第17回 トヨタ自動車株式会社

福祉車両ウェルキャブの
「普通のクルマ化」を目指した開発

製品企画本部 吉田氏 国内商品部 大野氏 広報部 堀野氏

世界トップクラスの自動車メーカー、トヨタ自動車(株)は福祉車両をWelcab(ウェルキャブ)と呼んでいます。Welfare(福祉)、Well(健康)、Welcome(温かく迎える)+Cabin(客室)  「すべての方に移動する自由を」のコンセプトを基に、お身体の不自由な方や高齢の方はもちろん、介護する方にとっても快適で安全なクルマをご提供できるよう、様々なウェルキャブを開発しているトヨタ自動車。今回は国際福祉機器展にて、2015年12月21日より発売予定の新開発「助手席回転チルトシート車」を中心にトヨタ自動車のウェルキャブ開発への思いをお聞きしました。

2016年3月 取材

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Q.ウェルキャブ新車両「助手席回転チルトシート車」とはどのような車両ですか?

ウェルキャブには大きく分けて3つの種類があります。
車いすのまま乗り込むことができる「車いす仕様車」、お身体の不自由な方ご自身の運転をサポートする運転補助装置「フレンドマチック取付専用車」、座席への乗り降りをサポートする機能を装備した車両の3つです。

「助手席回転チルトシート車」は文字通り助手席が回転し、チルト(傾けること)により乗り降りをサポートする車両です。シートを手動で車両の外側へ回転させ、さらにチルトすることで従来のシートよりも立ち上がる際の体重移動が楽になり、足腰への負担を軽減できます。
そして介助する方が最も力を使うであろう引き起こす動作がほとんど必要なくなります。介助される方だけでなく介助する方にも優しい車両なのです。

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Q.助手席回転チルトシート開発にはどのような背景があるのでしょうか?

本年12月21日より発売予定の新しいウェルキャブ「助手席回転チルトシート車」の開発は、いま日本が抱えている超高齢社会の問題へトヨタ自動車としてどのように取り組んでいくべきか考えるところから始まりました。

後期高齢者(75歳以上)の人口は、2010年に1,407万人、2025年には2,179万人と15年間で人口は1.5倍になると言われています。介護を必要とする人口が増えるのに対し、支える側の若者は減少し、2010年には1人の後期高齢者を5.4人で支えていたのが、2025年には3人で支えることになり、負担は約2倍になります。

医療費や介護費の拡大も予測され、このままでは破たんが危惧されるため国は政策の見直しの1つとして、在宅介護を中心とした制度改革を進めようとしています。

その結果、在宅介護サービスの利用者は2011年の300万人から2025年には約500万人に増え、実に総人口の4%にもなると予想されます。

こうした状況から、高齢者の在宅介護が増えることで「閉じこもり」の増加が心配されます。在宅高齢者は身体的機能の低下や活動意欲の低下、家族環境の変化などから家に閉じこもりがちになります。日常生活が非活動的になることで廃用症候群を発症、やがて寝たきりになり要介護者に進行しがちです。

高齢者本人の幸せのためにも、家族の介護負担を減らすためにも「閉じこもり」のない生活が重要です。自動車会社として、より高齢者が外出しやすい車両を提供することで高齢者の閉じこもりを少しでも減らし、いつでも気軽に出かけて欲しいという思いから、「助手席回転チルトシート車」を開発しました。

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Q.助手席回転チルトシート車はどのような点で「介護負担の少ないクルマ」なのですか?

まず1つ目に、普通の駐車場スペースで使用できることです。既存の助手席への乗り降りをサポートする車両「助手席リフトアップシート車」は、例えば杖を使う高齢者が立ち上がるとき、頭が車両側面から110cmまで張り出します。

そのため車いすマークの駐車場以外では十分な幅を確保することができず、使用することができませんでした。

それに対して新開発の「助手席回転チルトシート車」は乗り降りの際に必要なスペースが、車体から最低45cmと大幅に小さくなったため、一般車両と同じ駐車スペースで使用できるようになりました。福祉車両を使用しているという感覚が薄れるのと同時に“よりたくさんの場所で人目も気にせずに使用できる”ということに繋がったのです。

そして2つ目に、雨の日にも使用しやすいことです。

上記でも述べたように車体から最低45cmのスペースのみで乗り降りできるということは、車体から出てくるシートの面積が小さくて済みます。

乗り降りをサポートする際に介助される方に傘をさしてあげると、シートも雨からカバーすることができます。そうすると人もシートも濡れずに済むのです。

シートを車内へ戻す時間も、既存の「助手席リフトアップシート車」では40秒かかったところを、新設の「助手席回転チルトシート車」では片手の操作で3秒と大幅に改善され、雨の日にも使いやすい車両が実現しました。

この2つの点により「介護負担の少ないクルマ」となりました。

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Q.2014年から取り組まれている「普通のクルマ化」について教えてください

重ね重ねになりますが、高齢者の人口の割合が増え、在宅介護が進んでいるということは、福祉車両を必要とする方が増えるとも言えます。

ですが実際に介護をする年数が5年ほどというデータもある中で、介護が必要になった親のために福祉車両を購入しても、介護のために5年使用したのち、残った家族で使用するには使いづらい、短い期間だけのための購入はもったいないなどの理由で購入をあきらめる方もいます。

ですが、“親孝行をしたいその気持ちを諦めてほしくない”と私たちは考えました。

健常者のみで使用する際にも使いやすい、福祉車両と一般車両の隔たりを如何に無くした、介護される方にも介護する方にも優しいクルマの実現を試みました。

まだまだ世の中では福祉車両は特別なもの、大袈裟なものだと思われがちです。

歳を重ねてきて足腰が少し弱ったくらいで福祉車両なんて…、という声も聞いております。

そんな方にウェルキャブを福祉車両ではなく、標準車の1グレードとしての捉え方をしてもらえるようになれば、使用することがもっと身近になると思います。

私たちは“使いやすいクルマとは何か”を研究し改善することが、福祉車両の普及につながると考えています。人にとって使いやすいとは、機能性や用途だけでなく気軽さも重要なことです。

高齢者の人口の割合が増え、福祉車両の需要が増えれば、福祉車両をもっと気軽に導入できる環境が必要です。 今後もさらに「普通のクルマ化」を進めて、ウェルキャブをもっと気軽に取り入れるマーケットづくりが重要になってくると思います。

Q.福祉車両の購入を考える際に重要なことのひとつに「価格」があると思いますが、コストへの工夫はされていますか
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 まず新設の「助手席回転チルトシート車」は手動で動かすという点で、リモコンで自動作動する「助手席リフトアップシート車」よりもコストが低いです。

さらに今取り組んでいるのが、ベース車を製作する段階から要件を織込むことです。

例えば後方の屋根を下げることにより、デザイン性はスポーツカーのようでカッコよくなりますが、下げてしまうと車いすで乗り入れることができなくなってしまいます。

そこで、初めからデザインに制約をかけ、ベース車の製造ラインを一般車両と同じにすることで、コスト削減ができます。

その他にも、車いすスロープ車には乗り入れをしやすくするために車体後方の高さを下げる「エアサス」という機能があります。この機能を後付しやすい構造を、一般車両としてのベース車両に取り込むよう、開発を同時に進めています。

しかし、福祉車両独自の機構に関しましては、数量が増えないことにはこれ以上コストを削減することは難しくなってきています。その点で、より多くの方へウェルキャブを普及させることが課題になります。

Q.今後、シニアに向けてどのような展開をお考えですか?

車両の開発はもちろんですが、新しい動きとしましては既存車両に取り付けることができるフレンドリー用品に力を入れております。

主に一般車両に取り付けることで、乗り降りのサポートをしたり、走行中の車内でも安心して乗車いただけるようなアイテムを取り揃えております。

既存車両へ取り付けするタイプですので費用も抑えられますし、福祉車両の購入までは至らないという方にぜひ体験してみて欲しいです。高齢者の方はカーブや段差を走行する際、体重を支えきれず少しの揺れでも不安に感じる方もいます。そういった不安を解消できるのが新型シエンタから投入した「フレンドリー用品」です。

例えば「アシストグリップ」は助手席の後方に取り付けたグリップを、セカンドシートへ座った高齢者が掴み、姿勢を維持することができます。そうすることで安全で安心な乗り心地を体感していただけます。

さらに手すりの替わりにもなるので、車両への乗り降りもサポートすることができます。その他にも楽にシートベルトを装着できるアイテムや、車体の揺れから上体を抑えるためにシートにパットを取り付けるなど、現在9種類のアイテムをご用意しております。

福祉車両など新技術の開発はもちろんですが、それだけではなく、どうすればすべてのひとが「移動する自由」をもっと身近に感じ、楽しく出かけられるクルマになるかを考えることで、介護される方はもちろん、介護する方にも快適で安心なクルマをこれからも提供し、暮らしをサポートしつづけていきます。


トヨタ自動車株式会社ホームページ
http://toyota.jp/

トヨタウェルキャブ(福祉車両)ホームページ
https://toyota.jp/welcab/


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