サントリーホールディングス/「運動・芸術鑑賞」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」の組合せによる認知機能維持の可能性を確認

2021/5/10

2021年国際脂肪酸・脂質研究学会(ISSFAL)で発表

サントリーウエルネス(株)健康科学研究所(所長:中井正晃、京都府相楽郡精華町)は、国立長寿医療研究センター 老化疫学研究部(部長:大塚礼、愛知県大府市)と、京都大学大学院 人間・環境学研究科 認知・行動科学講座(認知科学分野 教授:月浦崇、行動制御学分野 教授:神﨑素樹、京都府京都市)と連携し、「運動・芸術鑑賞」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」の組合せによる認知機能維持の可能性を確認しました。2021年国際脂肪酸・脂質研究学会(通称ISSFAL、2021年5月10日(月)~14日(金))にて発表します。

▼発表演題・発表者
●「Effects of combining exercise with long-chain polyunsaturated fatty acid supplementation on cognitive function in the elderly(高齢者の認知機能に対する運動と長鎖高度不飽和脂肪酸摂取の組合せの影響)」(以下、「運動×長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」)
サントリーウエルネス(株)健康科学研究所 得田久敬、金田喜久 他
京都大学大学院 人間・環境学研究科 認知・行動科学講座 認知科学分野 月浦崇
京都大学大学院 人間・環境学研究科 認知・行動科学講座 行動制御学分野 神﨑素樹

●「Interaction between art appreciation and polyunsaturated fatty acid on global cognitive function in older Japanese individuals: A longitudinal analysis(認知機能に対する芸術鑑賞と高度不飽和脂肪酸摂取の組合せの交互作用について ― 日本人高齢者対象の縦断解析より ―)」(以下、「芸術鑑賞×長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」)
サントリーウエルネス(株)健康科学研究所 堀川千賀、田中高生 他
国立長寿医療研究センター 老化疫学研究部(旧:NILS-LSA※1活用研究室)大塚礼 他
※1 老化に関する専門的研究機関で実施された日本を代表する長期縦断の疫学研究。医学・心理・運動・身体組成・栄養などの老化・老年病に関わる広い分野にわたる様々な専門家が協力し、同じ人を長期にわたって繰り返し調査することにより、詳細なデータの収集および解析が行われている。対象者は、愛知県の大府市・東浦町の地域住民より無作為に選出された40歳以上の中高年者で、総参加者数3,983名である。1997年から開始され現在も追跡調査が実施されている。

▼研究の背景
世界と比較して高齢化の進行が早い日本では、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると予測されており※2、加齢に伴う認知機能低下への関心が高まっています。

2019年にWHO(世界保健機関)が発表したガイドラインでは、加齢に伴う認知機能低下リスクの低減に適度な運動、認知トレーニング、社会活動等が推奨されています。また、脳の構成成分であるドコサヘキサエン酸(以下DHA)、アラキドン酸(以下ARA)などの長鎖高度不飽和脂肪酸の摂取が、高齢者の認知機能維持に肯定的な影響を与えることが報告されています。しかし、「運動や知的活動などの生活習慣」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」を組合せた際の認知機能への影響は明らかにはなっていませんでした。

サントリーウエルネス(株)健康科学研究所では長年「脳の健康と脂質栄養」について研究しています。今回我々は、「運動や知的活動の一つである芸術鑑賞※3」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」の組合せによる高齢者の認知機能維持の可能性を考え、DHA・エイコサペンタエン酸(以下EPA)・ARAを対象に検討しました。
※2 平成29年版高齢社会白書(内閣府)
※3 映画鑑賞、音楽鑑賞、観劇など

▼「運動×長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」の解析方法・結果
●解析方法
運動習慣がなく物忘れを訴える男女(60~79歳)90名を対象にランダム化比較試験※4を実施し、認知機能に対する「運動」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」の組合せの影響を検証しました。対象者を「運動なし+プラセボ食品※5」・「運動あり※6+プラセボ食品」・「運動あり+長鎖高度不飽和脂肪酸含有食品※7」の3つのグループに分け、それぞれ運動および食品の摂取を24週間実施。試験の前後で注意機能(重要なものごとに素早く気づく力)や作業記憶(一時的に必要な情報を覚える力)などの認知機能を神経心理テスト(ストループ課題、数唱等)で評価しました。また、四肢骨格筋指数(筋肉量)により、認知機能低下リスクが高いとされる※8サルコペニア※9の傾向がある集団を対象に解析を実施しました。
※4 研究の対象者を2つ以上のグループにランダムに分け、有効性等を評価する試験
※5 DHA、EPA、ARAを含まない食品
※6 一週間あたり150分間の、筋肉トレーニングと有酸素トレーニングを組合せた運動
※7 一日あたりDHA 300mg、EPA 100mgおよびARA 120mgを含む食品
※8 Nishiguchi(2016) JAMDA. 372:e5e372.e8
※9 加齢により筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態

●結果
サルコペニアの傾向がある集団において、「運動あり+長鎖高度不飽和脂肪酸含有食品」のグループの注意機能と作業記憶が「運動なし+プラセボ食品」のグループと比べて改善しました(図1)。一方、「運動あり+プラセボ食品」のグループでは改善が認められませんでした。

図1.各グループの注意機能、作業記憶の変化量(試験前後)

サントリーホールディングス1

▼「芸術鑑賞×長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」の解析方法・結果
●解析方法
NILS-LSAの参加者のうち、認知症の既往や傾向がなく、かつ解析に必要な項目が揃っている60歳以上の男女517名を対象に4年間の追跡調査を行い、認知機能維持に対する「芸術鑑賞」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」の組合せの影響を検証しました。認知機能維持の判断には、認知機能検査のMMSE(Mini-Mental State Examination)※10質問票を用いました。芸術鑑賞は活動頻度※11により「高」・「低」の2グループに、長鎖高度不飽和脂肪酸は3日間の食事秤量記録調査※12から算出した摂取量により「多」・「少」の2グループに分けました。芸術鑑賞と長鎖高度不飽和脂肪酸の交互作用※13を確認し、摂取量が「少」、活動頻度が「低」のグループの組合せの認知機能低下リスクを1とし、組合せごとのリスクも評価しました。
※10 認知機能の評価を目的とした神経心理テストの一つ。0~30点の得点範囲で評価を行い、見当識、記銘、注意、計算、記憶等の項目から構成される
※11 過去2年間の芸術鑑賞の活動頻度が調査されている
※12 連続する平日2日と休日1日に摂取したすべての食品名(材料名)と摂取量(重量)などを記録する調査手法
※13 単独の要因で生じる影響よりも、複数の要因が重なることで大きく影響が出る作用

●結果
交互作用の解析結果から、芸術鑑賞の活動頻度とDHAやARAの摂取量の組合せが、認知機能低下リスクを低減する可能性があることが確認されました。DHAとARAにおいて、芸術鑑賞の活動頻度「高」×摂取量「多」では、それぞれ芸術鑑賞の活動頻度「低」×摂取量「少」である対照のグループと比べて、4年後の認知機能低下リスクがそれぞれ約71%、約75%低減されたことがわかりました(図2)。

 図2.芸術鑑賞の活動頻度とDHA・ARAの摂取量の組合せと4年後の認知機能低下リスクとの関連

サントリーホールディングス2

 

▼まとめ
サルコペニアの傾向がある高齢者において、運動単独よりも「運動」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」の組合せが認知機能の一部である注意機能、作業記憶の維持に有用である可能性を明らかにしました。
また、日本の一般的な高齢者を対象とする疫学データの解析により、「芸術鑑賞」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」の組合せによる認知機能低下予防の可能性を明らかにしました。

以上のことから、「運動・芸術鑑賞」と「長鎖高度不飽和脂肪酸摂取」の組合せにより、認知機能維持の可能性が示唆されました。

▼国際脂肪酸・脂質研究学会(ISSFAL)
1991年設立。40か国以上に会員を有する、脂質の栄養や機能(健康効果)に関する学会。

以  上

 

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