第57回 ネスレ日本株式会社 ビジネスアワード2025 ビジネスモデル賞受賞

産学官連携で「65歳を過ぎたら・・・
栄養の考え方をギアチェンジ」の啓発を推進

ネスレ日本株式会社
マーケティング&メディカルアフェアーズ統括部
メディカルアフェアーズグループ グループマネジャー 鎌田 征和様

ビジネスアワード2025 ビジネスモデル賞を受賞したネスレ日本株式会社の『産学官連携で「65歳を過ぎたら・・・栄養の考え方をギアチェンジ」の啓発を推進』。今回はマーケティング&メディカルアフェアーズ統括部 メディカルアフェアーズグループ グループマネジャーの鎌田様に、活動の現況や成果、今後の展望などについてお話をうかがいました。

2026年4月取材

Q. 産学官連携による新たな取り組みとして、「65歳を過ぎたら・・・栄養の考え方をギアチェンジ」の啓発を開始され、約1年4カ月が経ちました。この間の具体的な活動内容についてお聞かせください。

弊社は 2021年度より兵庫県の包括的フレイル対策推進事業に参画してきました。当時、兵庫県では、フレイルの実態把握や行動変容を促すため、「兵庫県版フレイルチェック票」を作成し、県内各地で活用を進めていたところでした。一方で私たちは世界中の医療・介護現場で活用される低栄養スクリーニングツール「MNA®-S」を地域の一般の方の栄養チェックに活用をできないかと、デジタル化を検討していました。この両者の取り組みに親和性があると考え、低栄養やフレイルのチェックをできる「兵庫県版フレイルチェックアプリ」の提供を共同で開始しました。取り組みを進める中で、高齢者やそのご家族に、まずは低栄養やフレイルを正しく理解し、自分ごととして捉えていただく「前段階」が重要であると判断しました。こうした背景から、医療的エビデンスをより身近なものとし、みなさんが健康への意識を高められる環境づくりを目指し、2024年11月より新たに「65歳を過ぎたら・・・栄養の考え方をギアチェンジ」の啓発活動をスタートさせました。
具体的な活動内容は大きく分けて2つあります。ひとつは自治体や兵庫県栄養士会が主催するイベントなどを通じた地域住民への直接的な啓発活動、もうひとつはドラッグストアや調剤薬局、コンビニエンスストア、郵便局といった地域の拠点に協力いただいて情報を届ける活動です。啓発資材を設置したり、専門家による解説動画を制作したりすることで、視覚的かつ多角的に理解を深めていただけるよう努めてきました。兵庫県栄養士会などの専門団体とも密に連携しているほか、兵庫県の担当者(管理栄養士)には、専門的な視点から栄養士会との橋渡しをスムーズに行っていただいています。

Q.  この取り組みを知ってもらうために試みたこと、苦労されたことなどはどんなことでしょう。

「65歳を過ぎたら・・・栄養の考え方をギアチェンジ」という、まだ一般になじみのない考え方を広めていくということ自体に、やはり苦労はあります。現役世代の頃から「食べすぎてはいけない」「痩せている方が健康だ」という価値観を持ってきた方々にとって、「しっかり食べよう」「高齢期には体重減少を防ぐことが大切」というメッセージは届きにくいのかもしれません。
われわれがこの取り組みで目指しているのは、対象となるような方やそのご家族が「ギアチェンジ」が必要だと気づき、意識変容が起こり、実際に日々の生活が「メタボ対策」から「フレイル対策」や「低栄養対策」にギアチェンジされる行動変容です。そのためには、個人個人にとっての「ギアチェンジ」を理解し、どのように行動すればよいのかを理解する必要があります。
そのため、兵庫県栄養士会に協力いただき、相談者が日々の生活で具体的に何をすべきかを直接アドバイスを受けられる、「ギアチェンジ相談室」という無料の電話相談窓口を設けました。対面型のイベントでは、管理栄養士の方々が高い専門性に基づき、個々の相談者の方々に合わせた具体的な「ギアチェンジ」のための行動の助言を行っています。「ギアチェンジ相談室」でも管理栄養士の方々にご協力いただき、正しい知識が実際の行動へと結びつくことを目指しています。

Q. 啓発活動を開始してから、想定外のことがありましたら具体例をお聞かせください。

想定外だったのは、この取り組みについてさまざまな団体や関係者に説明をすると、同じように高齢者の食べることへの意識を変える必要性を感じられており、必ずといっていいほど賛同いただける点です。また、私たちから直接取り組みの紹介をしていない場合でも、興味を持っていただくケースがあったことも印象的でした。
この取り組みは兵庫県内の一部の地域から少しずつ広めていく計画で、実際に段階的に取り組みを進めていますが、そうした中で、栄養士会同士のネットワークを通じて他の地域の栄養士会からも興味を持っていただいたり、またドラッグストアや薬局グループといった異なる業種からも、「この取り組みは面白い」といった声をいただくことがあります。私たちの掲げたコンセプトが、分野や立場を超えて多くの方々の共感を得られていることは、大きな自信となっています。

Q.  相談会に参加された方などからはどのような感想や声がありましたか。

相談会では、私たち企業の社員が直接説明するのではなく、地域の管理栄養士の方々に対話を委ねています。そこで相談者の方々から多く聞かれるのは、「痩せている方が健康に良いと思い込んでいた」「粗食は体のためになると思っていたけれど、年を取ったらしっかりカロリーも取ったほうが良いと知った」など、まさに意識変容した瞬間の声です。この取り組みの中でアンケート調査も行っており、「カロリー控えめな食事が大切と思う/カロリーをしっかりとる食事が大切と思う」「たんぱく質が控えめな食事が大切と思う/たんぱく質をしっかりとる食事が大切と思う」「標準体重より細めが良いと思う/標準体重より太めが良いと思う」といった質問を設けています。たんぱく質の重要性については事前に理解されている方が多い傾向にありますが、総エネルギー摂取や体重管理に関しては、依然として「控えめが良い」という回答が目立ちます。
こうした点について管理栄養士が対話の中で説明し、個々の生活状況に応じた助言をしていただくことで、相談前後での評価は大きく変わります。管理栄養士に直接相談する機会があると、意識が変化し、個人にあったギアチェンジのための行動につながると感じています。イベント以外でも「ギアチェンジ相談室」を活用して、意識変容と行動変容に繋げていきたいですね。

Q.  現段階の課題とその対策についてお聞かせください。

最大の課題は、この活動をいかにして「点」から「面」へと広げ、より多くの方々に知っていただくかという点にあります。これまでは兵庫県内の特定の地域を中心に実績を積み重ねてきましたが、2026年度からは兵庫県全域に活動を広げるフェーズに入りたいと考えています。そのために、昨年度末から県内の全域にリーフレットやDVDを送付し、各市町や健康福祉事務所の協力を得ながら行政と、市民に向けた普及活動を強化しています。
また、兵庫県が推し進める、誰もが自然に健康になれる食環境づくりのプロジェクト「ひょうご健康的な食環境づくりプロジェクト(愛称:BE WELL「ビーウェル」)」(https://bewell-hyogo.jp/)との連携も視野に入れています。地域全体の食環境を改善していく取り組みと連動することで、より多くの方々に情報を届けることが可能になるでしょう。

Q.  貴社ならではの強みは何でしょう。

医療・介護向け食品の市場にはさまざまな同業他社が存在しますが、私たちの最大の強みはグローバル企業として培ってきたエビデンスに基づく研究開発力にあります。世界中の研究所で蓄積された知見を活かし、日本の高齢者が直面する課題に対して、独自の技術を用いた高度なソリューションを提供できることが一番の強みであり、社会に貢献できる点です。
フレイルや低栄養の状態にある方は、食欲が低下して量を食べられなくなり、それがさらなる衰えを招くという悪循環に陥りやすいのが特徴です。こうした方々に対し、私たちは「少量で豊富な栄養エネルギー」を摂取できる製品や、嚥下機能に不安がある方でも安心してお召し上がりいただける製品の開発に取り組んできました。個々の健康状態や嗜好に合わせ、こうした多岐にわたるソリューションを提供できることこそが、当社の技術的な強みです。

Q.  貴社における「シニア」の定義を教えてください。

制度上は65歳がひとつの区切りですが、私たちが考えるシニアの定義とは、個々の生活環境や身体的な変化、あるいは栄養状態において「ギアチェンジが必要になったタイミング」そのものです。ご自身が「食事量が落ちてきた」と感じたり、食事中にむせることが多くなったりと、身体の衰えを自覚したりしたときが、その方の「シニア」の始まりではないでしょうか。私たちは年齢という固定観念にとらわれることなく、一人ひとりの変化に寄り添い、必要なタイミングで最適な栄養ソリューションを提供できる企業でありたいと願っています。

Q.  産学官連携で「65歳を過ぎたら・・・栄養の考え方をギアチェンジ」ならびに貴社のシニアターゲティング市場における今後の抱負をお願いします。

私たちのパーパス(存在意義)は、栄養と健康ソリューションの力を通じて、消費者と患者のより健康で幸せな生活を解き放つことであり、あらゆるライフステージで栄養と健康のリーダーであり続けることを目指しています。なかでも、シニア市場においてこのパーパスを具体的な形で体現していくことが重要だと考えています。今後、医療と介護の複合的なニーズを持つ超高齢層はますます増加する一方で、それを支える現役世代が減少していくと見込まれており、社会全体として大きな課題に直面しています。こうした中、適切な栄養ケアによって低栄養を防ぎ、入院や疾病の重症化を抑制することができれば、それは患者さんやご家族の生活の質向上や幸せにつながるだけでなく、社会保障費の適正化という形でも社会に大きく貢献できるでしょう。栄養の力で患者さんや医療・介護に携わる方々、そして社会に貢献していくことは、自社の持続的な成長にもつながります。まさにネスレが大切にしている「CSV(共通価値の創造)」という理念を体現するものだといえます。
グローバル企業である当社は、海外で生まれた技術や取り組みを日本に導入するだけでなく、この「ギアチェンジ」の取り組みのように日本で独自に企画・展開し、日本から世界へと発信している製品やプロジェクトも数多くあります。超高齢社会のフロントランナーである日本での取り組みを通じて、より良い栄養ケアの形を世界へ広げていくことには、非常に大きな夢があると感じています。

 

 

 

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