第52回 株式会社ルネサンス ビジネスアワード2024 プロダクト賞企業
高齢者の「歩き」をサポートするスニーカー
「ライフステップ」の開発に協力
ルネサンス 元氣ジム上中里 理学療法士 小林貴司様
ビジネスアワード2024 プロダクト賞を受賞した株式会社ルネサンスの「高齢者の『歩き』をサポートするスニーカー『ライフステップ』の開発に協力」。今回は株式会社ルネサンスの小林様に、開発の経緯や今後の展望などについてお話をうかがいました。
2025年4月取材


Q. 「ライフステップ」の開発に協力されることになった経緯をお聞かせください。
当社は2021年より、当社が運営するリハビリ特化型デイサービス「元氣ジム」において、ご利用者の足のサイズや幅などを計測し、その結果に応じて徳武産業が開発した、足や歩行に悩みのある方向けの「あゆみシューズ」の対面販売を実施してきました。そのような経緯を踏まえ、屋外での歩行を充実させる機能を盛り込んだ介護シューズを開発したいという徳武産業の思いを受け、当社のスタッフおよび利用者様がモニターとして体験し、これまで以上に歩行をサポートするための新たなソリューションを付加した「ライフステップ」の開発に協力することになりました。「ライフステップ」は「自分の足で街へ出かけたい」といったアクティブな方を対象とした靴であり、まさに元氣ジムをご利用いただいている方の希望と合致します。私たちにとってもこのような靴が世に出るのはうれしいことですし、徳武産業にとっても高齢者の方と直接関わる機会が多い私たち現場の声が靴の開発に活かせるといった、双方にとって価値のある取り組みとなりました。
元氣ジムはリハビリの専門家である理学療法士等の機能訓練指導員と運動の専門家である運動指導員が常駐し、医学的視点からも安全で効果的なプログラムを提供するデイサービスです。当社が長年培ってきたスポーツクラブのノウハウを活かし、音楽に合わせて体を動かしたり、一人ひとりの身体機能に合わせたマシンの使い方を提案するなど、まるでパーソナルトレーナーのようにスタッフが丁寧に指導することが特徴で、デイサービスでありながらジムのような雰囲気を心がけています。元氣ジムという名称も、介護施設に抵抗のある方に「ジムに行く」という意識を持っていただければ、という思いからつけられました。
Q. 具体的な協力内容を教えてください。
元氣ジムの6施設から2名ずつの計12名の方がモニターとして、日常生活で2週間履いていただきました。モニターの条件は、足のサイズが提供されたシューズのサイズに合っていること、買い物や散歩によく行かれるという、比較的アクティブな方です。モニターの方には野外歩行時の履き心地、歩きやすさ、安定感などをフィードバックしていただきました。また、元氣ジムでは各店舗に理学療法士が各1名配属されているので、その理学療法士でプロジェクトを組み、歩行時の姿勢や動作の変化など、専門的な知見を活かしたアドバイスをいたしました。

Q. 「あゆみシューズ」のほかの商品と「ライフステップ」の相違点はどんなところでしょう。
「あゆみシューズ」の多くは足のトラブルを抱えた方やリハビリが必要な方、いわば「靴を履くのが大変だった方」「歩くのが大変だった方」を対象としており、そのような方の歩行をサポートするために開発されました。そのため、足をやさしく包み込むような設計が特徴で、病院や施設などの屋内で利用される方が多数を占めていました。
一方、「ライフステップ」のコンセプトは「歩くことをあきらめない」。さらに「履く、歩く、その先へ」を目指しており、自分の足でしっかり歩き続けることを目的に開発された靴です。日常生活での歩行をより安定させ、転倒リスクを軽減する工夫などといった従来の「あゆみシューズ」の機能に加え、クッション性やグリップ力、フィット感、軽量で動きやすいという点をより追求しています。
歩行というのは人のQOL(quality of life:生活の質)に大きな影響を与えます。歩行ができて初めて「○○がしたい」という具体的な目標ができたり、そのために頑張れたりします。そういう意味からも「ライフステップ」という商品名がついています。
Q. 「ライフステップ」利用者からはどのような声や反応がありますか。
「履き心地がよく歩きやすい」、「普段より遠くまで出かけることができた」、「孫と一緒に買い物に行けた」、さらには「あまり多く歩くつもりがない日でも、思わずたくさん歩いてしまうような素敵な靴」という声もあり、私たちも大変うれしく思いました。また、「『ライフステップ』を履いて日本一周の船旅に行くことを目標にしました」という方もいらっしゃいました。散歩や買い物が随分楽になったという声も多数いただいています。
Q. 「ライフステップ」の開発に協力したことにより、貴社にはどのような成果があったのでしょう。
私たちの満足が利用者様の満足に直結する、つまりは利用者様の満足が私たちの満足につながります。そのため、このような声を聞かせていただけるのは私たちの喜びですし、ひいては当社の成果につながっていると感じます。
元氣ジムにも、最初はほとんど歩けないような状態の方がいらっしゃいます。ふらついてしまうから外に出られない、動かないからますます足が弱ってしまうという悪循環です。そういう方がここで体を動かし、次第に機能が回復したタイミングで「ライフステップ」をご提案すると、「外に行く自信がついた」と言っていただけるのは大きな成果だと感じています。思うように歩けず気落ちされている通所初期の頃と比べて表情も明るくなり、見違えるように元気な様子を見られるのは、スタッフ一同の高いモチベーションにもつながっています。まさに当社の「生きがい創造企業としてお客様に健康で快適なライフスタイルを提案する」という企業理念を体現する事例ともいえます。
Q. 靴と健康の関係について、ご意見をお聞かせください。
立位でいるとき、唯一地面に接地しているのが足部なので、大事な部分であることは言うまでもありません。歩く、走る、しゃがむ、立つといった基本的な動作を支える上でも足部はきわめて重要な役目を果たしていますので、その足部を守る靴も非常に大事なものです。足部にトラブルを抱えて歩けなくなってしまった方が外に出歩かなくなると活動量が減り、活動量が減れば食欲は減退し体重は減少してしまいます。また、外に出なくなると他者と関わる機会も減るため認知症のリスクが高まってしまいます。靴というのは、それほど健康に密接に関係しているものです。
Q. 貴社における「シニア」の定義を教えてください。
シニアとは、人生の大先輩の方々です。特に元氣ジムのスタッフが接するシニアの方は、「健康や生活の質を向上させるためにサポートが必要な方々」です。当社は「人生100年時代を豊かにする健康ソリューションカンパニー」を長期ビジョンに掲げており、年齢に関係なく自分らしく生きがいをもって生活できるように、お手伝いをしたいと思っています。特に現場で日々高齢者の方々に接している私たちからすると、より健康であることを目指し、生活の質を上げるために、課題を抱えながらも熱心に取り組む「シニア」の方々からは元気をいただいています。
Q. 貴社のシニアターゲティング市場における今後の抱負をお願いします。
人生100年時代を迎える中で、シニアの方々のニーズはますます多様化していくことでしょう。身体的なサポートだけでなくメンタル面もそうですし、生きがいにつながることが重要な要素になってくるのではないかと思います。そのため、当社も健康づくりの支援にとどまらず、シニアのみなさまが本当に自立していきいきと暮らせる環境づくりをサポートしていきたいと考えています。今後も健康ソリューションカンパニーとして提供する製品やサービスをさらに進化させ、高齢者の方々が自分らしく歩み続けられるよう、さまざまな角度からサポートしていきたいと考えています。
また、元氣ジムでは歩行に特化した新たな通所型施設もスタートしました。特徴としては、マシン運動と自走型のトレッドミル(ランニングマシン)です。通常のジムにあるものは、電動で動く地面のスピードに合わせて歩いたり走ったりします。それだとシニアの方は足がついていかず転倒リスクにつながるので、自身の脚力で動かすというものです。また、元氣ジムのノウハウを生かし、運動の映像を見ながら体を動かすメニューなどもあります。実はこの元氣ジムに通いたいけれど介護認定を受けていないと通えないと知った方々が、「介護保険を申請するにはどうすればいいのか」とケアプラザに出向いたそうです。それほど足や歩行に悩みを抱えていらっしゃる方が多いということですので、私たちもそのご要望にできるかぎりお応えしていきたいと思っています。