第8回 消費元気なシニアの攻略 「元気な年金消費」と「定年直後コミュニケーション消費」

どのようなシニア層を狙って企業は攻略しているのか、消費力のある元気なシニア層の攻略についての視点について、第6回と第7回のコラムでご紹介しました。

今回は3つめの視点「元気な年金消費」と、4つ目の視点「定年直後のコミュニケーション消費」についてご紹介します。

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1.年金支給戦争。
今や割引以外の優位化策をつくる時

シニアのエンゲル係数は3割弱と高い。スーパーにとっては大切なお客様

家庭内総支出額に占める食費の割合を示す指数としてエンゲル係数があります。2018年の平均値は25.7%(家計調査)。年齢別に見ると40代以下の世帯では24%台にありますが、50代は23%台になるものの、60代は26%、70代は29%と数値が高くなっています。このシニア世代、年金生活故に総支出額は若年層より少ないですが食費は40、50代に迫る支出額になっています。つまりシニア層は夫婦2人暮らしの小家族ながら食費にお金を使う”グルメ層”なのかもしれません。食品を購入するスーパーなどのお店にとって、消費力の高いシニアは喜ばれるお客様といえそうです。

年齢階級別食料支出とエンゲル係数

出典:統計局『2018年 家計調査年報 世帯主の年齢階級別1世帯当たり1か月間の収入と支出』を加工して作成

出典:統計局『2018年 家計調査年報』世帯主の年齢階級別1世帯当たり1か月間の収入と支出を加工して作成

スーパーでの年金支給日の売上・集客数は給料日を超える

古い話で恐縮ですが、2016年に「年金商戦、給料日超えの売上も。加熱する小売業」というテーマで筆者がまとめたことがあります。その内容は年金支給日(偶数月15日)に多くの小売業が販促活動を展開し成果を上げ、中には25日の給料日の売上を超える小売店も出現。とシニアの消費額に注目したものでした。 あれから約3年経ち多くのお店で「年金支給日の消費」が「給料日消費」より全国的に盛り上がっている」ことが日本経済新聞(2019.10.20)で分かりました。

その数値は給料日である25日から3日間の来店客数を100とした場合、年金支給日の15日から3日間は101.7%となっており、販売金額では104.1%と客数・売上金額とも年金支給日の方が高くなっていました。この傾向は全国各地の小売店でも見ることができ、年金支給日商戦が活発になっていることが分かります。

2018年時点で、年金支給人口は4482万人、年金支給額は約49兆円と膨大ですが、今後年金支給者はますます増加し、2040年には73.2兆円と推計されており、消費元気なシニアに期待は増してきています。

年金

企画のヒント

この有望市場に対して小売業はシニア層の集客・購入促進策として割引、ポイントサービス、シルバーデイサービスなど次々展開してきています。この策がシニアをより惹きつけている点でもあります。しかし、年金支給日は2か月に1回、しかも競合店と似たような販促策が多い中で、競合店とどのように優位化させるか、また年金支給日以外の日の来店促進はどうするか? 単なる割引やポイント制以外に何ができるかがこれからの課題といえそうです。

年金支給日は比較的鮮魚が売れる傾向にある、と紹介する記事もありましたので、健康意識が高いシニアに向けた魚を使ったレシピの提案など考えられます。

また、孫へのプレゼントのため、年金支給日前にお店を下見して、当日は孫と一緒に来店することもあるそうです。

これらのことから、店内でのシニアの様子を観察することで「シニアが喜ぶ提案」ができそうです。そこにお店のオリジナリティが発揮され、他店との優位化ができそうです。



2.定年後間もないシニアの消費元気。
新たな消費機会に育つか!

定年後の男性シニアの市場は?

「第2回 シニアの消費。この時代だからこそ消費力あるシニア層を探す」のコラムでは、消費元気なシニア層について、シニアライフ総研のシニア6区分の中の「現役層」「アラ70/アクティブ層」、さらにはリッチ層、カッコいい大人層、女性ファッション志向層、介護のいらない単身層、現役で頑張りたい就業層、趣味に活発な層など、消費に活発なシニア層を抽出しました。ここでは、消費力として目立っていなかった定年後の男性シニア層の消費について見ていきたいと思います。

東京駅・八重洲地下街の居酒屋街。シニアで昼間から大繁盛

スポーツジム、趣味教室、図書館などで、定年後数年という感じの男性シニアをよく見かける場所がありますが、筆者の昔の勤務地であった銀座の一角にあるサッポロビアホールでも昼間から昔の会社仲間風グループがビールを飲みながら語らっているのを見かけました。また同じような光景を東京駅地下街に昼間から開店している「飲み屋街」でも見かけました。店内を覗くと、良くもま~これだけのシニアが昼間からお酒を飲み、語らい、笑っているのか!です。

要するに、昼の居酒屋は昔の仲間の集合、談話の場所になっているのです。これだけ居酒屋街が繁盛するのは、東京駅という皆が集合しやすい場所であることに加え、居酒屋が数軒あることがシニアには便利だったからといえます。

乾杯

仲間と集う。おしゃれ、趣味などの広がり提案へ

男性シニアの青春時代は『平凡パンチ』、『ポパイ』、『メンズクラブ』などで育った世代であり、遊びには前向きだった人が多いと言えます。しかしその彼らが定年退職すると同世代の女性に比べ、楽しみ方が見えにくくなっており、楽しみ消費が少ないようです。勿論、文化講座やスポーツなどの趣味を持つ人は多いのですが、攻略したい企業から見て期待される市場はあるのか?と疑問視する声もあります。

三越伊勢丹新宿本店は好感度シニア向けPB商品販売で現在健闘しているようですが、他社の目立った動きはあまり見えてきていません。その要因の一つとして定年後の男性は行動・交際範囲が狭くなってしまうからかもしれません。また行動・交際範囲を広げたいが出来ないのかもしれません。

そのような中、昼間から飲める居酒屋が増えることはシニアにとってありがたい存在になってきそうです。このような付き合いの範囲の広がりはコミュニケーション機会が増え、元気を貰え、結果彼らの服装にもおしゃれ感が増える機会なのかもしれませんので、企業として新たな提案ができそうです。

企画のヒント

昼間の居酒屋談義が増えることで、彼らは元気を貰え、友人が増え、行動範囲が広がり、服装への気遣い、趣味の広がり、お金の使い方などなど変わってくるかもしれません。そこで企業として彼らのライフスタイルを調べることで新たなライフスタイルを提案できそうです。その調べ方も単なる定量調査ではなく写真分析、最近自分は何か変化(生活、行動、友人など)してきているな!などの感想から彼らのトレンドを見つけてみたいものです。

国道16号線(都心から30㎞環状線)は団塊シニアのかたまり地区として有名で、沿線にある地方都市(例えば柏、町田など)の居酒屋がお昼定食で開店し、定食と一緒にお酒を飲ませるお店が増えています。そのようのことから居酒屋ウオッチ、服飾ウオッチ、仲間ウオッチなどのライフスタイルを把握することも新たな提案素材が出てきそうです。

2020年5月


プロフィール

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金子良男(かねこ よしお)
1945年生まれ。団塊世代より2歳年上。のんびり、せっかちの性格。
法政大学経営学部卒業。広告会社企画調査局入局(現マーケティング局)。当初は消費者調査・分析で鍛えられ、その後プランニング部へ。クリエイティブやセールスプロモーション、媒体などとの擦り合わせの中で企画作業を推進。担当業種は自動車(10数年、国内、東南アジア各国)、食品、飲料、ラーメン、男性化粧品、競馬など多数の企画を立案。
最後に担当したのが広告会社としての開発部門の責任者。狙いは営業支援、情報発信による新規クライアント獲得及び自社PR。業務は今を捉える消費者研究・開発、商品の流出・流入まで捉えるブランド管理、広告効果予測システム、今を勝つための企業の戦術事例づくりなどなど。
現在退職したものの、”昔の仕事気分を楽しもう”とブログ「「市場攻略のスゴ技発見」を発信し、今なお世の中の動き、企業の動きを分析しています。

WEBサイト:市場攻略のスゴ技発見


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