第55回 うきはの宝株式会社 ビジネスアワード2025 ビジネスモデル賞受賞
75歳以上のばあちゃんたちが働く喫茶店
「ばあちゃん喫茶」
うきはの宝株式会社 代表取締役 大熊充様
ビジネスアワード2025 ビジネスモデル賞を受賞したうきはの宝株式会社の『75歳以上のばあちゃんたちが働く喫茶店「ばあちゃん喫茶」』。今回は代表取締役社長の大熊様に、「ばあちゃん喫茶」の詳細や現況、シニア市場における今後の展望などについてお話をうかがいました。
2026年3月取材

Q. 2025年4月に福岡県春日市に「ばあちゃん喫茶」がオープンしてから約1年が経過しました。この間の成果についてお聞かせください。
この1年で、福岡県内に3店舗、熊本県に1店舗のフランチャイズ店を展開し、和歌山県には姉妹店の「ばあちゃん酒場」がオープンしました。現在は、おばあちゃんたちがより多くの報酬を得て自律的に運営できるよう、現場を任せる体制への移行や独立支援を強化しています。今後は長崎県雲仙市での開店も控えており、全国におばあちゃんたちが働く場をより広げていく準備を進めているところです。
この事業の原点は、私自身が20代のときに経験した、交通事故でのべ4年にわたった入院生活にあります。将来を悲観して心を閉ざしていた私に、同じく入院中の数人のおばあちゃんたちが連日話しかけてきました。しかも「なぜそんなに長く入院しているんだ」「どうしてそんな大けがをしたんだ」など、私がいちばん触れて欲しくないところにズカズカ踏み込んでくるのです。最初は無視していましたが、一向にひるまないおばあちゃんたちに、いつの間にか私も心を開くようになっていました。そしてショックだったのは、昨日まで私に笑顔で話しかけてきていたおばあちゃんが、翌日には容体が急変し亡くなるという現実に何度も直面したことです。今日、命が尽きるかもしれないおばあちゃんたちが、亡くなる直前まで懸命に他者とコミュニケーションを取り、生を全うしている。そのことが、私に生きる勇気をくれました。こうしたおばあちゃんたちへの深い恩返しが、私の活動の核にあります。


Q. 「ばあちゃん喫茶」を知ってもらうために試みたこと、苦労されたことなどはどんなことでしょう。
「知られていないのは存在しないのと同じ」と考え、1日50回以上のSNSへの投稿を習慣にしています。広告を使わず3000ものメディアに取り上げられたのは、記者の方々と日頃からまめに連絡を取り合い、信頼を築いてきた成果だと思います。
Q. 開店してから、想定外のことがありましたら具体例をお聞かせください。
認知症を患っているおばあちゃんたちが、接客を通じて社会性を取り戻していく姿は想像以上でした。勤務中は、まるで認知症以前の状態に戻ったかのようにシャキッと動き、お客さまを丁寧にもてなされます。役割を持つことがこれほどまでに人を輝かせるのかと圧倒されました。
また、求人を出さずとも「働きたい」という声が毎日届くことや、自治体や社会福祉協議会から「うちの地域にも作ってほしい」と出店を依頼されることも想定外でした。場所探しに奔走することなく、地域から強く求められる形で場が広がっています。
運営面では、既存の雇用制度の限界に直面したことも想定外でした。そこで、80代の方が働くことを想定していない制度に合わせるのではなく、現在は売上を分配する業務委託契約を採用しています。何時に来て何時に帰るかも自由、メニューや仕入れもおばあちゃんたちの自主性に任せています。マニュアルで縛るよりも、信頼して任せるほうが結果として円滑に回るという事実は、現場で学んだ貴重な教訓です。
経営者としては、集客を増やして利益を上げたいと考えますが、おばあちゃんたちは「無理をしないことが長く続ける秘訣」と、限定20食の提供を頑なに守ります。彼女たちの正論を尊重しつつ、空いた時間にお裁縫などの別事業を組み合わせることで、空間全体の売上を最大化する工夫を始めました。シニアのペースを守りながらビジネスを成立させる、このバランスこそが、運営における最大の発見かもしれません。
Q. 働いている方からはどのような感想や声がありましたか。
「楽しい」「生き甲斐になる」「人との出会いが幸せ」など、こちらもうれしくなるような感想を聞きます。80歳を過ぎると、日常生活でほめられたり感謝されたりする機会は少なくなります。これがボランティアではなく「仕事」だからこそ、明確な役割が生まれます。おばあちゃんたちが作った料理に対し、お客さまから「美味しい」と直接声をかけられることが、大きなやる気につながっています。報酬だけでなく、85歳にして新しい人との出会いがあることも、おばあちゃんたちにとっては大きな喜びだと思います。

Q. 同業他社はありますでしょうか。あった場合、ない場合でも、貴社ならではの強み、一番の押しがありましたらお聞かせください。
基本的に同業他社はありません。私たちのモデルは特定の地域に限定されず、全国へ横展開できます。私たちは80代のおばあちゃんたちにエクセルを用いた経営管理まで教えています。「報酬を増やすには客数か単価を上げるしかない」という商売の原理原則を共有し、一過性ではなく「ビジネス」として自立を促しているのです。
私たちの最大の強みは、3万人以上のシニアとの対話から得た圧倒的な「一次情報」と「本音」を握っていることです。これは大企業やAIでも到達できない領域であり、大きな武器です。
Q. 現段階の課題とその対策についてお聞かせください。
飲食事業単体では、材料費や人件費を適切にかけると利益はわずかしか残りません。そのため、スポンサー企業のロゴをエプロンに刻む広告展開や、店内の空き時間を活用したお裁縫の受託、物販の強化などで空間の利益最大化を図っています。飲食部門でも黒字は維持していますが、新しい挑戦のための資金を確保すべく、多様な収益源を組み合わせることで、持続可能なビジネスモデルを構築しています。
また、認知症の方でも役割があれば輝けるという事実を伝え、理解してもらうにはまだ時間がかかると感じています。こうした価値観を世の中に広めていくことが、今後の挑戦です。
Q. 貴社における「シニア」の定義を教えてください。
実体験に基づく定義として、75歳以上を「シニア」と捉えています。70代前半の方を不用意に高齢者扱いすると、お叱りを受けることが多々あるからです。後期高齢者といわれる75歳を過ぎたあたりから、ようやく親しみを込めた呼び方が受け入れられるという実感があります。今の高齢者は非常に若いため、現場のリアルな感覚から導き出された数字といえます。とはいえ、私たちは普段、シニアという言葉は使わず「じいちゃん、ばあちゃん」と呼んでいます。
Q. 「ばあちゃん喫茶」ならび貴社のシニアターゲティング市場における今後の抱負をお願いいたします。
日々増え続けている3万人以上の高齢者の方々との直接的な接点があるという圧倒的な一次情報を活かし、現在は他社の終活事業や大手企業によるプロダクト開発のサポートも行っています。企業側も新サービスを展開する際に失敗はしたくないので、私たちの持つリアルなデータやシニアの反応を照らし合わせることにより、精度の高いサービス作りを共に進めています。牛乳パックをアップサイクルしてバッグにするという、先日発表した明治とのタイアップも、現場の切実な声から始まりました。「ばあちゃん喫茶」で働くおばあちゃんが膝や腰の痛みで辞めたいと言い出したとき、座ってできるお裁縫なら続けられるという話になったのです。そこで、牛乳パックをアップサイクルするアーティストの感性と、おばあちゃんの熟練した技術、そして明治のブランド力を掛け合わせるプロジェクトを提案しました。明治にはPRや資金面で並走いただき、私たちは販売権を握る対等なパートナーとして、バッグ1個につきしっかりとした報酬をおばあちゃんたちに還元できる仕組みを実現しました。企業にはプロダクトを作る力があり、私たちにはシニアとつなぐ力がある。この連携を加速させ、シニアが経済活動の主役として稼ぎ、楽しんでお金を使う「シニア経済圏」をより活発に動かしていきたいと考えています。
持続可能な仕組みを作るため、7年前に株式会社を立ち上げ、公的な補助金には一切頼らずにビジネスとして成長させてきました。たとえ認知症であっても役割があれば輝けることを、これからも証明し続けていきたいと考えています。


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