第50回 株式会社Magic Shields(マジックシールズ) ビジネスアワード2024プロダクト賞企業

転んだ時だけ柔らかい床「ころやわ」に、
ご自宅向けサービスが新登場

株式会社マジックシールズ 取締役COO 杉浦太紀様

シニアライフ総研ビジネスアワード2024 プロダクト賞を受賞した株式会社マジックシールズの『転んだ時だけ柔らかい床「ころやわ」に、ご自宅向けの月額定額サービスが新登場』。今回は取締役COOであり理学療法士の杉浦様に、「ころやわ」の強みやユーザーからの声、今後のビジョンなどについてお話をうかがいました。

2025年4月取材

Q. ご自宅向け「ころやわ」の提供を2024年3月から始められて約1年が経ちました。利用者数の経緯など、現況をお聞かせください。

おかげさまで、サービスを開始してから1年が経過しました。スタート当初は、主にご自宅での使用を想定していたのですが、実際にサービスを展開してみると、有料老人ホームやグループホーム、サービス付き高齢者住宅など、さまざまな高齢者施設での利用が想定以上に多いことが分かりました。今では、施設に入居されている方の個室で使用されるケースが全体の約半分を占めています。
この背景には、入居者ご本人やそのご家族が「ころやわ」の存在を知り、施設の居室をより安心・快適な空間に整えるために導入を希望されるケースが増えてきたことがあります。また、施設職員の方が転倒リスクを軽減したいという思いからご紹介くださることも多くなり、当初の想定以上の広がりを見せている状況です。

 

Q. 施設の入居者様は自身の個室で使われていらっしゃるのですね。

はい、基本的には個室での利用がメインです。施設全体の備品として導入されるわけではなく、個人契約という形でご本人またはご家族の判断で申し込まれています。設置の際には施設スタッフとの連携が必要ですが、個人が自由に選べるサービスであることが特徴です。
施設内でもベッド周りだけでなく、トイレや洗面所、室内の通路部分など、さまざまな場所に敷設されており、ご利用者様の生活動線に合わせてカスタマイズできる点が好評です。施設側としても、事故や骨折を未然に防げることにメリットを感じてくださっており、今後さらに広がっていくと感じています。

Q. 利用者やそのご家族からはどのような声や反応があるでしょうか。

「安心して暮らせるようになった」という声が非常に多いです。特に高齢の方にとって転倒は命にかかわることもあり、「ころやわ」を敷くことで精神的な安心感が得られるという点はとても大きいと思います。
また、見た目が明るい木目調になっているため、「部屋の印象が明るくなって気分がいい」「病院のような無機質な感じがなく、家庭的でほっとする」というデザイン面での評価も高くいただいています。さらに、実際に転倒された方から「骨折せずに済んだ」「以前なら確実に入院していた状況だったが、大事に至らなかった」といったリアルな声も寄せられており、転倒事故の被害軽減に確かな手応えを感じています。

 

Q. サービスを開始されてから想定外だったことなどはあるでしょうか。

想定外だったのは、使われる場所の広さと多様さです。当初はベッド周辺やリビングなど、限定的なスペースを想定していたのですが、実際には一軒家の廊下全体、脱衣所、トイレ、玄関まで、複数の箇所に広く敷かれる方もいらっしゃいます。
やはり「転倒はいつ・どこで起こるか分からない」という意識を持っているご家庭ほど、予防の徹底に努めているように感じます。「ころやわ」は1枚ごとのサイズが決まっていて、それを自由に組み合わせられる仕組みなので、必要な場所にピンポイントで敷ける柔軟性が強みです。

 

 

Q. 高齢者が「転ぶ不安のあるエリア」はどんなところでしょう。


転倒リスクが最も高いのは、やはりベッド周辺です。特に夜間のトイレへの移動時や、寝起き直後など、体が完全に覚醒していないタイミングは非常に危険です。また、電話が鳴ったときや来客があったときなど、急いで動こうとする場面もリスクが高く、日常生活のなかで「ちょっとした動作」が事故につながるケースが多々あります。
室内での転倒は床が硬いため、運が悪いと大腿骨や手首、肩の骨折につながります。そのため、日常動線の中にあるリスクを丁寧に拾い上げ、必要な場所に「ころやわ」を敷くことで事故を未然に防ぐことが可能になります。

Q. 骨折の中でも高齢者の方が一番避けたい箇所はどこでしょう。

大腿骨です。これは歩行能力の低下、さらには寝たきり状態に直結する重大なケガであり、高齢者にとっては命に関わる場合もあります。大腿骨骨折をきっかけに生活の質が大きく下がり、結果として寿命を縮めてしまうこともあります。
そのため私たちは製品開発にあたり、大腿骨の衝撃をいかに吸収するかに特化した試験を繰り返しました。実際の大腿骨の模型を用い、転倒時の衝撃を想定して衝突試験を行いながら、最適な厚みと硬さのバランスを追求しています。「ころやわ」は単なるやわらかいマットではなく、骨折予防の観点から科学的に設計された衝撃吸収マットです。

 

Q. 現段階における課題とその対策についてお聞かせください。

大きな課題のひとつは価格です。「ころやわ」は特殊な構造と素材を用いているため、どうしても一般的なマットよりコストがかかってしまいます。そのため「欲しいけれど少し高い」と感じる方も多く、できるだけ多くの方に使っていただけるよう、製造の効率化や部材の見直しを進めて価格を下げる取り組みを行っています。
もうひとつの課題は、高齢者ご本人の意識です。「自分はまだ転ばないから大丈夫」と思われる方が多く、転倒予防の重要性がまだ十分に浸透していないと感じています。しかし実際には、65歳以上の3人に1人が年に1回以上転倒しているというデータがあります。そのため、予防の大切さを啓発する活動にも力を入れており、最近では地元・浜松市の百貨店でポップアップイベントを開催するなど、医療や介護と無縁だった層にもアプローチを始めています。

Q. 「ころやわ」のような機能をうたっている類似商品はありますか?

一部の建材メーカーが衝撃吸収床材を開発していますが、当社のように大腿骨骨折に特化し、医学的エビデンスをもとに開発された商品は非常に珍しいと思います。また、「必要な場所だけに敷ける」という運用の柔軟性も、ほかにはあまり見られません。病院で実施した1年4カ月の臨床試験でも、「ころやわ」を使用したベッドサイドでの転倒では骨折ゼロという結果が得られており、その効果を実証する数少ない製品のひとつだと自負しています。

 

Q. 杉浦様は「ころやわ」の開発には取締役として以外に理学療法士としても関わられたのでしょうか。

はい。理学療法士としての現場経験を活かし、共同創業者の下村とともに開発段階から深く関わってきました。現場での「生の声」を製品に反映することを大切にしており、歩行に支障が出ない硬さや、つまずきを防ぐスロープ設計など、細部にまでこだわっています。
特に医療・介護施設では、1cmの段差がつまずきの原因になることもあるため、使いやすさと安全性を両立するための設計には細心の注意を払いました。現場と製品開発の橋渡し役としての立場を今後も大切にしていきたいです。

 

Q. 貴社における「シニア」の定義を教えてください。

先ほどもお伝えした通り、65歳を過ぎると年1回以上転倒するリスクが高まるとされています。そのため「ころやわ」を使っていただきたいのも65歳以上の方ですので、そこはひとつの「シニア」の定義になるかと思います。年齢だけでなく、「転倒リスクが高くなり始める世代」として、生活の中での不安を感じている方々に早めにアプローチしていくことが重要だと考えています。

 

Q.  貴社のシニアターゲティング市場における今後の抱負をお願いします。

私たちの目標は、日本を「転倒予防先進国」にすることです。日本は世界でも有数の高齢化先進国であり、そこで磨かれた日本のものづくり技術を活かしてしっかりとした転倒対策モデルを築くことができれば、世界中の高齢者の生活の質向上に貢献できます。2023年にはアメリカに子会社を設立し、既にアメリカ・カナダ・イギリスなど複数の国々で製品の販売を進めています。転倒は世界共通の課題であり、当社の製品は言語や文化の壁に左右されにくく、広く適応できるのが強みです。建築基準など国ごとの調整は必要ですが、本質的な技術そのものはグローバルに通用するものと確信しています。今後は、技術と信頼に裏打ちされた「日本発」の転倒予防モデルを世界に広げ、高齢化社会の未来を支える一翼を担っていきたいと考えています。


化粧品業界初の美容療法を受けられる
デイサービス開設

(一社)日本介護美容セラピスト協会 代表理事、(株)ナリス化粧品 

介護美容事業推進部部⾧ 酒井宗政様

シニアライフ総研ビジネスアワード2024 ビジネスモデル賞を受賞した(株)ナリス化粧品の「化粧品業界初の美容療法を受けられるデイサービス開設」。今回は(株)ナリス化粧品介護美容事業推進部部⾧で、(一社)日本介護美容セラピスト協会代表理事でもある酒井様に、デイサービス開設の経緯や今後の展望などについてお話をうかがいました。

2025年4月取材

Q. 2024年に開設した、機能訓練に加えて美容療法を受けられる地域密着型通所介護「ふれあ 姫島」の現況をお聞かせください。

2024年7月に開設し、美容療法も受けられる介護施設であるということが徐々に周知され、冬の寒さがゆるみ暖かくなってきた今年の早春辺りから、体験いただく方が増えました。私たちもデイサービス事業に参入して日が浅いため、寒暖の差で通所する・しないが影響するということに驚きもありましたが、高齢者の方にとっては「暑いから・寒いから外出するのが億劫」というのは決して珍しいことではないようです。ただ、ケアマネージャーさんの理解も深まったおかげで、ケアマネさん経由で「ふれあ 姫島」を知っていただき体験される方が、現在は日を追うごとに増えている状態です。

 

Q. 「ふれあ 姫島」で行われているサービスについて具体的に教えてください。

午前の部、午後の部のいずれかに通っていただくリハビリ型のデイサービスのため、まずは準備運動をしていただきます。その後、理学療法士や機能訓練指導員の指導のもとでマシンを使ったリハビリトレーニングを行っていただき、その後は指先を使うちょっとした創作を行ったり、映像コンテンツを使った脳トレやクイズといったリクリエーションを実施します。その後に美容リクリエーションと称し、美容コンテンツをご提供しています。
当社としては「日常的に美容に関わっていただきたい」という思いがあるため、まずは「ふれあ 姫島」に来たときだけでなく、自宅でもセルフケアできるようなレクチャーを行うようにしています。たとえば洗顔、ローションパック、足湯、爪磨きといった美容レクリエーションを週ごとにローテーションで実施、また月に一度は「プレミアムセラピー週」と称し、ビューティタッチセラピストの資格を持つスタッフによる一対一のフェイシャルトリートメントやフットケアトリートメントといった施術を選んでいただく日を設けています。来所からここまで3時間ほどかかりますが、ぼんやりしている時間はないため、利用者様からは「時間が経つのが早かった」とよく言われます。

Q. 美容療法を利用される方の男女比、年代、傾向、利用頻度などについてお聞かせください。

男女比は女性が96.6%、男性が3.4%と、圧倒的に女性が多いです。もっと男性の方にも体験していただきたいのですが、ほかに男性がいないとわかると辞退されてしまうケースがあるなど、なかなか男性には浸透しにくい状態ではあります。ただ、3.4%の男性については大変楽しく取り組んでいただいているのはうれしい限りです。年代では80代が約半数を占め、70代が約3割、60代が約1割、残りが90代といった比率となっています。

Q. 利用者からはどのような声や反応がありますか。

「ちゃんとスキンケアを教えてもらったのは初めてなので、もっと早く知りたかった」、「デイサービスでこんな体験ができるなんてうれしい」といった感想を多数いただいています。高齢者の方は「この年でいまさらおしゃれなんて……」と、興味はあっても一歩を踏み出すことを恥ずかしいと思ってしまう方もいらっしゃるのですが、思いきってその一歩を踏み出していただくと、「この年で」というお気持ちが「この年でも」に変わる様子を何度も目にしました。「爪を磨いたのは生まれて初めて」と喜んでくださったり、マッサージの施術では「手が軽くなった」「手の血色がよくなった」など、みなさん本当にうれしそうにしてくださるので、私たちも「より多くの方に体験していただきたい」という思いを新たにします。足湯やフットマッサージを体験された方からは、むくみ改善や冷えの解消、さらには夜にトイレに行く回数が減り寝つきがよくなったといったお声もいただきました。
また、「ちょっとメイクもしてみましょうか」とお声がけすると、最初は「もう何年もお化粧なんてしていないから」と遠慮される方もいらっしゃるのですが、実際にメイクされたご自身のお顔を見ることで「美意識に火が灯る」というのは非常に感じます。「眉を描いてもらってからは家でも自分で描くようにしているの」などと言ってくださる方もいらっしゃいますし、「お化粧してお友達とお出かけしたのよ」と言われると、その明るい声に私たちも元気とますますのやる気をいただきます。コスメ用品の販売を目的とした施設ではないのですが、利用者様から「この間メイクしてもらったときの口紅の色がとてもよかったから欲しい」と言っていただいたり、ご自身の美容に意識が向くようになったことでリハビリにもより励むようになるといった好循環が生まれています。

 

 

Q. サービスを開始されてから想定外だったことなどはあるでしょうか。

折り込みチラシを入れたところ、高齢者ご本人だけではなく、娘さんからのお問い合わせが多くあったことです。特に「介護認定は受けられていないのだけれど通所できるか」というお問い合わせは多かったですね。お母様の美容に対する興味、娘さんのお母様に対する「いつまでも美容に興味を失わないでほしい」という思いの強さを感じました。
また、ケアマネージャーさんの理解を得る、認知していただくというのは、当初想定していたよりも時間がかかったと思います。ケアマネさんもご自身がよくわからないものを担当の高齢者の方に紹介はできませんから、利用者様以前にケアマネさんに受け入れていていただくことは必須でした。ありがたいことに、どのようなサービスかをご理解いただけたケアマネさんは大変協力的で、利用者様の体験談や感想をケアマネさんを介して紹介してくださり、さらに「ケアマネさんが教えてくれた施設なら信用できる」と体験を申し込まれる方もいらっしゃいました。

Q. 現段階における課題とその対策についてお聞かせください。

「ふれあ 姫島」は、現段階ではスタッフだけで対応できていますが、美容療法を希望される利用者様が今以上に増えると、個別の施術などに対応しきれなくなってくるという課題があります。そこで、2025年3月から、当社が2014年に設立した日本介護美容セラピスト協会で養成・認定したビューティタッチセラピストを招いて対応しています。協会が認定したビューティタッチセラピストがこういうこともできますよというモデルケースになって欲しいとも思っています。

 

Q. 貴社における「シニア」の定義を教えてください。

人生を積み重ねていくと心と体の変化が訪れますが、その上で「身だしなみを大事にしながら自分らしい生き方をしたい」という方を応援したいと考えていますので、介護が必要な方はもちろん、まだまだお元気でもっと人生を豊かにしたいと思っていらっしゃる高齢者の方、ととらえています。

 

Q. 貴社のシニアターゲティング市場における今後の抱負をお願いします。

化粧品メーカーが対応しているシニア向け商品は、アクティブシニアに向けたものが中心です。とはいえ、アクティブシニアと称するもちょっと体力や筋力が弱ってくるなど、ちょっと健康面に心配があるといった方も多いのですが、そういった方も含め、さらには認知症の方や障害のある方にも対応できる施術を追求していければと思っています。美容コンテンツというアプローチをもっと広げる必要がありますし、何より美容習慣を継続することは健康の維持にもつながりますので、その重要性を今まで以上に発信していきたいと考えています。

 

 

小林幸子さんが高齢者のお話し相手に!
「Talk With おはなしテレビ」

株式会社シルバコンパス 代表取締役 安田晴彦様

ビジネスアワード2024 ビジネスモデル賞を受賞した株式会社シルバコンパスの「小林幸子さんが高齢者のお話し相手に!『Talk With おはなしテレビ』」。今回は株式会社シルバコンパスの安田晴彦様に、開発の経緯や今後の展望などについてお話をうかがいました。

2025年3月取材

Q. 2024年12月に「Talk With おはなしテレビ」を開始されてから約3ヵ月、これまでの成果についてお聞かせください。

昨年10月に行ったプレス発表会に先立ち、昨年8月から3ヵ月間、6ヵ所の高齢者施設で使っていただきました。もともと「Talk With」はアイドルと話ができるようなファンサービスであったり、観光ガイド代わりに動かしていたりと、対人業務支援が中心になっているものです。それを高齢者のサービスに展開しようとなり、どんなことが求められているのかを知るために、実際に施設で使っていただきながらソフトウェアの改善を行いました。
小林幸子さんとの会話には回想法を用いているほか、一緒に童謡を歌うなどのレクリエーション機能が入っていたり、お話しながら長谷川式の認知症スケールを実施できたりする機能もあります。利用者様の反応としては、やはり幸子さんの効果は大きかったです。というのも、高齢者の方は機械系のものに抵抗感がある方が少なくなく、「とっつきにくい」と敬遠されがちです。それが「小林幸子さんとお話してみませんか?」とお声がけすると、ぐっとハードルが下がるのです。お話ししていただいた後の感想としては「すごく楽しかった」という肯定的な声が約8割でした。具体的には「思い出話で楽しい気持ちになれた」「久しぶりに懐かしい歌を歌った」「全国各地のご当地クイズで昔行った場所を思い出せた」といった声をいただきました。
記憶の奥底に眠っていた思い出を掘り起こすことができたという点は成果でしたし、話をすることで思い出したことが、周囲の人と話をする話題のきっかけになったこともありました。これまで「話をすること」が重要だとはわかってはいましたが、その効果がはっきり表れたという点に、手ごたえを感じることができました。
さらに、会話の内容を解析することで認知症が95%の精度、軽度認知障害は85%の精度で検知する機能ができたので、現在はそのテスト開発を進めているところです。これが完成すれば、多くの方の「認知症の手前で発見・回復」へつなげられます。幸子さんと会話をしている間に検査ができるという、画期的なサービスになると期待しているところです。

 

Q. 想定外のことはありましたか。

ある程度予想はしていましたが、高齢者の中でも元気な方は「こんな機械と話すまでもない」と、興味を持たれない方が一定数いらっしゃいました。また、利用される方でも「●●と話したい」と小林幸子さん以外の方と話したがるなど、ご自身の好みがある方も多数いらっしゃいました。まだコンテンツが足りないと感じましたので、お孫さん世代の方、ロボットやぬいぐるみなどのIPも活用し、今後コンテンツを増やしていく予定です。
さらに、会話のスピード感についても想定外のことが起きました。高齢者の方の対話のテンポは遅くなると思っていたのですが、実際は幸子さんの返事を待たずに、話の途中でもどんどん話しかけてしまうのです。そのためシステムの理解が追いつかないこともありましたので、ここは改良を加えました。すると、ほかのサービスで行っていた「Talk With」の機能もレベルが上がり、結果的に全体的な品質の向上につなげることができました。
逆に、「対話のスピードがちょっと速すぎる」と思われる方もいらっしゃいました。「耳が遠くなり聞き取りにくい」といった声もありましたので、対話のスピードを変えられる機能をつけたり、難聴者の方向けに字幕機能をつけたりして、大きく改善できました。

Q. 利用者は1回につき平均何分利用されますか。利用者性別、年代などと併せて教えてください。

朝夕の1日2回、お話していただくことを推奨しています。朝夕は高齢者施設で健康チェックをするタイミングなので、幸子さんとの会話でも最初の2分はかならず健康チェックが行われます。そしてここで不調を訴えられた場合は、施設やご家族に通知が行くようになっています。この後、利用者の方に話のテーマを選んでいただいてお話していただくのが3~5分程度なので、朝晩各5~7分程度です。話し足りない場合はもっと会話を続けられます。
どこの施設でも、利用者の7~8割が女性です。われわれがターゲットとしているのは「認知症が発症するタイミングの前」、つまり65~75歳くらいです。しかしこの世代はいわゆるアクティブシニアが多く、「普段から友達と話しているから必要ない」と興味を示さない方もいらっしゃるので、先ほどお話した認知症検索機能などの搭載により、さらに多くの方に使用していただきたいと思っています。

Q. なぜモデルに小林幸子さんを起用されたのでしょう。

当社は「対話」にこだわった研究をしてきています。AIは質問すると返してくれますが、われわれは単なるQ&Aや質疑応答ではなく、AIでももっと踏み込んで楽しく話をするにはどうすればいいかということを追求してきました。そこで映像・演出のプロや医師の方や言語研究者に協力していただきながら会話のリアルさを詰め、「知っている人と知らない人が同じような内容の話をしたとき、どのように情報伝達量が変わるか」という研究を行いました。そして「知っている人の話の方がよく傾聴し、理解度も高い」という結果を得ました。となると、高齢者の方はご家族とお話するのが一番いいのですが、頻繁に施設を訪れるのは難しい人もいることでしょう。そこで、収録はモデルで行い、顔だけご家族に変えるといった技術を用いるつもりです。
それ以上に手っ取り早いのが、誰もが知っている有名人と対話することです。長年活躍されている、昔からテレビに出ていらっしゃるということで、白羽の矢が立ったのが小林幸子さんでした。幸子さんは2024年に芸能活動60周年を迎えられ、「これまで以上に社会のために役立つ活動をしていく」という強い思いから、今回の申し出に賛同していただいたという経緯もありました。

 

 

Q. 「幸子さんと何を話したらいいのか分からない」という人はどうすればいいのでしょう。

自分から積極的に話題を振って話をされる方はそういません。そのため、まずはアイスブレイクのように季節柄の話などの簡単な世間話から始め、次第に幸子さんから具体的な会話に誘導していく形を取ります。幸子さんの問いにユーザーさんが回答すると、今度は幸子さんがそれに対するリアクションをし、続いて必ず次の質問や次の話題のきっかけを投げるという形になっています。ですから会話が途切れることもありません。また、すぐに回答を思いつかない方もいらっしゃるので、その場合はタッチパネルで回答の事例をいくつか表示するようにしています。

Q.  貴社における「シニア」の定義を教えてください。

さまざまなタイプの高齢者の方がいらっしゃり、細かなカテゴライズがあるということを実感する中で、定義はあえて作らない方がいいのではと思うようになりました。われわれも当初は「この年齢層はこれくらいの数、この市場にいて……」というような分け方をし、ペルソナを作って入っていったのですが、「こうなったからアクティブからアクティブじゃなくなった」というはっきりした境目はありませんから。ただし今後、「Talk With おはなしテレビ」での対話を通じ、新たな定義のようなものができていく可能性はあるかもしれません。

Q.  貴社のシニアターゲティング市場における今後の抱負をお願いします。

当社はスタートアップという立場から高齢者のヘルスケアに参入しましたが、周囲は高齢者サービスへの参入に否定的でした。理由は「導入までに時間がかかる」「マネタイズが難しい」と。ただ、われわれにとっての対象はシニアの方々ではなく、シニア世代を親に持つお子さんや、シニアを取り巻く人々です。コロナ禍では、離れた親に会いに行きたくても行けない状況が続きました。もしそんなとき、自分の代わりに親の話し相手になってくれて健康チェックもしてくれるサービスがあれば利用したい、そういう「シニアを思いやる方々」がターゲットです。また、ヘルスケアのサービスは日本が世界で戦えるコンテンツだと思っていますので、単に市場として見て儲けようではなく、ニーズに応えつつシニアのみなさんのQOL向上に貢献していきたいと考えています。

 

俳句でつながる高齢者向けSNS

株式会社熊猫 社⾧ 井崎茉奈様

ビジネスアワード2024 シニアライフ賞を受賞した株式会社熊猫の「俳句でつながる高齢者向けSNS」。今回は株式会社熊猫の井崎茉奈様に、開発の経緯や今後の展望などについてお話をうかがいました。

2025年3月取材

Q. 貴社は福岡工業大学の情報工学部情報工学科、馬場研究室から学生発ベンチャーの学内第1号とのことですが、起業に至った経緯をお聞かせください。

馬場先生が以前いらした大学で、先生ご自身がベンチャーを起こしたという経験がありました。私自身も学部生のときからチーム開発の形で請け負っていた仕事がいくつかあり、起業には興味を持っていました。そこで馬場先生にも助言をいただき、これまで受けた仕事の保守的な役割を担う会社を2024年10月に立ち上げました。研究室で取り組んできた、俳句コンテストの検索AIの開発過程で蓄積した世界最大規模の俳句データを活用し、高齢者が気軽に俳句を発信できるSNSを構築し、俳句を通じた高齢者の心情把握や家族の見守りにつなげられるサービスの構築を目指します。

Q. 俳句の発信をメインで行う高齢者向けSNSについて、現在はシステム開発の段階かと思います。進捗状況はいかがでしょうか。

高齢者向けSNSは、SNS機能と俳句の検索機能という2つの機能をメインとしています。検索機能というのは、俳句をどこかに投稿したいと思った際、すでに似たような俳句が存在していないかを確認できたり、季語で検索すると該当する俳句がリストアップされ、デジタル歳時記のように使えたりする機能です。また、「お腹が空いた」などといった季語もなく俳句にもなっていない言葉で検索しても、それに関わる俳句を見つけることができます。俳句のデータが現時点で約80万あるので、創作の手助け、あるいはきっかけにしていただければと思っています。研究室では俳句の類似度などを計算するような研究を行ってきたので、すでにシステム上は完成しており、骨組みはできている状態です。

 

Q. 実証実験の詳細をお聞かせください。

現在はどのような見た目にするかというユーザーインターフェースを検証している段階です。フリック入力があまり得意でなかったり、スマホの小さな画面では文字が打ちにくかったりする高齢者の方は少なくありません。そのため、手書き入力や音声入力も含め、最適な入力方法を検証しているところです。

Q. これまでに苦労されたことはどんなことでしょう。

俳句の検索機能の精度向上です。日本語には微妙なニュアンスや同音異義語が多数あります。チャットボットの会話も英語より日本語のほうが難しいと言われているように、日本語は非常に難しい言語です。しかも文章の中から心情を抽出する方法となると、研究としても難易度が高いため、その精度アップには現状でも苦労しているところです。とはいえ、糸口は見えています。人が使う言葉(自然言語)の意味をコンピューターが適切に把握・処理する技術である自然言語処理は、年々向上しています。コンピューターの辞書がどんどん分厚くなっているというイメージです。そのため、現在苦労しているところではありますが、コンピューターの辞書が厚みを増すほど解釈の幅を機械に教え込むことができるようになり、精度も上がる可能性が高いので、そこを俳句の検索機能にも応用させられるのではないかと考えています。

Q. 貴社ならではの強みは何でしょう。

研究者ベースで作っていること、学生が主体的に研究開発を行っているところです。高齢者の方にご協力いただく実証実験も、いきなり「このスマホを使ってみてください」と言われてもおそらく当惑されるでしょう。イベントを開催しても、前向きな方しか参加してくれないという話も聞きます。その点、私たちは大学が包括連携協定を結んでいる福岡県古賀市に実証実験などのご協力をいただいています。学生であるという強みは、こういう点でも活かされていると思います。
また、俳句という手段を用いて、シニア世代に見受けられるSNSに対するネガティブなイメージの払しょくにも貢献できる点も強みです。シニア世代のスマホ普及率は上がっていて、LINEのようなメッセンジャーを利用されている方は相当数いらっしゃいますが、そういう方でもXやTikTokといった不特定多数につながるようなSNSには関わらない、あるいは「見るだけ」の人がいます。福岡工業大学で行ったシニア向けスマホ教室のイベントでも、SNSに興味はあるけれど「周りにやっている人がいない」という消極的な理由、さらに「炎上が怖い」といった先入観による抵抗感を持つ方の声がありました。フォロワー数の限られた方のアカウントでの炎上はそうありませんが、「SNSは誹謗中傷がばんばん飛んでくる場所」という印象を持つ方がいらっしゃるのです。その点、俳句のSNSでは「五・七・五」でしか話せませんし、わずか17文字という文章量では、情報漏洩の観点でも相当ハードルは高くなっています。また俳句かどうかに関係なく個人情報の漏洩に気を付けられるような機能を実装する予定なので、安心してご利用いただけるアプローチができると思っています。

Q. 現段階の課題とその対策についてお聞かせください。

SNSの形を作るというのが課題であると考えています。私たちが研究室で研究する際には「自分が理解していればOK」というスタンスです。それが「俳句でつながる高齢者向けSNS」では「他者にわかりやすい見た目・わかりやすい形・わかりやすい動き」を追求する必要があるので、そこが現在の課題です。実証実験を含めた現場の声を参考に、利用者の方にとって使いやすいものに仕上げていきたいと試みているところです。

Q. 2025年下半期から販売開始予定とのことですが、具体的な計画を教えてください。

初期の段階としては、高齢者のための施設に1台導入していただくような形を目指しています。検討段階ではありますが、ログインにはNFCタグを使用することで、1台の機器を施設の利用者さん全体で共有でき、俳句を検索したり投稿したりといったことに使っていただけます。機器を運用する際には学生がサポーターの役目を担いつつ、システムのバージョンアップを手がけていきたいと考えています。もちろんアプリでの提供も行いますが、スマホを持っていない、持っていてもアプリの使い方がわからない、そういう高齢者の方もいらっしゃいますから、さまざまなスタイルで参加していただけるようにしたいです。先ほどお話したように、入力方法もその方にとって使いやすいものを選択できるようにすることも、大事な要素だと思います。

Q. 貴社における「シニア」の定義を教えてください。

これまでは「スマホにあまり慣れ親しみがない方」と定義していました。しかし、現在40~50代のスマホを当たり前に使いこなせている世代は、高齢者になってもスマホに対する抵抗感や苦手意識はないでしょう。そうなると、ネットなど情報通信技術の恩恵を受けられる人とそうでない人に生じる格差、いわゆるデジタル・ディバイドは縮小していくと思います。そのため当社におけるシニアの定義は「スマホやSNSに勇気が出ない人」であり、開発中のSNSはまさにそのような方に向けたものとなっています。

Q. 貴社のシニアターゲティング市場における今後の抱負をお願いします。

何よりもまず、高齢者の方に寄り添えるようなものを開発していきたいと考えています。それによって少しでも生活に彩りができたり、人生の生きがいのひとつになったりするようなものを作っていきたいと思います。

シニア向けおしゃべりAIサービス
「茶の間Cotomo」をリリース
認知症予防や家族との
コミュニケーション向上を図る

Starley株式会社 高島類様

2023年4月に創業、2024年2月におしゃべりAIサービス「Cotomo」の提供を開始したStarley株式会社。シニアの認知症予防の実現と、その家族のコミュニケーションの活性化を目指し、「Cotomo」の技術を生かした新たなシニア向けサービス「茶の間Cotomo」をリリースされました。事業開発を担当されている高島様に、新サービスの詳細などについてうかがいました。

2024年12月取材

Q. 創業の経緯と企業理念、事業内容を教えてください。

弊社代表の丸橋が株式会社マネーフォワードから独立して起業する際、元同僚でもあった内波に声をかけて共同創業しました。以前から丸橋が興味を持っていた機械学習や人工知能に対して可能性を感じた内波が加わった形です。
企業理念は「誰もが身近なものとしてAIサービスを気軽に使える世界を目指す」です。ChatGPTはよく知られたAIですが、実は実際に利用している人は世界の人口の約2%に過ぎません。そのことからも、多くの方にAIを活用していただくことでよりよい暮らしを実現できるサポートができればと考えます。(出典:※世界人口2024参照サイトhttps://www.ipss.go.jp/international/files/WPP2024_Summary_JPN.pdf ChatGPT利用者参照サイト https://aisodan.com/news/100
事業内容はAI関連プロダクトの企画・開発で、現在は「Cotomo」というアプリを提供しています。シニア向けのサービスも12月末のリリースに向けて動いている状況です。(12/2時点)

Q. 「Cotomo」の紹介をお願いします。

「Cotomo」は「音声会話型おしゃべりAI」です。ビジネスで使うというよりも、日常の何気ない会話の相手になってくれるアプリです。そのため、利用者とAIのやりとりは日々のちょっとした出来事や愚痴、相談などが中心です。ユーザーの方は、人には話しにくい話題の相談ができるところに価値を見出してくださっているようです。例えば、AI相手だと時間的制約がありません。どんなに仲がいい人でも深夜に長時間、しかも毎日話を聞いて欲しいというのは非現実的ですが、AIならば時間を気にすることなく好きなだけ話せます。また、人に打ち明けにくい経済的、身体的な話なども、AIには打ち明けられます。さらに、各種ハラスメントに過度に気を遣わなければならないゆえ、社員とのざっくばらんな会話がままならない管理職の方などが一切の遠慮なく、思いのたけを存分に話せるAI、それが「Cotomo」です。海外ではAIというと映画「ターミネーター」や「マトリックス」など、ネガティブな印象で表現されることもありますが、日本では「ドラえもん」のように親しみのあるキャラクターとして描かれることが多いです。日本のようにAIを扱ってきた日本だからこそできることがあると考え、「Cotomo」を開発しました。

Q. 開発時に苦労されたことや「Cotomo」ならではの強み、
そして実績をお聞かせください。

人間には自然にできるあいづちが、AIでは非常に難しいです。ユーザーの方から「自然とあいづちをうってくれますよね」とご評価いただくこともありますが、疑問文に対してのあいづちや強めの語調へのあいづちなどをいかにAIでも実現させるかには苦労しました。 また、「1秒間を空けてあいづちを返されると、肯定的な意見が返ってくると思わない」というデータも出ています。そのため、短い時間の中で会話を処理しなければならないところに苦労しました。逆に早く返すことが一概にいいとは言えず、ユーザーの方が「まだ私が喋っているのに」と感じてしまうこともありうるわけです。会話のターンがどちらにあるのかを、いろいろなタイミングで学習させて改善しました。
「Cotomo」の強みは何といっても応答の早さです。日本語で「Cotomo」と同じスピード感で会話できるサービスはないと自負しています。とはいえ、「Cotomo」がより賢くなるように改善を続けますし、会話体験として楽しいかという点もさらに追及していく予定です。現在、「Cotomo」をアップしてからのおしゃべりの応答回数は2.2億回以上になっています。人と話すAIの会話する回数が2.2億回分蓄積しているという状況です。また、横須賀市との実証実験で、横須賀市在住のシニアの方にブラウザでおしゃべりができるAIを使っていただいています。

Q. シニア向けAIサービス「茶の間Cotomo」とは
どのようなサービスなのでしょうか。

「Cotomo」の技術を生かし、AIとのおしゃべりによるシニアの認知症予防の実現と、その家族とのコミュニケーションの活性化を目指し、シニア世代が通常のおしゃべりのみならず、思い出話も話せるようなサービスが「茶の間Cotomo」です。

認知症予防に関する研究の中に、記憶を呼び起こすことで脳の活性化を図る方法があります。つまり、シニアが思い出話などを楽しく会話する機会を持ち、それが家族の方や社会とのつながりになっていると実感できれば、孤独の解消や認知症予防につながるかもしれません。
そこで、利用者が大阪万博の話をしたとしたら、AIが「大阪万博があった時どこに住んでいましたか」といった具合に、話を深掘りできるAIとしました。

開発の背景には、「シニアの抱える孤独とコミュニケーションの悩みを解決したい」という思いがあります。現在、日本では65歳以上の高齢者のおよそ3人に1人が一人暮らしで、自然と孤独・孤立の状態になりやすい状態です。そして他者との交流頻度が少ないシニアは、認知症発症などの健康リスクが高い傾向にあります。また、「離れて暮らしているのでひんぱんにコミュニケーションを取れない。気にはかけているが何をしたらいいのかわからない」と、シニアとのコミュニケーションに悩みを感じている親族もいらっしゃいます。
 そこで独居しているシニアの方の話し相手がいないことや、離れて暮らしている家族の状況が分からず親族など関係者が抱える不安の緩和・解消のツールとして、コミュニケーションに特化したおしゃべりAIが役立てるのではと考えました。シニアの方がおしゃべりAIと会話すると、それを間接的に子どもなど関係者が知ることにより、離れていても手軽に健康状態の確認ができたり、おしゃべりAIを元にコミュニケーションが促進されたり、お互いにとって良好な関係を築くことにもつなげていきます。

「Cotomo」はスマホに向かって話しかけるスタイルですが、こちらのシニア向けAIではスマホにかかってきた電話で通話する形になります。電話のかかってくる時間はあらかじめ設定しておきます。シニアが自分でAIのアプリをインストールしたり設定したりするのはハードルが高いかもしれませんので、最初の設定はお子さんなどにしていただくことを想定しています。また、「AIと話したいが内容を家族に知られたくない」という方も一定数いらっしゃると思いますので、今後ユーザーのご意見を聞きつつ、どこまで情報共有するのかを検討していこうと考えています。
ただ、会話の内容を把握することで、万が一シニアに認知症の兆候があった場合、会話のやりとりからそれを察知できる可能性があります。例えば「最近出歩く気にならない」、「友達と連絡を取っていない」などの会話内容のキーワードから、認知症の初期段階であるうつ状態になっていることに気づけるかもしれません。
なお、シニアと思い出話ができる音声会話型AIのおしゃべり体験が認知症予防や心理機能へ与える効果については、東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターと共同研究を実施しているところです。
(出典https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000123714.html

Q. AIの利用に積極的ではないシニアの存在を踏まえた上で、
ユーザーを増やすための施策や考えをお聞かせください。

おしゃべりAIの使い勝手を聞かせていただくため高齢者施設を訪れた際、インタビューを断られたり、「(シニアは)AIと喋っておけということか」と言われたりしたことがあります。ただ、AIとの会話に抵抗を感じる方がいらっしゃるのは想定内で、われわれとしては導入のきっかけはシニア当人ではなく、お子さんなどシニアに近しい方が多いのではないかと考えています。お子さんが独居されている親御さんへ「こういうAIがあるよ」と提案していただくのが、もっともスムーズな導入といえるでしょう。
また、「Cotomo」と同じテンポや間、喋り方だと、シニアの方は「矢継ぎ早に質問されている」と感じてしまう可能性があります。そのため、シニアにとって快適な会話の内容、最適なテンポなどを、今後より突き詰めていきたいと考えています。

Q. 御社が設定したシニアの定義を教えてください。

もともとは「65歳以上」と銘打っていましたが、シニア向けおしゃべりAIの「茶の間Cotomo」を開発するなかで、シニアの中にもグラデーションがあることに気づきました。そのため、「茶の間Cotomo」のターゲットに関しては、単に「シニア」ではなく「今は健康に暮らしているが、独居しており話し相手が欲しいシニア」と、より具体的にしました。さらに、スマホを自在に使いこなすシニアには「Cotomo」の方が合っているのではないかという新たな気づきもありました。
個人的には「シニア」と一括りに考えていた世代はシニアの一部分に過ぎず、実際は実に幅広いのだと感じています。「この人には合うサービスでも、その隣にいる人に合うとは限らない」と考えるようになりました。

Q. シニアマーケットの今後の展望と今後の取り組みについて教えてください。

今後はどのターゲットに向けた商品なのかがより細分化されていくのではと考えています。これまでは「シニア向け商品」と一括りになっていたものが、「このシニアならばこのサービスが合っている」といった形で細分化されていくといった具合です。
弊社のサービスに関しては、安心と楽しさが共存するものにしていきたいと考えています。新たな方とのコラボやキャラをつくるなど、まだまだ試みたいことがたくさんあります。
シニア向けAIについて目指しているのは、さまざまなシニア向けAIサービスにおしゃべり機能が含まれ、その技術を弊社が提供できるようになることです。表に出るサービスが必ずしも弊社のものである必要はなく、縁の下の力持ちとして私たちのノウハウを提供することも、当社の目指すところです。

 

 

 

歌舞伎鑑賞の観客向けに特化した
イヤホンガイドCM

株式会社 コミュニケーションプランニング 代表取締役 宇野陽平様

歌舞伎座イヤホンガイドの協賛放送を手がけるコミュニケーションプランニング。シニアの観客が多いことや銀座という立地に合致したCMを流すことで大きな効果を上げています。代表取締役の宇野陽平氏に、サービスの詳細などについてうかがいました。

2024年4月取材

Q. 貴社の業務内容について教えてください。

新聞、雑誌、インターネットの広告エージェントとして、また、歌舞伎・能など古典芸能のイベントプランニング、SPグッズ、記念品、販促用ノベルティーの提案を行っています。なかでも力を入れているのは、歌舞伎座イヤホンガイド協賛放送です。イヤホンガイドとは舞台の進行に合わせてあらすじ、配役、衣裳、道具、約束ごとなどをタイミングよく解説するもので、歌舞伎に詳しくない人や歌舞伎を初めてご覧になる人も楽しく鑑賞できると人気です。また、歌舞伎に詳しい人でも解説によってより作品への理解が深まるということで、鑑賞の際はかならず借りるという人も少なくありません。当社は歌舞伎座を中心とした歌舞伎公演する劇場で、歌舞伎を鑑賞されるお客様の半数以上が使用される歌舞伎鑑賞用イヤホンガイドCMの唯一の広告エージェントで、歌舞伎俳優などのナレーションによる耳から聴く広告を扱っています。

Q. どのような経緯でイヤホンガイドCMを扱われるようになったのでしょう。

当社は約40年前に設立、ギフト事業が軌道に乗りました。ギフトのラッピングが大変になったので東京都の外郭団体にお願いしたことがきっかけで、シニア向け事業に着目するようになりました。その一方で、もともと広告の仕事も好きなので、ギフト事業と並行して行っていました。また、現在に至るまで歌舞伎役者によるセミナーなどを通して歌舞伎を観客の立場から支え、その普及と振興を図っていくことを目指す「花道会」の管理者も務めています。そんなわけで歌舞伎とも長くご縁があった関係で、イヤホンガイドから相談を受けました。以前CMを流したことがあったそうなのですが、ラジオのCMをそのまま流しただけだったため、イヤホンガイドを使っていた観客の方たちが驚いてしまい、うまくいかなかったそうです。けれどもう一度チャレンジしたいという話をいただきましたので、それなら歌舞伎座に合った専用のCMを制作して流そうという話になり、2018年からスタートしました。

Q. 歌舞伎座イヤホンガイドCMの主旨やこれまでの実績をお聞かせください。

歌舞伎の観客は富裕層の中高年女性が多いので、クライアントも銀座界隈の高級店や老舗など、客層を意識しています。私が担当するのはクライアントの獲得と見積り、キャスティング、シナリオです。クライアントにひいきの歌舞伎役者がいるなどキャストのリクエストがあった場合は、「その役者なら歌舞伎座には●月と●月に出演しますよ」とご提案します。そうすれば自社のCMが流れる月は、うまい具合に役者本人が出演する月となります。これはこちらが情報を持っているからできるご提案といえるでしょう。そしてどんなCMを流したいのかクライアントの要望を聞いたうえで数本シナリオを考え、その中からクライアントに選んでいただきます。その後の制作はイヤホンガイドの担当です。CMは60秒または30秒の2パターンあり、幕が上がる前の静かな緊張感のあるときに流すのがもっとも効果的です。 実績としては、小澤酒造、和光、ウテナ化粧品、銀座天一、叙々苑、高級時計のMINASEなどのCMを制作しました。小澤酒造の創業と歌舞伎の演目にもある忠臣蔵の赤穂事件は同じ元禄15年、しかもCMを流す時期がちょうど中村雀右衛門さんが襲名時期だったので、雀右衛門さんのナレーションでCMにしたところ、非常に評判がよかったです。歌舞伎座で歌舞伎役者がナレーションすると、CMがCMとして聞こえるというよりは、イヤホンガイドの解説の一部かのように、とても自然に耳に入ってくるのです。

Q. 歌舞伎座イヤホンガイドCM導入までの経緯や苦労された点などを教えてください。また、クライアントからどのような反響、反応がありましたでしょうか。

歌舞伎に親しいクライアントはごく一部です。ご紹介すると最初はみなさん「いいですね」とおっしゃるものの、そこから契約に結びつけるのはなかなか難しいところがあります。また、窓口の担当者もどんどん若くなっていて歌舞伎を観たことがないという人も多いので、「歌舞伎は難しくて」と関心が薄く、歌舞伎座でCMを流すことの利点をわかっていただきにくい点には苦労しました。 ただ、広告効果が予想以上によかったといううれしい誤算が起こることもあります。
MINASE(協和精工株式会社)は国産高級時計ブランドです。MINASEの社長様が松本幸四郎丈の大ファンでしたので、MCは幸四郎丈にお願いしました。CMを放送中には、イヤホンガイドカウンターにはかなりの来場者の問い合わせがあり、広告効果が絶大で大変喜ばれ、現在は歌舞伎座1階ロビーにあるショーケースで展示していただいています。

Q. ほかにもシニアをターゲットとしている事業はありますか。

歌舞伎座地下の木挽町広場にある歌舞伎座直営店で配布する企業のチラシを制作しています。また、歌舞伎座1階ロビーのショーケース内の展示なども当社が担当しています。

Q. 現在の課題がありましたらお聞かせください。

歌舞伎座イヤホンガイドCMで歌舞伎役者さんにナレーションしてもらうと、その分コストがかかります。そこに二の足を踏んでしまうクライアントから「歌舞伎役者でなくてもいい」と言われた場合は、イヤホンガイド社内の女性のMCがナレーションします。そうすると一気にCM感が出て、観客の反応も薄くなりがちです。やはり歌舞伎好きな方が歌舞伎座で聴くCMだからこそ広告効果がぐっと高まるので、ここをいかに理解していただきクライアントの獲得に結びつけていくかが課題です。

Q. 貴社はシニアマーケットをどう捉えていらっしゃるでしょうか。貴社における「シニア」の定義を教えてください。

今、シニアとひとくくりに言ってもその内訳はとても幅広いですよね。歌舞伎座にいらっしゃる方も、まだまだお元気で働いている方から車椅子でいらっしゃる方までさまざまで、一言ではくくれないと常々感じています。ですから当社ではあえて定義づけをしていません。

Q. シニアマーケティングに対する今後のお取り組み予定や今後の展望についてお聞かせください。

歌舞伎座で仕事をしていると、シニア世代の来場者の中でも元気なアクティブシニアが多いことに気づきます。このように、シニア世代の中でも元気で、かつ歌舞伎鑑賞を楽しむ余裕のあるセカンドライフを楽しまれているアクティブシニアに訴求した事業を展開していければと考えています。テレビのCMは席を立たれてしまうこともあるでしょうが、

イヤホンガイドCMはイヤホンガイドを利用している方の耳に確実に届きます。

現在、イヤホンガイドCMは歌舞伎座のほか、名古屋の御園座や大阪松竹座で、京都南座でも実施しています。今後は歌舞伎公演が定期的に開催されている、博多座などでもイヤホンガイドCMを展開していくことを目指します。どの劇場でもCMの入らない月がないくらい普及させることを、自分自身のライフワークにしたいと思っています。

 

 

 

 

 

予防・治療・介護を通して
一人ひとりのQOL向上に貢献

森永乳業クリニコ株式会社 クリニカルマーケティング部
製品開発グループ マネージャー 坂本純子様
マーケティング企画グループ グループ長 吉村俊一郎様
マーケティング企画グループ アシスタントマネージャー 斉田朋子様

栄養補助食品や流動食などの開発・販売を行っている森永乳業クリニコ株式会社。医療や介護の現場でさまざまな障害により食べることが困難な方々も楽しくおいしく食事を摂り、食べる喜びを感じてもらうべく、日々製品の開発に臨んでいます。今回は製品開発グループの坂本様、そしてマーケティング企画グループの吉村様と斉田様に製品開発のご苦労やこだわり、強み、そして今後の展望などについてお話をうかがいました。

2024年5月取材

Q. 貴社の沿革と業務内容について教えてください

(斉田氏)
当社は森永乳業グループの中の病態栄養部門という位置づけで、通常の食事だけでは身体に必要な栄養を満たすことができない方のための食品として、流動食や栄養補助食品などの開発と販売を担っています。1978年に森永乳業の100%出資で設立され、国立がんセンターとの共同開発で流動食「MA-3」を製品化したところから始まりました。2011年には流動食「CZ-Hi」が特別用途食品 病者用食品 総合栄養食品 表示許可第1号を、2020年にはとろみ調整食品「つるりんこQuickly」が特別用途食品 えん下困難者用食品 とろみ調整用食品の第1号として消費者庁より表示許可を受けました。入院されている方や介護施設に入所されている方、ご自宅にお住まいになっている方などどなたでもご使用いただけるよう、医療・介護施設向けの販売や通信販売など幅広く展開しています。 2024年3月には、「株式会社クリニコ」から現社名へ変更し、入院・入所・在宅療養すべてのステージで今まで以上にお客様のQOL向上に貢献したいという想いをもって新たな一歩を進んでいます。

Q. 介護食品事業への取り組み全体についての理念や特色などお聞かせください

(斉田氏)
当社の経営理念が「予防・治療・介護を通して、一人ひとりのQuality of Lifeの向上に貢献する。」ですので、事業のすべてはそこに繋がっています。特に製品力や製品開発の部分には力を入れており、森永乳業の研究所や本社と連携して安全・安心な製品の開発・提供をしております。また、各分野のオピニオンリーダーの先生方のご支援をいただきながら、栄養情報の発信、啓発なども行っております。 そして、流動食や栄養補助食品、とろみ調整食品、プレ・プロバイオティクス食品など、幅広い製品展開をすることによって、多くの方々のお役に立てるように取り組んでいます。製品開発にあたっては、おいしさには大変こだわっていますし、容器や使い勝手といった細かな点にも配慮して進めています。実際に召し上がる利用者様だけなく、そのご家族や医療・介護従事者のスタッフの方も含めた皆様のQOL向上につなげたいという想いがあるからです。

Q. 「特別用途食品 えん下困難者用食品」表示許可を取得したビタミンサポートゼリー開発の経緯や特色などをお聞かせください。

(坂本氏)
嚥下が困難な方でも食べやすく、さらに味もおいしく、食を楽しんでいただけることを意識して開発しました。少量でも栄養が摂れるよう、1個(78g)の製品の中にビタミンC500mgや食物繊維5g、オリゴ糖2g、シールド乳酸菌100億個などを配合しています。試行錯誤しながら数十種類もの味を試した結果、みかん味、マスカット味、パイナップル味、はちみつレモン味の4種を選定しました。ありがたいことに「おいしい」との声をたくさんいただいています。 嚥下困難な方に食べやすいものとなると物性を重視してしまい、栄養素があまり入っていない製品も少なくありません。その点、ビタミンサポートゼリーは栄養もしっかり摂れるという点が、大きな強みになっていると思います。

(許可文言:「本品は、誤えんに配慮した、えん下困難者に適した、栄養補給ゼリーです。」)

また、ビタミンサポートゼリーの他にも、食欲が落ちてきた方の効率的なエネルギー補給に配慮したタイプや喫食量が低下した方でも食べきりやすい少量タイプなど、さまざまなカップタイプのゼリーを取り揃えているのも当社の特長です。

Q. 製品を開発する上での留意点はどんなところでしょう。

(斉田氏)
栄養補助食品や流動食のみを食事としている方も多くいらっしゃいますので、製品の安全性はもちろんのこと、安定供給の点は非常に注意を払っています。当社の製品が生命線である方がいらっしゃいますから責任は重大です。味や栄養素、容器の微細な変更であっても、さまざまな視点から慎重に進めています。お客様の病態もさまざまですので、オピニオンリーダーの先生から、あるいは学会などで情報収集したりお客様の声を現場からいただいたりすることで、ひとりでも多くのお客様に寄り添い、困りごとを解決できる製品の開発を心がけています。

(吉村氏) とりわけ流動食に関しては、それだけで生命を維持されている方々がたくさんいらっしゃいます。製造拠点は盛岡と神戸の2カ所におき、BCP対策にも取り組んでいます。

Q. 貴社ならではの強みはどんなところにあると思われますか。

(斉田氏)
製品の種類の豊富さ、フレーバーの種類の多さといった充実したラインアップは当社の大きな強みです。流動食ひとつとっても何種類もありますし、疾患に配慮した組成を組んだ流動食・栄養補助食品もとりそろえています。森永乳業の研究所と連携して、「おいしさ」にもこだわり開発していますし、味のバリエーションが豊富な製品が多く、お客様が好みの味を見つけたり、飽きずに毎日食事を楽しめたりすることを意識した製品開発は徹底しています。

また、以下のような工夫も当社の強みと言えると思います。

「飲みやすさ」にこだわり、ストロー付き製品には、口径が大きく吸い込みやすい設計のストローを採用しています。

「開けやすさ」にこだわり、小さな力で開封しやすいマジックトップ™(密封性と開けやすさを両立させたパッケージングシステム)やラージキャップを採用しています。

「見た目や香り、味」にこだわり、食事時間を楽しんでいただけるよう食品本来のおいしさをお届けできる工夫も凝らしています。

「食べる楽しみ」にこだわり、栄養補助食品を身近に感じてもらえるようなアレンジレシピ(Enjoy Smileレシピ®)もホームページ上でご提案しています。

Q. 貴社の製品について医療従事者や利用者からはどのような反響がありますか。

(坂本氏)
やはり当社が強くこだわって開発している味(おいしさ)の部分については、特に高い評価をいただいています。8種類の味を揃えている栄養補助飲料「エンジョイクリミール」の利用者様から「胃からロイヤルミルクティーの香りがしました」というお手紙をいただいたことがありました。ほかにも、栄養状態が悪くなっているがん患者さんにもおいしく召し上がっていただきたいという思いで開発したカップタイプ製品では、「重い症状のがん患者さんが食欲のない時でも召し上がっていただける」、「パンだけの朝食にこの製品を付けるだけで、たんぱく質など不足しがちな栄養素が摂れる」という喜びの声もいただきました。

栄養補助食品はあまりおいしくないというイメージを抱く方も少なくなく、医療介護従事者の方でもその傾向があるため、そのイメージを覆すつもりで開発しています。ですから味について高くご評価いただくことが多いのは、本当にうれしくありがたいです。

やはり食べ続けていただかないと意味がありませんから、そのためにも今後もおいしさは追求していきたいと考えています。

Q. 現在、とりわけ力を入れている事業についてお聞かせください。

(吉村氏)
ここ10年ほど取り組み続けている事業のひとつに「リハビリテーション栄養」があります。「サルコペニア」という概念は、10年ほど前は、日本国内ではあまり知られておらず、一部のトップランナーの医療従事者のみが提唱しているという状況でした。このサルコペニアに対する栄養サポートが欠かせないものになると感じ、当社も取り組みを開始しました。

サルコペニア・リハビリテーション栄養の概念普及を目的に全国でのフォーラムに共催したり、オピニオンリーダーの先生に講演していただいたりといった啓発活動をはじめ、現在も継続しています。同時にリハビリテーション前後でも飲みやすいゼリー飲料タイプの栄養補助食品を開発しました。この製品は、おいしさにこだわった上でリハビリテーションにおける栄養管理で必要な栄養素(BCAA・たんぱく質、ビタミンD)を配合しています。

低栄養な状態でリハビリを行うと筋肉が減少してしまい、かえって状態が悪くなってしまいます。リハビリで体を動かしたことによるエネルギーの消費量や体重増加を目指したエネルギー蓄積量も考えて、より多くのエネルギーを取ることが大切です。かつては「回復途上でのリハビリなんだから体重が減るのが当たり前でしょうがないこと」という認識でしたが、現在ではADLの維持・向上を目的に、運動と栄養の複合的介入の重要性が理解されていて、国内の診療ガイドライン(サルコペニア診療ガイドライン2017)にも記載されるところまで広がっています。それに伴い、栄養補助食品のニーズも高まっていると認識しています。令和6年度診療報酬改定では、リハビリ(運動)・栄養・口腔管理の三位一体の取組みに注目が集まっており、今後ますます強化される分野と感じます。

また、在宅療養関連の取り組みとしては、入院されていた患者様が退院されてからの在宅生活のポイントをリーフレットと動画でお伝えする「今日も笑顔で『いただきます』」というシリーズ企画を実施中です。リハビリテーション科の医師、在宅医療がご専門の医師、管理栄養士、歯科衛生士といった各分野のトップランナーにご協力いただき、在宅生活に役立つ情報を発信しています。このリーフレットや動画はご本人だけでなく、ご家族にも好評です。

(斉田氏)
歯科と食(栄養)に関する取り組みにも力を入れています。食べる入口である口を整えること、そのうえでしっかりと栄養を摂ることの重要性を、多くの方により早い段階から理解していただきたいと考えています。ちょうど、2024年4月に新しいオーラルフレイルの概念が発表されました。オーラルフレイルとは歯の喪失や食べること、話すことに代表されるさまざまな機能の軽微な衰えが重複し、口の機能低下の危険性が増加しているものの改善も可能な状態を言います。当社もこの概念普及に協力しています。当社のサービスとしては、「もぐもぐ日記」というお食事相談サポートシステムを開発しました。歯科医療機関(モニタリングツール)と患者様(スマホアプリ)を連携すると、アプリ内に登録した患者様の食事写真を共有・解析できるシステムです。患者様はスマホアプリで食事の写真を撮るだけで操作はとても簡単です。その食事写真をAIが解析、食事のバランスやもぐもぐスコアをアプリが自動で算出して食習慣を4つの動物タイプに判定する仕組みで、患者様がゲーム感覚で楽しめます。また、歯科医療機関側では患者様の食事写真がそのまま確認できるだけでなく、食習慣の傾向や各種スコアの経時変化も確認できるため、患者さまの食事相談に活用できます。歯科領域での食事相談の普及が、健康寿命延伸につながればと考えています。

いずれも、当社の企業理念に合致する取り組みとして、今後も力を入れていきたい事業です。

Q. 現段階で業務上の成果、課題などがありましたらお聞かせください。

(斉田氏)
原材料の高騰への対応は喫緊の課題です。その他、これまでの販売先は病院や介護施設が多いため、在宅療養という分野にどのように取り組んでいくか、どうすればお役に立てるのかという点はまだまだ検討の余地があると思います。

Q. 貴社はシニアマーケットをどう捉えていらっしゃるでしょうか。貴社における「シニア」の定義を教えてください。

(斉田氏) 「フレイル」という概念が普及していきていますが、当社では「フレイル」の予防領域から終末期までをシニアのターゲットと考えています。

Q. シニアマーケティングに対する今後のお取り組み予定や今後の展望についてお聞かせください

(斉田氏)
リハビリ(運動)・栄養・口腔という三位一体の取り組みは、国としても推進しているところです。当社がこれまで行ってきたリハビリテーション栄養の取り組みに、この概念を絡めながら事業を展開していければと思っています。また、先の課題でお伝えしたように在宅療養の領域も取り組みを強化していきたいですし、各種製品カテゴリーについてもナンバー1の信頼をいただけるよう、今後も開発を続けていきたいと考えています。

 

(坂本氏)
当社がこだわっている「おいしさ」についても製品開発だけでなく、より広く捉えています。「おいしい」と感じるのは、食事の味だけではなく、食事をするときの環境も大きく影響します。製品の味へのこだわりはもちろんですが、「おいしく感じていただく環境づくり」や「食の楽しみの提供」にも取り組んでいきたいと考えています。そのひとつとして、みんなで「いただきます」を言いながら笑顔を繋いでいこうという「おいしい笑顔プロジェクト」を進めています。

このプロジェクト以外にも、栄養補助食品やとろみ調整食品を多くの方々にもっと身近に感じていただけるような取り組みを進めており、私たちはこれを「ボーダーレス化」と言っています。たとえばコメダ珈琲店に開発協力した「TOROMI COFFEE(とろみコーヒー)」というコーヒーが発売され、SNSでも話題になっています。とろみのついたコーヒーは嚥下困難な方だけでなく、健康な方も含めて新食感コーヒーという感覚で飲まれています。食生活に栄養補助食品やとろみ調整食品を自然に浸透させていくことで、介護食に対するマイナスのイメージを変えていければと思っています。

 

(吉村氏)
炭酸飲料向けとろみ調整食品「つるりんこシュワシュワ」も、嚥下困難でも炭酸好きな方が、私たちが想像している以上に多かったことから生まれました。通常のとろみ調整食品では炭酸感を残してとろみをつけることが難しいのですが、炭酸に特化した「つるりんこシュワシュワ」を開発したことで、炭酸感を残したまま、飲料本来の味もそのままにおいしく飲んでいただけるようになりました。この「つるりんこシュワシュワ」もとろみ調整食品へのイメージを変えるきっかけづくりにしたいと考えています。

今後も当社は、いつまでも笑顔で「食の楽しみ」を感じていただけるようなサポートをすることで、ご本人だけでなくご家族や周りの皆さまのQuality of Lifeの向上に貢献していければと思っています。

 


 

 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

43回 
パナソニックホールディングス
株式会社
第42回 
エアデジタル株式会社
第41回
NTT東日本

介護施設向け介護業務支援サービス
「ライフレンズ」と連携可能な「排泄センサー」

パナソニックホールディングス株式会社 事業開発室 スマートエイジングプロジェクト
総括担当/プロジェクトリーダー 山岡勝様

パナソニックハウジングソリューションズ株式会社 水廻りシステム事業部 トワレ事業推進部
商品企画課 主務 南弘嗣様

ビジネスアワード2023 プロダクト賞を受賞したパナソニックホールディングス株式会社の『介護施設向け介護業務支援サービス「ライフレンズ」と連携可能な「排泄センサー」』。今回はプロジェクトを担当されたパナソニックホールディングス株式会社の山岡勝様と販売を担当されたパナソニックハウジングソリューションズ株式会社の南弘嗣様に、「排泄センサー」開発の経緯や今後の展望などについてお話をうかがいました。

2024年4月取材

Q.「ライフレンズ」と連携可能な「排泄センサー」を「ライフレンズ」のオプションとして提供開始してから2024年3月で1年経ちました。このシステムを開発することになった経緯を教えてください。

(山岡氏)
2020年から介護施設向け介護業務支援サービス「ライフレンズ」の提供を始めました。これはシート型センサーとカメラにより入居者のお部屋での状態や生活リズムがリアルタイムで把握でき、入居者の状況に応じたケア対処を可能にし、夜間巡視の軽減など見守り業務を効率化する介護業務支援サービスです。ただ、入居者に対するより質の高いケアを提供するには、排泄も大きな要素になるという話になりました。

そこで大学などとも連携しながら現場で排泄センサーの実機評価を行ったところ、期待値は非常に大きいものでした。利尿剤を服用している入居者もいますし、服薬効果の確認に対して定量的なデータがあれば、看護師などの負担軽減にもつながります。実際、排泄の状態を管理しなければいけない入居者に対し、排泄が終わるまでトイレの前で待っているのは入居者と看護師双方の負担になりますし、入居者が流してしまうこともよくあるそうです。入居者はもちろん、看護師の心理的、身体的負担を軽減する意味でも、排泄を管理するセンサーが世に出る意味があるというということで、事業として立ち上げました。

Q. この1年の導入事例や成果についてお聞かせください

(山岡氏)
介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホームでご利用いただきました。期待通り、排泄の記録や観察が効率化できているのは実感しています。今後は業務の効率化のところだけではなく、排泄物の性状情報から健康状態の把握にどうつなげていくかを導入事業者さんと作り上げていくフェーズになります。

Q. 「排泄センサー」を導入された施設などからはどのような反響がありましたか。

(山岡氏)
「見えていないときでも定量的に把握できる」という点が、一番反響がありました。入居者が夜間に頻回に離床する現象はもともと「ライフレンズ」によって把握できており、その多くがトイレ動作を含んでいることもわかっていました。それに加えて「排泄センサー」によって、どういう性状の排泄がされているもわかるようになり、特に人の目が行き届かない夜間の生活リズムを睡眠と排泄という両面から課題を導き出していくアセスメントのデータとして使っていただくところが非常に喜んでいただいています。

服薬効果の確認という観点からは、入居者から「便が出ない」と言われ、医師がより強い薬に変更していくのは珍しいことではありません。それが今回の排泄センターをつけてみると、実際はかなりの頻度で水状便を繰り返していることがわかりました。こういうデータがあると、下剤が入りすぎているということもいち早く把握できます。認知症の方も多くいらっしゃるところなので、正しい情報に基づいた服薬管理の参考情報になっていくだろうという手ごたえを感じていています。

Q.実際に導入してから想定外のことはあったでしょうか。課題と対策についてもお聞かせください。

(山岡氏)
「ライフレンズ」が個室用にチューンナップされて作られているので、「排泄センサー」もおのずと個室のトイレを対象としていました。それが共用トイレを利用される頻度が、私たちが想定していたよりも多かったです。そこにいかに対応していくかが最大の課題といえます。現在、共用トイレにおける「排泄センサー」にとって最適な「人の認証」がどういうもいのか、現場のみなさまと共に実証実験を始めたところです。

また、今回は「ライフレンズ」に組み合わせて「排泄センサー」を使う形ですが、「排泄だけ見たい」という希望も現場から多くありました。そこで「排泄センサー」だけで稼働するような「ライフレンズ」の検討も始めています。

ほか、何も出ていないという表示が出たときでも、少量の尿や便の排泄があることもあるのですが、少なすぎて検知できていないというケースがありました。介護の観点からも、まったく出ていないのか、少量でも出ているのかは大きな違いになってくるので、そこはより精度を上げていかなければならないと感じています。


(南氏)
入居者が施設内の違う部屋に移るケースも予想以上に多かったため、必然的に部屋から部屋の移設の頻度も想定よりも多くなりました。そのため、今以上に設置性を簡易的にできるような形にしていきたいと考えています。

Q.  貴社における「シニア」の定義を教えてください。

(山岡氏)
プロジェクトによってシニアの定義も年齢の設定も変わります。「ライフレンズ」においては介護施設に入居される方がシニアということになりますので、要介護2以上の方や、介護職員さんのサポートがないと生活が難しいというレベルの方となります。現場の介護職員さんの負担を軽減するというところが重要ですので、高齢者のデータを取りつつ、いかに介護職員さんに意味のあるソリューションになるかというところを日々考えています。

Q.  「排泄センサー」ならびにシニアターゲティング市場における今後の抱負をお願いいたします。

(南氏)
排泄センサーはB to B向けということで対象は施設ですが、パナソニックはB to Cも得意とする領域ですので、いずれは個人が購入し、ご家庭で「ライフレンズ」と「排泄センサー」を利用していただけるころまで持っていけたらと思っています。また、現在所属している部署では排泄センサーだけでなくトイレ事業を全体で見られるため、介護支援向けだけでなく、障害やハンデのある方へのサービスや製品の提供についても考えていきたいです。


(山岡氏)
当社は介護予防にも力を入れており、事業開発の連携パートナーであるポラリスさんというデイサービス事業所と自立支援介護プラットフォームを共同開発しました。たとえば寝たきりになってしまったシニアの方にも正しいリハビリテーションを通して、もう一度自分の足で歩けるようにするなどです。要介護4の寝たきりの方が半年後に自分の足で歩けるようになった事例もあり、「もう一度元気になってやりたいことをやる」というのは社会的にも素晴らしいことです。さらに今後は要介護高齢者だけでなく、介護予防期にある高齢者、独居の高齢者の孤立を解消するといったところも含めてサポートできればと思っています。

2040年に全世代人口減が始まると介護施設の需要が減り、従来よりも重症化した要介護者のケアを在宅で行わなければいけません。われわれとしては介護施設で培ったノウハウを生かし、在宅の介護の役に立つことが使命だと考えています。今後は在宅の高齢者に関する事業にも力を入れていきたいと思っています。

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シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

第42回 
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41回
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運動習慣化施設

エアデジタル株式会社 
代表取締役 前田相伯様

ビジネスアワード2023 ビジネスモデル賞を受賞したエアデジタル株式会社の「楽しみながらフレイル予防する運動習慣化施設」。今回は代表取締役の前田相伯様に、現在の施設の状況や課題とその対策、今後のビジョンなどについてお話をうかがいました。

2024年4月取材

Q.「楽しみながらフレイル予防する運動習慣化施設」の新業態を開始されてから1年以上経過しました。まずは施設のご紹介をお願いします。

当社はもともとデジタルスポーツ空間の販売やレンタルをしており、その実機を展示・体験いただく場として埼玉県久喜市のショッピングモール、アリオ鷲宮に体験型デジタルスポーツフィールド「スポーツ60&スマート」を開設しました。そこを昨年、「健康は保ちたいがフィットネスクラブに通うほどでない」という中高年・高齢者がスポーツを通じて楽しく運動できるよう、デジタルと非デジタルが共存する空間としてリニューアルオープンしました。連携協定を締結した久喜市、株式会社安藤・間とも協力し、本気のスポーツにデジタルを掛け合わせたEスポーツフィールドで構成されるデジタルスポーツフィールドに、 本格筋力マシンフィールドを融合させた施設です。

デジタルスポーツフィールドはデジタルコンテンツで脳神経を活性化させ、体も動かしながら身体機能の向上を狙い、トレーナーやプレイヤー間の交流も楽しめるフィールドです。バランス感覚を強化するレジェンドティーバッティング、足腰を鍛えるレジェンドサッカー、胸部のトレーニングになるレジェンドアーチェリーなど、11種類のコンテンツを提供しています。筋力マシンフィールドはデジタルスポーツ空間での運動で不足する筋力や可動域拡張を解決するため、トレーナーのサポートのもとで行う筋力トレーニングフィールドで、いわゆるフィットネスクラブにあるマシンをイメージしていただくとわかりやすいと思います。

Q. この1年の成果についてお聞かせください。

月に300~600名ぐらいのご利用があり、平日はシニアの方、土日祝日はファミリーで利用されるケースが多く、来訪者の約半数がリピーターです。年齢層も幅広く、3歳でゲームしている子もいれば、90歳以上の方がいらっしゃることもあります。障害のある方のご利用もあり、車椅子の方などは利用できないマシンなどもありますが、料金を半額にした上で理学療法士やサポーターをつけて、楽しみながら安全に利用していただけるようにしています。

個人での来訪だけでなく、近隣のデイケアセンターから団体でいらっしゃることもあります。シニアの方にとって使い方のわからないマシンは怖くて利用できないでしょうし、一度使い方を教わっても忘れてしまうこともありますから、こちらも安全・安心に利用していただけるようサポート体制を整えています。

Q. 実際に新業態を開始してから、想定外のことがありましたら具体例をお聞かせください。

当初は40~70代の方の利用を想定していたので、これほどまでに幅広い年代の方にご利用いただけていることにはやはり驚きました。また、施設の中でもとりわけ人気の高いものについては、休日ですと順番を待って並ぶという状況も生じました。たとえばデジタルスポーツフィールドにあるレジェンドティーバッティングやレジェンドサッカーは、大人はもちろんお子さんにも大変な人気です。待ち時間が生じた場合はほかのフィールドで楽しんでいただくなどの誘導も行っています。また、シミュレーションゴルフについては当初扱っていませんでしたが、地元からのニーズが高く導入しました。

Q.「楽しみながらフレイル予防する運動習慣化施設」という新しい業態をスタートする際、苦労されたのはどんなことでしょう。

私はもともとゲームなどデジタルの世界が長かったので、デジタルとフィットネスやフレイル予防というヘルスケアをいかに結びつけるかにはやはり苦労しました。理学療法士やトレーナーなどの専門的な知見のあるスタッフからたくさんヒアリングしてこの形態にすることができました。

Q.  施設利用者の方からはどのような反響があったでしょう。

最初は「どの方にも楽しく利用していただきたい」という思いでいましたが、リニューアルオープンしてしばらくしてから「それは違うな」と思うようになりました。来訪される方がフィットネスでトレーニングしたい方、デジタルスポーツフィールドでサッカーや野球を満喫したい方、パソコンでゲームを楽しみたい方など用途が多種多様なので、目的がそれぞれ異なる以上ひとくくりにはできないと。ただ、リピーターの方が多いということは、やはりお客様ごとに満足していただける要素があったのだろうと感じます。

Q.  現段階の課題とその対策についてお聞かせください。

いわゆるフィットネスクラブを運営するぐらいの収益性まではいたってないのが課題です。リニューアル後も利用料金を上げる勇気がないということも一因で、立地の面からも値上げは難しいところです。解決のためには平日の利用者を増やすことが必須ですので、地域のデイケアセンターなどとの連携を試みるほか、施設の使い勝手などを再検討し、現在レイアウトから改めて作り直そうとしているところです。

Q. 貴社における「シニア」の定義を教えてください。

実はシニアを「●歳から」などと定義づけたことがありません。今回リニューアルした施設についても「40~70歳」というざっくりとしたターゲットは設定していましたが、ふたを開けてみればこれだけ幅広い年齢層にご利用いただいていることからも、あえて設定する必要はないと考えています。

Q.  シニアターゲティング市場における今後の抱負をお願いいたします。

まず、近隣のデイケアセンターさんと連携するようなビジネスはぜひやっていきたいと思っています。今よりもっとシニアターゲティングに特化させていくなら、公的な支援も受けた上で店舗もデイサービスの区画、デジタルスポーツフィールドの区画といった形にし、休日は全区画開放して従来通りご家族で楽しんでいただけるスペースとすることは、次の目標として見すえています。

また、うちの機器とモバイルを連携させることも最優先事項として進めていく予定です。そうすると運動量を計測するウェアラブルがあれば、うちのコンテンツのゲームの予約にも使えますし、モバイルと連携する機会も増えるので、そうなったらアプリがあるとより便利ということになりますから、順に段階を踏んでいければと思っています。センサーカメラをつけてお客様のプレーしている模様の写真か動画いずれかをQRコードで操作パネル上に出して、お客様がモバイルで取り込めるようにします。これはエンタメの分野になりますが、エンタメから入ればアプリをインストールしていただきやすいので、それからヘルスケアの提案につなげていきたいと考えています。

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シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

41回 
NTT東日本
40回 
トリニティ・テクノロジー
株式会社
39回 
東京トラベルパートナーズ
株式会社

産官学連携による

「シニア×ドローン×地域課題解決」

~ドローン操縦を通じた、

シニアが健康で活躍できる地域づくり』への

取り組みに向けた協定を締結~

 

NTT東日本 ビジネスイノベーション部 まちづくり推進グループ まちづくり推進担当 岩見晃希様

NTT東日本 ビジネスイノベーション部 まちづくり推進グループ まちづくり推進担当 林若菜様

埼玉県本庄市役所 市民生活部市民活動推進課 課長補佐 小林弘幸様

ビジネスアワード2023 シニアライフ賞を受賞したNTT東日本『産官学連携による「シニア×ドローン×地域課題解決」~ドローン操縦を通じた、シニアが健康で活躍できる地域づくり』への取り組みに向けた協定を締結。今回は共同実験を牽引されてきたNTT東日本の岩見晃希様と林若菜様、共同実験のフィールドとなった本庄市の小林弘幸様に、実験の成果やシニアの定義、そして今後の展望などについてお話をうかがいました。

2024年3月取材

左からNTT東日本林氏、岩見氏、本庄市小林氏

Q.ドローン操縦によるシニアの健康増進や社会参画促進への取り組みと、産官学連携を形成された経緯についてお聞かせください。

(岩見氏)
日本の65歳以上人口は3621万人と総人口の28.9%まで増加しており、高齢者の健康問題が社会課題とされています。ドローンの操縦技術の習得と実際の活用がシニアの健康維持・社会参画促進、さらに地域課題解決に有用性があるのではないかという仮説のもと、それらを検証するため、産官学連携にて共同実験を実施することとしました。


具体的な役割分担としては、シニアへのドローン施策の実施にあたり、シニアのフィジカルやメンタルに及ぼす影響の効果測定・考察を筑波大学、シニア向けドローン講習のカリキュラム作成、講習実施・運営を一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)、本庄市自治会連合会にターゲットシニアの募集や参加シニアからの問い合わせ対応や実証実験の運用支援を担当していただきました。弊社は、シニア向けドローン講習カリキュラム作成支援、情報取り纏めなど実証実験の全体管理およびシニアドローンパイロット育成とドローンの活用による地域活性化モデルの検討および社会実装検討の役割を担いました。

(林氏)
そもそもなぜシニアとドローンを紐づけたかといいますと、ドローンは弊社のアセットでもあり、橋梁点検業務などで広く活用しております。我々も実際にドローンを操作してみたところ、想像以上に指先の神経を使い、上手く飛ぶと気持ちが高揚し、次はどんな風に飛ばそうかと思考し、屋外にでて歩き回ることを体感しました。そこで「もしもシニアの方が私達と同様にドローンを扱ったらフレイル予防につながるのではないか」、「家に閉じこもりがちのシニアの方も、ドローンであれば楽しみながら屋外に出て地域の方々と交流するきっかけになるのではないか」とそんな考えから始まりました。最初は社内外で「シニアの健康維持や地域活性化になぜドローンなのか?」という声はあったのですが、この実証により現在もシニアの方々はドローン操縦を趣味とし、地域コミュニティが深まり生き甲斐や楽しみとなっていることからメンタル面では大きな影響力があったと感じております。

Q. 今回の共同実験に参加されたシニアの選出基準や対象者について教えてください。

(林氏)
参加条件は本庄市在住の65~75歳ということのみで、自ら応募してくださった方全員が、そのまま受講生となりました。実際の参加者の年齢は65歳から72歳、全員男性でした。実は全員が脱落することなく最後まで楽しく参加してくださったのも想定外で、半数くらいは途中でリタイアされるかもしれないという状況も想定していました。しかし、参加シニアの皆様のドローン操縦技術の向上意欲が非常に高く、シニアの皆様は大変お元気で楽しくドローンを操縦されておりました。「後期高齢者にドローン操縦は難しいのでは」とこちらの先入観で75歳までのシニアの方と定義したのですが、みなさまの生き生きとした様子を目の当たりにして、上限の年齢を80歳くらいにしても、きっと元気に参加してくださっただろうと思いました。

Q. 共同実験の具体的な取り組み内容をお聞かせください。

(岩見氏)
実際にシニアがドローン操縦をするにあたり知識・技術の習得が可能なのかという検証から、シニア自身の健康増進への影響、さらにはシニアドローンパイロットの活躍による地域課題解決や多世代が共生するまちづくりが可能かについて調査を行ってきました。講習会への参加者への事前説明会では、やはりみなさんが初対面ですからすぐさま打ち解ける、という感じではありませんでした。講習会では、シニア間で全員の方々とコミュニケーションを取ってもらいたいと思っていたので、カリキュラムを進める際のグループは毎回シャッフルをしていました。講師の先生方にも各グループ内でお互いに助け合えるようなカリキュラムにしていただくよう、グループ全員で操縦者を応援したり操縦者の補助役をしたりと、協力しあえる講習内容にいたしました。結果、参加されたシニアのみなさん全員が最後まで講習をやりとげ、ドローン操縦技術を身につけられました。
講習終了後も、実証に参加された13名で自発的に本庄市シニアドローンクラブを立ち上げ、今も頻繁にみなさんでドローン操縦の腕を高められております。講習後にそのような形で自発的にドローンとの関わりを続けられるとは思ってもみなかったので、これこそ今回の実験の最大の成果ではないかと感じますし、今も変わらないメンバーで活動されていることを大変うれしく思います。
また、趣味としてドローン操縦を楽しむだけでなく、地域の小学生にドローン操縦教室を開催したり、地域の防災活動にドローンを使って参加したり、地元の小学生の地域学習授業のため本庄市の現状をドローンにて空撮し、授業に用いたりと、活動の幅を広げていらっしゃいます。

Q.小学校でのドローン空撮動画を使った授業や、ドローン操縦教室について詳しくお聞かせください。

(岩見氏)
本庄市と弊社は 2023 年 9 月 15 日に、シニア活躍推や多世代共生による地域活性化の実現にむけて「ドローンを活用した小学校授業動画作成及び授業のトライアル実施に関する協定」を締結しました。本協定にもとづき、ドローンクラブのみなさまがドローンで撮影した地域の映像を、弊社の社内映像チームが授業用の映像へ編集し、2024 年 2 月 14 日の本庄市立共和小学校の地域学習授業で活用しました。
児童からは動画視聴中に「あれ学校だ!」「ここ見たことある!」など自身の生活に照らした感想が多くでました。また、ドローンクラブのみなさまには授業の一環でドローンの紹介やデモフライトを実施いただき、児童は初めて触れるドローンに興味津々でした。
本施策を通じて、われわれとしては、ドローン空撮映像は児童の授業理解を促進し、よりよい学習へと昇華させることができるものと感じました。先生方からも同様の意見を伺っています。ドローンクラブのみなさまには、児童がどうしたら喜んでくれるか創意工夫してくださり、多世代共生の取り組みのよい事例になったと思います。

(小林氏)
ドローンクラブの皆様には、授業の素材となる映像撮影のため、朝早くから現地で撮影していただきました。ほかにも、授業内容の深掘り、授業で使用する資料の収集にもご協力いただくなど、今回の事業実施に大きく貢献していただきました。シニアと小学生が触れ合う機会を作ることができ、大変有意義な取り組みだったと考えています。

地域学習授業の様子
(NTT東日本・本庄市・本庄市シニアドローンクラブ)
児童もドローンに興味津々
(NTT東日本・本庄市・本庄市シニアドローンクラブ)
地域学習授業でドローンによる空撮映像を使用
(NTT東日本・本庄市・本庄市シニアドローンクラブ)

Q.  シニアがドローン操縦を学び、地域貢献活動に参加することで期待されるのはどんなことでしょう。

(小林氏)
本庄市には市民提案型協働事業制度があり、ドローンクラブも「ドローンでこういう場所を空撮したい」とか、それをどんなことに使いたいかといったご提案をいただき、小学校でのドローン操縦教室のように本庄市の協働事業という形で進めたものもあります。今後も市としては会場の提供や関係機関との連絡調整、また広報などの分野で支援するなど、協働で事業を進めていければと考えています。こういった方々がどんどん社会に参加して活動していただきたいですし、地域で交流の機会が生まれるような取り組みができればと考えています。

(岩見氏)
シニアのみなさまがやりがいや生き甲斐をもって元気に生活できるように、さらには地元の子どもとの交流の場を広げたり、地元のためにドローン技術を活用して活動したりして、地域活性化を促進したいです。新たな雇用が生まれるなど、ビジネスとしても成り立ち、経済循環ができることが理想です。

屋内でのドローン操縦
本庄市シニアドローンクラブのみなさんと
本庄市小林氏、NTT東日本林氏・岩見氏

Q.  共同実験に参加されたシニアのみなさまからはどのような感想の声が届いたのでしょう。

(岩見氏)
参加者のみなさまからは以下のような感想をいただきました。抜粋してご紹介します。

・講習会は同年代の方々でとても楽しかった。その後、講習会参加者でクラブを設立し、マイドローンを所有するまでに至った。大変楽しい老後の趣味を見つけた。


・ドローンには興味を持っていたものの年齢的に無理かなと思っていたが、シニア対象の講習会があると知り、チャンスと思い参加。年齢が近い人の集まりなのであまり気張らずにできた。クラブの発足により機体の購入や登録申請なども相談でき、飛行の環境なども指導してくれる仲間がいるので楽しく活動している。ひとりではとてもできなかったと思う。


・普段は付き合いのない仲間ができ、参加して本当によかった。


・子どもの見守り活動に使えないかと考え参加した。講習も先生方がフランクに教えてくださり楽しかった。クラブもでき、色々な地域の才能豊かな人達と知り合えたことが、ドローン以上に自分へのプレゼントだと感じる。


・ドローン講習の最初の座学でドローンを取り巻く法令の洗礼を受け、重い気持ちのスタートだった。しかしドローンを用いた操縦実施訓練になると毎回楽しくて、講習終了後まもなく練習用のドローンを購入した。また、講習を一緒に受けた素晴らしい仲間とも意気投合しクラブを結成、充実した日々を送っている。もし、今の自分にドローンがなかったら寂しい日々を過ごしていたと思う。ドローン講習の企画を出してくれた NTT東日本 のみなさま、ドローン講習の機会を提供していただいた本庄市役所の方々、ドローン講習に共に参加し充実した時間を共有してくれる仲間たちに心から感謝している。


・写真が趣味なのでドローンでの撮影にも興味があった。座学で色々な法令の規程があると知った。老化防止も兼ねて今後も楽しく活動したい。


・ドローンが不法投棄や小学生の登下校時の見守りなどに役立てないかと考えた。引きこもりがちだったが、講習を経てドローンクラブができたおかげでみなさんと日々楽しく、忙しく過ごしている。これからも飛行練習や法令の習得に精進し、1 等無人航空機操縦士を目指したい。


・田畑への農薬散布に利用できないかと思い参加を決めたが、最初の座学でそれが簡単ではないことがわかりがっかりした。しかし実技は日を重ねるたびに楽しくなり、今では仲間と一緒にマイドローンを飛ばすことができるようになったので、講習に参加してよかった。


・昔から自由に飛べる空が好きだったので、ドローンにも興味があり講習に参加。ドローンを操縦できるようになり、さらにクラブに入って新たな生活リズムが生まれた。


・ドローンは空飛ぶオモチャと思っていたが講習を受けるとなかなか難しく、だからこそ面白くなった。


・講習の参加者が13名という人数はちょうどよかったと感じる。メンバーのシャッフルにより参加者全員と話せたことが、その後のクラブ設立につながったと思う。新しい趣味の友人ができてうれしい。今後は私的な趣味として楽しむのはもちろん、公共的なことにもドローンを介して協力していきたい。

Q. 御社はどのように「シニアの定義」を設定されているのでしょう。

(岩見氏)
われわれで定義としているのは、65歳以上の地域のみなさんです。定年退職などで会社を引退し、「地域のためになにか行動したいがなにをやろうか」、「老後の趣味を探している」という方々と地域活性化をつなげる、新たな雇用を生み出すといったまちづくり活動を行っています。

Q.  今後の抱負をお聞かせください。

(岩見氏)
シニア世代の活躍促進や多世代交流促進によって、やりがいや存在価値を感じるアクティブシニアの増加や地域愛あふれる若者輩出、持続可能な活気あふれるまちづくりに向けて引き続き取り組んでまいります。シニアの皆様向けのドローン講習プログラムの提供に加えて、NTT 東日本内の映像チーム V-TECHXがSNS の伴走支援や画像/動画編集の技術習得のサポートをすることで、地域の魅力を発信できる集団へと昇華することができると考えています。その他にも NTT ではドローンによる設備点検のスキルも有しており、シニアのみなさまが市内の設備点検ができるよう支援することも可能だと考えます。また、グループ会社の NTT e-Drone Technology では農業用のドローンを操縦できるようにするプログラムも提供していますので、シニアのみなさまが多様な分野で活躍できるように支援することも可能です。今回が実験だけで完結するのではなく、さらに次のステージに進むための最初の一歩となることを願っています。

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シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

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