第5回 小売り・サービス業のシニア攻略。シニア対策で居心地よい言い方、伝え方になっているか
小売、サービス業のシニア攻略、多業種が参入
小売・サービス業のシニア攻略はメーカー以上に活発に展開しています。
その展開は2014年の百貨店やGMSによるシニアに配慮した売場づくりや、“くつろぎスペース”の提供から始まりました。2015年には外食産業(KFC,大阪王将、庄や)や証券会社のシニア攻略が開始され、2016年には通販、宅配、テーマパーク、携帯電話販売などもシニア攻略を開始し、2017年には100円ショップも取り組みを始めました。またイオンはシニア向け店舗を100店開設するといった思い切った投資でシニア対策の大型化も推進しました。
これらの小売・サービス業の取り組みは、シニアにとってみると、商品が充実し、買物がより便利になってきていることを意味しており、日常生活の快適感を高めてきていると言えます。
また、販促対策もシニア集客(くつろげるスペースなどの提供)からシニア囲い込み(割引、カード会員化など購買特典を用意)へと、きめ細かに変化しており、時の経過とともにシニア層獲得に向けての各社対策が緻密になってきています。
業種・業態間競争に入ったシニア市場
新たにシニア市場に参入する企業も増えていますが、2018年にはスマホでシニア争奪戦が始まるなど、多くの業種で過当競争になりつつあるように思えます。
しかし、近年はインターネットで商品を購入するシニアが増えていることもあり、小売業(リアル店)やネット通販間での競争に入ったようにも感じます。
このようなことから、小売業の販促は集客策や割引制度だけでなく、シニアに向けた魅力ある商品やサービスの提案を迫られる時期になったと言えるでしょう。
シニアは人口が多く、マーケットが大きいということから、シニア攻略は小売・サービス業にとって営業戦略の柱の一つでもあるため、競争環境の中からシニアを取り込むための新たな攻略策が今後更に増えると予想されます。
シニアへのサービス、居心地よくなる
言い方、伝え方が大事に
業界内競争の一つの事例ですが、昔、車市場で女性を開拓すべく女性仕様の車を各社が一斉に発売し話題にはなったものの、思いの外販売数が伸びないという結果で終わったことがあります。その理由は、女性だからこその“こだわり”仕様がなくても男性と同じように車は運転できる上、“ヤワ”に見られたくないという意見が多くあったことです。
この女性仕様の車の事例と同じように、小売業も集客のための販促策として「シニア」、「アクティブシニア」などを誇張した結果「年齢を重ねているが、まだ年寄りではない!」、「シニアと呼ばれたくない!」という反発もあるため、”シニア強調“がプラスに働かない場合もあります。そのため、シニアに対するサービスは従来通りにしても「シニアのために用意しました」といった発想ではなく、シニアにとって居心地が良くなる言い方、伝え方が大事になってきているようです。
前回のコラムでメーカーのシニア対策が「シニアの生活はこうあって欲しい」から「シニアの実生活にあった商品提案」に移行してきていることを述べましたが、小売・サービス業も同様になりつつあるようです。
企画のヒント
「第4回 メーカーのシニア攻略。シニアの生活視点を把握しているかが重要」と同様に“生活に根ざした提案”が攻略の主流のようです。従って小売業やサービス業ではシニアの生活実態を把握することが重要です。
- シニアも数知れないグループがあります。その中でどのようなターゲットを攻略するか、
シニアの生活内での課題や見極めは? - シニア攻略にあたって、シニアの生活に根ざした提案になっているか
- 競合店と比較してシニア対策は優位化されているか
- 自社の提案はシニア呼称が前面に出過ぎていないか
- 生活感把握には、自社なりのモニターづくりと時系列変化で見ることも大事
小売業やサービス業はシニアが居住する近くでビジネス展開をしています。そのエリアはシニアの割合が高い所もあれば低い所もあります。シニア率の高いエリアの店舗でシニアの購買動向を観察することでシニア攻略の新たな発見ができるかもしれませんので、シニア来店客を観察する意識を養うことも大事と言えそうです。
小売、サービス業のシニア攻略トレンド
<2014年>
- (商品)セブン‐イレブン・ジャパン:シニア層を狙い、容量半分の飴を販売
- (販促/拡販)アパレル販売店全般:シニア女性の好みを刺激
- (販促/スペース)百貨店全般:シニア向けの売場を独自色で強化
- (販促/スペース)イトキン、ディノス:衣料品を充実させシニア女性を開拓
- (販促/スペース)西武百貨店:50代からのくつろぎを重視した売場を展開
- (販促/スペース)イオン:55才以上の売り場展開、シニア向けフロアの設置
- (販促/サービス)大戸屋:シニア来店客への対応を強化
<2015年>
- (商品)三越伊勢丹:女性60代以上のおしゃれを楽しむ好感度層向けに新PB商品を開発
- (販促/拡販)旅行代理店全般:海外ツアーでこだわりの強いシニアの争奪戦
- (販促/拡販)学習塾全般:シニア層の開拓
- (販促/拡販)KFC・庄や:女性シニア向けにカフェを展開
- (販促/拡販)大阪王将:シニア層獲得のため宅配店を展開
- (販促/サービス)証券会社全般:シニア顧客に考慮したサービス体制を見直し
- (販促/サービス)クラブツーリズム:顧客の7割がシニアのため、多彩な旅テーマで呼び込み、仲間づくりの仕組みで商品化
<2016年>
- (商品)ファミリーマート:園芸用品の発売
- (商品)生協:シニアに特化した通販を開始
- (販促/拡販)オイシックス:シニア層獲得のため野菜宅配会社を買収
- (販促/拡販)ディノス:シニア向けカタログを創刊
- (販促/拡販)テーマパーク全般:3世代消費を促進
- (販促/拡販)100円ショップ全般:シニア向けの出店を拡大
- (販促/スペース)ソフトバンク:シニア層獲得のため全店改装
- (販促/スペース)イオン:シニア向けに囲碁、将棋スペースを設置
- (販促/スペース)ファミリーレストラン全般:3世代来店客用に6席スペースを導入
<2017年>
- (販促/拡販)100円ショップ全般:シニア層獲得のため出店を拡大
- (販促/拡販)イオン:シニア向けの店舗を100店展開
- (販促/拡販)NTTドコモ:シニア向け割引を拡充
- (販促/拡販)コンビニエンスストア全般:シニア向けの弁当開発が激戦
- (販促/スペース)イオン:シニア向けのジムを開設
- (販促/スペース)ウエルシア薬局:店舗内にシニア向け憩いの場を設置
- (販促/サービス)証券会社全般:シニア顧客に特化した営業手法を拡充
<2018年>
- (商品)バス・タクシー業界全般:シニア向け定額制の設定が増加
- (販促/拡販)携帯電話販売業界全般:格安スマホでシニアマーケットの争奪戦
- (販促/サービス)眼鏡販売店全般:シニア世代に手厚く店舗内で緑内障を調べるサービス展開
<2019年>
- (販促/拡販)Zoff:若者からシニア層を強化
- (販促/拡販)コンビニエンスストア全般:商品強化でシニアが増えたものの、副作用で若者離れ
- (販促/拡販)近鉄百貨店:シニア向け特典を各店で共通化
- (販促/拡販)コジマ(家電量販店):シニア向け会員カードを開始
2020年2月
プロフィール
金子良男(かねこ よしお)
1945年生まれ。団塊世代より2歳年上。のんびり、せっかちの性格。
法政大学経営学部卒業。広告会社企画調査局入局(現マーケティング局)。当初は消費者調査・分析で鍛えられ、その後プランニング部へ。クリエイティブやセールスプロモーション、媒体などとの擦り合わせの中で企画作業を推進。担当業種は自動車(10数年、国内、東南アジア各国)、食品、飲料、ラーメン、男性化粧品、競馬など多数の企画を立案。
最後に担当したのが広告会社としての開発部門の責任者。狙いは営業支援、情報発信による新規クライアント獲得及び自社PR。業務は今を捉える消費者研究・開発、商品の流出・流入まで捉えるブランド管理、広告効果予測システム、今を勝つための企業の戦術事例づくりなどなど。
現在退職したものの、”昔の仕事気分を楽しもう”とブログ「「市場攻略のスゴ技発見」を発信し、今なお世の中の動き、企業の動きを分析しています。