第9回 シニア市場掘起し 既存商品でシニア市場活性化
前回までは「消費元気なシニアの攻略」を捉えてみました。今号からは「企業のシニア市場掘起し」を2回に分けて取り上げます。ここでいう掘起しとは既に発売されている商品(シニア向けであれ、若者向けであれ)をシニア向けに掘り起こし販売拡大や商品の長寿化を目指すものです。今回の視点は「既存品でシニア市場活性」です。
メーカーは既存品の若返り化と
若者向け商品でシニア開拓狙う
●既存品の若返り化で新シニア開拓
自社の売れ筋商品は経年とともに購入顧客は固定化しターゲットの高齢化が進む傾向にあります。そこで企業は購買層の若返り化(新シニア層)を図り、ブランド力を強化する戦略は毎年のように多数登場してきています。
その一つが「長寿商品」の若返り化。これは数十年という長寿商品の若返り化で、シニアの世代交代を目指した展開。大塚食品のボンカレーや大塚製薬のオロナイン軟膏などは周年企画をにらんで商品改良や異業種タイアップキャンペーンを展開しています。また100年以上の歴史がある大幸薬品の正露丸は意外にも30代女性が家庭常備薬と利用されていることが判り、シニアの理解を深めるために昭和レトロのあるパッケージを開発しました。
もう一つが「女性向け商品5年で若返り化」。これはシニア向けに発売した商品が5年もたたずに新シニア層再開拓に迫られる事例です。資生堂の女性50代以上向け商品「プリオール」は2015年に発売され、現在5年目で女性50代から“自分たちの商品ではない”と対象外商品になってしまいました。そのため新たに女性50代獲得に向け同世代女優を広告で起用しパッケージも変更しています。
このようにシニアでも5年間でギャップが出ることが判りました。シニア商品といえども短期的な視点で見直していかなければ埋没する可能性があることを示唆しています。シニアは実際の年齢より14才若く捉える傾向にあるといわれることもあるため、大事な戦略視点といえそうです。
若者向け商品のシニア開拓
市場が成熟すると更なる拡大に向けて新たなターゲットに売り込まなければなりません。その一環として、若者向け商品が新需要層開拓に向け、シニア層を狙う戦略が毎年のように登場しています。
その事例として新製品発売ではロッテの記憶力ガム、噛む力、高年女性の骨を強くする粉ミルク、健康志向のチョコ、小分け食品、シニア対象の下着ブランド、高級カレー等々が挙げられます。一方、販促で拡販を狙うものとしてスマホやメルカリのシニア販促が挙げられます。
このように既存品によるシニア開拓が進んでおり、この方法はいろいろな業種で展開できるため、まだまだ大きく伸びる期待市場といえます。詳細については次号でスマホ、メルカリ、電動アシスト自転車の展開で説明いたします。
いずれにしてもこの戦略は新商品開発にかかる費用に比べ、効率よく拡販することができる手堅い策に特徴があります。従ってメーカーや小売業からの商品提案はまだまだこれからが本番のようにも見えてきます。
小売業はサービス強化でシニア狙う
小売業独自でPB商品を開発しシニア開拓を展開する企業もありますが、基本はシニア向けサービスの充実で集客拡販を展開する傾向にあります。
その展開をみると、5年ほど前は店内にくつろげるスペースを提供するお店が多かったのですが、その次はシニア接客技術開発(笑顔で接客できる専門員養成、シニア用営業手法開発)、シニア商品充実、シニア店舗新設、囲い込み(割引、カード会員化など購買特典を用意など)等、集客に向けての手堅い策が次々出てきました。そして今や運転免許返納数増で駅からの無料巡回バスを強化する企業もあります。
このように来店促進→サービス向上→商品充実→囲い込み促進→シニアの足となる巡回バスとステップアップしていますが、どこでも同様の展開をしているため小売業の個性化はあまり見えていません。
企画のヒント
消費額、人口数からいってシニア市場は有望市場と言えるわけで、企業が展開するのは当然のことといえます。長寿商品の再開発、シニア商品の短期間での見直し、あるいは若者向け商品のシニアへの拡販など、未開拓のシニアに掘り起こすことは企業の手堅い策といえます。大いにシニア掘起しを展開して欲しいものです。そのために・・・
- 既存品を再活性させるためには、まずは自社商品のライフサイクル上の位置を確認し、早めの対策づくりが大事
- その確認は長寿商品だけでなく、発売5年でターゲットから対象外商品とみられることもあるのでシニア商品といえども頻繁なライフサイクル位置の確認作業が大事
- 長寿商品の後続新シニア獲得に向けては、団塊世代の特性と特徴が異なることが考えられるため新シニア層の特性を研究することは大事
- 長寿商品の周年拡販企画にあたっては異業種企業とのタイアップ販促が多くみられるが、少ない予算で最大効果をあげるための大きな武器
- 小売業におけるシニア掘起しとして商品充実、サービス開発、購入促進など積極的に展開しています。これから大切にしたいことは“シニアが楽しく買物できる提案”が大事
それが競合との差別化につながるため、シニアの”楽しさ”の開発が大事 - シニア市場は魅力ある市場です。掘起しをする企業は益々増えるといえそうです。進出企業はターゲットニーズを把握すると同時に競合チェックとそれへの優位化は絶えず必要に
シニアアプローチはいくつもの策があるかもしれません。一つでダメと思わずいろいろな策の展開を考えるのも大事といえそうです。
ロングセラー商品の攻略トレンド
<2014年>
- (シニア層攻略策)永谷園:フリーズドライ商品をシニアに拡販
<2015年>
- (ロングセラー攻略策)「明治おいしい牛乳」拡販のため”牛乳を使う料理”を銀座で展開
- (ロングセラー攻略策)江崎グリコ:「ポッキー」発売50年で17年ぶりに大幅刷新
- (シニア層攻略策)森永製菓:「DARS」を女性ターゲットからシニアへ拡大
<2016年>
- (ロングセラー攻略策)カンロ:60年長寿商品飴の販促を強化
- (ロングセラー攻略策)キングジム:「テプラ」を法人から家庭へシフト
- (シニア層攻略策)トリンプ:新需要狙い50代向け新ブランド立ち上げ
- (シニア層攻略策)日本サンライズ:「ガンダム」の年代別対応による3世代攻略戦略
- (シニア層攻略策)ソフトバンク:携帯ショップ全店を改装しシニアや地方を開拓
<2017年>
- (ロングセラー攻略策)アース製薬:長寿商品「モンダミン」の新製品を次々発売し売上記録を伸ばす
- (ロングセラー攻略策)大塚製薬:長寿商品「オロナインH軟膏」ラミネートチューブが大ヒット
- (ロングセラー攻略策)大塚食品:「ボンカレー」50周年商品として“おふくろの味”を洗練
- (ロングセラー攻略策)30年商品の秘策は”対話力”消費者の声を製品に
例:アサヒビール「アサヒスーパードライ」、花王「アタック」・「サクセス」、小林製薬「糸ようじ」、ロート製薬「ロートZ!」、アース製薬「モンダミン」、湖池屋「スコーン」、日本ハム「チキチキボーン」 - (ロングセラー攻略策)50年のロングセラー。”あったらいい”時代の価値投入
- (シニア層攻略策)大幸薬品:「正露丸」を高齢化に対応させ51年ぶり新薬発売
- (シニア層攻略策)ハウス食品:50、60代向け高級カレーを販売
- (シニア層攻略策)味の素AGF:シニアに注力し和菓子に合うコーヒーを展開
- (シニア層攻略策)NTTドコモ:シニア向け割引を拡充
<2018年>
- (ロングセラー攻略策)大塚食品:「ボンカレー」50周年で異業種コラボを続出
- (シニア層攻略策)携帯電話販売業界全般:格安スマホでシニア争奪戦
<2019年>
- (ロングセラー攻略策)カルビー:自治体と連携しご当地ポテト発売し、長寿商品を強化
- (ロングセラー攻略策)消費者声生かす。スマホやゲームやりながら手汚さずにポテチ
例:湖池屋「スコーン」専用の指サックプレゼント、カルビーポテトチップ専用のトングをローソン店頭で配布 - (ロングセラー攻略策)シャトレーゼ:「チョコバッキー」に商品を改名しSNS活用で売上倍増
- (シニア層攻略策)セイバン:ブランド「天使の羽」で親心をつかむ
- (シニア層攻略策)ロッテ:噛む力でガムをシニア向けにアピール
- (シニア層攻略策)大幸薬品:レトロな「正露丸」パッケージ復活
- (シニア層攻略策)東洋水産:「赤いきつね」と「緑のたぬき」の合体版「赤いたぬき天うどん」により中高年層の休眠層を掘起す
- (シニア層攻略策)ロート製薬:高年層女性を狙い子供品を改良し骨を強くする粉ミルクを発売
- (シニア層攻略策)携帯電話販売業界全般:シニアのガラケーからの乗り換えを期待しスマホを積極販売
- (シニア層攻略策)NTTドコモ:シニア取込みを狙い、店内で「メルカリ教室」
2020年6月
プロフィール
金子良男(かねこ よしお)
1945年生まれ。団塊世代より2歳年上。のんびり、せっかちの性格。
法政大学経営学部卒業。広告会社企画調査局入局(現マーケティング局)。当初は消費者調査・分析で鍛えられ、その後プランニング部へ。クリエイティブやセールスプロモーション、媒体などとの擦り合わせの中で企画作業を推進。担当業種は自動車(10数年、国内、東南アジア各国)、食品、飲料、ラーメン、男性化粧品、競馬など多数の企画を立案。
最後に担当したのが広告会社としての開発部門の責任者。狙いは営業支援、情報発信による新規クライアント獲得及び自社PR。業務は今を捉える消費者研究・開発、商品の流出・流入まで捉えるブランド管理、広告効果予測システム、今を勝つための企業の戦術事例づくりなどなど。
現在退職したものの、”昔の仕事気分を楽しもう”とブログ「「市場攻略のスゴ技発見」を発信し、今なお世の中の動き、企業の動きを分析しています。