第5回 管理栄養士が求めるサプリメントとは

傷病者や健康維持のために漢方薬やサプリメントを取り入れることのメリットとは。また、臨床の場で患者さんにサプリメントを使うために、商品開発を手がける食品メーカーに望むことは。管理栄養士の立場から、食とサプリメントの理想的な関係を考えます。


漢方薬とサプリメント

実は私、10年ぐらい前までは漢方薬を完全否定していました。「草の根っこで病気が治るわけないだろう」と思っていたのです。それが人は変わるもので、漢方薬に興味を持ってからはその奥深さにすっかり惹かれ、今では風邪を引いたときも漢方薬しか飲まないほどです。先人の知恵というのは偉大です。正しく使えばとてもいいものだとわかったので、集中治療室の患者さんにも処方してもらっています。

西洋薬は効果がある、しかも速く効くという強みがありますが、漢方薬には西洋薬よりはるかに長い数千年の歴史があり脈々と続いてきています。効果がないものは歴史のどこかで途絶えるはずなのに21世紀の現代にも続いているということは、なんらかの絶対的な効果があるのだと思い至りました。加えて漢方薬は、薬とはいえ原料は食品です。

しかも調べてわかったのですが、漢方薬は中国で生まれたものの、発展させたのは日本なのです。今の中国の医療でも漢方薬はさほど使われていないことも、勉強して知りました。

薬と食事の関係も重要です。

栄養でカバーできない病気では薬が主役になります。ただ今の時代は薬に匹敵するような栄養素もわかってきているので、わざわざ薬を使わなくてもいいという疾患もあります。そのため、私たち管理栄養士が医師や薬剤師さんのところに行って「ここは栄養でカバーしておきます」という連携は日常的にあります。まさにNSTです。

サプリメントについても、管理栄養士の立場からお話します。

実はサプリメントの是非は管理栄養士の中でも意見が分かれるところなのですが、私個人は歓迎しています。なぜならコラム第4回でもお伝えした通り、バランスのとれた食事は理想的ですが現実にはそれを毎日実践するのは相当困難なことですし、ライフスタイルによっても不足する栄養素はどうにも出てきてしまいます。そこを補ってくれるのがサプリメントだからです。手軽かつ手早く不足分の栄養素を摂取できてコスパも追及できる、そういうサプリを作る技術が日本にはありますから、利用しない手はありません。

サプリメントを取り入れることでバランスの良い食生活ができ健康が維持できるなら大いに活用するべきだと思いますし、高齢者の買い物難民、調理困難者だという時代にサプリメントを否定するのはどうだろうと感じます。管理栄養士の立場からすると、これもコラム第4回でお話したように、1週間単位で考えたときに不足している栄養素を補うためのものがサプリメントであることが今の段階では理想的です。その場合は、いつも同じサプリメントをとるのではなく、翌週は翌週の食生活に合わせたサプリメントの摂取が必要になるでしょう。

サプリメント1粒につき栄養素は1種類のみ

サプリメントを作るメーカーさんにはリクエストがあります。それは1製品で完結させないで欲しいということです。メーカーとしてはコストの制約もあるでしょうし、消費者からの受けを考えるとついひとつの製品の中にいろいろな要素を入れようとしてしまいがちです。しかしそれでは「これを食べれば1日の栄養素がすべて取れます」とうたっている商品と同じになってしまいます。ひとつの栄養素に特化し、それに対してしっかり効果が見込めるサプリメントを提供いただきたいと強く思います。例えばビタミンならビタミンだけ、ほかの要素は入れないということです。

ところがビタミンは本来とても苦みがあるので、ビタミンがたくさん入っているサプリメントほど飲んだときに苦みを感じ「飲みたくない」と摂取をやめてしまう人が出てしまったら本末転倒です。ですからメーカーさんには栄養素別でターゲットを絞り、そこに特化した商品をいくつかのラインナップで区切って考えていただければと考えます。

また、サプリメントの濃度は高いほうがいいのはもちろんですが、濃度が高くなるということは錠剤やカプセルのサイズが大きくなり飲みにくさにもつながるので、そこは消費者の方にモニタリングをして、無理なく飲み込める濃度を考えてもらいたいです。3錠飲むより1錠で済ませられるようにしたいという企業努力はよくわかりますが、そのせいでサプリメント1粒が大きくなり飲み込めないというのは残念な話ですから、そこはくれぐれもしっかりモニタリングしていただきたいと思います。

あとは国も推奨している医療DX、いわゆるデジタルトランスフォーマーでICTをどう使っていくかです。例えば働き世代の方々の生活習慣病予防などでは、食べた食事をスマホで撮影すると1週間分の累積の栄養素を計算してくれ、「今週はこのビタミンが足りませんでしたね」と提示してくれるようなアプリがあると便利でしょう。それを見て「今週はちょっとビタミンAが足りていないから今日は意識して取っておこうかな」となれば理想的だと思います。すでにそのようなアプリは出ていると思いますが、さらに高い精度や専門性を追求したアプリが開発されれば、管理栄養士の立場からも推奨できると思います。

また、咀嚼や嚥下が困難な方には管理栄養士が管理しながら食事を与えていますが、どうしても多少の栄養バランスの悪さが出てきてしまいますので、そちらの領域でのサプリメントがあってもいいのではとも思います。今後のマーケットで広がるジャンルではないでしょうか。というよりも、これから広がらなくてはいけないジャンルだと思っていますし、メーカーさんにとって大きな市場になると予想されます。

管理栄養士の悩み

われわれ管理栄養士の最大の悩みは、病室のベッドサイドまで行っている管理栄養士が圧倒的に少ないということです。患者さんと対面で話したり、様子を直接確認したりすることができない施設が非常に多く、私が管理栄養士になった駆け出しの30年前となにも変わっていません。そういう施設では、管理栄養士と調理師とやっていることの差がないも同然です。また、事務作業に終始してしまう管理栄養士もいます。

なぜこのような状態が改善されないのか。それはコラム第2回で紹介した通り、医療法の縛りで未だ医師の権限が管理栄養士に譲渡できていないというところに原因があるでしょう。働き方改革で医師の権限をどんどん譲渡してタスクシフトしましょうと言っていながら、現場では30年前と同じ光景が繰り広げられているのが現実です。

また、コラム第3回で病院経営について触れましたが、管理栄養士は医療経済的な部分を苦手とする人が多いと感じます。それが弊害になる例として、患者さんが入院すると、入院時食事療養費と呼ばれる入院中の食事代が保険から1日につき1920円下ります。するとその枠で食事代を収めるということだけに終始してしまい、高い既製品は買えないということが出てきます。その患者さんにはこの製品が絶対ベストマッチしているので、提供することによって患者さんが早く退院できて病気も克服できるとわかっているのに、単価が高いから買えませんと。結局この患者さんは、それが提供されないがために栄養状態が悪くなって免疫力が落ち、医療費がかさんでしまうという、まさに本末転倒の話です。グローバルコストで見られる管理栄養士が本当に少ないことは深刻な問題です。

そこで食品メーカーさんにお願いです。メーカーさんも低価格のものばかりを提供するわけにはいかないでしょうから全部とは言いませんが、もう少し私たちにも手が届く範囲での販売価格を追求していただきたいのです。繰り返しになりますが、サプリメントにあれもこれもと栄養素を詰め込むマルチファンクションで価格を高くするより、シンプルな栄養素でいいから価格を落としてもらうほうが現場はありがたいです。それなら私たちは、ひとつの製品に入っている1粒あたりの含有量が少ないものであっても、組み合わせることはできますから。

入院時食事療養費が1日1920円と上限が定められている中で患者さんにとってベストな医療を管理栄養士の視点から考えたとき、その上限に収められる価格のサプリメントがあればどれほどありがたいことか。ぜひ食品メーカーさんには真剣に検討していただきたいと切に願います。

薬で考えるとわかりやすいと思いますが、すべての病気に効く薬はありません。血圧の薬は血圧に効く、止血剤は血を止める。血圧を下げて止血もできる薬などないわけです。栄養素も同じと思います。これ1本、これ1粒で全部完結するものはないし、われわれもそういうものは期待していません。ちょっととんがった商品でもいいのでその分だけ価格を抑えていただくほうが、市場としてあるのではと思います。

もちろん私たち管理栄養士がグローバルファーストで医療経営、医療経済を見ていくという努力をしていくのは当然のことです。その上で、メーカーさんにも検討していただければと思います。


プロフィール

宮澤 靖

みやざわ・やすし

長野県出身。1987年北里大学保健衛生専門学院栄養科卒業。JA長野厚生連篠ノ井総合病院(現:南長野医療センター篠ノ井総合病院)栄養科入職。93年アメリカジョージア州アトランタのエモリー大学医学部栄養代謝サポートチームに留学し、翌年米国静脈経腸栄養学会認定栄養サポート栄養士(NSD)となる。94年同大クロンフォード・ロングホスピタル栄養サポートレジデントに就任。95年に帰国後、長野市民病院にて全科型NST設立、JA三重鈴鹿中央総合病院にてNSTエグゼクティブディレクターとして日本初の専従スタッフとなる。2002年近森病院臨床栄養部部長、03年同院にてNSTを立ち上げる。19年より現職の東京医科大学病院栄養管理科科長、東京医科大学医学部講師。ほか京都光華女子大学客員教授、一般社団法人日本栄養経営実践協会代表理事、美作大学大学院臨床教授、甲南女子大学・高知学園大学非常勤講師、Emory University Hospital NST特別スタッフ。


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