第48回 株式会社シルバコンパス ビジネスアワード2024 ビジネスモデル賞企業
小林幸子さんが高齢者のお話し相手に!
「Talk With おはなしテレビ」
株式会社シルバコンパス 代表取締役 安田晴彦様
ビジネスアワード2024 ビジネスモデル賞を受賞した株式会社シルバコンパスの「小林幸子さんが高齢者のお話し相手に!『Talk With おはなしテレビ』」。今回は株式会社シルバコンパスの安田晴彦様に、開発の経緯や今後の展望などについてお話をうかがいました。
2025年3月取材

Q. 2024年12月に「Talk With おはなしテレビ」を開始されてから約3ヵ月、これまでの成果についてお聞かせください。
昨年10月に行ったプレス発表会に先立ち、昨年8月から3ヵ月間、6ヵ所の高齢者施設で使っていただきました。もともと「Talk With」はアイドルと話ができるようなファンサービスであったり、観光ガイド代わりに動かしていたりと、対人業務支援が中心になっているものです。それを高齢者のサービスに展開しようとなり、どんなことが求められているのかを知るために、実際に施設で使っていただきながらソフトウェアの改善を行いました。
小林幸子さんとの会話には回想法を用いているほか、一緒に童謡を歌うなどのレクリエーション機能が入っていたり、お話しながら長谷川式の認知症スケールを実施できたりする機能もあります。利用者様の反応としては、やはり幸子さんの効果は大きかったです。というのも、高齢者の方は機械系のものに抵抗感がある方が少なくなく、「とっつきにくい」と敬遠されがちです。それが「小林幸子さんとお話してみませんか?」とお声がけすると、ぐっとハードルが下がるのです。お話ししていただいた後の感想としては「すごく楽しかった」という肯定的な声が約8割でした。具体的には「思い出話で楽しい気持ちになれた」「久しぶりに懐かしい歌を歌った」「全国各地のご当地クイズで昔行った場所を思い出せた」といった声をいただきました。
記憶の奥底に眠っていた思い出を掘り起こすことができたという点は成果でしたし、話をすることで思い出したことが、周囲の人と話をする話題のきっかけになったこともありました。これまで「話をすること」が重要だとはわかってはいましたが、その効果がはっきり表れたという点に、手ごたえを感じることができました。
さらに、会話の内容を解析することで認知症が95%の精度、軽度認知障害は85%の精度で検知する機能ができたので、現在はそのテスト開発を進めているところです。これが完成すれば、多くの方の「認知症の手前で発見・回復」へつなげられます。幸子さんと会話をしている間に検査ができるという、画期的なサービスになると期待しているところです。
Q. 想定外のことはありましたか。
ある程度予想はしていましたが、高齢者の中でも元気な方は「こんな機械と話すまでもない」と、興味を持たれない方が一定数いらっしゃいました。また、利用される方でも「●●と話したい」と小林幸子さん以外の方と話したがるなど、ご自身の好みがある方も多数いらっしゃいました。まだコンテンツが足りないと感じましたので、お孫さん世代の方、ロボットやぬいぐるみなどのIPも活用し、今後コンテンツを増やしていく予定です。
さらに、会話のスピード感についても想定外のことが起きました。高齢者の方の対話のテンポは遅くなると思っていたのですが、実際は幸子さんの返事を待たずに、話の途中でもどんどん話しかけてしまうのです。そのためシステムの理解が追いつかないこともありましたので、ここは改良を加えました。すると、ほかのサービスで行っていた「Talk With」の機能もレベルが上がり、結果的に全体的な品質の向上につなげることができました。
逆に、「対話のスピードがちょっと速すぎる」と思われる方もいらっしゃいました。「耳が遠くなり聞き取りにくい」といった声もありましたので、対話のスピードを変えられる機能をつけたり、難聴者の方向けに字幕機能をつけたりして、大きく改善できました。
Q. 利用者は1回につき平均何分利用されますか。利用者性別、年代などと併せて教えてください。
朝夕の1日2回、お話していただくことを推奨しています。朝夕は高齢者施設で健康チェックをするタイミングなので、幸子さんとの会話でも最初の2分はかならず健康チェックが行われます。そしてここで不調を訴えられた場合は、施設やご家族に通知が行くようになっています。この後、利用者の方に話のテーマを選んでいただいてお話していただくのが3~5分程度なので、朝晩各5~7分程度です。話し足りない場合はもっと会話を続けられます。
どこの施設でも、利用者の7~8割が女性です。われわれがターゲットとしているのは「認知症が発症するタイミングの前」、つまり65~75歳くらいです。しかしこの世代はいわゆるアクティブシニアが多く、「普段から友達と話しているから必要ない」と興味を示さない方もいらっしゃるので、先ほどお話した認知症検索機能などの搭載により、さらに多くの方に使用していただきたいと思っています。
Q. なぜモデルに小林幸子さんを起用されたのでしょう。
当社は「対話」にこだわった研究をしてきています。AIは質問すると返してくれますが、われわれは単なるQ&Aや質疑応答ではなく、AIでももっと踏み込んで楽しく話をするにはどうすればいいかということを追求してきました。そこで映像・演出のプロや医師の方や言語研究者に協力していただきながら会話のリアルさを詰め、「知っている人と知らない人が同じような内容の話をしたとき、どのように情報伝達量が変わるか」という研究を行いました。そして「知っている人の話の方がよく傾聴し、理解度も高い」という結果を得ました。となると、高齢者の方はご家族とお話するのが一番いいのですが、頻繁に施設を訪れるのは難しい人もいることでしょう。そこで、収録はモデルで行い、顔だけご家族に変えるといった技術を用いるつもりです。
それ以上に手っ取り早いのが、誰もが知っている有名人と対話することです。長年活躍されている、昔からテレビに出ていらっしゃるということで、白羽の矢が立ったのが小林幸子さんでした。幸子さんは2024年に芸能活動60周年を迎えられ、「これまで以上に社会のために役立つ活動をしていく」という強い思いから、今回の申し出に賛同していただいたという経緯もありました。
Q. 「幸子さんと何を話したらいいのか分からない」という人はどうすればいいのでしょう。
自分から積極的に話題を振って話をされる方はそういません。そのため、まずはアイスブレイクのように季節柄の話などの簡単な世間話から始め、次第に幸子さんから具体的な会話に誘導していく形を取ります。幸子さんの問いにユーザーさんが回答すると、今度は幸子さんがそれに対するリアクションをし、続いて必ず次の質問や次の話題のきっかけを投げるという形になっています。ですから会話が途切れることもありません。また、すぐに回答を思いつかない方もいらっしゃるので、その場合はタッチパネルで回答の事例をいくつか表示するようにしています。
Q. 貴社における「シニア」の定義を教えてください。
さまざまなタイプの高齢者の方がいらっしゃり、細かなカテゴライズがあるということを実感する中で、定義はあえて作らない方がいいのではと思うようになりました。われわれも当初は「この年齢層はこれくらいの数、この市場にいて……」というような分け方をし、ペルソナを作って入っていったのですが、「こうなったからアクティブからアクティブじゃなくなった」というはっきりした境目はありませんから。ただし今後、「Talk With おはなしテレビ」での対話を通じ、新たな定義のようなものができていく可能性はあるかもしれません。
Q. 貴社のシニアターゲティング市場における今後の抱負をお願いします。
当社はスタートアップという立場から高齢者のヘルスケアに参入しましたが、周囲は高齢者サービスへの参入に否定的でした。理由は「導入までに時間がかかる」「マネタイズが難しい」と。ただ、われわれにとっての対象はシニアの方々ではなく、シニア世代を親に持つお子さんや、シニアを取り巻く人々です。コロナ禍では、離れた親に会いに行きたくても行けない状況が続きました。もしそんなとき、自分の代わりに親の話し相手になってくれて健康チェックもしてくれるサービスがあれば利用したい、そういう「シニアを思いやる方々」がターゲットです。また、ヘルスケアのサービスは日本が世界で戦えるコンテンツだと思っていますので、単に市場として見て儲けようではなく、ニーズに応えつつシニアのみなさんのQOL向上に貢献していきたいと考えています。