シニアマーケティングポータルサイト|シニアライフ総研®

軽度認知障害(*1)者に特有の指タッピング運動パターンの抽出に成功

2022/9/13

軽度認知障害の早期発見に向けた簡便な検査方法の確立に導く

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典/以下、 長寿医療研究センター)は、 手指のタッピング運動に着目した臨床研究を進め、 両手の母指(親指)と示指(人差し指)のタッピング運動(図1および図2)から、 軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment/以下、 MCI(*1))者特有の運動パターンの抽出に成功しました。

 本成果は、 長寿医療研究センター、 株式会社日立製作所研究開発グループ(以下、 日立)およびマクセル株式会社(取締役社長:中村啓次/以下、 マクセル)による共同研究において、 磁気センサを用いて手指の巧緻運動を定量化する技術を活用し、 タッピング運動(*2)の多様な特徴を解析することで得られたものです。 将来、 MCI者の早期発見を支援する検査方法の確立に繋がる成果です。
 近年、 日本をはじめその他の国々では高齢化が進み、 認知症者数は年々増加しています。 認知症のリスクを早期に発見することは、 認知症の進行を遅らせ、 認知症者数を減らすために、 とても重要です。

 現在、 認知症に関する脳脊髄液・血液バイオマーカーの研究・開発が進んでいますが、 被験者への経済的、 身体的負担が大きく、 検査や解析に時間がかかるなどの課題があります。 また、 被験者の負担の少ない検査方法として、 問診・観察を中心とした神経心理学的検査が多く活用されていますが、 検査日や時間帯によって結果が変動するなどの課題が知られています。 そのため、 精度が高く、 被験者への負担が少ない簡便なスクリーニング検査(*3)を行うことができれば、 認知症リスクの早期発見につながり、 ひいては健康寿命を延ばし、 医療費や介護費の削減にも貢献できると考えられます。


 長寿医療研究センターと日立は、 2016年に発表した「アルツハイマー型認知症に特有の指タッピング運動パターンの抽出」の研究成果をもとに、 MCIの早期発見に向けたさらなる臨床研究を継続してきました。 今回、 2019年にマクセルが製品化した「磁気センサ型指タッピング装置UB-2(非医療機器)を用いて多くの被験者に協力いただき、 またMCI者の手指のタッピング運動を解析したところ、 MCI特有の運動パターンを抽出することに成功しました。 さらに、 健常高齢者の値(各特徴量のカットオフ値(*4))と比較することで、 高精度にMCIに特徴的な認知機能低下を検出できることを確認しました。 評価結果および評価に用いた技術は次の通りです。


1.   軽度認知障害を同定する指タッピング運動のカットオフ値の設定
 MCI者173名と健常高齢者173名を対象に指タッピング運動を計測し、 2つのグループの特徴量を比較(図3)すると、 両手交互タッピング時のタッピング回数(相関係数(*5) r=0.51)、 タッピング間隔の平均値(r=0.45)、 タッピング間隔の標準偏差(r=0.43)、 すくみ回数(r=0.41)などで有意差が認められました。
 また、 ROC解析(*6)結果(図4)から、 タッピング回数(カットオフ値 30回、 感度(*7) 0.769、 特異度(*8) 0.665、 AUC(*9) 0.79)、 タッピング間隔の平均値(カットオフ値 0.472秒、 感度 0.711、 特異度 0.723、 AUC 0.79)、 タッピング間隔の標準偏差(カットオフ値 0.065秒、 感度 0.676、 特異度 0.734、 AUC 0.77)、 すくみ回数(カットオフ値 32.5回、 感度 0.688、 特異度 0.717、 AUC 0.74)が得られました。

MCI者の指運動機能について健常高齢者と比較した場合、 微細運動障害、 指先の巧緻性の低下、 タップ回数の減少が示されました。 しかし、 これまでMCI者と健常高齢者を区別するためのカットオフ値を定めた詳細な研究はなく、 本研究では、 指タッピング運動の特徴量がMCIに特徴的な指の機能を捉えるうえで有用である可能性が示唆されました。


2.手指の巧緻運動を高精度に定量化する技術の改良
 本臨床研究では、 「磁気センサ型指タッピング装置UB-2」(図5)を活用しました。 2016年の先行研究の時と比較すると、 指タッピング運動の振幅、 タッピング間隔、 両手の位相差などの21種類の特徴量算出に加えて、 すくみ、 ふるえなどの微細な動きを捉える機能など23種類の特徴量を追加しており、 装置として算出可能な特徴量を44種類に拡張しています。 これにより、 詳細な指タッピング運動の評価が容易になりました。


 UB-2は、 装着が容易で、 侵襲がなく、 生体安全性の高い小型・軽量を図ったコンパクト設計を採用しており、 短い計測時間で、 被験者に負担の少ない測定・評価が可能です。 今後、 さらに多くの指タッピング運動のデータ測定と解析を進め、 評価方法の精度向上を行うことで、 軽度認知障害の早期スクリーニングに向けた簡便な検査方法の確立に取り組んでいきます。

 本成果は、 2022年8月9日に、 Hong Kong Journal of Occupational Therapyに論文が掲載されました。
  https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/15691861221109872
 なお、 本研究は、 長寿医療研究センターの倫理審査委員会の承認を得て実施されました。


*1 軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment/MCI):物忘れが主たる症状だが、 日常生活への影響はほとんどなく、 正常と認知症の中間ともいえる状態
*2 タッピング運動:指を繰り返し開閉する運動
*3 スクリーニング検査:精密検査を行う前に行われる選別試験

*4 カットオフ値:2つのグループ(通常は正常人と特定疾患群)を識別する目的で定めた,境界値または(しきい(=閾)値)のこと
*5 相関係数:2つの数値の関連性の強弱を測る指標。 完全な正の相関がある場合は、 「1」、 完全な負の相関がある場合は、 「-1」となります
*6  ROC(Receiver Operating Characteristic)解析:モデル予測の正確度を評価するための方法のひとつ
*7 感度:臨床検査の性格を決める指標の1つで、 ある検査について「陽性と判定されるべきものを正しく陽性と判定する確率」として定義される値である
*8 特異度:臨床検査の性格を決める指標の1つで、 ある検査について「陰性のものを正しく陰性と判定する確率」として定義される値である
*9  AUC(Area Under the Curve):ROC曲線を作成した時に、 グラフの曲線より下の部分の面積を示し、 0から1までの値をとり、 値が1に近いほど判別能が高いことを示す

図1 両手の指タッピング運動(左)、 図2 両手の指タッピング運動波形(右)
図3 MCI者と健常高齢者の指タッピング運動における特徴量を比較
図4 ROC解析図
図5 磁気センサ型指タッピング装置 UB-2

■磁気センサ型指タッピング装置 UB-2(製品)のWebサイト
https://biz.maxell.com/ja/wellness_beauty_care/finger_tapping/ 

■商標
記載の会社名、 製品名は、 それぞれの会社の商標または登録商標です。

■本研究に関するお問い合わせ先
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
病院長室
電話:0562-46-2311
E-mail: rehab@ncgg.go.jp

マクセル株式会社 新事業統括本部
お問い合わせフォーム:
https://biz.maxell.com/ja/wellness_beauty_care/inquiry_form_input2.html

以上


【本件に関する報道関係者からのお問い合わせ先】
 マクセル株式会社
 コーポレート・コミュニケーション本部
 岡田 千怜(chisato.okada.yb@maxell.co.jp)
 片峯 美由紀(miyuki-katamine@maxell.co.jp)
 tel:03-5715-7061 fax:03-5463-6551