選択する、つまり「買い物そのものから楽しむ」方が増えています。ですからメーカーも「選べる楽しさ」を提供する必要があります。

 

 

Q.マーケット分析はどのような手法で行っていらっしゃいますでしょうか?

梅本氏) 商品開発に活かす調査と言う点でいえば、まさに現場の声がソースになっているといえます。当社は福祉用具のレンタルを直接行っておりますので、スタッフが在宅のお客様のお宅にお伺いをすることもありますし、またケアマネージャーとも繋がっています。ですので、お客様の生の声を聞くことができるのが強みです。

 
リハテック大阪店
リハテック大阪店

佐藤氏) また、「リハテック」の推進担当を全国に設けて、各支社で情報の吸い上げをしております。

彼らがお客様と触れ合う現場で上がってきた声を集め、これも商品開発や改良に役立てています。

実際に先ほどお話をした「電動アシスト三輪自転車」もそういった声を聞いて初期モデルから改良を重ねてきています。

あとは販路拡大という点でいうと、最近は広告活動よりもいわゆる試乗会などのタッチアンドトライの場の創出にチカラを入れています。各地域の様々なコミュニティと協力関係を構築し、そこで試乗会を開催しています。やはりシニアの皆さんにとっては、実際の商品に触れて、乗って、感じていただくのが一番の商品機能訴求になるようです。

梅本氏) イメージで購入されても実際には使えなかったとか、あまりニーズにフィットしていなかったという事例もありますので、そういうミスマッチを防ぐ意味でも、タッチアンドトライの場を通じて商品を体験・体感していただいて、納得してからご購入いただける流れがベストだと思います。ご自身の親御さんをイメージしてみてください。その時に「こんなサービスがあったらいいな」、「こんな風に商品を買ってくれたら安心だな」というイメージがあると思います。それをひとつずつ具現化しようとしています。

Q.そんな現場の声から生まれた商品で、今のイチオシはありますか?

寝台を床面まで下げることが可能な「超低床フロアーベッド」。
寝台を床面まで下げることが可能な「超低床フロアーベッド」。

梅本氏) お尋ねくださってありがとうございます(笑)。イチオシは「超低床フロアーベッド」ですね。

これは寝台が電動で上下するベッドなのですが、なんと、寝台を床面まで下げることが可能になったのです。一見単純な機能に思われるかもしれないのですが、薄い筐体と細い脚の中にすべてのムーブメントを収納しつつ、水平をとりながら寝台を動かすことは技術的に大変なことなのです。実際、この商品を開発するために2年の歳月を必要としました。

手前味噌を承知で申し上げますが、弊社開発部、かなり頑張りました!(笑)これこそまさに現場の声を聞いて開発した商品になります。

高齢者の方は畳の上に布団を敷いて寝ていることが多いので、ベッドに慣れていない方も多くいらっしゃいます。床面まで下げて寝ていただければ、お布団で寝ているような感覚が得られますし、手すりの必要もありません。万が一、ベッドからの落ちたとしても高さが低いのでケガのリスクを抑えられます。

実は介護ベッドの脇にお布団を敷いてご家族が寝ているケースがありますが、目線の高さが違い、立ち上がらないとベッドの上の様子がわかりません。このフロアーベッドならお布団を並べて敷く感覚でご使用いただけ、双方にとって安心です。

介護する側にとっても優しい設計とデザインが施されている
介護する側にとっても優しい設計とデザインが施されている

また、ご利用者様がベッドから離れるときは、ベッドの高さを上げて立ち上がりやすくすることも、車いすの高さに合わすこともできます。

介護する側にとっても多くのメリットがあります。例えば寝台を上げることで、腰に負担なくお世話できます。寝るときには寝台を下げることで、介護ベッドでよくある挟み込みの事故も避けられます。

さらに、ボードも取り外しが可能なので、頭側からも、足側からもアプローチが可能です。こういった工夫は全て介護の現場からの生の声を元にして、商品開発へと反映しました。

 

 

 

Q.最後に、御社がシニアをターゲットにして展開をする中で、参考にしている企業などはありますか?

佐藤氏) メーカーさんではないのですが、サービスという点ではイオンさんの取り組みは興味を惹かれますね。単なるモノ売りだけでなく、積極的にコミュニティを展開していて、シニア層の取り込みに注力されていらっしゃいます。なかなかすぐに結果に結び付けるのは難しいですが、チャレンジ精神をもって、取り組んでおられるので参考にしたいですね。当社がこれから商品を開発していく際に、こうした小売業の方向性は、参考にさせていただけそうな要素を感じますね。

フランスベッド「リハテック」ホームページ
http://www.francebed.co.jp/brand_site/Rehatech/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

第9回 
富士通株式会社
第8回 
株式会社文化放送
第7回 
株式会社ビジネスガイド社

自社テクノロジーの集大成
それが「らくらくホン」

富士通株式会社
ユビキタスビジネス戦略本部 プロモーション統括部 統括部長 土井敬介 氏
モバイルプロダクト統括部 第一プロダクト部 シニアマネージャー 古木健悦 氏

 

富士通株式会社様は、テクノロジーをベースとしたグローバルICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)企業です。人々がICTの力を活用して、ビジネス・社会のイノベーションを起こし、豊かな社会を築いていく「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」の実現を目指しており、「らくらくホン」を開発するモバイル事業は、人とのインターフェイスの一部を担っています。今回のインタビューでは、携帯電話市場を取り巻く現状や「らくらくホン」の開発に取り組まれた経緯、開発プロセスや海外事業の展開までをお聞きしました。

2014年10月 取材

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Q. まずシニア向けの携帯電話にお取り組みを始められた経緯からお教えください。

古木氏 らくらくホンは元々他メーカーが初号機を作られたのですが、弊社は2001年2号機(F671i)からお声掛けをいただきました。 当時、携帯電話は、シニア層にはまだまだ行き届いていない状況でしたので、シニアの方々に便利に積極的にご利用いただけるような携帯電話を開発しようという取り組みを開始しました。 一方、一般の方々には携帯電話はかなり普及していた段階でしたので、携帯電話以外の市場を見て、シニア向けの携帯電話市場も今後同様に伸びるだろうという予測を持っていました。 ちょうどシニア向けのプロダクト・サービスが徐々に増えてきている状況だったと記憶しています。

らくらくホン実機-右が初号機で時代順に並ぶ-左が最新機種-らくらくスマートフォン
らくらくホン実機-右が初号機で時代順に並ぶ-左が最新機種-らくらくスマートフォン

Q. 富士通さんとしての初号機の売れ行きは如何でしたか?

土井氏) 当初は、スロースタートだったと記憶しています。 冒頭古木が申したように、シニアの方が携帯電話を利用する時代が到来するだろうという見込みはありましたので、手ごたえのようなものは感じていましたが、最初から販売が好調だったというわけではありません。

Q.当時シニアの方が集まるマーケット展望の裏付けとして、リサーチ等はされましたか?

古木氏) ご存知のとおり、シニア市場は分析や攻略が困難な市場です。たとえばリサーチするにしても、これまで利用したことのないものを取り上げて、「これを利用したいですか?」という問いを投げかけても、参考になる情報は得られません。その点を踏まえ、弊社はある程度の「仮説」をもってプロジェクトを開始しました。

実際にシニアの方が集まる現場に赴き、携帯電話の活用にどのような課題があるのか、またどのような利用方法が考えられるかという意見を掬い上げて、その上で商品開発に転嫁させる方法を採用しました。そして、この方法は、今でも変わらず継続しています。

また、「らくらくホン」リリース当初から、全国の携帯電話ショップで「携帯電話教室」が開講されているのですが、参加者の方の高齢者比率は比較的高く、教材は必然的にらくらくホンになります。
全国にいる拠点社員が、キャリア様のご支援という形で教室に赴き講師としてサポートします。それを実施することで、”利用者の声”がわかります。

どの携帯電話を購入しようか迷われている方や、上手く使いこなせない方等、つまずく箇所やご要望の声が上がってきます。

それらを集約することにより、実際にご利用されているお客様の声に耳を傾けることができ、こうした仕組みを製品開発に活かしています。

Q. 開発において特に重心を置いていらっしゃるのはどのような点でしょうか?

ユビキタスビジネス戦略本部-プロモーション統括部-統括部長-土井敬介氏

土井氏) らくらくホンのアプローチは、携帯電話の基本動作、いわゆる”見る”、”聞く”、”話す”、”操作する”を徹底的に磨き上げることの積み重ねです。
ですので、”聞きやすさ”や”見やすさ”という基本性能は、どこにも負けないと自負する技術を注入しています。
シニアにとっても利便性の高い機能は使いやすさに配慮し徐々に追加しておりますが、反面、遊びの機能や派手な部分には敢えて手を出しません。
すべては、シニアの方や機械に強くないお客様にも使いやすいと感じてもらうための戦略です。

この点については、富士通研究所と共同で技術開発を行っており、結果として当社からリリースする携帯電話の中で、最もテクノロジーが注入されている商品が「らくらくホン」だと言えるかもしれません。

「らくらくホン」は、あくまでユニバーサルデザインの観点から開発しています。結果として、シニアの方もご利用しやすいですし、それ以外の方にも利用しやすい仕様を目指しています。
シニア層のみならず、目がご不自由な方にも幅広くご利用いただいているのも大きな特徴です。

Q. ハードウェア開発においてご苦労された点はありますか?

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古木氏) とにかく多くのテクノロジーが集結している「らくらくホン」ですので、言い出せばキリがないですが…(笑)

まず挙げられるのは、「音声読み上げ」機能ですね。これは、メールやHP上のコンテンツを音声で読み上げる機能ですが、弊社の初号機から盛り込んでいる機能です。商品開発のたびにモニターとして目がご不自由な方にご参加していただき、たくさんのご意見をお聞きして、さらに改善を積み上げてきた経緯があります。

また、ディスプレイは特注のモノを採用しています。他社の携帯電話の液晶のほとんどは、縦長で進化してきました。しかし、「らくらくホン」の場合は、文字の一覧性と大きさを実現するために、横幅をきちんと保てるようなディスプレイを採用し続けています。

さらに言えば、キー部分にも拘りがあります。新機種のほとんどはシートキーを採用しているため、”押した!”という実感が残りません。「押し感」を保つよう心掛けています。

また昨今売れ行きが伸長している「らくらくスマートホン」は、”触れて確認、押して動く”という「らくらくタッチ」機能というのを付けました。通常のスマートホンは指で触った感覚が残らないのでボタンを操作したことがわかりませんが、この「らくらくタッチ」は、触れた時に読み上げ、そのまま押し込めば起動する直観的な読み上げ機能を実現しています。

土井氏)「らくらくホン」から「らくらくホン」に買い替えるお客様、すなわちリピートが非常に多いのも特徴です。
使い慣れた操作感を求めて「らくらくホン」をお選びいただいている以上、”変わらない安心感”をご提供し続けることもメーカーとしての責務と考えています。

 

Q. らくらくホンユーザー向けのコンテンツサービスについても教えて下さい。

土井氏) 「らくらくコミュニティ」というSNSサービスがあります。らくらくコミュニティの利用者は、累計15万人を突破しました。一回ご利用になられた方の多くがリピート利用してくださり、アクティブユーザー率が高いのが特徴です。

ファミリーページ

古木氏) もう1つ、新サービスを紹介させてください。らくらくコミュニティを更に進化させ、「ファミリーページ」という新機能を追加しました。
今回のサービスは、家族間のコミュニケーションを重視しています。子供の写真を投稿すると、フォトパネルのように自動的に待ち受け画面に写真を貼り付けられる機能です。ただ単に貼り付けただけではつまらないので、そこに一言メッセージを掲載できます。自ら発信せずとも、見るだけでも十分お楽しみになれます。
これをきっかけにしてコミュニティ・サービスをご利用していただけると、さらにお楽しみいただけて、世界がもっと広がります。

親御さん、お爺ちゃんお婆ちゃんばかりでなく、お子さんまでご参加いただいて”デジタルな親孝行”のためのツールとしてご利用いただければ嬉しいですね。

 

Q. 最後に、らくらくホンの技術やお取り組み方法が、海外から注目されていると聞きましたが、その点についてお聞かせいただけますでしょうか。


土井氏) 
2013年から、Orangeという世界的なオペレーターと組んで、フランスでらくらくホン事業を展開しています。フランスは日本に次いで高齢化が進んでいます。当然オペレーターとしても、マーケットの高齢化にどう対応すべきかという課題を持っています。

弊社は、日本において、らくらくホンで一定の成功を収めておりますので、注目をいただいています。

 

富士通株式会社ホームページ

https://global.fujitsu/ja-jp


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

第8回 
株式会社文化放送
第7回 
株式会社ビジネスガイド社
第6回 
株式会社リリムジカ

顧客と共に成長する
シニアマーケティング戦略

株式会社文化放送 放送事業局 放送事業部長 吉住由木夫 氏

 

開局以来、幅広い層に向けたラジオ放送事業を展開し、2012年には60周年を迎えた文化放送。働き盛りの40代男性の支持も高く同世代での聴取率において長年トップを走る同局。2006年には社屋を浜松町に移転し、昨今はアニメ関連番組などヤング層へのアプローチに力を入れる他、孫世代・親世代・おじいちゃん世代の3世代を結ぶ「親子3世代プロジェクト」の展開など、先駆的な社風と行動力を有した放送局として注目されています。今回は、シニアライフ総研として初めてのメディア取材。文化放送のシニアマーケティングへのアプローチについてお話をお伺いしました。

2014年6月 取材

文化放送

Q:まず、ラジオ業界における現在の御社のポジショニングと今後の目標についてお聞かせください。

ラジオの聴取率でみると、TBSさんを筆頭に、弊社やニッポン放送さんがトップグループを構成するカタチになっています。

ただラジオ聴取率というのはその算出においてテレビとちょっと違いがあります。それは世帯ではなく個人を対象としている点です。個人を対象としているので行動が分散し、インパクトが小さくなる傾向があります。従ってテレビにおけるサッカー・ワールドカップ中継番組のように視聴率40%達成というような大きな数字が発生することはありません。ただしその一方で聴取者の年齢などは細かく把握することが可能です。

弊社は昨年度、一年間を通じて40代~50代男性をターゲットとした番組作りに注力して参りました。彼らの中には中高生の頃、私どもの放送を聞いてくださっていたのですが、その後生活様式が変わりラジオから離れてしまった方が多くいます。このような人たちがもう一度ラジオの良さや文化放送の面白さに気づいていただくためのリーチ拡大を狙っており、この取り組みは本年度も継続して続けております。

具体的には、イベントなどのリアルな場を通じてリスナーとの関係づくりを醸成するようなメディアミックス施策も積極的に展開しております。その際のコンテンツは「学び」をテーマとしたものが中心になっております。

Q:テレビなどの他メディアではなく、ラジオで展開することの意義についてお聞かせください。

ラジオはテレビと違い出演者であるタレントさんやパーソナリティとリスナーさんの距離感が非常に近いメディアであると考えております。出演者を目で見ることのできない分、出演者はリスナーに絶えず情報や話題を投げかけ続けます。もちろん番組として構成しておりますので出演者同士によるトーク形式で番組は進行いたしますが、そこには常にリスナーが参加をしている構図を強く意識しているので、結果として両者の関係がとても密接になっていきます。

ハガキなど送ってくださる常連リスナーさんが多く存在することでもわかるように、初めて番組をお聞きになる方もその回数を重ねていくごとに番組の重要な出演者にもなり得ます。パーソナリティや番組制作スタッフもリスナーさんのペンネームなどしっかり覚えています。

リスナーさんも自身が番組に参加していることは無意識のうちに感じてくださっていると思います。このようにラジオは言わば「参加型メディア」であるからこそ、リスナーさんの「思い」が非常に熱いのです。

かつて、喫茶店のマスターに扮した谷村新司さんが、弊社の吉田涙子アナウンサーと、日々様々なテーマでトークを展開していく「純喫茶・谷村新司」という番組がありました。この番組は全国ネットで展開していたのですが、ある放送で谷村さんが「ベローチェ(カフェ)のメロンパンが好きだ」という話をしました。当時、吉田アナはベローチェのメロンパンを食べたことがなかったので、谷村さんがメロンパンの美味しさを熱く語ったところ、全国のベローチェからメロンパンが売り切れてしまったのです。

ベローチェの社内で、メロンパンの売り切れた原因が「純喫茶・谷村新司」だとわかると、文化放送に御礼のメロンパンを送ってきてくれました。それをまた番組で紹介すると、再度ベローチェのメロンパンが売り切れ、今度は全国の店から「うちのメロンパンの方が美味しいぞ」と言って、文化放送にメロンパンを送ってくださるというメロンパン戦争が起こったのです。

このような現象は、リスナーさんが番組やパーソナリティを「好きでいてくださっている」というバックボーンがあるからです。リスナーが番組やパーソナリティに対し好意を持ってくださっている前提があるからこそ、ひとつひとつの言葉や情報がリスナーのハートに届きやすい、そして信頼していただきやすい、ラジオというメディアはそんな強さをもっています。だからこそイベントや映画の情報に対しても敏感にかつ積極的に行動をしてくださいます。従って番組内でパーソナリティが自身の言葉で商品をご紹介する生コマーシャルなどにも非常に大きな反響を頂けます。

ただし気持ちのこもっていない番組づくりやトークをするとリスナーの皆さんにはそれがすぐに分かってしまいます。リスナーさんはよくわかっていらっしゃるのです。

ですから、我々も「熱」を込めて番組制作に取り組みますし、「熱」を込めればたくさんの反応をいただけます。その結果、その番組をどんなリスナーさんが支えてくださっているのかを実感することもできるのです。

Q:文化放送さんとして、番組制作や編成面で意識されていることはどんな点ですか?

まず、ラジオの場合は時間帯によって、ターゲットとする層が大きく異なります。
朝から夕方のナイターは大人向けの放送でありそれ以降は、ヤングゾーンと言われる若者向けの番組で構成しています。このゾーンでは他の放送局と差別化を図っている点があります。それは、アニメやゲームにフォーカスしたコンテンツを配置していることです。

文化放送では、20年位前からアニメに関する番組制作を開始しました。当初は1番組、2番組程度からのスタートだったのですが、それが人気を博し、今では土日の夜は、アニメの声優さんが多く並ぶゾーンになるまで成長しました。

今でこそ声優さんがNHKさんの紅白歌合戦に出演するなど、アニメやゲームといったジャンルが確固たる地位を築いてきていますが、20年前の番組開始当時の状況はもちろん違っていました。当時のアニメ文化はいわゆる一部の「オタクリスナー」のためのものであり、まだまだ市民権までは得ていない時代だったと記憶しております。

しかし幸いなことに当時から弊社は「新しいものに挑戦をする社風」がありましたので、結果として「アニメ&ゲーム番組」という新しい取り組みを開始することができました。それが今では非常に力強いコンテンツに成長し、文化放送を象徴する特色にまでなってくれました。
新しいチャレンジをすることはとても大事なことです。その取り組みは今この時点で同番組を聞いて下さるリスナーに届けるだけのものではないのです。

昔、21時台から放送されていた「吉田照美のてるてるワイド」を聞いてくれていた若者が、月日が経ち40代、50代になって今、15時台からの「吉田照美 飛べ!サルバドール」を聞いて下さってます。今、新しいチャレンジをして面白い番組を作り若い皆さんに届けることは、この先20年後30年後までつながり続ける文化放送のファンを作ることでもあるのです。

Q:そんな中、現在の若い世代に対するアプローチの仕方は何が重要でしょうか?

言うまでもないことですが、ネットの存在は無視できません。私も子供が3人いるので分かるのですが、今の若い世代はわからないことがあったらその場でスマホなどを使って調べます。また何か観たいものがあればすぐにYouTubeで検索して閲覧できます。

これは言い換えると、「自分が欲しい情報だけ選択しそこで完結する」という状況にあるのだと思います。自分の興味範囲以外の情報が入りにくい環境に置かれているといえるのです。

我々の世代の場合、主な情報源のひとつとしてラジオは確固たるポジションを有しておりました。ラジオは私たちに「聞きたいジャンル」、「知りたい情報」の枠を超え、それ以外の情報をどんどん提供してくれました。そして私たちはそれを吸収し、そこからまた新しいジャンルへ世界が広がっていく感覚がありました。

今の若い世代が興味のある事に貪欲なのは事実です。そして欲しい情報は徹底的に調べますし、それができる環境にあります。ですからラジオ番組も「彼らにとって欲しいと思われる情報やコンテンツ」を提供していく必要があると思います。

ネットじゃないから接触しないのではありません。テレビや雑誌では得ることのできない情報やコンテンツが含まれた番組であれば、支持を得ることは可能です。現にそういうコンテンツを提供することにより、若い層からも多くの支持を得ている番組も多くあります。

Q:ラジオと若者の接触ポイントも作る必要がありますね?

はい。事実、今の若者にとって「ラジオ」という媒体そのものが遠くなりかけています。従って生活導線上にラジオが存在していることを認知してもらい媒体への距離感を少しでも近づけるような施策も重要です。

その取り組みのひとつがPCやスマホでラジオが聞ける「radiko」です。また2014年5月からはJ:COMのコミュニティチャンネルで文化放送が聞いていただけるようになりました。このように接触ポイントを増やすことが若者とラジオが繋がるきっかけとして重要だと思います。そこで一度でもラジオを聴いていただければ、我々が他媒体では得られない価値のあるコンテンツを提供していることに気づいてもらえるはずです。

また、リアルなコミュニケーションの場を創出することも重要だと考えております。たとえばイベント活動の展開です。冒頭にお伝えした通り、ラジオはパーソナリティとリスナーが非常に近い距離にあります。そこで、各種イベントを通じて音声のみでは提供しきれない、そしてデジタルのコミュケーションでは表現できないリアルな場をご用意し、リスナーと番組がより密接な関係を保てるよう努めています。

Q:具体的にどのようなイベントを実施されていますか。

 

日常的なコンサートなどの興業はもちろんですが、それとは別に年に一回「浜祭」という文化放送総力で取り組むイベントを開催しています。

当社は2007年に本社社屋を四ツ谷から浜松町に移転しました。新社屋は浜松町駅にも隣接しており、イベントの実施が可能なホールもあります。

また、近隣には東京タワーやハマサイトなど集客力のある施設もあり、人の活気に溢れた立地です。これらの利点を活かさない手はないと考え、イベント活動には積極的に取り組むようになりました。その一環が「浜祭」です。

「浜祭」は文化放送の周波数AM1134にちなみ、初年度は11月の3、4日に開催をいたしました。その際は3~4万人の集客規模でしたが、2013年は11月4日の単日開催であったにもかかわらず、7会場で10万人の方にご来場いただいています。

ラジオは声だけのメディアなので、このようにリスナーとの接点を我々は大切にしていますし、リスナーの方々も非常に喜んでいただいています。「くにまるジャパン」という人気番組があるのですが、私の知っている居酒屋の店長さんは邦丸さんをリスペクトする余り「邦丸さんに会うから浜祭の前日はお酒を飲まない」といって、張り切って来場してくださいます。挙げたらきりがないのですが、このように他のメディアでは見られない熱いファンがラジオには多いのです。

Q : 「浜祭」の具体的な内容やトピックスなどお聞かせください。

 

「浜祭」ではそれぞれの拠点で、公開収録・生放送、音楽イベントなどを行っています。実は、第一回、第二回はAKB48が参加してくださいました。当初は200人ぐらいの規模だったのです。その後、人気が出て第三回目以降は混乱が予想されたのでご参加いただけませんでしたが…(笑)。

特筆すべきは、本当に多くのシニアの方が浜松町までお越し下さることです。朝早くからわざわざイベント会場に足をお運びいただき、邦丸さんや大竹まことさんなど、お気に入りのパーソナリティの収録やイベントに積極的に参加してくださいます。その熱気はAKB48などアイドルに夢中になり声援を送る若い皆さんの姿と何も変わりません。つい先程まで静かにしてらっしゃったおじいさんが、目当てのパーソナリティを見た途端に見違えるかのようなお元気な姿に変わるほどです。

「浜祭」はリスナーと直接の接点が持つことができて、聴取率だけでは絶対に分からない番組へのリアルな支持を体験することができます。こういう体験を次の番組のコンテンツ企画に活かしていきます。

また、リアルな場の臨場感というのはスポンサーさんにとって番組のポテンシャルを体感していただく大事なエビデンスにもなります。単に電波を流しているだけでは「誰が聴いているのか」、「どんな人が反応しているのか」が見えません。「浜祭」の現場をご覧いただくと、スポンサーさんにとっても自社ブランドがどのようにリーチしているのか再確認していただくことができ、ビジネス面においても大変意義のあるイベントであると思います。

Q : そんなにシニアの方はイベントで積極的な反応をしてくださるのですか?

 

そうなんです。シニアの方々のバイタリティには本当に驚かされます。例えば当社には「飛べ!サルバドール」と「走れ!歌謡曲」といういわゆる40代以上をターゲットにした2大シニア向け番組があるのですが、今年の6月にこの番組のパーソナリティとアシスタントを務める室照美と小林奈々絵が、「金沢・愛のパラミシア」というデュエットソングをリリースしました。

興業としてもそれほど大きな期待はしていなかったのが本当のところですが、リリース時に弊社の一階のスペースで完成披露イベントを開いたところ、予想を大幅に超える多数の方々、特に50代60代の方がお越しくださいました。その現場は、まるでアイドルのような熱気に包まれ、年配の方々が自作の団扇やカードを持って参加してくださいました。握手会も開催したのですが、これも大盛況。普段ポーカーフェイスと思われる年配男性のお客様も、握手後には「今日は来て本当に良かった」という感想をくださいました。

イベントを通じて感じることは、「ラジオ+イベント」の組み合わせがシニアに大きな「元気」を与えるということです。普段は癒しを与えてくれているパーソナリティですが、たまに彼ら、彼女らと触れ合える非日常の場の提供をすることにより、「文化放送は元気をくれる」存在と思っていただけことができるのです。

イベントは私たち文化放送が「シニアに元気を提供する」という使命を担っていることを再確認する重要な場でもあるのだと考えております。

Q:浜祭以外にもシニアをターゲットにした様々な施策に取り組んでいらっしゃいますね?

 

はい、「浜祭」は当社の一大イベントなのですが、それ以外にも放送と連動した企画をプロデュースして参りました。

そのひとつとして、完全生放送で取り組んだラジオドラマが印象に残っています。
浜松町に越してきた一年目に、浜松町は古典落語の芝浜の舞台でもあるので、その芝浜を原作としたラジオドラマを、完全生放送というカタチで構成しました。

古典落語と現代を掛け合わせた内容なのですが、役者さんも各自でセリフを覚えてきてもらい、なんと当日のリハーサルが初顔合わせでした。また、BGMや雑踏の音など「音を作る職人」による生の演奏にするなど、すべて「生」にこだわった企画でした。演技も生なのですが、音も録音ではなく生なので、見ているお客さんもCMになると溜息を漏らすぐらい緊張していました。

とても大変な企画だったのですが、もう一度チャレンジしたいという気持ちもあります。ただ、キーマンの一人である音作りの職人さんがご高齢によりもう起用できないため、残念ながら再演するのは難しいのが現実です。こういう面でもシニアの皆さんには元気でいていただくこと、そして次世代への技能伝承の重要性を感じる次第です。

Q:現在進行形でも結構なのですが、今後の展望や展開について具体的な取り組みを教えてください。

 

冒頭にもお伝えさせていただきましたが、昨年から「学び」をテーマにした番組制作を積極的に展開しています。これは「大人がもう一度学ぶムーブメント」に着目し、弊社としてマーケティング的観点を強く意識して着手した施策になります。

具体的には、火曜日から金曜日20:00 – 22:00の帯で35歳以上のビジネスマンをターゲットとした「オトナカレッジ」という2時間番組を昨年から始めました(プロ野球中継シーズンは不定期)。大きく分けて前半は「趣味と教養の20時台」、後半は「経済・ビジネスの21時台」の2部構成になっているのですが、後半部分では経済評論家の方々にも出演していただき、ラジオの向こう側のリスナーの皆さんにいわゆる「講義」をするような番組構成になっております。従って番組パーソナリティであっても講義中はなるべく口を挟まず、出演者とリスナーが対峙しているような番組です。

また、講義後にメールでの質疑応答を行い聴くだけではなく、参加をしてもらう形式をとっています。このような番組は弊社の社員も積極的に聴いているので、実際のビジネスマンにも役立っていると感じています。

今後は、ラジオだけではなく本当の講座も定期的に開講していこうと考えています。今後はビジネスだけではなく元プロ野球選手による野球教室やレッスンプロによるゴルフ教室などを考えております。これを聞いてからプロ野球中継を聞くと野球が何倍も楽しめたり、ゴルフの見方やり方がかわるような、大人が聞いて楽しい講義です。

また講義の後にレッスンも行うなど、よりリスナーと密接な関係を構築できるようなコンテンツを提供し、文化放送の「オトナカレッジ」をブランド化していきたいですね。

Q最後に御社が考えるシニア、シニアマーケットについて教えてください。

 

ラジオはやはり若いうちにどれだけラジオに触れていたかが重要になってくると考えています。私たちや今の年配の世代は、若い頃ラジオに抵抗なく接していたので今でもラジオを聴きますし、何かのきっかけでラジオの存在を思い出し、聞いてくださる方も多くいます。

しかし今の若い世代は、ラジオに対して距離感を持っていると感じます。ですので、スマートフォンやパソコン、イベントといったコンテンツを通じて、ラジオはメディアの中でも非常に近い距離に存在していることを啓蒙すると共に、「今、この瞬間に接してもらえる」ようなコンテンツ作りも心がけています。

また、孫世代・親世代・おじいちゃん世代の3世代を結ぶ「親子3世代プロジェクト」にも注力して参ります。今の親は仕事に忙しくて子どもと触れ合う時間が限られる一方、祖父母が若くてお元気です。ですから子育てに祖父母が関わっていることが非常に多くなっております。子育ては親子三世代で取り組んでいるという観点から、「親子で話し合える」「おじいちゃん、おばあちゃんと語り合える」というキーワードの下、生活の一環にラジオが関わっていき役に立てるような番組作りに取り組んでいます。「一緒にラジオを聴くと楽しいね」、「ラジオってためになるね」と言ってもらえる存在になりたいのです。

ラジオは生活の一部であると実感していただき、一緒に時代を経る時期を作ることができれば、途中、ラジオから離れてしまう時間があったとしてもまた思い出してもらうことができます。

つまり、若い世代や40代、50代の「今」に対して、魅力ある番組、コンテンツ作りこそが、私たちにとって長い目で見たシニアマーケティングに繋がっていくのだと考えています。

 

株式会社文化放送ホームページ

https://www.joqr.co.jp/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

第7回 
株式会社ビジネスガイド社
第6回 
株式会社リリムジカ
第5回 
特定非営利活動法人高齢者安全運転支援研究会

半歩先のマーケットを見据えた情報発信、
それを通じてのビジネス機会の創出

株式会社ビジネスガイド社

 

株式会社ビジネスガイド社は、ギフトをテーマにした「ギフト・ショー」をはじめ「インターナショナル・プレミアム・インセンティブショー」、「グルメ&ダイニングスタイルショー」等、様々な展示会を展開していらっしゃいます。今回のインタビューでは、2013年9月に開催された「第76回東京インターナショナル・ギフト・ショー秋2013」内での特別テーマ展示イベント「『アクティブ・シニア』×『旅』=タビシニア」の事例から、株式会社ビジネスガイド社がギフト・ショーを通じて考える今後のシニア・マーケットに至るまで広くお話をお聞きしました。

 

2013年11月 取材

 

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Q.ギフト・ショーの概要を教えてください。

 

 弊社は流通業界に向け、ギフトを切り口とした専門誌の出版業からスタートしました。
その出版業の中で、中小企業が新しいビジネスチャンスを見つけられるようなお手伝いができないかということで、1976年よりギフト・ショーの開催を始めました。

現在、日本国内では数多くの展示会が毎日のように開催されておりますが、元来、展示会ビジネス自体が欧米からはじまったビジネスモデルなのです。従って展示会運営を主要事業とする企業には外資系が多く、当社のような内資系で展示会業をメインにしている企業は非常に珍しい存在であると言えます。私共が運営する展示会の特徴は、「成果を重視し、商談機会を獲得して頂くこと」です。そして、展示会がそういう場であるように、強い意識をもって企画・立案を行っております。その一環として、ブース出展のみならず無料参加できるビジネスマッチングの企画等、様々な選択肢をご提示させていただいております。

 
 

Q.近年の出展企業・来場者の傾向を教えてください。

 

昨今アップル社の商品のようなプロダクトデザインがフィーチャーされる傾向にも見受けられるように、ジャンルに限らず、デザイン性の高い商品を扱われる出展社様が多くなってきていると感じています。その影響は、セレクトショップや専門店などの販売チャネルを希望するメーカー様、卸企業様が増えていることからも伺えます。

中でも、日本の伝統技術を活用した商品や、クラフト系の商品の増加は、その傾向を顕著に表した事例ではないでしょうか。こうした、クールジャパンを体現する商品を少しでも多くのバイヤー様に見ていただくため、私どもとしては海外バイヤーの誘致にも注力しており、実際ここ数年は海外からの来場者数も増加傾向にあります。

また、時代の流れもあってか、情報入手手段が多様化しています。具体的にはパソコンからの情報収集からタブレット、スマートフォンへの移行です。タブレットやスマートフォンをご来場前に活用して、最新の情報をご覧いただく傾向が多いようです。デバイスによっては、入場直前まで情報収集が可能ですので、ある程度ニーズに合う企業様を絞り、効率的にブースを回っていらっしゃる印象がありますね。

 
 

Q.前回のイベントでアクティブ・シニアをテーマにした「旅シニア」という企画を展開されましたが、「旅シニア」が企画・立案された経緯をお聞かせください。

 

近年、シニア・マーケットが伸長し注目されているという理由で企画したというわけではなく、私個人の体験がきっかけでした。

ある冬の実家帰省時に、祖母へのプレゼントとして百貨店で手袋を購入したのです。そうしたらとても気に入ってくれて、彼女が近所の方に自慢していたというのを後で聞いたのです。実は私としては、その商品が本当に祖母の好みのものなのか、その商品が本当は何歳くらいがメインターゲットのものなのか、全く意識せず、単に祖母へのプレゼントとして選んだものだったのです。

この時ふと思ったのが、これまで自分自身が「シニア」という人々を漠然と捉えていたということです。つまり、本来ならば、シニア向けに作られていない商品でも、シニア本人が気に入る可能性は十分にあるということです。

この体験をもとに改めてシニアの消費機会を分析すると、シニアの皆さんに商品を購入していただけない、つまり機会損失の要素が大きく3つあるのではないかと考えました。

 

【シニアにおける商品購入を阻害する3つの要素】

  1. 「未知」・・・見たことがない、試したことがない
  2. 「不便」・・・もう少しこうだったら良いのに
  3. 「世間体」・・・私たちの年代で持っていいものなのか

 

シニア・マーケットは急拡大しておりますので、このマーケットへの参入を目指す企業も増えておりますが、この3要素は重要になってくると考えます。

ギフト・ショーは、「中小零細企業のビジネスチャンスの創出」というミッションを有しておりますが、そのような立ち位置の中で、マーケットの発展に寄与できることがあるとするならば、シニア・マーケットに特化した情報発信の場を創出することだと考えました。これが企画に至った経緯です。
また、第1回目のテーマを「旅」にした理由ですが、それは、昨今、日本の購買行動が「モノ消費」から「コト消費」にシフトしていることが挙げられます。弊社の展示会でも単純に商品を並べるのではなく、その商品を使う消費者のライフスタイルや行動をイメージしやすいような、「コト消費」を強く意識しているのですが、そういった背景もあって、モノだけではない価値が演出できる「旅」をテーマに選定いたしました。

 

Q.「旅シニア」の反響はいかがだったのでしょうか。

 

企画当時は、やはり既存参入企業の多い、介護や衛生用品のような商品が多いのではと懸念していたのですが、結果として年齢に関係なく使える商品やデザインで、比較的行動範囲の広い方向けの商品が多かったです。

来場者については、当日のアンケートによると、企業のエグゼクティブやシニア戦略担当の方が非常に多く来場されていましたので、それだけ注目されている市場なのだと再認識しました。
次回は美容をテーマにした「美(ウツク)シニア」という企画で実施しますが、今後もテーマ性を持たせ、ライフスタイルが伴うような、商品展示企画を考えて参ります。

 

Q.世界に冠たる高齢化社会の日本ですので、シニア・マーケットに関しては世界中に先駆けて各分野の企業が模索しながら取り組まれていると思いますが、海外に向けた取り組み等はお考えなのでしょうか。

 

シニア企画はまだはじめたばかりですし、シニア企画自体が1つのイベントとして独立するに至っておりません。

現在、海外でも展示会を開催しておりますが、シニア企画に関しては当面日本国内に注力していく予定で、今後シニア企画の回数を重ね、出展社様や来場者様の反応・反響を踏まえて海外展開という可能性もあるかもしれないとは考えています。まずは国内で浸透させることが第一です。

シニア・マーケットは今後更に伸長し注目が集まるとは思いますが、弊社として何ができるかを見定めながら、今後更にオリジナリティーを加えながら企画していきたいと考えています。

 
 
 

Q.シニアマーケットにおいてベンチマークされている企業があれば教えてください。

 

一概には言えませんが、消費者とのコミュニケーションの接点はメーカー企業よりも小売企業の方が多いと思いますので、小売企業のほうがより正確にマーケットを捉えられているのではないかと思います。また我々はバイヤー向けの展示会ビジネスを運営していることもあり、小売企業の動向には特に注目しております。

特筆する企業としては、2社あります。1社はイオンさんです。一度取材でお話をお伺いしたのですが、随分前からシニア戦略に取り組まれており、シニア向けの売場づくりはもちろんですが、小売業に限らず銀行や保険、葬儀に至るまで様々な事業展開をされています。ソリューションやアイディアが非常に多く総合的かつ長期的にシニア・マーケットを据えられておりますので、今後の動きにも注目しています。

もう1社は京王百貨店さんです。京王百貨店さんは、昔からシニアに好まれている百貨店であり、シニア戦略に注力した展開をされています。特に新宿店ではシニアに特化した売場づくりや、知識・経験の豊富なご年配の方でも満足できるような店員スタッフの配備、店舗内の動線に至るまで配慮されていますので注目しています。

 
 

Q.「旅シニア」という名称にも使われていますが、「シニア」はどう定義されていますか。

 

呼び方として「シニア」というワードを使っていますが、弊社の場合は単なる年齢を重ねた方を「シニア」と定義するのではなく「高度に成熟した個人」という捉え方をしています。
我々のような若い世代は新しいトレンドを積極的に取り入れやすく、周囲の価値観にも影響されやすい。

対して「シニア」世代は、長い人生の中で多くの経験や知識など様々なものを蓄積して今の彼らを形成しています。そのため、自分に最適なモノやコトが何なのか、確固たる判断基準をお持ちだと思います。これまでの人生で数多くの商品に触れていますので、その分新しい商品に対する期待度も大きくなります。コストパフォーマンスを見極める目もお持ちですので、商品は勿論のことですが、更に、店舗で接客されるスタッフの方にも、自分と同等かそれ以上の知識やノウハウを求められると考えます。
そういった意味で、シニア・マーケットに参入を希望される企業が増えてはいるものの、一方で、小手先の戦略では満足に至らしめることが難しく、撤退する企業も増えていくように考えています。

 
 

Q.シニアマーケットを細分化する際、軸や指標にされているものはありますか。

 

昨今、消費者ニーズや趣味・嗜好も多様化しているため、従来のようなセグメント化が難しくなり、マスを狙った従来のマーケティングではシニア層を捉えきれないという悩みを抱えていらっしゃる企業様も多いと聞きます。

また、現在の60代と今の若い世代が60代になった時を想定すると、もちろん生活様式や生活環境も違いますし、何より、ITリテラシーが高いため、触れる情報量が多く、趣味・嗜好がより多様化するでしょう。そういった意味で、これからは消費者の人生の時間軸でマーケティングを考えていく必要があると思います。はじめからマスを狙うのではなく、1人1人時間をかけて商品の存在や価値を高めていけるような体制づくりや、長く愛され続けるような生涯価値の形成が大事になるのではないでしょうか。

また、シニア向けの商品といえども、これらの商品の実際の購入者は、使用者のお子さんやお孫さんだという場合もあるということも重要です。そう考えると、単にシニアだけを捉えるのではなく、世代を跨いで購入させるような戦略も今後は必要かもしれません。特に、私どもは「ギフト」というキーワードで展示会を企画しておりますので、このような「つながり消費」は大事なテーマと言えます。

 
 
 

Q.今後のシニア・マーケットはどう変化すると思われますか?

 

前述のとおり、趣味・嗜好の多様化によって、これまで以上にシニア・マーケットの攻略は難しくなり、スピード感や柔軟性がどの分野にも求められるようになると考えます。

シニアは一度使ってよいと思ったら長く使い続ける傾向があり、そういう意味では非常にありがたい顧客です。そういった旨味があることから、各分野で参入企業が急増していますが、将来的にはシニア・マーケティングを継続し続ける、強い意志と体力と戦略性を有した企業にある程度集約されていくでしょう。その結果、マーケットを牽引するプレーヤーが明確になると考えます。

また、その流れが、流通企業にも影響すると考えます。前述した、京王百貨店さんのように、シニアの方に寄り添うような接客や商品展開がひとつの方法だと思いますが、このようなシニアを意識した施策がごく当たり前になってくるように予想しています。

 

 

Q.現在シニア・マーケットへの参入を検討中の企業様に向けて何かメッセージはありますでしょうか。

 

シニア・マーケットが注目されはじめ、まだそこまで時間は経っていないですが、いかに早くビジネスチャンスを見出せるかが重要だと考えます。既に取り組みを強化し、成果を出されている企業様も多くいらっしゃるので、決して他人事として捉えるのではなく、早めに手をつけてほしいです。

今後の日本企業にとっては、海外展開も非常に重要ですが、日本は内需大国ですから、シニア・マーケットも同じくらい重要な収益源になり得るでしょう。

会社の規模が小さいと、新しいチャレンジに慎重になりがちですが、中小規模でしかできない事も多くあります。スピード感や小回りのききやすさは、大企業にはない優位性だと思いますので、是非それを活かしてビジネスチャンスを見出していただきたいです。

我々も一中小企業として皆さんと共にシニア・ビジネスに向き合っていこうと考えています。

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第6回 
株式会社リリムジカ
第5回 
特定非営利活動法人高齢者安全運転支援研究会
第4回 
株式会社ファインケア

高齢者に心地よく楽しめる音楽の場を

株式会社リリムジカ 取締役 共同代表
柴田萌 氏 (日本音楽療法学会認定音楽療法士)

 

イタリア語のリリカメンテ(叙情的に)とムジカ(音楽)を組み合わせ「心に響く音楽」という意味の企業名である株式会社リリムジカは、「介護を受けて生活している人に心地よく楽しめる音楽の場を提供する」というミッションのもと、介護事業所等に出張し、認知症の方や障がいのある方向けに歌や楽器、会話を楽しむ音楽療法にもとづいたプログラムを展開しています。今回のインタビューでは「音楽」を手段として捉えたコミュニケーション、現状の取組、そして今後の展望までお話をお伺いしました。

2013年12月 取材

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Q.まず、柴田さんが音楽療法とどのようにして出会ったか、からお聞きしてよろしいでしょうか。

4歳の時からヤマハ音楽教室でピアノを習いエレクトーンもはじめ、学校では合唱やブラスバンドに参加したりして、幼少期から音楽に溢れた生活をしていました。私と同じような環境で過ごされた方の多くは音楽大学への進学を一度は考えると思うのですが、音楽大学に入ったからといって演奏家として活躍するのはほんの一握りで、かつ就職も難しいという現実があります。そのため、音楽大学ではなく理系の大学を目指して高校3年生まで勉強していました。

そんな中、偶然「音楽療法」という言葉と出会い、「音楽療法」に関する本を読んでみたのです。一般的な概念では「音楽」を仕事にしようとする場合、演奏家になるかもしくは教育者になるかの2つが代表的な選択肢だと思います。一方、仕事にしないとしたら「聞く」か「教わる」というのが音楽との関わり方になります。

しかし、その「音楽療法」の本の中では、音楽そのものがコミュニケーションの“手段”として捉えられており「音楽を医療や福祉に活かす」という考え方が書いてありました。当時、「演奏する」、「教える」、「聞く」、そして「教わる」の4つが音楽との関わり方だと考えていた私にとって、その考え方は衝撃的でした。それからというもの「音楽療法」というワードが頭から離れなくなってしまい、結果的に理系の大学ではなく、音楽療法コースのある音楽大学への進学を決意するまでに至りました。

Q.大学ではどのような勉強をされたのでしょうか。

はい。まず大前提として「音楽療法」というのは大きく分けて3つの対象者が存在します。「障がい児」、「精神疾患者」、そしてもうひとつが現在私どもがお仕事させていただいている「高齢者」です。私は大学3年の時に週に1回のペースで障がい児、精神疾患者、高齢者のそれぞれを対象とした「音楽療法」プログラムの実習カリキュラムを受けました。そのカリキュラムは学外の様々な施設様を訪問する実地型の実習でした。その中で特に私にとって印象に残っているのが高齢者の皆さんを対象にした実習です。なぜかというと、当時の私はその実習が最も苦手だったのです。「音楽療法」のプログラムでは、歌を歌ったり演奏するだけでなく、前に立ってトークをしたり会話をしたりしなければなりませんが、当時の私はお年寄りの前で何を話したらよいのか分かりませんでした。

大学生活というは高齢者との接点はほとんどないですし、うちの場合祖父母と同居しているわけでもなく地域の高齢者との交流もなかったので、高齢者の前でのトークや会話がすごく難しく思えていたんだと思います。今となっては楽しくてついつい話が盛り上がりすぎてしまうのですが・・・(笑)

Q.大学を卒業されてからは?

大学を卒業してすぐに弊社代表取締役である管と共に「リリムジカ」を立ち上げました。先程お話した通り、音楽大学出身者は勉強して知識・技術があるにも関わらず、音楽を活かす仕事が少ないという現実があります。しかしそれが非常にもったいない事に思え、知識・技術を活かし社会の役に立つ組織、そういう人が集まる場所を作りたいと思いが、会社設立に至る原動力になりました。

実は、設立当初は大学在籍時に専門で勉強していた障がい児を対象としておりました。しかしながら、これがなかなか仕事にならない、どうしようかと考えていた際にたまたま介護施設からお仕事をいただく機会がありました。

それをきっかけとして高齢者向けも視野に入れるようになったのですが、それが高じていつのまにか介護事業所ばかりお伺いするようになっていました。(笑)

Q.「音楽療法」という言葉の中に「療法」とありますが、実際にどのような効果があるのでしょうか?

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 音楽療法についてご説明する際、非常に難しいのがその「効果」についてです。実は「音楽療法」の明確な定義自体も定まっていないのが現状です。障がい児を対象にした場合については効果を見出しやすいかもしれません。障がい児対象の療法というのはどちらかというと療育に近いのですが、「音楽療法」を通じて感情を表現したり、それぞれが担当の楽器を持って演奏することによってルールや我慢、社会性などを学びます。また、音楽の場面だけでなく日常的も着席できる時間が増えたり、情緒が安定したりと日常生活に変化が起きてきます。そういう目に見える良い変化を効果として捉えることができる特徴があります。

一方で、高齢者を対象とした場合の効果測定は難しいのが実態です。高齢者にとっての「音楽療法」というのは、体力・筋力維持と認知症の予防や進行を緩やかにすることの2点において有効性が見出せます。

例えば体力維持の側面で言えば、楽器を演奏したり音楽に合わせて体操したりすることを通じて、体力や筋力維持ができるという側面がありますのでこちらはまだ効果を図りやすい指標といえますが、一方で、認知症予防における効果測定は困難です。

認知症に対しては「音楽療法」がその進行スピードを緩やかにするとされていますが、そもそも認知機能自体の数値的な測定が難しいという問題があります。昨今では数値的な数値的な指標のひとつに「長谷川式スケール」という測定手法がありますが、たとえこの測定方法を使ったとしても、今度は測定結果が他の要因によるものである可能性があり、と音楽療法の因果関係を証明しにくいのが現状です。

Q.なるほど、なかなか可視化しにくい効果なのですね?

そうですね。実は私自身も勿論大学で「音楽療法」について勉強していた際、認知機能に関しての効果を追及していました。しかし私どもは音楽療法の存在意義は直接的な効果だけに見出されるべきではないとも考えています。

こんなことがありました。ある時、音楽療法をご採用していただいている施設の職員様から、「認知症をお持ちでいつも落ち着かず歩き回っている利用者様が、最近ニコニコしながらときどき、リビングで椅子に座って他の方と交流されるようになったんですよ。」と言われました。また別の時には、「○○さんはこの歌が好き」、「○○さんは、この楽器を演奏する時はじっと着席されている」等、音楽プログラムを通じて施設の皆さんが利用者様の何らかの“変化”を発見するきっかけになっている旨のお話をよく聞かせていただけるようになり、更にはその後施設職員様から利用者様への見方や関わり方にも変化が表れ始めたことに気づきました。つまり、音楽療法が利用者ご自身のみならず、施設様内の運営そのものに寄与していたのです。

この経験から、介護現場においては、音楽療法の効果を医学的に実証すること以上、利用者様のより良い日常のために、施設職員やご家族をはじめとした利用者様の周辺環境にアプローチするサービスであるべきだと考えるようになりました。
更に、「音楽療法」という言葉自体が「何かを治療する難しいもの」、「特定の曲を聞かされる」といったイメージを与えてしまうともありましたので、「音楽療法」ではなく「音楽をつかった場づくり」という言い方をしております。そのため実際にプログラムを行うスタッフのことは「音楽療法士」ではなく、音楽の場をつくる人ということで「ミュージックファシリテーター(音楽をつかった場作りの専門家)」」という呼び方をしています。

現在お付き合いのある施設様は平均して月に2回のペースでお伺いしていますが、1か月に2日ある音楽の時間だけではなく残りの28日にどう影響を及ぼすかが大事ということですね。

Q.御社のプログラムの一番の特徴・ポイントは何でしょうか? 

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 先程お話しましたが、音楽プログラムのためだけにお伺いするのではなく、音楽を通じて施設全体の活性化を目指しておりますので、施設職員様との連携を重要視しているという点になります。

施設側と当社間の連携を密にするため、当社ではプログラム実施後には記録をご提出させていただいておりますが、その記録は必ず施設のご担当者様と一緒に作成しており、我々はこの時間を「振り返り」と呼んでいます。他社の音楽療法士の方の中には、記録を一人で書いて施設様にご提出される方もいらっしゃるようですが、当社は施設職員様の同席していただいております。

私どもは基本的に月に2回しか施設にお伺いしません。従って利用者様の事を十分に把握しきれないのが本当のところです。そのため、新しく入られた方についてはどう接するのが一番良いのかであったり、病気が進んでいらっしゃる方の具体的な病状であったりとか、利用者様に関するあらゆる事を情報交換させて頂くために、振り返りの時間が重要な意味合いを持っています。

そして共同でこの記録を施設職員様と直接的なコミュニケーションを介して共同で作成させていただくことが、施設の皆さんにも主体的に音楽プログラムに関わっていただくきっかけになります。 もう一点補足させていただくと、プログラム内容は、当社が一方的に決めるのではなく、利用者様や施設職員様のご意見をお聞きして決めています。

施設様にとって私たちはただの「音楽プログラムを担当する人」ではなく「施設運営全体を見て、一緒に考え一緒に実行するパートナー」であることを目指していますので、振り返りというのは、施設様と私どもにとっての重要なコミュニケーショ手法なのです。

Q.現在お付き合いのある施設はどのくらいあるのでしょうか?

 
 約40事業所です。現在の対象エリアは東京・埼玉・神奈川・栃木の4県ですが、近い将来的には千葉エリアでも展開したいと考えております。
1事業所あたりは平均して月2回実施し、1回のプログラム平均時間は45分ですので1日に複数施設を訪問することもあります。
45分という時間については、お元気な方の中には腹八分目とおっしゃる方もいらっしゃいますが、認知症の方が多い施設ですと集中力の持続が難しく、相対的に45分がちょうど良い時間だと考えています。
 
 

Q.プログラムの対象とされる施設利用者様の介護度に制限はあるのでしょうか? 

 

特に制限はしておりません。デイサービスもありますし、グループホームや特別養護老人ホームにもお伺いしております。新たに導入していただける施設様へアプローチする際も制限はしておりません。
お元気な方の地域サークルでの現場もある一方、介護度が4~5の方もいらっしゃる特別養護老人ホームにもお伺いしています。ただこの場合は声を出して歌える参加者が半分以下ということもあります。

そのためプログラムの中身については、介護度によって使用する楽曲は同じでも方法が異なる場合があります。例えば、歌であれば利用者様のご様子に合わせて3番まで歌うこともあれば、利用者様がよくご存じの歌の1番を繰り返し歌うこともあります。集中力が続かない方に対しては「○○さん、次○○歌いますよ!」というように声をかけたり、歌い出しを目の前でアカペラで歌ったり・・・状況に応じて進め方をアレンジしています。

 
 

Q.楽器も演奏されるということですが、楽器は施設様でご用意いただくのでしょうか?

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太鼓や鈴等お一人ずつ演奏いただく楽器については、各ファシリテーターが20~30人にお渡しできる数を用意しておりますので、事前に何名参加されるかお聞きしてお持ちしています。
中にはピアノをお持ちの施設もあるのですが、ピアノの場合背を向けて伴奏することになってしまいます。

そのためキーボードを持ち込むことがほとんどです。利用者様の中にはこちらをじっと見ながら歌われる方、笑うと満面の笑みで返してくださる方、こちらが歌う口元を見ながらタイミングを合わせて歌われる耳の遠い方等いらっしゃいますので、お互いの顔が見えるというのは必須ですね。

Q.介護施設の現場で「音楽療法」自体は浸透しているのでしょうか?

あくまで感覚値ですが50%程度は浸透していると思います。全くご存じない施様設もありますし、20年以上「音楽療法」を取り入れていらっしゃる施設様もあります。

当社の説明をする際は「音楽療法」という言い方はせず、認知症や麻痺がある方でも参加できる「音楽プログラム」とお伝えしています。また45分の時間を埋めるのではなく、音楽を通じて施設全体の活性化を目指しており、施設職員様のパートナーとして利用者様を見ていけるような気持ちで考えていますとご説明しています。

Q.現在一番の課題は何でしょうか?

やはり人材確保でしょうか。当社では、特に資格をお持ちの方をミュージックファシリテーターの採用条件にはしておりません。ただし、実際の現場では利用者様から歌いたい曲のリクエストを頂いたり、歌いやすいキーやテンポにするなど、臨機応変な対応が不可避ですので一定以上の音楽的素養が求められます。そう考えるとやはり音楽療法の勉強経験がある方は即戦力といえますね。

また、音楽の技術があったとしてもある程度介護や認知症に関しての知識も必要になります。施設様側もヘルパーの資格を持っていると安心していただけますので、介護職員初任者研修やヘルパー2級の資格を持っている者も多く在籍しています。

更に一番重要なのは一方的に音楽プログラムを押し付けるのではなく、「利用者の皆さんの歌声を引き出そう」、「楽しくするために何ができるのか」、というようなマインドも重要ですので、こういうマインドをお持ちの方と出会えるよう常にアンテナを張っています。

Q.ピアノが弾ける施設職員の方がいらっしゃった場合、職員の方向けに教えたりということはないのでしょうか?

デイサービスの職員様を集めた研修会の講師依頼をお受けすることはあります。
職員様向けにノウハウをお教えすると、我々の仕事がなくなってしまうのではないかと思われるかもしれませんが、決してそうではありません。研修会を機に施設内で音楽の時間を増やしていただくと、「もっとこうしたい」、「もっとこんなこともやりたい」とクオリティやバリエーションを求めるようになり、職員様の業務量が非常に多いため対応できないことも増えます。そういったときこそ我々ミュージックファシリテーターの出番だと考えています。

Q.今後の目標をお聞かせください。

近年、介護施設が急増しているため競合施設との差別化の意味もあってか、利用者様向けのコンテンツを様々ご用意される介護施設が増えていますが、利用者様それぞれに趣味や好きなものがありますよね。我々の音楽に限らず、様々なコンテンツホルダーが介護業界参入することで、高齢者がやりたい事を選択できるのが当たり前にすることですね。 最近では介護旅行や訪問美容、アロマ等様々なコンテンツホルダーの参入があるようです。ビジネス上はニッチすぎて難しいという面もあるかもしれませんが、積極的にこの業界を盛り上げていきたいと考えています。    


柴田 萌 氏 プロフィール

株式会社リリムジカ 取締役 共同代表/ミュージックファシリテーター 「介護を受けて生活している人に心地よく楽しめる音楽の場を提供する」というミッションのもと、介護現場にて認知症や障がいのある方も楽しめる音楽プログラムを実施。実施回数は年間300回以上にも及ぶ。 また介護職や地域の人に向けた音楽の場づくり講座等も行っている。 2008年昭和音楽大学音楽療法コース卒業。 日本音楽療法学会認定音楽療法士/ヤマハエレクトーン演奏グレード5級/ヘルパー2級


株式会社リリムジカ ホームページ

http://lirymusica.co.jp/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

第5回 
特定非営利活動法人高齢者安全運転支援研究会
第4回 
株式会社ファインケア
第3回 
株式会社インターネットインフィニティー

高齢者の末永く安全な運転を目指して

特定非営利活動法人 高齢者安全運転支援研究会
理事 諸井恵氏 / 事務局次長 中村拓司氏

 

特定非営利活動法人高齢者安全運転支援研究会は、認知症をはじめ身体機能の衰えなど高齢化による運転能力に及ぼす諸々の影響など、高齢者の安全運転支援につながる研究を通じ、高齢者が安心して運転を続けられる環境づくりに取り組んでいます。今回のインタビューでは高齢運転者の実状から現在の「認知症」をキーワードとした具体的な取組、今後の活動までお話をお聞きしました。

2013年8月 取材

無題

  「交通弱者」でもある一方、「加害者」予備軍でもある高齢運転者の実情

 まず一つ目は、運転者自身に身体的な衰えや認知症の可能性があることを自覚してもらうための啓発活動です。

  現在の日本は超高齢社会に突入し、2045年の高齢化率は35%を超える見通しだと言われていますが、交通事故での犠牲者の高齢化も進んでいます。現在、交通事故による犠牲者のうち65歳以上の割合が最も高く、その事故状況としては歩行中がほぼ半数、次いで自動車乗車中、自転車乗用中となっています。

 「交通弱者」としての被害者であることはもちろんですが、事故加害者として高齢者が顕在化していることが危惧されています。現在65歳以上の運転免許保有者も増加しており、現在では全運転免許保有者の約17%の1420万人となっています。 更に団塊世代から女性が社会進出するようになりましたので、これから女性の運転免許保有者が増加し、必然的に女性高齢者の事故件数が増えると予測されています。

無題


加齢に伴い運動能力はもちろんですが、判断力・認知力・記憶力・視力、そして聴力も低下し事故の危険性は高まります。中でも高速道路の逆走や、ブレーキとアクセルの踏み間違いによる急発進などによる事故が目立っています。

この現状を解決するための法律や仕組みはまだ確立されておらず、主体的に活動している団体や機関も多くはありません。さらに高齢者と車社会の関わりを追求していくにつれ、「認知症」がひとつの危険因子として関係しているということが分かってきました。

そこで認知症専門の医師と連携することによって、まずは「認知症」に特化し様々なデータや知見を蓄積するという意図で「研究会」として設立したのが、我々特定非営利活動法人高齢者安全運転支援研究会です。

 
 

高齢者の運転の是非を体系的・理知的に考える存在

 

現在、道路交通法により75歳以上の方が免許証を更新する場合には「講習予備検査(認知機能スクリーニング)」が必要とされています。その検査結果において、「認知症の疑いが強く一定期間内に特定の交通違反があった場合には医師の診察を受ける、そしてその診察において認知症と診断された場合には免許証を返納する」という仕組みがあります。
しかし生活の足として車が不可欠である郊外や地方では、高齢者ほど車の必要性が高くなります。そのため一方的に高齢運転者を排除するのではなく、高齢者が安全に車を運転し安心して道路を利用できるための仕組みが必要です。
そこで我々は、各分野の組織や団体と連携して、医学、心理学、及び工学等の見地から高齢化に伴い減退する判断能力や身体能力に関するデータの収集や分析を行い、安全な車社会の実現に向けての改善策を検討・提言して行きます。

具体的には冒頭でも触れた「高齢者に運転をさせないための活動」だけではなく、「高齢者でも積極的に運転を行ってもらうための施策」にも取り組んでいます。この点を踏まえ、私どもの活動は4つの種類に大別できると思います。

 

 

「自分はまだ運転できる」…その思い込みから脱却してもらうために

 

まず一つ目は、運転者自身に身体的な衰えや認知症の可能性があることを自覚してもらうための啓発活動です。

先ほどお話した通り、現在75歳以上の運転免許保有者に対しては「講習予備検査(認知機能スクリーニング)」が行われていますが、この「一律75歳以上」という線引きが果たして適正なのかどうかという議論があります。

厚労省が行った最近の調査によりますと、65歳以上の7人に1人(15%)は認知症であると発表されました。しかしながら認知症の疑いがあっても、そういう方は自分から病院に行かないことがほとんどというのが実情です。

私どもが実施する「高齢者向け交通安全教室」の中でアンケート調査を実施したことがあるのですが、「自分の運転に自信がありますか?」という問いに対して、ほぼ全員の方が「自信がある」と回答されました。

また、「いつ免許を返納しますか?」という問いに対しては、「自分で危険だと感じるまで運転する」と答えた方がこれまたほぼ全員でした。

言い換えるとほとんどの高齢ドライバーがご自身の運転に関して、「自分はまだ十分に運転が可能な身体能力を有している」、「安全運転ができている」と思い込んでおられることになります。
もちろんそれが事実であれば何ら問題はないのですが、大多数の方が一時停止を守らない、車間距離が不十分、ブレーキのタイミングが遅れるなど、事故に結びつきかねない運転をされています。

また、もし認知症であった場合「危険と感じたことを記憶しておくことができない」という問題もあります。

例えば認知症の方が危険な運転をしてしまった場合を考えてみます。運転者は、そのときは「自分が危険な運転をしてしまった」、「自分の身体能力を過信してはいけない」と自覚するかもしれません。一時的には自身の運転能力についても省みるでしょう。しかし認知症では時間経過と共にそのこと自体を忘れてしまい、結果としてすべてが記憶に残らないことになります。当然、運転者自身が免許を返納するには至らないことになります。中には免許を返納したこと自体を忘れてしまう方もいらっしゃいます。

このような現状を変えていくために、私どもは、鳥取大学医学部の浦上教授により開発された「物忘れ相談プログラム」という認知症を見つけるための装置が有効と考えております。

この装置を2カ所の自動車教習所に持ち込み、高齢者講習受講対象である70歳以上の方々に任意でテストしてもらいました。その結果によると約3割に認知症の疑いが見られました。この3割の中には徐々に認知症が進行する方もいらっしゃるはずです。

認知症というのは皆さんが思っているより身近な存在です。そして何より認知症の初期段階の「物忘れ」が病的なものか、一般的なものかを自覚をすることが重要です。物忘れがひどくなる認知症の初期段階は「軽度認知障害(MCI)」=「認知症予備群」とされ、そのまま放置すると翌年には12%、3~4年後には約半数の人が認知症になると言われています。このMCIの時点で積極的な予防対策を取ることにより、認知症に移行することを防いだり、進行を遅らせたりすることができます。

そのことから私どもは認知症予備群を早期発見できる場所として、自動車教習所などと連携し主に60歳以上を対象とした安全運転講習会を行っております。そこで物忘れの度合いをチェックし、運転能力の客観的な評価や認知症予防のためのトレーニング等を行うことにより、運転者に認知症の前兆の有無や、予防による運転継続の可能性を示唆しています。

 
 

いつでも、どこでも、簡単に物忘れをチェックしてもらう

 

二つ目の活動は、認知症の検査をしやすい環境・インフラを創造することです。

前述した「物忘れ相談プログラム」は、非常に簡便に認知機能の状態を調べることが可能なシステムなのですが、これを自動車教習所をはじめとして、全国の行政の窓口や病院、薬局など高齢者の行動範囲内にも積極的に設置していきたいと考えています。

イメージとしては血圧計です。様々な施設に血圧計が置いてあるのをよく目にしますよね。誰でも簡単に血圧を測ることができると思いますが、それと同じでもっと認知症を身近なものに感じてもらい、身近なところでチェックできるようにしたいですね。

認知症の疑いを自分自身で自覚し、予防プログラムにトライする、自分自身で病院に行く、これをあるべき姿としてそれを具現化するための社会インフラの構築を私たちは目指しています。

 

 

免許をとりあげるだけじゃない、認知症でも運転できる社会インフラを

 

三つ目は、少々のハンディキャップがあっても運転可能な社会インフラや仕組みを作ることです。

ここまでは認知症の方が運転することの危険性に触れてきましたが、一概に危険視することには違和感があります。専門医の間でも一部の認知症では軽度の段階であれば一定の条件下で自動車の運転をしても問題ないと考えられています。

現実問題として特に地方では車を運転できないと生活そのものに支障が出てしまいます。そのため少々のハンディキャップがあったとしても、安全に運転を行うことができるような仕組みや対策が求められます。

もちろん程度の進んだ認知症の方に運転を促すのではありません。ただ、一部の軽度の方においては、例えば地理や道路事情にも慣れた自宅近隣エリアのみに限定して運転できるようなルールづくりをするのもひとつの方法だと思います。

これに伴って、メーカーなどとの連携により、GPS機能と連動して限定エリアを超えるとアラートが出る仕組みを開発するとか、認知症予防につながる操作体系を有した機器を開発するとか、我々だからこそ追求すべき可能性は様々あると考えております。

 
 

運転そのものが認知症を回避するための役に立つ?!

 

話は変わるのですが、特に高齢者はマニュアル車を運転している事が非常に多く、オートマ車を運転できない方が多いようです。

以前、千葉県で高齢者交通安全教室を行った際、自分の車を持ち込んでもらいブレーキ等の運転の講習を行ったのですが、その際の車は一台を除き全部マニュアルでした。

マニュアル車はペダルを三つ使わなければいけませんし、頭で考えながら運転する必要があります。また今では当たり前ですが昔はカーナビもなく、コースも考えながら運転していました。最近は車のスペックが向上していますので頭を使わなくても簡単に運転ができるようになっていますが、これまでマニュアル車を運転してきた方のほうが認知症の発症は少ない可能性もあります。もしかしたら運転を継続させること自体、認知症を予防するための生活習慣になるかもしれません。

そのため我々としては、免許をやみくもに返納いただくのではなく少々のハンディキャップがあって運転しても問題ないような技術や仕組み、ルールを提言していきたいと考えています。

 

 

免許を返納してもらうだけでなく、その後の生活について考えるのも使命

 

そして四つ目、それが運転困難な高齢者から円滑に免許を返納してもらうための取り組みです。
現在75歳以上に「講習予備検査(認知機能スクリーニング)」が義務付けられていますが、年齢の引き下げも含め、検査の対象者を広げていく必要があると考えています。

事実、高齢者が免許を更新する際に、そのご家族からこっそり自動車教習所に連絡があり「認知症の疑いがあるから免許を更新させないでほしい」と言われることもあります。しかしこの場合でも、自動車教習所には免許を更新したい方に対して返納させる強制力はありません。従って高齢者講習を受ければ免許は付与されてしまいます。こういう事例も踏まえて、本当に危険な認知症の方が返納できる仕組みを作らなければなりません。

また、返納のシステムを見直すのと同時に、返納後の生活を支える社会インフラについても考慮が必要です。

例えば、東京大学のオンデマンド交通プロジェクトとの連携などがあげられます。これは電話やパソコン、携帯電話で「移動したい」という意思表示、つまり予約をすると、効率的な運転計画が自動で作成されると共に、交通事業者のドライバーのもとへ情報が提供されるというシステムです。交通事業者とリアルタイム性の高いネットワークを構築することにより、自宅のすぐそばから目的地までドア・トゥ・ドアの移動が可能になります。

あと、市場を見渡せばネットショッピングやスーパーマーケットの宅配サービスなどはどんどん進化していますし、同時に高齢者向けに操作が非常に簡便化・簡素化された専用のデジタルデバイスなども開発されつつあります。こういう事例も参考にしつつ、免許を返納して車がなくなった方々のための買い物支援策にも取り組んでいきたいと考えています。

長く安全に運転していただくと共に、返納した人へのセーフティネットも確保する。これを企業とのコラボレーションにより実現していきたいですね。

 

 

認知症の最大の問題、それは「認知症」に対する理解度の低さ

 

 以上の四つが私どもの活動になるのですが、現時点では特に一つ目、二つ目で触れた「認知症と運転」について特に注目しております。
その中で私たちが特に課題だと考えているのが、我が国における認知症という病気に対する理解度の低さです。

ご存じのとおり認知症は、昔は「呆(ぼ)け老人」、「痴呆」などの呼び方をしていました。しかしその言葉自体のイメージが悪く、人権を虐げるような印象であったため、それが改められ今では一般的に「認知症」と呼称されるようになりました。
しかしこれはあくまで言葉が変わっただけで、抜本的に病気に対するイメージが改められたわけではありませんよね。

事実、統計によると高齢者がかかりたくない病気の1位が認知症です。また認知症の検診を受けること自体への抵抗感も非常に大きく、発症本人も隠したくなる傾向にあります。しかしながら65歳以上の7人に1人は認知症であると言われていますし、予備群を含めると実際には1,000万人以上とも言われています。

誰もが発症する可能性がある病気ですが、近年の医療技術の発達により様々な治療薬も開発され、初期段階では認知機能の維持・回復のための医学的手法が確立されつつありますので、認知症を特別なものとせず、高齢者の理解と社会的なコンセンサスを得られるように我々としても働きかけていきたいですね。

 
 

認知症についてもっと科学的なアプローチを

 

さらに、ひとえに「認知症」といっても、その種類は様々で一言で括るには無理があります。風邪に例えると、同じ風邪の中にも鼻水が出たり、喉が痛んだり、熱が出たりと様々な症状があります。それ同じで、認知症にも様々な病態があります。中でも日本人に多いのはアルツハイマー型で、認知症患者の約半数を占めると言われており、アルツハイマー型の初期段階であれば全く問題なく運転できると言う医師もいるそうです。その他血管性、レビー小体型、前頭側頭型が多いのですが、特に前頭側頭型は悪いことを悪いと認識していても自分自身をコントロールできないため、赤信号でも自分が行きたいと思ったら行ってしまうという危険性を持っているそうです。

つまり認知症の種類や段階でゾーンを設定し、どのゾーンが運転しても良いのか、免許は返納すべきなのか。また自分の家の周りのエリア限定で運転を許可する、等の運転免許制度も整備していくべきだと考えています。

日本は世界的に見ても高齢化が進んでおりますので、我々の活動そのものが先進的だと思います。他のマーケティング事例と同様に日本で仕組みを確立できれば、中国や韓国をはじめとしたこれから高齢化が深刻化する国へ、ノウハウを提供できるのではないかと考えています。

 

 

大切なのは家族の存在と協力

 

特に認知症という病気は家族の存在が重要になります。認知症という病気は社会生活への支障の有無で最終的な判断をされますので、物忘れが激しくなったとしても家族のサポートがあり、これまで通り社会生活が送られるのであれば大きな問題はありません。

また認知症は自分自信では気づきにくい・認めたくない病気ですので、家族が日頃からコミュニケーションを取り、日常の変化に気づき、運転すべきではない高齢者には免許の返納を促すべきですね。免許を返納するということは、生活の足が奪われるということなので非常にご本人には辛いことですが、からこそ家族の理解と協力が必要になります。

高齢者をとりまく周りの方々が高齢者の運転という行為の是非に対し、正確な情報を背景にして理解を深めてほしいと思います。

 

 

更に進む高齢化、今後の活動は…

 

 高齢者が安全に運転できる社会、それは簡単ではありませんし、私たちだけで作れるものでもありません。

しかしそこから派生し創出されるマーケットがあるのも事実です。高齢者でも安全に車を運転できるような技術革新や、免許の返納後の生活の足となる社会インフラづくりなどは、一般企業やメーカーにとってもビジネスチャンスになり得ると思います。

ですので、今後は今以上に一般企業とのコラボレーション事例なども増やして、積極的に協力して活動していきたいですね。

また我々の活動により仕組みが確立され体系化された際には、是非海外にも展開したいと考えています。

特定非営利活動法人 高齢者安全運転支援研究会

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シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

第4回 
株式会社ファインケア
第3回 
株式会社インターネットインフィニティー
第2回 
キユーピー株式会社

介護と医療を通じて
「暮らし」をプロデュースする

株式会社ファインケア 代表取締役社長 永田嘉弘氏

 

株式会社ファインケアは、ココカラファイングループの「人々のココロとカラダの健康を追求し、地域社会に貢献する」という理念のもと介護事業を専門として関東中心に在宅サービスや施設サービスを展開しています。今回のインタビューではココカラファイングループ内での連携をはじめ将来的な構想やシニアマーケットまで広くお話をお聞きしました。

2013年7月 取材

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Q.ココカラファイングループの主軸はドラッグストア事業・調剤事業だと思いますが、グループ内で介護事業をはじめられたきっかけ・経緯をお聞かせください。

 

10年前、当時㈱セイジョーの代表取締役社長であった塚本(現㈱ココカラファイン代表取締役社長)が打ち出した理念が、「問題を解決できる企業になりたい」というものでした。そしてこの理念を具体化するための柱として、現在の「ドラッグストア事業」、「調剤事業」以外に、「介護事業」、「フィットネス事業」、そして「通販事業」の3事業を創出することになりました。その当時、私自身は「新規事業」の開発の担当で、介護事業とフィットネス事業、通販事業「OEC」の立ち上げに携わっておりました。ただ介護事業に関しては新たに立ち上げると言ってもそう簡単なものではないため、2006年に当時ドラッグストア業界で一番介護に対して先進的であったシブヤ薬局をM&Aで取得、これをセイジョー内に部門化して介護事業を推進して参りました。そしてココカラファイングループとして今後の日本社会において大きな問題になる介護に本格的に取り組んでいこうということで、昨年ファインケアを設立するに至りました。

また、やはりこれも新規事業であった通販事業については、ココカラファイングループが掲げる「おもてなし」というキーワードとEC(electronic commerce)を組み合わせ「OEC」と銘打ち、新会社を新たに立ち上げました。

フィットネス事業については2008年に政府が打ち出した保険制度である特定健診に則り進めていこうとしていたのですが、国の政策の行き詰まりと同時に我々も断念しました。ただしこの取り組みは現在、介護事業の中にある理学療法士による機能訓練という活動に形を変えて推進しております。

 

 

Q.フィットネス事業を始められた当初は高齢者向けだったのでしょうか?

 

単純に高齢者をターゲットにするというよりも「介護予防」を狙う事業です。

当時はちょうど「生活習慣病」や「メタボリックシンドローム」といったキーワードが一般化してきた頃でしたので、あくまでもこれらを予防するための措置として事業をスタートしました。当社にはドラッグストア事業を通じて登録販売者の資格を取得した者が多数おります。彼らが管理栄養士や健康運動指導士という準国家資格を取得すれば、「薬」と「食事」とそして「運動」の3つをご提案できるようになります。

この3つの知見と資格を取り揃えている人材は非常に貴重な存在であり、場合によっては医師や薬剤師よりも生活習慣病予防に対してトータルなアドバイスが可能です。このような人材育成を積極的に推進していくことを構想しておりましたが、現実的には難しい問題も多く、残念ながら単独事業としては撤退するに至りました。

ただし、その際のノウハウを我々ファインケアの中で理学療法士(PT)や作業療法士(OT)の国家資格を持つ専門家によって、20134月に立ち上げたリハビリ特化型デイサービス「ボナール」で活かしていく方向で考えております。

 

 

Q.ファインケアでは数多くの施設サービスを運営されていますが、ドラッグストア事業・調剤事業と何か連携は取られているのでしょうか。

 

  私どもファインケアが常に考えていることは、

「高齢者が住み慣れた地域で、できれば自分の家で暮らし続けていけるようにするために、我々は何をすべきか」

ということです。つまり、高齢者の方々が単に私どもの施設に入居していただくカタチに捉われるのではなく、在宅の方にも優良なサービスを提供したり、あるいは高齢者向けの集合住宅を提供するなど、「住む」、「暮らす」という感覚にこだわったサービスを実現したいのです。体の弱い高齢者はなかなか外出できませんので買い物にも行けません。そしておのずと介護や医療が必要になってきます。このような方々に対し、必要なときに必要な介護や医療のサービスを提供する、そんなネットワークを構築して行こうというのがファインケアの構想です。住環境だけを提供するのではなく、各種サービスを含めた多方面から高齢者の皆さんをサポートするということです。そのためには様々な知見や人材が必要になりますが、私どもココカラファイングループには多くの薬剤師や管理栄養士等の専門家は元より、ネット通販機能もあり、そしてファインケアには高齢者の生活を支援する介護の専門家も擁しております。このようにグループ内に存在する多くの資源を連携させることにより、高齢者の生活支援や食事の栄養管理、介護・医療など在宅や施設で安心して暮らすためにトータルな支援をしていきたいと思っています。

その一方で、実は私どものグループ内には医療と食事の分野が不足しています。この部分については外部との連携も積極的に行い機能を補完、そして充実化していこうと考えております。例えば医療の分野では規模の大小関わらず、特に地元の医療機関と連携を進めております。この点については現在、厚生労働省でも地域包括ケアシステムの実現を指針として掲げていることも手伝って、医療機関様とのお話が比較的進めやすい状況にあります。

また、食事の分野をはじめ不足している部分についても、やはり外部との連携をとりつつ、グループ内も一丸となって新たなネットワークづくりに尽力していきたいと考えています。

 

 

Q.つまり、「街」のインフラを作っていく感覚に近いのでしょうか。

 

そうですね。まさに「街づくり」ですね。将来的には高齢者が安心して暮らせることに主眼を置いた「街」を作りたいと考えております。

現在当社は、約100名の方にご利用いただけるサービス付き高齢者向け住宅をご提供しておりますが、今後住宅のみならず、スーパーマーケットやコンビニエンスストア、調剤薬局等の店舗までを誘致しようとすると、1,000名単位の利用者を集めなければなりません。

また、サービス付き高齢者向け住宅というと、どちらかといえば富裕層向けのサービスというイメージがつきまといがちですが、私どもは富裕層向けのサービスを構築して行くつもりはありません。むしろ家賃を極力安価にしてそこに多くの高齢者が集まってくださることにより、経済が循環し潤うような仕組みづくりが理想だと考えています。その理想形はいかなるものなのか、それは実現の可能性があるのか、そして実現できるのはいつになるのか、現時点ではまだ見えていないことも多いのですが、明らかに言えることは、今、このような仕組みが生活者は元より行政からも待望されているということです。ニーズがあるのは間違いありませんので、何とか私どもの手で実現していきたいです。

 

 

Q.医療機関との連携のお話がありましたが、その他課題として何かあればお聞かせください。

 

課題はやはり人材の確保ということになります。介護事業では、国家資格を保有する介護や医療の専門家が必ず何人必要という人員基準があります。ドラッグストア事業であれば、若い管理者クラスの育成が比較的短期間でできる仕組みがあります。例えば、新卒で採用し、店舗へ配属後教育するとおよそ2年程度で店長になれます。しかし、残念ながら、当社の介護事業においては現時点でこのような仕組みが存在しません。資格保有者や経験者を採用するのが、人材確保の基本的な動きになっております。

また、人材確保と共に人材育成も課題となっています。特に管理者の育成が難しく、これも今後必要とされる仕組みです。特に若い方でも我々の会社に入社していただく為には、人材育成と給与体系の仕組みづくりは今以上に重要となっていくでしょう。

 
 

Q.介護サービスの質の向上のために普段から心がけていらっしゃることはありますでしょうか。

 ドラッグストア事業ですと、各店員一人一人が日々お客様と接する中で気を付けるべきポイント等を学ぶものですが、介護・医療業界は多職種連携です。1人のご利用者様のお世話をする際にも、医者や看護師、ヘルパー、ケアマネージャー等、各専門家数名のチームで対応しています。特に当社の場合、医療部門は社内に人材がいないため病院と連携する必要がありますし、外部の会社や行政との連携が必要になることもあり得ます。従って各スタッフには、多職種との連携が取れる素質を植え付けていかなければなりません。この連携がしっかり取れないと利用者にとっても不幸ですし、サービス提供の観点からも大変効率が悪くなります。ひいては経営の観点からしても利益を創出しづらくなりますので、普段からスムーズな連携を心がけています。

 

 

Q.サービスの質についてはスタッフ個人の素質に依存する部分が大きいと思いますが、会社としてルールやスキームなど確立されているのでしょうか。

 

これに関しては相反する2つの見方ができます。

我々の業界は100人の利用者がいれば100通りの対応方法があり、マニュアルや仕組みを作ること自体難しいという現実があります。無理にマニュアル化してもそれはナンセンスと言われることもあります。
しかしその一方で、会社という組織である以上はあらゆるノウハウや技術が個人の中だけに蓄積していってしまうことを是とするわけにはいきません。やはり組織としてノウハウや技術を保有し、これが人材育成シーンにおいてスタッフに供給されていくようなガイドラインは必要だと考えております。もちろん人員が育っていくカタチも千差万別ですので、その育成プロセスを詳細に至るまで全て仕組みとして確立することはできません。しかし、一定のガイドラインは構築し、社内の財産にしていきたいとは考えています。

 

 

Q.100人の利用者に100通りのサービスというお話がありましたが、利用者やそのご家族にも様々なニーズがあろうかと思います。それらを把握するために何か工夫されていること等はありますでしょうか。

 

 我々の介護サービスにはサポートする方が多く関わっています。医療従事者や介護従事者をはじめ、ご家族やご近所の方々等幅広くいらっしゃいます。居住する高齢者だけにスポットを当てるのではなく、周りでサポートする方々にも色んな情報提供をしていきたいと考えています。

我が国の医療保険や介護保険の仕組みは非常に複雑であり、この先もどのように変化するか分かりません。そんな状況の中、例えばある日突然ご家族のどなたかが倒れられ介護が必要になったとしましょう。その際、ご家族はどのように行動したらよいか、どのような仕組みが活用できるのか、すぐにはお分かりにならない場合がほとんどだと思います。我々には事業を通じて様々な分野の方々が多く関わっていてくださっている独自のネットワークがありますので、ここから日常的に多くの情報を発信し、生活者の方にとって突然の場合にも冷静な対応をしていただけるような環境づくりをしていきたいですね。それは、ドラッグストア業界が変化してきた図式にも似ていると思います。医薬品や日用品だけを取り扱っていたドラッグストアが、それ以外にも食品を取扱うようになるなど、どんどん商品アイテムを増やしてきましたが、その結果生活者の中には、「ドラッグストアというのはほぼ何でも購入でき、ワンストップで買い物ができる場所」という意識が醸成されました。私どももこの図式と同様に、高齢者の皆さんやそのご家族にとって、「普段から様々な情報を供給してくれる存在」でありたいと考えています。若い方であれば病気になった際何とかご自身で対応できると思いますが、高齢者はそういうわけにはいきません。ですので、私どものところに来てもらえれば、介護と医療に関して何でも解決できる、言わば「リアル世界のポータルサイト」のようなイメージです。

 

 

Q.利用者の方々とコミュニケーションを取られる際、何か気を付けていらっしゃることはありますか。

 

 リハビリ特化型デイサービス「ボナール」を立ち上げる際、できるだけ「介護」というキーワードは避けるようにしました。あくまでも介護予防のためのサービスですので、ご利用者様は基本的に元気な方々です。たとえ要支援認定は受けていても必ずしも介護が必要な方ではない場合もあります。そういう方が気軽にご利用いただける、サロンやカフェのような身近な存在であるよう、常に配慮をしております。

 
 

Q.介護業界に異業種からの参入も増えており施設サービスも急増するにつれ、利用者のニーズも多様化し、ハードよりもソフトのようにサービスに付加価値を求められる時代になると思いますが、新たなサービス等お考えでしょうか。

 

 例えばデイサービスで折り紙や絵画を楽しんでいただく企画などをご提供しているのですが、こういうところに積極的に参加し、かつ社交的に取り組まれる方の多くは女性なのです。女性の皆さんはそのような企画に対し上手に折り合い楽しみを見出しやすい傾向にあります。

一方で、男性の中にはそのような中へ入っていきづらい方が多く、隅で新聞を読んでいたり、少人数で将棋や麻雀をされている光景をよく目にします。また、引きこもりなども男性の方に多く見られる現象です。ですので、このような引きこもりがちであったり、一人暮らしをされてコミュニケーションが不足している男性の高齢者を元気づけるサービスの実現なども今後検討していきたいと思います。

 
 

Q.新しいチャレンジを様々されていらっしゃいますが、どこかベンチマークされている企業や経営者はいらっしゃいますか。

ベンチマークしている会社は…特にはありません(笑)。と言うのにも事情があるのです。問題は我が国の制度にあります。日本の介護保険等の制度は他国と比べて被介護者にとって優遇され過ぎていると言いますか…私としては、この制度が我が国の将来の見通しを暗くしている部分があると思います。もちろん、未来永劫この先も今の制度が持続できるのであるならば何の問題もありません。しかし現実的にはそれは不可能です。政府も国民ひとりひとりも、早くそのことについてリアリティをもって認識しなければいけません。

 「いつか法律が改正される」 「いつか誰かが何とかする」

・・・という風に他人事に近い認識の方が特に生活者の方々の中には多いと思うのですが、団塊世代が後期高齢者になる2025年にはどういう世の中になるのか、これは大いに不安なことです。

しかしそれに対して明確に答えを出している人は誰もいませんし、行動を起こしている企業もないと思います。このような理由により、私自身がベンチマークしている企業はないのです。

 

 

Q.「シニアマーケット」全体についてお聞きしたいのですが、「シニア」といっても業種・業界、ご提供されるサービスによって様々な定義をされていますが、御社の中で「シニア」とはどう定義づけられていますか。

 

我々の日常業務の中で定義づけするのであれば、3つの指標があると思います。

  1. 認知症を患っているのかどうか
  2. ご自身の力で何でもできるのかどうか、介助が必要かどうか
  3. 家に引きこもっていらっしゃるのかどうか


例えば、我々が運営しているサービス付き高齢者向け住宅に関してですが、ご利用者様が終末期である場合、お風呂は付いていなくともトイレがあれば小さい部屋でも問題ありません。
一方で、たとえ高齢でもお元気でまだまだアクティブな方もいらっしゃいます。そういう方はご自身でお風呂も入りたいでしょうし、ご自分の家から持ってきた家具なども入れて自分らしく暮らしたいと思います。そうすると広い部屋が必要です。

このような利用者の属性をわかりやすく分類してくれるのが前述した軸であり、私どもにとってのシニア層の定義ということになります。

 

 

Q.今後シニアマーケットはどのように変化していくとお考えでしょうか。

 

日本人の平均寿命は年々長くなっています。現在の我々は年を重ね自分の余命がどのくらいあるのか考えた際、これから先どれくらいのお金を持っていればいいのか予測できません。もし今後必要なお金がある程度予測できたとしたら、色んな活動をしてお金を使うこともできるのでしょうが、将来の金銭的な不安が払拭されないから高齢者は万が一に備えて貯金至上主義になり、結果としてお金が動かないという悪循環を引き起こしています。

私どもは、生活者の皆さんが高齢になった際に、生活に必要な自己負担額の目安をある程度詳らかにし、実際に介護や医療が必要になった際にその金額内でサービスを提供できるような環境や枠組みを作っていきたいですね。

それができればお金の心配も少なく安心して生活できますし、もしかしたらそれは一つの景気回復策にも繋がるのではないかと思うのです。

株式会社ファインケア ホームページ

http://www.finecare.co.jp/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

第3回 
株式会社インターネットインフィニティー
第2回 
キユーピー株式会社
第1回 
株式会社ヘルシーネットワーク

日本の介護を幸せなものにする

株式会社インターネットインフォニティー 代表取締役社長 別宮圭一氏

 

株式会社インターネット・インフィニティーは「日本の介護を幸せなものにする」という企業理念のもと、ケアマネジャーに特化した介護関連情報提供事業である「ケアマネジメント・オンライン」の運営をはじめ、東京都・千葉県・埼玉県で在宅介護サービス事業等を行っています。今回のインタビューでは、サービス開始時のお話や介護業界・シニアマーケットの今後について広くお話をお聞きしました。

 

2013年7月 取材

 

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Q.「介護」と「インターネット」の組み合わせで先進的に事業を行っておられますが、現在のサービスを始められたきっかけとサービスの概要をお聞かせください。

 

当社は2001年の5月に会社を設立したのですが、元々は介護の会社ではなくソフトの受託開発を行うSI事業を行っておりました。

会社設立直後、訪問介護事業会社のシステムを受託開発することがあり、その時はじめて介護業界を見たのですが、当時の介護業界全体のIT化は他業界と比べてかなり遅れており、従事者のITリテラシーが非常に低いことに驚愕しました。そのため当時の介護業界がビジネスチャンスのあるブルーオーシャンに見えました。

しかしながら単純にHP制作やシステム開発の受託であれば他社と差別化できませんし、将来的に競合の参入が増えるのも目に見えていました。そこで、我々にしかできない我々らしいビジネスモデルはないかと模索しました。

とはいえ我々はあくまでSI会社です。介護業界の知見がなく、なかなか新たなビジネスモデルを確立できずにいました。

そこでまずは自分たちで介護事業をはじめてみようということになり、私自身もヘルパーの資格を取得し、まずは一番設備投資の少ない訪問介護事業からスタートすることにしました。

いざ訪問介護事業をはじめると、幸いにもお客様からのお申込みが多く忙しくなりましたので、思い切ってSI事業からは撤退し純粋な介護事業会社に生まれ変わらせました。そして、新しい事業所の立ち上げや福祉用具のレンタル販売事業、デイサービスセンター、リハビリ専用デイサービス「レコードブック」等、様々なサービスを拡充しました。色々なサービスを展開しましたが常に考えていたのは、どうやって効率的に顧客を獲得するかということです。サービス利用者を増やす為にはケアマネジャーからの紹介が必須ですのですので、地域に点在するケアマネジャーとの効率的なコミュニケーション方法が当時一番の課題でした。

色々なサービスを展開すると介護事業者や介護従事者の立場はもちろんですが、ご利用されるお客様、ご家族の立場も分かるようになりましたので、いったん足を止め当初我々が模索していたインターネットを活用した介護業界でのビジネスモデルの模索に着手することにしました。
そうして生まれたのが、ケアマネジャーの日常業務に役立つような情報を提供するプラットフォームで会員を集めるWEBシステムの「ケアマネジメント・オンライン」です。

 
 

Q.「ケアマネジメント・オンライン」について更にお聞かせ願えますか。

 

当社の経営理念は「日本の介護を幸せなものにする」ですが、介護事業者の多くは「いかに良質の介護サービスを提供できるか」ということに重点を置いています。もちろん我々も常に品質の向上は追求していますが、サービス利用者だけではなく社会全体で見た時の「幸せな介護」も追及していく必要があります。

日本の介護サービスの財源は社会保障費であり、介護サービス利用費の1割はご利用者様にご負担いただきますが、残りの9割は国民の皆様による税金や保険料が充てられます。我々のような介護事業者が良質な介護サービス提供のために追求すればするほどそのためのコストが増大し、その分国民の税負担や保険料負担が増えてしまうという実態があります。

果たしてその姿が「幸せな介護」なのでしょうか。そうではありませんよね。社会全体にとって「幸せな介護」を行うには介護サービスの品質向上の追求だけではなく介護そのものの価値や仕組みの変革だと思います。いかにコストをかけず、これまで以上の品質で数多くの介護サービスを提供できるか。民間企業はこれを考える必要があります。

介護事業を通じて私たちが目指しているのはただ一つで、高齢者の自立を支援しQOLを向上させ健康寿命をいかに伸ばせるかということです。また社会保険費を抑制しなければいけませんので、介護度が軽度の方から重度の方までいらっしゃいますが、我々が提唱する「介護イノベーションを実現して効率化を目指す」というのは重度の方にはあまり当てはまりません。そういう方々に対しては行政を中心とした社会の仕組みとして確立されるべきだと考えています。一方、民間企業である我々は健康寿命を延ばし社会保障費の増大抑制に寄与できるような形を目指さなければいけません。

具体的には「ケアマネジメント・オンライン」において高齢者のQOLを向上すべくメーカーの商品・サービスの情報を発信しています。近年高齢者人口の増加に伴いこれまでの商品・サービスをリポジショニングし高齢者のマーケットに参入されているメーカーが多くなりましたが、高齢者はITリテラシーが低い上に新聞や雑誌を読まない方、テレビを見ない方が多いといったように、情報弱者が多く、良い商品・サービスがあるもののマーケットに普及しづらく、その結果としてQOLの向上につながっていないという悪循環が生まれています。

当社ではケアマネジャーのネットワークを一つの社会インフラと見立てて、そのつなぎ手を担いQOLの向上を目指しています。

 

 

Q.介護業界は非常に特殊なマーケットなため、ブルーオーシャンといえ新規参入のご決断も難しかったと思いますが、参入のきっかけになったこと等あればお聞かせください。

IT業界でシステムを開発している時の例ですが、事務職の女性がそれまで時間をかけ手書きで伝票を作成されたものが我々のシステム導入により業務の効率化が図れ、便利になったという喜びのお声をいただくことがありました。

今まで不便だったものが便利になる、業界問わずこの「振れ幅」が事業をしていく上でのモチベーションになります。特に介護業界では、その「振れ幅」が非常に大きく、今まで全く歩けなかった方がヘルパーの支援を受けて買い物ができるようになった、トイレに行けるようになった、ご飯を食べることができるようになった、というように我々の業界はまさに高齢者の命や生活そのものであるわけですから、この「振れ幅」はかつて経験したことのないくらい大きいものでした。

介護業界がビジネスチャンスのあるブルーオーシャンであるということの前に、私たちが提供する介護サービスや商品を使っていただいた後にカスタマーが変化する、この変化の度合いが大きく、世の中にこんな素晴らしい仕事があるのだということを感じた事がきっかけです。SI事業をしている時に訪問介護の事業会社と出会っていなかったら、今現在、介護事業をやっていないと思いますし、本当にいい業界に出会えたと思います。

Q.SI事業という機械が相手になる業界から、人が相手になる介護業界に参入されたわけですが、参入当時迷いはなかったのでしょうか。

 

 我々の場合ケアマネジャーとインターネット上でつながっているものの、その後はリアル世界でのコミュニケーションになりますが、ITの世界からリアルな世界への抵抗感は全くありませんでした。ソフト開発していた際も人の手を介し開発しますし、もちろん人とのコミュニケーションもありました。どの業界でもWEBだけで完結するプロモーションやマーケティングはほとんどないと思います。

我々が介護とインターネット、シニア・シルバーマーケットでITテクノロジーやWEBを使って介護業界を変革するという話をしますと、「高齢者はインターネット使えないからビジネスとして成立しないのでは?」と言われることがよくあります。

この点について言及すれば、実はこれこそが私のこだわりでもあるのですが、インターネットやWEBはあくまでも道具でありツールに過ぎません。高齢者の方がインターネットを使えないという固定概念は間違っており、インターネットが使えないのではなくデバイスが使えないだけなのです。

例えば80歳のご高齢の方が電車に乗る時でも自動改札にICカードをかざせば入れますよね。しかし自動改札システムの後ろには膨大で複雑なシステムが動いているわけです。その80歳の方は自動改札のシステムコードを書けなくても、タッチするだけでそのシステムを使えているわけなんですよね。それと同じです。高齢者にキーボードを使わせようとするから使えないのであって、システムやデバイスを工夫するだけで高齢者の方でもインターネットのメリットを享受できるはずなのです。我々はそういうことを目指していかなければいけないと思っています。

 
 

Q.これまで介護事業をされてこられた中で、ご苦労されたことがあればお聞かせください。

 

 過去から現在まで長年のテーマであるのが人的マネジメントです。介護施設の場合は同じ場所で時間を共有できるためスタッフのマネジメントを行いやすいのですが、訪問介護サービスは介護ヘルパーがご自宅へ訪問するため直行直帰が多くコミュニケーションが取りづらいという特徴があります。そのためマネジメントに関して非常に苦労しました。コミュニケーションが取れない分管理が大変でしたが、各人に共通するのは仕事に対する思いや志が非常に強いということです。介護施設ですと他のスタッフもいるため当事者意識が低いことも稀にあるのですが、訪問介護は1人で現場へ行きますから強い当事者意識がないと業務を遂行できません。

マネジメントには苦労する反面、各介護ヘルパーたちは強い責任感やプライド、ポリシーを持ってプロフェッショナルな仕事をしますので本当に尊敬しています。そういう気持ちを共有しながらコミュニケーションを密に取っていくことで、人的マネジメントも壁を超えることができたような気がします。

 
 

Q.事業が拡大していくとスタッフが増え、更にマネジメントが課題になったと思いますが、これまでどこかブレイクスルーしたなと感じられた時はありますか?

 

 2006年くらいからM&Aをするようになり急成長した時期がありました。もちろんビジネスとしては急拡大するのですが、文化の違う会社の従業員が入り社員数も急増しますので、更にマネジメントが課題になった時期がありました。その時会社としての理念を体系化する必要があると気づき、「日本の介護を幸せなものにする」という経営理念や、「IIF4つの約束」と呼ばれる行動規範など、明文化して意思統一を図った時ブレイクスルーしたと思いますね。

その他、「ケアマネジメント・オンライン」の立ち上げ時は、マーケティングリサーチのビジネスモデルを考えていたためケアマネジャーの会員獲得が課題で会員獲得のために広告宣伝を行っていましたが、思うように集まらず予算がほぼなくなるという時期がありました。もちろん予算には限界がありますので更なる広告出稿を行うわけにもいかず、社員で色々な策を考えた結果、広告ではなく口コミで広めてもらおうという結論に至りました。ただし何か仕掛けがなければ口コミも広がりません。ケアマネジャーにとって口コミが広がる仕掛けとは何だろうか、色々模索した結果がケアマネジャーの業務支援というコンセプトで開発した業務支援ダウンロードツールです。ケアマネジャーがそのツールを活用し業務の効率化が図れれば隣の席の方に広めてもらえるだろうという想定でした。その仕掛けが功を奏し2006年・2007年には会員が急速に増え、この時ブレイクスルーしたなと思いますね。

その頃同時にビジネスモデルもマーケティングリサーチだけではなく広告メディアとしての販売も考え、単なるバナー広告やタイアップ広告だけではなくメーカーのマーケティング支援のようなビジネスモデルの開発も行っていました。苦労した時期ではありましたが、非常にやりがいがありました。

 
 

Q.現在全国のケアマネジャーのうち60%が「ケアマネジメント・オンライン」の会員だということですが、立ち上げられた当時と今とで大きく変化している点があれば教えてください。

 

ケアマネジャーの平均年齢が下っているという背景も伴ってか、ITリテラシーが向上したことが大きな変化だと思います。サービス開始当時はインターネット業界も発展途上でしたので「インターネットやWEB広告は信じない」という時代でした。ですのでケアマネジャーにとっていくら良い情報やツールが提供可能であったとしても、あくまでこちらから積極的にアプローチをしていかないと活用していただけない状況でした。現在はITリテラシーの向上によって、ケアマネジャー自身が積極的に情報を取りに来られるようになりました。そこが一番大きい変化です。

もう一つはケアマネジメントの質が向上したことです。昔と比べて今は情報量が圧倒的に増えたと共に、ケアマネジャーたち自身のITリテラシーも向上しました。ケアマネジャーという仕事も技術的に高度化が進んでます。ケアマネジャーが作るケアプランの質も向上していると思います。その結果、サービス利用者の生活も向上しますので、この部分については我々の活動が少なからず寄与しているのではないかと思います。

 
 

Q.ケアマネジャーとのコミュニケーションが重要だというお話しでしたが、人の生活・命に関わる業界なのでコミュニケーション上を取られる中で特に気をつけていらっしゃるような事があればお聞かせください。

 

我々は高齢者の生活向上に寄与するメーカーの商品・サービス情報をケアマネジャーに提供していますが、ケアマネジャーは高齢者の生活を支援するため重要な役割を担っていますので、中立公正な立場でなければなりません。よって我々が情報発信する際も、メーカー側に寄りすぎても偏った情報になりますし、介護事業者に寄った情報だけでは新しい情報を提供できませんので、中立公正な第3者の立場で判断する目を持ってケアマネジャーと接するということに一番気を使っています。

 
 

Q.日本は超高齢社会であるため、世界的に見ても日本が先駆的だと思いますが、海外展開についてはどのようにお考えでしょうか。

 

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 我々が現在提供している「ケアマネジメント・オンライン」に関しては、日本独自の介護保険制度における仕組みやケアマネジャーの立ち位置を考慮したビジネスモデルですので、海外で同じ展開をしても成り立たないビジネスモデルだと思います。既に中国等海外に介護施設等を展開する企業もありますが、メーカーとは違い介護業界はまだ内需が旺盛で、その内需を取り込むことが優先ですので海外展開は今のところ考えていません。

また、2025年問題とも言われていますが、団塊世代が後期高齢者になる2025年までには生産年齢人口も減りますので、現在の制度は必ず破綻してしまいます。ただ国が破綻するわけにはいきませんので、行政による規制緩和や民間企業によるイノベーションにより、この問題を必ず乗り越えると思います。その問題を乗り越えるプロセスや新たな仕組みを、インフラ輸出のような形で海外展開するといったビジネスは十分可能性としてあると思っています。2025年問題を乗り越えた日本は世界から見ても介護の先進国になっているでしょうから、世界中から注目されるでしょうね。そうなった時には海外展開も視野に入れて業界全体が動くと思います。

 
 

Q.現在介護事業をされていらっしゃいますが、QOLの向上を追求されるにあたり介護事業以外で何かイメージをお持ちのものがあればお聞かせください。

 

 我々は高齢者のQOLを向上させる手段・方法として介護事業やITテクノロジーを使ったケアマネジャーの業務支援等を行っておりますが、介護事業に特にこだわっているつもりはなく、目指しているのは介護そのものの価値やあり方を変革させ、介護をイノベーションすることですので、現状はまだその一部しか達成しておりません。高齢者の方々がインターネットのメリットを享受してQOLが向上するような仕組や社会を作れるのではないかと思っていますが、将来的には介護を受けられるご本人と何らかの直接の接点を持ちQOLを向上させるようなサービスを開発していきたいですね。

 
 

Q.御社の中での「シニア」「シルバー」マーケットの定義・指標をお聞かせください。

 

我々のマーケティング手法がケアマネジャーのネットワークを使っているため当社独自の考え方にはなりますが、「シルバー」マーケットは65歳以上で要支援・要介護認定を受けておられる方と定義しています。「シニア」については何らかの形で親の介護に係る方々(現在親の介護をしていないが不安を抱えている方々も含む)になります。簡単に言うと我々がケアマネジャーを通じてケアプランを立てさせていただいている高齢者の方々のご家族を「シニア」マーケットと捉えていますので、近年よく言われる「アクティブシニア」は我々が定義している「シニア」には含まれません。やはりこのマーケットは性・年齢で分けるものではなく、年齢的にはいわゆる「シニア」と呼ばれるような方でも親の介護や子育て等の悩みがなく人生を謳歌されている方は「シニア」ではなく、アクティブな方であって年齢とは関係ありません。

 
 

Q.2025年問題というキーワードもありましたが、今後マーケットはどう変化すると想定していらっしゃいますか?

 

我々が定義する「シルバー」マーケットについては、今後健康寿命が伸びるだろうと予測しています。比較的元気でアクティブな「シルバー」層や特定高齢者と呼ばれる方々とお話すると、非常に健康に対する意識が強くヘルスケアに興味がある方が多いです。そして今介護の現場でどういう現象が起きているかというと、自分はまだ元気だという意識があり施設等へ見学に行かれても、「絶対にこんな所には行きたくない」とおっしゃる方が多いのです。

昔は今ほどサービスが多様化していなかったので当たり前でしたが、最近の高齢者の方々はお元気ですし幅広い情報をお持ちですから、当初の枠組みにはまらなくなっています。最近はレスパイトケア(一時的にケアを代替し、リフレッシュを図ってもらう家族支援サービス)ではなく、高齢者本人が施設等で過ごす際、本質的に楽しめないと対価を払う価値がないと考える傾向になりつつあります。それだけニーズが多様化していますので、ただ施設を作っただけでは顧客満足を得られないですし、健康寿命も延びていますので、今後は特徴のある介護サービスや介護の1つ手前のカーブスさんのような施設が増えると思います。これから新たなサービスが増えますます健康寿命が伸びることにより、いつまでも自分のやりたいことができて、食べたいものが食べられて、行きたいところに行ける高齢者が増える。そういう社会になるのではないかと思いますね。

 
 

Q.やはり高齢者を高齢者扱いしないコミュニケーションというのが非常に重要になるのでしょうか。

 

 現在「レコードブック」というリハビリ専門デイサービス事業をしていますが、昔でいう高齢者向けの施設という形態ではなく「介護」というキーワードを一切使っておりません。定性的にはなりますが、我々のKPIとして「とにかく介護っぽくしない」というものがあります。そうすればするほど利用者の方々は喜んでくださいますし、マインドも向上していきます。その事業を通じて思うのですが、お年寄りの定義というのは第3者が決めることであり、本人たちは全くその意識がありませんので、レコードブックの活動を含めダイレクトなコミュニケーションで得られるメンタリティの蓄積は非常に興味深いですね。

株式会社インターネットインフィニティー ホームページ

 

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第2回 
キユーピー株式会社
第1回 
株式会社ヘルシーネットワーク

日本発の市販用介護食「やさしい献立」

広報部 メディアコミュニケーションチーム チームリーダー 坂口氏
家庭用本部 商品部 加工食品ヘルスケアチーム 飯泉氏

 

キユーピー株式会社は “愛は食卓にある。”の想いのもとベビーフードから介護食まで幅広い商品を発売しています。中でも「やさしい献立」はかむ力や飲み込む力といった食べる機能が低下した方にも、おいしい食事を楽しんでいただきたいとの思いから日本で初めて市販用に発売された介護食です。今回のインタビューでは商品概要や開発プロセス、これからのシニアマーケットまで広くお話をお聞きしました。

2013年6月 取材

【加工】やさしい献立

Q.「やさしい献立」の商品についてお聞かせください。

飯泉氏) キユーピーの介護食についての歴史は長く、その歴史からお話いたします。

1989年当時、当社営業からの声をきっかけに病院・施設向けのシルバー食「やわらか煮」という商品を開発いたしました。

しかし当時の「やわらか煮」は、単に普通の食事を柔らかくしただけといってもよい商品でして、柔らかさの度合いや味付け、量についての考察は全く手さぐりの状態でした。また販売していく中でも様々な課題があり売れ行きも思わしくなく、結果として撤退を余儀なくされました。
その後色々な方のお話を聞く中で、ご家族が突然脳梗塞等で介護が必要になった際、何を食べさせれば良いのか分からないというお声が非常に多いことに気づきました。一方でキユーピーでは当時からベビーフードを商品化しており、そのベビーフードを介護食として大量にご購入される方もいらっしゃるというデータも有しておりました。

そこで病院・施設だけではなく、在宅介護の方々のニーズにも呼応できるような商品を開発しようということになりました。

最初に発売した「やわらか煮」と同様に、この商品の開発にあたっても当初は手さぐりの状態で様々な課題がありましたが、著名な先生方や施設の栄養士の方、また介護施設に入居されていらっしゃる方などのご意見を聞き、1998年に日本初の市販用介護食を発売し、その翌年から「キユーピー やさしい献立」シリーズとして展開しています。

「やさしい献立」は、「やわらか煮」よりも容量を減らし、塩分を控えめにしつつもご高齢の方に満足していただけるようにしっかりした味付けにしました。
硬さについても大きな課題でしたが、お客様の噛む力、飲み込む力に応じて適切な商品を選んでいただけるように工夫しました。その後、弊社も加盟する日本介護食品協議会で「ユニバーサルデザインフード」の5つの区分が制定され、現在ではシリーズ合計で5区分、54品のラインアップを展開しています。

発売当初はパッケージに「介護食」という表記を入れていましたが、現在はこの表記を使わず、あくまで「やさしい献立」という商品名で訴求を行っております。その理由は、この商品があくまで「ユニバーサルデザインフード」、すなわち「みなさんの食べ物である」という定義にたっているからです。具体的にはご高齢の方だけではなく、歯の治療後の方や障害を持たれている方など色々な方に使っていただける商品であるという思いが込められております。

ユニバーサルデザインフードの区分表
ユニバーサルデザインフードの区分表 出典:日本介護食品協議会ホームページ
 

Q.一番購入が多い区分は5つのうちどれなのでしょうか?

 

飯泉氏)スーパーやドラッグストア等の一般店頭や通信販売等、業態によって売れ筋の商品は異なるようですが、ボリュームが一番大きいのは区分3(舌でつぶせるタイプ)になります。

 

 

Q.スーパーとドラッグストアで売れ筋が異なるのには何か理由があるのでしょうか?

 

飯泉氏)ドラッグストアでは大人用紙おむつや介護用品等と一緒に指名買いをされる方が多く、大量にまとめ買いしていただくケースが多いようです。もちろんスーパーにもそういった方もらっしゃるのですが、こちらではやはり普通の食事に近いものを必要とされる方が多いようです。

 
 

Q.チャネルについてお聞きしますが、現在注力されているチャネルについてお聞かせください。

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飯泉氏) 現在ウエイトが高いのはドラッグストアですが、昨今の伸長率が高いのはスーパーですね。将来的にはコンビニチャネルでも展開できればという期待を持っております。

 事実、現時点でも既に一部の地方ではコンビニエンスストアでもお取扱いいただいている事例もありますので、可能性はあると考えております。

我々としてはこのような事例をもっと増やし、生活者に最も身近な流通チャネルであるコンビニや、首都圏のミニスーパーでも抵抗なく購入できるようになればと思いますね。そのようなプロセスを経て、この商品をもっと日常的に使っていただきたいと願っています。

 

坂口氏) コンビニでこの商品カテゴリを拡大していくためには、棚効率を上げていくことが大切です。将来的には取扱いは増えていくとは思いますが、そのスピード感についてはまだまだ読めない部分で、商品カテゴリの認知拡大がポイントになると思います。

また、東日本大震災があってから流通企業様にもこのカテゴリのお取扱いを前向きに考えていただいけるようになったようです。有事の際にはお年寄りの食事を別に作るのはなかなか難しいことです。そんな背景もあり、「いざという時の備蓄食」として取り扱っていただく事例が増えてきております。

 
 

Q.多くのラインナップ(味)がありますが、ニーズの拾い出しの重心はどういうところに置かれているのでしょうか?

 

飯泉氏) 無尽蔵に増やしていくわけにはいきませんが、毎日使っていただく商品であることを考慮して開発を行っております。様々な食に関する統計データを参考にして、出現頻度の高いメニューをピックアップしています。

 

坂口氏) 人は毎日同じメニューを繰り返し食べ続けるわけではありません。食事は栄養面のみならず行為そのものが楽しむべきものであるという側面を持っております。従って継続してご利用いただくためにはそれなりのラインナップが必要です。

ただしラインナップを増やしすぎると生産効率が悪くなり原価が上がって商品価格に跳ね返ってしまいます。随時足し算引き算をしながら開発を進めているような状況です。

また「ご高齢の方が対象だから和風」などという先入観に捉われず、洋風メニューの採用も積極的に進めております。例えばチキンライスのような洋風メニューもありますが、これを採用したのは単に洋風のバリエーションを増やすというだけの理由ではありません。チキンライスという食べ物は洋風でありつつも、実は日本人にとってどこか昔懐かしいメニューだったりします。だから年配の皆様はチキンライスを食べるとなんとなく人生をフラッシュバックし、昔懐かしい時代のことを思い出し、心も元気になるのです。

食べることを通じて、生きる気力が湧き起こるきっかけになってくれたら・・・。メニュー選定の背景には私どものそんな思いも込められています。

 

飯泉氏) もうひとつ例を挙げさせてください。区分3の「肉じゃが」も人気商品のひとつなのですが、実はこれが商品化された頃、私は内心で「肉じゃがなんて家で簡単に作れる商品が果たして売れるのだろうか。」という疑問を持っていました。

しかし結果的にはベスト3に入っている商品です。結果として珍しいものや外食志向の献立ではなく、ご家庭でも作られているようなる普遍的なメニューに高い評価をいただくことが多いようです。

 
 

Q.「肉じゃが」がベスト3に入るということですが、ベスト3のその他の味を教えていただけますでしょうか。

 

飯泉氏) 1番売上が大きいのは圧倒的に区分3の「やわらかごはん」ですね。この商品は単にごはんを柔らかくしたものでも、お粥でもありません。通常お粥というのはごはんの粒と汁が分離しておりますので、ゆっくり飲み込む方はむせやすいという傾向にあります。この商品はモッチリまとまっており、水分の量が少なくお皿に出すと口の中でまとまり飲み込みやすいという商品です。

 

坂口氏) 「ごはん」は日本人の主食ですので、この「やわらかごはん」は通販でのケース買いが多いようです。

 

飯泉氏) その次に人気なのは区分2の「おじや親子丼風」ですので、やはり主食が人気のようです。

 
 

Q.商品の金額はどのくらいなのでしょうか?

 

飯泉氏) 発売当初は1つ300円でしたが2回の価格改定を経て、現在は180円、150円ラインの価格帯になっています。

 

坂口氏) 食事は毎日するものですので高い金額を払い続けるわけにはいきません。お買い求めいただきやすいような価格の実現というのは、ユニバーサルデザインフードを普及させていく上での大事なポイントになりますので我々も日々努力しております。

 
 

Q.商品を購入される方の年齢に傾向はあるのでしょうか?

 

飯泉氏) 非常に難しいところです。一般的に「シニア」というと65歳以上のイメージですが、実際に「やさしい献立」のような食事が必要な方は80歳以上というような漠然としたイメージがあると思います。しかし実際には80代でも使わない方も多くいらっしゃいますし、50代で使っていらっしゃる方もいらっしゃいます。年齢というよりも、入退院を経験されたかどうかという指標の方が有効かもしれませんね。またこの辺りの属性を分析しようにも買われる方と使われる方が異なるという実状があるので分析が難しいところです。

 
 

Q.マヨネーズのイメージが強いキユーピーさんですが、介護食マーケットに参入されるきっかけは何だったのでしょうか?

 

坂口氏) もともと日本人の体格向上を願って製造販売を開始したのがマヨネーズです。そこを起点に食を通じて健康的な生活を送っていただきたいというのがキユーピーの考え方です。新しいマーケットに参入する上でキユーピーとしてその会社の考え方に基づいたストーリーが描けるかどうかが市場参入時の重要な指標になります。キユーピーは主に調味料や加工食品などの商品を中心に製造・販売をしていますが、ここにも「マヨネーズやドレッシングを使ってもっと野菜を食べましょう」、「ジャムを使っておいしくパンを食べましょう」などの「食に対する思いやストーリー」があります。

ならば「やさしい献立」のストーリーは何か

「高齢になって食事が満足にできなくなってしまった方に対しても、キユーピーとして何かお手伝いできないだろうか」という当社の思いそのものが商品というカタチになっております。
キユーピーにはFood, for ages 0-100”という考え方があります。0歳から100歳までのあらゆる食シーンにおいて貢献できる企業であろうという意味ですが、「やさしい献立」も、この考えに沿った商品といえます。

 
 

Q.ベビーフードと介護食とで似ている点はあるのでしょうか?

 

坂口氏) 柔らかく食べやすくするという点で硬さ・柔らかさはベビーフードと似ていると思います。ただベビーフードはこれから成長していく赤ちゃんが味覚を覚える過程のものですし、食べる・噛む機能を鍛えるという位置づけにもあります。対して介護食は色んな食経験や人生経験をお持ちの方がお召し上がりになりますので味付けの点でもベビーフードとは大きく異なります。健康を考えて薄味にすればいいわけではなく、食べられる方の人生観とも結びつける必要があります。そのため味付けにはよいダシを惜しまず使うなどの努力や工夫をしています。栄養バランスを無理矢理考えるよりも、まずはおいしさを優先していることが当社の商品開発の特徴なのかもしれません。

 
 

Q.商品開発のプロセスと期間を教えてください。

 

飯泉氏) 「やさしい献立」の発売時の開発では病院の先生や施設の栄養士の方、入居されていらっしゃる方の声を取り入れながらでしたが、現在は一般のお客様からの声も多く取り入れています。お客様相談室へのご意見や励ましのお言葉や、通販部門に寄せられるアンケート等を参考に開発しています。一概には言えませんが1020人で約1年半~2年くらいかけて開発しています。

 
 

Q.昨今「やさしい献立」のような商品を発売するメーカーも増えたような気がしますが…?

 

坂口氏) 昔から取り組んでいる企業も多くありますが、メディアの報道も含めて話題に上ることが増えたのはここ2年くらいでしょうか。

 

飯泉氏) 勿論メーカーとして競合他社にどう立ち向かうかということを考えなければいけないのですが、市場が非常に小さいため市場全体を活性化する必要がありますので、弊社としては是非他社の商品と弊社商品を一緒に並べていただきたいと考えています。

 

坂口氏) 介護食の市場は約1000億円と言われておりますが、そのうち流動食とトロミ調整食が多くを占めています。その中でレトルトタイプの食品は約20億程度だと言われていますので非常に小さいマーケットです。

また実際に介護に直面しない方にとっては、日常生活でほぼ必要性を感じない商品ですので、こういう商品カテゴリが存在すること自体ご存じないケースが非常に多いと思います。しかし今は介護というものに無関心な方であっても、ある日突然介護問題にさいなまれることは往々にしてあります。その際に介護食というものが存在していることを知っているかどうかは、介護者の方にとって非常に重要な問題です。

従って、我々としては競合商品を意識するよりも、まずは競合商品も含めたカテゴリ全体の認知度を高めていくことが必要だと考えています。

 
 

Q.商品カテゴリの認知を上げるためには行政のチカラも必要でしょうか?

 

坂口氏) 我々メーカーが頑張らねばならない部分もありますが、弊社も参画している日本介護食協議会としても商品カテゴリの認知を高める事を重要視しています。最近は農林水産省でも議論されていますので、そこへも我々メーカーとしての考え方は伝えていきたいと思いますし、メーカーや協議会、行政だけでなく現場の方の意見も聞いた上で、何が必要か施策を考えなければいけません。つまりはメーカー、協議会そして行政など、それぞれが頑張らなければいけないんだと思います。

 
 

Q.商品の認知についてキユーピーとしてどう生活者とコミュニケーションを取られているのでしょうか?

 

坂口氏) 介護する側、される側と対象を分けてコミュニケーションするという考え方もありますが、する側、される側にこだわらず多くの方に届くような方法で地道にコミュニケーションを取るのが重要だと考えています。現在は新聞広告をメインに展開しています。介護する方・される方が集まる特定の場所があるわけではありません。強いて言えば病院や施設がそれに当たりますが、そこで商品カテゴリや商品自体の認知、そして便利な使い方に至るまでを周知できるようになれば、市場そのものも拡大することにつながっていくと考えています。

 

 

Q.御社の中で、「シニア/高齢者」の定義であったり、マーケットを考える際の指標のようなものはあるのでしょうか?

 

坂口氏) 明確にはありません。先ほどもお話しましたが「やさしい献立」が必要になる方は高齢者の中でも少数派ですし、若い方でも必要な方はいらっしゃいますので年齢では区切れません。
あえてマーケットを階層化するならば、 

  • 「やさしい献立」のような食事を日常的にご利用いただいている方
  • まだ「やさしい献立」のような食事は必要ではないが、最近噛む力が弱くなった方
  • 通常よりも少し柔らかい食事を求められている方。
  • 日常的に健康に気を使ってらっしゃる方

 といった、ユニバーサルデザインフードに対するニーズ別の分類になろうかと思います。

 
 

Q.これから更に高齢化が進む見通しですが、マーケットの変化として何か具体的なイメージがあればお教えください。

 

坂口氏) 先程チャネルのお話の中にありましたが、コンビニのような買い場への対応はすごく重要になると思います。

遠くの総合GMSより近くのスーパー、更に近くのコンビニや通勤経路や駅周辺、宅配・通販など昨今は流通が変化・細分化されてきているため、それぞれの形態に対しどのように対応していくかを考えていく必要があります。

最終的にはお客様のお手元に対し、今以上に素早く、そして確実に届くシステムを作っていくこと、それが最重要課題だと思います。

キユーピー株式会社 ホームページ

http://www.kewpie.co.jp/


 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

第1回 
株式会社ヘルシーネットワーク

病院・施設の食事療法を在宅で

株式会社ヘルシーネットワーク 代表取締役 黒田賢氏

 

株式会社ヘルシーネットワークでは、病院・福祉施設で利用されている食品を、在宅で食事療法を行われているお客様へ宅配便でお届けする通販サービスを行っております。栄養成分や商品形態などの特徴別の3種のカタログ(たんぱく質調整食品の「いきいき」、高齢者向け商品の「はつらつ」、エネルギー調整食品の「にこにこ」)とホームページからの受注体制で、現在の1ヶ月の通販利用者は約23,000名。今回のインタビューでは通販サービスの概要からシニアマーケットまで広くお話をお聞きしました。

 

2013年4月 取材

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Q.通販サービスを始められたきっかけと、サービス開始当時と現在のサービスの変遷があればお聞かせください。

 

まず、弊社の通販サービスについてお話する為には、関連会社であるヘルシーフード株式会社のご説明をしなければなりません。ヘルシーフード株式会社は、病院・施設に向けた食品の開発と卸事業をしております。そんな中、食品をお届けしていた病院・施設様から、「在宅で食事療法をしている方にも、病院で食べていたものと同じような食事を自宅に届けてほしい」というお声をいただいた事が、通販サービスを始めたきっかけです。当時(1983年)は、今ほど物流・配送機能が充実していなかったので、担当者がお客様のご自宅まで直接商品をお届けするしかありませんでした。また、当時は流動食等を中心にお届けしていました。しかしお客様の数も増えると、我々自身で直接お届けするキャパシティを超えてしまったので、配送業務を物流会社へ委託することにいたしました。その後、1999年に通販事業を法人化し、現在の株式会社ヘルシーネットワークに至ります。お陰様で現在は日本全国に商品をお届しています。当時と現在を比べてみた時に、患者様が管理栄養士の先生から指導され、カタログを見て注文いただく、という大きな流れは実は30年前から変わっておりません。しかし当時は取り扱う商品数も少なくカタログも薄いものでした。それに比べ現在では、腎臓病や糖尿病、潰瘍性の胃腸炎の方等、様々な症状の患者様に対応しており、およそ3,000以上の商品を取り扱うまでに成長致しました。その結果、カタログ自体も相当厚みのあるものになりましたね。またアイテム数の増加に伴い、受注件数は勿論のこと、ご提供できるサービスレベルも拡大し、日々バージョンアップをしています。

 

 

Q.他社サービスとの差別化ポイントはどこにありますでしょうか?

 

関連会社のヘルシーフード株式会社が卸事業も行っているので、病院・施設と日常的な接点を持っている事が差別化ポイントだと思います。

病院・施設でよく使われている商品が何なのかを把握できることにより、医療・介護現場での利用頻度の高い商品を通販での取扱商品として選定することができるのです。介護食・治療食の通販事業をされている企業は他にも沢山ありますが、やはり弊社の強みは医療・介護現場との日々のネットワークがあるということだと思います。

更に顧客サービス面でのポイントとしては、医療機関の指導のもとで弊社商品をご案内いただいているという点です。「食事療法」というのは意外と難しいもので、実は患者様さんご自身で、「このくらいの食事で大丈夫だろう」と判断しにくいこともあり、正しくご利用いただけない場合もあります。何が患者様さんにとって良いものかが判断できるのは、やはり医師や管理栄養士など医療機関の方ですので、きちんと医療機関で指導してもらった上でご購入してもらう、という流れにしっかりと準ずるのが弊社サービスの基本です。

 

 

Q.事業の持つ社会的意義については意識されますか?

 

もちろん社会性や社会的意義については私なりの意識を持っております。ただしそれは、「高齢者向け」の「食」にまつわる事業だからという理由ではありません。世の中には様々な企業がありますが、全ての企業が一様に社会性や存在意義を有していると思います。例えばここにある携帯電話にせよ、私たちのカタログを作ってくださっている関係各社にせよ、全ての企業が日本の社会に寄与していると私は思っています。

その中で弊社が持つ社会的意義を掘り下げるとするならば、それは弊社が取扱う商品が患者様の「いのち」に関わっている点だと思います。患者様の「いのち」を守るため弊社ができること、なすべきことは、商品を安定して供給すること、介護生活への経済的負担を少なくするためリーズナブルにお届けすること、そして患者様の精神的負荷を減らすためのお手伝いをすること、と考えています。

私たち健常者には想像しにくいことなのですが、患者様というのはそれまで普通に生活をしていたのに、ある時突然医師から自分はこれまでとは違う食事を指導されるわけです。これは相当なショックなことだと思います。だからこそそういう方々にも、カタログの中の食事療法に関するコンテンツを通じて、何らかの前向きな気持ちを持っていただくお手伝いができれば、と考えております。この様な形で精神的なサポートを行うことも我々の使命の一つだと考えています。

 
 

Q.患者様への精神的サポートも使命として捉えられていらっしゃるということですが、お客様との接点で特に気を付けている、気を使ってらっしゃる点はあるのでしょうか?

 

WEBからのご注文もありますが、お客様と直接お話できるコールセンターは重要な接点の一つと考えています。コールセンターでは商品の情報はもとより病症についても知識を持っておく必要があります。そしてもっと大事な事は、お客様との話し方や対応方法です。お客様とのコミュニケーションは非常にデリケートな行為ですので、弊社としてはとても気を使っております。そのための社内研修等も定期的に行っております。ただ弊社の社員は高いモチベーションを持って業務に携わってくれていると言えるのかもしれませんね。社員一人一人が誇りを持って仕事をしており、その誇りがお客様への対応を自然と柔らかいものにしているのかもしれません。

もちろんコールセンターや受注現場では、お客様からの厳しいご意見を沢山いただきます。その点についてはしっかりと反省し、業務に反映していかなければならないと思いますが、それと同時にポジティブなお声も沢山いただいております。例えば「ヘルシーネットワークの商品を使った食事で、こんなに数値が改善されました、ありがとうございます」といったお声や、弊社食品を使われていた患者様が亡くなられた後にご家族から「御社の商品を食べている時は、本当に嬉しそうな顔をしていました」という御礼のお手紙をいただいたこともあります。こんな時がこの仕事をやっていて良かったと感謝する瞬間です。

そしてもう一つの重要なお客様との接点がカタログです。それぞれの病症に合わせて3種のカタログを発行しておりますが、ただ商品を一方的に紹介するようなものは目指しておりません。コラムや読み物などのコンテンツを充実させ、少しでもお客様がこれからの食生活に対する不安を解消し、弊社商品を安心してご利用いただけるよう努めています。

 
 

Q.商品の「購入者」=「利用者」ではないと思いますが、購入者の属性はどのようになっていますか?

 

確かに「購入者」=「利用者」とは言えないという事実はあると思います。また利用者の細かい属性まで把握できていないのが実情です。

一方で「購入者」の属性についてですが、以前コールセンターで調査を行った際に主婦層、それに類する女性が全体の80%以上を占めるという事が分かりました。また「やわらか食品」の購入者年齢がやわらかさのレベルによって違いがあるのか、という点に絞って調査を行ったこともありますが、結果はほぼ同様でした。

更に3種類のカタログそれぞれについても調べてみましたがとりわけ大きな違いは見出せませんでした。

これらのことから、私どもが至った結論は症状と購入者の属性はほぼリンクしないものであり、購入者を年齢などの属性をキーに分析することは特に大きな意味がないということです。

 
 

Q.昨今、シニアマーケットの拡大により、様々な企業が高齢者向けの食品の販売を開始し始めるニュースをよく見るようになりましたが、どう感じられていますか?

 

まず「高齢者食」といっても、私なりの分類として「健康食」、「介護食」、「(いわゆる)治療食」等々、様々なカテゴリがあります。しかし、今のところそれらのカテゴリに明確な定義があるわけではありません。確かに柔らかい食事、塩分を少なくした食事というような、幅広い意味で高齢者に向けた食品は増えていますし、マーケットとしても拡大していると思います。ただし、弊社が取り扱う商品カテゴリは、そのように広く高齢者全体をターゲットにした食品ではなく、あくまでも何らかの疾患・障害を持った方のための「(いわゆる)治療食」です。確かに「治療食」マーケットへ参入する企業も増えてはいますが、激増しているわけではありません。「治療食」は病院・施設で使われることが前提となります。しかし病院・施設で使っていただくためには長い時間をかけてブランドとしての信頼を勝ち得る必要があります。この点が新規参入しようとする企業にとってのハードルになるのではないでしょうか。

 

 

Q.スーパーやドラッグストアなどの流通チャネルで高齢者向けの食品売り場が増えたような気がしますが、今後の展望をどうお考えですか?

 

一時期、ドラッグストアが「介護食」の取り扱いを始めましたが、あまりうまくいかなかったように記憶しています。恐らくひとつのドラッグストアの商圏内に「介護食」を必要とする母集団はそれほど多くなかったからではないでしょうか。

流通店舗としても、母集団が少なければ味のバリエーションを揃えたり取扱アイテム数を増やすこともできず、利用者からしても選択肢が少なければ食のバリエーションが乏しくなってしまいます。「介護食」を街のドラッグストアで購入するという習慣を根付かせるためには、流通店舗側も一定以上の取り扱い商品ラインナップを維持する必要がありますが、そのためにはやはり一定以上の売上規模=顧客数が必要になります。

ただ、今後は高齢者の数が確実に増えていきますので、どこかのタイミングで「介護食」のバリエーションも増え、今以上に店頭スペースを占める日も近いかもしれません。

 
 

Q.今までのお話を振り返りますと、「治療食」というかなり特殊なマーケットを担ってらっしゃるのですが、ターゲット層や業界に関わらず、ベンチマークされている企業があれば教えてください。

 

私にとってはやはりアマゾンさんです。アマゾンさんのすごいところは色々ありますが、何よりもまず世の中のルールを変えてしまったということです。

ルールを変えるというのは本当にパワーがいることです。もちろん事業を成功に導くためにはアイディアや分析力なども必要です。しかしアイディアは多かれ少なかれ、どの企業にもあるものです。問題は「それをやりきれるか」どうかということです。

「やりきる」ためには、熱意と継続力、そして資金力が必要です。そしてアイディアを実現するためには細かいハードルも多く発生します。それを乗り越えたという意味でアマゾンさんの動向には常に注目しています。

また弊社内でカタログを制作する際に参考にさせていただいたのはアスクルさんです。何か新しいことにチャレンジしようとした際に、どこの業界でも様々な問題が起こるものです。先程のアマゾンさんの場合も同じですが、アスクルさんも現実的な障害を一つずつ乗り越えてこられた企業です。そういう意味では弊社のビジネスのあり方を考えるにあたっても随分参考にさせていただいております。

そしてもう一社あげるならば、それはヤマト運輸さんです。今でこそ全国の配送網が整備されていることが当たり前ですが、我々が事業を始めた頃はまだ宅配のネットワークが確立された時代ではありませんでした。そのネットワーク構築をヤマト運輸さんは成し遂げられたわけですが、それがなかったら今の日本における通販業は成立していなかったわけですし、弊社も現在のような事業展開はできていません。また、単に物流を担うのみならず、一人一人のドライバーの方たちがお客様に対して丁寧にきめ細かい配慮ができるような組織づくりをされている点にも敬服しています。ヤマト運輸さんには今後の新しい取り組みも含めて常に注目しています。

 

 

Q.「シニアマーケット」についてお聞きしたいのですが、現在、100兆円以上あるといわれる「シニアマーケット」をどう捉えていますか?

単に「シニアマーケット」と言っても定義があるようでないと感じています。例えば「シニア」という単語ひとつとった場合を考えてみます。よく「シニア=60歳以上」と定義されて話が進む場面に出くわしますが、弊社マーケットの場合、シニアというくくりを「年齢」という概念だけで区切ってしまうと少し無理が生じます。

では年齢以外にどのような指標を意識すべきか。

私は今回のインタビューについて整理するにあたり、シニアという市場について考察する場合、横軸に「身体的制約の高い/低い」という指標、そして縦軸には「活動範囲が広い/狭い」というような指標を置いたポートフォリオで考えてみました。

シニア市場を考察するためのポートフォリオ

 もちろんこれは弊社のビジネス特性を踏まえた独自の見方です。シニア層の中にもさまざまな生活実態や環境の違いが存在します。80歳でも元気に動けて人生を謳歌していらっしゃる方もいれば、60代でも病気が原因で制約のある生活を送っていらっしゃる方もいます。それらを踏まえると、この図の中では、弊社サービスはAに位置します。その対極にあるCの層は、高齢者ではあるけども団塊世代で、旅行などアクティブに活動される方が多く、これからのボリュームゾーンだと考えられます。ただ、この図の全体のマーケットサイズが拡大したとしても、プロットされる全体の%は変わらないと予測しておりますので、やはり弊社のサービスは非常にニッチなマーケットであり、大手企業の参入が難しいマーケットなのかもしれません。

 

 

Q.「ニッチなマーケット」という事ですが、今後マーケットを広げたり、新しいマーケットへの参入等お考えでしょうか?

 

先程の図で考えた場合、Dには実質的にマーケットが存在しません。そうすると現在Aのゾーンにいる弊社のマーケットを拡大するためには、身体的制約が少ない層への拡大(Bへの拡大)が考えられます。

ただしこの市場を攻略するためには一定以上のコマーシャル力が必要となります。そして現在の弊社にはその部分で勝負する力があるとは思えません。

また、市場を拡大するためには自社の強みを再度洗い直す必要がありますが、弊社の強みはやはり病院・施設と繋がりを持てていることです。そう考えると、現時点でBのゾーンを狙うことが得策とはいえないと思います。

ならば拡大をどこに求めるか。その答えのひとつとして私は「海外展開」に着目しております。具体的にはアジアにおける介護市場です。アジアには日本ほどではないにしても、着々と高齢化が進んでいる国や地域があります。そしてそれらの国や地域は、こと介護という視点では技術も意識もまだまだ成熟していません。

日本は世界から見ても言うまでもなく高齢社会ですが、同時に高齢者向け、介護市場向けのサービスも世界一充実しています。それはとりもなおさず日本企業が同市場において先駆的なポジションにいるということを意味しています。

ただし、日本の医療・介護に関する環境は、世界の潮流と比較して特殊な側面も持ち合せています。日本のどこが世界から見て特殊なのか、世界的なスタンダードはどこにあるのか、そして世界の医療・介護市場にアジャストしていくためには、何を切り捨てなければいけないか、これらについて冷静なジャッジが必要です。

今後はグローバル展開も視野に入れて世界のスタンダードは何なのかを模索していきたいのですが、そのためにも国内は勿論、海外の方や企業とも繋がりをもち、多くの知見を取りいれていきたと考えています。

ヘルシーネットワーク株式会社 ホームページ

https://www.healthynetwork.co.jp/company/


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