第12回 買い物便利提案 シニアの体力低下支援はヒットの芽
今回は「シニアの体力低下に伴う生活便利提案」の2回目です。前回は「シニアの体力低下支援はヒットの芽」 と題して紹介しました。今回は「シニアの買物便利提案」です。
シニアの買物便利提案
体力低下とともに足の不自由さからシニアは買い物が億劫になり始めます。そこに着目して、例えばシニア居住地近くに出店する販売店、バスやタクシーで足の不便お手伝い、家事・買い物代行などが登場し、企業はシニアのお買い物お手伝いに参入してきています。またネット通販もシニアの間で使われ始めています。
今回は後半に補足として、「提案はチャンスでもあるピンチでもある」を取り上げました。
企業の生活便利な提案は時として既存業態がピンチになる可能性があります。その時チャンス企業、ピンチ企業はどのように対応するか “高齢者の運転免許返上増加に伴い企業が対応した事例を後半で紹介したいと思います。
シニアの家に近づく販売店
①憩いの場づくり
4~5年前から小売業はカフェスペースや休憩コーナーなどを店内に設置し集客促進を図ってきました。特にシニア対策を積極的に推進していたのがイオン、ウエルシアが挙げられます。(イオン・朝から囲碁、将棋ができる施設開設。2016.12月開始)(ウエルシア・憩いの場施設3倍増に。2017.8月開始)
②シニア商品充実の専門店
2017年に入るとシニア専門店が登場。特にイオンは100店舗設置し巡回バスで来店しやすくし、商品充実を図りました。
③移動販売車
いわゆる買い物難民といわれるシニア層に対して2016年頃から移動スーパー、走るコンビニといった車に商品を載せ移動販売する販売店が登場し始めました。シニアが喜ぶ風景がTVニュースで報道もされていました。
④住宅街の中にシニア食職販売店
ワタミは高齢化の課題解決を目的に高齢者の”食“と”職”を提供するために高齢化進む高島平団地内に営業所を開設しました。これは宅配スタッフも、購入者も団地住民で運営効率を高めると同時に見守りとしての役割も担うとのことです。
足の不便お手伝い
①配達参入
スーパー各店舗からの配達(2015年)、イトーヨーカ堂が大型商品も配達(2015年)、弁当配達会社が調理用キットの宅配(2017年)などが次々に参入しました。更には森永乳業、雪印メグミルク、明治なども宅配強化を図り、生協パルシステムは頻繁に個別宅配を行っています。
②巡回バス/低料金タクシー
高齢者向けタクシー、バスの「定額制」が広がりました。2020年10月から全国7つのタクシー会社が国に実証実験として12月まで実施し、課題洗い出しや検証に役立てるそうです。
JTBも長野県でタクシーの定額乗り放題を期間限定で開始しました。バスではみちのくグループなどは広域で取り組むそうです。第一産業グループは全国各地で高齢者向けにお出かけ乗り合いタクシーを安価で提供し始めています。これは交通空白地域、不便地域での移動困難者の外出支援するもので国の助成制度もあり、運賃は100円~300円程度の設定となっています。
また、スギ薬局とアイシン精機は協業し、買物弱者支援向けに「チョイソコ」サービスという地域の交通不便を解消し高齢者の外出促進に貢献するデマンド方交通方式(予約に応じて乗降場所や経路を変更可能とする交通システム)を開始しました。
更に、イオンは巡回バスで来店促進を開始するなど、様々な取り組みが行われています。
家事・買物代行
このマーケットはシニア顧客開拓に向け各社が開発・提供してきましたが、働く主婦の増加で彼女たちを狙ったサービス提供企業が増加してきた背景もあります。団塊世代の更なる高齢化で再び注目されるとみられています。
①家事代行参入
旅行会社(2015年)、ヤマト運輸(2016年)、ローソン(2018年)などが参入。
②買物代行参入
スーパー各社買物代行、配送(2014年)、ダイエー60歳以上限定サービス買物代行・配送専任者(2016年)などが参入。
ネット通販
シニアのスマホ所有率増やネット通販利用増が進んでいますが、コロナ禍のなかシニアのスマホ通販利用率が12.9%増と急増。今後もネット通販は増えそうと考えるシニアは25.3%と非常に多くなっています。(2020.4月 60才~1549人 趣味人倶楽部調べ)。
このように家に居ながら商品が購入でき、自宅配送できるわけですから益々その市場性が期待できそうです。
ここがポイント
年齢とともにシニアは体力が低下します。それは日常生活のいろいろな面で現れ、行動が面倒という側面が出てきます。このようなことは社会にとってみると大きな問題といえますが、マーケティング視点から見るとシニアの支援サービスとして新たなマーケットが創出され、シニアにとても助かるサービス・商品として喜ばしく歓迎されます。2025年には団塊世代全員が後期高齢者に突入し、“体に気をつけなければならない世代” になり、企業はビジネスチャンス獲得に向け新たな市場創造に早急に取り組む必要がでてきています。
買物便利は誰でも求めるところですが、特にシニアは日常品の買物は出来るだけ近いお店で、重たいものは配達、掃除や料理、雑用の手伝いなどの要望を電話やメール、ネットで頼むと代行してくれるそんなサービスがどんどん進化してきそうです。
またネット通販もその便利性からシニアの間でも更なる広がりを見せています。コンビニがシニア見回り役も兼ねることもあり、コンビニも更に進化するかもしれません。
そこで、シニアにとって便利な買い物は今後どのような形態が主軸になってくるのか? 商品によってその位置が変わってくるでしょう。またシニアの特性によってその形態も変わってきそうです。その把握こそ商品拡販の切り札になってきそうです。
提案はチャンスでもありピンチでもある
ある意味どのマーケットにもいえることですが、新しい商品が発売されると既存品が侵食され衰退するケースがあります。つまりチャンスとピンチが出現します。シニアマーケットにおいても同様の傾向がみられますが、「商品の代替」に伴うピンチとチャンスだけでなく、運転免許返納という社会現象からピンチとチャンスが出現しています。ここではそのピンチとチャンスをみてみます。
チャンス:運転免許返納者増で電気自転車拡販チャンス。普及に期待したい
自転車販売店が運転免許返納者に電気自転車5,000円引きで拡販推進
高齢者の自動車事故がマスコミでたびたび報道され社会問題にもなっているのはご承知と思います。それに反応するようにシニアの運転免許返納数が増加傾向(2016年34.5万人、2017年42.4万人、2018年42.1万人、2019年60.1万人)にあります。
自分の足代わりになっている車がないと不便極まりないのも事実といえます。そこで自転車販売店のあさひは自動車運転免許返納者に電動アシスト自転車の値引き販売(10万円以上商品から5,000円引き)を始めました。 同社はもともとシニア対策としていろいろ展開していますが(・豊富なシニア向け自転車の展示 ・自転車選びや試乗に専門スタッフサポート ・購入後のサービス、無料点検、修理、盗難保険、出張修理など)更に強力に推し進めるため今回の5,000円引きを開始したわけです。
もともと電動アシスト自転車の主な購買者は30~40代女性、子供を乗せるママチャリとしてのニーズが高かったのですが、シニアの需要が高まるとみてシニア販促を積極化させました。現在シニアへの商品販売台数は同社全販売量の2割を占めているそうですが、更に高めるために販促を強化していくそうです。
ピンチ:運転免許返納者増でシニア顧客の多いイオンモールが集客に苦慮
イオン、シニア来店の脚不足という大きな問題が
イオンモールが出店している地方は高齢化が加速しています。それは地方だけでなく首都圏でも(例えば国道16号線沿線)その傾向が顕著となっています。 そのような地域に住むシニアの運転免許返納者が年々増加しているため、イオンは来店に向けての脚が無くなる危機に直面しています。 同社ではそのためにシニアに向けに最寄駅からのシャトルバスを強化したり、店内で楽しませる工夫をはじめていますが、返納者数増加とともに彼らがいつでも気軽に行けるためのシャトルバスを多方面配置、増便体制が更なる課題となっています。 つまり来店販促に向けての基盤整備強化が同社の課題となっています。
イオンモールはシニア対策が熱心で2016年からシニア誘客促進に向けいろいろな対策を取り始めています。 例えば *健康増進(SC内歩けばポイント付与、イオン・タニタの高齢者ジム開設) *地域交流(モール内ホール貸出で文化活動の場に、シニア向けに朝から囲碁、将棋開設) *買物支援(電動カートで歩行負担軽減) *シニア専門店(全国でシニア用品揃えた専門店100店)などがあげられます。
電動カートは2019年に試験的に導入し今回は10店舗に拡大。このカートは無料で利用でき、前方には大きな荷物が入れられるカゴを付けました。
このような整備拡大には多額の資金も投入しており、シニア集客の入り口である「足」は大きな課題といえます。
企画のポイント
上記のようにクルマ運転免許返納というシニアの動きが自転車店にとって拡販のチャンスになりますが、一方ではイオンのようにピンチになる現象を起こしています。また前述しました代替品のヒットは既存品を縮小させてしまう環境にもあります。 このようなことは日常茶飯事ともいえ、ピンチになる前の予測づくりと対処方法が必要で、個人では無理なので組織的対応を進める必要がありそうです。
2020年9月
プロフィール
金子良男(かねこ よしお)
1945年生まれ。団塊世代より2歳年上。のんびり、せっかちの性格。
法政大学経営学部卒業。広告会社企画調査局入局(現マーケティング局)。当初は消費者調査・分析で鍛えられ、その後プランニング部へ。クリエイティブやセールスプロモーション、媒体などとの擦り合わせの中で企画作業を推進。担当業種は自動車(10数年、国内、東南アジア各国)、食品、飲料、ラーメン、男性化粧品、競馬など多数の企画を立案。
最後に担当したのが広告会社としての開発部門の責任者。狙いは営業支援、情報発信による新規クライアント獲得及び自社PR。業務は今を捉える消費者研究・開発、商品の流出・流入まで捉えるブランド管理、広告効果予測システム、今を勝つための企業の戦術事例づくりなどなど。
現在退職したものの、”昔の仕事気分を楽しもう”とブログ「「市場攻略のスゴ技発見」を発信し、今なお世の中の動き、企業の動きを分析しています。
過去のコラム
- 第11回:生活便利提案 シニアの体力低下支援はヒットの芽
- 第10回:シニア市場掘起し 若者商品でシニア市場を狙う
- 第9回:シニア市場掘起し 既存商品でシニア市場活性化
- 第8回:消費元気なシニアの攻略 「元気な年金消費」と「定年直後コミュニケーション消費」
- 第7回:消費元気なシニアの攻略 シニアのネット消費急伸
- 第6回:消費元気なシニアの攻略 消費力が枯れることのない孫市場
- 第5回:小売り・サービス業のシニア攻略。シニア対策で居心地よい言い方、伝え方になっているか
- 第4回:メーカーのシニア攻略。シニアの生活視点を把握しているかが重要
- 第3回:注目のライフスタイル。インフルエンサー更に増幅か
- 第2回:シニアの消費。この時代だからこそ消費力あるシニア層を探す
- 第1回:シニア市場ブームからその後へ 団塊層間もなく後期高齢層に