第20回 セントラルスポーツ株式会社
0歳から一生涯の健康づくりに貢献する
執行役員 介護予防事業部長 相川正男氏
介護予防事業部シニアマネージャー 大東俊彦氏
経営企画室マネージャー 平山智志氏
スポーツ健康産業のパイオニアである「セントラルスポーツ株式会社」。1969年に「世界に通用する選手を育てる」という目標を掲げて開校された水泳教室と体操教室に端を発する「スクール事業」からその歴史はスタートしました。その後も「フィットネス事業」、「レジャー関連事業」と様々な事業を展開してきましたが、今回はスポーツクラブのパイオニアだからできる「介護予防サポート事業」に関してお話しをお聞きしました。
2016年10月取材
Q.介護予防サポート事業を始めた経緯と内容について教えて下さい
当社として「介護予防事業部」を立ち上げる以前より、民間の老人ホームから「インストラクターを派遣してくれないか」というお声はいただいており、できる限り対応していました。その後、2005 年に(地独)東京都健康長寿医療センターから「介護予防運動指導員」の育成事業に協力してもらえないかと、当社にお声がかかったことがきっかけとなり、この事業を開始する事になりました。
当時、当社のフィットネスクラブの会員様で高齢の方の割合がどんどん増えてきたことで、「高齢者の運動指導に対する知識をもっと深めたい」というスタッフが多くいたこと、また、デイサービスや高齢者施設で働いている介護福祉士やヘルパーの方々で「科学的根拠に基づく適切な運動指導のノウハウを学びたい」という方も多くいたことから、まずはこのような人達に資格を取ってもらおうと考え、「介護予防運動指導員養成講座」を開催し、介護予防スタッフのための教育や人材育成に力を入れていきました。
現在、介護予防運動指導員は全国に約3 万人になりますが、その内当社主催の養成講座卒業生は約6千人います。また、毎年全体で約2 千人が資格を取得されていますが、その内約700~800 人が当社で養成した資格取得者となります。ただ、当社では資格取得だけが目的ではなく、実際に現場で働いてもらうことを意識していますので、資格を取得したら当社にお仕事登録をしてもらい、定期的に研修を行った上で、介護予防運動指導員として活躍して頂いています。
実際に、地方自治体で実施される介護予防事業には、現地に近い登録スタッフが教室の運営を担当したり、最寄りに当社のクラブがあればそのクラブに所属する有資格者を出張させています。また、老人ホームなどで実施しているプログラムでは、食堂などに椅子を並べて、車いすの方や認知症の方も含めてみんなで運動などのアクティビティをしています。普段はほとんど反応のない認知症の方が、体をピクっと動かすこともあり、施設の方やご家族の方に大変喜ばれています。
今では、その施設も200 以上になりますが、今後は老人ホームだけでなく、デイサービスやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などにも広げていきたいと考えています。
Q.「シニア」をどのように定義されていますか
当社はフィットネスクラブに所属する会員様の年齢構成を10 歳刻みで管理しているということもあり、便宜上「60 歳以上」を「シニア」と設定しています。ただ、実際のところは年齢だけで一律に「シニア」と定義してしまうのは適切ではないと思います。高齢者の中でも体力がある方や無い方、また虚弱な方など体力面でも個人差がありますし、運動するにあたっての目的も様々です。あくまでもその方々の「ニーズ」にあったプログラムをご提供することを大切にしています。
近年、フィットネスクラブの会員様の年齢構成を見ると、最近では50 歳以上、60 歳以上の方の割合が増えてきています。こうした状況下、「60歳以上」と一律にくくるのではなく、アクティブな方には若い方と同じようなプログラムを、体力に自信がない方には、無理のないソフトなプログラムをご用意するなど、ひとりひとりのニーズにお応えできるサービスをご提供しなければならないと考えています。
高齢者の体力をピラミッドで分けますと、スポーツクラブに通う程元気で健康意識が高い「体力エリート高齢者」が一番上にくるのですが、全体的な割合ではごく一部で、その下の、元気ではあるけれど体力低下が懸念される「一次予防」の方の割合がかなり多いのが現状です。またその下には、介護予備軍となる「二次予防」に該当する虚弱な高齢者、更に支援や介護が必要な「介護認定者」と区分されますが、介護予防事業部としては、地域支援事業などを通じて介護予備軍を元気にしていくこと、ボトムアップしていくことが重要だと考え取り組んでいます。
Q.シニアマーケットをどのように捉えていますか。また、シニアに対する貴社としての今後のお取り組み予定があれば教えて下さい
高齢者全体の約80%は元気な方々なのですが、その内の3~5%程度しかスポーツクラブなどの運動施設に通っていないのが現状です。その為、潜在的には高齢者のマーケットはまだまだ拡大の余地があると考えています。最近は、ヨガスタジオや小規模ジムなど、比較的小規模な専門型クラブが増えていますが、当社はフィットネスクラブとしての役割だけではなく、高齢者の方々の社交場の一つとして、総合型クラブならではの特徴を強みとしていきたいと考えています。つまり、ただ運動の場を提供するのではなく、メンバー間で仲間づくりをしてもらい「クラブライフ」を楽しんでもらいたいのです。
例えば、スポーツ以外でも英会話教室、パソコン教室など楽しいアクティビティを通じて高齢者の方に集まってもらえる場を積極的に提供しているクラブもあります。運動による「身体の健康」はもちろんのこと、「心の健康」にも貢献できる場を創造していきたいと考えています。
また、当社は旅行業の資格ももっているのですが、同じクラブに通う仲間と行く日帰りのウォーキングツアーなどは大変人気があります。気軽に参加できて、楽しみながらしっかり体も動かせるので、高齢者の方でも楽しんで頂けるツアーの一つです。
また、毎年12月に開催される「ホノルルマラソンツアー」は27 年間も継続している恒例行事となっており、毎年約800 人の参加があるビックイベントです。フルマラソンというとハードルが高そうなイメージがありますが、実はシニアの方の参加も非常に多いのが特徴です。「一生に一度はフルマラソンを走ってみたい」という想いを持っている方は少なくありません。私たちは、そうした方々の想いを後押しし、感動のゴールへと導くトレーニングをサポートしていきます。ここでもやはり、参加者の皆さんが同じ目標を共有する「仲間」と出会い、一緒にゴールを目指していくことで、時にはつらいトレーニングも乗り越えられるのです。
フルマラソン完走という大きな目標を達成し、仲間と感動を共有しているシニアの方々の姿は、私たちが目指す「0歳から一生涯の健康づくりに貢献する」という企業理念を具現化したものだと思います。
その他、水泳は当社の得意分野ですが、「マスターズ水泳大会」を全国各地で開催しており、こちらも1000人以上の方が参加するビックイベントで毎回盛り上がっています。運動は、そのもの自体、スキルの向上や体力アップなどの達成感がありますが、それに加えて仲間が増えたり、仲間と楽しんだり、モチベーションを維持する為にも定期的なイベント開催はとても大事だと考えています。
Q.地域に根ざした介護予防事業の今後の展開について
体力測定など気軽に参加できるイベントを通じて、まずは運動や健康に興味をもってもらうことが重要だと考えています。また、効果測定をして数値化する、つまり「見える化」することが大切だと思っています。トレーニングは基本的には単調で面白味にかけるものととらえられがちです。その為、様々なデータを元に参加者をサポートし、参加者にあったプログラムをスクリーニングして提供し、運動を継続してもらうことが重要です。
当社はさいたま新都心にデイサービスも運営していますが、ご利用者の多くの方はインターネットなど最近のものにも興味があり意欲も高い方が多いです。例えば、スマホやタブレットを使っての認知機能向上プログラムも大変好評です。さらに、地域に密着した様々なイベントを企画、開催し、高齢者に興味を持ってもらい、より多くの方に健康に対する興味をもってもらえるように努力していきたいと考えています。
また、できれば介護予防事業の参加者が、その後当社クラブにも足を運んでもらえれば、同じような高齢者の方がたくさんいますから、「自分にも出来るかな」という気持ちになってもらい、運動を継続してもらえたら嬉しいです。
Q.プログラム開発で苦労したことや、他社サービスとの違いなどがあれば教えて下さい
当社は1982年に民間で初めてスポーツ科学の研究所をつくり、科学的トレーニングをはじめ、長期にわたってデータ取りや測定などを行ってきました。自社で開発した運動プログラムの効果測定も研究所で検証をおこなっており、安全で効率的で楽しく実施できるプログラムを提供するように努力しています。
また、会員やインストラクターとのコミュニケーションの取りやすさも当社の特徴です。フィットネスクラブに入会する際は、ほとんどの方が個人でお申込みされますが、その後グループエクササイズなどに参加し、会員やインストラクターとのコミュニケーションを深めていく方が多いので、クラブ側が会員のコミュニケーションを取りやすくする事も大切です。参加率の高い会員は、継続してご利用頂ける可能性も高く、会員からの紹介入会も増える事につながりますので、当社ではどこよりもコミュニテイーづくりを大事にしています。
Q.高齢者施設指定管理受託事業について教えて下さい
港区の高齢者施設を複数管理しています。介護予防としては23 区内で初めての施設である港区立介護予防総合センター「ラクっちゃ」では、様々な企業と組んで高齢者向けのプログラムを行っています。
例えば、このセンターには調理施設があり、独居の男性高齢者を主な対象者とした料理教室なども大変好評です。この料理教室では、ただ調理を行うだけではなく、材料の準備なども必要がありますので、段取りを考える事により、認知症予防にもつながります。
また、スポーツクラブで行っているプログラムを高齢者向けにアレンジして提供したり、新しいプログラムを開発するために、多業種との共同研究も行っています。実際に効果が出たプログラムは、他の地域にも広げていく予定です。
セントラルスポーツ株式会社ホームページ
http://www.central.co.jp/
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