第44回 森永乳業クリニコ株式会社

予防・治療・介護を通して
一人ひとりのQOL向上に貢献

森永乳業クリニコ株式会社 クリニカルマーケティング部
製品開発グループ マネージャー 坂本純子様
マーケティング企画グループ グループ長 吉村俊一郎様
マーケティング企画グループ アシスタントマネージャー 斉田朋子様

栄養補助食品や流動食などの開発・販売を行っている森永乳業クリニコ株式会社。医療や介護の現場でさまざまな障害により食べることが困難な方々も楽しくおいしく食事を摂り、食べる喜びを感じてもらうべく、日々製品の開発に臨んでいます。今回は製品開発グループの坂本様、そしてマーケティング企画グループの吉村様と斉田様に製品開発のご苦労やこだわり、強み、そして今後の展望などについてお話をうかがいました。

2024年5月取材

Q. 貴社の沿革と業務内容について教えてください

(斉田氏)
当社は森永乳業グループの中の病態栄養部門という位置づけで、通常の食事だけでは身体に必要な栄養を満たすことができない方のための食品として、流動食や栄養補助食品などの開発と販売を担っています。1978年に森永乳業の100%出資で設立され、国立がんセンターとの共同開発で流動食「MA-3」を製品化したところから始まりました。2011年には流動食「CZ-Hi」が特別用途食品 病者用食品 総合栄養食品 表示許可第1号を、2020年にはとろみ調整食品「つるりんこQuickly」が特別用途食品 えん下困難者用食品 とろみ調整用食品の第1号として消費者庁より表示許可を受けました。入院されている方や介護施設に入所されている方、ご自宅にお住まいになっている方などどなたでもご使用いただけるよう、医療・介護施設向けの販売や通信販売など幅広く展開しています。 2024年3月には、「株式会社クリニコ」から現社名へ変更し、入院・入所・在宅療養すべてのステージで今まで以上にお客様のQOL向上に貢献したいという想いをもって新たな一歩を進んでいます。

Q. 介護食品事業への取り組み全体についての理念や特色などお聞かせください

(斉田氏)
当社の経営理念が「予防・治療・介護を通して、一人ひとりのQuality of Lifeの向上に貢献する。」ですので、事業のすべてはそこに繋がっています。特に製品力や製品開発の部分には力を入れており、森永乳業の研究所や本社と連携して安全・安心な製品の開発・提供をしております。また、各分野のオピニオンリーダーの先生方のご支援をいただきながら、栄養情報の発信、啓発なども行っております。 そして、流動食や栄養補助食品、とろみ調整食品、プレ・プロバイオティクス食品など、幅広い製品展開をすることによって、多くの方々のお役に立てるように取り組んでいます。製品開発にあたっては、おいしさには大変こだわっていますし、容器や使い勝手といった細かな点にも配慮して進めています。実際に召し上がる利用者様だけなく、そのご家族や医療・介護従事者のスタッフの方も含めた皆様のQOL向上につなげたいという想いがあるからです。

Q. 「特別用途食品 えん下困難者用食品」表示許可を取得したビタミンサポートゼリー開発の経緯や特色などをお聞かせください。

(坂本氏)
嚥下が困難な方でも食べやすく、さらに味もおいしく、食を楽しんでいただけることを意識して開発しました。少量でも栄養が摂れるよう、1個(78g)の製品の中にビタミンC500mgや食物繊維5g、オリゴ糖2g、シールド乳酸菌100億個などを配合しています。試行錯誤しながら数十種類もの味を試した結果、みかん味、マスカット味、パイナップル味、はちみつレモン味の4種を選定しました。ありがたいことに「おいしい」との声をたくさんいただいています。 嚥下困難な方に食べやすいものとなると物性を重視してしまい、栄養素があまり入っていない製品も少なくありません。その点、ビタミンサポートゼリーは栄養もしっかり摂れるという点が、大きな強みになっていると思います。

(許可文言:「本品は、誤えんに配慮した、えん下困難者に適した、栄養補給ゼリーです。」)

また、ビタミンサポートゼリーの他にも、食欲が落ちてきた方の効率的なエネルギー補給に配慮したタイプや喫食量が低下した方でも食べきりやすい少量タイプなど、さまざまなカップタイプのゼリーを取り揃えているのも当社の特長です。

Q. 製品を開発する上での留意点はどんなところでしょう。

(斉田氏)
栄養補助食品や流動食のみを食事としている方も多くいらっしゃいますので、製品の安全性はもちろんのこと、安定供給の点は非常に注意を払っています。当社の製品が生命線である方がいらっしゃいますから責任は重大です。味や栄養素、容器の微細な変更であっても、さまざまな視点から慎重に進めています。お客様の病態もさまざまですので、オピニオンリーダーの先生から、あるいは学会などで情報収集したりお客様の声を現場からいただいたりすることで、ひとりでも多くのお客様に寄り添い、困りごとを解決できる製品の開発を心がけています。

(吉村氏) とりわけ流動食に関しては、それだけで生命を維持されている方々がたくさんいらっしゃいます。製造拠点は盛岡と神戸の2カ所におき、BCP対策にも取り組んでいます。

Q. 貴社ならではの強みはどんなところにあると思われますか。

(斉田氏)
製品の種類の豊富さ、フレーバーの種類の多さといった充実したラインアップは当社の大きな強みです。流動食ひとつとっても何種類もありますし、疾患に配慮した組成を組んだ流動食・栄養補助食品もとりそろえています。森永乳業の研究所と連携して、「おいしさ」にもこだわり開発していますし、味のバリエーションが豊富な製品が多く、お客様が好みの味を見つけたり、飽きずに毎日食事を楽しめたりすることを意識した製品開発は徹底しています。

また、以下のような工夫も当社の強みと言えると思います。

「飲みやすさ」にこだわり、ストロー付き製品には、口径が大きく吸い込みやすい設計のストローを採用しています。

「開けやすさ」にこだわり、小さな力で開封しやすいマジックトップ™(密封性と開けやすさを両立させたパッケージングシステム)やラージキャップを採用しています。

「見た目や香り、味」にこだわり、食事時間を楽しんでいただけるよう食品本来のおいしさをお届けできる工夫も凝らしています。

「食べる楽しみ」にこだわり、栄養補助食品を身近に感じてもらえるようなアレンジレシピ(Enjoy Smileレシピ®)もホームページ上でご提案しています。

Q. 貴社の製品について医療従事者や利用者からはどのような反響がありますか。

(坂本氏)
やはり当社が強くこだわって開発している味(おいしさ)の部分については、特に高い評価をいただいています。8種類の味を揃えている栄養補助飲料「エンジョイクリミール」の利用者様から「胃からロイヤルミルクティーの香りがしました」というお手紙をいただいたことがありました。ほかにも、栄養状態が悪くなっているがん患者さんにもおいしく召し上がっていただきたいという思いで開発したカップタイプ製品では、「重い症状のがん患者さんが食欲のない時でも召し上がっていただける」、「パンだけの朝食にこの製品を付けるだけで、たんぱく質など不足しがちな栄養素が摂れる」という喜びの声もいただきました。

栄養補助食品はあまりおいしくないというイメージを抱く方も少なくなく、医療介護従事者の方でもその傾向があるため、そのイメージを覆すつもりで開発しています。ですから味について高くご評価いただくことが多いのは、本当にうれしくありがたいです。

やはり食べ続けていただかないと意味がありませんから、そのためにも今後もおいしさは追求していきたいと考えています。

Q. 現在、とりわけ力を入れている事業についてお聞かせください。

(吉村氏)
ここ10年ほど取り組み続けている事業のひとつに「リハビリテーション栄養」があります。「サルコペニア」という概念は、10年ほど前は、日本国内ではあまり知られておらず、一部のトップランナーの医療従事者のみが提唱しているという状況でした。このサルコペニアに対する栄養サポートが欠かせないものになると感じ、当社も取り組みを開始しました。

サルコペニア・リハビリテーション栄養の概念普及を目的に全国でのフォーラムに共催したり、オピニオンリーダーの先生に講演していただいたりといった啓発活動をはじめ、現在も継続しています。同時にリハビリテーション前後でも飲みやすいゼリー飲料タイプの栄養補助食品を開発しました。この製品は、おいしさにこだわった上でリハビリテーションにおける栄養管理で必要な栄養素(BCAA・たんぱく質、ビタミンD)を配合しています。

低栄養な状態でリハビリを行うと筋肉が減少してしまい、かえって状態が悪くなってしまいます。リハビリで体を動かしたことによるエネルギーの消費量や体重増加を目指したエネルギー蓄積量も考えて、より多くのエネルギーを取ることが大切です。かつては「回復途上でのリハビリなんだから体重が減るのが当たり前でしょうがないこと」という認識でしたが、現在ではADLの維持・向上を目的に、運動と栄養の複合的介入の重要性が理解されていて、国内の診療ガイドライン(サルコペニア診療ガイドライン2017)にも記載されるところまで広がっています。それに伴い、栄養補助食品のニーズも高まっていると認識しています。令和6年度診療報酬改定では、リハビリ(運動)・栄養・口腔管理の三位一体の取組みに注目が集まっており、今後ますます強化される分野と感じます。

また、在宅療養関連の取り組みとしては、入院されていた患者様が退院されてからの在宅生活のポイントをリーフレットと動画でお伝えする「今日も笑顔で『いただきます』」というシリーズ企画を実施中です。リハビリテーション科の医師、在宅医療がご専門の医師、管理栄養士、歯科衛生士といった各分野のトップランナーにご協力いただき、在宅生活に役立つ情報を発信しています。このリーフレットや動画はご本人だけでなく、ご家族にも好評です。

(斉田氏)
歯科と食(栄養)に関する取り組みにも力を入れています。食べる入口である口を整えること、そのうえでしっかりと栄養を摂ることの重要性を、多くの方により早い段階から理解していただきたいと考えています。ちょうど、2024年4月に新しいオーラルフレイルの概念が発表されました。オーラルフレイルとは歯の喪失や食べること、話すことに代表されるさまざまな機能の軽微な衰えが重複し、口の機能低下の危険性が増加しているものの改善も可能な状態を言います。当社もこの概念普及に協力しています。当社のサービスとしては、「もぐもぐ日記」というお食事相談サポートシステムを開発しました。歯科医療機関(モニタリングツール)と患者様(スマホアプリ)を連携すると、アプリ内に登録した患者様の食事写真を共有・解析できるシステムです。患者様はスマホアプリで食事の写真を撮るだけで操作はとても簡単です。その食事写真をAIが解析、食事のバランスやもぐもぐスコアをアプリが自動で算出して食習慣を4つの動物タイプに判定する仕組みで、患者様がゲーム感覚で楽しめます。また、歯科医療機関側では患者様の食事写真がそのまま確認できるだけでなく、食習慣の傾向や各種スコアの経時変化も確認できるため、患者さまの食事相談に活用できます。歯科領域での食事相談の普及が、健康寿命延伸につながればと考えています。

いずれも、当社の企業理念に合致する取り組みとして、今後も力を入れていきたい事業です。

Q. 現段階で業務上の成果、課題などがありましたらお聞かせください。

(斉田氏)
原材料の高騰への対応は喫緊の課題です。その他、これまでの販売先は病院や介護施設が多いため、在宅療養という分野にどのように取り組んでいくか、どうすればお役に立てるのかという点はまだまだ検討の余地があると思います。

Q. 貴社はシニアマーケットをどう捉えていらっしゃるでしょうか。貴社における「シニア」の定義を教えてください。

(斉田氏) 「フレイル」という概念が普及していきていますが、当社では「フレイル」の予防領域から終末期までをシニアのターゲットと考えています。

Q. シニアマーケティングに対する今後のお取り組み予定や今後の展望についてお聞かせください

(斉田氏)
リハビリ(運動)・栄養・口腔という三位一体の取り組みは、国としても推進しているところです。当社がこれまで行ってきたリハビリテーション栄養の取り組みに、この概念を絡めながら事業を展開していければと思っています。また、先の課題でお伝えしたように在宅療養の領域も取り組みを強化していきたいですし、各種製品カテゴリーについてもナンバー1の信頼をいただけるよう、今後も開発を続けていきたいと考えています。

 

(坂本氏)
当社がこだわっている「おいしさ」についても製品開発だけでなく、より広く捉えています。「おいしい」と感じるのは、食事の味だけではなく、食事をするときの環境も大きく影響します。製品の味へのこだわりはもちろんですが、「おいしく感じていただく環境づくり」や「食の楽しみの提供」にも取り組んでいきたいと考えています。そのひとつとして、みんなで「いただきます」を言いながら笑顔を繋いでいこうという「おいしい笑顔プロジェクト」を進めています。

このプロジェクト以外にも、栄養補助食品やとろみ調整食品を多くの方々にもっと身近に感じていただけるような取り組みを進めており、私たちはこれを「ボーダーレス化」と言っています。たとえばコメダ珈琲店に開発協力した「TOROMI COFFEE(とろみコーヒー)」というコーヒーが発売され、SNSでも話題になっています。とろみのついたコーヒーは嚥下困難な方だけでなく、健康な方も含めて新食感コーヒーという感覚で飲まれています。食生活に栄養補助食品やとろみ調整食品を自然に浸透させていくことで、介護食に対するマイナスのイメージを変えていければと思っています。

 

(吉村氏)
炭酸飲料向けとろみ調整食品「つるりんこシュワシュワ」も、嚥下困難でも炭酸好きな方が、私たちが想像している以上に多かったことから生まれました。通常のとろみ調整食品では炭酸感を残してとろみをつけることが難しいのですが、炭酸に特化した「つるりんこシュワシュワ」を開発したことで、炭酸感を残したまま、飲料本来の味もそのままにおいしく飲んでいただけるようになりました。この「つるりんこシュワシュワ」もとろみ調整食品へのイメージを変えるきっかけづくりにしたいと考えています。

今後も当社は、いつまでも笑顔で「食の楽しみ」を感じていただけるようなサポートをすることで、ご本人だけでなくご家族や周りの皆さまのQuality of Lifeの向上に貢献していければと思っています。

 


 

 

シニアライフ総研®では、シニアマーケットやシニアビジネスに参入している企業・団体・行政などが、どのような商品やサービスを展開し、どこをターゲットとして、どのようなペルソナ設定で戦略設定から事業運営を図っているのかなど、シニアマーケティングやシニアビジネスの成功事例を取材しています。

 

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