第7回 消費元気なシニアの攻略 シニアのネット消費急伸
消費元気なシニアの存在については、第2回「シニアの消費。この時代だからこそ消費力あるシニア層を探す」でもご紹介しましたが、消費に力がある層を狙うのは企業にとって当然です。ここではどのようなシニア層を狙って企業は攻略しているのか4つの視点から探ってみます。
前回のコラムでは、1つめの視点「消費元気なシニアの攻略 消費力が枯れることのない孫市場」についてご紹介しましたが、今回は2つめの視点「シニアのネット消費急伸でシニア=リアル店購入概念崩れる」 についてご紹介します。
シニアのスマホ保有、利用率向上中
日本にスマホが登場して10年。総務省 平成30年「通信利用動向調査」によると、現在のスマホ保有率は20~40代の平均で約9割、50代72.7%、60代44.6%、70代18.8%と、若者中心に誰もが持つ必需品になっています。
60代や70代の普及率はまだ低いのですが2018年頃から低普及率のシニアに対して各社からシニア向けスマホが登場しシニア層の普及率も向上しているようです。
年代別スマートフォンの個人保有率の推移
また、総務省統計局「家計調査年報」中の『移動電話通信料』をみますと、2018年は働き盛りの40,50代が年額18万円前後と高く、次いで30代16万円、20代14万円台、60代11万円台、70代6万円弱。これを前年度(2017年)と比較しますと20代は減少、30~50代はほぼ横ばいの支出傾向に対し、60、70代は8%前後の増加を示しています。つまりシニアのスマホ保有増による通信料増になっているといえます。更に最近発表された2019年版をみても60代の支出は4.8%(前年比)、70代18.5%(同)と増加しシニア層の勢いが感じられます。
世帯主の年齢階級別1世帯当たりの「移動電話通信料」支出金額推移(二人以上の世帯)
シニアの予想以上のネット利用
- フリマアプリのメルカリが発表したシニアのメルカリ利用状況は2018年で50代以上の利用者が前年比60%増と高い伸びを示したそうです。
- 日本経済新聞(2019年9月21日)の記事より、JTB総合研究所の調査によるとシニア(60~79才)の旅行の相談から申し込みまで全てネットを利用した方が48.2%と高く、18~27才の39.8%よりも上回っていました。
この現象をJTB総研では「シニアのほうが旅慣れているので自分でネットを検索すれば済む。若者は情報があっても経験がない。だから店頭で背中を押してもらいたいのではないか」と分析。
因みに筆者の経験談ですが、最近の海外団体旅行での飛行機座席予約は自分でネット予約しなければならない場合が多いのですが、シニア(男女とも)はスマホを活用し外国の地から帰りの座席予約をする方が大勢(約8割)いる光景を目にしました。 - シニア女性誌のハルメルクが調査したシニア(55~79才)のスマホ決済をみますと、利用経験者は22.6%(2019年3月)→32.7%(2019年9月)と約10%増加しており、PayPayなどのQRコード決済経験者は8.3%(2019年3月)→31.9%(2019年9月)と約20%も増えています。
シニアの関心領域はネットで違和感ない買物
シニア=リアル店の概念崩れる
60代以上のシニアはWiondows95が発売された1995年当時は30代半ばであり、パソコンからスマホまでの変遷をたどってきた世代でもあります。IT機器が身近という親近感もありシニアのスマホ利用が増えてきているのは納得できます。その結果上記のJTBの旅行のようにネットを利用するシニアが増えており、「シニア=リアル店購入」の概念が崩れてきているようです。
アプリ分析ツールをもつフラー社の調査によると、シニアのスマホ搭載アプリの利用傾向は、通信、ニュース、ショッピングに加え、旅行なども情報チェックしているそうでスマホの利用も多様化しているようです。因みに筆者も自分の趣味旅行や弓道の動画、弓道中古品チェックなどいそしんでいます。
このようにシニアは手軽に情報が入るスマホで違和感なく買物しているようで、シニアのスマホユーザーが増えるほどネット消費は拡大していきそうです。
企画のヒント
誰でも自分が関心をもつ領域の情報は積極的に収集すると思います。スマホはそのような情報収集にはうってつけの媒体といえます。その関心度合の高い人ほどスマホの使い方をすぐマスターするはずです。一方では電話、メール、ニュースなどに留まってしまう人も多いのも事実で、このような人はネット上での消費に時間がかかるかもしれません。
いずれにしてもネット消費の取っ掛かりとして、シニアの興味関心領域(旅行などの趣味)や生活用品(持ち運びが大変な水など)にはネット消費の関心が起きそうです。いずれネット消費に疎いシニアもネット消費経験豊富な友人が背中を押してくれるかもしれません。口コミ化の検討です。
またメルカリがドコモと提携してドコモ店内でメルカリの使い方講習会を行っていますが、対面促進の方がシニアにとって判り易く大事な販促になっているそうです。
2020年4月
プロフィール
金子良男(かねこ よしお)
1945年生まれ。団塊世代より2歳年上。のんびり、せっかちの性格。
法政大学経営学部卒業。広告会社企画調査局入局(現マーケティング局)。当初は消費者調査・分析で鍛えられ、その後プランニング部へ。クリエイティブやセールスプロモーション、媒体などとの擦り合わせの中で企画作業を推進。担当業種は自動車(10数年、国内、東南アジア各国)、食品、飲料、ラーメン、男性化粧品、競馬など多数の企画を立案。
最後に担当したのが広告会社としての開発部門の責任者。狙いは営業支援、情報発信による新規クライアント獲得及び自社PR。業務は今を捉える消費者研究・開発、商品の流出・流入まで捉えるブランド管理、広告効果予測システム、今を勝つための企業の戦術事例づくりなどなど。
現在退職したものの、”昔の仕事気分を楽しもう”とブログ「「市場攻略のスゴ技発見」を発信し、今なお世の中の動き、企業の動きを分析しています。